ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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ミッテルトがどうしてこうなった。すいません、なんかとても弄りやすかったもんで。

そして久しぶりのランキング入り! やったね!


依頼

 黄昏に染まる道を俺と天野夕麻の二人で歩く。男女二人っきりと云えば甘い空気になっているように思えるが、実際流れているのは殺伐とした雰囲気。互いに会話することなく無言で歩き、彼女が案内する場所に向かっていく。

 

 おそらく理解していたからだ。口を開けばきっと総てが終わると。もうとめる事が出来ないと。だから目的地まで何の会話もせず、ただ黙然と移動していた。

 

 果たして、どのくらい時間が経過しただろうか。気が付くと街外れの教会まで来ていた。本来ならばこの教会は廃墟となっているため誰も中に入れないはずだが、天野は自然に封鎖されているはずの扉を開け、中に入っていく。俺もその後ろ姿を追うように廃墟の教会に侵入した。

 

 何年も使われていないはずの聖堂だったが、不思議と中は綺麗だった。明らかに誰かが利用している形跡がある。天野は聖堂の灯りを照らすと、安心したようにホッと一息ついた。

 

「……あの、兵藤信貴さん。それで、お話の内容なんですが…………」

 

「その前に、ちょっといいか」

 

「はい……? なんでしょうか」

 

 話を切り出そうとした彼女の遮って言葉を発する。正直、それ以上その口調で会話されたら苛立って仕方ない。

 

「その猫かぶりはもうやめろ。もうおまえの正体は分かってんだよ――――堕天使」

 

 巧妙に隠されているが、俺には分かる。血が細胞が身体が奴が人外だと告げている。だというのにいつまでもそんな猫かぶりで話されたら気味が悪くて仕方ない。

 

「……別に、猫被ってるわけじゃないんだけど」

 

 天野は自嘲するように呟くと、その姿を一変させた。背中から翼が生え、気配が人間から人外のものへと変貌する。そこにいるのは儚い人間の少女ではなく、強者たる振る舞いを魅せる堕天使(かいぶつ)だった。

 

「――――これでいいかしら」

 

「ああ、そっちの方が何倍も話しやすい」

 

 あの時はイッセー達が居たため下手な真似は出来なかった。だが今は違う。今なら俺は一人で、何が起きても対応できる。

 

「なら改めて自己紹介ね。私はレイナーレ。堕天使よ」

 

「一応訊いとくが、天野夕麻っていうのは偽名か?」

 

「天野夕麻は人間としての私の名前よ。レイナーレは堕天使の名前。私は人間と堕天使のハーフだから、二つの名前があるの。理解できた?」

 

「どうでもいいよ、そんなこと」

 

「あら、自分から訊いておいてその反応は酷いんじゃない?」

 

 ムスッ、とした態度で言うレイナーレ。だが、

 

「出逢ったばかりのおまえのことなんてどうでもいいに決まってんだろ。見ず知らずの他人にそこまで共感できるほど俺は人間が出来てねえんだよ。それで、俺にいったい何のようだ」

 

「……そうね。そろそろ本題に入った方が良さそうね。私があなたと接触したのは、あなたにようがあったからよ、兵藤信貴。いえ――――殺人貴」

 

「――――」

 

 その言葉に自分の目が細くなっていくのが分かった。僅かに殺気が滲みだす。手がポケットのナイフに無意識のうちに伸びていく。

 

 こいつは、俺の正体を知っている。俺が何者なのか理解している。いつかはバレると分かっていたが、それでもバレたことには内心驚愕していた。バレないように心掛けていたが、何処で脚が付いてしまったのだろう。

 

「……何処でそれを?」

 

「その前に、一つあなたに伝えたいことがあるの」

 

「なに……?」

 

 レイナーレは僅かに目を瞑ると、意を決したように目を見開いた。その貌に宿るのは決意の証。覚悟も決めた者のみが見せる正銘だった。

 

 彼女は一息吸い込むと、それを告げた。

 

 

 

「――――あなたの弟を殺したのは、私よ」

 

 

 

 刹那。精神(りせい)よりも肉体(ほんのう)があらゆる衝動を凌駕する。俺は考えるよりも先にレイナーレの首を掴み、持ち上げながら絞めていた。

 

「それを言うってことはつまり、俺に殺されたいってことだよな……!」

 

「ぁ……ぐぅ……!」

 

 レイナーレが苦しそうに呻き声をあげる。だがそんなことはどうでもいい。冷静な思考がぶっ飛び、目前の女を殺すことしか考えられなくなる。

 

 分かっていた。イッセーが悪魔になったということは、即ち誰かに殺されたということ。でなければ、あいつが自ら進んで悪魔になるはずがない。それに、万が一。もしイッセーが悪魔になっていなければ、二度と逢えなかったかもしれなかったということだ。

 

 呼吸が出来ず悶え苦しむレイナーレの喉を絞め殺す勢いで握り締める。そしてそのまま、殺意に身を任して殺そうとして、

 

「――――まあ落ち着けよ大将」

 

 瞬間、俺のいた場所に無数の弾丸と光の槍が叩き込まれた。

 

「――――」

 

 レイナーレの首元から手を放し、後方へ飛び下がる。間一髪のところで回避し、弾丸らが放たれた方向に視線を向ける。そこには、

 

「てめえ、なにウチの姉さまボコってんだ殺すッスよ!?」

 

「おまえいいから黙ってろよ」

 

「というかフリード! あんたいつまでウチを抱きかかえてるつもりッスか! 変態! セクハラで訴えるッスよ!」

 

「安心しな、おまえの寸胴ボディじゃおっ勃たねえから。もうちっとマシな体型になってから偉そうなこと言うんだな」

 

「ムキイイイイィィィィ――――!!」

 

 現れていきなりコントを始める二人に意気消沈する。初めて見る金髪のゴスロリ服を着た少女も気になるが、それ以上に気になる存在が一人。

 

「よぅ、久しぶりだな。信貴」

 

「フリード……!」

 

 白髪の不良神父。フリード・セルゼンがいつかのように不敵で気負いない笑みを浮かべたままそこにいた。

 

「……ひょっとして、俺の正体をバラしたのおまえか?」

 

「おお。この街に来たら見知った顔の奴がいたからな。ついでに教えてやったんだが、何か問題あったか?」

 

 …………いや、確かにあのとき誰にも言うなとは言わなかったけど。殺人貴としての俺の貌を知っている奴なんかこいつぐらいだから大丈夫だと思ってたけど。そのごくわずかな可能性で正体がバレるとは思わないだろ普通。

 

「無視するなッス!」

 

 ヘラヘラと笑いながらゴスロリ少女の攻撃を躱すフリードを見て嘆息する。こいつらのせいで殺意が消沈した。まだ怒りは残っているが、少なくとも冷静な判断力は取り戻している。

 

 そして、彼等の登場に最も驚いていたのがレイナーレだった。

 

「あ、あなた達、どうしてここに……!」

 

「心配しなくても、誘導はドーナシークがどんちゃん騒ぎしてやってるよ。それでカラワーナは一応念を入れてその監視」

 

「それで、暇になったウチらがレイナーレ姉さまに逢いに来た訳ッス!」

 

「つーか、おまえ何もやってねえだろ」

 

「そ、そういうフリードだって何もやってねえじゃねえッスか!」

 

「オレは良いんだよ、オレは。戦闘専門だし? 役割が来たらちゃんとこなすし? ていうか、その戦闘専門のオレより補助が出来ないってどういうコトよ? しかも戦闘じゃオレより弱ぇし。戦闘も駄目、補助も駄目、おまえ何処で役立つんだよ」

 

「い、言うなッスぅぅぅ~~~~!」

 

 いや、そんな涙目で睨まれても怖くねえし。というか俺じゃなくてフリード睨めよ、俺を巻き込むな。

 

「で、だ。さっきのあいつの発言はおまえに対して信頼を得るための証ってわけだ。おまえも薄々気づいてたんだろ? だったらここで隠したほうが後で面倒事になるだろうしな。まあちっと頭冷やして話訊けよ」

 

 フリードに即され、嫌々ながらも落ち着けるために深呼吸を繰り返す。しばらく繰り返して、ようやく怒りがある程度収まりレイナーレの方を向く。彼女は居心地悪そうにしながらも、決してその視線を外さなかった。

 

「……一つ訊きたい。イッセーを殺したのはおまえなんだな」

 

「ええ。私が殺したわ」

 

「……理由は?」

 

「それが上の命令だったから」

 

「上?」

 

 レイナーレの答えに眉を歪める。こいつは今、上の命令だと言った。つまり、こいつより上の立場の者がいる?

 

「そうッスよ! コカビエルっていってあのクソ親父、レイナーレ姉さまに色々命令しやがって――――」

 

「ああもう、ホントまじ黙っとけおまえ」

 

「むぐぅ!?」

 

 何か言おうとしたゴスロリ少女をフリードが口に手を突っ込んで黙らせる。しかし、その途中で聞こえてきた名前に驚愕した。

 

「コカビエルだと……!」

 

 神話に残る伝説級の存在。そんな奴がこいつらの上だとしたら、いったい何を企んでいる?

 

「いったい、何が目的だ」

 

「……それは、私にも分からない。ただ…………」

 

 レイナーレは僅かに目を細め、何かを口籠ったが、やがて口を開いて告げた。

 

「コカビエルは、彼が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の所持者だと知っていたようだったわ」

 

「な――――」

 

 今度こそ、言葉を失った。兵藤一誠に宿る神器(セイクリッド・ギア)、それは神器の中に於いても神を滅ぼせる力を持つとされている十三の神滅具(ロンギヌス)の一つ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)だということは分かっていた。しかし、イッセーは今まで一度も神器を使用していない。だから神器を所有していることは分かってもそれが赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)はずだ。

 

 だというのに、バレていた。これが『龍』を宿した者に待ち受ける運命なのか? 魔を引き寄せ、戦を呼び起こす存在。いつかはこんな日が訪れると分かっていたが、しかしそれでも運命を呪わずにはいられなかった。

 

「その様子だと、彼が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の所有者だということは気づいていたのね。おそらく、神滅具所持者が邪魔にならないように先に処分しようとしたのだと思うけど、真相は定かでないわ」

 

「……だから、あいつを殺したのか?」

 

 命令されたから。ただそれだけで、おまえはイッセーを殺したというのか。そんな理由で、あいつが殺されなければいけないのか。

 

 それに対し、レイナーレは、

 

「そうよ」

 

 視線を逸らすことなく、力強く断言した。

 

「私には私の目的がある。そのためなら、たとえ善良で無関係な一般人だって殺すわ。恨まれても憎まれても構わない。それでも、為さなければならないことがあるの」

 

 その眼に宿る意志は強くて、けれど何処か今にも泣き出しそうな弱さを抱えていて。矛盾した瞳。それをはっきりと見て……嘆息した。

 

 …………反則だ。あんな、後悔と懺悔に悩まされながらも必死に前を向こうとしている目なんか見せられたら、こっちが折れるしかないだろう。

 

「……おまえがイッセーを殺した理由は分かった。本来ならぶっ殺しているところだが、イッセーが生きているから勘弁してやる。それで、もしかしてもう一度イッセーを殺す気か? なら――――」

 

「それはないわ。彼を始末ように言われたのは一度だけ。ならたとえ生き返っても殺害対象にはならないわ」

 

「そうか……なら、俺をここに呼んだ理由はなんだ? まさかとは思うが、それを伝えるためだけじゃないだろ」

 

 言っちゃ悪いが、こいつらがそれだけのために俺をここまで連れてくるとは思えない。俺を殺人貴と呼んだことから察するに、おそらく……

 

「ご明察の通りよ。あなたの力を貸してほしいの」

 

 ……やはりか。薄々感づいてはいたが、俺をここに呼んだのは戦力を増加させるためか。しかし、それは。

 

「あなたも知っているかもしれないけど、この地域はグレモリー家の管轄なの。ここで騒ぎを起こせば必ず奴らが介入してくる。けれど、今の私達の戦力じゃ奴らに敵う望みは薄い。だから少しでも戦力を上げる必要があるの」

 

「だが、それはあまりにも低い可能性だ。悪いがそんな分が悪い賭けには乗る気になれない」

 

 そうだ。自分の関係ない奴らに命が張れるほど俺はお人好しではない。敗北すると最初から分かっている集団に付くほど能天気な頭はしていない。

 

「悪いが、無関係な奴のために命張れるほど俺は出来ちゃいないんでね。話は聞かなかったことにしといてくれ」

 

「無関係な話じゃないわ」

 

「……なに?」

 

 帰ろうと踵を返そうとした脚がとまる。レイナーレは表情を固くしながら告げる。

 

「もし、私達全員が負けたとしたら、最終的に戦うのは誰?」

 

「それは……」

 

 当然、最後に残っている者で……そして、それに当てはまる最悪の存在がこいつらの背後にいる。

 

「まさか……!」

 

「そう。最後にはコカビエルが出てくるはめになるわ。そして、聖書に名を残すほどの存在が戦って、まともに済むと思う? 下手をすればこの街が地図から消失するでしょうね。そうしたら、あなたの周囲の人は無事かしら?」

 

「……脅しのつもりかよ、それ」

 

「私は飽くまで客観的な意見を述べたまでよ。それをどう受け取るかはあなた次第」

 

 そうレイナーレは淡々と云うが、これはどう見ても脅しの類だろう。協力しなければ街が消える可能性がある。もしそうなった場合、責任があるのはあなた。そんなことを言われて、拒否できるはずがないだろう。

 

「それに、もし協力してくれるならそれ相応の報酬は出すわ。神の子を見張る者(グリゴリ)で働いてきた金は十分にあるし、もしそれでも満足しないというのなら……」

 

 レイナーレは僅かに口籠り、瞼を閉じる。それは何かを決心するために必要な儀式のようで、レイナーレは瞼を開くと続きを述べた。

 

「もし、私の依頼を受けると言うのなら――――私の身体を好きにしても構わない」

 

「な――――」

 

「へぇ……?」

 

「―――――!!」

 

 レイナーレの発言に驚愕する。中でも一番驚いていたのが口を塞がれていたゴスロリ少女だった。ていうかまだ黙らせていたのかよ。

 

「何でも構わない。純血を捧げてもいいし、性欲の吐き出しに使っても構わない。何なら、この依頼後なら弟の敵として殺しても文句は言わない。それじゃあ駄目かしら?」

 

「いや、駄目っていうか……」

 

 レイナーレの発言に戸惑いを隠せない。彼女はそれを本気で告げている。目的のためなら、たとえ自分がどうなっても構わないという精神。それはつまり……

 

「~~~~プハッ! なに言ってるんですかレイナーレ姉さま! そんなの駄目に決まってるッス! そこのエロ坊主! もしレイナーレ姉さまに手ぇ出したらウチがギタギタのボッコボコのけちょんけちょんにしてぶっ殺すッスからね!」

 

「するか馬鹿」

 

 ゴスロリ少女の暴言に幾らか思考が冷静になる。

 

 堕天使とは本来プライドが高い種族だ。己の身体に自信を持ち、他人に穢されることを嫌う生き物。人間もそうだが、明らかに自分以下の種族に穢されれば嫌だろう。彼等にとって、人間は俺らで云えば家畜扱いなのだ。

 

 そんな堕天使が、協力するなら自分の身体を捧げてもいいと言った。それはつまり、反対に云えばそうしてまでも戦力が必要だということだ。

 

 ふと、レイナーレの貌を覗き込む。僅かに強張った表情と少し赤くなった頬から察するに、そういうコトは未経験なのだろう。それでも、為さなければならないことがあると瞳が告げている。

 

 たとえ、己を犠牲にすることになったとしても。

 

「……ったく、仕方ないな。なってやるよ、おまえらの仲間に」

 

 勘弁してほしい。そういう目をする奴には昔から弱いのだから。そういう目をしている奴を見ると、どうしても手を伸ばしたくなってしまう。昔から悪い癖だと思っているが、ここまで来れば病気か何かだろう。思わず自嘲してしまう。

 

「やっぱり身体目当てか?」

 

「やっぱ身体なんスか!?」

 

 黙れそこの馬鹿二匹。

 

「あと、それから……」

 

「え……? きゃあ!?」

 

 レイナーレの頭にチョップを叩き込む。割と本気の一撃。打たれた本人は痛そうに涙目になっているが、自業自得だろう。

 

「言っとくが、おまえらに協力するのは街の消失を防ぐためだ。レイナーレの身体目的じゃない。それから、女が軽々しく何でもするとか言ってんじゃねえよ、この馬鹿」

 

 ここで強く断言しておかないと、後々要らぬ誤解を生みそうだからきっちり言っておく。それを訊いて、何をとち狂ったのかレイナーレは涙目のままポツリと呟いた。

 

「私の身体に興味がない……つまり、男色?」

 

――――おい、待てこらレイナーレ。

 

「おー、ひょっとしてオレ様、狙われてる?」

 

「五月蠅い馬鹿、黙れ馬鹿、つーか次ふざけた事抜かしやがったらマジでぶっ殺すぞ!」

 

 なんで俺はこんなところでこいつらと漫才しなけりゃいけないんだ、と脳が現実逃避しかけたその時。

 

「――――へえ。随分仲良くなったようですね。勧誘は成功したみたいですね」

 

 教会の扉。出入口の扉が開き、外から二人の堕天使が入って来た。鋭利さを感じさせる女性と歴戦の戦士を連想させる男性。それを見て、レイナーレが彼等の名前を呼んだ。

 

「カラワーナ、ドーナシーク! 誘導の方は大丈夫だった?」

 

「ああ、案ずるな。少々今代の赤龍帝に手を出してきただけだ。何も心配することはない」

 

「今代の赤龍帝って……まさか彼を!? どうして?」

 

「なに、あの小僧は最近悪魔となった。ならば必然その主が監視を付けていると判断したまでだ」

 

「予想通り、すぐに主が顕れました。おそらく周囲の悪魔達の視線はそちらに移ったでしょう。ならばその間レイナーレに注意は向かなかったと思います。誘導は成功でしょう」

 

「それに少々興味深いものが見られた」

 

 ふと、ドーナシークと呼ばれた男がこちらに視線を向ける。その口許には納得の笑みが。

 

「貴様が奴の兄か?」

 

「イッセーの兄は確かに俺だが、それがどうした」

 

「ふむ……なるほど、同じいい眼をしている。あの小僧もいい師を持ったものだ」

 

「……どういう意味だ?」

 

 ドーナシークの言う意味が分からず首を傾げる。それに対し、彼は笑いながら述べてくれた。

 

「なに、実は少々痛めつけるつもりで攻撃したのだがな、見事に躱されてしまってな。あれほどの行動を実行に移すためには大きな経験と度胸、判断力が必要だろう。それを教えたのが貴様なら納得がいくということだ」

 

 くくくっ、と愉快げに笑うドーナシークに若干引く。そうしていると、レイナーレが場の空気を直すために一度咳き込んで、話し始めた。

 

「えっと、ちょうど全員揃ったことだし、自己紹介をしましょう。彼が今回我々の協力者、つまり仲間になった殺人貴よ」

 

「殺人貴と呼ばれているが、本名は兵藤信貴だ。好きに呼んでくれ。あと誰かに俺の正体を告げるのはやめてほしい。もし言うようなら俺は抜けさせて貰う」

 

 一応念を入れて告げておく。前回は油断してフリードに口止めするよう言うのを忘れていたから、同じ間違いをしないように言っておいた方が賢明だろう。

 

「分かったわ。じゃあ私は信貴と呼ばせて貰うから。次、そこにいる眼鏡を掛けた女性がカラワーナよ」

 

「カラワーナです。宜しくお願いします、信貴」

 

 いきなり馴れ馴れしいと思ったが、好きに呼べと言ったのは自分なので受け入れる。カラワーナと呼ばれた女性は優しげに微笑むと会釈してきた。

 

「次、紺色のコートを羽織った男性がドーナシークよ」

 

「紹介された通り、私がドーナシークだ。宜しく頼むぞ、信貴」

 

「そして、次が――――」

 

 レイナーレが言い終わる前に、フリードに抱きかかえられていたゴスロリ服を着た少女が門前で突如メンチを切りだした。

 

「ウチはミッテルト。言っとくッスけど、あんたはこんなかで一番の下っ端ッスから。だからパシリ確定! というわけでおいパシリ、今からメロンパン買ってくるッス!」

 

「ああ、言っとくがそいつオレ様並みの実力があるからな。つまり最弱のおまえが一番下っ端ってコトだ。つーわけでおまえが今から珈琲買ってこい。三分でな」

 

「なら私は野菜ジュースをお願いします」

 

「私はフライドチキンを」

 

「ミッテルト、領収書は教会名義でお願い。そうしたら神の子を見張る者(グリゴリ)で払えるから。あと好きなもの買ってきていいわよ」

 

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおあとレイナーレ姉さま愛してるッスうううううううううううううううううッッッ!!」

 

 瞬間、ミッテルトは教会の外に飛び出してしまった。突然の光景に、思考判断が戻らない。

 

「えっと、今のは……?」

 

「気にしないで。いつものことだから」

 

 いつものことなのかよ。

 

「さて、自己紹介の続きといきますか。一応知ってると思うが、フリード・セルゼンだ。また縁が合ったらって言ったがよ、奇妙な縁もあるもんだ」

 

「……というか、なんでおまえがこんなところにいるんだ?」

 

 言っては悪いが、こいつがこんなところにいる奴とは思えない。世界各地を転々としていそうなこいつが、どうしてこんなところに……

 

「それなんだがよ。この前他のエクソシストの集団に絡まれてさ。なんでもおまえの祈りは偽物だ、だから我らが神を代行して貴様を裁くって言われてよ。五十人ぐらいに襲われて以来、フリーの神父やってたんだよ。それでおまえと同じようにそこの姉ちゃんに誘われてよ。報酬がよかったかた飛びついたってわけだ」

 

「……フリーの神父じゃなくて、はぐれ神父って云うんだろそれ。ていうか、五十人にも襲われて大丈夫だったのか?」

 

「ハッ、あんな神に盲信して考えることをやめた家畜程度に、オレ様がヤラれるはずがねえだろ。余裕だよ余裕」

 

 そう言って不敵に笑うフリードは全然変わっていなくて、思わずこちらも笑いそうになってしまう。ああ、こいつ、あのとき逢ってから全然変わってねえ。

 

 そして、最後の一人。

 

「さっきも言ったけど、私はレイナーレ。さて、自己紹介も済んだことだし……まあ、ここに一名いないのがいるけど」

 

 彼女は微笑み、優しい笑顔をこちらに向けて、告げた。

 

 

 

「――――『教会』へようこそ、信貴。私たちはあなたを歓迎するわ」

 

 

 

 




今回は書いてて久しぶりに難しかった。信貴をどうやって教会メンバーに参加させるか、その理由が中々思いつかなかった。こうして書き終えた後でもやはり矛盾を感じる。もし矛盾していると感じたなら、それの対処法を感想で書いてくれるとありがたい。作者ではこれが限界なんです!

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