もしそれで「死んでもいいわ」とか返されても困るけど。個人的には手を伸ばしたら届きそうとか返しそう。無理だってわかっているけれど。
「で、なんで
「知らないよ~。今朝起きたらここにいてなんか作業手伝ってるんだよ」
「で、師匠も追い出さずに手伝わせてるの?」
「いんや、追い出そうとしてあぁなってんの。いいように使ったら帰ると思ってやってるんだって」
「で、思いのほか善戦して師匠も喜々として手伝わせてるのね」
「そうらしいね」
「あ、ちょっとてゐ! どうすんのよ」
「私としては楽できるからなんでもいいよ~。鈴仙も手伝うか私と一緒にサボるか選ぶといいよ~」
「うー」
後ろ髪を引かれるように会話を一方的に中断され現状を見返す。私の目の前では最近になって「普通」になった白黒が師匠にあれこれ指示されて動き回っている。魔法使いって器用なのかな? 所々私よりも上手く動いていて上手く仕事をこなしている。てゐが言うには彼女は朝から居たらしいが、それだって彼女の動きは洗練されていた。それこそ毎日手伝っている私以上に。それは会話から聞こえる台詞が私の間違いじゃないことを証明していた。
「あら、終わったの? 凄いのね。ウドンゲよりも早いわ」
「この調合は知り合いの魔法使いに習っただけよ。早くても完成度なら彼女のほうが上だしね」
白黒の調合は私の目から見ても丁寧だった。私の知る白黒は謙遜なんかしないからやっぱり様子がおかしいと思う。
「って、ウドンゲじゃないの。見てないで手伝いなさい」
「あ、はい!」
「おはよう。私のことは気にせず普段通りにしてくれて構わないからね」
そんなこと言われても気にしないなんて無理に決まってるじゃないの……。師匠に目配せで意図を図るが「後で」としか返ってこなかった。うぅ……今知りたいのに。
「じゃ魔理沙はこれの調薬を頼むわ。ウドンゲも来たしわからないことがあったら彼女に聞いてね。私はあっちにいるから」
その言葉と共に師匠はすっと襖の奥に消えていった。この状況で私を置いていくとかどういうことですか師匠~!
白黒も困り顔で「足でまといにならないようにするから機嫌治してね」とかこれもう私の知ってる白黒じゃないんですけどどうしろって言うんですかぁ。
▽
霊夢に謝る口実も見つからず何もせず家にいることも出来ず私は出かけることにした。一応霊夢の顔は見るようにしてるし何かあれば駆けつけたりもした。けど謝ったりはできてない。そもそも理由がわからないから。
で、そんな私が何処に出かけたのかといえば永琳のところである。もっと正確に言えば鈴仙に会いに。
ちょろ……いや優しい彼女ならきっと教えてくれるはず。でもいきなり押しかけても迷惑この上ないので親御さんの了承という名の脅迫紛いの作戦で実行しようと思う。
太陽がまだ顔すら出していない時間に門を叩く。時間的にうるさくならないように軽くね? 出てきたのは輝夜だった。
「こんな夜更けに来たのが白黒? まぁあいつだったら戸を叩くこともせず襲って来るからおかしいとは思ったけどさ」
「永琳に会いに来たのだけれど……今大丈夫?」
「体調でも悪い……って訳ではなさそうね。今なら丁度暇してるだろうし問題ないわ。イナバにでも案内させるから付いてって」
「ありがとう。あ、これウチで採れた山菜。よかったら使って」
「気が利くわね。本物?」
「山菜のこと? 私のこと?」
「わかってるくせにぃ。まぁいいわ、案内してあげて」
兎に後を任せ彼女は襖の奥に消えていった。後を任された兎に付いていけば永琳がカルテを持って椅子に座っていた。お邪魔しますと声をかければ軽く驚いていた。
「珍しいじゃない。体調不良って訳でもなさそうね……悩み事?」
「医者に用事って訳じゃなく永琳に相談したいことがあってね」
「厄介事?」
「個人的にそう思ってないけれど多分厄介事」
「……いいわ、聞きましょう」
「ありがと。個人的に鈴仙貸してくれれば解決しそう」
「話を伺ってから答えるわ。はい、簡潔に」
「紅白が怒っている理由を知りたい」
「貴女のせいね。……なるほどあの子なら時間を割いて教えてくれそうね」
「仕事手伝うから鈴仙と話させてもらえる?」
「いいわよ。天狗が言ってたとおり性格が変わった貴女にならウドンゲを貸せるわね」
「流石の私でも人を借りたままにしないと思うけどね」
「私に許可をとってるし姫様も玄関口で話してたようだから……本当に性格変わったのね」
「普通だと思うんだけど」
「そうね。貴女じゃなかったらすぐに同意できる台詞よ」
「酷いなぁ」
「ウドンゲが起きるまで雑用してもらうわよ」
「普通の魔法使いでもできる調合でお願いします」
「わかってるわよ。数の必要な軟膏辺りを作っといて。材料は其処にあるだけで作る量もあるだけでいいから」
「出来上がったら?」
「見せに来て。一個だけ作って見せるから覚えてね」
「ありがとー」
その後は丁度知ってる調合で特に難もなく作ることができた。ただ、任された量が数十で収まらず時間をくってしまったが。そのおかげで暇もなく鈴仙に会えたのだけども。さてどうやって話を進めようかと思っていると永琳が追加で調薬を私に頼み鈴仙と二人っきりにさせてくれた。その時の「わからないこと」辺りを強調してくれたので笑顔で頷く。流石に起きたら
作り終えた私は折を見て彼女に尋ねた。
「ねぇ」
「ん? って何よ、もう終わって――る! はやっ」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「……調薬のことなら問題ないわよ」
「相談事なんだけど」
「相談? 何を?」
「人間関係。私がここに来たのも貴女に相談したかったから」
「あー、それが理由ね。師匠には?」
「理由までは教えてくれなかった」
「……はぁ。いいわよ、乗ってあげる。役に立つかどうかは別にして、ね」
「ありがと」
そして霊夢のことを話す。今度は簡潔ではなくおかしくなった辺りから私から見た描写だけだけどなるべく詳しく。話し終える前あたりから鈴仙が半目になっていた。
「え、これ私必要?」
「理由を教えて欲しいのだけれど……」
「というか本当にわかんないの? そこは変わってなくて安心したけどさぁ」
「わかってたら悩まないし家を壊されたりもしないよ……」
「私は紅白本人じゃないし正確な答えになるかもわかんないけどさ。なんていうか困惑とか焼き餅とかそんなんじゃない?」
「ぇ?」
「あんたの性格がいきなり変わって、あんたは変わらず付き合ってきて、それでまずは困惑するでしょ?」
「うん?」
「うん? ってあんた……まぁいいわ。で、あんたとしてはお世話になった人達に謝罪紛いの付き合いしてて紅白にはいつも通り付き合った。話を聞く限りでは家を壊されたとき紅白はイライラしてたんでしょ?」
「確実にイライラしてました……」
「なんの相談もなくいきなり知ってる性格が変わったから焼き餅を焼いたんじゃない? あ、今更だけどこれ私から聞いたって言うの無しね。今度はここが焼け野原になるわ」
「流石の霊夢もそんなことしないよ」
「あんたの家っていう前科があるんですが……」
それは言っちゃおしめぇよ! とか思ったから苦笑いで返す。もしもそうなったら建築するの手伝うよ。私が霊夢にそれを言わなきゃ良いだけだけどさ。
「とりあえず私はできたものを師匠に渡しに行ってくるけど……あんたは? って聞かなくても何をしたらいいかわかってるって顔ね」
「うん、ありがとね。相談に乗ってくれて」
「お礼はいいわよ。だけど紅白には絶対に言うんじゃないわよ? 焼き餅とか関係なく私があんたに助言した事が知られたら怖すぎるわ」
「気をつけるよ。永琳に用事ができたって言っといて」
「行ってらっしゃい。言わなくてもわかってると思うけど訊かれたらそう言っとくわ」
身支度をして早足で歩き出す。場所は博麗神社。なんて謝るかまだ決めてないけど理由もわかったしなんとかなるだろう……きっと多分……。またぶっぱされたらどうしようとか思っても深く考えない。とりあえず
なお、てゐと輝夜と永琳は共犯者。被害者は鈴仙だけの模様。
自機おめでとうございますとかそんな理由じゃなかったんだけど丁度いいので書いてみた。
会話多くて描写不足だったら申し訳ない。
焼き餅って書いて意味調べてたら飯テロされた気分になったのはここだけの話。お餅大好きなんです……。
2015/4/29 誤字訂正 正確 → 性格