ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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最近ネタばっかりで全然執筆してねえ……


モーニング

「今日は自由行動よ。皆、好きな事をしていいわ」

 

 まだ日も昇らない朝の早い時間帯。朝一のモーニングコールで叩き起こされ、無視して二度寝を決め込もうとした直後なぜか俺の部屋に不法侵入していたミッテルトにドロップキックを鳩尾に食らわされて意識を失い、気が付くと教会にいた。

 

「…………おい、ちょっと待て」

 

「? 何かしら、信貴」

 

 不思議そうに首を傾げるレイナーレ。

 

「何かしら? じゃねえだろ。なに? おまえらそれを告げるためだけに態々俺を教会に拉致したのかよ。それなら携帯で連絡すればいいだろうが」

 

「あなた、前回携帯見てなくて買い物忘れてきた前例があるでしょ?」

 

「ぐぅ…………!」

 

 確かに一度、パシられた時に携帯のメールに気づかなくて二度買い物することがあったので、それを言われてしまったら言い返せない。ちなみにその時に増えた品物は割り箸だった。正直置き溜めしとけよと本気で思った。

 

「まあ、普段味わえない刺激的な朝を送ったっつー訳で満足しとけよ」

 

「そおッス。気絶したアンタを運ぶの大変だったんスからね!」

 

「脚を持って逆さの状態で運んでいる最中は何度か電線に引っ掛けそうになったがな」

 

「周囲の人にバレなかったのは私の認識阻害結界のおかげですね」

 

 各々好き放題に言ってくれる。とりあえず先程から頭痛がする理由が解ったので、あとでミッテルトを処刑するとしよう。

 

「酷いッス!」

 

「勝手に人の心を読むな」

 

 エスパーか何かかおまえは。

 

「信貴は考えてることがすぐ顔に出てるから解かりやすいッス。どうせ脳内でウチの身体を縛って抵抗できないようにして、『ぐへへへッ、ここが良いんだろぉ? ぅん?』みたいな事を言いながら無抵抗なウチの身体を好き放題にするつもりだったんスよね? 薄い本(ソリッドブック)みたいに! 薄い本(ソリッドブック)みたいに! ッてぁ痛ッ!?」

 

「誰がやるか、この妄想女」

 

 ふざけた事をぬかしていたので頭にチョップを叩き込んで黙らせる。すると、フリードがミッテルトを庇うように一歩前に出て言った。

 

「おいおい、ちょっと待てよ信貴。こいつの身体はオレのもんだ」

 

「そうそう、ウチの身体は―――って何言ってんスかバカフリードッ!?」

 

 顔を赤く染めながら激昂して攻撃するミッテルトを笑いながら見事に躱し続けるフリード。最近では見慣れた光景なので何も感じなくなってきた。

 

「ってこんなことしている場合じゃねえッス! 時間は有限! こうしている間にも刻一刻と時間が過ぎていくッス! ほら、何をぼさっとしてるッスか信貴! さっさと最近おすすめな甘いお菓子が売っている店を紹介するッス!」

 

「……は? いや、ちょっと待て。何で俺も行くこと確定してんだ? 俺は今日も学校があるんだが」

 

 時間的にそろそろ家に戻らないと間に合わない。だからすぐに帰るつもりだったんだが、こいつは何を言っているのだろうか。

 

 しかし、ミッテルトはそんな俺の事情など知ったことかと言わんばかりに怒鳴り散らかしてくる。

 

「学校なんて毎日行ってんスから今日ぐらい休んでもノープログレムッス! それよりも今日まで休暇を貰えなかったウチ達を案内するべきッス! あー、今まで待機という名の教会から出られない半ニート生活……外出できたのは滅多にない任務と買い出しのみ。毎日毎日お菓子を食い漁りながら待ち続ける日々。ようやく、ようやくまともなショッピングが出来るッス……!」

 

「まあ、菓子ばっか食って食っちゃ寝の生活を送ってるから体重が激増しちゃってるけどな」

 

「いやァああああああッ!! な、何で思い出させるんスかフリード! せっかく記憶の奥底に封印していたというのに! これじゃまたお菓子食べるとき罪悪感を覚えるじゃないッスか!」

 

「食わねえって選択肢はねえのかよ」

 

「それに、一つ訂正するなら私もレイナーレも体重管理は心掛けていましたよ? 毎日毎日馬鹿みたいにお菓子を食べていたのは貴女だけだという事をお忘れなく」

 

「ゲェッ!? ひ、酷い裏切りを受けたッス!? ウチら、ダイエット(しぬとき)は一緒だって言ってたじゃねえですか!?」

 

「それは貴女の身勝手な妄想です。そのような約束はした覚えがありませんし、これは完全な自業自得です。これからはそうならないように気を付けなさい」

 

「こ、こうなったら……甘いお菓子食って嫌なこと忘れるッス―――ッ!!」

 

 本末転倒だろ、それ。それにそもそも、

 

「いや、その前に俺寝間着だし。この格好じゃ外出れないからな?」

 

 寝ているところを襲撃されたので、現在の服装は寝るときに着ていた寝間着のままだ。流石にこのような格好で外を歩いていたら注目を浴びるだろうし、何よりそのまま連れて来られたせいで靴がない。これでは外を出歩くなど出来まい。

 

 そう告げると、ミッテルトはゆっくりと俺の襟首を掴みながら持ち上げて、

 

「何で私服着てねえんスか、この塵野郎ッ!!」

 

「勝手に無理矢理連れて来たのおまえだろ!?」

 

 物凄い理不尽な理由でキレられた。どうしよう。朝の出来事といい、一遍こいつボコっても問題ない気がしてきた。

 

「あーもう、分かったッスよ。服があればいいんスね。ほら」

 

 ミッテルトは心底しょうがなさそうに嘆息すると、何処からか服を取り出して渡してきた。そのやれやれ仕方ないなーという仕草に苛立ちで血管が浮かび上がってきそうだったが、何とか抑えて渡されたモノを見る。

 

「…………」

 

「ん? どうかしたんスか、そんな固まって。あ、ひょっとして思春期の男子生徒に在りがちな着替えを見られるのが恥ずかしいとかッスか? まあウチらは別に気にしないッスけどそこまで気になるっていうなら向こうの柱の陰で――」

 

「…………おい、何だこの服」

 

「何って、そりゃ――」

 

 俺の手に渡された服。それは黒色が特徴的で、全体的にフリフリが目立ち、まるで西洋人形が着込んでいるような――

 

「ゴスロリ服ッスけど?」

 

 何処からどう見ても、正真正銘ゴスロリ服だった。

 

「…………」

 

 頭痛が痛い、などという重複表現を使いたくなるほど眩暈がする。こいつはあれか、ついに性別が解らなくなるほど頭がイカれちまったのか。

 

「あのさ、一つ訊くけどさ……おまえ、俺の性別分かるか?」

 

「? なに寝惚けたこと言ってんスか? そんなもの男に決まってんじゃねえッスか」

 

「そうだよな。……なら、なんでこんな女性専門の服装渡してきやがった?」

 

 その問いにミッテルトは首を傾げ、うーんと唸りながら考える素振りを見せると、満面の笑みを浮かべながら親指をグッと立てて、

 

「信貴は女顔だし、きっと似合うッスよ!」

 

 ―――よし、殺そう。

 

 即断して得物(ナイフ)に手が伸びそうになるのを顔を引き攣らせながら必死に耐える。この馬鹿はあれか、今のが褒め言葉だと本気で思っているのだろうか。男にとって綺麗や可愛いなどという言葉は屈辱以外の何物でもないというのに。第一、俺に女装趣味はない。

 

「おーおー、んじゃまあ信貴ちゃんのお披露目会でも始めるとすっか?」

 

「―――よし、フリード。おまえ喧嘩売ってんだよな? いいぜ、今なら買ってやるよ。ただし負けた場合はおまえがこれを着ろよ」

 

「ハッ、アホかおまえ? んな格好オレがするワケねえだろうが。頭ボケてんじゃねえだろうな?」

 

 飄々と軽薄な笑みを浮かべるフリード。こいつの場合ニヤけた顔が更に怒りを注ぐため出来れば今すぐぶん殴りたい。しかしそれを予測しているのか、ちょうど俺が二歩踏み込まなければ届かない距離にいるため、殴り掛かれば易々と避けられてしまうだろう。

 

 というか、そもそも。

 

「何でゴスロリ服の上に下着が置かれてんだよ。俺に着ろってか? 馬鹿かおまえ。ああ、いや、そういや馬鹿だったなおまえ」

 

 何故か渡された服の上に白い女性用の下着が置かれており、対極的な色が下着の存在感を強く醸し出している。こんなもんを見せびらかして、こいつには羞恥心というモノが無いのだろうか。いや、在るわけないか。だってミッテルトだし。

 

「フフフフッ、残念ッスね信貴! それはこの前ウチが買ってきたおニューのパンツッスから、幾ら舐めようとくんかくんかしようと無駄無駄ッス! だから信貴が如何に誤魔化してそのパンツを盗んでも全く無駄ッスよ!!」

 

「誰もそんな変態染みたことする奴いねえよ」

 

 そんな変態がこの世にいて堪るか。

 

「ちなみにドーナシークは変態ロリコンジジイだけどな」

 

「フリードォォおおおおおおッ!? 貴様なぜこのタイミングで再びバラした!? だからそれは冗談だとあれほど言ったではないか!!」

 

「うわぁ……」

 

「うわぁ……」

 

「うわぁ……」

 

「うわぁ……」

 

 ドーナシーク、おまえ……。

 

「や、やめろ……そんな、汚物を見るような、蔑んだような目で私を見るなアアアアアアッ!!」

 

 俺達の視線に耐えきれなくなったのか、ドーナシークは悲痛な絶叫をあげながら教会から去っていった。背中が悲しみを語り、目から涙が流れているように見えたが彼の尊厳のために見なかったことにしよう。

 

「あ! ドーナシークテメェ、先に行ってお菓子を食べ尽くすつもりッスね! そうはさせねえッスよッ!!」

 

 そもそもミッテルトには見えていなかったのか、そんな検討違いな考えを叫びながら彼のあとを追い掛ける。それをカラワーナは微笑ましそうに眺めながら保護者のような視線で見つめていた。

 

「まったく、慌ててもお菓子は逃げないというのに。少しは落ち着きというものを知らないのでしょうか、彼らは」

 

「そうだな。ところでおまえの持っているその何十回も読み返されて、この周辺の店について紹介されているその雑誌はなんだ?」

 

「……コホン。さて、私達も遅れないように早く追い掛けましょう」

 

 無視か、おい。

 

「ほら、フリードと信貴! 何ぼさっとしてるんスか、さっさと行くッスよ!!」

 

 扉の向こう。そこではドーナシークが体育座りの姿勢で落ち込んでおり、その襟首を掴みながらミッテルトが楽しそうにこちらに満面の笑みを浮かべて手を振りながら待っている。

 

 ……やれやれ。ここまで来たら仕方ない、俺もいい加減覚悟決めるとするか。

 

「フリード、おまえの余った服少し貸してくれ」

 

「なんだおまえ、ペアルックでもしたいのかよ気持ち悪っ」

 

「―――フリード」

 

 もう一度名前を呼ぶ。今度は少しだけ怒気を込めて、これ以上はふざけることは許さないと告げるように。

 

「はいはい、分―かってるって。んな一々睨むなよ。ほらよ、貸してやるからありがたく受け取って五体投地で感謝しろ」

 

「言ってろ馬鹿」

 

 空間から取り出された神父服を受け取りすぐさま着替える。正直こんな服装を着る機会なんて一生無いと思っていたが、これ以外に着れるものがないので仕方ない。ゴスロリ服? あれはそもそも対象に入っていない。

 

「そういやレイナーレは行かないのか?」

 

 新たな服装に着替え終え、他のメンバーのあとを追おうとした時、未だに教会に残っていたレイナーレに話し掛ける。彼女は若干気まずそうに微笑むと答えた。

 

「私はこれからやることが少しだけあるの。だから最初はあなた達だけで愉しんできなさい。私もあとで合流するわ」

 

「そうか。ならさっさと用事すませて来いよ? あいつらおまえがいないと寂しそうだからな」

 

 ミッテルトもそうだが、何だかんだ言ってドーナシークやカラワーナもレイナーレを慕っている。レイナーレがいるといないだけでテンションに大きな差が出そうだ。それに、愉しむなら全員で愉しんだ方がいいに決まっている。

 

「それと、今日はごめんなさい。あなたにはあなたの用事があるのに、無理矢理付き合わせちゃって……」

 

「ん? まあ気にするなよ。別に俺は気にしちゃいないし、偶にはこういう気分転換もいいもんさ」

 

 よくよく考えてみればこうして街に友人と繰り出すのは久しぶりだ。最近は何かと忙しかったし、休日も教会に呼び出されて待機することが多くて友人からの誘いも断っていた。そう考えれば学校をサボって遊びに行くというのは些か不謹慎だが、まあ偶にはいいだろう。

 

「じゃあ俺はもう行くけど、おまえもさっさと来いよ」

 

「ええ、いってらっしゃい」

 

 僅かに手を揮うレイナーレに見送られ、俺は我先にと既に姿が見えなくなっていた彼らの後を追い掛けるのだった。

 

 ……というか、案内しろって言ってたのにその案内人を置いて行くとか何考えてんだあいつら。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 最後に出て行った少年の後ろ姿を見送ると、レイナーレは振っていた手を降ろし深々と嘆息した。

 

『そうか。ならさっさと用事すませて来いよ? あいつらおまえがいないと寂しそうだからな』

 

「……寂しそう、ね」

 

 そう吐き棄てて、自嘲する。自分にそんな資格があるのだろうか。組織を裏切って、慕ってくれる大切な仲間さえ騙して。そんな薄汚れた自分が、本当に彼らとも共に要ていいのだろうか。

 

「……それでも、やらないと」

 

 そのために何の罪もないあの少年を殺したのだ。

 

 そのためにあの穢れ無き聖女を巻き込んだのだ。

 

 そのために大切な彼らを騙したのだ。

 

 あの子たちを守るためなら―――私は何だってすると、あの日誓ったのだ。

 

「……そこに要るんでしょう? コカビエル」

 

 決意を胸に、レイナーレは背後の暗闇へと振り返った。教会にはもはや誰も残っておらず、そこ囁きは誰の耳にも残らず闇の中へと消えていくはずだったが……

 

「―――中級堕天使風情が、随分と礼儀がなっていないな。貴様は上司を敬う気持ちを知らないのか?」

 

 コツン、と誰もいないはずの礼拝堂から足音が響き渡る。足音が鳴るたびにその音の主が近づいてきて、朝方の昏い室内でもその姿を顕にする。

 

 そこにいたのは、レイナーレ達とは比べものにならないほど力を内包した存在。背中には五対十翼もの漆黒の翼が在り、堕天使の中でも上位に存在する人物であることが一目で分かる。

 

 しかし、そんな相手でもレイナーレは態度を変えることなく睨み付けるようにコカビエルを見る。

 

「あなたを敬う気持ちなんて、出逢った瞬間からとっくに消え失せてるわ。それよりも、今日いきなり話があると連絡してきたのは、何かやるつもり何でしょう? 答えて貰うわよ」

 

「ほう? 何が訊きたい?」

 

「全部よ」

 

「……なに?」

 

 今まで不敵な笑みを浮かべていたコカビエルの顔が一瞬真顔になる。レイナーレはその面を睨み付けながら言葉を告げる。

 

「全部、全部よ。あの少年を殺せと命じたこと。アーシアをこの街に連れてきたこと。これから何をしようとしているのか。隠していること全部答えなさい! いったい、あなたは何を―――」

 

「なるほど。だから今日この教会から皆を追い出したのか」

 

「―――ッ!!」

 

 ふと、レイナーレの顔が苦悶に歪む。コカビエルはその表情をむしろ愛でるように、嘗め回すように眺めて嗤った。

 

「確かに、他の者には聞かせたくないのだろうな。貴様が奴らを騙していると知られれば、それはさぞかしショックを受けるだろう。くっくっく……!」

 

「黙りなさい……ッ!!」

 

 怒りで肩を震わせながら、レイナーレはコカビエルを殺すような殺気で睨み付ける。しかし、そんなものは歴然の戦士であるコカビエルにとってすれば餓鬼の視線となんら変わりない。むしろ愛らしいくらいだ。

 

 この女の苦痛に歪む顔は中々に“よい”。己の善と現実の違いに心を摩耗し、堕ちていく様は見ていて実に愉悦だ。だからこそ、コカビエルは嘲笑の笑みを浮かべる。

 

「ふむ、そうだな。最後の手土産として、特別に教えてやろう」

 

「最後、ですって……?」

 

 ゆえに、女よ。選ぶがいい。“自”を選ぶか、“他”を選ぶか。どちらにせよ、中々の余興となるだろう。

 

「レイナーレ。貴様等には―――」

 

 

 

 ―――俺のために死ね。

 

 

 

 




とりあえず今回はここで終了。本当はイッセーとアーシアのデートまで書きたかったのですが、キリがいいのでここまで。

とりあえず予定ではあと六話ぐらいで終わる予定。……あれ? まだまだじゃね?

ところで裏話。曹操は本当の予定では水銀の蛇に出逢う前の黄金の獣殿というのがイメージでした。この世は何もかもが簡単すぎてつまらない。そんなある日、信貴という未知の存在と出逢い彼に対して興味を持って黄金の獣化するつもりでした。それがどうしてこうなった……!

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