ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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最近ライザー戦で不具合が起きそうなので書き直すか検討中。
ちなみにライザーはFateのアーチャーみたいな感じになってます。


戦闘開始

「……どうやら、ここみたいね」

 

「ええ、使い魔達からの情報によるとこの付近での目撃情報が多数ありますわ」

 

 リアス・グレモリーと姫島朱乃は街外れの森に来ていた。周囲には彼らの使い魔である蝙蝠と小鬼が情報を主に伝えており、その情報を元に彼らはここにやって来たのだった。ご苦労様、と軽く労ってから使い魔達を還し森の奥に視線を向ける。

 

「まったく、私の領土で堕天使が何か企むだなんて随分舐められてるわね。それで朱乃、さっきの報告は本当なの?」

 

「ええ。向こうが嘘を吐いていなければあの堕天使達は皆神の子を見張る者(グリゴリ)から脱退した者達だとのことです。嘘を吐くメリットも無いと思うので真実だと思いますよ?」

 

「なら話は早いわね。確か目撃情報からすると、堕天使レイナーレ、カラワーナ、ミッテルト、ドーナシーク。それから聖女アーシア・アルジェント。そして――――」

 

「……はぐれ神父、フリード・セルゼン。『超人計画』の唯一の成功例と言われている人物ですわね」

 

 姫島の告げた内容に二人は僅かに強張る。何故なら、その計画の内容を知っているからだ。教会が持つ昏い歴史の中においても最悪とされる事件。その関係者である彼女の眷属が関わっていた『聖剣計画』をも上回る教会史上最も犠牲を生んだとされる血に塗られた事件。その唯一の生き残りと訊いて、知らず背筋が伸びた。

 

「なら、早く彼らを片付けて戻らないとね」

 

「そうですわね。先ほどイッセー君とは喧嘩してしまいましたし」

 

「……朱乃、分かってるなら一々言わないで頂戴」

 

 うふふふ、と笑う姫島を見ながら嘆息するリアス。どうもこの幼馴染は人をからかう癖があるから困る。しかもそれを悔やんでいる時に言うから尚更対処に困る。

 

「だって仕方ないじゃない。あそこでイッセー一人に行かせる訳にもいかないでしょう?」

 

「ええ。ですから悪いだなんて言ってませんよ? それにあの子達にイッセー君を助けるよう促していましたし、流石は私達の(キング)ですわ♪」

 

「まったく……なら、とっとと片付けてイッセー達の所へ行くわよ」

 

「了解ですわ、我が主」

 

 早くあの子達の元に行かないと、リアスは焦る気持ちを抑えながら堕天使達が目撃されたとされる雑木林へと足を踏み出し、

 

 

 

「――――残念だが、そういう訳にはいかん。悪いが、ここでしばらく遊んで貰うぞ、悪魔共」

 

 

 

 刹那、世界は色を変えた。

 

「これは……ッ?」

 

「結界ですわね。しかもかなりの高度のモノですわ。解くとすれば結界の綻びを探すか、結界硬度より強い衝撃を加えるか、或いは――――」

 

『結界の核となっている我々を倒すか、だな』

 

 ふと、先ほどまで誰も居なかったはずの場所に二人の堕天使が佇んでいた。いや、彼らは最初からその場にいた。この結界にリアス達が侵入した事で要約界が重なり、その姿を捉える事が出来たのだ。リアスと姫島はすぐさま戦闘態勢に移行し魔力を漲らせながら堕天使達と対峙する。

 

「こうして逢うのは二度目、いや三度目か、リアス・グレモリー」

 

「……まさか、あなたの方から現れるとはね、堕天使ドーナシーク」

 

「ほう? 私の名前を知っているという事は、つまり調べたのだな? なら、我々がどういう立場なのかも理解しているのか」

 

「ええ。あなたは神の子を見張る者(グリゴリ)から抜け出したはぐれ堕天使ってことはね。つまり、あなた達を消し飛ばしても、何の問題もないということをね……!」

 

 リアスの怒気に反応するかのように、黒く禍々しい魔力がリアスの腕に集束していく。上級悪魔に相応しいその絶対的な力を前にし、ドーナシークは顔色を変えることなくリアスを視る。その異質さに少し眉間を寄せるが、リアスはそのまま問いた。

 

「さて、堕天使さん。良ければあなた達がこの街でいったい何を企んでいたのか正直に教えてくれないかしら?」

 

「……ふむ。その前に、一つ訊いても良いだろうか?」

 

「あら? 命乞いかしら?」

 

「貴様等はこの件の首謀者を誰と訊いている?」

 

 ドーナシークの問い掛けに一瞬リアスは首を傾げる。そんな事を訊いていったいどうするというのか。動揺を誘うにしても脈絡が無さすぎる。何を企んでいるかは知らないが、慎重にいくべきだろう。

 

「あなた達の上司である堕天使レイナーレと訊いているけど、それが何なのかしら?」

 

「……なるほど。やはりそこまでしか知らぬか」

 

「今、何と言ったのかしら」

 

「何、気にするな。ただの独り言だ。それより我々が何を企んでいるのかを知りたいのだったな?」

 

 ドーナシークは黒いグローブをしっかりと嵌めると、右手の甲をリアス達に向けた状態で人差し指をくいくいっと動かし、

 

「――――知りたいならば力尽くで訊き出してみせろ、小娘」

 

 その挑発にリアス・グレモリーは魔力を全身から漲らせ、

 

「ええ、いいわ。そっちがお望みなら――――力尽くで訊き出してあげるわ!」

 

 無色の魔力を彼女が持つ特有の「滅びの力」へと変換させ、一気にドーナシークへと放つ。万象総てを消滅させる滅びの力は周囲の物体を消滅させながらドーナシークに迫るが、彼は目の色を変えず淡々と呟く。

 

「――――リアス・グレモリー。現魔王ルシファーの妹であり、バアル家特有の「滅びの力」を扱える上級悪魔。そのことから紅髪の滅殺姫(べにがみのルイン・プリンセス)と異名を持つ。しかしながら、「滅びの力」は万能の力ではない。消滅させられる容量は本人の込めた魔力量と比例する。つまり、その魔力量と同量の物量をぶつけられれば――――」

 

 瞬間、滅びの力がドーナシークに衝突する寸前、彼の左右から巨大な樹々が飛来し滅びの力と激突した。

 

「なっ!?」

 

「――――滅びの力は、その効力を失う」

 

 ドーナシークの呟きが終わるのと同時に黒き滅びの力はその力を失い、半分ほど消滅した樹は地面へと落下する。その突拍子のない光景にリアス達悪魔は唖然とする最中、ドーナシークは言う。

 

「どうした? よもや、敵陣に潜入しておいて相手の事を何も調べていないとでも思っていたのか? 偶然、ここに貴様等を誘き出したとでも思っていたのか? 態々使い魔に姿を見られるような真似をしたとでも?」

 

 そう告げて、ドーナシークは再び指を動かす。直後、リアスの背後に在った樹が軋み、根から地面を這い出て彼女に襲い掛かってきた。茫然としていたため反応に少し遅れ、リアスは魔方陣で樹を受け止める。途方もない勢いで飛来してくる樹を受け止めたせいで腕が痺れ僅かに後方に押されるが、受け止めている樹を見てようやくリアスはその現象を理解した。

 

「これは……糸?」

 

 樹に巻き付かれている糸が樹を操作している。その糸は、ドーナシークのグローブと繋がっていた。

 

「そのグローブの糸で樹々を操作していると言うの……? なら、あの初めの挑発も!?」

 

「なに、貴様の滅びの力に比べれば綾取り程度の価値しかないものだ。精々こうして周囲の物を動かす程度しか出来ん。だが……」

 

「くぅ……! きゃあっ!」

 

 ドーナシークから光の槍が放たれ、それを受け止めようとリアスは再び滅びの力を使おうとするが目前の地面が噴出し土砂が身体に掛かり集中力が消え、滅びの力を発動する前に光の槍が激突する。何とか魔方陣で防ぐが、そうしている間にも別方向から樹々が迫る。

 

「こうして、曲弦師紛いでも出来ることはある。――――下級堕天使だからだと嘗めるなよ? 貴様等とは踏んできた場数が違うのだよ、小娘共」

 

「リアス!」

 

 主の危機に反応して姫島が雷をドーナシークに向かって放つが、

 

「おっと。あなたのお相手は私ですよ? 姫島朱乃」

 

 それを庇うように傍にいたカラワーナがドーナシークの前に立ち、腕を振るう。それに導かれるように雷は彼らの左右を通り過ぎていった。

 

「――――」

 

「――――姫島朱乃。リアス・グレモリーの女王(クイーン)であり、主に雷を主撃としていることから雷の巫女と異名を持ち、中級悪魔ながら上級悪魔にも匹敵するポテンシャルを持つという噂も。ですが、あなたもご存知でしょう? 今時子供でも知っていることですが――――」

 

 カラワーナが腕を振るうと同時に、周囲に霧が出来る。それだけではなく、霧は更に収縮し液体となっていく。その量は次第に増え、それはやがて龍の形を彩った。

 

「――――水は電気をよく通すんですよ」

 

 直後、背後に存在した噴水場の水が全て水の龍へと形を変貌する。合計八体にも及ぶ水龍はまるでカラワーナ達を守るかのように彼らを覆いながら、敵であるリアス達を睨み付けながら唸る。

 

「まさか、この水辺があるここを選んだのが偶然だと思っていたのですか? 私は確かに光の槍を使いますが、最も得意なのは水の操作なんです。ここならば、私は最高の状態で戦えます」

 

 その言葉に姫島朱乃は歯噛みする。姫島は他の属性も扱えるが、一番得意である雷に比べればだいぶ劣る。この状況で他の属性で戦えば圧倒的にこちらが不利だ。……あれを使えば勝てるかもしれないが、姫島にとってそれは出来れば避けたい手段だった。

 

「さて……」

 

 睨み付けてくるリアス・グレモリーと姫島朱乃に対し、ドーナシークとカラワーナは悠然とした態度で各武器を構える。その眼に宿るのは絶対的な覚悟。誰にも譲らないと強い意志が込められた瞳で己の敵を見ながら、告げる。

 

 

 

「先ほども言ったが――――少々遊んで貰うぞ、小娘共」

 

「少々お暇を頂けますかね、お嬢さん方?」

 

 

 

 リアス・グレモリー対ドーナシーク。

 

 姫島朱乃対カラワーナ。

 

 ――――戦闘開始。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 一方その頃。兵藤一誠、木場祐斗、搭城小猫はアーシアを救出すべく例の教会を訪れていた。あと少しで教会に辿り着けるという距離で、ふと一誠は教会にいるだけではない寒気を感じ取った。

 

「……イッセーくん」

 

「ああ、大丈夫だ。俺にも分かる」

 

「……います」

 

 数十メートルも離れているというのに全身を貫かれいるかのような殺気が襲いかかる。殺気の持ち主は一誠達が誰かと分かった上でまるで測るように殺気を放っている。震える恐怖を勇気に変えて前に進む。教会まであと数メートルという距離で、暗闇に隠れていたその殺気の持ち主の全貌がはっきしと見えた。

 

「よう、随分と遅かったじゃねえか悪魔御一行さん。てっきり怖気づいちまったのかと思っちまったぜ」

 

 暗闇に浮かぶのは白い影。白濁し白熱し白狂した声。口許に笑みを浮かべながら、門番の如くフリード・セルゼンは教会の入口に佇んでいた。

 

「フリード……!」

 

「よう色男。囚われの聖女様がおまえをお待ちだぜ?」

 

「なに……?」

 

「どういうつもりだい。キミは教会の門番なんじゃないのかい? なのに、どうして道を開ける?」

 

 一誠が疑問に思ったことを木場がすぐさま問う。その体勢は油断なくフリードに向けられているが、当の本人は興味なさげに不敵な笑みを浮かべたままである。

 

「あぁ、ウチの大将のお望みでね。そこの悪魔君は通せって言われてんだよ。まあ正し――――」

 

 そう呟いて、視線を後方の木場と搭城に向けて、

 

「そこのお二人さんは例外だけどな。通っていいのはそいつだけだ。それ以外は悪いがここで通行止めさ」

 

「イッセーくん、これは罠だ。ここは皆で挑んでまず彼を倒してから先に進もう」

 

「……ここなら、前回のような遅れは取りません」

 

「二人とも……」

 

 構える二人に感激する一誠。しかし、ふとフリードは搭城の方を見て、何やら思い出したように言う。

 

「ああ、そういやそこのチビッ子」

 

「……もしかして、私ですか?」

 

「ああ? おまえ以外に誰が要るんだよ白髪豆チビ娘」

 

「――――ぶっ飛ばす」

 

「小猫ちゃんっ!?」

 

 フリードの言葉に搭城は身体を震わせながら突っ込む。戦車(ルーク)の突進を前にフリードは吹く風のように微動だにせず、独り言のように呟く。

 

「おまえさんの相手はオレじゃなくて――――」

 

『――――アンタの相手はウチッスよ』

 

 瞬間、飛び込んできた搭城の真横に、ゴスロリ服を着た堕天使が構えていた。驚愕に目を見開くが遅すぎた。コンクリートの地面が割れるほどの踏み込みに、無防備だった鳩尾に全身の力が乗った拳が撃ち込まれる。空中で何の支えもない状態のため、搭城の小柄な体格は一瞬で殴った反対方向に吹き飛んだ。

 

「小猫ちゃん!」

 

「おっと、いいのかよ助けに行って。もう儀式までカウントダウン間近だぜ? こんなところで油売ってていいのかよ?」

 

「くぅ……!」

 

 思わず助けに行こうとした足がフリードの言葉で止まる。助けに行きたいが、もう儀式まで時間がない。どちらかを選べばどちらかを見捨てることになる。その事実に一誠は葛藤するが、隣にいた木場がそっと促した。

 

「……イッセーくん。キミは先に行ってて。僕が小猫ちゃんを助ける」

 

「けれど、それじゃあお前一人でフリードとあの堕天使の相手をしなくちゃいけないんだぞ!?」

 

「僕なら大丈夫。伊達にグレモリー眷属じゃないさ。それより、イッセーくんはここに何しに来たんだい? 当初の目的を忘れちゃ駄目だ」

 

「く……」

 

 反論できなかった。木場が言うことは正しい。だから一誠も覚悟を決め、木場に告げる。

 

「――――死ぬなよ。俺はまだきちんとお礼できてないんだからな。アーシアを助けたらお前にもきちんと礼するつもりなんだから」

 

「――――そっちこそ。ちゃんとアーシアさんを助けてきなよ」

 

 一誠は迷わず教会の入口へと突っ込む。フリードの真横を通るその時、ふとフリードは一誠に呟いた。

 

「精々頑張りな。あいつの――なら、その程度の気概は見せてみろ」

 

 一誠はフリードが何んと言ったのか理解出来なかった。ただ応援されたと、馬鹿にされたと思い入口を開けながらフリードに向かって叫ぶ。

 

「うっせえこの白髪神父! おまえなんかウチの騎士(ナイト)にボコボコにされちまえッ!」

 

「おお、こわこわ。で、だ。どうやら彼方さんはオレをご指名みたいだし、おまえもそろそろおまえさんの相手のトコへ行って来いよ」

 

「フン、言われなくたって分かってるッス。……負けんじゃねーッスよ?」

 

「りょーかいっと。分かったから早く御チビ最強決定戦でもおっぱじめてこい」

 

「だれが御チビッスか馬鹿フリード!」

 

 そう捨て台詞を吐いてミッテルトは搭城が飛んで行った方向へ向かっていく。それを見届けて、フリード・セルゼンは木場祐斗と向き直った。

 

「さて、と。それじゃあリベンジマッチでもおっぱじめるかい?」

 

「……悪いけど、時間がないんだ。キミを倒して、小猫ちゃんを助けて、早くイッセーくんの援護に向かわないといけないから」

 

「ハッ、上等。――――遊んでやるから掛かって来いよ、騎士(ナイト)様?」

 

 木場祐斗対フリード・セルゼン。

 

 ――――戦闘開始。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 まるで猫のように身体を縮込ませて地面を滑るようにダメージを最小に抑えながら、ようやく搭城小猫は停止した。いつもの無表情な貌は僅かに苦痛に歪み、先ほど受けた威力を物語っている。あの内側から爆発するような一撃は――――

 

「……中国拳法?」

 

 なぜ堕天使が中国拳法などと一瞬思うが、今は元の場所に戻るのが最優先だと思考を切り替える。しかし、戻ろうとする彼女の前にミッテルトが悠然と舞い降りた。

 

「いやーようやく見つけたッス。我ながら飛ばし過ぎたッスね! というか殴った拳が痛めるなんてどういう身体してんスか? ひょっとして胸に鉄板でも巻いてんスか? ああ! だから道理でそんなまな板なんスね! じゃなかったらきっと筋肉ゴリラ悪魔とかッスねきっと!!」

 

 いきなり現れてふざけた事を抜かすミッテルトにブチっと鳴ってはならない音が小猫からした。自分の体形を一度見て、ミッテルトの身体を見て――――鼻で笑う。

 

「……少なくとも、私以上の真っ平なあなたに言われたくない」

 

「…………アぁ?」

 

 ピシっ! と今度は人体構造上有り得ない音がミッテルトから鳴った。

 

「なーに言っちゃってくれてんスかこの白髪ロリババア」

 

 ブチブチッ! と小猫から音が鳴る。

 

「……脳筋パッキン貧乳チビ」

 

 ビシビシッ! とミッテルトから音が鳴る。

 

「無乳豆粒ドチビ」

 

「クソタレスーパードチビ」

 

 ブチブチブチッ! ピシピシピシッ!

 

 

 

「――――ぶっ飛ばす」

 

「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ッス!!」

 

 

 

 搭城小猫対ミッテルト。

 

 ――――戦闘開始。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 地下へと繋がる階段を兵藤一誠は歩いて行く。踏み外さないように、けれど最速の速度で。焦る気持ちを全精力で押さえつけ頭だけは冷静でいようと試みるが、動悸が収まらず気持ちを制御できていない。

 

 不安が、恐怖が、高揚が、感情の濁流と化し今自分が何を思っているのかも分からなくなる。だけど、覚悟だけは決まっていた。頭の奥が、何かを忘れていると告げている。その思いが一誠をここまで突き動かしていた。

 

 アーシアを助ける。それもそうだ。しかしそれだけではない。アーシア以外にも、自分は誰かを助けたいと思っている。それが誰なのか思い出せないが、この先にその答えがあると確信している。

 

 神器は未だ覚醒しておらず、在るのは生身のみ。だがそれで十分。拳を強く握り締め、兵藤一誠は己の魂に強く誓う。

 

 ようやく地下に降り立ち、扉を開ける。中は広びた祭壇となっており、その奥には十字架が飾られていて、そこには――――

 

「アーシアッ!」

 

 まるで眠り姫の如くアーシア・アルジェントが十字架に磔にされていた。意識が無いのか、一誠の呼びかけに答える様子がまったく見えない。すぐさま降ろそうと駆け寄ろうとするが、その横にいた人影を見て立ち止まる。

 

「……本当に来たのね、兵藤一誠」

 

 正装だと告げるように普段とは違う黒い衣服を纏い、レイナーレはそこに佇んでいた。その瞳には殺意を憎悪で塗り固められており、見るだけで背筋が凍る。間違いなく、あれは兵藤一誠を外敵と捉えている眼だ。

 

「レイナーレ……!」

 

「本当に馬鹿なのね、あなた。こんなところまで来て、そんなにこの娘を助けたいの? それとも、そんな誰かを助ける自分がカッコいいとでも思ってるのかしら? 本当に、馬鹿で愚かね。そんなに死にたいなら――――」

 

 殺意と憎悪を滲ませて、レイナーレは周囲に無数の光の槍を生み出す。一撃一撃が下級悪魔にとって致命傷ともいえる威力を誇るだろう。それを前にして、兵藤一誠は重心を僅かに下げて戦闘態勢へと移行する。助けるために、守るために。そんな一誠の覚悟を嘲笑うかのように、レイナーレは咆哮した。

 

「――――今ここで、一片の跡形もなく殺してあげるわッ!」

 

 

 

 兵藤一誠対レイナーレ。

 

 ――――戦闘開始。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「く、はは……ははははは。はははははははははははははははははははは――――ッ!!」

 

 哄笑が夜空に木霊する。それが気にならないほど、コカビエルは心の奥底から笑っていた。笑みが止まらない。止めるつもりなど更々ないが、ここまで見応えのある歌劇になるとは予想だにしていなかった。

 

「ああ、いいぞ。実にお前たちは見事だ。愉悦だ。もっともっとこの俺を愉しませろ。満足させてくれ。その命の最後の輝きを俺に魅せろォ!」

 

 素晴らしい、流石は俺の劇だと。役者を褒め称えるのではなく、その舞台を作り上げた俺こそ史上だとコカビエルは嘲笑する。どこまでも自分以外が塵だという自己愛に狂った思考。悦に入ったその様は、まさに神に見放された下衆な堕天使に相応しい。

 

――――だからだろうか。

 

「……なに?」

 

 まるで酔っていた最中水を掛けられたようにコカビエルは目を見開いた。その表現は間違いではない。何故なら、彼は己に酔っている時に水という名の殺気をぶつけられたのだから。せっかく舞台袖で観戦していたというのに、いきなり舞台に引きづりあげられては言い気分にはならないだろう。

 

 ……そもそも、自分も役者だったというのに。

 

「誰だ? この俺に殺気をぶつけるなどという不届き者は何処のどいつだァッ!!」

 

 せっかくの酔いが覚め、台無しにしてくれた者を八つ裂きにしてやろうと血走った目で殺気の主を探す。一番殺気が濃厚な場所――――街灯のポールに佇むコカビエルの真下からだった。

 

「――――なっ!?」

 

 その存在に気付く寸前、その殺気の持ち主は街灯を一瞬で斬り裂いた。支えを失った街灯は崩れ、その上に立っていたコカビエルは反応が遅れたため無様に地面に落下する。何とか途中で体勢を整え無事地面に着地するが、完全に水を差され、コカビエルの怒りは爆発した。

 

「貴様ァ……ここまでこの俺を愚弄するとは、楽に死ねると思うなよ痴れ者がァッ!!」

 

 肩を震わせ、殺気の持ち主を睨み見つけるコカビエル。その視線の先には、夜の闇より深く、死を連想させる蒼い眼を持つ人影が、悠然と佇んでいた。手に持つ唯一光を反射させる短刀を構えながら、それは告げた。

 

「――――その首、置いて行け」

 

 今宵、全ての戦いの幕が上がる。

 

 

 

 コカビエル対兵藤信貴。

 

 ――――戦闘開始。




あかん、タッグフォースSPが面白すぎる……!

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