ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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あかん、久しぶりすぎてオーフィスのキャラ掴めねえ……!


エピローグ -表-

 曰く、龍の逆鱗に触れてはならない。何故なら龍とは天災であり、人智を超えた現象そのものの事を指すからである。一度龍が怒り狂えば大地は崩れ水が全てを流し尽くす。古代より災いは龍の怒りとも言われてきた。

 

 ゆえに、龍を怒らせてはならない。その怒りを鎮めるために人身御供という生贄が必要なほど龍の怒りは恐ろしいものだ。更に龍は贄の心に敏感である。だからこそ最も大切なものを捧げなければならず、つまらないものを捧げればそれこそ火に油を注ぐようなものである。

 

 つまり、怒れる龍に必要なのは誠心誠意穢れ無き思い。一欠片の打算も邪心も抱いて対峙してはならない。そう、だからこそ――

 

「許して下さいオーフィス様ぁ……!」

 

「…………ぷい」

 

 いつもより三割増しでジト目なオーフィスに対し、俺は誠心誠意土下座という最上級の謝罪をしていた。

 

 何故こんな事になったのか。話を遡れば俺がオーフィスから貰った転移型の蛇を使った為に所在地が判明してしまったからだ。オーフィスの蛇は言わば”無色の力”であるため、目的を決定して創造すれば様々な能力を宿した蛇を生み出す事が可能になる。まさにオーフィスの能力は世界一ィィいいいいいいい!! と言ったところだろう。

 

 だが、これを使う際に一つ注意しなければならない点がある。様々な能力を宿せるオーフィスの蛇だが、結局のところそれらはオーフィスの一部分という訳だ。つまり何らかの刺激が加わったり効果を発揮すればそれが元であるオーフィスに伝わってしまう。

 

 つまり、俺が何を言いたいかというと。レイナーレ達を逃がす為に転移型の蛇を発動させて自分の中に入り緊急避難用のアジトに逃げ込むと、転移型の蛇の反応に察したオーフィスが仁王立ちで腕を前で組んだまま佇んでいた。

 

 その瞬間察した――――あっ、これオーフィス間違いなく怒ってらっしゃる。

 

 だってなんかいつもより三割増しでジト目だし。というか無言のせで更に威圧感を増させて後ろからゴゴゴゴゴゴ……ッ! みたいな効果音が低く鳴り響いている幻聴まで聴こえてきているし。

 

 とりあえずそのまま体勢を土下座に移行。そして事情を説明する。先に行っていたレイナーレ達が何とも言えない微妙な表情をしていたが、こちらからすれば些細な事だ。まず何よりもオーフィスの機嫌を損ねる方が俺としては大問題だった。

 

 しかし、説明が進めば進むほどオーフィスの機嫌は更に悪化し、普段からジト目な瞳が更に目蓋が下がっていく。何故かその眼で見られると非常に背筋に悪寒が奔ってしかたないんだが。

 

 そして説明を終え、オーフィスの反応を伺うと、

 

「……シキなんて、もう知らない」

 

 ――――オーフィスが拗ねた。

 

 ぷいっと顏を曲げてこちらを見ようともしない。その様子に背筋に冷や汗がだらだらと流れる。今まで何度か怒られた事は在ったが、ここまで怒っているのは初めて見た。というか冷静に解説している場合じゃねえ。

 

「あ、あのオーフィスさん? 今までこの事を黙っていたのは俺が悪かったけど、出来ればそろそろ機嫌直して欲しいなぁ~……なんて」

 

「…………つーん」

 

 お、オーフィスゥゥううううううううう……!

 

 幾ら謝っても取り付く隙もない。こうなったら誰でもいいので何か起死回生のアイディアを貰えないかと藁にもすがりつく思いでレイナーレ達の方を見て、

 

『おっしゃあああああ!! 第一回! チキチキ! ようやく死にやがったかコカビエルの死と皆の無事を祝うパーティーの開催っスゥゥうううう――――ッ!!』

 

『『うおおおおおおおおお――――ッ!!』』

 

『お、おぉー……』

 

 ――――何か、パーティーを開いていやがった。

 

 いやちょっと待ておまえら。此処に最も貢献した奴を放置して祝うってどういうことだ。というかその机に広げられたお菓子や手に持ってるジュースは俺がイッセー達にバレないようにアジトに隠しておいた高級品なんだけど。持ち主の了承も得ず勝手に開けるとかどういう了見だおいっ。

 

「……やっぱりシキ、我の事より彼女たちの方が大事?」

 

「い、いや違うからな!? そんな事は思ってないぞッ!」

 

 一瞬意識が逸れていただけで感付かれた。これが無限の龍神の恐ろしさという訳か……! だが、果たしてどうすればいいだろうか。謝罪で許されるとは到底思えない。ならば仕方ない。言葉で伝えるというのが困難ならば行動で示すしか無い。俺が如何にオーフィスの事を大切に思っているかを!

 

 ――――そうだ、腹を切ろう。

 

「ってあなたは何自分にナイフ突き立てようとしてるのよ!?」

 

「ええい、離せレイナーレ! もうオーフィスに謝罪する方法はこれしかないんだ!」

 

 切腹しようと上半身だけを起こしナイフを腹に突き立てると、先ほどからチラチラと此方の様子を伺っていたレイナーレが慌てて俺の身体を背後から抱きついて雁字搦めにしてきた。何やら背中に柔らかいモノが当たっているがそんな事より今は腕を押さえつけられて切腹できない方が余程問題である。

 

 と、俺とレイナーレが騒いでいるとオーフィスは俺の傍まで近づくと座り込み、

 

「駄目」

 

 そう告げて、俺からナイフを奪い取るとそのまま頭をコツンと俺の胸元に当ててきた。

 

「シキ、切腹なんてしちゃ駄目。我、許すからしちゃ駄目」

 

「お、おぅ……?」

 

 オーフィスの突然の反応に驚いて身体が硬直し胸に踞るオーフィスの頭を凝視するが、俯いているためオーフィスが今どんな表情を浮かべているのか見えない。だが、ポツリとぎりぎり聞こえる程度の声量でオーフィスは呟いた。

 

「我、心配した。シキ、いつも一人でしようとする。我に何も言ってくれない。我、そんなに頼りない? 我、シキの力になりたい。でも、何より――――」

 

 ふと、踞っていたオーフィスの顏が上がる。その時見えた表情は何処か不安そうに見えて、服を掴む手に力が籠もる。

 

 

 

「我――――シキが傷つくトコ、見たくない」

 

 

 

 その言葉に思わず息を呑む。もし、もしも俺がオーフィスの立場だったらどうするだろうか。オーフィスが自分の知らないところで傷ついて、それを自分だけは知らずのうのうと笑っていたら。そんな自分を後でどれほど責めるだろうか。どれほど憎むだろうか。

 

「……ごめん。本当にごめんな、オーフィス」

 

「ん。我、許す」

 

 謝りながら頭を撫でると、オーフィスは猫のように目を細目ながら受け入れていた。その微笑ましい様子に微笑しながらふと思う。

 

 ああ、やっぱり俺は強くなりたい。もっと強く、強く、強く、俺なら大丈夫なんだと。誰にも負けるはずがないと信じられるくらい強く。彼女が少しでも悲しまないで済むように。

 

 だけど今だけは、その心配がとても心地良かった。

 

「でもシキ、どうしてコカビエルと戦った? シキ、普段なら面倒がって戦わないはず。どうして?」

 

「どうしてって……そりゃあ、あいつらの事が好きだからな。大事な奴等だから失いたくなかったんだよ」

 

「――――ファッ!?」

 

 突然背後から奇声が。視線を向ければ何故か顏を赤くしているレイナーレの姿が。いったい何だと言うんだ、というかおまえはいつまで抱きついてるつもりだ。

 

「……この天然たらし。そういう台詞は誰にでも言っていいもんじゃないでしょ……」

 

「はぁ? 何言ってんだおまえ。それに誰にでも言うわけないだろ、気に入った奴しか言わねえよ」

 

「…………」

 

 なぜ更に顏が赤くなる。

 

「…………えいえいえい」

 

「うん? いきなりそんな胸元に頭をグリグリ押し付けてきてどうしたオーフィス」

 

「なんか我、無性に腹が立った」

 

 いや、わけ分かんねえし。

 

 顏を真っ赤に染めて俯くレイナーレ、俺の胸元に頭を擦りつけてくるオーフィスに正座したままされるがままの俺と非常に混沌(カオス)な現場の中、顏を茹蛸のように真っ赤になりながら千鳥足でミッテルトがこの状況に突撃してきた。というか酒臭えんだけど。

 

「な~にアンタらだけでラブコメやってんスかー! ウチも混ぜろっスゥゥ――――!!」

 

「いや、ラブコメなんてしてねえし。というか酒なんか何処から持ってきた。ここにそんなものは置いてなかっただろ?」

 

「酒? な~に言ってんスか信貴―。これはジュースっスよジュース! そんな事も分からないんスか馬鹿っスねぎゃははははははは!!」

 

 俺の肩をバシバシと爆笑しながら叩いてくるミッテルトに苛立ちつつも、恐らく諸悪の根源たる二人の方を観る。見れば二人共やけにドヤ顏で親指を上に突き立てながらサムズアップしている。

 

「こんな事もあろうかと、事前に教会から数本盗んでおいたのだよ。まま全て無事ではなく残り三本にまで減ってしまったがね!」

 

「ミッテルトにはジュースと言ったら簡単に信じましたよ。と言ってもほとんどアルコール入ってないんですけどね!」

 

「よし、もうおまえら黙ってろ」

 

 駄目だこの堕天使達、早くなんとかしないと……! 思わず頭を抱えて天井を見上げていると、ミッテルトはオーフィスの前に座り込むやいなや酒が入った瓶とコップを付きだして、

 

「おら、新人。先輩に注ぐのは常識だろうが。さっさと注ぐっスよ」

 

「……? これ、注げばいい?」

 

 オーフィスは純粋無垢なため言われた事に特に疑問を持つこともなくミッテルトから受け取った瓶を傾けコップに酒を注いでいく。無限の龍神(さいきょう)下級堕天使(ザコ)に注いでいる……客観的に見れば何とも凄い絵面である。

 

「ごく、ごく、ごく……ぷはぁ~! やっぱり後輩に注がせたジュースは美味いっス! ところでアンタは何て言うんスか? 信貴の関係者だと思うんですけど」

 

「我、オーフィス」

 

「フンフン、オーフィスって言うんスか。……ん? オーフィスって何処かで聞いた気が……」

 

 首を傾げて悩むミッテルトに助け船を出してやる。決して言った反応が見たいからではない。断じてない。

 

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)

 

「ほぇ?」

 

「だから、こいつの正体。無限の龍神、オーフィス。この世界で最も強いと言われているドラゴンだよ」

 

「我、最強じゃない。グレートレッドの方が強い」

 

 オーフィスが訂正していたが、もうミッテルトの耳には入っていないだろう。予想通り、赤く染まっていた顏が血の気が引いて真っ青に染まった。まあ普通新人だと思っていたのが最強のドラゴンでしたなんて言われたら誰でもそうなるわな。

 

「う、うううううろろろろろろろぼぼぼぼぼぼ……!!」

 

 しばらく壊れたスピーカーのように奇声を上げていたが、やがて正気を取り戻したのかすぐさま新しいコップをオーフィスに持たせると、

 

「ぐへへへへ……ささ、どうぞオーフィス様。まずは一杯…………」

 

「こいつ露骨に手のひらを返しやがったぞ」

 

「まあミッテルトの座右の銘が長いものには巻かれろですからね」

 

「シャラップ! 煩いっスよそこぉ! というかそういうことは事前に教えてくれっスよ信貴! あーもう、何でこういうときにあの馬鹿フリードはいねえんスか!?」

 

 うがー! と頭を掻き毟りながら叫ぶミッテルトだったが、そこには同意する。転移で離れられたのはあの時俺の傍にいたものだけだ。フリードは一人だけ入り口の所にいたため転移させることが出来なかった。まああいつなら何の問題もなく脱出していると思うので心配はしていない。一応無事かどうか確認するメールを打っておいたが、未だに返信が来ない。

 

「…………ん?」

 

 と、ちょうどその時。携帯が振動し着信を伝える。ポケットから取り出し宛先を確認すると、まるでタイミングを狙ったかのようにフリードからの返信だった。そこに書かれていたのは、シンプルな一言。

 

『悪いな。用事が入っちまったからオレは抜けさせて貰うわ。また縁が合ったら逢おうや』

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「――――つーわけで、|閃光と暗黒の龍絶剣《ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード》総督の予想通りコカビエルの野郎が戦争を企んでいたって伝えといてくれや。つっても? 死んじまったし頭は悪魔達に差し出しちまったから身体しかねえけどな」

 

 駒王町から少し離れた夜道。フリード・セルゼンは普段と何食わぬ顔で携帯を耳に当てながら歩いていた。携帯から聞こえてくる声には少々の羨望と大きな呆れの混ざった声音。

 

『――――、――――』

 

「あぁ? 私も行きたかったっておまえ、エクソシストじゃねえ以前に悪魔だろうがおまえ。そんな奴がノコノコ行っても良くて門前払い、下手すりゃ戦闘モノだろ」

 

『――――、――――』

 

「あーはいはい。妹の顏が見たかったのは分かったから仙術使ってまで来んなや。第一これはじゃんけんで決めたんだろうが。文句言うならあん時勝てなかった自分を恨むこったな」

 

『――――、――――』

 

「ハッ、猿と戦闘狂が絡んできてウザいって知るかよ、オレに愚痴ってんじゃねえ。まあ気持ちは分かんねえでもねえがな。オレも最近剣狂いに付き纏われて鬱陶しかったし。ああそうそう、ヴァーリにコカビエルの身体を回収するよう伝えといてくれよ。オレ持ってくの面倒だし」

 

『――――、――――』

 

「へいへい、貸し一ね。じゃあオレからも一つどびっきりの情報教えてやるよ。――――おまえの王子様に会ったぜ?」

 

『――――!? ――――!!』

 

「ははははは! 分かったからんな耳元に叫ぶなっての。じゃあまた後でなー」

 

 何やら騒いでいたがそれを無視して電話を切る。音が無くなり静寂が包み込み、夜の風だけが鳴り響く。フリードは一度嘆息すると、駒王町が見える方向へ向き直った。

 

「…………」

 

 あの時、フリードだけは気づいていた。まるで聖剣が呼応するかのように、兵藤信貴が新たな力に目覚めたのを。それも尋常ではなく、恐らく今の兵藤信貴と戦えばフリードは間違いなく敗北するだろうという確信が持てるほどの力。

 

「……まあ、今はな(・・・)

 

 先に進まれたなら、今度は追い越してやればいい。オレに勝てるのはあいつだけ。そしてオレはあいつに勝つ。青二才臭い戯言だが、それをフリードは信じていた。それはある種同類と認めたがゆえの負けず嫌いというべきか。

 

 そのためには、己も”力”を手にしなければならない。

 

「――――あ、もしもしオレだよオレ。例の話だけどよ、受けてみようと思うんだわ。つーわけでどっかで会えねえ?」

 

 昔渡されたメモ書きを見て電話し、出た相手に馴れ馴れしく話しかける。しかしその対応も相手からすれば当たり前だったのか、その返答にフリードは笑みを深めた。

 

「了―解。じゃあそっちに向かってやるよ――――バルパーのじいさん(・・・・・・・・・)

 




次回、ついに彼らが動き出す。

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