ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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 久しぶりの更新。読者は私のことを覚えているだろうか?
 というわけで今回はついにあのキャラが登場! というか書きたいシーンが長げえ!


英雄

 夜明け前の朝。まだ太陽が完全に昇っていない時間帯。寝静まった我が家の玄関の扉を開く。着込むのはジャージで、運動靴の靴紐をしっかりと結ぶ。そして軽くストレッチ。

 

 さて、それじゃ――――

 

「行くか」

 

 俺は日課の早朝ランニングを開始した。

 

 夏とはいえ朝は少しだけ気温が下がるため、中々快適な環境だ。それに夏休みのためか、俺以外にも走ったり歩いている人影をチラチラと見かけることもある。それでも、俺のような年齢でランニングしているような物好きなヤツはいないが。

 

 走るという作業は中々苦行だ。元々身体を動かすことは好きだが、ランニングなどはほとんど自身との勝負のようなものだ。自分の限界を把握し、どれだけ自分を痛みつけ、自分の弱さを捨てられるか。俺はランニングは筋トレというよりも精神力を鍛えるものだと認識している。

 

 だが、辛いことばかりかといわれればそうでもない。自分はここまで自分の足で来たのだという達成感があるし、何より余計なことを考えなくて済む。走っている最中は頭を空っぽにして、ただ自己に没頭する存在でいられるからだ。

 

 前へ前へ、と身体を動かしながら、ふと思う。

 

 やはり、何かがおかしい。

 

 身体が軽い。息が切れない。疲れをあまり感じない。幾らでも走れそうだと錯覚する。前までは折り返し地点にくれば息が荒れ、汗をかいていたというのに今ではほとんど疲れを感じない。

 

 これが努力の成果かと考えれば、おそらく違うだろう。ほんの数日で身体能力が上昇するほど世界は甘くできていない。

 

 ならば何故か。おそらく……

 

「……あの日、か」

 

 姫島家の惨劇。あの日、自分の平穏は終わりを告げた。おそらく全ての答えはあの日にある。

 

 あの日、俺の何かが壊れ、何かが目覚めた。

 

 あの時のことはよく分からない。怒りで暴走した、などという陳腐な話ではないだろう。餓鬼一人がキレた程度で大人数人を殺せるはずがない。あれはそんな戯言ではなかった。

 

 まるで自分の身体ではなかったような感覚。全身を駆け巡る悪寒にも似た高揚。あの時の俺は、まるで一人称のテレビ画面でも見ているような感覚だった。そしてその内容は現実味のない無双系。人間が塵のように簡単に殺されていく。

 

 いや、正確に言うならば殺していく、か。それを行っていたのは自分なのだから。

 

 今でも覚えている。肉を斬り裂く感触を、血の匂いを、頭蓋を砕く感覚も、その総てを覚えている。忘れられるはずがない。

 

 だからこそ、疑問に思う。

 

 ――――あれは、本当に自分がしたことだったのか?

 

 責任転換ではない。あれは紛れもなく俺のしたことで、それを誰かに押し付けるつもりはない。けれど、あの時の自分は異常だった。

 

 まるで、何者かに操られていたような――――

 

「……いや、考えるだけ無駄か」

 

 とりあえず、これからの事について考えるとしよう。まずは走る距離を増やしてみるか、などと思考しながら俺は帰宅するのであった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 姫島家の出来事以来、俺はもっと強くなりたいと思うようになった。俺は弱い。今のままでは自分の身一つすら守ることも難しいだろう。こんな様ではオーフィスの居場所になるなど戯言でしかない。

 

 強くなりたい。しかし、俺など所詮ただの餓鬼だ。強くなる方法などスポーツ選手が行うトレーニング程度しか知らない。格闘技でも習おうかと少し悩んだが、たかが数年鍛えただけで何百年も生きてきた神話の生き物たちに太刀打ちできるとは到底思えない。

 

 なので。

 

「なあオーフィス。強くなるためにはどうしたら良いと思う?」

 

 帰宅後。シャワーで汗を流した後、何故か俺の部屋に既にいたオーフィスに尋ねることにした。

 

 オーフィスは俺のベッドに腰掛けて足をブラブラさせながら、きょとんとした目でこちらを眺めている。そして僅かに首を傾げて。

 

「我、よく分からない。我、初めから強かった。だから強くなる方法、分からない」

 

「……あー、そういえばそうだったな」

 

 他の奴が言えば嫌味に聞こえるが、こいつの場合は別だ。無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)である彼女は、生まれた瞬間から強さが完結している。誕生と同時に最強となったオーフィスからすれば、強くなる方法など分からないだろう。なぜなら最初からピークなのだから。

 

「うーん、やっぱり人間らしくコツコツ努力するしかないのかな」

 

「? シキ、強くなりたい? だったらこれ飲む」

 

 オーフィスはそう云うと、指先から何やら黒い蛇らしきモノを造り出した。

 

「これは?」

 

「これ、力を増幅させるタイプの『蛇』。これを飲めば、シキ、強くなる」

 

 ずいっと指先の黒い蛇を俺の口許に寄せてくるオーフィス。もしオーフィスの話が本当ならば、きっとそれを飲んだだけで強くなれるのだろう。

 

 だけど。

 

「……いや、やめておく」

 

「何故? シキ、強くなりたいはず」

 

「ああ、強くなりたいさ。けど……」

 

 他人に摩訶不思議な力を恵んでもらって、それで自分は強いて素晴らしい。自分は誰にも負けない、己が最強だ――――

 

「――――それは、違うだろ」

 

 何のリスクも努力もなく。餌のように与えられた力で強くなんてなりたくない。そんな簡単に手に入る力は、塵だと思うから。

 

 強さとはもっと別のものだと思う。俺は餓鬼だからうまく云えないが、そうであって欲しいというのは俺の我が儘なのだろうか。

 

「シキ?」

 

「え? ああ、悪い。とにかく、それは受け取れない。御免な、オーフィス」

 

「……そう」

 

 少し目を伏せながら指先の蛇を消すオーフィス。心なしか指先の黒い蛇がしゅんと項垂れているように見えたのは俺の錯覚だろうか。

 

「うーん、ならどうするか……」

 

 これからの鍛錬について良い案が浮かばず悩んでいると、ふとオーフィスは顔を上げた。その眼には強い意志が感じられた。

 

「なら、我がシキを強くする」

 

「……は?」

 

 えっと、それはどういう意味で?

 

「シキ、強くなりたい。だから我、直接シキを鍛える。どうすればいいのか良く分からないけど、頑張る」

 

「……ちなみにどんな特訓を?」

 

「……我の攻撃を気合いで耐える?」

 

「いや死ぬから! 気合い以前に物理的ダメージで肉体が崩壊するからな!?」

 

「大丈夫、シキならたぶん耐えられる」

 

 いや、その期待には応えてあげたいけど絶対無理。というかオーフィスは何を根拠にそう思ったのか。

 

 気持ちはありがたいが、オーフィスと俺では実力の差が激しすぎる。オーフィスが俺を鍛えるというのは、ライオンがネズミに狩りを教えるのと同じだ。実力が違いすぎる故に、その内容を理解することが出来ない。

 

 だから今回は悪いけど止めて貰おう。そう思ったのだが……

 

「我、シキの力になりたい。……ダメ?」

 

「――――」

 

 そんな、不安そうな上目遣いで言われたら――――断れないだろうが。

 

「オーフィス、おまえ実は狙ってやってるんじゃないだろうな……?」

 

「? なにを?」

 

「いや、何でもない。おまえがそんな計算高いヤツなわけないか」

 

 きっとこの仕草も天然なのだろう。将来が恐ろしい少女である。といっても成長しないのだが。

 

 俺はやれやれと溜息を吐いて、自分の馬鹿さ加減に笑ってしまう。

 

 ああ――――本当に――――

 

「分かった。いいよ」

 

「え?」

 

「特訓。鍛えてくれるんだろ? 頼りにしてるぜ、コーチ」

 

「……ん。シキ、我に任せる。シキ、きっと強くする」

 

 こいつが笑ってくれるなら、それでもいいかと思ってしまう自分が要るのだから。

 

 本当に、救えない。

 

「まあ、少し加減してくれえると在り難いんだけどな」

 

 死なないとは思うが、重症になるぐらいの覚悟はしておいた方がいいかもしれない。そう考えていると、オーフィスはこちらを見上げると口許に笑みを浮かべ、

 

「大丈夫。我、回復させるタイプの『蛇』も作れる。瀕死の状態でも復活できる。だからシキ、心配しなくていい」

 

「……それはつまり、俺を何度も瀕死の状態に追い込むって言いたいのか?」

 

 前言撤回。もしかしたら俺は今日死ぬかもしれない。

 

 そしてそれから数分後。俺はイッセーたちに今日は用事が出来て遊べないという事を述べた置き紙を爆睡中だったイッセーの机の上に置き、動きやすいジャージに再び着替えるとリビングに降りてきた。

 

「シキ、準備はいい?」

 

「ああ、問題ない。じゃあ行くか」

 

「ん、了解」

 

 オーフィスは頷くと前方の虚空に手を伸ばし――――空間を引き裂いた。

 

「これ、通って移動する」

 

「……おまえは隙間妖怪か何かか」

 

 思わず天を仰ぎたくなる。そんな簡単に次元の裂け目を開くな。心臓に悪い。

 

「シキ、早く行く。時間が勿体ない」

 

「あーはいはい、分かったよ」

 

 半ばやけくそになりながら次元の隙間に潜り込むオーフィスの後を追う。俺の背丈ほどに開かれた裂け目を潜り、何もない空間へ一歩足を踏み込む。

 

 瞬間――――途方もない悪寒と共に俺の身体が硬直した。

 

「――――ッ、――――ァ」

 

 声が、出ない。身体の自由が指一本効かない。なのに身体の震えが止まらない。

 

 何が起こったのか皆目見当がつかない。だが、五感ではない感覚器官が直感的にあることを理解させていた。

 

 ――――見られている。

 

 何かがこちらを見ている。面白げに、愉快そうに、まるで観察対象をケース越しから眺めるように。何もなく誰もいないはずの次元の狭間で視線を感じる。

 

 いや、本当にそうなのか。この視線の主は本当に次元の狭間に要るのか。視線を感じるが、その視線には何処かズレを覚える。

 

 まるでフィルターを通して見られているような――――

 

 そう考えていると、異変が生じた。

 

 ズブリ――――と身体が虚空に沈んでいく。

 

「――――ァ!!」

 

 声にならない悲鳴が口から零れた。ズルズルと足元から見えない何かに引き摺りこまれていく。まるで水中に沈むように空中に波紋が伝わっていく。

 

 必死に抵抗しようとするが、身体の自由が効かない。次第に腰、胸、肩とみるみるうちに沈んでいく。

 

 途方もしれない悪寒が俺を呑み込んでいく。けれど、俺にそれを対処する手段はない。やがて、俺の身体は全身沈んでいき――――

 

「シキ――――!?」

 

 その直前。おそらく追ってこない俺に異変を感じて戻ってきたオーフィスが慌てて沈んでいく俺の手を掴もうとしたが、些か遅すぎた。指が触れ合う直前、俺の身体は完全に虚空に沈んでしまった。

 

 堕ちていく。

 

 暗い昏い闇の底。俺の意識と共に沈んでいった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

『――――ほう。これは珍しい』

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 目が覚めると、そこはジャングルだった。

 

「……は?」

 

 我ながら間抜けな声が口から零れる。だが無理もないだろう。目を開いたらいきなり見たことがない樹海の景色だったら誰だって驚くはずだ。

 

 俺は混乱しつつも起き上がって服に付いた砂を払い、周囲を見渡す。辺り一面見事なほど樹木しかない。

 

 とりあえず、まずは状況を整理する。俺はつい先程までオーフィスと居て、特訓を受けるために次元の狭間に入り、そこでどういうことか次元の狭間に沈んでしまった。

 

「つまり……ここは次元の狭間の何処かか? それとも流れついた異界? 或いは平行世界(パラレルワールド)……はないよな、流石に」

 

 自分の推測に何だか現実味を感じて少々不安になる。大丈夫だよな? 流石にそれではないことを祈ろう。

 

しかし、この状況をどうするべきか。おそらくオーフィスが探してくれていると思うが、暫く時間が掛かるだろう。それまでの間どうやって過ごすか。周囲を見渡しながら、ふと思った感想を呟く。

 

「しかしあれだな。こういう景色を眺めていると恐竜とかが出てくる映画を思い出すな」

 

 所詮今までジャングルなどを見たことがない者が考えることなどその程度のものだ。専門家ならばもう少しマシな感想を言えると思うが、素人の俺ではこの程度が限界だ。

 

「とりあえず水場の辺りまで移動しよう。もしかしたらオーフィスが来るまで一日以上掛かるかもしれないし、水は必須だしな」

 

 おぼろげなサバイバル知識を思い出しながら周囲を注意深く観察する。が、専門知識のない俺には何処に水場があるなど分からず、どうやら己の足で探さなければならないようだ。

 

「ったく、特訓の予定がとんでもないことになりそうだ」

 

 やれやれと溜息を吐いて行動を開始する。と、その時。

 

 

 

『グルルルルルゥゥゥゥゥ…………ッッ!!』

 

 

 

「…………」

 

 声が聞こえた。それも人間の声じゃなくて、獣が放つ唸り声のような声。しかもその音はすぐ傍の背後から聞こえる気がする。

 

 駄目だ、これはヤバい。具体的に言えば蛇に睨まれた蛙のような感覚。冷や汗が止まらず、生存本能が危険を伝えてくる。

 

 幻聴であってくれ、と儚き夢を望みながら刺激を与えないように恐る恐る振り返り――――絶句。

 

 鋼より頑丈そうな鱗。大木なども簡単に引き裂いてしまいそうな爪。一撃で総てを噛み砕く牙。俺より何倍ものある胴体。それよりも大きく羽ばたく翼。

 

 それは古来より語り継がれてきた最強の種族。古今東西畏れとして祀られてきた伝説の生き物。

 

 

 

 ――――完全無欠のドラゴンがそこにいた。

 

 

 

「………………………………………………………………………………は?」

 

 いや、ちょっと待て。確かに危険な生き物が背後にいるという予想はあった。しかしそれはライオンとか豹などかと思って、いやドラゴンが存在するのは知っていたけど、というか何で幻想種がこんなところにってそういえばここは次元の狭間だった――――!

 

 思考停止。そのドラゴンと対峙したとき、俺は完全にパニックに陥っていた。あまりに予想外の存在との対面に現状の思考を放棄し、ただ茫然と眺めていることしか出来なかった。

 

 そして、それはドラゴンにとって余りにも大きすぎる隙だった。

 

『グルルルルルウウウァァァァァァ――――ッッ!!』

 

「! しまっ――――」

 

 気づいた時には遅すぎた。ドラゴンは咆哮を放ちながら咢を開いて突進してくる。ギラギラと鋭い牙。噛まれなどすれば俺の身体などひとたまりもないだろう。だが、今からでは回避は間に合わない。

 

 迫りくる咢。回避不可能なそれが俺の目前に迫り、

 

 

 

「――――ああ。それは困るな。ここで死なれるのはマズい」

 

 

 

 刹那。天からの一撃が、ドラゴンの身体を貫いた。

 

「なぁ――――!?」

 

 直接当たってもいない俺すらも三メートル近く吹き飛ばすほどの衝撃。まるで隕石を連想させる衝突音に聴覚が一瞬イカれて、地面に叩きつけられ、無様に転がったせいで平衡器官まで狂ってしまう。

 

「ごほっ、がはっ…………い、一体なにが起きた………?」

 

 肺に酸素を送りながら、ゆっくりと立ち上がる。衝突してきた何かの破壊力が凄まじすぎたためか、周囲には土煙が蔓延して視界が悪い。

 

 その中で、ある匂いだけは分かった。最近嗅いだばかりの強烈な匂い。錆びた鉄のような生臭い香り。

 

 血の――――匂い。

 

「ふむ、こんなものか。少々もの足りないが、とりあえず食料は確保だな」

 

 ふと、そんな声が土煙の中から聞こえてきた。声の主は自分と同じ歳くらいだろうか。だがその声は歳とは不相応に落ち着いているのが理解できる。

 

 近づいて来る足音。そのとき、ふと吹いた風が周囲の土煙のかき消していく。

 

 そこにいたのは――――

 

「さて、はじめましてと言っておこうか」

 

 黒い髪。俺と然程変わらない歳でありながら、その身から放たれる覇気は比べものにならない。基本的な漢服を着込んでいるが、彼が着ればそれすらも“王”の装飾品と化す。

 

 手にはその身丈の何倍もの大きさのドラゴンを貫く槍。黄金に輝くその槍は、龍の血に濡れながらもなお神々しい輝きを放っている。

 

 一目見て理解する。これは人間でも怪物でもない。人間でありながら怪物を滅ぼす人々の祈りの存在。

 

 

 

「俺は曹操。ただのしがない人間さ」

 

 

 

 この日。俺は英雄と出逢った。

 




 最近さぼり気味だったせいか文章のレベルが下がっている気がする。頑張らなければ。
 ちなみに曹操の回はあと二話ぐらい続く予定です。またオーフィスの出番が消える! というかいつになったらこの作品原作に入れるのだろうか! もう構成だけなら十二巻まで考えているのに!!

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