作者は木場が好きなキャラですよ? だから虐めるのです(ゲス顔)
「―――で? もうお終いかよイケメン君。だらしねぇなァ、まだ始まったばかりだぜ? あんだけ偉そうに啖呵切っておいておいおいそりゃねぇだろ。もうちっと粘れよ、気合入れろや。そんなんじゃ、他の連中に示しがつかないぜ?」
「……はぁ……はぁ…………ッ!」
教会前広場。そこはもはや先ほどまでとは跡形もないほど一変していた。大量に散らばる無数の剣、地面を抉り取られ出来たクレーター。荒れ地と呼んでもおかしくないほど変貌を遂げたその場所で、木場祐斗は普段の優雅さを一切感じさせないほど疲労し、大量の汗を流しながら呼吸すらままならない状況で両膝を地に付き蹲っていた。
その表情は苦悶に歪み、睨みつける光眼は憎悪に染まっている。しかしその視線を向けられているフリードは口笛を吹くほど気にしていない。満身創痍の木場とは打って変わり、フリードは冷や汗一つかくこと無く平然と踞る木場を見下している。
拳銃のトリガーに指を当てて回すその様は余裕そのもの。フリードにとって今回の任務はただの防衛戦を任されたのだから、こうして時間稼ぎをしておけばいいだけの話。しかし、事情を知らない木場からしてみればその態度は舐められている以外の何物でもない。
「――――――ッ!!」
もはや息を吐くのも惜しい。悲鳴を上げる身体を無視し、魔剣を創造しながら木場は前へ滑る様にフリードの懐へと潜り込む。生み出すのは悪魔の弱点である聖なる光を宿した光剣を食らう『
「おらよっ、足元がお留守だぜぇっ?」
「―――ガァ!!」
振り切る寸前、フリードが放った光弾が地面を反射し木場の腕に衝突し僅かに力が緩む。これがただの実弾ならば痛みに耐えるだけで何とかなったが、光弾は話が別だ。悪魔にとって光とは天敵であり、ただ痛いのではなく力が抜ける痛みなのだ。だからこそ腕に撃たれれば握力が低下し、何より疲労している状態ならば更に弱まってしまう。
そして、そんな隙を至近距離で見せつけられて見逃すはずがない。緩んだ腕を踏み潰し握力を麻痺させ剣を零させ、その勢いを利用して回し蹴りを木場の顎に叩きこむ。迷いなく振り抜かれたフリードの蹴りはたとえ悪魔でも強烈で、一瞬木場の視界にお星様が回り空間判断能力が発動しないほど脳を揺らした。
だが、これで追撃が終わるはずがない。木場は瞬時に意識を覚醒させ、空を低空飛行する身体を強引に捻ることで重心を逸らし、地面を手の甲で弾いて進路方向を変更させる。その直後、元の方向に光弾が飛んでいくのを視界で捉え、
それに直撃した第二射が反射して木場の鳩尾に激突した。
「―――ガァ、カッ……!!」
「なに、別段驚くことでもないだろ。ただちょっと場所をずらした所に弾丸を撃って跳ね返しただけだ。ビリヤードと同じ原理で、ガキでも出来るお遊びだ。自慢できる事じゃねぇよ」
フリードは別らしくもないと軽く告げるが、果たしてどれほどの猛者ならばそれを実現させるというだろうか。同じ場所に弾丸を撃ちこむならばまだ分かる。しかし手元から離れ宙を飛翔する弾丸を狙って撃つ事が容易なはずがない。しかも反射した弾丸を相手に当たる様に調節しているなど、神業以外の何物でもないだろう。
しかし、それをフリードはどうでもいい事だと断言する。誇ることでもなく、格別珍しいことでもないのだと。それこそがフリード・セルゼンの天才性と言えるだろう。
―――あいつの様に、神をも殺せる眼と比べれば。
「ぐ……ァ、ああああああああああァァっ!!」
木場は血反吐を地面に撒き散らしながら、それでも諦めることなく地面を叩きつけ、神器を解放する。今の彼では充分には扱いきれない力。ゆえに力が暴走し木場自身を傷つけるが、そんなことはお構いなしに持てる全霊を駆使してフリードを倒さんと力を振るう。
『
フリードの足元を中心に、剣山が創造される。今までの数本とは見違えるほどの、数十本は超える大量の魔剣群。その全てがフリードを鏖殺せんと全方位から襲い掛かる。前後左右上下隙間なく剣の壁に囲まれて、容赦なくフリードは剣の山に呑まれた。
出来上がったのは、剣で出来た球体。まるで卵の様な墓場を見て、木場は勝利を確信し――大量の血反吐をぶち撒けて倒れ込んだ。極度の疲労と神器の強制解放によって木場の内側は負傷し、もはや起き上がる力すら残されていない。
少し休んだら皆の所に行かないと、木場は落ちていく目蓋と意識の中でそう思い、
「いやー参ったな。やれば出来るじゃねぇか。オレに
聴こえてきた声に表情が驚愕に染まった。
球体の剣山が爆発し全ての魔剣が跡形もなく粉砕される。木場祐斗の今までの人生を否定するように、全て完膚なきまでに破壊し尽くされている。その様子に木場は目を見開いて言葉が出ない。目の前の光景を現実だと許容できない。だが眼球は意識とは切り離されたように情報を脳に届けていく。
殺したと思ったフリードはまったく無傷だった。どれもこれも木場は今までの人生で作り上げてきた歴史とも言える魔剣達。どれも遅れを取る物ではなかったし、何よりあれほど隙間なく魔剣に襲われて全て回避できるはずがない。だからこそ現実は単純で、ゆえに信じられなかった。
フリードの片手に持つ剣。先ほどまで握られていた光剣とはまったく別格の剣。それから溢れ出す力は所持者であるフリードの身体すらも覆って入り、まるで彼を護る鎧の様な姿をしていた。
「教えてやろうか? 何でおまえの剣がオレを傷付けれらなかったか。単純な話だ。ただおまえがオレを殺そうとして放った魔剣よりも、オレの身体に纏っている聖剣の加護の神秘の方が上だっただけって話。神秘はより上位の神秘に敗れる。常識だろ?」
「――――――」
フリードが何かを言っているが、木場の耳には一切入っていなかった。ただ全ての意識がフリードの持つ剣に向けられている。
その波動、その力。一秒たりとも忘れたことはない。記憶のフラッシュバック。死にゆく同胞。仲間の恨み。その憎悪は、木場祐斗になってからも一度も忘れた事はない。全ての始まりである諸悪の根源を前にして、失っていた力が憎悪を糧に四肢へと宿る。
その剣は―――
「聖、剣…………っ!!」
木場祐斗にとって何よりも討ち滅ぼさなければならない怨敵が、そこに在った。
「名前は
エクスカリバー……聖剣の類でもトップクラスのカテゴリーとされているそれを前に、木場の殺意が跳ね上がる。先ほどまで起き上がる事すら困難だったというのに、憎悪が肉体の限界を凌駕してまでして目前の剣を破壊せんと笑う膝を殴りつけてでも立ち上がろうとする。
「僕は……『聖剣計画』の生き残りだ……!!」
ゆえに仲間達の無念を果たすべく、その聖剣を破壊する――そう告げようとして、
「―――ああ、おまえ、オレの後輩か」
その言葉に、憎悪よりも驚愕が上回った。
「…………え?」
「しっかり、教会の老害共も懲りねぇなァ。オレらの時でさえ適合者は全体の三パーセント未満だったってのに。そもそも原石を運で見つけ出そうだなんて砂漠に落ちている宝石を見つけ出す様なもんだぞ? 普通に考えて無理に決まってんだろうが。そんなに聖剣様が素晴らしいのかねぇ、マッド共の考える事は良く分からん」
フリードの言葉が耳に入ってくるが、そのまま耳を突き抜けていく。それほどまでに木場は現在混乱していた。フリードの後輩という言葉。そして懐かしそうに過去の事を語るその様子。その姿に、彼が聖剣計画の関係者だということが分かる。
そして、それに当て嵌まる事件を知っている。聖剣計画の前、教会史上最も犠牲者を生んだとされる悲劇。推定でも千人は死亡しており、行方不明者を加えるならば三千人をも超えるとされている最悪の事件。
「まさか……君は、『超人計画』の生き残り……ッ!?」
「ん? ああそうだぜ。老害共曰く、怪物を倒すには超人にならなければいけないとか何とやらで、実験を受けて生き残った成功例だよ。確かその内の一つに聖剣適合実験も在ったな」
「――――――」
その言葉に息を呑む。思考がまるで案山子のように停止する。目前に自分と同じ、いや自分以上の地獄を見てきた人が要る。そして、彼はそれに成功した。失敗作の自分とは違い。その事実が強烈で感情が正常に機能しなくなる。
だから、次の言葉に一瞬何の反応も返せなかった。
「ところで、おまえ聖剣を憎悪している様だが――どうも、やる気がねぇようだな」
「――――は?」
彼はいったい何を言っている? 言われた内容を再確認して、憤りが胸を穿つ。まるで心を見通している様な眼に嫌悪を覚える。何も知らない癖に、何を分かった口で言っている。
「……僕は同士の無念を晴らす。彼らの分まで生きて、エクスカリバーを超える事で彼らの死は無駄なんかじゃないと証明する。それを、やる気がないだって……!!」
「あー、あーなるほど。そっちか。中途半端に生きてるんじゃなくて、がらんどうなだけか」
フリードの視線が木場を射抜く。まるで全てを見抜く様な眼。それに反感を覚えながらも、なぜか木場はその言葉に言い返すことが出来なかった。
「別に仲間の分まで幸せに生きるっていう考えは悪くないぜ? ああ、不幸になりたがるよりは何倍もマシだ。良く勘違いして死んだ奴の事を忘れないとか言って立ち止まる輩がいるが、ありゃただの現実逃避だ。生者も死者も迷惑以外の何物でもねぇ。だがおまえさん聖剣を見た途端露骨に憎悪を取り戻してたじゃねえか。だから今までそう生きるって決めてた癖に餌が目の前に来た途端いきなり自分の使命を思い出したとか中途半端野郎かと最初は思ってたんだが―――おまえ、本当は死にたいだけだろ?」
「――――――」
ドックン、と心臓が鼓動する。四肢が出血以外の悪寒に包まれ小刻みに震えだす。それは気付いていない、気づいてはならない木場祐斗にとって最悪最大の禁忌だと脳裏で直感する。
「死にたい、けれど仲間達の命を背負っている分無価値に死ぬことは出来ない。だから死ぬ理由がいる。仲間の敵を取るため、聖剣に復讐しよう。それならきっと死んでも価値がある。仲間の無念を晴らそうとしたのだから、死んでも意味があるはずだ。―――がらんどうだ。おまえの魂は何処にもねぇよ」
「―――黙れ!!」
それは火事場のクソ力か。まるで子供の癇癪のように、聞きたくない事を遮るように魔剣を創造しながら突進した。何を創るのかなど頭に浮かばない。ただ目の前の雑音を、声は耳に入れたくないがゆえに出鱈目に剣を振るう。そして、そんな構えで振られた剣が当たるはずもなく、
「先輩のよしみとして、一つ忠告しといてやる。―――死に行く理由に、他人を使うなよ」
無防備に近づいて来た木場の懐。そこに添えられる様に聖剣の柄が抉り込まれていた。幾ら柄とはいえ、聖剣で殴られれば悪魔にとって尋常ではないダメージを受ける。ましてや、既に満身創痍でありながら限界を超えて酷使していた状態で受ければ、耐えられるものではない。
意識が暗転していく。感覚が遠のいて、思考が頭から離れていく。その最中、
「まあ、次逢う時にはおまえ自身の答えとやらを聞かせてくれや。―――まあ、オレも大概人のことは言えねぇんだけどな」
何処か自嘲的を含んだ苦笑が木場の耳に聞こえた気がした。
木場祐斗対フリード・セルゼン。
戦闘終了――――勝者、フリード・セルゼン。
一方その頃。
ミッテルト「強靭! 無敵! 最強! の三体の社長嫁でダイレクトアタックっス!」
子猫「ミラフォ」
ミッテルト「あんまりっスぅぅッ!!」