ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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連続投稿。しかしあれだ、最近長い文章が書けない。なぜ?


異変

 顔に降り注ぐ朝陽。その優しい温かさを不思議と感じながら、一誠はふと目を覚ました。

 

「……夢?」

 

 寝起き一発目の発言がやけに遠く聞こえる。上半身を起こし周囲を見渡せばそこはいつも通りの私室だった。混乱する思考を整理するために深々と深呼吸を繰り返して、一言。

 

「とんだ悪夢だ……」

 

 自分が殺される夢なんて悪夢以外の何物でもないだろう。まして夢の中で誰かを泣かしたなんて後味が悪い。これはあれか、現実でも誰かを泣かしているという無意識で思っているのだろうか。それが夢として顕れたのか。

 

「どっちにしろ目覚めが悪いな……」

 

 やれやれと嘆息して時計を眺める。時刻は午前六時過ぎ。普段の早朝トレーニング時刻より少し寝坊してしまったが、まだ間に合うだろう。一誠はすぐさまジャージに着替えると私室を飛び出した。

 

「母さん、信貴はいる?」

 

「おはよう、イッセー。信貴ならついさっき出ていったからまだ家の前で準備運動中だと思うわよ。ああ、あとオーフィスちゃんも来てたからこれ渡しておいて」

 

「了―解っと」

 

 一階のリビングに降りると、母親が朝食の準備をしながら待っていた。ついでにスポーツドリンクを一誠に渡し、それを受け取りながら彼は玄関へ向かっていく。

 

 そんな息子の様子を見ながら、一人椅子に座り本日の新聞を開いていた兵藤家の大黒柱である父親は感慨深げに頷いていた。

 

「うーん、イッセーが朝のトレーニングに参加するようになってからもう何年過ぎたかなー。最初はすぐやめると思ってたけど、まさか高校二年生になっても続けるとは思いもしなかったよ」

 

「あら、それなら貴方も一緒に走ってきたら? この前健康診断見たけど太ってきてるんじゃない? 貴方もダイエットして痩せたらどう?」

 

「ははははっ。二人のトレーニングに付き合ってたら筋肉痛で動けなくなっちゃうよ。それに最近はカロリーダイエットをやってるから心配ないさ」

 

「貴方、それ成功したこと一度もないじゃない……」

 

 仲良さげに会話する夫婦。その見慣れた光景にやれやれと苦笑いしながら玄関の扉に手を掛けて、活発に声を掛けた。

 

「じゃあ、行って来まーす!」

 

「気を付けてねー」

 

 後方から聞こえてくる声に押されながら、一誠は家を出た。

 

 家を出ると、そこには二人の人影が。その見慣れた光景に声を掛ける。

 

「悪い二人とも、少し遅れた!」

 

「ん? ああ、イッセーか。まあ気にする――――」

 

 人影の一人である一誠の双子の兄である彼、兵藤信貴に声を掛ける。信貴は準備運動を終えたのか、彼は一誠の方へ振り返って――――絶句した。

 

「…………ッ」

 

「……信貴?」

 

 いったい、どうしたのだろうか。驚愕する信貴を一誠は訝しげながら眺める。信貴の貌には驚愕と後悔、それに達観と複雑な感情が入れ混ざっているように見えた。

 

「どうした信貴。何か俺の顔に付いてるか?」

 

「……いや、何でもない。単に俺の気のせいだ、気にするな」

 

 だが、それも一瞬。次の瞬間にはいつもの彼らしい表情に変わっており、さっきの貌が嘘に思えるほどだった。その変化に首を傾げながら、ふと思い出す。

 

「あ、オーフィス。これ母さんが。最近は熱中症にも気を付けないといけないからな」

 

「ありがとう、イッセー」

 

 信貴と隣にいたもう一人の人影。幼馴染みであるオーフィスに先ほどのスポーツドリンクを渡した。それをいつものように無表情で受け取るオーフィス。

 

 そういえばと、渡されたスポーツドリンクを飲むジャージ姿のオーフィスを眺めながらふと思う。彼女とは永い付き合いになるが、未だ詳しいことは訊いていない。背丈も出逢った頃から一向に変化していないし、謎多き少女である。

 

 まあ。たとえ何が在ったとしても、友達であることには変わらないが。

 

「イッセー。俺は先に行くから、おまえは準備運動をきちんと終えてから来いよ。いつも通り公園で集合な」

 

「おう! 俺も用意しとくから先に行っててくれ。オーフィスも先に行ってていいぞ?」

 

「分かった」

 

 準備を終えた信貴がオーフィスと一緒に走り出す。オーフィスはゴール地点である公園に向かったのだろう。二人の後ろ姿を見ながら、ふと思う。

 

「……少しは、追い付けたかな?」

 

 ずっと目指している背中。生まれたのはほとんど変わらないのに、その背中はずっと遠くに見えた。手を伸ばしても届かない距離。憧れの背中。あの背中に追い付くために、今まで努力してきた。

 

 だが、まだまだ遠い。こうして見ているだけでも、あの背中にはまだ程遠いのだと理解する。

 

「なら、頑張らないとな」

 

 少しでもあの背中に追い付くために。

 

 守られるのではなく、肩を並べるために。

 

 共に信頼し、励まし合える存在になるために。

 

 きっと(シキ)は、(イッセー)を守るのは当然だと云うのだろう。だが、そんな一方的な関係では嫌なのだ。守られるだけではなく、共に守るために。それに、彼風に言うならば、漢が守られてばかりだなんて格好が付かない。それこそ漢の矜持が泣くだろう。

 

「それに、約束したしな。おまえ(シキ)の居場所は俺が守るって……」

 

 それは未だ彼の胸を焦がす約束。信貴はもう忘れてしまったかもしれないが、一誠は今でも胸に刻んでいる。その約束を守るために。

 

「じゃあ、今日も頑張りますか!」

 

 活き込んで喝を入れる。まず初めに準備運動を行おうとして――――

 

「しかし……なんか怠いな。こんなに日差しって強かったか……?」

 

 いつもとは違う気怠い感覚。体調管理は気を付けているというのに、今日はなぜかやけに身体が重く、日差しが熱く感じた。

 

 まるで、違う生き物になってしまったような――――

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 走る。いつもと同じように、ペースを崩さないように走ろうとする。しかし、身体は思い通りに動かない。感情に突き動かされるように、脚が本人の意思とは無関係に加速していく。制御できない。肉体と精神と矛盾している。

 

「――――シキ」

 

「――――」

 

 名を呼ばれ、裾を引く感触でようやく俺は正常な思考を取り戻した。ハッと正気に戻ると、背後を振り返る。そこにはオーフィスが不安げな様子でこちらを眺めていた。

 

「シキ……」

 

「……悪い、ちょっと暴走してた。もう大丈夫だから」

 

 大丈夫。そう自分に言い聞かせるようにもう一度呟く。あくまで冷静に。この不安を知られるわけにはいかない。まして、何も知らないあいつに。

 

「イッセー、悪魔になってた」

 

「……ああ」

 

 一目見て理解した。あれはもう人間ではないのだと。たとえ見た目は何も変わっていなかったとしても、形成(なかみ)が違う。あれは神秘をうちに内包した存在。身体は作り変えられ、人外として存在している。

 

 イッセーが人間ではなく悪魔となっているということは――――

 

「シキ、何も悪くない。だから悔やまないで」

 

「……大丈夫。俺なら大丈夫だから。こうなるのは分かってたから」

 

 そう、いつかはこの日が来ることは分かっていた。イッセーの持つあれ(・・)は特別だ。あれは魔を呼び込むモノ。その者の意思問わず強制的に危険を呼び込む。ゆえに、こうなる事は予知していた。

 

 俺は選択した。なら、選ばなかった方は見捨てなければならない。どれもこれも護れるほど、俺は強くないのだから。そうしなければ、何もかも守れなくなってしまう。

 

 だから俺は大切な人(オーフィス)を選び、陽だまり(イッセー)を見捨てた。

 

 これは予定調和。何の問題もない予定通りのこと。だから大丈夫だと意思(せいしん)は納得させて、

 

「……屑だ、俺は」

 

 感情(にくたい)がそんな自分に対して悲哀していた。

 

 馬鹿が、なに言い訳してやがる。分かっていたはずだ、理解していたはずだ。おまえの選択がそういう事態を生み出すと。それを受け入れ、それを背負うと覚悟を決めたはずだ。それなのに何被害者面してやがる。自己嫌悪に浸れば満足か? どっちにしろ家族見殺しにするような屑であることは変わらないだろ。それともオーフィスに責任を押し付けるつもりか? 関わらなければ良かったって最低最悪の逃避をするつもりか。

 

 屑が、塵が――――分かっているなら覚悟を決めろ。弱音なんか吐いてんじゃねえよくそったれ。

 

 分かってる。理解している。だから、これが最後。これで俺は本当に覚悟を決めるから。だから、これだけは言わせてほしい。

 

「……じゃあな、人間(イッセー)

 

 ――――そしてようこそ、悪魔(イッセー)

 

 俺は人間としての彼に別れを告げ、この世界に踏み込んでしまった悪魔の少年を歓迎する。本当は、本当に関わってほしくなかったのに。

 

 願わくば、強くなってほしい。この不条理な世界でも己の意志を貫けるように、生き残るために、強く、強く。

 

 そう呟いて、そんな傲慢な自分の思考に自嘲する。

 

 だからさ。

 

「シキ、泣かないで」

 

 そんなこと言われたら、泣いてもいないのに泣きそうになってしまうから勘弁してくれ。今更感があるが、男は簡単に涙流しちゃいけないんだよ。ましてや、それが守りたい人の前ならなおさら。

 

「シキ、一人じゃない。我がついてる」

 

 優しく握り締められた手が温かい。その言葉だけで、俺は僅かに救われた気がした。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「……見つけた」

 

 その姿を遠くから見ている者がいた。堕ちた天使の証である黒い翼を広げながら、彼女は目的の人物を空から見つめていた。

 

「フリードから訊いたとおり……彼が、殺人貴」

 

 狂おしいほど祈りが込められたその声は、絶望の淵から希望の光を見つけたようで。彼女は最後の望みに掛けるように、走る彼の後ろ姿を眺めていた。

 

「彼なら――――」

 

 虚空に消えていく彼女の呟き。その声と同じように、堕天使の少女は空に舞った黒い羽根だけ残して姿を消した。

 




最後に登場した謎の堕天使。いったいなにナーレなんだー(棒)

そして相変わらずの自己嫌悪系主人公信貴君でした(笑)

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