ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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今回はイッセーside。つーか蛇足な気がする。どうせ勝つのイッセーだし。


救うという覚悟

 兵藤一誠とレイナーレとの距離は目分量で見ておよそ十五メートル。一誠が全力で駆ければ七歩かそこらで近づける距離だろう。しかし、それは遠距離武器が主力の堕天使を相手に真正面から更に高度のアドバンテージを考慮しないでの判断だ。まず初めから一誠は陣地取りで失敗している。

 

 しかし、それが今更なんだ。圧倒的不利なのは戦闘が始まる前から百も承知の上だ。兵藤一誠は悪魔に成り立ての初心者で、相手は複数の堕天使を束ねる上位の戦士。そこに圧倒的差があるなど分かり切っている。それでも、戦うと一誠は決めたのだ。

 

 本当は、彼女に訊きたいことが山ほど在る。だけど今はアーシアを救出する方が優先だ。木場との約束を果たすためにも一誠は呼吸を止め、全身のバネを縮めるように身体の筋肉を僅かに弛緩させ、

 

「お、――――っおおおおおおォォッ!!」

 

 迷うことなく、渾身の勢いで爆発するようにレイナーレ目掛けて駆け出した。

 

「…………」

 

 それに対し、レイナーレは恐ろしいほど静であった。何も見えていない訳ではない。今も底が見えぬ殺意と凶念は顕現で一誠の肌を震わせている。その眼が凍りのごとく細められた瞬間――――兵藤一誠の目前が爆発した。

 

「が、ああああァァ――――!」

 

 咄嗟に腕で顔を庇うが衝撃は防ぎ切れず、一誠の身体は後方に吹き飛ばされる。壁際まで飛ばされ壁と衝突したことで何とか停止するが、背中を急遽激突させたため予測ができず肺に在った酸素を一気に吐き出してしまう。それでも何とか立ち上がり視線を上げて、飛来してきたモノを確認した。

 

「が、ハァ、……これ、は……?」

 

 煙を上げながら地面に突き刺さっているのは、光で作られた槍。堕天使が主力とする武器であった。そこまでは予測の範疇。だから、その先の変化に兵藤一誠は目を見開いた。

 

 地面に突き刺さっていた槍。持ち主から離れたはずのそれは人知れず動き出し、レイナーレの背後に移動していく。見れば、彼女の背後には先ほど一誠を狙ったのを含めて計八個の光の槍が主を守護するかのように旋回しながら浮遊している。

 

 その姿を、一誠は思わず天使のようだと見入ってしまった。

 

「『戦乙女の輝槍(エインフェリア・ヴァルキュリア)』。こんなもの、ただ光の槍を操作するだけの小細工でしかはないわ。だけど――――」

 

 レイナーレは軽く腕を振るい、それに連動するように八個の光の槍は矛先を一誠に向ける。マズい、と一誠が咄嗟に横へ飛び引くが、

 

「――――穿て」

 

 瞬間、光の槍は一誠の視認限界の速度で突撃してきた。かなり瀬戸際だったが躱す事に成功するが、一誠の警報は未だ止まらず、むしろ更に烈しく鳴り響いている。そして、その予測は外れず、

 

「――――薙ぎ払え」

 

「づ、がああああァッ――――!」

 

 土煙から突如出現した光の槍は兵藤一誠の胸元に直撃し、薙ぎ払われる光の槍によって吹き飛ばされる。悲鳴を上げるのは吹き飛ばす威力ではなく、光の槍に触れたため。その全身を焼かれるような激痛に兵藤一誠は理解する。

 

 ――――あれは、一つ一つが自分にとって致死となる威力を持つモノなのだと。

 

 だが、そんなことを一々考えている暇はない。光の槍は変幻自在で四方八方から一誠を殺さんとあらゆる方向から複数飛来してくる。回避以外に気を掛ける余裕など皆無で、触れるだけで存在を消滅させられそうな痛みが広がっていくのだ。

 

 そしてなにより厄介なのが、

 

「だけど、まだ死んじゃいない。なら私が容赦する必要なんてまったくないということよね」

 

 目前で無様に這いつくばる子鼠に対し、この虎は欠片も油断していないということ。これほどまでに圧倒的な差が目に見えているのにも関わらず、レイナーレは一誠に対して微塵も慢心などしていなかった。

 

「……無様ね。そんな様で、あなたはいったいここに何しにやって来たの?」

 

 避けることに精一杯でレイナーレの言葉に一誠は反論する余裕もない。ただ水のようにレイナーレの言葉が頭の中に入り込んで来る。

 

「危機の彼女を助けたい、囚われの聖女を救って上げたい。成る程、確かに尊い行いでしょうね。まるで英雄譚に出てくる英雄のような崇高なことね」

 

 けれど、と彼女は嘲るように間を置き、

 

「――――そんなものは、あなたが押し付ける偽善でしかない」

 

「なん、だ……と……!」

 

 光の槍を躱しながら、一誠はレイナーレを睨み付ける。それに対し、兵藤一誠の胸に燻る怒りとは種類は違うが同量の怒りを込めて静かにレイナーレは続ける。

 

「仮に、ここであなたが私を斃すことが出来たとしましょうか。死に瀕したあの娘を助けてハッピーエンド? 悪は滅びました? ――――本当にそう思っているなら、とんだ道化ねあなたは」

 

 光の槍が顔面目掛けて飛来し、それを危機一髪顔を逸らすことで避けるがその後ろから同軌道上で飛来していたもう一つの光の槍には反応できず右肩に突き刺さり後方に吹き飛ばされる。

 

「ガァ、あああああああああァァ――――ッ!!」

 

 一本刺さっただけでこの激痛。全身の血液が沸騰したのではないのかと疑うほどの激痛に悶え苦しみたくなるが、それを歯を食い縛って耐え、手が痛むのを覚悟して左手で肩に突き刺さっている光の槍を引き抜く。血が噴き出るが、そんな事は後回しにして一誠は掴んでいた光の槍を前方へ放り投げ後方に跳び引く。直後、光の槍同士が激突しほんの僅かに遅れたことが幸いして一瞬後、兵藤一誠の居た場所に光の槍が突き刺さった。

 

「あの娘はこれからも狙われるわ。シスターだから悪魔に狙われ、神器使いだから堕天使に狙われ、魔女だから天使に狙われる。仮にここであの娘の命を救ったとしても、それは何の解決にもなっちゃいない。むしろあの娘にとっての地獄を長引かせるだけ。――――それなら、ここで殺してあげるのがあの娘にとって一番の救いじゃないかしら?」

 

「――――違うッ!」

 

 その言葉に、兵藤一誠は強く反論する、今もなお光の槍が迫っており、余裕などない。それでも、それだけは否定しなければいけないと強く思う。

 

 一人ぼっちでも、誰かの笑顔が好きだと言った少女がいた。裏切られても、人を信じることを止めなかった少女がいた。――――誰かの笑顔で、自分も笑顔になれる女の子がいた。

 

 そんな娘が、そんな彼女が、そんなアーシアが。今までずっと頑張って耐えて耐えて耐えてここまで生きてきたアーシアが、

 

「死ぬことが救いなわけ……ねえだろォおがああああァァッッ!!」

 

 地面を強く蹴り上げ、スライディングの用法で宙から飛来してくる光の槍達の下をくい潜る。距離はあと二歩、レイナーレを守護するモノは何もない。一誠はそのまま勢いを殺さず渾身の拳を叩き込み――――

 

「なら、あなたが救うとでも言うの?」

 

 顔面に触れる直前、レイナーレには指一本触れさせぬと言わんばかりに背後に回っていたはずの光の槍達が聖なる盾として一誠の拳を微動だにせず受け止めていた。渾身の一撃に力を込めていたためすぐに分断した光の槍に呆気なく一誠は吹き飛ばされる。

 

「誰かを救うということは、その人の人生に関わるという事。ましてや、命を救うとなればその人の人生を背負うのと同義だわ。その覚悟がないなら、それを偽善と呼ばず何と呼べばいい。あなたには、在るの?」

 

 レイナーレの声音が変質する。嘘は許さないと、応えるならば真実を告げろと。それ以外を言うものなら、死は避けられないのだと一誠は確信できる。

 

「あの娘に迫る総てからあの娘を守り抜く覚悟が。たとえ何が来ようとあの娘のために命を掛ける覚悟が、本当に在るの? 無いなら今すぐ消えなさい。そんな中途半端な覚悟で関わられるのは救わる方も半端な希望を抱かせる分迷惑よ」

 

 その問いに、兵藤一誠は迷うこと無く答える。

 

「決まってる……」

 

 笑う膝を殴り付けて起き上がる。拳は強く、爪が皮膚に食い込み血が流れるほど強く握り締める。それに兵藤一誠は気付かないほど想いを込めて言う。

 

「約束したんだ」

 

「悪魔との契約かしら? そんなものはあなた達が不利になれが簡単に破るでしょう?」

 

「違う。俺が、兵藤一誠が、アーシアと約束したんだ」

 

 その誓いはまだ果たされていない。この関係はまだ始まってすらいない。ならばその誓いを今から守ろう。それに良く考えれば造作もないことだと分かったから。

 

「友達を助けるのは当たり前だ。――――だから、アーシアを守る。これからも守り抜く! それを傷付けるっていうんなら、悪魔だろうが天使だろうが堕天使だろうが大魔王だろうが神様だろうが、何が来ようとも関係ねえ、俺が相手になってやるッ!!」

 

 それは兵藤一誠の心からの咆哮。嘘一混じりけ存在しない真実の雄叫び。その答えにレイナーレは――――

 

「―――――っく」

 

 一瞬、彼女の口許が緩んだように見えたのは、目の錯覚か。

 

 憤怒は未だ顕現。憎悪と凶念も尽きること無く一誠に向けられそれらに紛れて、微笑んでいるかのような気配が僅か。まるで、あまりに愉快だからついうっかり零してしまったような微笑が――――

 

「戯言ね。私程度の中級堕天使風情に手こずっているあなたじゃ何をほざいても世迷言でしかないわ」

 

「くそっ……!」

 

 やはり勘違いだったのか、レイナーレ再び光の槍を変幻自在に一誠を襲わせる。一片の隙間なく殺意に覆われたその視線には先ほど感じた想いなど微塵も感じられない。在るのはただ、こつらを殺すという殺意一色。

 

「信念なき力は暴力に過ぎず、力なき信念は戯言に過ぎない。あなたの言うことが本気だったとしても、その程度じゃ何も救えない。その程度じゃ、あの娘を守るなんて不可能よ。それでもその世迷言を貫くというのなら――――」

 

 瞬間、兵藤一誠を襲っていた光の槍が持ち主のところへ戻る。それだけに変化は収まらず、光の槍は共鳴するように哭き、回転しながらその速度を上げていく。その中心に集まるのは展開している光の槍とは比べものにならないほどの聖なる光。共鳴し共振し共同することでその破壊力を逸脱させたものへと変貌させている。

 

「それは……!」

 

「これこそが私の全身全霊、至大至高の一撃。あなたが世迷言を真実だというのなら、この一撃を超えて証明して魅せなさいッ!」

 

 周囲が軋み、稲妻が迸るほどの回転速度。生み出される力は周囲の光の槍とは桁違いで、これこそ本当に彼女にとって究極の一撃なのだということが肌を通して伝わって来る。

 

 その真名は、

 

鳴り響け――――黒き福音(ユーアンゲリオン・シュヴァルツヴァルト)ッ!!」

 

 放たれるのは極大の光。それはもはや槍ではなく砲弾だ。全身を呑み込むほどの巨大な光の一撃の前に、兵藤一誠は逃げも隠れもせず拳を握りしめた。

 

 ――――力が欲しい。

 

 レイナーレの言うことは全て真実だ。力が無ければそれは戯言と同じだろう。この世界には不条理なことなど幾らでも転がっている。だからこそ力が欲しい。それらに対抗するために、それらに抗い抜くために。

 

 運命を超え、神様だって滅ぼせる力が(・・・・・・・・・・・)――――

 

 

 

『――――力が、欲しいか?』

 

 

 

 刹那――――どこかで、無限に交差する蛇の皮から脱皮し、産声を上げる赤き龍の姿を幻視した。




レイナーレの中二病化はこれをやる前にFate見てたせい。宝具解放ってカッコいいよね(小並感)

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