あとランキング入りするためにはどうすればいいか悩むこの頃。あれか、原作改変がいけなかったのだろうか?
夕焼けの黄昏が現れる放課後。学生の本業である授業を終えた生徒達が友人と街に繰り出すか部活で汗水垂らすかはさておき、そのような時間帯。私立駒王学園の二年生である兵藤一誠も本日の学生としての役割を終え、校庭の芝生に寝転びながらポツリと呟いた。
「やっぱ、巨乳お姉さん属性が最強だよな」
その呟きにピクリと反応する人物が二人。一誠の両隣で同じく寝転んでいた彼の友人、松田と元浜がそれは違うと声をあげた。
「いやいや、何を言ってるんだイッセー。この世で最も至高なのはクーデレロリータだろう。普段は素っ気ないが、偶に見せる上目使いのデレが最高じゃないか!」
「そうだぞ。まあ所詮なにを足掻いたところで妹属性には勝てないがな。妹属性はなにと掛け合わしても最強なのだよ!」
「でも松田、お前妹いなくね?」
「現実の妹などクソくらえだ!やっぱり妹は二次元に限るな」
何てことはない、くだらない会話。明日になれば何を話していたのか忘れてしまいそうなたわいない日常。けれど、そのたわいない今が何よりも楽しくて、思わず笑ってしまう。
一誠は雑談に笑いながら、ふと視線を感じて視線をあげた。校内のとある教室、階からしておそらく三年生だろう。そこから一人の女性がこちらを見下ろしている気がした。
鮮やかな真紅の髪――――私立駒王学園の二大お姉さまと謳われる人物の一人、リアス・グレモリー。学園アイドル的存在が校庭を見下ろしていた。
その視線が、自分を見ていると思ったのは自惚れだろうと一誠は己に告げる。自分は校内のただの一生徒。向こうは校内のアイドル的存在。何の接点もないというのに、向こうがこちらに興味を持つはずがない。
そう思っていると、ふとリアス先輩がこちらを向いた気がした。そして何かを呟いている。声は当然届かない。距離があまりにも離れすぎているため、聞こえるはずがない。だというのに、
『――――ようこそ、
何処かで訊いたことがあるような声が、耳元で響いた気がした。
「イッセー、大丈夫か?」
ハッと呼ばれた声に意識を取り戻す。呼ばれた方向を見ると、今まで用事でいなかった信貴が鞄を背負いながら佇んでいた。おかげて意識を取り戻せた一誠は苦笑いながら言う。
「いや、悪い。なんか今朝から調子悪くてさ。ちょっとボーっとしてた。それよりも信貴、用事は終わったのか?」
「ああ。くだらないことだから気にすんな。それよりもおまえら、ここで何してんだ?」
「なにって。信貴を待っててやったんだろうが。俺達の友情に感謝しろよ」
「帰り道缶ジュースを奢ることを要求する!」
「それ明らかに俺の方が損してるだろうが。ったく、とっとと帰るぞ」
「了―解。ところで信貴ってどんな相手が好みだっけ?」
「は?」
一誠の発した言葉に信貴が呆れたように嘆息する。
「おまえら、何の話で盛り上がってると思ったらそんな話してたのかよ」
「まあ最近の思春期に在りそうな話題だろ? で、どうなんだよ。隠すことでもないだろうが」
「…………」
信貴はしばらく躊躇していた。そんな馬鹿なことを言うべきか、それとも無視するか悩んでいるようだった。しかしある程度時間が過ぎて決心が付いたのか、目を逸らしながらポツリと呟いた。
「……大艦巨砲主義」
「はい?」
「だから、胸おっきい女。別にいいだろ、男なんて皆大きい方が好きなんだし。あと形が整ってたら文句なし。別に貧乳を馬鹿にしてるわけじゃないけど、大は小を兼ねるっていうだろ」
◇◇◇
一方その頃。
「…………」
人知れず一人でお茶を飲んでいたオーフィスは唐突にワケのわからない苛立ちを覚えた。無意識に茶碗を持つ腕が震え、良く分からない感情が彼女の中を渦巻いている。
何というか、馬鹿にされた気が。
「シキ……あとでお仕置き」
それが完全な八つ当たりと理解していながら、何処か間違っていないとオーフィスは直感していた。
◇◇◇
「なんだぁ、兄弟そろって巨乳好きかよ。そういうトコまで似るもんなのか?」
「こんなおっぱい星人と一緒にするな。俺は至ってノーマルだ」
「ちょ、それだと俺が変態みたいに聞こえんじゃねえか信貴! 俺だってノーマルだ!!」
「じゃあベッドの下に隠したエロ本をもっとマシなのに変えるか別の場所に隠して置け」
「すいませんでした」
華麗な土下座を決める一誠。自分の趣味を知られている相手には全面降伏する以外余地はないのだ。しなければ、待つものは死あるのみ。
「はっははは! 相変わらずだな二人は。……うん? おい見ろよあれ」
「あれは他校の制服か? しかしあれだなー、中々の美少女じゃね? レベル高いうちの女子と互角、いやそれ以上の別嬪さんだぜあれ」
などとたわいない会話をしていると、校門前に到着した。しかし、何やら様子が騒がしい。気になって一誠が良く見てみると、校門前に他校の制服を着た女子生徒が誰かを待つように佇んでいた。黒髪がとても似合うかなりの美少女で、一誠が見てきた中でもかなりのレベルだ。
しかし、それ以上に気になることがあった。あの姿、何処かで見た覚えがある。はっきりとは思い出せないが何処かで、まるで夢で見た彼女のような――――
「……なわけないか。なあ、信貴…………」
自分のくだらない妄想に鼻で笑う。夢で出会ったなんて何処のナンパだ。だからくだらない妄言を切り捨て、彼女が何をしているのか世間的な話を信貴に振ろうとして、
「…………」
信貴は能面のように感情を感じさせない無表情で、彼女を睨んでいた。どうしておまえがここにいると言いたげそうな目付きに、内心驚く。信貴がこんな表情を浮かべたところなど指で数えられる程度しか見てない。それは明らかに異常な光景だった。
「あ、あの!」
こちらの集団を見つけた彼女が一目散にこちらに駆け寄って来る。視線の先は、信貴の姿が。
「あなたが、兵藤信貴さんですよね」
「……ああ」
ぶっきらぼうに答える信貴。いつもなら世間的な笑みを一つでも浮かべるというのに、今回はジッと無表情で彼女を睨んでいる。その様子に一誠だけでなく周りも信貴の異常に気づいた。
が、その反応は彼女の言葉で一変する。
「私、
その言葉に強く反応したのは、松田と元浜だった。
「なん、だと……!? まさかこれは、中学生時代女子のランキングで『お兄ちゃんと呼びたいランキング』でベストスリーに入った伝説の再来かッ!」
「しかも他校だとぉ!? おのれ、奴のスペックは化物か!!」
そういえば、そんなことが在ったと一誠はぼんやりと思い出す。
中学時代、何かと大人びていた信貴が校内でも人気があった。自主的では無かったが推薦でよくクラス委員長に抜擢され、男女問わず生徒の相談を受けていた。稀に先生もどうしたら生徒と仲良くなれるか相談してきたらしい。本人は『何度もやって慣れただけだ』と言っていたが。
そのためか、一誠の兄であることも重ねて何故か信貴は異性として好かれるよりも兄貴として好意を持たれることがあった。信貴曰く、『告白だと思って呼び出し場所に向かったらいきなりお兄ちゃんになってくれと三年の女子の先輩に言われた』とか。他にもごつい男からも言われたりして本人からすれば堪ったものではないらしい。
気持ちは分からないものでもない。一誠も思春期として告白には憧れを持っている年頃だ。それを『お兄ちゃんになってほしい』などと言われたらどういうリアクションをすればいいのか分からないだろう。しかもそれが先輩だとしたら、気まずさが倍増する。
などと一誠が考え事をしていると、ふと彼女と眼が合った。瞬間、彼女の貌が驚愕に染まる。それはまるで、今にも泣き出しそうな貌だった。
「あ、あなたは……!?」
「なあ、俺達どこかで逢ったことあるか?」
「…………いえ、無いです。あなたとは初対面です」
それは嘘だろうと思う。だって、もしそれが本当なら、どうしてそんな泣きそうな貌をしているのか。その表情が、まるで夢に出てきた女性に似ているような――――
「……分かった、付き合う。何処に行けばいい?」
その思考を中断させたのは信貴の返答だった。いつの間にか信貴はいつもの表情に戻っており、苦笑交じりに告げる。
「そういうわけだ。俺は今からこの娘とちょっとお話してくるから、おまえらは先に帰ってろ。また明日な」
「えー、ったく、しゃあねーな。詳しい話は明日訊かせろよ?」
「リア充爆発四散!!」
流石に今回は仕方がないと判断したのか、松田も元浜も適当な挨拶を告げて帰宅する。一誠も邪魔してはいけないと分かっているが、何か嫌な予感が拭えなかった。
まるで、信貴が遠くへ行ってしまうような―――――
「……大丈夫だよな?」
主語のない疑問文。何が大丈夫なのか、一誠自身も分かっていない。だが信貴はそんな一誠の不安を取り除くようにいつものように笑みを浮かべる。
「大丈夫だ、心配すんな」
ああ、そんなことを言われたら信じるしかないだろう――――
一誠は僅かな不安を抱えながら、信貴と別れ帰宅道を歩き出した。
◇◇◇
帰宅道。一誠は途中で松田や元浜達と別れ一人歩いていた。彼はぼんやりと歩きながら思考する。先ほどの女性を見てから、何やら身体がざわめく。まるで何処かであったような奇妙な感覚。何処かといえば、あの夢の中で――――
「……あほらし」
自分の考えに自嘲する。なんだそれは、前世からの記憶だとも云うのか。あれは夢で、今日は偶々似たような人を見つけただけ。向こうが驚いていたのもこちらが自識過剰なだけで、普通の反応だったのだ。
でなければ。もしあの夢が現実に起こったことだとすれば。
「そんなわけないしな。ただの勘違いだろ。さっさと帰るか」
ようやく考えが纏わり、ふと視線をあげた。そして、周囲の異常にこのときようやく気が付いた。
「人が……いない……?」
帰宅道の途中にある公園。いつもならまだこの時間帯は人がいるというのに、今は誰もいない。まるで廃墟のように、不気味なほど静まりかえっていた。
その異常な光景を見て、ふと思い出す。現時刻は夕暮れ。つまり黄昏。そして黄昏とは逢魔ヶ刻――――人為らざるモノに逢う刻限だということを。
「――――貴様か、今代のは」
誰もいなかったはずの公園で、男の声が響く。声の主は一誠の前方、十メートルの距離に佇んでいた。いつの間にか、という空間認識よりも一誠はある一点に視線を奪われていた。
目前の男の背後。そこに広がる、黒き翼に。
「つば、さ…………」
何処かで見た。あれは確か夢の中、泣いていた彼女にも生えていたもの。
あれは夢だったのか? それとも現実? 分からない、一度に注入される情報が多すぎてフリーズしそうになる。未知の光景に思考が停止しかける。
「……時間稼ぎが目的とは云え、やはり気に入らんな。貴様さえいなければ、奴がこの地に目を付けず、彼女も巻き込まれることも無かったというのに」
男が何やら呟いているが、そんなものは耳から耳へ流れ出るだけ。しかし、それを見た瞬間、本能が逆立った。
「貴様自身に罪が無いのは分かっている。だからこれはただの八つ当たりだ。貴様が
集う光。男の手に光が収束していき、槍の形を纏う。それを見て、細胞が危険信号を最大音で発令した。
逃ゲロ――――アレヲ食ラエバ、跡形モ無ク死ヌゾ。
「私を愉しませろ――――小僧」
放たれた光の槍。それを前にして、
「あ、ぉぉぉぉおおおおおおおッッ!!」
一誠は受け身を考えず死にもの狂いで跳んだ。それは日頃の鍛錬の成果だろう、信貴の放つ危険な技を直感的に理解できるようになった経験則。その警報が全力で行く方向を示している。
そこ以外に逃げれば、間違いなくあの槍は自分の身体を貫くだろうと理解して。何とか回避には成功したが、その代償に脚を捻ってしまった。
「ほう……今のを躱すか。なら次はどうだ?」
「くぅ……!」
装填される光の槍。この脚ではもう一度躱すなど不可能。どうする――――? と悩んでいると、
「――――そこまでよ、堕ちた天使さん」
瞬間、男の手元が爆発した。しかし、そう見えたのは一誠だけで、男はいつの間にか一歩離れており、爆発による被害はゼロだった。
ふと、いつの間にか一誠の横に一人の女性が佇んでいた。真紅の髪――――リアス・グレモリーが平然と立っていた。
「……グレモリー家の者か」
「そうよ。ここは私の管轄、それにこの子は私の大切な眷属なの。これ以上やるというのなら、容赦はしないわよ」
互いににらみ合う二人。しかし男の方は分が悪いと判断したのか、踵を翻した。
「……フン。そこの小僧に伝えておけ。もし『はぐれ』と勘違いされたくなければあまり放浪するなとな」
「ご忠告痛み入るわ。けれどあなたにも一つ忠告しておくわ。この街は私の管轄、私の邪魔をすれば容赦なくやらせて貰うわ」
「その時はこちらも同じだ。精々再び逢い見えないことを願おう」
男は最後に一誠を一瞥すると、黒い翼を羽ばたかせて空に去っていった。その光景を茫然と見つめ、ようやく安全なんだと理解した途端、腰が抜けた。
「……わっ」
「――――さて」
一息吐いて、リアスが一誠の方へ振り返った。黄昏の日に紅い髪が反射し、この世のものとは思えない麗美を宿している。その光景に一誠が目を奪われているとも知らず、リアスは口を開いた。
「何処から話をしましょうか」
次回、信貴side
今章はイッセーとシキの両サイドから書くつもりです。そして張るフラグ。
あと最近感想覧が荒れてきているので、他者が不快になるような感想、またネタバレ内容を尋ねるなどの行為は止めてください。作者もあまりしたくないのですが、酷いようなら何らかの手段を取ります。
では次回!