【完結】深紅の協奏曲 ~ディアボロが幻想入り~【IF投稿中】   作:みりん@はーめるん

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―前奏曲は今も続いている 3―

「幻想郷? 幻想入り?」

「そうです。ここではあなたたちの住んでいたところが外の世界と称されるように、こちら側の世界は結界によって隔絶されています。

 隔絶されたこちら側の世界を『幻想郷』と呼ぶのです。日本の中にありますが、まあ中国とか亜米利加など、国名みたいな考え方で結構ですよ。

 そして、幻想郷に入る場合、外の世界では神隠しに逢うなど、『急に行方が分からなくなってしまった』状態になっている、ということです」

「……うーん、にわかには信じがたいですけど……」

「ですが、あなたの残っている記憶とその前後のつじつまが合いませんからね。何らかの影響で気を失い、そのうちにこちらに来てしまったと考えるしか……

 そのあたりは、現状では推理のしようがありませんから」

「そうなんですよね。とてもじゃあないけどイタリアから日本に、だなんて唐突すぎるし。あと、時間も気になりますが……」

「そこもなんですが、こちらとそちらでの年号の数え方が違うので、私にはうまく説明ができないんですよね。あなたと同じ、幻想入りした山の巫女や

 人里のハクタク、他にも知識人はいくらか居ますので、そういった方々に聞くのがよろしいかと」

 

 聖と呼ばれる、この寺のトップの元へ向かう途中、ドッピオは星からこの世界についての説明を聞く。

 それはざっくりしたものではあるが、ある程度の納得は得ることができた。

 結局は「分からないところはほかの人に聞け」ではあったが。

 

「それから、一番の違いは私たち妖怪の存在ですね。欧風に言えば悪魔とか精霊なんかが近いんでしょうか。

 物語や伝承に残る、人ならざる者。恐れられていたり信じられていたりはするが、存在していないと思われているもの。そういったものが実際にいるのが

 ここ『幻想郷』なのです。もっとも、この言い方はあなた達側からの言い方となります。実際に私たちは存在しているのですからね」

「うん、まあ……確かに奇妙な力はさっき体感させられてしまいましたけれど。けどそれも嘘くさいように感じてしまうなあ。

 もしここが日本の寺の中じゃあなかったら言われても全く信じませんよ。ただのコスプレ集団と笑われて終わりです」

「こす……? ま、奇妙な力といっても、そちらにもあるわけですからね。未知に対したものは多かれ少なかれ畏怖の感情を抱くものですが、あなたはあっさり受け入れているようですし」

「いやぁ、そんなことは……ぼくだって、ボスがいなかったら頭がおかしくなっちゃってたでしょうよ」

 

 軽い談笑をしているかのように、二人は話せるようになっていた。ドッピオが幻想郷に来る前に既に体感していた奇妙な冒険と、星の人柄が成せる技なのかもしれない。

 

「と、着きましたよ。ここが命蓮寺の本堂で、聖のいる場所です」

 

 そこには、質素であったが、荘厳にも感じられる本堂があった。

 それを見たドッピオも、おもわず「ふわぁ……」とため息を漏らす。

 

「さ、この奥です」

 

 星が先を行き、ドッピオを促す。呆けていたドッピオはそれに慌ててついて行った。

 

 本堂に入ってすぐに、三度奇妙な人間が現れる。

 グラデーションのかかった髪色、彼女の周りに浮かぶ巻物。

 

「ようこそいらっしゃいました」

 

 凛とした声で尼僧―聖白蓮―が話す。

 

「あなたが近くの森で倒れていたという、ええと、ドッピオさんですか?」

「あ、はい」

「先ほど目覚めまして、一悶着ありました後に聖と話がしたい、とのことでお連れしました。二人きりで、ということでしたので私はこれで」

 

 聖との受け答え後、星は本堂から下がる。

 

「改めまして、私が命蓮寺の住職、聖白蓮です。ドッピオさん、お加減はいかがですか?」

「ああ、その、もう問題はない、と思います。この通り、怪我している所はないので」

 

 言いながら、体のあちこちを触って自分の体を大丈夫だとアピールする。確かに、肉体には傷一つなくなっていた。

 

「そうですか、それはよかったです。さて、聞いたところあなたは外からきたとのこと。そして、私と二人で話がしたいと聞いておりますが……

 どういったご用件でしょうか?」

「ええと、そのう……」

 

 ドッピオの頭の中で、どうしよう、という言葉が浮かんでいた。ボスは二人で話がしたい、と言ってはいたがここにはボスがいない。

 間を持たそうと話を聞くにしても、ある程度のことは途中で星から聞いてしまった。

 

「それは、どうし、よう……あ、れ」

 

 急に体全体に倦怠感が現れる。

 それと共に急激な疲労。一体どうしたのか、そう思う前に体が立位を保てなくなり、膝をつくようにして倒れこむ。

 その様子を、聖は当然のように見つめていた。

 

 

 

 

「あなたが二つの姿を持っている、ということの報告はすでに上がっています。そして、何らかがきっかけで性格が別人のように豹変する……

 そして、存在しないはずのあなたの『ボス』。それは、これから話されることですか?」

 

 淡々と今までにあったことをドッピオに告げる白蓮。

 対するドッピオは、いや『少年だったもの』は倒れ伏したまま、語った。

 

「……いいや、それは話すことは、できない。だが、推測は自由にしてくれて構わない」

 

 その体は先ほどまでの少年の体とは別物であり。がっしりとした成人の体に変わっていた。

 しかし、その風貌は非常に弱々しく、顔を上げるのが精いっぱいと言わんばかりに弱り切っているように見えた。身体には全く異変がないにもかかわらず。

 

「だが、こちらからは聞きたいことがある……わたしを助けたのは、お前なのか? あるいは、お前たちなのか?」

「……あなたの助けた、がどこまでかかるかはわかりませんが、私たちはあなたが森の中で倒れていたから、助けました。ただ、それだけです」

「それは、何故だ」

 

 白蓮の答えに、今度は成人―ディアボロ―が逆に問う。

 弱々しく、今にも折れてしまいそうにも感じるその風貌からは考えもつかないほどの鋭い目線。

 

「困っているものを助けるのは当然のことです。それが人間であろうと妖怪であろうと。あなたは来たばかりで何もわからないでしょうが、森の中で一人で寝るのは自殺行為。

 それは外でも変わらないはずです。むしろ、幻想郷であるからこそもっと恐ろしいことに見舞われるでしょう。そんなあなたを見捨てることはできません」

 

 白蓮は特に怯まず、凛とした対応で返す。

 

「……そう、か……親切なことだな」

「命蓮寺は老若男女、人間も妖怪もすべて受け入れています」

「……わたしは、助けを請うた。そして、それは確かに受け入れられた、ようだ……しかし、それはまだ確定したわけではない。少し間が空いただけで、再び襲われるのではないか……

 今、それがわたしにとっての恐怖なのだ。……お前は、わたしを、このようなものでも救うのか?」

「当然ですよ。命蓮寺はある程度邪な心を持っていなければ誰でも受け入れますので」

 

 ディアボロの弱々しい訴えを、白蓮はこともなく受け入れる。

 相手はかつて、イタリアの裏組織を掌握し、人々を堕落させた張本人。『吐き気を催す邪悪』とも評された人間であることを知ってか知らずか。

 

「……グラッツェ」

 

 その言葉を口にしたのは、本来の意味で口にしたのはいつ以来だったであろうか。

 

「わたしはもう戻る……この状態を維持するのは厳しいのだ。長くはこのままではいられない。最後にもう一つ頼みたいのだが……ドッピオの中にわたしがいるのは誰が知っている?」

「現在はあなたを発見した星と介抱したナズーリン、それと私の3人のはずです」

「……はず?」

「この幻想郷ではどこに目や耳があるかわかりませんので……私たちが発見する前に誰かが見ていた可能性は0ではありません。少なくとも、この寺の中では知っているのは3人だけということです」

 

 最後の質問に、不安が残る答えが返ってきてしまったが、それでも今はどうすることはできない。

 

「そうか……わかった。自分の中で押さえておきたい情報ほど他には知られたくないものだ……このことは、他のものに他言無用で願いたい。もちろん、ドッピオにもだ。……わたしは短時間で3つも無理な願いを言っているな」

 

 ディアボロは自嘲気味に笑う。帝王まで上り詰めたはずの男が、組織のトップとはいえ女に頭を下げて願いを乞う。これほど無様な姿がかつてあっただろうか。

 しかし、ディアボロはこれをよい機会と考えていた。

 

 

 

 まだ詳しくわかってはいないが、レクイエムの効果は今はない。レクイエムの輪廻にとらわれている間、これほど長い時間生を感じられたことはなかった。

 あの時、確かに声を聴いた。その声の持ち主は彼女ではなかったが、それでもきっかけとなったことに違いはないだろう。

 ここは、未知の世界ゆえに自分を知るものが少ない。マイナスからの出発点であったので僅かに知られてしまったのが苦ではあるが、そもそもドッピオが得た情報を聞く限りではただの人間以上に恐ろしい者たちが存在する世界らしい。

 その中で3人、しかもお人よしのような3人に知られただけであればまだリカバリーは効くだろう。

 自分はほとんど再起不能の状態だ。だが、ドッピオは生きていた。ドッピオに貸し与えた『キングクリムゾン』は生きている。先のネズミとの戦いを見る限り、『エピタフ』も使えるようだ。

 本来の使い手である自分が使えず、駒であるドッピオが使えることは理解がつかないが、これは回復したら自分にも使えるだろうという再起の手掛かりと考える。

 

 

 ――――いつかは、自分も蘇ろう。結果を定め、その過程を歩むのだ

 ――――そして、返り咲くのだ。あの忌まわしき力に対抗する何かを『ここ』で掴む

 

 

 まだ機会は失われていなかった。神も仏も信じていないディアボロだったが、ここは信じる者が救われる、といったところかとも考えた。

 

 

「……わかりました。では、あなたがあの少年と同一であることも秘密にしておきましょう。そして、もし他に見ているものがいたとしたなら、それをあなたに伝えましょう。でも決して、その者を殺してはなりませんよ」

「!? な、何を……」

 

 最後の思わぬ一言に、ディアボロは思わず反応してしまう。

 何故わかった。表情に表れてしまったか。それともこいつは知っているのか?

 白蓮は、穏やかな表情のまま続ける。

 

「人間は私が封印される前から何も変わってはいない。必死に隠れたがるその姿はまさしく大罪人のそれです。何故その少年と入れ替わりあなたが出てくるかはわかりませんが、何らかの能力を用いて彼を隠れ蓑として使っているのでしょう。

 今は確かに弱ってはいるものの、元に戻ればあなたはその力を再び行使するでしょう。そうなれば、いずれ必ずあなたにも報いが舞う。悪因悪果を私の前で許すわけにはいきません」

「……そうか。そのこと、深く覚えておこう」

 

 その短いやり取りの後に、ディアボロは再びドッピオに戻る。

 ドッピオはしばし呆然としていたが、すぐに座りなおして、白蓮と対面する。

 

「ボスは、来てくれたみたいですね。そして、あなたと話をして帰って行った……そうですか?」

「ええ。いろいろあなたにも伝えておいてほしい、と言伝をもらっています。せっかちな方でしたね。お茶の用意をする暇もなかったですよ」

「あー、ボスも忙しい人ですからね。こっちに来ても、それは変わってないってことでしょう」

 

 先ほどの剣呑な雰囲気とは変わり、穏やかな雰囲気で話し合う。

 白蓮は先ほどの会話は伝えず、幻想郷のより詳しい情報を直接に聞きたかった、と伝えて、実際にドッピオに説明する。

 詳しい幻想郷の地理、博麗大結界、その管理をする巫女、そして。

 

「そして、幻想郷では物事を解決するルールとして、スペルカードルールというものを多く使っています」

「スペルカード?」

「そうです。人間と妖怪では力の差がありますからね。普通の力比べであれば妖怪は人間に負けることはないでしょう。そういったことのないようにするルール、ということです。

 要は、自分の得意技を弾幕という形で表現し、その美しさを競うというルールです。このルールが幻想郷の妖怪や少女たちの間で非常に流行しています。かくいう私も大好きですよ、これ」

「だ、弾幕、ですか……でもそれって当たったら痛いんじゃあ……」

「ですから基本的には避けるルールです。それを避けあって撃ち合い、より美しいほうが勝ちというスポーツといった見方もできます。不慮の事故は少なくはないですが」

「うえぇ」

「ですが、近年では弾幕と織り交ぜて直接拳やらなんやらを混ぜあうのもあります。そういったものにも気を付けてくださいね」

「……くださいねって……」

 

 大丈夫なのかそれ。

 そう思ったが、大丈夫ですよ。と言われたような気がする。

 

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「いろいろ話していたら、そろそろ夕餉の時間ですね。今日はおなかいっぱい食べて、これからどうするかはゆっくりと考えてください」

「そうですね。いろいろありがとうございます」

「部屋は先ほどまで休んでいた部屋を使ってください。私はまだしばらくここにいますので」

 

 白蓮の見真似で一礼し、ドッピオは貸し与えられた部屋に戻ることにした。

 

 

 幻想郷。どこか不思議で、どこかが一緒で、どこかがずれているこの世界。

 何故自分がここにいるのだろうか? ブチャラティチームとの戦いはどうなっているのか? そもそも戻る方法はあるのだろうか?

 そして、ボスはここに現れたともいう。それは一緒にここにきてしまったともいうことだ。

 自分はボスを絶対的に信頼しているが、その上でおかしいものはおかしいとも考えられる冷静さを持っているつもりだ。

 ボスの正体を探る、というわけではないが、今ボスはどういう状態なのだろう。どういうつもりなのだろう。

 もう少し、ボスと話がしたい。

 

 

「まずは、電話かな……もうあんまりあの子の電話は使えないかもしれないし、まずは連絡手段をとらないと」

 

 じっくり考えた結果は、電話を手に入れること、情報収集を行うこと。

 人里へ向かうことに決めた。


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