【完結】深紅の協奏曲 ~ディアボロが幻想入り~【IF投稿中】   作:みりん@はーめるん

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―星の奏鳴曲 1―

「人里、ですか」

 

 翌日の朝食の時に、命蓮寺の皆に今後の方針を告げた。

 

「はい。昨日いろいろお話は頂いたのですが、やはり自分の目で見て回りたいことと、ボスとの連絡のためにも自分用の電話を確保しておきたくて。ナズーリンから電話を借りるのもちょっと」

「……ダニーのことをまだ電話という気か君は」

 

 ナズーリンの呆れた声と共に、尻尾のネズミが抗議を上げるかのように小さな鳴き声を上げる。

 

「いや、あの時は電話とネズミを間違えたけど、ナズーリンが電話を持っているのは確かなんだろう? でも、他人の電話の借りっぱなしもよくないかなって」

「ああ、そうかい。その点は勝手に言っててくれ」

「ま、そういうのなら人里に行ってみるのもいいだろうね。その電話、とやらは幻想郷では見ないから香霖堂さんのところの方がいいと思うけど」

 

 食事をしながら命蓮寺の船長―村紗水蜜―が口をはさむ。

 

「電話って、なんか電波? を飛ばす携帯信号機でしょう? 電気なんて使っているところなんてここじゃあほとんどないから人里にあるのやら」

 

 マミゾウの受け売りだけどね、と水蜜。

 

「あれ、そうなんです? ……困るなぁ。その香霖堂っていうのはどこにあるんです?」

「人里から離れた、魔法の森の近くよ。場所も離れてるしただの人間が一人で行くのは危険なところね。といっても、幻想郷でただの人間がふらついて安全なところは少ないけど」

 

 ドッピオの問いに、命蓮寺のもう一人の尼僧―雲居一輪―が返す。

 

「どちらにしろ、あなた一人で行かせるのは危ないから。私、人里に用事があるから一緒に行きましょう」

「おや、一輪お願いできますか?」

「ええ。檀家の方とか、新規の方とか買い出しとか。いろいろと溜まってきたので」

「あ、新しい柄杓ほしい私」

「一輪、私も服の補修とかの生地を溜めておいてもらいたいのですが」

 

 水蜜の言葉を皮切りに、他の者も希望を述べる。

 ワイワイ騒いで、ドッピオは軽く置いてかれてると感じたとき、白蓮がパン、と手を叩く。

 

「というわけで、それならばあなたも一輪の用事のついでに人里の方へ一緒に行くのがいいでしょう。雲山も一緒に行くのでしょう?」

「もちろん。私一人で荷物を全部持てないかもしれませんしね」

「じゃあなおさら安全ですね。雲山なら飛べない者と共に飛翔するのもお得意ですし」

「(……ここの人たちって、自然と置いてけぼりにして、自然に巻き込んでいくなぁ)」

 

 ドッピオは朝食のご飯をフォークでくわえながら、幻想郷の雰囲気を感じていた。箸は慣れていなかったので使っていない。

 

 

 

 朝食後、ドッピオは一輪に『いろいろ準備があるから』と、境内前で待つように言われた。

 灯篭の元で座り込みながら、よく晴れた青い空を眺める。ローマに来る前、任務でサルディニア島に来ていた。その時に見た美しい空と変わりはない。

 ローマの街中ではどうしても自動車などが走り、空気の汚染がある。対して観光地ではそういったものは少ないから空が綺麗だ。そういう風に言われてはいるが、それを実際に確かめているものはインテリのやつらだけで。

 しかし、『元の世界』とは違って『幻想郷』では文明の発達が追いついていらず、機械類はないとも聞く。空も綺麗で空気もおいしいこの現状は、やはり汚染がないから、ということだろうか?

 近くでは「じゃっせっじゃっせざさーいど」と、掃除をしている妖怪―幽谷響子―が妙な歌を口ずさんでいる。

 

 ふと、右手に宿る力で、近くの小石を持ち上げてみる。

 ひょい、とそれを持ち上げ、目の前に投げる。投げられた小石は放物線を描き、ポトリと落ちた。

 あの時、リゾットとの戦いでボスから与えられた能力、キング・クリムゾンの能力の一部。真の能力は『予知』ではあるが。

 ボスは与えたと言っていたが、これは分け与えられる能力なのか? それとも貸し与える能力なのか?

 もし貸し与える能力だとしたら。……自分がいつまでも持っていては。

 

「お待たせ」

 

 ドッピオが考えた矢先に、一輪が身支度を整えやってきた。先ほどまでの白を基調とした僧服に、赤い宝玉と袈裟をかけている。

 そして、その後ろには大の大人が数人入っても問題ないような大きな袋が引きずられている。 

 

「……その、それは一体?」

「いろいろ質問出てきそうだけど、百聞は一見にしかず。雲山!」

 

 一輪の掛け声とともに、彼女を中心としたあたりの空気が一瞬で集まり、固まったような感覚。

 それと共に、巨大な雲の妖怪―雲山―が現れる。

 

「う、うわぉっ!?」

 

 完全に意表を突かれたドッピオがたたらを踏み、その場にへたり込む。

 間近で妖怪らしい妖怪を見たドッピオは、驚きのあまりに声が出なかった。

 

「ふふっ、面白い反応を示すのね。こんなので驚いてたらここではやっていけないよ」

「……え、あ、はい。でも、幻想郷って妖怪とか悪魔とかいるとか言われたけれども、ここにいる人たちって、みんな僕らと同じに見えるし」

「あー、まあそうね。そういうののほうが多いかな。まあ、これからはもうちょっと妖怪っぽいのが出てくるわ、多分」

「…………」

 

 話を続ける一輪の傍らで、その雲の妖怪はうんうん、と頷く。

 そして、その手をゆっくりとドッピオに差し出す。人間のサイズには大きいが、それでも威圧をするつもりはない様子だった。圧倒する大きさではあるが。

 

「よろしく頼む、ですって。雲山はこの見た目にこの成りだけど存外恥ずかしがり屋でね。直接話すことは少ないと思うけど」

「…………」

「ど、どうも。よろしくお願いします」

 

 雲山の指を握る形で、握手を交わす。本来触れない雲は、表面こそ綿のようだが想像よりも固く感じられた。

 

「さて、行きましょうか。空を飛ぶのは初めて、よね? 外では大きな船で飛ぶって聞くし」

「飛ぶ? まあ、飛行機くらいには仕事で何度か乗りましたけど」

「そんな生半可なものじゃないよ。初めてだから優しくしてあげてね、雲山!」

「…………」

「え? あ、わ、わ」

 

 承知、と言わんばかりにドッピオの体をその大きな両手でやんわりと包み、持ち上げる。

 エレベーターが上に上がるような上昇感がドッピオを包む。その上昇感はぐんぐんと高まり、あっという間に巨大な命蓮寺を指先で隠せるほどにまで舞い上がった。

 

「うわああああああ!? こ、これ、どうなってるんだ!?」

「幻想郷で地に足つけてるのは何もない人間か妖怪くらいよ。道もなだらかじゃないなら、飛んだ方が早いでしょう?」

「……落としゃせんよ」

 

 怯えているドッピオの傍らから、空気の振動かと思うようなか細い声だが、確かに声が聞こえた。

 そちらを向くと、優しい笑顔をした髭親父の顔。

 

「さ、人里までそんな遠くないわ。さっさと行きましょう」

「お、おわあああ、動く、動いてるよおぉぉ!!」

 

「いってらっしゃーーーーーい!!!!」

 

 慌てふためくドッピオは、ヤマビコ特有の大声で押し出された。

 

 

 飛んで数分。最初は動くたびに騒いでいたドッピオも慣れてきたのか、周りを見渡すくらいの余裕はできていた。

 それでも、普段の彼女らのスピードからすれば、相当ゆっくりと飛んでいる。

 

「……にしても、あなたずいぶんと臆病なのね。この速さなら下を歩いているのと変わらないわ」

「そんなこと言われても、僕らの方では生身で飛ぶなんてことないし、僕は絶叫系アトラクションとかでもビビって乗らないタイプだし」

「雲山をおもちゃと思われても困るんだけど」

 

 のんびり会話をしながら、空中遊覧を楽しむドッピオと一輪。

 その時間は、空を裂く鋭い音で終わりを告げた。

 スピードを乗せた小さな玉は、進行方向から飛んできて、一輪と雲山の体の付近をかすめて飛んでいく。

 

「な、何? 何が起きたんだ??」

「ただの弾幕、妖精のちょっかいよ。見て、あれ」

 

 急な攻撃に驚くドッピオと、それをいつも通りの様子で受け取り、先を指さす一輪。

 その先には数匹の妖精たちが、好奇心に満ちた目でこちらを見ていた。

 

「さあひまわりちゃん! あなたの弾幕に任せるわよ!」

「ええ!」

「あの大きなふわふわを削って綿あめにしてしまうわ!」

 

 一様に楽しそうなまま、ひまわり妖精の弾幕を始まりに、一斉に妖精たちがこちらに詰め寄る。

 

「ど、どうするのさこれ?」

「大方見慣れない大きいものに興奮しているだけだろうし」

 

 焦るドッピオに対して、冷静に、懐からカードを取り出す一輪。

 

「一回休みになってもらう!! 鉄拳「問答無用の妖怪拳」ッ!!」

 

 スペルカードを掲げて宣言する。それと共に雲山がさらに巨大化する。

 そして、一輪の動きとシンクロするように腕を振り上げ、

 

「南無三ッ!!」

 

 勢いよく拳が振り下ろされる。それと共に雲山の巨大な拳も振り下ろされる。

 恐ろしい勢いと共に振り下ろされ、あたりに轟、と風圧が押し寄せる。

 

「「「きゃー」」」

 

 妖精たちはその拳を正面から喰らい、あっさりと弾けて消えてしまった。

 

「一丁上がり、と。全く妖精たちはみんなああなんだから」

 

 何事もなかったかのように、風で乱れた髪を整え佇まいを直す。

 ドッピオは、驚きのあまりにただその場で呆けるだけだった。

 

「……す、すっげぇー」

「こんなのここじゃあ普通だってば」

 

 漏れ出た一言に対し、笑いながら返す一輪。

 

「妖精は大体悪戯するだけのかわいい子たちなんだけど。中には好戦的だったり、興奮のあまりに攻撃する子たちもいるのよね。

 大体話しても無駄だし、そういう時は静かになってもらうか追い払うのが簡単よ」

「……あれ、追い払うっていうか、死んじゃうと思うんだけど。あんなの喰らって」

「あれくらい、勢いだけで君が当たっても死にはしないよ。もっとも、妖精は死なないんだけどね。生き物というより自然の発露だし」

「あ、死んでないの? ……いやいやいや! それ変でしょ!?」

「うーん、別に変でもなんでもないけど。外と違って、非常識が常識になってるからね。郷に入っては郷に従え」

「……やっぱり、とんでもないところに来ちゃってるなぁ」

 

 ドッピオは、自分の境遇への不安と、ボスが共にここにいるはずということへの安堵と、そのボスへの心配。

 けれどボスなら何とかしてくれるだろうという願望。ごちゃまぜの気持ちのままその先を見ていた。

 


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