【完結】深紅の協奏曲 ~ディアボロが幻想入り~【IF投稿中】   作:みりん@はーめるん

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番外 ―BGM4 命蓮寺―

 命蓮寺、夕刻。

 

「Yo, I'm feelin' tha VOODOO in my brain.

 I ain't my usual self tonight.

 Walk in tha beautiful rain,

 Tha world rotates around me.

 ……Here's a little story must be told……」

「血統の妙」

「血統の業」

「ただいまー」

 

「おや、お帰り一輪。一「いえー! るっきんとーざいーびあいず!

 あっざやかなたいどたいあーがい!

 かいならさったバッタちゅーさつ!」

「ああ、人里の方でドッ「ヘイユージャスマイセーブマイワールダイ!?」

「そまるじゅかいたいきのおもさにむーんらい どらまたいずまったばい!

 げんかくさいあみーさしこむむーんびーむ!」

「神社に? こんな時間「ソユキャンディスガイ!」

「よぅ! はっすっていすとぅれめでぃ!」

「まあ雲「イエー!」

「おっのっれーうーれいがーでぃー!」

「ウーイエースガーディ!」

「え、聞こえ「がーでぃー!」

「ガーディー!」

「……止め「いえっさーがーでぃー!

 はっすっていすとぅれめでぃ!」

「イエ―!」

「おっのっれーうーれいがーでぃー!」

「ウーイエースガーディ!」

「っ、私は初めから成功していたのだあああああ!!!!!」

「うるさいッ!!」

「うりぃー!?」

 

 響子は、殴られていた。

 

 

 

「響子~? それからミスティア? 別にやるなとは言ってないよね、私らは。けれど節度ってものがあるよね?」

「あうー、だって、もうすぐライブが……ひゃうっ」

「言・い・わ・け・す・る・の・は・この口かっ」

 

 参道の真ん中で、正座している響子と夜雀の少女―ミスティア・ローレライ―。それを見下ろす形で一輪が立っている。

 最近命蓮寺でよくみられるようになった風景でもある。

 掃除の合間に大声を出す。ヤマビコである彼女にとっては普通の事ではあるので皆そこまで気に留めないのだが、度が過ぎると別である。

 最近ではミスティアと共に『鳥獣伎楽』と呼ばれるバンドを組んでおり、人妖問わずそれなりの人気があるのだが。

 

「命蓮寺の戒律の一つ! 『太陽の下で声を出せ!』」

「ふぁ、ふぁいおうおひはへほえをはへ!!!」

「声が大きい!」

「ふ、ふいはふぇーん!」

 

 響子の頬をぐいぐいと引っ張りながら、叱り声を出す一輪。

 

「日中の人が少ないときとかならまだわかる! 声を出すことはいいことだ! でも、こんな夜中に大声出す奴があるかっ!」

「はいはーい、私夜雀、夜中が舞台よ営業よ~♪」

「じゃあウチの敷地内でやらない!」

「ぷみっ」

 

 途中で口をはさむミスティアにすかさず拳骨を叩き込む。

 手が離れたことで頬の痛みから解放された響子は、その箇所をなでながら表情を落とす。ついでに、耳と尻尾も垂れ下がる。

 

「一輪、そろそろいいんじゃないか? 夜雀はともかく、響子はすっかり反省した顔をしているよ。

 それに、君がそうやって叱っている間に雲山はやるべきことをやってくれたみたいだし」

 

 そのやりとりに、最初に会話していた相手であるナズーリンが立ち入る。

 一輪が帰ってきたとき、雲山が多量に抱えていた荷物はすっかり無くなり、手のひらには綺麗に小さくたたまれた風呂敷が乗っていた。

 

「……全く、同属に甘いんだから。悪いことをしているなら叱るのは先輩の役割なのよ?」

「別に同属だからってわけじゃないよ。単純に次の仕事があるんじゃないか、と言いたいだけさ」

「……まあ、ね。聖に報告したり晩御飯作るの手伝ったりあるけどね。今日の当番、村紗だっけ?」

「ああ、カレーだよ」

「肉じゃがの肉抜きだけどね」

 

 今日も水蜜は『ウチの海ではこればっかり食べてたからねー! これは得意料理なのよー』と機嫌のよい顔で提供してくれるのだろう。

 本人曰くちゃんとスパイスや肉も使いたいが、宗教上の理由で使えないからこうなったと。

 出すたびに笑顔で語る彼女の姿を思い出し、くすりと笑みを浮かべ、響子とミスティアの方にもう一度向き直す。

 

「今回はこれで終わりだけど、次にまた同じことやったらもっと酷くやるからね? いくら言ってもあんたらはやってるんだから。

 ……またそのあたりの掃除が終わってないんだったらその続きやりなさい。終わってるんなら食事においで。あなたはどうする?」

「うーん、あそこで騒ぐと今度こそ星さんに羽むしられそうだからー、私は帰るよ」

「あー、かもね。星は怒らせると命蓮寺一怖いから」

「そのご主人を一番世話焼いているのは私だがね」

「あはははっ、そーだねそーだね!!」

 

 寺の中で体格もよく位も高い。怒ると一番怖いが、そんな彼女を後ろから呆れ顔をしながら支えている、一番体が小さく位も低い者。

 一見するとわかりづらい構成であり、初めて響子がそれを見たとき、おかしくて笑ってしまったほどである。むろんその後こっぴどく怒られたのだが。

 そのやり取りは皆で笑うのに定番のネタともなっている。その話をして『やめてくださいよ』と拗ねたような表情をする星を見てまた笑うまでが一連の流れである。

 

「それじゃあまたねー! 次は一週間後ね!」

「はいはいはーい! ばいばーい!」

 

 大きく手を振り、友人の帰宅を見送る。

 ミスティアが羽ばたき、辺りに少しの風を送る。それは残った4人の髪と髭を揺らした。

 その風に乗り、ふわりと木の葉が1枚散り落ちる。

 ……この辺りにある木とは違う葉が1枚。

 

「ナズはどうする? 今日もいろいろやってもらったし、夕飯位馳走するよ?」

「いや、昼まで同伴させてもらったし、探し物の仕事があるのを思い出した。今日はこの場で失礼させてもらうよ、またご主人が何かしない限りは」

「そう? それならいいけど」

 

 その葉を見つめながら、一輪の申し出を断る。

 

「そういえば、さっき有耶無耶になってしまったがドッピオはどうしたんだい?」

「ああ、彼なら神社の方に向かったわ。なんだか人形遣いに逢いたいとかで」

「……こんな遅くに? まさか、一人でじゃあないだろうね?」

「心配なく。雲山を小分けで渡してあるわ。まだ神社までなら暗くならないうちに着けるし、何かあったら私たちにはわかる。そのままほっぽりだしはしないよ」

「…………」

 

 質問に対して答え、その言葉ににっこりと笑顔で返す。この頑固親父は意外とかわいい笑顔を出す。

 

「そうか、それならば安心だ。特に気に病むこともない。それじゃあ、一輪、雲山。また」

「それじゃ、気を付けてね」

「安心してくれ。ネズミは襲われないように進化してきた個体なんだ。気を付けなくても感づくことができるくらいにね」

 

 ナズーリンも、3人に見送られ帰路に着く。

 尻尾にぶら下がっている籠の中から、ちぅ、と小さな声が残った3人に届いた。

 

 

 

 命蓮寺から離れ、魔法の森を越え、その裏にある誰も来ないような簡素な地。

 もし人が来るのであれば、その誰も来ないが故にそこに弔われた者たちにわざわざ参る酔狂な者か。それとも幻想郷にはない、外の世界を見るためか。

 無縁塚。

 そこに最近作られた、小さな掘建て小屋。

 ナズーリンはその前に降り着くと、そこにいた先客に声をかける。

 

「やあ、意外と早く見つけられたんだね」

 

 朗報が得られる。そう思っているナズーリンの表情に対して、その先客はそれとは逆、すまなそうな表情をしていた。

 

「いんや、見つけられなかった」

 

 そう言って、小さな小屋の前に座り手持ちの酒瓶を自棄になったかのように、ふがいない自分を責めるかのように呷る。

 ごくん、ごくんと2度喉を鳴らして彼女―二ッ岩マミゾウ―は話を続ける。

 

「狸どもや簡単な付喪神たちも使って探したんじゃがな。最近に外の世界から来た人間はこれっぽっちもみつかっとらん。

 死体としても、な」

「……そう、か。うーん、そうなのか」

 

 考え込むようにして視線を落とすナズーリン。煙管に火を入れ、大きく吸い込むマミゾウ。

 

「まあ、二つ目の予想通りじゃな。件のヤツは本当に一人芝居をしている。念話などの能力ではなく精神分裂などでそういうことをするようになったのかもしれん。

 今時の子供にはそういう輩は多くなったんだ。不憫なことよ」

「……それで簡単に事が着くならそれでもいいんだけど。どうにもあいつは信用できない」

 

 マミゾウは気にすることなくいうが、それでもナズーリンの表情は変わらない。

 

「……まあいいだろう。とにかく、私の頼みを聞いてくれてありがとう。少なくとも寺の者達にはこういったことは頼めないからあなたの様な者がいてくれて助かる」

 

 深々と頭を下げ、それと共に尻尾の籠にいるネズミもそれを真似て頭を下げる。

 

「おいおい、神の使いともあろうものがそんな簡単に頭を下げていいんか? それに儂はお前さんの出す報酬に釣られてやったようなものじゃ、気にするこたぁない」

 

 驚いたかのような、おどけたような声で、マミゾウは返す。表情も、少し笑っているようだ。

 

「そうは言うがね、礼を失するようでは神格にも影響が出るものだ。それに今は寺によくいる小間使いの立ち位置、それ相応の振る舞いをよくやっているからね。

 あくまで私は使いの者。ご主人を立てることが第一だ」

「なるほどな。大した従者じゃ、主も幸せなことだろうよ」

「ああ、幸せだろうね、相応に。私というものがついているからな」

 

 家の中に進み、棚においてある包みを取る。カサカサと手のひら大の包みを開き、中の物を見せる。

 

「いつまでも家の外で話していてすまない。だが、我が家には二人も居座る間もないからそのまま軒下で失礼する。

 報酬の物だ、受け取ってくれ」

「おお、待っとったぞ! ここでこれが食べられるとは思ってなかったからのう!」

 

 包みから取り出されたのは乳白色の直方体の塊。独特の香りを放つ、少し柔らかめの物体。

 

「命蓮寺……というかは私特製の醍醐だ。一般に出回るほどの量は作れないし、もしたくさん作れても精度は落ちる。そもそも製法は私と星、聖くらいしか知らないし」

「能書きはいらんよ、儂とてわかっておる。しかし、旨そうなチーズよ、酒が進みそうじゃ!」

「醍醐だよ」

 

 乳から精製される食べ物であり、繰り返し精製することによって旨味は凝縮し、最後に一番おいしいものとなる。

 仏教の教えにも醍醐味という言葉で引用されており、有名でもある。

 が、大量生産にも向かず、長期保存も難しい。ちょっとおいしい物程度なら誰に頼んでもすぐに作れるだろうが、これほどの上物は早々にはできないだろう。

 

「では約束どうりにこいつはもらっていくぞ。もし気に入るような味だったらまた頼むかもしれん」

「構わないさ。あなたへの貸しはこれ一つでは足りないと思っている。それにこの事を言いふらすような人物ではないともね。できたら伝えるさ」

「ほう、ならばその時を楽しみにしておこう! ほれ、お前さんも飲むといい。量は少ないが、楽しもうじゃあないか!」

「おや、いいのかい? あなた一人で楽しむ程度にしか作っていないというのに。この特製品は赤色が足りなくて嫌がるグルメな私たちでも喜んで食べる代物だよ?」

「構わん構わん。もうこれは儂の物じゃ、ならどう使おうと儂の勝手じゃろう?」

「それでいいなら、ご同伴させていただこう」

 

 マミゾウの隣に、少し大きめの石を持ってきてそれを椅子替わりにする。

 酒もマミゾウが持ってきたそれしかない、小さな宴会の始まりだった。

 

 

 

「ん? でもお前さんは酒を飲んで大丈夫なのか?」

「人からの贈り物、無下にはできぬ」

「ああ、なるほど、それならしょうがあるまい」

 

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「もし、そこ行く狸さん」

「あん? ……おや、そういうあなたは狸さん」

「あらあら。お褒めいただき光栄ですわ」

「そりゃどーも。で、何用じゃ? あいさつ回りならとうに済ませたと思ったが」

「ええ。その節はどうも。此度は少し尋ねたいことがありまして」

「そうかそうか。なら何でも聞くがええ、化け方か? 脅かし方か? それとも狐のしつけ方か?」

「最後のは聞いておきたいですが……どれも違うものです。外の事について……一つ二つ、聞きたいことが」

「外のぉ? 童が聞くならわかるが、お前さんが尋ねることなんてあるかいな」

「……人間を超越した能力を持つ人間。ご存じありません?」

「………は?」

「人間を超越しているのですでに人間をやめているかもしれませんが。それでも妖怪などという区分をされるわけでもない。そんな、人間を」

「おいおい、何を言うかと思えば。それらを区別したのが幻想郷だろう? それを」

「質問に質問で返すのが外の常識なのですか?」

「……」

「答えたくない、では困るのです。知っていればその先を聞きたい気持ちもありますが、今質問しているのは知っているかいないのか。どうぞ、答えを」

「驚いた。幻想郷は虚仮と威勢でまかり通るようになっていると感じたが」

「答えを」

「たく。儂が直接見たり聞いたりしたわけだから知らんよ。だが、地元から少し離れた地にそういうことができるという者たちが居ったという噂じゃ。

 曰く、遠く離れたものを一瞬で引き寄せる。瞬間移動ができる。壊れたと思ったものがいつの間にか治っておる。

 そんな噂。もっとも、十何年も前だから確証はないがな」

「そう、ですか。教えていただき感謝します」

「あ、そ。別にこれくらい、そんな殺気立って聞くことではないだろうに」

「いいえ、みだりに外との行き来をすることはここではあってはならないこと。その中でどうしても、どうしても聞きたいこと、調べておきたいことがあれば……

 出すべきものは、出せる時に出しておくのです。タンスの肥やしはいらない物でしょう?」

「それには同意じゃが。なんぞ、焦っておるのか? そっちが聞いたんだから、こっちが聞いてもいいじゃろ」

「そうですわね。臣下を守る貴族の務め、かしら?」

「うーわ。うーわ。げー。なんじゃそら」

「今の言葉だけは、他言有用でいいですよ。先に聞いたことは……忘れてください」

「そこも強制だったら張り倒してるところだわ。……『あの出来事』が、それに関連付けられるとでも?」

「うふふ。そろそろお鍋にかけた火が気になります」

「そりゃそうだろ」

 

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「……まさか、な」

「? 何か言ったかい、マミゾウ」

「んう? 何も言っとらんぞ」

 

 何も無いだろう。二重人格の妄想行動に違いはあるまい。

 けれど、もし何か知っていることと繋がりがあるなら。

 あるいは。

 

「……ありゃ、酒切れたか。もともとこれっぽちしかないし、潮時かな」

「宗教家の手前、家には酒を置かないんでね。持ち込みがないならこれで終わりだ」

 

 もらった醍醐も食べ切り、小さな宴会は物がなくなり日が落ちると共に終幕した。




冒頭の例のアレはニコ動にアップされているとあるMADを元にしております。
曲名で検索すれば大体出てくると思われる1部・3部MADです。

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