ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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駄目だ、堕天使達が勝手に動き廻る……!


休暇の過ごし方

 昼頃。胃が空腹を訴えかけてくる時間帯に兵藤一誠は児童公園のベンチに腰掛けていた。今日は平日であるため本来ならば学生らしく学校に要なければならないが、生憎そんな気分にはなれなかった。

 

「はあ…………」

 

 深く溜息を吐きながら昨夜の出来事を思い出す。昨夜、一誠はとある悪魔祓い(エクソシスト)と邂逅した。その戦闘力は圧倒的で、己どころか助けに来てくれたグレモリー眷属達ですら相手にならないほどの強敵。もしあのまま続けいればこうして生きていられたのかも解らないほどの相手。

 

 しかし、一誠にとってそんなことは些細な事だった。肝心なことは別の事。あの夜もう一人いたシスターの少女。

 

「アーシア……」

 

 初めてこの街に来たということで案内した少女。優しくて、宗教には詳しくないがもし“聖女”というものが実在するならば彼女のような人物なのだろうと思う少女。そして、

 

『イッセーさん。また、また会いましょう』

 

 兵藤一誠のことを悪魔だと知ってもなお庇い、そして涙を浮かべながら別れを告げた少女。

 

 悪魔祓い(エクソシスト)には二通り存在する。前者は神の祝福を受けた正規の悪魔祓い。神や天使の力を借りて悪魔を滅する者達。そして後者は神や天使の力を借りず、堕天使の加護を受けて私利私欲に活動するはぐれ悪魔祓い。

 

 信じたくないが、正規の悪魔祓いは個人の自由で悪魔と契約した者を殺害することはないらしい。殺害するとしても、教会からの任務として複数の悪魔祓いが現地に派遣され、教会まで同行して後に処罰されるそうだ。

 

 だとすれば、消極的に彼女は正規の悪魔祓いではなくはぐれ悪魔祓いということになる。だからこそ更に解らない。アーシアが悪魔を殺すことに快楽を求めるような私利私欲な心の持ち主には見えなかった。むしろ、彼女は殺されようとする一誠を庇おうとした。なら、なぜ彼女ははぐれ悪魔祓いと一緒にいる?

 

「……だーもう、分っかんねー」

 

 分からない。何が正しくて何が間違っているのか。なぜ彼女のような人がはぐれ悪魔祓いに属しているのか。自分は彼女をどうしたいのか。助けたいのか、何がしたいのか。助けるとすればどうしたらいいのか。それは己の欺瞞ではないだろうか。彼女はどう思っているのか。

 

 幾ら考えても思考が纏まらず泥沼に浸かっていく。暫く悩んでいると、ふと胃が空腹を訴えて来ていることを今更気づいた。公園の時計塔を見れば既に二時を過ぎてしまっている。

 

「とりあえず、飯にするとしますか」

 

 腹が空いては何とやら。腹に何かを詰め込まなくては脳も碌に働かないだろう。気分転換も兼ねて昼飯にしようと一誠は顔を上げて、

 

「………うん?」

 

 ふと、眼前におかしなモノが見えた。黒くて丸い塊。それが児童公園の敷地内で蠢いている。黒い布の隙間から金色の紐のような束が見えて、そこはかとなく不気味である。しかし、一誠はその未確認物体に何処か見覚えがあった。

 

「…………」

 

 恐る恐るといった様子でその黒い塊に近づいて行く一誠。あと一歩の距離まで近づくと、その全貌を見る事でようやくそれが何なのか確信した。

 

 未確認物体の正体。それは、

 

 

 

「お腹が、空きました……」

 

 

 

 空腹で倒れているアーシア・アルジェントだった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「んぐ、むっ、ん、ん、ん、むぐむぐ」

 

「…………」

 

 物凄く奇妙な光景だった。悪魔とシスターが机に座って仲良く食事をしているのも随分あれな光景だが、何よりシスターの食事姿が何というかフードコート内で物凄くミスマッチである。他の客もそんな見慣れない光景に何度かこちらをチラ見しているのを一誠は感じていた。

 

 しかし、注目の的である本人は世間の目など関係なさげに一心不乱に手元のハンバーガーを口に運んでいる。その様子からではつい先ほどまでハンバーガーの食べ方を知らず若干涙目だった少女と同一人物とは思えない。

 

 おそらく今の彼女は何を言っても右耳から左耳に流れていくだろう。それほどの集中力と執念を感じる。昼頃の騒がしい時間帯だというのに、今の彼女にとって周囲の声音など何一つ耳に入っていないだろう。

 

 

 

『む……。なんだこの湿ってふやけたポテトは。こんな粗悪品を平然と客に出すなどこの店はいったい何を考えているのだ。少し文句を言ってくる』

 

『やめなさいドーナシーク、みっともないですよ。ファーストフードとはそういうものなのです。他の者達は自分のモノが当たりであれ外れであれ、何も文句を言わずに食しているでしょう? 郷に入れば郷に従え。これも人間社会を体験する良い経験となるでしょう』

 

『ふむ……そういうものなのか』

 

『ええ、ですから―――……』

 

『ん? どうしたカラワーナ、そんなポテトを持ったまま固まって……ほう? くくくっ、どうやらお前も外れを引いたようだな。しかも私より湿っているとは、お前もつくづく運が無い。まあこれも人間社会を体験する良い経験となったではないか』

 

『……………………呼べ』

 

『む? 今なんと言った?』

 

『―――店長を呼べええええええええええええええええええええええええぇぇッッ!!』

 

『ええええええええええええええええええええっっっ!?』

 

『そこの店員! 今すぐここの店長を連れて来なさい! 十秒以内で!!』

 

『お、落ち着けカラワーナ! というかお前言ってることがさっきと真逆だぞ!?』

 

『放しなさいドーナシーク! 私にドーナシーク以下の飯を食えなど、そんな靴の底を舐めさせられるような侮辱を受けて許せるはずがないでしょう! 万死に値します!!』

 

『あれ? なんか物凄く馬鹿にされてないか私?』

 

 

 

 何やら店内が騒がしいが、昼頃なので仕方ないことだろう。シェイクを啜りながら一誠は小さい口でハンバーガーを頬張るアーシアを眺めながら遠い目をしていた。

 

「むぐ、もぐ、んぐ、はぐ―――ごふっ!?」

 

「ほら、お茶。そんなに慌てなくても大丈夫だからな」

 

「~~~~ッ! プハッ! あ、ありがとうございますっ」

 

 一気に詰め込んだ所為で咽るアーシアにそろそろだろうなと予測していた一誠がアーシアのお茶を渡した。よほど息苦しかったのか、アーシアは受け取るや否や一息で呑み干し、安堵の溜息を吐いた。

 

「た、助かりました。危うく主様の元に行くところでした」

 

「まあ別にいいけどさ。それよりもそんなに慌てて食べるなんてどうしたんだ? 断食でもしてたのか?」

 

「ぅ…………」

 

 ふと思った一誠の問いにアーシアは顔を紅潮させた。出来ればあまり聞かれたくない話だったのか、彼女は赤くなった顔を俯かせると、おずおずといった様子で一誠を上目遣いで見た。

 

「あの……その……笑いませんか?」

 

「…………?」

 

 そんなにも恥ずかしがることなのだろうか、一誠は思わず首を傾げる。アーシアは恥ずかしいのか顔を茹で蛸のように真っ赤にしながらぽつりぽつりと話し始めた。

 

「じ、実は今日の仕事が休みになったんです。ですが、休みなんて今まで貰ったことがなくて何をすればいいのか解らなくて……」

 

「へー……(というか、今まで休暇が無かったのか)」

 

 教会の予想以上のブラック企業気味に少しだけ戦慄する一誠。今まで休暇を味わったことがないとは教会はなんとハードな仕事場なのだ。自分だったらそんな職場一ヵ月で辞表を出す確信がある。

 

「それで、今日は何をするか考えていたのですが……その……」

 

 アーシアはそこで一旦区切ると、羞恥心なのか頬を赤く染めて、

 

 

 

「…………朝食が、無かったんです」

 

 

 

「…………はい?」

 

 アーシアの何とも外れた言葉に一誠は腑抜けた声で訊き返してしまう。えっと、つまり、なんだそれ?

 

「実は本日の食事当番の方も休暇を貰ったらしく、食堂に行っても誰も居なかったんです。最初は休みだから仕方ないと思っていたんですが、よくよく考えたらわたし日本語喋れないじゃないですか? だからわたし一人じゃ外食も出来なくて、それで気づいた時にはどうしようもなく……」

 

「……それで、空腹で公園に倒れていたと」

 

「はいぃ……」

 

 よほど恥ずかしいのか、アーシアの顔が湯気が出そうなほど真っ赤に染まっている。まあ無理もないだろう。空腹で倒れていた何てことを知られたら誰だって恥ずかしいに決まっている。

 

「まあ、ある意味運が良かったかもな」

 

「? どういう事ですか?」

 

「だってほら」

 

 そう言って一誠は啜っていたシェイクをアーシアに見せつける。アーシアはそれをキョトンとした表情で眺めながら、食後のお茶を飲んでいる。それを眺めながら一誠は告げた。

 

「こうして一緒に『お茶』できただろ?」

 

「え……? あ、はい! 約束守れましたね!」

 

 初めて逢った時の約束。また逢ったら一緒に『お茶』をしようという約束は、偶然だが確かに果たされた。それが嬉しくてアーシアは満面の笑顔を浮かべ、一誠もそれに連られるように笑みを浮かべる。

 

 そうして暫く笑い合っている内にだいぶ解れたのか、アーシアはふと一誠に尋ねていた。

 

「あ、あのイッセーさん! 出来れば相談に乗って貰えませんか?」

 

「うん? まあ俺が応えられることなんて少ないけど、それでもいいならいいぞ?」

 

 話している間にアーシアはだいぶ明るくなってきた。元々こういう性格だったのかはさておき、女の子に頼られるというのは男として嬉しいものだ。ゆえに言葉では謙遜しつつも内面で百通りの質問と回答を瞬時に想定して、

 

「休暇って何をすればいいんですか?」

 

 椅子からダイナミックに転がり落ちた。

 

「イッセーさんっ!?」

 

「ああ、いや、大丈夫大丈夫。イッセーさんはノープログレムですよー」

 

 心配してくるアーシアを宥めながら一誠は慌てて椅子に座り直した。よくよく考えてみれば当然のことだろう。今まで休暇をほとんど味わったことがない人からすれば、休暇とは未知の存在だ。

 

 ならば、と一誠は思考する。どうせ今日は学校に行くつもりなどもう更々ないのだ。ならその時間を有意義に使おう。学校をサボって女の子と遊んでいたなんてことを元浜や松田に知られれば後でシャイニングウィザードからの筋肉バスターでとどめに地球投げを食らわせられるかもしれないが、そんなもんは知らん。要ないほうが悪いのである。

 

「アーシア!」

 

「は、はい!」

 

「俺が休暇の過ごし方ってヤツを教えてやるよ」

 

「え?」

 

「つー訳でさっさと行くぞアーシア! まずはゲーセンだッ!!」

 

「わっ、ま、待って下さいイッセーさ―――んッッ!?」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「峠最速伝説イッセー様のお通りだああああああっ!!」

 

 ハンドルを捌きつつギアチェンジを行い、アクセルを踏み込んで一気にカーブで他の選手との距離を開く。数ヶ月ぶりなので腕が鈍っていないか不安だったが、どうやら問題ないらしい。伊達に中高帰宅部で身近のゲーセンの記録を塗り変えてきた過去ではないのだ。とはいっても現在はオカルト研究部所属なのだが。

 

 華麗に一位でゴールを決めつつ身体に染み付いた経験は中々落ちないものなんだなーと感慨深く頷く一誠。それに何と言っても、

 

「イッセーさん一位ですよ! やりましたねっ!」

 

 すぐ真横で他人のプレイを自分のことの様に喜んでくれる人が要たら普通は当然やる気が上がるだろう。この少女、真横で何かする度に良いリアクションをしてくれるのでつい本気でやってしまった。

 

 現在一誠達はゲーセンに訪れていた。休暇を教えてやると意気揚々と告げたのは良いが、よくよく考えてみれば女の子が喜ぶ場所など男である一誠が知るはずもなく、散々迷った結果自分が行き慣れていたゲーセンを紹介した。最初は騒音に驚くアーシアを見た時に失敗したかと思ったが、こういった多くの機械を見る経験が無かったのか、興味深そうに周囲を見渡している。

 

 多くの機械音で周囲は埋め尽くされ、近くでなければ声も聞き取れない。おそらくここで知り合いに出くわしたとしてもほとんど気づけないことだろう。

 

 

 

『ふっふっふ、ウチの選ぶキャラはこいつッス! いでよ! 第六天カレーマンッ!!』

 

《どうだぁ? 俺のカレーは旨いか?》

 

『じゃあオレはこいつな』

 

《厳然な実力差というものを教えて差し上げましょう》

 

『おや? 全キャラ中最弱といわれているシュピ虫を選ぶなんて、ひょっとしてフリード端から負けるつもりッスかー? プププ、まあチート性能し過ぎて公式大会では使用禁止にされたこの最強カレーマンを先に選ばれた時点で、同じキャラを選べないこのゲーム設定上フリードの敗北は決定してたんスけどね! ザマァッ!』

 

『ハッ。この程度ハンデにもならねえよ』

 

『おやおや~? ひょっとして強がりッスかーフリードくーん? 言っとくッスけど、約束のこと忘れてねえッスよね? 敗けた方は勝者の言うことを何でも訊くってヤツ。いやー今から楽しみッスねー! ちなみにウチが勝ったらフリードはウチの奴隷になるんスからね? 今まで受けた屈辱を何倍にも上げて返してやるッス……ッ!』

 

『性的な意味で?』

 

『そうそう―――って、ななな何言ってんスか!? 馬鹿じゃないッスか! 馬鹿じゃないッスか! 馬鹿じゃないッスか! 馬鹿じゃないッスか!』

 

『あー、でもそれだと無理だな。おまえのまな板ボディじゃおっ勃たねえわ。つー訳でもうちっと歳取ってから出直すか別のを考えとけよ』

 

『ふ……ふふふふ、ふふふふふふふ! もうキレたッス。ウチの堪忍袋もブチっときたッス。最後の情けで精々ウチの椅子になるくらいで許してやってもいいかなと思ってたすけど、もう我慢なれねえッス!』

 

『まあそれだと、オレらの体格的にチビッ子の文句を訊いてあげる優しいお兄様って構図になるわな』

 

『シャラップ! おめえの様な外道が優しいお兄様なわけないッス! もういいッス。フリードにはウチを本気でキレさせた事を後悔させてやるッス! フリードには、全裸で逆立ちしながら町内一周の刑にしてやるッス! ふふふふ、精々警官に見つかって変態という汚名を着たまま牢屋にぶち込まれればいいッス……!!』

 

『へいへーい。負けたらな』

 

『そんな減らず口きけるのも今の内ッスよ! レディィ……!』

 

『あ、言い忘れてたがオレが勝ったらおまえクレーンゲームで一番奥にあるヤツ取るまで何もしちゃ駄目だからな? 勿論トイレもだ。ああ、金が無くなっても貸してやるから安心しろ。ただしトイチだけど』

 

『ここに現実的な鬼がいるッス……! てちょ、不意打ちとか卑怯ッスよ!? ……って、あ、あれ? なんかウチのカレーマン、全然操作できねえんスけど。右端に寄せられたままドンドン一方的に攻撃されてみるみる上に上がっていってんスけど!? これ無限ループ入ってんじゃね!?』

 

『悪ぃが、こっから先は一方通行だ。おまえのターンねえから』

 

《ジィィィクハイル・ビクトォォォォォリアァ―――ッッ!!》

 

『そ、そんな馬鹿なアアアアアアッ!?』

 

 

 

 何やら奥の格ゲー場所から何処かで訊いた覚えのあるような声が聞こえてきたが、きっと気のせいだろう。もしくは単なる勘違いか。そう自分に言い聞かせ一誠がアーシアの方に振り向くと彼女はその場に居らず、すぐ傍のクレーンゲームの前に張り着いていた。

 

「どうしたアーシア、何か欲しいものでも在ったか?」

 

「はぅ!? い、いえ何でもありませんよっ?」

 

 アーシアはそう言って両手を振って否定するが、視線がチラチラと向いているため丸分かりである。視線の先を辿っていくと、そこにはネズミがモチーフとなった世界的人気マスコットキャラ『ラッチュー』の人形が。本人は別に何でもないと必死にアピールしているが、視線はものを言うという事で好きなのが丸分かりだった。

 

「よし、ここは俺にまかしてけって」

 

「い、イッセーさん?」

 

 目の前で女の子が欲しそうにしていたらついあげたくなってしまうのが男としての性である。一誠は財布から五百円玉を取り出すと投入し、クレーンを動かして目標の獲物を狙い付ける。

 

 一回目は失敗したが、それは目分距離と感覚を合わせるため。二回目ではその誤差も縮まり、三回目では見事ラッチューを掴み落とし口に入れることを成功させた。

 

「うっしゃ!」

 

 内心、ここでゲット出来ずに恥ずかしい思いをする羽目になったらどうしようと危惧していた一誠だったが、無事に手に入れられたので心から安堵したあまりついガッツポーズをしてしまう。男としてカッコつけた女の子の前で恥ずかしい思いをすることは自殺もんに等しい。

 

「ほらアーシア、これが欲しかったんだろ?」

 

「で、でもいいんですか? そのラッチューくんはイッセーさんが自分の手で手に入れた物なのに……」

 

「いいんだって、俺が勝手にしたことなんだし。それに、こういう時はお礼を言われる方が嬉しいもんなんだぜ?」

 

「あ……ありがとうございます、イッセーさん!この人形大切にしますね!」

 

 アーシアはそう言うと宝物でも扱うように人形を抱き締めて、満面の笑みを浮かべた。その笑顔があまりに眩しくて、喜んで貰うために渡したはずの一誠も顔が赤くなった。だからこそ、一誠はその恥ずかしさを紛らわすようにアーシアの手を掴み、ゲーセンの奥へと向かう。

 

「よし、アーシア! まだまだこれは序の口だ。今日はとことん遊び尽くすぞ!」

 

「あ、はいッ!」

 

 その時向けられた笑顔は、やはり太陽のように眩しかった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「いやー今日はとことん遊んだな。もうクタクタだぜ」

 

「ほんとですね……。わたしも、少し疲れました……」

 

 夕方時。太陽は紅く染まる時刻まで遊び倒した一誠とアーシアは、公園のベンチに腰掛けながら休んでいた。本当ならば疲れるまで遊び回るつもりは無かったのだが、アーシアのリアクションが毎回新鮮でついこの街の隠れスポットまで案内してしまった。休憩がしらに自動販売機で購入したジュースを一誠が飲んでいると、ふと人形を抱えたアーシアの手元にあるジュースがもう無くなっていることに気づいた。

 

 こういう時は男が率先して動かなければならない。一誠は新たな飲み物を買って来ようとベンチから腰をあげて、

 

「――――ッ!」

 

 ズキンッ、と怪我していた内臓に痛みが奔りつい顔を歪めてしまう。昨夜、悪魔祓いにやられた箇所は普通ならば攻撃を受けない場所であるため耐性があまり無かった。なので現在でもこうして気を抜いていると当然襲ってくる痛みに堪えられなくなる時がある。

 

「……イッセーさん、怪我しているんですか? もしかして……昨日のせいで?」

 

 見られていた。ようやく自然な笑顔を見せてくれるようになったのに、少し気を抜いたせいでこの様だ。またその笑顔を曇らせてしまった。自分は偽善使い(フォックスワード)にすらなれないのか。

 

それでも一誠は笑った。少しでも心配を掛けないように、嘘吐きでこの少女が少しでも救われるのならそちらの方が何倍もいいと言うように。

 

「あー、これは違うからな? これは今朝階段を降りるときに誤って転がり落ちた時に怪我したヤツで―――」

 

「イッセーさん。怪我、見せて下さい」

 

「あ、うん」

 

 有無を言わせぬその迫力に一誠はつい従ってしまう。シャツをめくり上げると、鳩尾の箇所。その部分が酷く赤くなっていた。その様子にアーシアは一瞬痛ましげに目を細めたが、そっと彼女の手が怪我の箇所に触れた。

 

「――――」

 

「じっとしてて下さい。すぐ済みますから」

 

「あ、うん、はい」

 

 触れられた瞬間ビクッと身体が震えたが、アーシアに窘められて動きを停止させる。実はアーシアの柔らかい手が触れられたため背筋に電流が奔るような感覚で驚いたのだが、アーシアにはとても言えなかった。

 

 ふと、アーシアの手に優しい碧の光が纏わった。その光が怪我の箇所に当たると、痛みがドンドン引いていっているのが感じられる。しばらく経過してアーシアが一誠の身体から手を離すと、怪我の在った箇所はすっかり張れてなどいなかった。

 

「これでどうでしょうか?」

 

「おお……!」

 

 触れてみるが、痛みを感じない。先ほどまで深く深呼吸すれば肺が痛んだが、今ではその痛みすら消えている。その効力に、一誠は驚愕した。

 

「凄えな、痛みが全然感じなくなった! 治療の力、凄い力だ。……もしかして、これって神器(セイクリッド・ギア)なのか?」

 

「はい、そうです」

 

 そう答えたアーシアの表情が一瞬強張ったのは目の錯覚だろうか。

 

「……なんてゆうかさ、アーシアは凄いな。俺なんかまともに神器を使えないし、そもそも本当に俺が持ってるのかも分からないのにさ。それなんかと比べたら、やっぱりアーシアの力は凄えよ。これって人や動物、あと俺みたいな悪魔まで治せるんだからさ」

 

 そう言われて。アーシアは一瞬、ほんの一瞬だけ悲しそうに微笑んで、ふと、頬を一筋の滴が流れていった。そしてその滴は更に量を増していき、ついにアーシアは咽び泣き出した。

 

「……アーシア?」

 

「ごめん、なさい……少しだけ、待って下さい……!」

 

 泣きながら声だけは漏らさまいと肩を震わせながら嗚咽するアーシア。その様子を見て、一誠はただ茫然とするしかなかった。何がいけなかったのか、どうするべきなのか、そういった思考は目前の光景に呑み込まれていく。

 

 彼に出来たのは、何も言えない己の無能さに震える拳をただ握り締めながら茫然と眺めていることだけだった。

 

 ………それからどれほど時間が過ぎただろうか。一誠の体感時間では既に一時間は経過したような感覚があるが、太陽の沈み具合いから考えると十五分そこらしか経っていないのだろう。ようやく落ち着きを取り戻したアーシアは、ゆっくりと口を開いた。

 

「……すみません。少しだけ、昔話をしてもいいですか?」

 

 

 

 ――――それは「聖女」として祀られたとある少女の物語だった。

 

 

 

 




いつか教会メインの話を書きたい。
ところでハイスクールD×Dの三大勢力って人間のこと蔑ろにし過ぎていると思うのは作者だけでしょうか? 三大勢力同盟結ぶ時も人間の事はスルーだったし。天使陣とか神様死んでんのに黙っていて、神の死を知ったエクソシストは最初異端者扱いでしたしね。天使陣いつかエクソシストに復讐されても仕方ないぞ(笑)

まあハイスクールD×Dの天使や悪魔は人間臭いのが多いので、一部の崇拝なエクソシストからは「神の死により、私の理想像である神は守られた!」みたいな考えをする持ち主が現れるかも。だって聖書などではガブリエルとか理解できない存在なのにめっちゃ人間臭いじゃないですか。だからあれ見てると崇拝する存在とは思えないんですよね。コカビエルに至っては「戦争を起こし、堕天使こそが頂点に立つのだ!」とか完全に子供の発想だし(笑) 普通幻滅するぞ。

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