ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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正直コカビエル戦は覚醒フラグ立てるのが大変だった。
というか原作読んでて思ったのが、あの世界の奴等基本物理で殴る系しかいねぇ(笑) 飛んで遠距離で戦っているヤツほとんどいないんですけど。


不穏

 地面を抉る勢いで蹴り抜きその反発力を利用して一気に跳躍する。直後、背後から聞こえてくる爆撃音。しかし振り返らない、そんな余裕は一瞬たりとも存在しない。なぜなら先ほど地面に衝突しクレーターを生み出した破壊力を誇る兵器がそこら中にごまんと在るのだから、一々そんな物に気にしていれば命が幾つ在っても足りるはずがない。

 

 一気に跳躍し柱や電柱に着地し3次元空間移動を駆使して移動しているが、そんなものは所詮人間技でしかない。幻想の、しかも神話に名が乗るほどの相手にそんな小細工、真正面から容赦なく蹂躙されてしまう。

 

「クハハハハ! どうした人間、先ほどまでの威勢はどうしたァ? 俺の首を取るのだろう? まあ地を這う虫けら風情である貴様ら人間如きがそんな事できるはずがないがなァ!!」

 

 苛立つ声で挑発してくるのは、夜天を支配しているかの様に宙に浮かび漆黒の翼を翻しているコカビエル。こちらの届かない安全地帯に回避しながら攻撃してくるのは、実に小賢しい。ナイフを握り締める拳に力が篭もる。

 

「そういうおまえは、人間風情に偉くビビってるじゃねえか。そんな遠くからしか攻撃できねえのかよ腰抜け。神話に名が乗っているわりには随分恥ずかしがり屋なんだな!」

 

「フハハハハ! 何を言っても今の貴様には負け犬の遠吠えにしか聞こえんよォ! 楽には殺さん。じわりじわりと誰に刃を向けたのか、その恐ろしさを骨の髄まで刻みこんでから惨たらしく殺してやろう!」

 

「チィ―――!」

 

 煽ってみるが効果は今ひとつ。この手の輩は挑発すれば面白いほど良く乗ってくれるのだが、どうやらコカビエルは怒りが限度を振り切って逆に一周回って冷静になっているらしい。

 

 そして何よりも厄介なのが、

 

「ほらほらァ、どうしたさっさと避けなければ死ぬぞォ? まあ死にたいのであればそれでもいいのだがなァ―――ッ!!」

 

コカビエルの咆哮に反応するように、彼の周囲に展開していた光の槍―――それも数十個どころではない。夜空を覆い尽くさんと百は超える光の槍が共鳴し、その内数十個が同時に様々な角度から追尾機能付きで襲い掛かってくる。先ほど遠目で確認したところ、射出された箇所の光の槍は装填し直されて既に待機済みだ。

 

 全てを駆使すれば貴様など簡単に殺せるのだと実力差を示したいのだろう。そうはしないのは、先ほど言っていたようにこちらを嬲るため。おそらく力尽きたところで命乞いでもさせて慈悲はない惨たらしく殺したいのだろう。悪趣味にも程がある。

 

「くそったれがっ!」

 

 怒声をあげてナイフを振り抜き正面の光の槍を斬り裂き、腕を振るった重心移動で背後に振り向き後方の光の槍を回し蹴る。側面を強烈に叩くことで進路を僅かに逸らし、その起点を蹴り出し側面方向に移動して回避するが、直ぐ様地上の光の槍は進路を方向し此方に向かい、天に浮かぶ光の槍が壊れた光の槍を補充して同時に襲い掛かる。

 

 ジリ貧だ。ここまで神話の堕天使が厄介とは思わなかった。これが他の英雄や怪物ならやりようがあったかもしれないが、この身は所詮人間でしかない。車に轢かれれば辺り所が悪ければ即死するし、銃に心臓を撃ちぬかれただけでも呆気無く死ぬ。そんな弱く脆い人間でしかない。

 

 ゆえに兵藤信貴にとって最も厄介な戦い方は圧倒的な力で捻じ伏せてくる戦法ではなく、有無を言わさぬ絶対的な物量で襲ってくる相手だ。幾ら一撃必殺と回避に自身が在るとはいえ、そう攻められれば回避を優先せざるを得なくなる。それこそが、ある意味兵藤信貴にとって唯一にして致命的な弱点なのだろう。

 

 一応対抗策は思い付いてある。しかしそれを実行すれば現状では蜂の巣になる未来しか予測できない。もう少し環境が違えば即断決で実行に移っていたが、今の現状では現状維持が精一杯だった。

 

 ゆえに詰んでいる。どうしようもなく絶望的状況だ。神話云々以前に相性が悪すぎた。思わず苦笑の笑みが浮かんできて―――不意に、攻撃の嵐が止んでいることに気がついた。空を見上げれば、コカビエルは訝しげに眉を寄せながら告げる。

 

「しかし解せんな。俺の攻撃をここまで躱すほどの輩がこの極東にたまたま要るとは思えん。このタイミングでの襲撃。貴様、何処の刺客だ? プライドの高いグレモリーが雇うとは思えんし、天使がこんな都合良く介入してくるはずがない。アザゼルが雇った人材ならこの俺にも情報が来るはず……もしや、あの馬鹿な小娘の差金か? だとすれば滑稽極まりないな! クク、クハハハ、ハハハハハハハ!」

 

「――――――」

 

 堕天使の哄笑が夜空に響き渡る。どうしようもなく不愉快になる声。聞いているだけで脳髄が溶けて鼓膜を破りたくなるほどの、自己愛に満ちた他人を侮辱する嘲笑。堪らなく、殺したくなる。

 

「何だァ? 股座でも開いて貰ったのか? その程度の価値しかあの女にはあるまい。何処までも落ちこぼれで救いようのない屑がおまえの様な輩を仲間に引き込むなどそれぐらいしかなかろう。クク、クハハハハ! やはり上等な堕天使の血を引いているとはいえ、半分劣等な人間の血が流れている塵だな。地を這う虫けら同士お似合いというワケだ! やはり上級堕天使に気に入られるために身体を売っていたという噂は本当だった様だなァ! 所詮屑は何処まで行っても屑だという事だな。あいつの部下達もそんな屑についていく様な連中だ、同じ屑に違いない。やはり俺の判断は正しかったようだ。俺のお陰で奴等にも至上の価値が出来た。この俺のために死ねるという名誉、誰にでも股を開くアバズレや同じ塵共にとってすればまさに天上に昇る喜びだろう! ククク、ハハハハ、ハハハハハハハハハハ―――ッ!!」

 

「―――黙れよ」

 

 声が自分の物とは思えないほど冷たい。視界が血のように赤く染まる。雑音が耳にこびり付いて離れない。憤怒を抑えようと奥歯を噛み締めるが、強く噛みすぎて奥歯が砕ける。ナイフを持つ腕が燃えていると錯覚するほど熱く無意識の内に握り締めていた。

 

 全てを奪われた少女がいた。それでも彼女は諦めることなく不屈の精神で精一杯努力して正当な実力を見出した。そんな彼女だからこそ、彼等は彼女に付いていくと決心した。そこには傷の舐め合いもなく同情するわけでもなく、ただ傍にいたいという当たり前の感情。そして彼等は平凡でも一緒に生きていくことを決断した。

 

 それは何よりも尊くて、意味のある選択だ。彼等は何かを捨てて、何かを選んだ。それは簡単に出来ることではなく、後悔と懺悔に悩まされながら選んだ結末なのだろう。それだけで何よりも穢されてはならない”意味”がある。

 

 それを、おまえは無価値というか。何も理解してなどいない癖に分かったような自己愛を糞尿の如く垂れ流しながら、塵と否定するか。俺の陽だまりを屑と呼んだかおまえみたいな白痴野郎が―――!

 

「これは俺の意志だ。俺のために、おまえを殺す」

 

 おまえが要る限り、あいつらは永遠に笑えない。ゆえに殺す。実力不足など知ったことではない。自殺願望などでは断じてない。あいつらとの約束を護るため、また一緒に笑い合うために、他の誰かに指図されたのでもなく自分自身の意志で兵藤信貴はコカビエルを殺すと決断する。

 

「……そうか、相分かった。ならば疾く死ね、虫けら」

 

 そして、その意志を明確に感じ取ったからこそコカビエルから嘲笑の笑みが消えた。眼下に佇むのは己に背く不敬な劣等種。ゆえにもはや娯楽として愉しむ気も失せその存在を滅殺せんと真顔で両手を広げ命ずる。

 

 まるで共鳴しているかの様に輝きを増す光の槍。宙に浮かんでいた百をも超える全ての光の槍が脈動し、その矛先を一人の人間へと向ける。一つ一つがこの身を粉砕できる破壊力を持つ兵器。ただでさえ数十個で限界だったというのにこの大群に同時に襲撃されれば生存できる確率は万に一つ存在しないだろう。

 

「せめて散り様で俺を興じさせてみせろ人間―――ッ!!」

 

 そして、無慈悲な号令が発せられ、最終審判が下される。前後左右上下全方向からの一斉掃射。更に弾丸を発射する様に回転が掛けられているためその速度と破壊力は増幅しており、逃げこむ隙間もないこの包囲網では俺の身体はあと一瞬で木っ端微塵と化すだろう。

 

 だが、そんなことは頭に入って来なかった。死を視る魔眼でコカビエルの死を射抜きながら、まるで時が静止している様な意識の急加速。迫り来る光の槍に目もくれずただ思考だけが加速し続ける。

 

 ―――力が欲しい。

 

 有無を言わせぬ絶対的な力が。善悪など関係ない。力そのものは元来無色だ。それが悪に染まるのか善となるかは所詮持ち主の心次第というもの。力そのものに罪はない。あるとすれば、それは力を手に入れて耐え切れなかったそいつの心だ。

 

 だからこそ力を望む――渇望する。こいつを赦していいはずがない。嘗て無いほど憎悪と憤怒と殺意が身体中から溢れ出し、黒い闇が放出されていく。まるで自分自身を作り替えるように闇が身体に纏わり付き溢れ出す。

 

 力、力、力を――今のままでは届かない。今の己では足りなさ過ぎる。経験感覚能力知識意志本能覚悟思想ありとあらゆるモノが圧倒的に欠けている。不完全な現状では到底ヤツに太刀打ち出来ない。

 

 ゆえに力が欲しい。強く渇望する。目前で哄笑の笑みを浮かべている塵を殺すために、胸の奥から吹き上げる憎悪と憤怒と殺意と糧に、必ず鏖殺せんと決意する。

 

 圧倒的で、絶対的な、それこそ英雄(ばけもの)のような力を―――

 

 

 

『――――力が、欲しいか?』

 

 

 

 瞬間―――意識が―――反転―――する―――

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 ――――適合者、『兵藤信貴』の覚醒を確認。

 

 ――――検索(サーチ)開始。

 

 ――――検索(サーチ)終了。

 

 ――――情報に不具合を確認。

 

 ――――情報破損(バグ)を多数確認。再挿入《インストール》を優先。

 

 ――――再挿入(インストール)開始。

 

 ――――エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。

 

 ――――削除出来ない項目を発見。原因解明開始。

 

 ――――上位権限所持者の命令より、原因解明強制終了。再挿入(インストール)続行。

 

 ――――霊格人格の同意獲得。ブラックボックスの情報解放開始。

 

 ――――『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』完全挿入完了。

 

 ――――『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』完全挿入完了。

 

 ――――『無■な■■光(■■ン■■ト)』完全挿入…………不可。

 

 ――――外部からのアクセスを受け情報が混濁し不具合が発生。

 

 ――――挿入判断を霊格人格に移行…………了承を確認。

 

 ――――アクセス名及び挿入された情報(データ)を確認。

 

 ――――上位権限所持者のブラックボックスのため、詳細不明。解放可能な情報を提出。

 

 

 

 ――――アクセス名…………『Y H V H』

 

 ――――情報(データ)名…………『L O N G I N U S』

 

 

 

 




一方その頃。

ミッテルト「ま、まだっス! 最強デュエリストのドローは全て必然!その光はカードを導く!我が身が放つ一点の光を目指し、来たれ!シャイニング・ドロォォォォ!!」

小猫「罠発動。強烈なはたき落とし」

ミッテルト「あんまりっスぅぅっ!!」

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