【完結】深紅の協奏曲 ~ディアボロが幻想入り~【IF投稿中】   作:みりん@はーめるん

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―ただ一人に送られた詠嘆曲 3―

 不思議な空間だ。

 足元の転がっている猫には、その近くによろよろと歩き始める同じ姿のささくれた猫。

 傍らには、被っている帽子をいじくりながら、少し顔を伏せて自信づけるためか床面に話し続ける少女。

 ……そして、それを警戒している自分自身。

 もはや姿を隠すには背を向けて逃げるか袋小路の部屋の中へ逃げるのみ。

 

「自分の心に負けてはダメ。アイを伝えるには相手に伝わるまで押して押して押してあげなきゃ」

 

 よしっ、と最後に締めくくりながら、こいしは改めて顔を上げディアボロと目を合わせようとする。

 踏み出すのは、彼女が顔を上げきる前。

 

「お、うぶぅっ」

 

 眼前に広がった顔は確かに淡い恋心を抱き、秘めた思いを相手に伝えようとする、小さな少女の顔だった。意志がありありと感じ取れ、見る者ならば頬を緩めてしまいそうな花があった。

 だがそんなものはディアボロにとっては関係なく、むしろ好機ですらあり、ゆえにその一撃は確かなものになった。

 キングクリムゾンの一撃はその花を一瞬で散らし、一瞬開いた小さな唇からは詰められていた空気が唾液と共に飛び散る。勢いは彼女を応援してくれる……らしい帽子と整えた衣装を崩し汚す。

 

「あっ……くぁ、げ……」

 

 腹部に加えられた衝撃は体をくの字に折り曲げそのままみじめに倒れ伏させる。とさ、とゆっくりと降下した帽子が床とこすれて小さな音を立てた。

 目の前に転がる小さな頭。ディアボロはそれを踏みつける。道の真ん中に転がる小石をどかすように、何も感情が込められていない。

 

「やめろ」

 

 地べたに縛り付けられたこいしに対して、刃物を突き付けるように言葉をかける。

 

「お前は私に特別な感情を抱いているようだが……私はお前ごときに何も抱かない。恋愛対象とも、庇護対象とも。噂を聞き、きっかけがあったからここに来たが、それはお前のちっぽけな欲を満たすためではない」

 

 言葉の一つ一つを発するごとに、強く踏みにじる。足元からは骨のきしむ音と力を入れるたびに隙間から漏れる呻くようなつぶやき。

 

「諦めるんだな。実らぬものに手を伸ばし続けることなど無駄なことだ」

 

 最後の一言と共に、その幼い小石を力強く蹴り捨てる。尋常であれば首の骨が折れてもおかしくない程度には力を込めたが、妖怪である彼女には問題はないだろう、とディアボロは考えていた。彼にとっては、死んでくれてもかまわなかった。

 廊下を転がるその軌跡には点々と血が飛び、踏みつけていた箇所には漏れ出る、には多すぎる血の跡がついている。

 そんな、壁に転がりついたこいしの襟首を掴み上げ、無理矢理に立ち上がらせる。同じ高さに揃えられた頭部は、先程まで告白を思っていた少女の顔ではない。

 小さな鼻はひしゃげ何本か折れた口の中、蹴り入れられた左頬は青く醜く崩れている。開いてるか開いてないのかわからない瞼の奥は、まだ混乱が見えた。

 どうしてこんなことするの。どうしてこんなことするの。わたしはなにもしていない。わたしはあなたをおもっていたのに。

 そんな声が聞こえるようだった。

 

「……力を解除しろ。面倒をかけさせるな」

 

 鉄の匂いが鼻を衝く。人に似せた姿は血の匂いまで似るものなのか、ディアボロからすればみてくれだけでは幻想郷の妖怪と人間の差が分からない。わかっているのは人間での致命傷に至る負傷でも、十分に生きていること。以前の戦いがそれを記憶している。今のこいしの状態も、人間であれば意識混濁しているだろうが妖怪ならそうではないだろう。

 だから問うた。十分に注意はしていた。そのつもりだった。

 

「……おにいさん、私の能力を知っているの?」

 

 顔の色が入れ替わった。先程までの不安と苦悶の顔ではなく、好奇を得た顔に。紅に塗れたそれは変わらず、それでも笑みを浮かべている。

 

「うれしいなあ、私のことを知っててくれて。うれしいなあ。……でも、どこで知ったの?」

 

 顔周りと違い傷のついてない手が一つ二つと首元の、ディアボロの手と重なる。固く骨ばった自分の手と違い、先まで整えられた華奢さと未成熟な肉感。

 

「私のことを知っている人はいないの。誰も私のことを知らない。……ううん、違う。一人知っている。なんで、おにいさんが知ってるの」

 

 それらが根付いている元の袖から一つ、二つ、三つ四つと青色の管が伸び、主の手と同じく彼の手を包み込もうとする。それは、違いなく彼女の閉じた瞳と同じ色に染まっている。

 

「またお姉ちゃんね、またお姉ちゃんが余計なことをしてくれたのね、また、私の事なんて何もわかって

 

 

 

 

 穏やかさをも湛えた笑みを浮かべていた瞳は徐々に暗く淀み、何かを呪詛のようにぶつぶつと口走り、縋るように組み付いていた手と管は握りしめるように力を籠め始める。いや、籠め始めていた。

 その拘束が完全となる前に、地霊殿は崩れだす。それは、ディアボロだけの感じうる感覚。時間を飛ばしている間、自分だけの世界。その中では、あらゆるものが自分を縛らない。

 掴んでいた手を放し、纏っている管から手を引き抜く。縛られた枷を失ったこいし当人は緩やかに未来への軌道を描いて落ちていく。数秒もすれば再び床に転がり、対峙している相手がどういうものなのかを理解するだろう。

 理解は一瞬でいい。今まで曖昧にしていた彼女の未来を、ディアボロは先ほどの行為で決定させた。

 血の繋がりとは本来尊いものであり、それを害するものは私刑を持ち出してでも償わせられるほど重いものだ。……その感情を、ディアボロは理解はしても持っていなかったが。

 故に、さとりが『殺してもいい』と言ってはいたがすぐには実行していなかった。実際の亡骸を見て意志を変えるものなど、腐るほどに見てきた。

 だが、こいしは彼の領域にやすやすと踏み込んできた。

 

 だから、殺す。

 

 ゆっくりとこいしの側面に回り込みながら、キングクリムゾンの拳を握りこむ。刻み始めた時、頭蓋を砕いたらさすがに妖怪でも死ぬだろう。脳をすり潰せば思考の元は絶たれるはずだ。

 

「…………何ッ!?」

 

 相手の頭を注視していなかったら気づかなかったかもしれない。ただの思い込みからの錯覚かもしれない。

 しかし、それはディアボロにとっても初めての現象であり、この極限で見過ごすわけにはいかない事実。もし、同じく時間に干渉する能力者がいれば立ち会えたかもしれない。

 自分だけの絶対の空間。その常識が崩れ去る。偶然に向いただけ、などと曖昧な答えに縋りつけるほど愚物ではない。

 僅かに、しかし確かに引き下がる。相対していればなんてことないと思っていた相手に、半歩、引き下がらせられる。その姿も、確かに追っている。

 

 

 

 

 一瞬の瞬きも許さないまま、崩れた世界は元の形に戻る。べちゃり、と支えを失ったこいしの身体は床に落ちる。その体は、此方と視線を合わせようと不自然に捻じれている。

 確かに、目が動いていた。自分だけの世界の中、認識の外にあるはずの眼が自分を追い、刻み始めたその時、首が、身体が自身を追っていた。

 

「……おにいさん、どこ行ってたの? どうして、こいしを見てくれないの?」

 

 ゆっくりと起き上がりながら、それでも顔はこちらを見つめ続けたまま……汚れた顔を袖で擦り少しでも綺麗であろうとする姿はいじましい。

 しかし、それ以上に得体の知れない恐怖がディアボロを包み込んでいく。

 こちらを認識していることは確かだ。この場で吐いた適当な空言だとしても、それを事実として受け止めなければならない。

 キングクリムゾンの世界の中、彼女はどこまで動けるのか? 敢えてただ見ていただけか、こちらを弄する罠か。下がって状況を確実にしたくも、地の利は自分ではなくあちらにある。館の中も、外も。

 ……今までの動向だけで考えるならば、こいしは感情的で短絡だ。嬲られた直後だとて、恋の相手が自身を知っていることだけで高揚した。まだ、知りえることの少ないうちに潰すべき、か。

 逡巡しつつも、意志を固めるために足を一歩、踏み出す。

 踏み出そうとする。ずずり、僅かな音が振動と共に靴裏から通じる。

 

「……、」

 

 固めるための前進のはず。だが現実は僅かな後退を選択していた。自分の意志と裏腹の行動をとる身体に異変を感じる。

 痛めつけたぼろぼろの顔の少女に対峙して、殺して進むと定めて、そのために踏み出したはずが、その足はわずかに下がっている。

 共に自覚する、湧き上げようとしたはずの気概を包み込むように、本能の警鐘が鳴り響く。こいつは危険だ、こいつは相手にするべきではない、と。

 

「!?、ば、かなッ」

 

 手のひらは小刻みに震え、足先は冷え、じっとりと肌が汗ばんでくる。

 確かに未知の恐怖はあったが、それでもここまで心を縛る相手ではない、はず。けれども、確かに蝕んでいる。

 一歩踏み出そうとすればきゅうときつく、離れようとすればやさしく解かれる。生殺与奪を握られ、相手の気分を損なえば自分が失われる。まるで、支配されているようだった。これから殺す相手に!

 

「……あー、おにいさん、私の事、とても強く思ってくれてるのね。わかるわ、心が読めなくたって! おにいさんと私はアイし合っているんだから!!」

 

 両の手を広げ蕩けた笑顔を浮かべ歓喜の感情を表に出す。興奮し染まった頬は流れ出る血と裏腹に紅い。

 無意識を操る程度の能力。自身を律していたとしてもそれを軽く上書きする。だが、一つ認識を違っていた。相手が持つ無意識を自在に操るわけではない。相手が持たない感情を無理矢理に表へ揺り動かすものではない。……こいしがそう思っていても、実際にはそうではない。相手の、無意識を固着しているだけ。

 

「この私が、恐怖しているだとッ……!?」

 

 諸手を上げてあははあははと壊れた笑い袋のような声を上げ続ける。その笑い声と共に袖から彼女の手を覆い隠さんばかりの青く長い生きている管。

 僅かな人間味をも覆い隠し、より恐怖を撫で震わせる異形と化そうとしている。

 元々そんなもので怖気づくような精神は持っていない。……だが、目の前の少女を認識し、理解をしようとすればするほど心が拒む。

 

「こいつの能力、コカキ爺と同じタイプかッ!!!」

 

 脳裏に浮かぶのはあの老獪。畏怖と信頼に値する老兵。彼自身の歴史と経験もさながら、人生観と共に構築されたスタンド能力も比類して絶大。

 彼の前で何かの感覚がよぎれば、それを固着させられる。『足を踏み外した』なら永遠に踏み外し続け、『勝てない』と感じたらもはや勝つ意志はなくなる。ほんの一瞬、それだけでいい。

 固着させる方法がコカキにはあったが、こいしにはそれがない。あったとしても、それは気づけなかった。

 ……そしていま、笑みを浮かべる少女を前にして、心が退路を求めている。彼の能力では解除の方法はなかった。ならば、こいしならどうであろうか。

 つまるところ、選択は逃走だ。機を得るため、一時に退く。

 

「あっ」

 

 

 

 反転、ともに時を飛ばし離脱。崩れ去る世界の中、振り返りこいしを見る。

 少々あっけにとられた顔をしているが、それでも確かにこちらを追い続けている。体に動きはないが、やはり認識していることに間違いはないだろう。これも、無意識の産物だろうか。ディアボロを、無意識に感じ取っているのだろうか。

 時が飛んでいる間、決して時間の流れが変わっているわけではない。認識のないうちに行動できることで相手の意の裏を搔くことができる、それを予知し対応する。それこそがキングクリムゾンの神髄。認識はできても対応できないのか? それともあえてしていないだけなのか? それを調べる必要がある。前者ならまだしも、後者であるならば……一度、相手の意識外に逃れる必要がある。

 先ほどまで歩いていた廊下を逆走する。不本意ながらも追われる者となってしまった身では、それほどではなかった距離も長く長く感じられる。

 駆ける、館の中。名も種別もわからぬ動物たちがそこらそこらで倒れている。……おそらく、ただ眠っているだけではないのだろう。

 

「……さとり様は言っていた。さとり様に命を受けた。……忘れない、お燐に会って聞けば忘れない……」

 

 大柄で、ぼさぼさした長髪の女が、虚ろな瞳で歩いている。ごてごてと人工の異物を装備しながら隠そうともしていない鳥の羽、おそらく燐と同じタイプの妖怪なのだろう。彼女の向かう先は自分たちのいた方角、ディアボロの行く先に寸分違わぬ、ささくれた同じ姿がぶつぶつとつぶやいていた。

 あそこにいた者だけでなく、やはり広範囲に巻き散らしている、という事だろう。個々がどういう行動原理を持つかはわからない。抑えられた無意識、表層ではなく深層に秘めた渇望? 今の女は、抑えられていた者はその程度だという事だろうか?

 考えを振り切るかの如く走る。今はまだ、後ろから気配はない。今のこいしは、感じ取れる。それがなぜかはわからないが、とにかく今までと違い近くにいれば存在を理解できる。目や耳を使わなくとも、その気配を感じ取れる。他の者と同じように。何を意味するかは分からないが、ともかく好都合だった。退く分にも、転じることができた時にも。

 

 突如、破砕音が聞こえる。それは記憶を頼りに、地霊殿の入り口にまで走ってきた時の事だった。

 すわ先回りされたか、調度品に身を隠し様子を伺うと、エントランスは様々な者たちで溢れかえっていた。男、女、人型、動物型、異形。まさしく外で見た者たち。

 暴力という強引な開錠方法で乗り込んだ彼らは皆一様にはっきりとしない目線のまま、各々が手に持った得物、あるいは無手で破壊活動を続ける。者によってはそこにペットであろう動物がいようが、共に乗り込んだ者がいようが構いもしない。何かを求め、その阻害物を気の赴くままに除去しているよう。意図のはっきりとしない暴力は、それだけで眩暈のするような恐怖の光景だ。

 だが、ディアボロには何の関係もない。群衆の中にこいしの気配を感じられないのならば、たとえ彼らが此処の住人に対して何か思うことがあっても知らぬ世界の話だ。

 彼らの間を縫うように抜けて、それでも道を塞ぐならば自らの力でこじ開ける。元々飾られていたきらびやかな装飾品と同じように、砕けた頭からは血と脳が床を汚した。受け止めた当人も、周りも何も気に留めず、破壊活動を繰り返し続ける。

 

「…………やはり、か……!!」

 

 外に出た最初に口から発せられた言葉。

 地霊殿の外は燐に案内をされた時とは全く別の世界のように思えるほど荒れ、それを行ったであろう者たちの残骸が辺りに散らばっている。その中を大型の獣たちが、小型の動物たちが、欲の赴くままに漁っている。

 古明地に想いのある者たちが集い、襲われることに意を介さず、周りの獣たちもそれを止めるわけではなく、腹が空いたから食うように、襲い続けたのだろう。

 先の市街でも変わらなかった。地霊殿の周りに特別多い獣が人型に変わっただけだ。人はモノを漁り、男が女を漁り、女が男を漁り。ただひたすらに喰らい、汚れることも構わずに唯々尽きぬ飢えを満たすために動く者たち。そして一様に、その目の色は変わらない。

 

「腹が減った、腹が減った」「血が流れたい、血を流したい、血に流したい」「いつも貪られるんだ、貪りたいんだ」「ああ、柔らかい、温かい……」

 

「あっあっあっあっあっあああああああ」「暗いんだ、明かりがいるんだ、ここはずっと暗いんだよ」「俺だけこうなのは、全部あいつらが悪いんだ、だからあいつらがこうなっちまえばいいんだ」「肉、肉がいい、こんな筋張ったものじゃあなく」「かね、かねかね、足りない、もっともっと」「世に平穏のあらんことを」「小さいのもいいなあ、大きいのももっといいなあ」「例大祭落ちた」「鬼どもも、覚も、神でもスキマでもなんだっていい、みんないなくなっちまえ」

 

「殴りたい、殴りたい殴りたいなぐなぐぐぐ」「許してくれ、許してくれ、あぁ、醜い獣たちがまた……」「みんな認めようともしねえ、兄より優れた弟がいるはずない」「俺は不屈、不屈なんだ」「血晶石を求めよ、狩りを全うするために」「俺のでよがってるんだ、俺のでよくしてるんだ、へへへへえへへええへ」「何がわかる、何がわかる」「聞こえないの、何も聞こえないの、聞かせてよぉ」「飯だ、赤い紅い朱い赫い飯だ」「酒、飲まずにはいられない」「私にだってやればできる、やってみれば簡単なんだ」「コマドリ、私は飛べるのよ、飛べるのよ、飛べ」「矮小なんだ、卑屈なんだ、だから穴に潜ってたいんだ」「一人じゃ何もできねえ、4人で一つなんだ」「のっかりてー、のっかりてぇー」「見ないで、ぼくを見ないで」「沈めたいなあ、沈めたいなあ、血の池地獄に溺れるなあ」

 

 市街に向かって走り続ける中、ぼんやりと立ち尽くすささくれた外見の者たち。その様々から奥底の欲求が聞こえてくる。自分に言い聞かせるように、周りに言いふらすように。きっと、肉体はその欲望を満たすために勝手に動き回っているのだろう。

 火柱が上がり、窮屈に積み上げられていた建物が倒壊する。眠らない街の明かりが、ただむやみに増えていく。

 逃げる、離れる、距離を置く。……いつかはその果てにたどり着けるだろうか? ……それから、どうやって?

 答えの見えない逃避に、徐々に芯が潰されていく感覚。だが追いつかれれば終わりという答えからくる焦燥。強大な力を持つ者と対峙したときの底から湧き出る恐怖。

 

「おにいさん」

 

 頭に声が響く。直下に流れる電気信号は辺りを警戒し、目と耳を最大まで酷使し、浮かび上がる像は安心を求める。

 ……まだ見えていない。何も見えない。

 

「おにいさん」

 

 それは先ほどよりも小さく、囁くように、けれど確実に脳内から響いてくる。甘えるような囁き声は、それでも姿が見えず慌てる自分を嗤っているかのようだ。

 

「おにいさん」

 

 ずっと滴り続ける雨音のように、その声は止まらない。予知に映る像にも、辺りの騒ぎからもこいしの気配は感じ取れない。

 ……もしも、先程まで感じ取れていた気配は、今に思わせるための撒餌ではないか? 近くにいないから、そう思わせておいて、

 

「おにいさん」

 

「う、あああああああああああああああああっっ!!!!!」

 

 絶叫し、有らん限りの力を振り絞って身体を動かす。周りと違い、何かに色を染めた表情を浮かべているのはディアボロただ一人。

 もはや、向かう場所すら曖昧に、それでも何かに縋るため、駆けた。


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