女の話をしよう――誰からも愛され、ゆえに誰からも愛されなかった聖女の話を。
アーシア・アルジェントは親の顔を知らない。彼女が幼少時代を過ごしたのは古い孤児院だった。赤ん坊だった頃にアーシアは夜中に孤児院の前に放置されており、そこで彼女はシスターとして教会に仕えるようになる。
その生活に不満を覚えたことなど一度もない。確かに孤児院の裕福では無かった。いつも自分よりも年下の子供に食事を分け与え、彼女自身はいつもお腹を空かしていた。
けれど、それでもアーシアは幸福だった。自分たちを守って下さるシスターに可愛らしい子供たち。共に助け合うことで信頼し、皆が家族だと思っていた。この出逢いを与えて下さった神様にいつも感謝を捧げるほどだった。
この頃こそがまさにアーシアにとって人生の最高期。次第に、彼女の運命は狂い出す。
事の発端は八歳の頃。アーシアが怪我をしていた子犬を自身が持つ不思議な力で治療しているところをカトリック教会の関係者に目撃されたのが始まりだった。彼女はすぐさま教会の本部に連行され、彼女の思惑など一切配慮に考えられず教会の“聖女”として担ぎ出される。
そのことに不満を覚えたわけではない。自分の力が誰かを癒せるならそれは素晴らしいことだと思い、自分が“聖女”に成ることでかつていた孤児院に寄付金が払われると訊いたので彼女はそれを受け入れた。
ただ、不満があるとすれば。誰も“アーシア・アルジェント”として見てくれなかったことだけ。
“聖女”の噂は各地に広がり、アーシアの不思議な力を加護と称して様々な人を癒した。その行いに感謝され、“聖女”の噂は更に広がる。しかし、だからこそ誰も彼女を“聖女”という異質な存在とでしか認識せず、“アーシア・アルジェント”という少女と親しい友人になろうとする者は現れなかった。
そして、優しい孤独な少女の運命は一気に崩壊する。
ある日、彼女は教会の近くで倒れている悪魔を発見する。本来ならば悪魔が教会の傍で休んでいるなど有り得ない出来事。仕組まれたとしか思えない光景だったが、優しい彼女はそれについて疑うことなく悪魔を癒した。
それは彼女にとって唯一の誇りであった。傷付く者がいるならばたとえそれが神の敵である悪魔さえも癒す。誰も傷ついてほしくない彼女にとってそれはある種使命感でもあった。
だが、それを世界は許さない。その行いを見ていた教会の関係者が教会本部に内部告白を行ったからだ。
それは“聖女”として讃えられている彼女に対する嫉妬からだったのか。理由は定かではないが、その報告を受けた教会の司祭たちは驚愕した。
“治癒の力は神の加護を受けた者にしか効果を受けない”
それが治癒の力の常識だった。アーシア以外にも治癒の力を持つ者は存在した。しかし、悪魔を癒す治癒の力は存在しないというのが教会内の常識だった。
悪魔を癒す力。それはすなわち――“魔女”に他ならない。
“悪魔を癒す魔女め!”
悪魔を癒すなどという異端者を教会が許すはずがない。アーシアは教会の身勝手で“聖女”として担ぎ出され、またしても教会の身勝手で“魔女”として恐れられ教会から見捨てられた。
そのことに何よりも悲しかったのが教会に見捨てられたことではない。彼女が何よりも悲しかったのは、誰一人アーシアを庇おうとする者が居なかったことだった。
結局。“聖女”として愛されてきた彼女は、“アーシア・アルジェント”としては誰一人愛されていなかった。これはただ、それだけの話。
教会から見捨てられたアーシアは、必然的に堕天使の加護を受けざる負えなくなってしまった。そこで彼女は、ある堕天使と運命的な出逢いを果たす。
『貴女が噂の“聖女”様ね? 私は――』
それがアーシアにとって人生の二度目の転機であった。
◇◇◇
「そのあと私はレイナーレ様に助けられてはぐれ悪魔祓いの組織に入りました。ミッテルト様も当初何も分からなかった私と仲良くして下さって、皆さんには感謝してもしきれません。ですが……偶に思ってしまうんです。私はあの時、どうすれば良かったのかって。私は何を間違えたのか、今でも思ってしまうんです」
アーシアは笑う。幼い少女は本心を必死に隠し、今にも泣き出しそうな笑顔で本心を覆い隠そうとしていた。その貌を見て、一誠は絶句した。
「あははは、駄目ですよね。こんなこと考えているからきっと私の祈りは足りてなかったんです。本当の“聖女”じゃなかったから、友達が欲しいだなんて不純なことを考えていたから、私はきっと追放されたんです」
……何を言えばいいのか分からない。兵藤一誠は普通の一般人だ。家族がいて、友達がいて、つまらないけれどそれなりに楽しいごく普通の生活を送ってきた平凡な人間だ。だからこそ、こんな時に何と言えばいいのか分からない。
辛かったな、大変だっただろう。そんな言葉は死んでも言えない。それはそんな経験をしてきた者が言える言葉だ。何の苦行も知らない自分が言えば、それは彼女に対して最大限の侮辱となる。
「きっと、これは試練なんだと思います。私が本当に信仰しているのか神様が確認しているんだと思います。だから、私は大丈夫です。いつかきっとこの試練を乗り越えてみせますから」
笑う彼女の笑顔が、何よりも辛い。満面の笑みを浮かべている貌。その裏にどれほどの悲嘆を浮かべているのか、短い期間で知り合った一誠でも分かる。だからこそ、神様とやらを心底憎んだ。
兵藤一誠は何処の宗教にも属していないから、神様とやらも空想上の存在としか認識していない。困った時の神頼みは時々するが、悪魔になった今でもその存在を信じ切れていない。だから自分のような無宗教人が殺された事に関して神様に文句を言うつもりなんてない。
けれど、この少女は違うだろうと一誠は思う。それは同情かもしれない。不幸な話を訊いて自己投影しているだけの自己満足なのかもしれない。だけど、思わずにはいられなかった。
なぜ、ここまで神様を信仰しているこの子が傷つかなければいけない。特別なことを望んだわけじゃない。ただ人並みの、ごく当たり前の幸せを望んだだけではないか。友達が欲しいなんて当たり前なことが、そんなにも罪深いことなのか? 偽りの仮面で貌を隠さなければいけないほど苦しまなければならない業なのか?
これが神様の試練だというのなら――誰が、この少女の味方になる?
「――――」
そこまで考えて、カチリと一誠の中で歯車が噛み合った。ずっと感じていた違和感。どうして自分がアーシアの事がここまで気になっていたのか、その理由。それはあまりにも単純すぎて逆に気付かなかったこと。
(あぁ……そうか。俺は――)
初めて逢った時から見え隠れしていた悲嘆の貌。誰かのために笑える優しさ。誰かのために立ち向かえる勇気。誰かのために笑顔を浮かべられる強さ。そんなところにいつの間にか引かれていて、
(――アーシアの助けになりたかったのか)
そんな、馬鹿みたいな単純な理由だったのだ。おそらくナンパでもここまで考え無しの輩はそういないだろう。誰かを助けるのには理由が必要だ。それが当たり前で、何の理由もなしに人は他人を助けようとは思わない。それが当然で、常識のこと。
アーシアがここまで苦しんで来たのは常識ゆえだ。教会の、世間の、ありとあらゆる常識が彼女を追い詰めてきた。だからこそ兵藤一誠は思う。それなら、たった一人くらい常識に囚われない馬鹿がいても構わないだろう、と。
迷いはない。未練は消えた。あとは、ただ貫くのみ。
「きっと、“聖女”は友達が欲しいだなんて思っちゃいけないんです。“聖女”は皆に等しく平等に接さなければいけない、だから私が間違って――」
「間違ってなんか、いないさ」
「…………え?」
「友達が欲しいと思うことが間違いなわけないだろ。そんな当たり前なことが悪いわけない」
一誠は微笑みながらアーシアに言う。今にも泣き出しそうな壊れかけの仮面を張り付けた女の子に、少しでも届けばいいと願いを込めて。たとえそれが偽善だとしても、ただ傷つけるだけの正義なんかと比べれば何百倍もマシだと信じるからこそ。
一誠は微笑みながら、アーシアに告げた。
「俺はさ、アーシアの友達になりたいんだ」
「――――」
その言葉にアーシアは息を呑む。何百回何千回何万回臨んだその言葉。それを突然言われ、何を言ったのか脳が認識することを拒否する。有り得ないと首を振り、夢かと疑い頬を抓る。痛む頬にアーシアはようやくその言葉を理解した。
そして理解したからこそ、それを受け入れることが出来ない。
「……何、を。言ってるん、ですか?」
声が震え、目の焦点がズレる。笑顔は凍り付き、無様に歪む。巧く笑おうとしても張り付けたような形のおかしい笑みしか浮かべられない。平常心を装った声も擦れ擦れになってしまった。
アーシアは一誠の言葉が嬉しかった。嬉しくて嬉しくて、ずっと待ち望んでいた祈りの言葉。しかしだからこそ、今までの膨大な過去の苦痛が受け入れることを拒否する。否、自分が受け入られるはずがないと拒絶する。
「だって、私は、“聖女”にならないといけなくて、皆のために、だから、友達は、これは、神様の試練で、私は、私は、私は…………ッ!!」
文脈が成立していない言葉の羅列。しかし、それこそが彼女の心からの叫びだった。泣きたいのか叫びたいのか自分ですら分からず、笑顔を浮かべたまま涙が溢れ出してくる。もう、何をどうすればいのか分からない。
そして、そんなアーシアに一誠は告げる。彼女の抱きかかえている幻想を壊すように。
「アーシア、俺はさ。“聖女様”とかじゃなくて、“アーシア・アルジェント”と友達になりたいんだ」
彼女が抱えていた“聖女”という幻想を、一誠は跡形もなく撃ち砕いた。
「――――ぅぁっ」
ふと、アーシアの頬を一粒の滴が流れていく。その滴は次第に勢いを増し、彼女の貌が次第に歪んでいく。目尻は下がり、口許は釣り下がり、嗚咽が漏れだす。
この日、この時。アーシアはようやく、涙を流すことが出来たのだった。
“――どうしてですか?”
“友達になりたいと思うことに一々理由が必要か?”
“――それは悪魔の契約としてですか?”
“違う。悪魔とかシスターとかそういうのは一切抜きで、兵藤一誠はアーシアの友達になりたいんだ。話したいときに話して、遊びたいときに遊んで、そんな当たり前の友達にさ”
“――でも私、世間知らずです”
“これから知っていけばいい。一人じゃ無理なら、俺も一緒に付いていくからさ”
“――日本語も分かりません。文化もわかりません”
“なら俺が教えるよ。ことわざや四字熟語だって教えてやる。分からなかったら俺も一緒に学ぶからさ”
“――友達と、何を話せばいいのか分かりません”
“今日、いっぱい話したじゃんか。あれでいいんだよ。あれでもう、友達として十分に話してたんだ”
「――――本当に、私なんかと友達になってくれるんですか……?」
「――――ああ。これからもよろしくな、アーシア」
夕焼けを背に彼らは友情を誓う。それは幻想的な風景。ロマンチックでまるで映画の一枚画にでも有りそうな原風景。しかし、忘れてはならない。夕焼けが沈めば、現れるのは夜。すなわち――幻想は終わり、悪夢が始まる。
「――無理よ」
その声はいったい何処からか。それを認識する前に一誠とアーシアの間に光の槍が突き刺さった。まるで、二人の友情を許さないと断ずるように。
「この、槍は……!」
衝撃に吹き飛ばされた一誠がその光槍を茫然と見上げた。その槍には見覚えがあった。なぜなら、その槍の形状は一誠にとって誰よりも馴染み深いものだったのだから。
一度は昨日。そして、もう一度は――あの晩、一誠を殺した光槍なのだから。
「貴方達にこれからは存在しない。なぜならこの子は今日――死ぬからよ」
陽は沈み、辺りは夜の闇に包まれる。その中で、黒い翼を生やした堕天使が、彼らの前に降り立った。
「……レイナーレ、様?」
茫然と、アーシアが突然の来訪者の名前を呟く。しかしレイナーレは反応せず振り返らない。頑なに前を見すいたまま、アーシアと目を合わせることはない。
だからこそ、反応したのは一誠だった。
「……どういう、意味だ」
「なにが?」
「アーシアが死ぬって、どういう意味だ!」
「そのままの意味よ」
一誠の怒号にレイナーレは冷たく返答する。まるで凍りのような声。感情を凍り付かせているような不気味さを感じさせながら、レイナーレは静かに告げる。
「このあとアーシアの『
「な……ッ!」
「……ッ!」
その真実にアーシアと一誠が絶句する。アーシアは思わずレイナーレに問い質そうと声を出そうとする直前、ふと気づいた。
「……レイナーレ様?」
彼女の身体が震えている。右手を強く握り締めるあまり、血が流れ出ている。何かに耐えるように、レイナーレは身体をこわばらせている。その背中から感じる悲憤を、アーシアは無意識の内に感じ取っていた。
「……いつからだ。いつから、アーシアを殺すつもりだったんだ」
「最初からよ」
一誠の問いに、やはり無感情に答えるレイナーレ。
「『
「――嘘だろ、それ」
「……何ですって?」
ピクリ、とレイナーレの貌が一瞬反応する。一誠はその貌を見据えたまま、静かに回想する。
あの日、殺された夜。どうして自分は悪魔になってでも生きようと思ったのか、それをようやく思い出した。それはあまりにも単純で、子供染みた想い。だからこそ、言わずにはいられなかった。
「なら、どうしてお前はそんな辛そうな顔をしてんだよ」
『……なさい、ごめん……い……ッ!!』
あの晩、泣いていた少女。その貌と今目の前にいるレイナーレの顔が、重なった。
「……黙りなさい」
「本当は嫌なんだろ? そんなことしたくないんだろ? だったら、何でそんな嘘を吐くんだよ」
「黙れ……ッ!!」
「お前だってアーシアを殺したくないんだろ? だったら――」
「何も知らない小僧が……知った口を訊くなァあああああああああああッッ!!」
刹那――憤怒を剥き出しにレイナーレは光槍を放った。感情剥き出しの一撃はコントロールなどされておらず、一直線に一誠の足下に激突すると、その衝撃で一誠を吹き飛ばした。
「がはぁッ!」
「イッセーさん!」
無様に転がる一誠。思わず走り寄ろうとするアーシアだったが、その行く手を光の槍が遮る。
「アーシア。もし貴女があの悪魔のもとに近寄るなら――私はあの悪魔を殺さないといけなくなる」
「――――」
その言葉に、思わず立ち止まるアーシア。その時、アーシアとレイナーレの目が合った。そして、だからこそ気付いてしまった。レイナーレが無表情の仮面で必死に悲嘆の表情を隠そうとしていることに。誰よりも優しいアーシアだからこそ、それに気付いてしまった。優しいからこそ、彼女は逆らえない。
「帰るわよ、アーシア」
「……はい」
ふと寄り合う二人。黒い翼が羽ばたき、いざ飛び立とうとした直後、背後から立ち上がった一誠が泥まみれの身体で叫んだ。
「待ち、やが――」
「イッセーさん」
レイナーレに抱きかかえられながら、アーシアは笑う。自分が死ぬと分かった上で、これ以上彼を巻き込まないための嘘を。
「私と友達になってくれて、ありがとうございました。だから、もう十分です。もう十分すぎるくらい、私は救われました。だからイッセーさんは、私と逢ったことを忘れて下さい。イッセーさんは、イッセーさんの生活の中で生きて下さい」
アーシアは笑う。涙を浮かべながら、誰が見ても嘘だと分かる嘘を吐く。ふと、レイナーレが一誠を見た。そして、
「……もし、彼女を助けたいなら今から三時間以内に儀式を止めてみなさい。場所は貴方が訪れた教会の地下。ただし来るなら決死の覚悟で来なさい。何の関係もない他人に命を掛けるなんて馬鹿な真似、しないと思うけど」
“――貴方なんて、いなければよかった”
何か、呟いたと思った直後、レイナーレを中心に旋風が吹き荒れる。目を腕で守り、風が止んだあともう一度そこを見ると、そこには誰もいなくなっていた。
「…………」
誰もいなくなった公園。夕焼けは沈み、物の怪が蠢く時間へと変わる。その中で、一誠はふと地面に落ちていた物を拾い上げた。それはぬいぐるみ。アーシアに渡した縫いぐるみだった。それを優しく握る。
『どんな理由を並べても、男が女を泣かしていい理由にはならないんだよ。嘘泣きはいい、だけど泣きながら嘘を吐かせるような真似は絶対にするな。一度守ると決めたなら、何があっても守り抜け。絶対に泣かせるな』
「……最低だ、俺」
かつて言われた言葉がリフレインする。その約束を破っていた。アーシアは泣いていた。泣きながら、嘘を吐かせてしまった。それも自分のせいで。自分の弱さが原因で。
だからこそ、もう兵藤一誠は迷わない。ぬいぐるみもそっとベンチに掛け、顔を上げる。その瞳には強い意志が秘められていた。
何の関係もない他人なんかではない。彼女は、
「――――大切な、友達だ」
だからこそ、兵藤一誠は駆け出した。それが自己愛で自己満足で自己犠牲だとしても。迷わず、一直線に向かう。その先は――
◇◇◇
「も、もう食えねえっす……」
「ふ、ふぅ、け、計算違いでした……」
「お、おのれ、沈まれ我が胃よ……!」
「つーか馬鹿だろ、おまえら。なに限界超えるまで食ってんだよ」
「う、五月蠅ぇっすよフリード……」
……何だ、これ。
夜。ミッテルト達の休暇に付き合わされた俺は、教会の目前で死屍累々と化していた堕天使ズを頭痛に悩まされながら茫然と眺めていた。こうなった原因は、夕食時に寄ったバイキングのせい。こいつらは食べ放題と分かるやいな猛烈な勢いで食べ始めたのだ。しかも明らかに食い過ぎと言えるにも関わらず全種類食べるという馬鹿な行いを。
それで腹壊したら元もこうもないというのに、まったく。
「ち、面倒くせぇな。シキ、おまえは先に洗濯機のトコ行ってそれ洗って来い。オレはこいつらはを庭で吐かせておくからよ」
「ああ、分かった。……大変だな、おまえも」
「それは言うなよ、情けなくなってくる」
フリードに言われた通り、他の奴等よりひと足先に教会の中に向かう。背後から「丁寧に運ぶっすよ。お姫様だっことかで!」「あ、悪りぃ手が滑った」「うわ止めろっすおボボボロロロッ」「ミッテルトがゲロインに!?」なんて会話が聞こえた気がするが気のせいだろう。
教会の扉を開けて中に入る。すると、礼拝堂の真ん中。十字架が飾られている前に見上げているレイナーレの姿が見えた。
「よお、レイナーレ。おまえ結局これなかったのかよ、ミッテルト達が寂しがってたぞ?」
「……そう」
返答は小さく、何処か元気ない。行く前とはあまりにかけ離れた様子に、疑問を抱かずにはいられなかった。
「何かあったのか?」
「……ねえ、シキ。一つだけ、お願いしてもいい?」
レイナーレは振り返り、まるで己の懺悔を告白するかのように、
「――――私を、殺して」
そう、告げた。
アーシアの『聖女』の告白。
イッセーの『友達』の告白。
そして次回、レイナーレの『過去』の告白。