「シキ……」
「ん? どうしたオーフィス」
心配そうに尋ねてくるオーフィスに顔を向ける。彼女は何かを躊躇うように僅かに目を伏せ、迷いながら告げる。
「……本当に、これでいい?」
「……心配するな。大丈夫だ」
くしゃっと彼女の頭を撫でる。優しく、心配ないのだから安心しろと伝えるために。
「いつかはこうするつもりだったんだ。それが今になっただけ。だからおまえが心配する必要なんか無いんだよ」
そう、いつかはこうする予定だった。俺は弱いから。世界総てを敵に回しても彼女を守れるほど強くないから。地獄の底から引きずり上げられるほど英雄的ではないから。
地獄の底から引きずり上げられないのなら――――地獄の底まで一緒についていくしかないだろう。
「……これが俺じゃなくて、別の誰かなら、救えたのかな」
ご都合主義の役者のように。彼女を組織から切り離し、家族として迎え入れ、どの勢力から襲われても皆を守れるような存在だったのなら、彼女を救えたのだろうか?
「……シキ?」
「……いや、なんでもない」
無駄な思考を終わらせる。そう、そんな“
結果は一つ。俺は選択した。ならば後は貫くしかない。
「じゃあ、行くか」
たとえその先に、どんな終わりが待ち構えていたとしても。
◇◇◇
それは此処では無い何処か。空間を言語化できない場所で、彼等は集合していた。派閥のリーダー格達が円卓の席に着き、玉座に座る者を待ち望んでいる。本来ならば呼ばれて来るような者達ではないが、呼び出したのがこの組織のトップならば仕方ないだろう。
「……それより、集まったのはこれだけか?」
「ええ。どうやらリゼヴィムは来ないようですね。まあ彼が進んでくるはずもないですが」
「二ルヘムも未だリーダーが決まらず烏合の衆だ。仕方あるまい」
「…………」
円卓にはちらほら空席が目立ち、それを忌々しそうに見つめる彼等。その中で一人、微笑みながら待つ者がいた。まるで、この先なにが起こるか知っているように。
と、そこに。
「皆、よく来た」
ピキッ、と奇妙な音が鳴り、音が聞こえた場所の空間が砕けた。そこから一人の少女が現れ、舞い降りるようにそのまま玉座に座る。
彼女こそが、彼等のトップ――――『
「フン、それで、いったい何のようだオーフィス。つまらん事で呼んだのならば私は帰らせて貰うぞ」
「我々もやるべきことがあるので、早急にお願いします」
時間を割いてきたので僅かに苛立つ彼等。それに対し、オーフィスは冷静に言葉を紡ぐ。
「今日、皆に紹介したい者、いる」
「なに……? ならばさっさと連れて来るがいい」
「姿が見えないようだが? ああ、さては臆病風に吹かれて逃げたのではないか?」
オーフィスの傍には誰もいない。だからこそ、彼等は逃げたのだと判断し、嘲笑いながら喉を震わせ――――
「……く、くくくくく」
その中で。今まで何も話そうとしなかった男が、心底おかしそうに身体を震わせながら笑みを堪えていた。
「……何がそこまでおかしいというのです、曹操」
その様子がこちらを馬鹿にしているように見えて、女が不機嫌そうに言う。それに対し、漢服を着込んだ青年――――曹操が、笑みを抑えきれない様子で答える。
「いや、失敬。君等があまりに検討違いなことを言うものだからな。つい抑えきれなかった」
「……何が検討違いだというのですか」
「それはそうだろう。臆病風に吹かれた? 連れてくる? 何をおかしなことをいうものだ」
そう言って、曹操の視線が円卓の中心に向けられる。
「なあ、君はそう思わないか――――殺人貴」
その言葉に反応するように、突如殺気が円卓の中心より放たれる。高密度の殺意。今まで気づかなかったのがおかしいと思うほど、その存在感は絶対的なものだった。それでようやく、円卓に腰かけていた曹操以外の者達がそれの存在に気づいた。
円卓の中心――――そこに、一つの影が存在した。
黒く昏く混濁した闇。それは常に蠢きながら、人の形を保っている。その姿を正確に見ようとすればするほど姿がぼやけ、虚ろとなる。
その中で。闇の中で爛々と輝く蒼き双眼が、ただじっと曹操を睨んでいた。
他の者など眼中にないと告げるように見つめ合う二人。そして、ようやく判断力を取り戻した一人が喚くように叫ぶ。
「き、貴様いつからそこにいた!?」
「なんだ、気づかなかったのか? いつからも何も、
男の疑問に曹操が愉快そうに答える。この場でただ一人、彼だけがその存在に気づいていた。そして気づかれていたことに、殺人貴は警戒を高め更なる殺気を曹操に向ける。しかし、一般人ならば向けられただけでショック死するほどの殺気を真正面から浴びて、曹操はさらに笑みを深くした。
「……フンッ。所詮劣等。姿を隠さねばまともに生きられぬ脆弱な輩の分際が」
「そ、そうですよね」
「どうせ、恐ろしくて今まで隠れていたのだろう」
繕うように言い訳する彼等。だが彼等は気づかないのだろうか。もし殺人貴が彼等を殺す気だったならば――――彼等は自分が殺されたのだと理解する間もなく死んでいたことに。
「それで、オーフィス。こいつが君の紹介したかった者か?」
「……そう」
オーフィスが肯定し、それとほぼ同時に注目するように一歩前に出る殺人貴。突き刺さる視線。傲慢、侮蔑、恐怖、興味。数々の意味が込められた視線を向けられながら、それは言った。
「我が名は殺人貴。本日を以って『
そして、
「本日を以って、『
驚愕する彼等に向かって、殺人貴は迷うことなく宣言した。
◇◇◇
賽は投げられた。もはや後戻りは出来ぬ。あとは雪崩の如く突き進むのみ。
運命の針は止まらない。これにて序劇は終幕。次の舞台は
さあ――――それでは
はい、ということで「ハイスクールD×D 無限の守護者」の原作に至るまでのお話はこれで終わりです。ようやく次回から原作に入れるぜ!
いや、本当に長かった。書いた作者が言うのもあれだけど、本当に長かった! というか原作入りに二十話掛かるってどういうこと!? 普通二話かそこらでしょうが! どんだけ時間掛かってんだ私!!
さて、とりあえず原作前に張る伏線は総て張ったかな? 次回からは主人公がイッセーに変わります。というかキャラ改変が凄いことになるだろうな……。魔改造された彼等をどうかお楽しみにそれでは!
あ、もし良ければ活動報告の方もご覧になって下さい。