虹の軌跡   作:テッチー

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そんなトリスタの日常

 

《学院長のヒゲ》

 

 学院長室の椅子にヴァンダイクが収まり、机を挟んでサラが立っている。

「先月の特別実習での報告は以上となります」

「ふうむ、なるほどのお」

 渡された報告文書に目を通しながら、ヴァンダイクは立派なあご髭をしゃくった。

 何気なくサラが言う。

「ずいぶんとそのおひげも伸びましたね」

「はっはっは。そうかね」

 ヴァンダイクは豪快に笑ってみせた。

「そろそろ、もう一本筆を作ろうかの」

「……え?」

 

    

    ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 《固い意志と硬い石》

 

 一年Ⅳ組の教室に赤い夕日が差し込んでいる。

 放課後、教室に残っていたのはコレットとカスパルだった。

「………」

「………」

 微妙な距離感のまま、二人は相対している。諸々の誤解を解きたいカスパル。露骨に警戒するコレット。真剣勝負の間合い取りのような緊張感が、なぜかそこにあった。

「コレット……」

「……なに」

 方や真摯な眼差し。方や警戒の半眼。

 先に動いたのはカスパルだった。早く誤解を解きたい。また間の悪いヴィヴィに見つかる前に。その思いが焦りの一歩を踏み出させた。

「聞いてくれ。俺は――っ!?」

 前置きも段取りも必要ない。ただそうなることが定められていたかのように、カスパルは足をぐねらせた。

 立ち並ぶ机にひたすらぶつかりながら、けたたましい音を鳴らして、倒れ込むようにコレットにドタドタと接近する。

「いやあああ!!」

 すばやく制服のポケットの手を差し込み、何かを取り出すコレット。

 今日も今日とて“異様に硬い石が”カスパルの顔面に炸裂する。

 夕日に赤く染まった教室で、一匹のカサギンがむなしく散った。

 

 

        ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

《ピンキーツインズ》

 

「ねえ、ヴィヴィ」

「なあに、リンデ」

 同じ顔、その上声音も似ている双子姉妹は、そろって学院からの帰路についていた。お互いの部活は違うものの、今日はたまたま終わる時間が重なり、正門前で出くわしたのである。

 姉であるリンデは問う。

「最近、また私に扮装していたずらとかしてないよね?」

 妹であるヴィヴィは答える。

「したけど」

 あまりにもあっさりとした返答に、「やっぱり」とリンデは肩を落とした。

「最近、私に対するガイウス君の態度がぎこちなくなったというか。むしろ気を遣われているというか。避けられてはないんだけど微妙な距離感というか……」

「ふふ、リンデったら自意識過剰なんだから」

 クスクス笑うヴィヴィに、リンデはさらに問う。

「ねえ、怒らないから何やったのか教えて」

「いいわよ。まずはね。リンデのふりして美術部のモデルになって、ガイウス君の前で物凄いセクシーなポーズを取ってみたの。石像になったみたいに固まって、ペンを落っことしてたわね、彼」

「……そう」

 リンデは平静だった。このくらいは予想の範疇内である。

「あとはすれ違いざまに今日の下着の色を耳打ちしてみたり、胸のサイズが大きくなると報告しに行ったり。あ、もちろんリンデのをだから。動揺したのかしら。そのあと壁に激突してたわね、彼」

「………」

 表情が硬くなり、申し訳程度に浮かべていた笑みが消えた。

「そうそう、ガイウス君が二年の先輩にプールで泳ぎを教えてもらってたことがあったんだけど、際どい水着を着てプールサイドに登場してみたの。こっちに気付くなり、いきなり沈んじゃったわ、彼」

「……ヴィヴィ……あなた」

 ふるふると全身を震わすリンデ。もう怒りなのか、悲しみなのか、混然とした感情をそのまま瞳に映し、狼狽に揺れる視線をヴィヴィに注いだ。

「ごめんねー。でも怒らないんだよね?」

「そんなわけないでしょーっ!」

 笑って逃げ出すヴィヴィと泣いて追いかけるリンデ。

 顔と声以外は、どこまでも正反対の双子姉妹だった。

 

       ☆   ☆   ☆

 

 

《白執事と黒メイド 前編》

 

「……ふう」

 雑貨屋に並ぶ野菜類を眺めては、ため息を繰り返している。浮かない顔をしていたのはハイアームズ家の執事、セレスタンだった。

 白菜を手に取っては戻し、ニンジンを手に取っては戻し、その都度重い嘆息をもらしている。

「あら、セレスタン様?」

 呼ばれて振り返ると、背後にほほ笑むメイド姿の女性が立っていた。

「ああ、これはシャロンさん。気付きもせず失礼をしました」

 セレスタンは慣れた動作で丁寧に頭を下げる。応じるシャロンも買い物カゴを片手に、粛々とした一礼を返した。

「シャロンさんもお買い物ですか?」

「はい、お夕食の買い出しに。セレスタン様もでしょうか? 考え事をしていらしたようですが」

「いえ。普段の買い出しはサリファさんとロッテさんにお願いしているのですが――」

 ためらいつつも、結局セレスタンは続く言葉を口にした。

「実はパトリック坊ちゃまのことで悩み事が」

 仕える主の内情を口に出すのははばかられたが、全てはパトリックの為を思えばこそである。

 それに使用人としての立場同士、シャロンが他言するとも思えなかった。

「坊ちゃまは好き嫌いが多いのです。中でも特にピーマンが」

「それで食材を見て頭を抱えておられたのですね」

「私も一応料理の心得はあるつもりですが、しかし苦手なものを美味しく召し上がって頂くほどの技量はなく、何かいい方法はないものかと」

「まあ……そうでしたか」

「お恥ずかしい限りです」

 目を伏せるセレスタン。少し考える素振りを見せてから「もし宜しければ」とシャロンはおもむろに提案した。

「僭越ながら、私が料理の手ほどきをさせて頂きましょうか?」

 

      ▽  ▽  ▽

 

 

 

 

《そんなレグラムの一日》

 

「穏やかな日和でございますな」

 レグラム、アルゼイド家の屋敷。エベル湖を一望できるテラスにて、執事のクラウスはカップに紅茶を注いでいた。

「ふむ」

 応じながらカップを手に取り、ヴィクターはそれを一口すする。視線を湖面の向こう側に伸ばすと、ローエングリン城が荘厳な佇まいを見せていた。今日は霧がないから明瞭にその全容を捉えることができる。

「今頃お嬢様は何をしておいででしょうか」

「勉学に武の修練、学友達との語らい。あのラウラのことだ。充実した日々を送っていよう」

 娘を想う父の声音である。

「ですが、気がかりなことも」

 ピンと背を伸ばした待機姿勢をとって、クラウスは思わしげにそう重ねた。

 カップを卓上に置いて「ほう、なんだ?」と目線を戻すと、「おそれながら」と前置きして老執事は言う。

「お嬢様ももう十七でございます」

「うむ。月日の経つのは早いものだ」

「つまりはお年頃でございます」

「……どういう意味だ?」

 ピクリと眉根が寄り、察した表情に刹那、影がよぎる。

 物寂しげな瞳を湛え、クラウスは空を振り仰いだ。

「たとえば想い人など――」

 言葉の最中で突然ティーカップが砕け散る。残っていた中身ごと飛散し、血痕のような染みが辺りに量産された。さらにテラスへ続く大窓にビシリと亀裂が入り、細かなガラス片がパラパラと地に落ちた。穏やかだった湖面は瞬時にその様相を崩し、激しい白波と水飛沫を荒立たせる。上空には暗雲が立ち込め、遠くで雷鳴が轟いていた。

「お、おお……」

 さしものクラウスもたじろいだ。

 殺気を孕んだ闘気。吹き荒れる強大なオーラ。それを発したのは言わずもがなヴィクターである。

「想い人……と言ったか?」

 ザパーンと波が打ち寄せ、ドカーンと雷が落ちる。

 屋敷地下の宝物庫では、主の変容に呼応するかのように、宝剣ガランシャールが独りでに戦慄(わなな)いていた。

「これは失言を……どうか気をお収めくださいませ」

 物怖じしたのも一瞬、すぐに平静の面持ちを取り直し、クラウスは深く頭を下げた。

 じきに静けさが戻ってくる。湖も空も先程とは打って変わって静かなものだった。

 浅く嘆息し、ヴィクターは言う。

「いや、よいのだ。男手で育てたとはいえ、そなたの言う通り年頃には違いない。しかしラウラが見初めるような男がそうそうおるとも思えんが」

「は。そういえば以前実習で来られたあの黒髪の少年などはどうでありましょうな。ずいぶん親しげに会話を交わし、お嬢様も心を許しておられるようにお見受けしましたが」

「ほう」

 また湖面が荒れ、雷が鳴る。今日のレグラムは天気が崩れやすかった。

 ――閑話休題。

「リィンだったな。あの少年の名は」

 しばらくの後、波が収まった頃合いでヴィクターが言った。

「は、礼儀正しく、剣の心得もございました」

「確かに見どころはある。しかし見極める必要もある」

 そう告げて、クラウスの顔を見た。

「かしこまりました」

 それだけで察したらしいクラウスは、両の手を打ち鳴らす。どこに控えていたのか、あっという間にテラスは現れた門下生達でいっぱいになった。

「“アルゼイドの試練”だ」

 何の前置きもなくヴィクターが放った一言は、その場の全員を震撼させた。

 それは麗しの子爵令嬢を守る為、あるいはその隣に立つことが相応しいのかを試す為の、全門下生勝ち抜き戦のことだった。勝ち進む毎に上段者が待ち構えていて、もちろん最後はクラウスとヴィクターが控えている。

 その本質を有体に言えば、試練の名を冠した公開処刑だ。

「つ、ついにこの時が……」

「何という事だ」

「落ち着けい。全てはこの時の為の修練ではないか!」

 ざわめく一同。古参の者であれば小さな頃からラウラを知っているし、新参の者であれば凛とした立ち振る舞いに憧れる者も多い。

 どこの馬の骨とも知れん輩から、大事なお嬢様を守らねばならない。アルゼイドの名の重みを知らしめてやらねばならない。

 一人が言う。

「して、その不届き者の名は?」

 

 しばらくの後、練武場に凄まじいまでの気迫がほとばしっていた。

「リィン、コラァアア!」

「せいやあ、リィン! せいやああ!」

「リィン、オラア! リィン、テメエ!」

 轟音が響き渡り、呪いの言葉が随所に挟まれる。お嬢様に言い寄る悪い虫に見立てた稽古用の巻き藁に、木剣による容赦ない打ち込みが何度も何度もめり込んでいた。

「次にノコノコ顔を出したが最後、五体満足でレグラムを出れると思うなよ! ええ、リィンさんよお!?」

 それからというもの、門下生達の殺気立った掛け声が、昼夜問わず途絶えることはなかったと言う。

 

 

     ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

《M/M/M/Mオペレーション》

 

「作戦があるんだけど!」

 昼休みの二階廊下。唐突に投げよこされた声に、エリオットはびくりと背後に振り返る。

 珍しく真面目な顔をしたミントが立っていた。

「えっと、何の作戦?」

「ふふーん。今日の放課後にね、メアリー教官とマカロフ叔父さんが《キルシェ》で一緒にご飯を食べるんだって」

「へえ、そうなんだ」

 何でも誘ったのはメアリー教官からで、生徒についての悩みを聞いて欲しいらしい。叔父であるマカロフに授業の質問をしに言ったところ、偶然にその会話を聞いたとのことだ。

 ミントはこの機に二人の仲をもっと進展させたいのだと言う。

「というか何で僕も協力する前提なんだろう……それで作戦って?」

「うん、まず《キルシェ》に潜入して、いい感じの雰囲気になった時に猛将エリオット君が荒々しく乱入するの。それでマカロフ叔父さんがメアリー教官を男らしく助けるんだよ。どうかな?」

「どう転んでも僕だけがよくないことになりそうなんだけど」

 しかしそんなエリオットにはお構いなしに、ミントは嬉々とした様子だった。

「それじゃあ、今日の放課後に《キルシェ》のそばで待ち合わせ!」

 こうして、M(マカロフ)とM(メアリー)をくっつける為の、M(ミント)とM(猛将)の作戦が始まった。

 

 そういうわけで放課後である。

「さっそく何か話してるね」

「うん、でも本当にやらないとダメなのかな……」

 エリオット達はすでにキルシェの隅の席を陣取っていた。マカロフ達はそこから反対側に位置するテーブルにいる為、こちらには気付いていない。しばらく二人は様子を見ることにした。

 マカロフは普段通りだが、メアリーはどことなし笑顔が多い気がする。談笑を挟んだりして、楽しげな様子だ。会話も途切れていないようだし、傍目に見てもいい雰囲気である。

「ねえ、これ僕達が余計なことをしなくてもいいんじゃないかな」

「むむむー」

 しかしミントは首を横に振る。

「叔父さんはボクネンジンだもん。後押しがいるよ。絶対いるから」

 不意にメアリーの表情が暗くなった。今から例の相談ごとらしいが、思ったよりも深刻な話なのかもしれない。

「エリオット君、今しかないよ!」

「え、ええ? このタイミングで? どうしたらいいのさ!?」

 ミントに急かされ、とりあえずは席を立つエリオット。

 何をしたらいいのかも分からないまま、挙動不審にマカロフ達の席に近づいて行く。

「うわっ!?」

「あっ!」

 もたもた歩いていたからか、料理を運んで来た店主のフレッドとぶつかってしまった。トレイの上に乗っていた器がぐらつき、床に落ちそうになる。

 とっさにエリオットは器をつかんでそれを防ぐが、最悪なことに器の中身はできたてのグラタンだった。

「熱っ!?」

 思わず手を離す。必然、トレイの外に飛び出すグラタン。落としてはいけないと判断し、即座にエリオットは空中で器をキャッチし――

「あ、あつつつ! あつっ! 熱い!」

 何度も取りこぼしそうになりながら、バタバタとマカロフ達がいるテーブルへそれを運び――

「ああああ!」

 叩きつけるように、激しく器を卓上に置いた。その際に熱せられたクリームソースが飛散し、エリオットの顔やら手首やらに付着する。

「うわ! うわああ! 熱いよっ!」

 ドタドタと跳ね回るエリオット。その様を見て、メアリーが席から落ちんばかりに仰け反った。

「エ、エリオットさん!? マカロフ教官、彼が今話していた生徒です。普段はとても温厚なのに、突然猛将になるみたいなんです」

「おお……こりゃ想像を絶する猛りっぷりですな」

 ここでミントが現れる。

「叔父さん! ここは私に任せて、早くメアリー教官を安全な場所に連れて行って!」

「あ、ミントか? お前どうしてこんなとこに」

「早く! 猛将が襲ってくるよ! 欲望のケダモノがメアリー教官を狙ってるよ!」

 状況が飲み込めないまま、マカロフ達は《キルシェ》から撤退する。というか、させられる。

 しばらくして、店内には静寂が戻っていた。

 立ちすくむミント。へたり込むエリオット。双方、息は荒かった。

「作戦成功……かな?」

「失敗だと思う……色々と」

 

 

       ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

《白執事と黒メイド 中編》

 

 それから何度かシャロンによる料理教室が、第一学生寮の厨房で行われた。もちろんセレスタン一人の為にである。

「こうですか? あと塩加減はどのくらいで……」

「丁度良い具合ですわ。さすがはセレスタン様」

 変わらない微笑をシャロンは浮かべている。内心でセレスタンは驚いていた。

 ここは貴族生徒達が住まう専用学生寮である。例えばロッテなんかはここに来た当初、緊張のあまり、まともに仕事の手が進んでいなかった。その心境は理解できる。必要以上に肩肘を張り、失礼をしまいと意識していたのだろう。

 だがこのシャロンはというと。

 丁寧さこそあるものの、彼女から一切の物怖じは感じなかった。堂々とも違う。あくまでも自然。そこにいることが当たり前のように、気づけばふっと場に溶け込んでいる。

「あら? 何か私の顔についておりますでしょうか」

「あ、いや。失礼。えーとコショウは――」

 知らずの内に見つめていた視線を慌てて逸らしながら、不思議な女性だと改めてセレスタンは思った。

 

 それから数日後のこと。

「シャロンさん、聞いて下さい。ついにパトリック坊ちゃまがピーマンを召し上がられたのです」

 いつものように第一学生寮の厨房を訪れたシャロンに、セレスタンは嬉しそうに告げた。刻みに刻んだピーマンを香草スープに隠して独特の苦みと匂いを消し、丁寧な味付けを施すことによって、まったく悟ることなくパトリックはそれを完食したのだった。

「まあ、それはおめでとうございます。私も嬉しいですわ。ただ――」

 物憂げな表情を浮かべて、シャロンは続けた。

「ここでセレスタン様と一緒にお料理を作ることは、今日が最後になってしまうのでしょうか」

「あ……」

 パトリックがピーマンを食べたなら、これ以上シャロンに協力は仰げない。そもそも彼女は自身が抱える第三学生寮の仕事の合間を縫って、わざわざここまで足を運んでくれていたのだ。

「ふふ、セレスタン様なら私などいなくても、何でも作ってしまいそうですけど――」

「シャロンさん」

 気付いた時には、もう口を開いた後だった。

「今度一緒に出掛けませんか? その……お礼がしたいのです」

 

 

      ▽  ▽  ▽

 

 

 

 

 《ドリームオブサイズ》

 

 またこの夢だ。見るのはこれで二回目。一回目は例の幽霊調査を終えた日だったと記憶している。

 目を開くと、あの女の子が僕の顔をのぞき込んでいた。

「おにいさん。また会ったわね」

 可愛らしい声。可憐な容貌。すみれ色の髪と白いドレスが印象的だ。

「ねえ、おにいさんのお名前は?」

「僕はマキアス・レーグニッツだ。君は?」

 彼女にもその問いを返してみたが、「ひーみつ!」と言ってそっぽを向かれてしまった。何とも捉えどころのない不思議な女の子である。

 僕は横たわっていた。身を起こすと、辺りは一面の花畑。トリスタ近郊にこんな場所があっただろうか。いや、夢だから何でもありなのかも知れないが。

「ここはどこなんだ?」

「それもひーみつ」

 くるりと回ってみせ、いたずらっぽい笑みを見せる少女。

 唐突に彼女は言う。

「ねえ、遊びましょう?」

「いや、しかしだな」

「ダメ?」

「あ、いや。わかった。少しだけだからな」

 妙に引き込まれる瞳。正面切って断ることは出来なかった。まあ、ままごとにでも付き合えば納得してくれるだろう。漠然とそんなことを思っていたら「鬼ごっこがいいわ」と楽しそうに少女が微笑んだ。

「なんだ。意外と活動的じゃないか。僕が鬼か?」

「ううん、おにいさんが逃げる役」

「僕は手を抜かないぞ?」

 そうは言いつつも適当な所で捕まってあげるつもりだった。さすがに本気で逃げおおすほど、大人げないつもりもない。

「ええ、すぐ終わったらつまらないし」

「ははは、言うじゃないか――……え?」

 目を疑った。というか言葉を失った。少女はどこから取り出したのか、身の丈よりも巨大な大鎌を携えていたのだ。禍々しさを湛える鎌は、死神のそれを連想させた。

「じゃあ、三秒数えたら追いかけるから」

「い、いやいや、ちょっと待ってくれ! というか三秒!?」

 混乱の内にカウントダウンは終わり、同時に銀色の閃きが僕の鼻先をかすめていく。

「あ、外しちゃった」

「うっ、うわああ!」

 はらりと落ちる髪が視界に踊り、僕は一目散に走り出した。

「うふふ、足早いのね」

 大鎌を持ったまま、器用にスカートの裾を持ち上げて、すみれ髪の少女が追い駆けてくる。

 最初の余裕など、もはやない。さらに全力で速度を上げて、僕は花畑を抜けた先にあった森の中へと逃げ込んだ。

「ここなら一息つけるか……」

 大きな木の裏に隠れ、背中を太い幹に預ける。

 何とか頭を落ち着かせ、状況の整理を試みた。

 これは夢。それは間違いない。前にも一度だけあの少女が夢に出てきたことはあったが、現実の間に出会った覚えはない。

 そして今、遊べとせがまれて応じただけなのに、なぜか命を質に入れた鬼ごっこをする羽目になっている。

「なんて夢だ。最近疲れているのか?」

 悪夢は目を覚ませば終わりなのだが、あいにくと目の覚まし方が分からない。腕をつねってみたりしたが、痛さはある上、一向に目が覚める気配もない。むしろこっちが現実のようなリアリティさえある。

「うーむ、どうすれば」

 もしかしてあの子が満足すれば、この夢は終わるのだろうか。

 ふとそんな事を思った時、遠くでヒュンと風を切る音が聞こえた。

「なんだ?」

 それはヒュンヒュンヒュンと断続的に鳴り、だんだん風切音も明瞭になってくる。凄い速さで何かが近付いてきているようだが――

「――っ!?」

 ぎくりとしてとっさに身を屈めた。

 その直後、頭のすぐ上を『ザンッ』と鋭い音が通り抜ける。あの大鎌が激しく回転し、触れる全てを刈り取りながら飛んで行くのが見えた。あと一秒反応が遅れていれば、確実に笑えない事になっていただろう。

 メキメキと巨木が倒れ、辺りの土くれや落ち葉を巻き上げた。

「うふふ。おにいさん、みーつけた」

 倒れた木の向こうで、少女が無邪気に笑っている。焦りはしたが、しかしそれは表に出さない。どうにも彼女はこっちの反応を楽しんでいる節がある。

 それに状況は些か安堵できるものになっていた。なぜなら、ぶん投げたのだろう、その手元に大鎌が無いからだ。

「待つんだ。鬼ごっこはやめて、何か別の遊びをしないか」

「んー、別? そうねえ」

 その提案に、彼女はこう返してきた。

「だったら、お人形遊びはどうかしら」

 柄ではないが、平和が一番。僕は力強くうなずいた。

「うふふ、よかった。それじゃ始めましょ」

「あ、待ってくれ。僕は人形を持っていないぞ。それに君だって何も持っていないようだが」

「あら、あるわよ」

「どこに?」

 少女が言うと同時、ゴゴゴゴと上空で轟音が響く。見上げてみると、確かに人形はそこにいた。

 ひたすら巨大な、機械人形が。

 ズズンと重い音を立て、そいつは地に降り立つ。衝撃が駆け抜け、滞留する土埃を残らず吹き飛ばした。

 凄まじいの一語だった。

 ワインレッドで統一された緋色の装甲。大きくせり出したショルダーパーツ。随所に垣間見える物々しいバーニア。

「お願いね、パテ――マ――」

 その人形の名を呼んだみたいだったが、巨体が身じろぎする駆動音で、はっきりとは聞こえなかった。

 大きな両肩が稼動し、その突端を僕に向ける。あらわになる合計四門の砲身。青白い光の粒子がそれぞれに収縮していき、大気が鳴動し始めた。

「や、やめろ!」

 撃ってくる。本気だ。直感が告げるが、回避する方法などありはしない。

 しかし、これも直感だった。ここは夢の中。しかも自分の夢。強く思い描けば、それは実体化されるのではないか?

「くっ!」

 機械人形の双眸が光った。

 猶予はない。何をイメージする。こちらも機械人形を出すか? いや、今一つイメージが湧かない。そうだ、巨大なチェスの駒を出して盾にしてみよう。これもダメだ。防げる気がしない。

「うふふ、発射」

 少女が可愛らしい声で告げると、相対する四つの砲身から光がほとばしった。

 もう、やけだ。どうとでもなれ。

「うおおおお!」

 咆哮と同時に僕の眼鏡が輝いた。レンズに光と熱が収束されていき――

「だあ!!」

 眼鏡から極太のレーザーが勢いよく照射された。本当に出てしまった。

 ぶつかり、激しく干渉し合う閃熱が、辺りの木々を薙ぎ倒し、一面を焼き払っていく。

「ぐっ!?」

 しかし相手は凄まじい出力だった。このままでは押し切られる。両踵が地面にめり込み、耐え切れない膝がガクガクと震えだした。

 イメージだ。イメージを強く思い浮かべろ。そうだ。僕は二度と、もう二度と!

「眼鏡を割られるもんかあっ!!」

 二つのレンズから放たれる極大の光が、機械人形のビームを押し返す。そのまま砲身にエネルギーを逆流させ、オーバーロードした機体が機能不全のアラートを響かせた。

「はあ、はあ……やった」

 相殺ではない。競り勝ったのだ。僕と機械人形は同時に膝をつく。森は全て焼き消え、あちらこちらで黒煙が燻っている。見渡してみれば、あの花畑もなくなっていた。

「おにいさん、すごいのね。……ふふ、やっぱり面白い」

「え?」

「えいっ」

 振り向いた時には、いつの間に回収してきたのか、少女が大鎌を振り下ろす瞬間だった。

 ガッと鈍い衝撃が顔中に伝わり、僕の見ている視界が上下で二つにずれた。

 横一線に真っ二つにされた眼鏡が、ばらりと地面に落ちる。

「あ、あああ! 僕の眼鏡が!」

「うふふ、時間切れみたい。また遊びましょう、おにいさん。次は……そうね。虹の実探しにでも付き合ってもらおうかしら」

 僕らを取り巻く景色がぐにゃりと屈曲し、少女の姿も歪みながら消えていく。

「待ってくれ、君は一体誰なんだ」

「いっぱい楽しませてくれたから、おにいさんになら教えてあげてもいいわ」

 大きくうねり、渦を巻く空間の中から声だけが届いた。

「私の名前は――」

 

 目を覚ますと、見えたのはいつもの天井だった。

「う……」

 じとりと汗が滲んだ背を起こし、ベッドに座って眼鏡をかける。まだ夜明け前らしい。薄闇の部屋の中に視線を巡らしてみた。

 整然とした室内。変わりなくそこにあるチェス盤。間違いなく自分の部屋だった。

「ふう、なんだか暑いな」

 軽く汗を拭って、もう一度ベッドに横たわった。

 二度寝するつもりだったが、またあの変な夢を見たりはしないだろうか。それが少しばかり気がかりだ。

 しかし、ふと気付く。

「そういえば……僕はどんな夢をみていたんだっけ?」

 

 

        ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

《どっぐDEきゃっと》

 

 トリスタの一角、人目に付かないその場所で、一匹の犬と猫が睨み合っていた。

「ぐるる」

 と喉を鳴らして威嚇するのはルビィで、

「ニャー」

 と意にも介さない様子なのがセリーヌだ。

 犬と猫の宿命だからか、顔を合わせるなり二匹は臨戦状態に入ってしまったのだ。

二匹の間を強めの風が吹き抜ける。どこからか飛ばされてきた編みカゴが、カラカラと乾いた音を立てて転がっていく。

 膠着は続いたが、先に動いたのはルビィだった。

 ありったけの力で吠えようと喉の奥に力を入れる。

 そんなルビィを一瞥したセリーヌは、「ニャア……」と物憂げな嘆息を吐いて、

「これだから犬は嫌いなのよ」

「!?」

 

 

     ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

《ぐろーす おぶ ざ はーと》

 

「ねえガイウス。どうやったら身長は伸びるの?」

 学生寮のラウンジのソファーで、フィーはそんな問いを真向かいに座るガイウスに投げ掛けた。「ふむ?」とフィーを見返したガイウスは、少し意外そうな顔をしていた。

「俺は気付けばこの身長になっていたのだ。理由は分からないが、ただノルドでは馬の世話があるから、早く寝て早く起きるという習慣があった。あまり意識をしたこともないが、今考えれば規則正しい生活というものなのかもしれん」

 健康だったから、成長が早かったのではないかとガイウスは言う。

「それは私には無理かも」

 別に不健康な生活はしていないが、早寝早起きは厳しい。早寝遅起き昼寝付きがフィーの基本ライフサイクルである。

 おもむろにガイウスは二階を見上げた。

「気になるのなら、他の皆にも聞いてみるといい。男子達は今日、それぞれの部屋にいるようだからな」

 

 

「というわけで身長の伸ばし方を知りたいんだけど」

 まずやってきたのはリィンの部屋だった。

「フィーは身長を伸ばしたいのか?」

「そういうわけじゃないけど、何となく気になって」

「そうだな……」

 しばらく考えたあと、リィンは言う。

「懸垂で棒にぶら下がってみたらどうだ。体も鍛えられるし一石二鳥だろ」

「……それだと手だけ伸びて、足は伸びないんじゃない?」

 

「身長の伸ばし方教えて」

 次はユーシスである。読書中の乗馬雑誌を閉じてフィーに目をやると、その視線を足元から頭先へと移動させた。

「ふん、諦めるがいい」

 にべもない一言だった。読書を中断させられてご機嫌ななめなのかもしれない。

「いや、何でもいいから」

「牛乳を飲め」

「………」

 あとでこの部屋にトラップを仕掛けよう。フィーはそう思った。

 

 では次にと向かったのはマキアスの部屋である。

「うーん。身長の伸ばし方か」

「マキアスなら何でも知ってそうだし」

 そう言われて悪い気のしないマキアスは「ちょっと待っていてくれ」と本棚をごそごそ漁りだした。

 程なく数冊の書籍を抱えて戻ってくる。

「では説明するぞ。メモの用意はいいか」

「え?」

 フィーの返答も待たず、本を開いたマキアスはつらつらと弁説を始める。

「まず身長が伸びるのは、骨の骨端線にある軟骨部分が増えることが要因となっている。中でも身長に関わるのが大腿骨、脛骨、腓骨頸椎、胸椎、腰椎の六種類。続いてこれらの仕組みと根拠についてだが――」

「………」

「――つまり必要なのは栄養、睡眠、運動のバランスになるわけだが、フィーの場合睡眠に片寄り過ぎているんだ。まず一日の平均睡眠を七時間から八時間に限定して、決められた時間に必要な栄養素を摂取することによって骨端線の成長を促してだな。ああ、そうだ。運動だが僕が効果的なカリキュラムを考案してみよう。まずは――」

「………」

「――これなら計算上、一年半後には一五から二〇センチの向上が見込まれるぞ。納得してくれたか……ん、フィーどこに行った?」

 マキアスが紙面から顔を上げた時、そこにもうフィーの姿はなかった。

 

「クク、最初から俺のとこに来りゃいいんだよ」

 フィーの話を聞き終わって、クロウは口の片端を吊り上げた。いかにも思惑ありげな邪悪な笑みである。

「最初に言っておくけど、私の両手両足を反対側から引っ張るっていうのはダメだから」

 以前その提案をクロウはしてきたことがある。委員長に言い付けるなどと言って凌いだが。

「ちっ。そんなことしねえよ」

 ならどうして舌打ちをするのか、そう問う前にクロウは人差し指をびしりと立ててみせた。 

「じゃあこんなのはどうだ?」

「どんなの?」

「まずお前の両手両足に磁石をくくりつける。んでベッドの頭側と足側にも同じように磁石を設置する」

「……どうなるの?」

「磁石同士が引っ張り合って、朝起きたらお前さんの身長も伸びてるってわけよ。ただ、磁石の向きを間違えると反発し合うから逆に縮んじまうけどな。クックック」

 理解した。この男は真面目に答える気がない。こっちをからかって遊んでいるだけだ。

「じゃあ今度試してみる」

 寝ているクロウに対して。

 胸の内に宣言して、フィーはその部屋を後にした。

 

 そして最後の一人。

「ねえ、エリオット。身長の伸ばし方教えて」

「……なんで僕のところに来たのさ」

 その部屋での会話は三秒で終わった。

 

 一通り男子達の話を聞き終わって、フィーはラウンジに戻って来る。

「役に立つ話は聞けたか?」

 その姿を見るなり、ガイウスが声をかけてきた。

 首を左右に振って応じ、フィーは「さっぱり」とソファーに沈み込む。

「ふふ、だろうな」

「別にいいんだけど」

 そもそも方法を知りたかっただけなのだ。身長を必要に思うのは、棚の上に保管されたお菓子を取る時くらいなので、日常生活にさしたる不便は感じていない。

「別に伸びたら伸びたでいいし、伸びなくても別にいい」

 ガイウスはうなずいた。

「ああ。あるがままを大切にするといい」

「ん、了解」

 卓上のキャンディーに手を伸ばし、包み紙をはがす。口の中に入れてコロコロと舌の上で転がしてみた。リンゴ味。甘酸っぱさが拡がっていく。

「まあ、フィーはこれから成長期だしな。気にせずとも背は伸びるだろう。全ては――」

「風の導き?」

 フィーが先に言葉を継ぐと「そういうことだ」とガイウスは笑った。

 

 

        ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

《猛将伝説 荒の軌跡》

 

[猛将は店のドアを荒々しく蹴破るなり、怯える店主に向かって轟然と告げた。

『この店で一番たぎる本を出せ!』

『ひっ、うちにこれ以上のジャンルはありません!』

 店主が金庫から取り出した秘蔵書籍を、舐めるように眺めていた猛将は、無造作にそれを手に取った。

 助かった。見逃してもらえる。

 店主がそう思った矢先、猛将は素手で雑誌をビリビリに破り捨てた。まだ開けてもいなかった袋とじが、乾いた音と共に引き裂かれ、花吹雪のように宙を舞う。

『こんなもので満足できるか! 眼鏡ボインの学級委員長はどうした! ツンツンデレデレのブロンドお嬢様もだ! 凛とした女剣士を出せ! クール&ドライのちびっ娘がなぜいない!』

 激昂し、カウンターを蹴りつける猛将。

 べコリと痛ましくへこんだ靴跡を見て、店主は理解した。

 この男は獣だ。理性という檻から解き放たれ、本能を剥き出しにした、淫猥の獣だ。

『こ、こいつはクレイジーだ。紅毛のクレイジーだ……!』

『そうさ、僕はエリオット・クレイジー! バイオリンのくびれに情欲を催す男さ!』

『ク、クレイジィーッ!』

『ハハハハハ! 六才から七十五才までは僕のテリトリー!』

 猛将の下卑た笑い声は、トリスタの町中に響き渡るのだった]

 

「うむ……『猛将列伝・序章~獣の目覚め』をようやく書き終わった。さっそく店頭販売を開始しよう」

 ケインズは上機嫌にカウンターに座る。

 ミントから『猛将列伝』が売られているとの情報を聞きつけたエリオットが、魔導杖を握りしめて《ケインズ書房》に突撃してくるのは、今から一時間後のことだった。

 

 

        ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

《委員長の占い》

 

「どうぞー」

 ノックの後で扉が開き、アリサがエマの部屋に入ってきた。

「じ、じゃあ、お願いね」

「ふふ、緊張しないで下さい」

 部屋の外では他の女子メンバーも列になって並んでいる。エマがタロット占いをできるというので、興味本位から一人ずつ占ってもらうことになったのだ。

 カーテンを閉めて薄暗くした部屋。中心に置かれた小さなテーブル。その上に何枚ものカードが並べられていく。

「では……」

 何かに導かれるようにカードを選んでいくエマ。ただならぬ雰囲気に息を呑むアリサ。

「――出ました。アリサさんは……“女帝の正位置”」

「う、うん。それで?」

「……未来を信じること。育むことが力。積み重ねる友愛。あともう少し優しくしてあげてもいい気がします」

「え、最後のなに――」

「以上です」

 

「次の方ー」

「はーい」

 元気のいい返事と一緒にやってきたのはミリアムだ。

「では……」

 アリサの時と同様にカードをめくる。

「ミリアムちゃんは……“月の逆位置”」

「あはは、逆さま?」

「道を歩み続けること。成長こそが力。真実は時間と共に。あと棚の上のおやつは勝手に取らないようにしましょう」 

「わかったー! あれ?」

「以上です」

 

「入ってきていいですよー」

「よろしく頼む」

 三番手はラウラである。

「では……」

 深く、静かに集中し、カードを手に取った。

「ラウラさんは……“正義の正位置”」

「ほう?」

「心が揺らがないこと。信頼こそが力。堅実な努力は身を結ぶ。あとリィンさんは山菜料理なんかも好きですよ」

「なるほど。い、いや、ちょっと待て――」

「以上です」

 

「最後の方ー」

「ん、お願い」

 ラストはフィーだった。

「では……」

 カードの上を手が何度も往復し、不意にピタリと動きが止まる。その下にあったカードを、ゆっくりと開いていった。

「フィーちゃんは……“隠者の逆位置”」

「うん」

「過去を振り返ること。決意こそが力。目標と目的は己の内に。あと寝坊はダメです。目覚ましでちゃんとおきましょう」

「了解。それじゃ」

「まだです」

 立ち上がろうとしたフィーの腕を、エマは机越しに捕まえた。

「今日の復習はしましたか? 明日の予習は万全ですか? 課題のレポートは書きましたか?」

「問題なし。今からするから」

「寝ちゃうでしょう? うふ、うふふ」

 手は離さないまま、ゆらりとエマは立ち上がる。おもむろに一枚のカードを引いてみせた。

 その丸眼鏡が暗くした照明の中で妖しい光を放つ。

「“女司祭長の正位置”。さあ、お勉強の時間ですよ」

 

 

     ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

《ゆっしぃ》

 

「みっしぃとやらの着ぐるみを俺に貸して欲しい」

 ラウラの部屋で、ユーシスはそんな頼み事をしていた。

「それは構わんが、なぜ私が着ぐるみを持っていると知っていたのだ」

 アランとブリジットのすれ違いに端を発するヘイムダルでの一件でだが、それをそのまま口に出すことはできず、

「……人づてに聞いたのだ」

「となるとフィーしかおらんな。まったく」

 そうとしか答えられなかったが、ラウラはどうやら納得したようだった。

 クローゼットの奥から灰色の毛だまりを引き出しながら、ラウラは言う。

「それで、そなたはこの着ぐるみを何に使うのだ?」

「ああ、それはだな――」

 

 ――数時間後。

「む。背中側がしまらんぞ」

 礼拝堂の一室で、着ぐるみに入ろうとして苦心するユーシスの姿があった。

「あ、はい。少々お待ちを」

 背中のファスナーを上げながら「いつも子供達の為にありがとうございます」とロジーヌは穏やかに重ねた。

「ふん、たまたま時間が空いていたからな。しかし何だこれは……頭が異様に重いな。しかも蒸し返るような暑さだ」

 こんなものを一日中着て、よくラウラはあれだけ動き回ったものだと、感心を通り越してもはや呆れてしまう。

「大丈夫ですか? ふらついているようですし、無理をされては」

「構わん。子供達が楽しみにしているのだろう?」

「ふふ、お支えしますね」

 ぐらつく頭にそっと手を添え、よたつく足を先導しながら、ロジーヌはみっしぃと共に子供達が待つ礼拝堂へと歩を進めた。

 

 大人気だった。あっという間にみっしぃは子供達にもみくちゃにされていく。

「みっしぃだあ!」

「肉球! 肉球!」

「尻尾さわらしてー!」

 その勢いたるや、雪崩のごとし。「お、お前達少しは落ち着け――」と声を発しかけて、ユーシスは焦って口をつぐんだ。

 なぜならみっしぃがどんなキャラクターなのか、よく知らなかったからだ。果たして人語を話していいのか。それが子供達のイメージを壊してしまわないか。その懸念がある限り、迂闊な言動を口走る訳にはいかない。

(どうすれば……)

 年少の子供達をかき分けて誰かが近付いてくる。悪い視界の中で目を凝らすと、ティゼルだとわかった。先ほどまでロジーヌと一緒におやつの準備をしていたはずだが。

「ユーシス先生」

 喧騒の中、ティゼルはみっしぃの頭に顔を押し付けて小声で言った。どうやら自分が中身だと気付いていたらしい。

「みっしぃには鳴き声があるんです。それを言えば子供達は喜ぶと思います」

「そうだったか、感謝する。それで鳴き声というのはどのようなものだ?」

 着ぐるみの中から、ティゼルにしか聞こえないように言う。

「えっと、『みししっ』ていう――ううん、違った。鳴き声はこうです。大きい声で言って下さいね?」

 その言葉を伝えると、早々にティゼルは人だかりから撤退する。

 みっしぃは少し沈黙していたが、

「ゆ」

 不意に惑ったように身じろぎする。

「ゆ……」

 言わねばならない。言うのだ。言え。

 念じるように胸中で言い聞かせ、彼はついに鳴き放った。

「ゆししっ!」

 ユーシスみっしぃこと“ゆっしぃ”の誕生である。

 子供達は歓声をあげて喜び、ロジーヌは胸を打たれたように悶え、ティゼルは満足そうにおやつの準備に戻るのだった。

 

 

     ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

《コインの向かう先――I miss you》

 

 一日の業務を終え、用務員室の一人机に向かってガイラーは書き物をしていた。

 今日の分の作業報告書はすでに書き終えている。それが何かと問われれば、答えは一つ。

 “クロックベルはリィンリィンリィン”。その最終章の執筆である。

「ふむ……」

 顎をしゃくり、色々と先の展開を試行錯誤してみる。

「そうだね。ここでクロックはリィンの敵であったことを明かそう。――離れゆくクロックの背中――」

 サラサラと文章を書き連ねていく。導力タイプライターなどは持ち合わせていない。肉筆の方が魂が宿ると言うのは、彼の持論である。

「――だがその心中を察するには、リィンはあまりにもクロックの過去を知らなさ過ぎた。いつも一緒にいたのに、本当の彼が見えていなかったのだ」

 そこで筆の進みが遅くなる。考えながら、慎重に文字を紡いでいく。

「本当にその全ては嘘だったのだろうか? 自分に向けられた笑顔も、共有した二人の時間も、すべては虚像だったのだろうか?」

 知らなければならない。会わなければならない。確かめなければならない。

「たとえ戦うことになっても、その先に真実はあるのだ。必ず連れ戻す。心を決め、リィンは一人クロックを追う」

 主人公の決意に連動するかのように、勢いよく文章が走りだす。

 隠されたクロックの過去。明らかになっていく復讐の理由。胸の内で絶えない凍てつく炎。

 それは裏切るに足る理由だったのか。全てを置き去りにしてまで。答えの出ない葛藤にリィンは苦悩する。

 二人のすれ違いに端を発し、異なる思惑は帝国さえも巻き込んで、やがてその運命を幾重にも交錯させていく。

 会いたい。逢いたい。

 その一念の果てに、ついに対峙するリィンとクロック。

 戦うしか道はないのか。話す余地はまだあるのか。紡いだ想いは届くのか。

 彼らの間を約束のコインが落ちていった。

「――そして最後に彼らは――」

 集中していたから視野が狭まったのか、動かした肘が傍らのコーヒーカップにぶつかり、中身を原稿用紙の上にぶちまけてしまった。

「おお。私としたことが……。しかしこれはどうにもならないね」

 台拭きを手に、コーヒーで黒ずんでしまった原稿用紙の束を引き上げる。やはりタイプライターの方が良かったかもしれないとぼやいている内に、もう文字は滲んで見えなくなっていた。

 書き直しは確実だ。

「完結までは、もうしばらくかかりそうだね」

 

 

     ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

《白執事と黒メイド 後編》

 

 平日の午前中。ヘイムダルの大通りを執事服と女中服の二人が歩いていた。

「すみません、付き合わせる形になってしまって」

 セレスタンは隣のシャロンに小さく頭を下げた。

「お気になさらないで下さい。私も丁度用事が出来たところだったので。それに私の分の荷物まで持って頂くなんて申し訳ありませんわ」

「ご婦人と歩くなら当然のことです」

「ふふ、セレスタン様はお優しいのですね」

 料理を教えてくれたお礼ということで、セレスタンはシャロンをランチに誘ったのだが、間の悪いことに二人とも同じ日に買い物を頼まれてしまったのだ。

 誰にかと言えば、セレスタンはパトリックで、シャロンはアリサである。前者はフェンシング用のカタログで、これは帝都のブックストアにしかなく、後者は調味料各種で、やはり帝都の方が取扱い品数が多い。

 そういう事情から、そろってヘイムダルに出向く運びとなった。

 ある意味、間がいいと言うべきか。

「いい時間ですし、そろそろ昼食にしませんか」

「エスコートはお願いしても宜しいのでしょうか」

「もちろんです」

 無論、誘ったからには相応のレストランを予約済みである。こういった時の店の選び方は、双方のマナーレベルに合わせる必要があるが、今回に関してそれは全く問題にはならなかった。どちらも名家に仕える者として、一般教養から細かな所作、作法事に至るまで、並以上の知識は当たり前に備えているのだ。

 そして一流のレストランを選定しつつも、その格式はあえて最上のものからワンランク落とした店にしている。

 今回は各々が使える主達が勉学に励む中、その彼らを差し置いた外食である。やはり使用人の立場として、主と同格以上の食事は控えねばならなかった。一般的にはそれでも手の出ない店ではあるのだが。

 その店に向かう道中――

「何だ、メイドがいるな?」

「バリアハートでもないのに珍しいことだ」

 そこはかとなく下卑た声。セレスタン達が振り向いた先には、若い二十代前後の男が二人、にやにやと侮蔑的な笑みを浮かべながら近付いてくる姿があった。身なりや態度からして貴族であることが分かる。

「私共に何かご用でしょうか?」

 落ち着き払ったセレスタンが気に入らないらしく、二人はさらに横柄な態度を取った。

「お前に用はない。俺達は観光中なのだ。そっちの女中、お前に帝都の案内をさせてやろう」

「シャロンさん、私の後ろに」 

 セレスタンは詰め寄ってきた二人と、シャロンとの間に立ち塞がる。

「お前、いい度胸だな。俺達が誰だか分かって――」

「あなた達がどなたであろうとも、帝都の大通りで荒事を起こして不問になるとは思えませんが」

「なら試してやろう。俺達は伯爵家子息だ。お前達が理不尽に侮辱してきて、観光中の俺達を怒らせた。そういう話でよかろう」

 男の一人がセレスタンの胸倉を掴もうと、さらに一歩近付いてきて――

 セレスタンの後ろに控えるシャロンの指が、クイっと小さく動いた。

「うおっ!?」

 途端、その男はまるで何かに足を絡めとられたかのように、不自然な動きで転倒する。石畳に顔面から突っ込む形となった。

「……?」

 目を丸くするセレスタン。もう一人の男が「貴様っ!」と声を荒げて足を踏み出し――

 またシャロンの指がクイクイっと動く。

「なあっ!?」

 今度は片足が跳ね上がり、その男は受け身も取れず後頭部から倒れ込んだ。

 緩慢に身を起こす二人だが、存外痛みには弱いらしく「血、血は出てないよな?」とか「俺達は伯爵家子息だぞ、覚えておけ!」などと吐き捨てながら、病院を求めてあっという間に退却していった。

「……何だったんでしょうか、彼ら。勝手にこけたようでしたが」

「帝都の石歩道は歩きづらかったのでしょう。うふふ」

 少しだけ笑みを抑えて、シャロンは言った。

「ハイアームズの名前を出せば、最初の一言で事は済んだのではありませんか?」

「家名はあくまでご当主達のもの。私のものではありません。それに貴女だってラインフォルトの名は出さなかった。なぜですか?」

「セレスタン様と同じ理由ですわ」

 二人は同時に頬を緩めた。

 今更思い出したように、セレスタンは罰悪そうに言う。 

「すみません、怖い思いをさせてしまって……ランチという気分ではありませんよね――あれ、シャロンさん?」

 軽くスカートの裾を払い、シャロンはすでに歩きだそうとしている。

「あら、どうかされましたか。せっかくご予約して頂いているのに、お店に遅れてしまってはいけませんわ」

「え、あ。いや、でも」

「エスコートして下さるのでしょう?」

「それは――」

 やはり不思議な女性だ。だが、どこか惹かれるものがある。心中でそんなことを思いながら、セレスタンは眼鏡を押し上げた。

「ええ、もちろんです」

 

 

      ☆   ☆   ☆ 

 

 

 

 

 

《散る散ると満ちる》

 

 ――なんだか最近物足りない。

 ケネスはアノール川に釣り糸を垂らしながら、取り留めもなくそんなことを思う。

 好きな釣りをしていても、大物を釣り上げても、以前ほどの昂揚感がないというか、どうにも心が満たされないのだ。

 虚ろに釣り糸を垂らしているせいなのか、今日は一匹も当たりがこない。

 となりのリィンに視線を移してみる。彼も少し前に釣りにやってきたのだが、自分と同じく生簀のバケツは空のままだった。

「うーん、今日はダメだね」

「まあ、そんな日もあるさ」

 たわいもない会話を挟みながら、一時間ほど経った頃、

「もう切り上げるか?」

 あきらめ半分でリィンが言った。

「そうしようかな……あれ?」

 応じかけた時、水面に揺れる浮きが波紋を拡げ、ぐいと釣糸が強く引っ張られる。

「あ、僕の餌にかかったみたいだ」

 浮き沈みする魚影を見るに、かなりの大物だ。ここからはいつもの勝負である。

 巧みに緩急をつけながら竿を操って魚の体力を削り、わずかな隙をついて少しずつリールを巻いていく。

 幾度と押し引きを繰り返し、ようやく釣り上げに成功した。黒光りする立派なトラードだった。活きもいい。水面から上がり、糸を手繰りよせている間も激しく暴れまわっている。

「すごいじゃないか、ケネス」

「はは、やったよ」

 嬉しい。楽しい。……はずなのに。やっぱり何か物足りない。

 口から釣り針を外し、バケツに移そうとした時だった。ぐんとその身をしならせ、トラードが激しく跳ね上がる。

 全身をバネにした尾ひれの一撃が、ケネスの頬を強烈に打ち据えた。

「ぶっ!?」

 鋭い痛みが後頭部まで突き抜ける。同時、何かが彼を満たしていった。

「あ、ああ……」

 弾ける昂揚感。駆け抜ける全能感。全身の力が抜け落ちるのを感じながら、ケネスは膝からくずおれる。

「ケネス、大丈夫か!?」

「あ、あ」

 リィンが心配そうに寄ってきて、ケネスの傍らにかがみ込む。

 びっちびっち跳ね回るトラードに対して、ケネスは放心状態でこう言った。

「……ありがとうございます」 

 

 

     ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

《アンゼの日記》

 

 それを見つけたのは偶然だった。

「なんだこりゃあ?」

 ただ、それを手にしたのがクロウだったのは必然と言えるのかもしれない。

 技術棟。乱雑に機材が置かれた一角。そこに小さな小箱を見つけた。木製のちょっとした装飾のついた小綺麗な箱。

 開けてみると、一冊のノートが入っていた。裏を向けるとアンゼリカ・ログナーと記名されている。

「ゼリカの講義ノート? 持って行き忘れたのか」

 興味本位からページをめくると、月日の後に短い文章の羅列。これは日記だ。

 アンゼリカが日記をつけているとは意外だったが、それを個人のプライバシーとして黙って元の場所に直すほど、クロウは殊勝な性格ではなかった。

「くく、ゼリカの日記か。さして興味はねえが、ちっとばかしのぞいてみるか」

 アンゼリカはもう学院にいない。落とし主不明のノートの中身を見たところで、一体誰に責められよう。

「どれどれ……」

 意気揚々とページをめくる。

『三月三一日。春の訪れと共に新一年生が入学してくる。その中には見知った顔、アリサ君の姿もあった。声をかけようとしたところで強い風が吹く。咲き誇るライノの花のように純白だった』

……純白?

『六月一五日。この頃は雨が降り、陰鬱とした空模様が続いている。エマ君が書籍の束を抱えて廊下を歩いていた。手伝いを申し出ようとした所で、彼女は足元を滑らせる。吸い込まれるような漆黒だった』

 ……まさか、これは。ページをめくる手つきが早くなり、次第に鼻息が荒くなる。

「間違いねえ。ゼリカのやつ最高のものを残していきやがった……!」

 それは女子達に知られたら有害図書認定の上、焼却処分は必死のアンゼリカの桃色日記。だが、知られなければ天上へと続く自分だけの夢色日記。

 歪んだ笑みを顔に張り付けて、さらにさらにと読み進めていく。一年、二年問わずあらゆる女子が網羅されていた。

『七月八日。一年の双子姉妹を発見する。《ル・サージュ》の試着室の一つに、二人仲良く収まって服を選んだりしていたので、うっかりを装い突入する。可愛らしい悲鳴があがった。色は二人とも髪と同じ薄ピンク。これが双子のシンパシーというやつだろうか』

 まだ続く。

『八月二八日。寮への帰り、ふらりと練武場に寄った。さしたる用事はなかったが、何はともあれ更衣室に突入する。女神のいたずらか、ちょうどフリーデル君が着替えていた。意外と可愛らしいものをお召しになっている。似合うじゃないかと褒めたのに、彼女はサーベルを片手に襲い掛かってきた。さすがの手並みに自慢のバイクスーツが穴だらけにされてしまう。かろうじて全てかわすことはできたが、私を追い回す最中、終始笑顔なのがちょっと怖かった』

 最後のページを開く。余白はまだ残っていたが、日付はこの日――十月二日で止まっていた。

「これはルーレ実習の後のことか」

 つまり、もう退学が決まっている時期である。

 思う所もあるが、クロウはその日記に目を通してみた。

『この日記をつけるのも今日が最後だと思う。一年半以上を過ごした学院での日々は、これ以上ない満たされた毎日だった。気のいい仲間達にも出会い、悪友と呼べる友人もできた。やり残したことはいくつかあるが、自分の選択に後悔はない』

「はは、悪友って誰のことだよ」

 少し真面目な顔になって、続きを読んでみる。

『そこで最後はとっておきの女性の秘密を書き記そうと思う。ガードが固く、中々それを確認することが叶わなかったが、今回ついに私はその偉業を成し遂げることができた』

「お……おお!?」

 まさかの急展開。文章上を走る目線が、速度を増した。

『ただ美しいの一語だった。目を奪われると表現すべきか。清純ながら攻めのあるフォルム。楚々としながらもエッジの効いたデザイン。ところどころの装飾はまるで散りばめられた宝石のようだった。ああ、至高と呼べよう。あの――』

 だれだ。ゼリカのことだし、やはりトワか。教官ならメアリーが有力候補か。サラは……別にいい。そうか、分かった。シャロンだ。シャロンに違いない。

 そして日記は告げた。

『薔薇が咲き乱れる、マルガリータ君のパンツは』

「ゼリカアアーッ!!」

 喉が裂けんばかりの大絶叫が、技術棟を激しく揺らした。そのまま膝を付き、クロウは力なく倒れ込む。反転する視界。急速に遠退く意識。口中に広がる鉄の味。

 痙攣する指の先――日記の最後の一文にはこう付け加えられていた。

 

 ――堪能してくれたかな? 私の大切な悪友君――

 

 

     ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 『そんなトリスタの日常』 ~FIN

 

 

 




最後までお付き合い頂きありがとうございます。

今回はショートスタイル詰め合わせということで、日常のワンシーンを切り取った形となっております。ショートはやはり書くのが楽しいですね。

トリスタと言いながら、一つレグラムも混じっていますが、それはご愛嬌ということで――。

各タイトルは悩まずに直感で決めて、以降の修正はしていません。だからですね。『散る散ると満ちる』ってなんじゃそりゃ。幸せの青い鳥は見つかりそうもないですね。クロチルダさんのグリアノスは幸せを運ぶ感じじゃないしなあ。

さて、次回予告ですが――いよいよ次が最終話となります。ラストタイトルは、

『Trails of Red and White』

最後までお楽しみ頂ければ幸いです。

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