ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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他の人の作品「へぇ~、この作品も40まで行ったか~(五巻辺り)」

自分の作品「40なのにまだ一巻が終わってない……だと……!?」

スローペースで本当に済みません。


決着

 ――力とは何だろう。

 

 兵藤一誠にとって力とは、”憧れ”そのものだった。力が在るから強い。強いから力が在る。力が無ければ何も出来ない。何かを成し得るにはそれ相応の力が必要。だからこそ力が欲しいと思った。何も出来ない弱い自分だからこそ、何でも出来る”兄”のように成りたくて、力が在れば成れると思っていた。

 

 だが、と。全てが白に包まれ、何もかも存在しないただ”白”だけが在る視界の中、左腕を前へ突き出した構えのまま兵藤一誠はまるで時が止まってしまったように停止した思考でふと思う。

 

 ――力とは、本当にそんな物なのか?

 

 レイナーレの言葉が脳裏で響く。”信念なき力は暴力に過ぎず、力なき信念は戯言に過ぎない”と。それは事実そのもので、覆る事の無い真実なのだろう。だからこそ疑問が浮かぶ。問わずにはいられなくなる。

 

 ――本当に、力さえ手に入れば俺は強くなれるのか?

 

 何の努力もせず、何の覚悟もなく、ただ餌取りの雛のように与えられた力があればそれでいいのか? 神様に頭下げて摩訶不思議な神通力を貰って、そんな力で本当に自分は胸を張れるのか? 自分の力は凄いのだと、本当にそう思えるのだろうか?

 

 何の躊躇いも躊躇もなく、正々堂々と笑って兵藤一誠は誇れるのか――?

 

『――――力、欲しい?』

 

 白い世界に影が入り込む。それは一誠の前に佇み、腕を伸ばしながら問いかけてくる。その幼い少女の姿をした影は何処か見覚えがあったが、意識がはっきりしない現状ではそれを思い出すには至らなかった。

 

 だが、一つだけ分かる事がある。少女の手を取り、彼女を受け入れれば兵藤一誠は何者すらも凌駕し得る力を得るのだと。何の代償もなく、奇跡のように、彼は最強の力を得るだろう。

 

 だから――否、だからこそ――

 

「……違う」

 

 ぽつりと呟いて、兵藤一誠は拳を握り締めた。彼女の手ではなく、虚空を掴むように握り締める。

 

「それは違う。それは俺の力なんかじゃない」

 

『……力、欲しくない?』

 

「欲しいさ。今だって喉から手が出るほど欲しいよ」

 

 それは誰だって同じ事だろう。目前に何でも叶う物が在ったら欲しいと思うに決まっている。だけど、だからこそ兵藤一誠はその力を拒んだ。

 

「その力があればきっと俺は何でも出来るようになる。信貴に出来ない事だって出来るようになるだろうし、きっと神様の真似事のような事だって可能になるんだと思う」

 

 だけど、と今でも伸びそうになる左腕を握り締める事で必死に抑えながら、兵藤一誠は告げた。

 

「きっとその力を受け入れたら、俺は俺を信じ切れなくなる。俺自身が兵藤一誠をの力を信じることが出来なくなっちまう。だから――その力は要らない」

 

 それはガキの戯言のような言葉だった。けれど、それは兵藤一誠にとって決して譲れない”決断”だった。

 

 兵藤一誠は弱い生き物だ。決めた事を直ぐに曲げるし、辛い事よりも楽な方が良いに決まっている。歳相応に欲望に従順で、苦しい思いなんてほとんど経験せずに生きてきた定点的な凡夫だ。けれどそんな彼にも、決して破ってはならない”誓い”がある。

 

 一つは『兵藤信貴の陽だまりを護ること』。そしてもう一つ――『アーシアを護ること』。

 

 それは誰かに言われたのではない、兵藤一誠が決めた誓い。自分の魂に掛けた誓い。だからこそそれだけは絶対に他の誰かに譲るわけにはいかなかった。

 

 己が成すと誓ったのだから――己が果たさなければならないだろう。

 

 ゆえに兵藤一誠は少女の期待に背いた。彼女はいったいどんな表情を浮かべているだろうか。憤り? 落胆? 少なくとも力を貸そうと言うのにその反応ならば不満だろう。だが、顏を上げて見ればそこには在るのは予想とは違い、微笑みの表情が浮かんでいた。

 

『――やっぱり、同じ。■■と同じ答え。なら――もう大丈夫。我の力、必要ない。イッセー、戦える』

 

 それは子供を見守る母のように。少女は一歩近づくと、一誠の左腕をそっと撫でる。瞬間――まるで初めからその場に存在して在ったように、一誠の左腕な何重にも巻かれた無限大の鎖が雁字搦めに巻かれていた。

 

「なっ――」

 

 その光景に流石の一誠も絶句する。見れば鎖はところどころ内側から罅割れ、隙間から赤い何かが見え隠れしている。そして、少女の手に反応するかのように鎖は砕け、少女の身体へと取り込まれていく。

 

『――名前」』

 

「えっ……」

 

『名前、呼ぶ。今なら名前、分かるはず。解けかけていた封印が解かれた今なら、きっとイッセーでも分かる』

 

 その言葉に一誠は己の左腕を見つめる。砕けていく鎖の隙間。そこから顏を覗かせるように赤い籠手に埋め込まれた碧石が淡い光を発光させる。その輝きを見た瞬間、彼の脳裏である単語が横切った。

 

 いや、それはそもそも彼の始まりから共に在ったもの。たとえ深淵に封じられても決して千切れることのない絆で結ばれた力。

 

 その名前は――

 

「――――『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 

 それこそが正真正銘兵藤一誠のみに与えられし神器(ちから)。ゆえにその言葉は呼び水と成りてその姿を顕にさせる。

 

『Dragon booster!!』

 

 それはまさに誕生の咆哮。全ての鎖を引き千切り、赤き籠手に埋め込まれた碧石は輝きを増し――刹那、白き世界は赤き意志に塗り潰された。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 ――ゆえに、その光景を目の当たりにしたレイナーレは驚愕で言葉を失っていた。目前でその様子を瞬きもせず見ていたというのに、それでもなお信じられなかった。

 

 レイナーレが放った『鳴り響け黒き福音(ユーアンゲリオン・シュヴァルツヴァルト)』はまさしく光の砲弾。並大抵の下級悪魔ならば一変の滓も残さず消滅させる彼女にとって必殺の一撃。

 

 それを、兵藤一誠は左腕でいともたやすく受け止めていた。まるで見えない壁でもあるかのように、次元が違うようにそこから先に光は侵食しない。そして、変化はそれで止まらなかった。

 

 ――見えたのは、途方も知れない黒い蛇だった。

 

 まるで彼を守護するように、黒い蛇が一誠の身体を包み込んでいた。見ただけで理解できてしまうほどの絶対的高次元存在。レイナーレの『鳴り響け黒き福音』など気にも止めず、恐らくコカビエルでさえも赤子の手をひねるの如く瞬殺されてしまうほどの力。

 

 だからこそ、レイナーレは言葉を失った。彼がその力を得たからではなく、

 

 

 

「――――『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 

 

 

 その力を捨ててでも、兵藤一誠の神器(ちから)を選んだ事に心底驚愕していた。

 

 その力が在れば彼女など一瞬で塵芥に変えられただろうに。レイナーレどころかコカビエルを、この街すらも簡単に破壊できるほどの力だったというのに、彼が選んだのはちっぽけな力だった。

 

 確かに『赤龍帝の籠手』は神滅具の一つに選ばれるほど強力無比な神器だ。しかしそれも、先ほどの力に比べれば月とすっぽんほどの差が在る。だからこそレイナーレは兵藤一誠がなぜその力を選んだのか分からず困惑した。

 

 だが、そんな彼女の問いに答えるように、息を切らし、ボロボロに傷ついた身体でもなお闘志を燃やし続け、左腕の赤き籠手を握りしめながら告げる。

 

「いくぞ、レイナーレ――――これが、俺の護る『意志』と『力』だ」

 

 その答えに一瞬困惑し、直後理解した。それはレイナーレが兵藤一誠に問い掛けていた答え。即ちこれこそが彼の答えなのだということ。

 

 たとえ強力無比な力を与えられたとしても――――それを捨ててでも、自分の”意志”と”力”を信じるという覚悟。

 

 レイナーレが何よりも見たかった、揺るぎない意志と信念の姿。ああ、もう大丈夫。彼ならあの娘を託せられる。誰よりも優しくて、その故誰よりも傷ついてきたあの娘だけど、あなたの隣ならきっとこれまでのを帳消しに出来るほど笑えるはず。

 

 アーシア――良かったわね。あなたの英雄(ヒーロー)は――きっと、誰よりも強くてカッコイイ――私なんかが元カノじゃあ恥ずかしいくらいの――素敵な人だよ。

 

 ゆえに、ならばこそ、用済みの役者は退場しなければならないだろう。

 

「兵藤、一誠ェェええええええええええ――――ッッッ!!」

 

「レイ、ナァァレェェええええええええええ――――ッッッ!!」

 

 それ以上の言葉は不要だった。兵藤一誠の身体は光の槍に何本も貫かれた事で消滅しかけ、レイナーレも『鳴り響け黒き福音』を放った事で体内の聖なる光はほとんど使い果たし立っているだけの力しか残されていない。

 

 それでも、両者共身体を酷使し今にでも崩れそうなのも関わらず互いの名を叫びながら一直線に相手へ目掛けて全力で駆け抜ける。思いを意志に変え、意志を力に変え、明日から力を引きずり出してただ前へと互いの顏しか見ず突き進む。

 

 拳を握る。手には聖なる光を触れる箇所にのみ集中させ、地面を滑走するかのような足捌きで五歩の距離を一歩でレイナーレは兵藤一誠の目前に踏み込んでいた。『活歩』の歩法で近づかれた一誠にとってすればいきなり目の前に出現した様なもので、レイナーレにとってそれは絶妙な隙だった。

 

 中国拳法を習っていたのはミッテルトだけではない。寧ろレイナーレの方が率先して鍛錬していたほどだ。習うことは何でも習う。その信条は身体に刻み込まれており、それが解き放たれる。地震を連想させるほどの震脚、繰り出された右腕は死神の如く必殺と成りて一誠の胸板に炸裂する――

 

 ――――金剛八式・第一式、挑提馬歩捶。

 

 繰り出された衝捶はもはや死神の鎌そのものだった。直撃した胸板の肺は潰れ、発勁は衝撃と通過させ近くの内蔵を損傷させ更に胸骨を砕き、聖なる光は内側から通過することで体内の血流を逆流させて血管が爆発し複雑内出血を引き起こす。

 

 意識が反転する。とてもじゃないが耐えられる許容を超えている。吐血し、感覚が鈍くなるほど激痛が迸り、感覚が消失していく。精神だけで耐えられる範囲を超越している。

 

 死ぬ――兵藤一誠は確信する。指先一つにすら力が入らない。目蓋が重く、酷く眠い。まるで一週間以上徹夜でもしたかのような怠さ。意識が途切れる。

 

 だけど――

 

『Boost!!』

 

 前へ。

 

『Boost!!』

 

 それでも前へ。

 

 

 

『――――本当に、私なんかと友達になってくれるんですか……?』

 

 

 

 その約束を守り、これからを始めるために――

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

 

『Explosion!!』

 

 思いが火種となり、それが一気に爆発し力となって身体に宿る。強く、全ての思いを込めるように強く拳を握り締め、前に踏み込む。

 

 身体と身体が触れ合うほどの至近距離。奥歯が砕けるほど拳に力を込め、兵藤一誠は咆哮を上げながら渾身の一撃を振り下ろし――

 

 

 

 ” ――貴方がいてくれて、よかった“

 

 

 

 ふと、公園の別れ際に聞こえた言葉とは逆の意味の声が聞こえた気がして――

 

 直後、轟音が炸裂する。兵藤一誠の右手の拳がレイナーレの顔面へと突き刺さり、彼女の身体は一瞬宙を舞い、壁へと激突した。

 




ようやく出来た顔面パンチ。
本当にシーンを省略できる作者さんは凄いと思う。よく一巻を三話かそこらで終わらせられると思う。ウチなんて十数話使っても終わんないんだけど何でだ!?

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