「こんなオーフィス見たくない!」という奴がいたら今すぐ閉じろ。これは作者が生み出した妄想だ。原作の雰囲気がぶち殺されたくなければ閉じた方がいい。
けど、もし覚悟があると言うのなら。この命を掛けてもいいという強者がいるならば、俺と来い!
行くぞーーーーオーフィス燃え萌え隊、出撃だああああああああああァァッ!!
「我、『
少女が名乗ったその名前に俺は驚愕した。
俺はその名前を知っている。それは残滓として残っていた記憶のひと欠片。死しても尚覚えていた『前世』の記録。
『
それは無限の体現者。次元の狭間から生まれ、神すらも超越した力を持つ龍。神をも貫く最強の
そのような存在が何故こんなところにいる?
「我、気になる。おまえ、何?」
「いや、何って聞かれても…………」
俺は俺としか答えられないのだが。
とりあえず自己紹介をされたのでこちらも自己紹介で返すとしよう。さすがに名乗るぐらいは問題あるまい。
「俺は信貴。兵藤信貴だ」
「シキ、それが未知なるモノの名?」
「…………というかその“未知なるモノ”ってのは何なんだ?」
「シキのこと」
オーフィスは少し首を傾げ、何を話せばいいのか分からない様子でしばらく黙り、言葉を選びながら語り出した。
「シキ、よく分からない。シキのような存在初めて見た。シキ、他の者と何か違う。我も理解出来ない。だから未知なるモノ」
「俺が、違う…………?」
いったい何が。いや、違う。本当は分かっている、理解している。オーフィスが言う俺と他の者達との違い。それはきっと俺が死んでいるからだろう。
死んだ者は生き返らない。
失ったものは還ってこない。
過ぎた時間は戻らない。
それが世界の法則だ。当たり前で、理不尽で、けれど誰もがそれを受け入れ今を生きている。だからこそ命に意味がある。
だけど、俺は違う。俺は還ってきてしまった。世界の法則を捻じ曲げ、我を持った状態で『死』から戻ってきてしまった。
つまり俺は死んでいない。死とは終焉だ。全てを理不尽に何もかも奪われ、我が消滅する。それが死だ、そうでなくてはならない。
なのに、俺は死ねなかった。肉体は滅んだだろう。けれど魂は存在し続けた。暗く昏く、何もなく何もかもあるあの場所を、俺は漂い続けた。
永かった。あそこには時間の概念が存在しない。もしかしたら永遠とも呼べるほどいたのかもしれないし、刹那の瞬間だけだったのかもしれない。ただそこにあったのは、消えることすら出来ない絶望と苦痛と恐怖。
消えられればよかった。俺は死んだのに、こうして生きている。本来は存在してはならない生命。死んで生き返る命など塵だ。失くなっても戻ってくるモノなど価値がない。
だけど嫌だ。俺は死にたくない、俺はもうあの場所へは行きたくない。
矛盾。
そう、俺は矛盾している。生きたいのに死にたがっている。死にたいのに生きたがっている。二律背反。
ーーーーだから俺は死にながら生きている。それが俺と他の違い。
「我、シキが気になった。だからシキに逢いにきた。けれど分からない。シキは何?」
「俺はーーーー」
俺はなんと答えるべきだろうか。ただの人間、転生者、存在してはならない者。どれも合っていそうで、間違っている気がする。なら、俺が答えるべき事は一つだけ。
「俺は信貴だ。それ以上以下以外以内の何者でもない」
「シキは…………シキ?」
俺の言った事に首を傾げるオーフィス。
「そうだ。オーフィスはオーフィスだろ? そこに理由が必要なのか?」
「…………けれど、我、自分のこと分からない。自分が何故生まれたのか、何をすべきなのか、我、分からない。それでも我は我?」
「別にいいだろ、分からなくても」
「ーーーー」
オーフィスが目を大きく開いて息を呑んだ。その様子がおかしくて、少し笑ってしまう。
「第一、自分のことを全部理解している奴なんていないと思うぞ? 皆自分のことが分からなくて、何をすべきか分からなくて、迷いながら生きている。それが当たり前の事なんだ。だから、自分の事が分からなくても悩む必要なんてない。どんな理由を並べても、お前がお前である事には何も変わらないだろ?」
そこまで語っておいて、どの口がほざいてやがると思った。自分が一番悩んでいるくせに、他人に偉そうに説教している。そんな自分に自嘲する。
「そう…………我は我。そこに理由はいらない」
オーフィスは目を瞑って満足気に何度も頷いた。
「…………それで、俺の正体とやらはいいのか?」
「いい。シキの正体、気になるけどもういい。シキの正体が何であれ、シキはシキだから」
それに、とオーフィスは閉じていた眼を開き、口元をほんの少し微笑ませて、
「我、シキ自身に興味がある。シキのこと知りたい」
…………あれ? 何故か変なフラグが立った気がする。
「そ、そうか。とりあえず今日はもう遅いし帰るわ」
「わかった」
何やら嫌な予感がするので撤退することにする。それな太陽もほとんど沈みかけているので本当に帰った方がいいだろう。
俺はオーフィスに別れを告げて、自宅に向かって歩き出した。
歩き出した、のたが…………
「…………」
「…………」
コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。
コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。
「…………」
「…………」
タッタッタッタッタッタッタッ。
タッタッタッタッタッタッタッ。
「…………」
「…………」
ピタッ。
ピタッ。
「…………あの、オーフィスさん?」
「なに」
「…………何でついて来ていらっしゃるのですか?」
「我、シキに興味がある。だからついて行く」
ーーーーオーフィスがストーカー化した。
俺の三歩後ろ。そこからオーフィスが離れない。歩いても走っても止まっても必ず三歩後ろにいる。足音が俺から離れない。
何だそれ。一体全体なにがどうしてそうなった。幼女のストーカーなんて一部のマニアックな人々には喜ばれるかもしれないが、俺にその癖はない。むしろホラーの類だろう。意味不明すぎてむしろ笑えてくる。
「…………ん? ちょっと待て。ついて来るっていったい何処までだ? まさか家までついて来る気か?」
「シキが行くなら」
こくりと頷いて肯定するオーフィス。
なるほど、そうかそうか。はっはっはっはっはっはっ。
「ーーーー戦略的撤退!」
全速力でその場から離脱し、近くの路地裏に駆け込む。複雑で入れ組む道に落ちている塵を蹴り散らしながら、全力疾走で駆け抜ける。
冗談ではない。こんな時間に、ほとんど前が丸見えな露出狂の幼女を家に連れて帰ってみろ。確実に今後俺の渾名が“変態ロリコン野郎”になる。
「シキ、逃がさない」
「ハッ! 生まれてからずっとイッセーと紫藤の遊びに付き合ってきたんだ。もはやこの街は俺の庭当然ーーーーって早ッ! 触れた塵が吹き飛ぶんじゃなくて粉砕するなんて有り得なさすぎるだろ!?」
暗い路地裏を二つの影が疾走する。その時、俺の気のせいだと思うのだが、
ーーーーオーフィスの声音がほんの少し楽しげに聞こえた気がした。
そして、それから三十分後。
「はあ……はあ……はあ……、ようやく撒いたか」
息切れして大きく肩を上下させつつも、俺は何とかオーフィスの尾行を撒いていた。
太陽は既に完全に沈んでおり、辺りは闇に包まれている。流石にそろそろ帰らなければ皆が心配するかもしれない。
と、そんな事を考えている内に気付けば家の前に着いていた。色々なことがあったので肉体的にも精神的にも疲れているのだろう。今日はさっさと休むとするか。
「ただいまーっと」
「あ、信貴お帰りなさい。遅かーーーー」
玄関の扉を開けると偶然母親がいた。いつも通りに返事を返すが、その途中で何故か言葉が途切れた。何事かと思って顔を向けると、母親は運んでいた洗濯物を床に落とし、酸素を求める魚のように口をパクパク開きながら、信じられないモノを見るような眼で俺の後方を震えながら指差していた。
…………後ろ? 後ろになにかあるのか? そう思い背後に視線を向けると、
「…………」
何故か、ほんの三十分前に見掛けた黒いゴスロリ服を着た少女が俺の背後に平然と立っていた。
………………………………うん、まあ、言いたい事は山ほどあるけど。
悟りを開くとはこういう事なのか、と思うほど達観した心境で俺はそっと耳に両手を当てて聴覚を遮断する。それを見て、さりげなく真似して耳を塞ぐオーフィスの姿にほんの少し癒された。諸悪の根源に癒されるというのもおかしな話だが。
と、しばらく黙っていると母親の指の震えは次第に増していきーーーー
「信貴が、信貴が見知らぬ可愛らしい女の子を家に連れて来たああああああああああァァーーーーッ!」
大・爆・発。そう例えるほどの大音量で母親は絶叫し、普段の三倍の速さでリビングに突っ込んでいった。
…………予想していたとは言え、あまりの音量に頭がぐらんぐらんと揺れる。しかもリビングから聞こえてくる騒がしい声に頭痛が更に激しくなった。
とりあえず、聞きたいことが一つある。
「…………お前、何時からいた?」
「我、ずっとシキの後ろにいた。シキが気付かなかっただけ」
…………さいですか。
俺は返事をするのも億劫になり、これから起こる面倒事に深々とため息を吐いた。
☆☆☆☆☆
「はい、オーフィスちゃん。たくさん食べてね。遠慮なんてしなくていいのよ」
「…………(もぐもぐ)」
「いやー、実は父さん、娘が欲しかったんだよなー。娘が出来るってこういう気持ちなんだろうか…………そのうち、お父さんと洗濯物一緒にしないでとか言い出して…………こ、恋人が出来たりして…………やらん、貴様のような屑男にうちの娘はやらんぞぉっ!」
「なぁ、俺はドライグじゃなくてイッセーって言うんだぜ? ちゃんと覚えてくれよな!」
ちょっと待て、そこの天然三人。
「…………おい、おまえら」
「あら、どうしたの信貴。そんな恐い顔して」
「そうだぞ信貴。そんな恐い顔をしていたら、この娘も怖がるだろう」
「信貴、どうかしたのか?」
「…………(もぐもぐ)」
キョトンとした顔でこちらを見てくる三人と、口をもきゅもきゅと動かしながら無言で食事を続ける龍神。その様子に、俺の怒りのボルテージは更に上昇していく。
理由? ああもちろんある。何で誰もオーフィスの格好に突っ込まないとか、こんな時間に知らない少女を連れて来て何で誰も尋ねないとか、というかオーフィスおまえ完全にキャラ崩壊してるだろ誰だおまえとか、他にも山ほど。
だが、俺の怒りが天元突破している理由はこれだ。
「この『祝! 信貴が初めて友達を連れて来たパーティー!!』っていうのは何だああああああああああァァ!!」
バン! といつの間に作ったのか、そう大きく書かれた紙を思いっきり指差す。
しかし、それに対する反応は淡々としており、
「だって、信貴が友達連れて来たの初めてじゃない」
「そうだぞ。父さん、信貴が小学校でいつも一人でいるって先生から相談あったんだからな。そんなおまえが友達を連れて来るなんて喜ばしいことじゃないか」
「信貴っていつも一人だしな」
「ぐはっ!?」
家族からの容赦無い一言かわ俺の精神を抉り、思わず地に伏せた。
い、いや別に友達がいないんじゃないぞ? ただ一人でいる方が楽だからとか、他の同年代の奴らとは話が合わないからとか、そういう理由があって作ろうとしないだけで。確かに小学生の知り合いはイッセーや紫藤ぐらいしかいないけど!
「シキ、大丈夫?」
と、床に倒れて一人落ち込んでいるといつの間にかオーフィスが俺の前におり、頭を撫でてきた。
あの、オーフィスさん。気持ちは大変嬉しいのですが、そんな正面から中途半端な座り方されたらスカートの奥が見えそうなんですが…………
「ところでシキ、友達って何?」
「ん?」
俺が思春期的な悩みをしているところ、オーフィスはふと尋ねてきた。
「友達っていうのは…………まぁ話をしたり思い出を共有したり、一緒にいて楽しい奴らってトコかな」
「我、シキの初めての友達?」
「む…………」
さて、何と言うべきか。オーフィスはつい先程出逢ったばかりの相手で、友達と呼ぶかどうかと聞かれたら首を横に振るだろう。しかしここまで歓迎会を開いている状態で友達じゃないと言えば、間違いなく家族からの冷たい視線を向けられる。それにイッセーや紫藤は俺にとっては幼馴染というポジションで、確かに友達というポジションには誰もいなかった。
「…………ああそうだよ。オーフィスは俺の初めての友達だ」
「なら、我と同じ」
「は?」
なにが? と尋ねる前にオーフィスは撫でながら少しだけ微笑み、
「我も今まで一人だった。シキが初めて。だからシキは我の初めての友達」
「ーーーー」
思わず息を呑む。俺には気のせいか、その笑顔が本当に嬉しそうに見えた。
…………少しだけ、胸の奥が痛む。彼女の無垢な心を騙しているという事が幻覚の痛みを生み出していた。
だって、俺はーーーー
「おーい、いつまで倒れてんだよ。ほら、カル○スでも飲んでってどわああああああああああァァっ!?」
「…………はい?」
思い老けているのが間違いだったのか。冷蔵庫からカ○ピスの原液をコップに入れた状態で走ってきたイッセーがそれは見事としか言えないほど豪快に転けた。その勢いで手放された液体入りコップは宙を舞い、その二つのコップはもはや運命としか言えないほど正確に俺とオーフィスの頭上に来て、
ーーーー俺とオーフィスは顔面からカルピ○の原液を浴びることとなった。
「ぐぼっ!?」
しかも最悪なことにコップの底が鼻先に直撃した。
なんというか、不幸だ。○ルピスの原液のせいで身体はベタベタするし、鼻にコップが当たるはとことんツいていない。何だろう、眼から心の汗が出て来そう。
「シキ、大丈夫?」
「あ、ああ。俺なら大丈夫だ、オーフィスはーーーー」
オーフィスが心配そうに尋ねてきたので、大丈夫だと応えるために鼻を押さえながら顔を上げるが、直後、俺は絶句した。
ーーーーオーフィスが全身白いドロドロした液体に染められていた。
「……………………」
「…………シキ?」
「…………え? あ、ああいや別に何でもない俺は平気だオーフィスは大丈夫か!?」
落ち着け俺、物凄い早口になってるぞ。あれはただのカル○スだ。俺は白いてドロドロした液体から別のモノを連想などしていない!
すると、オーフィスは口元の白いドロドロした液体をペロリと舌で舐め取り、
「…………おいしい」
……………………………………………………………………………………。
「イテテテテ…………あれ? 信貴なんでうつ伏せで倒れてんだ?」
「聞くな話すな何も言うな…………」
何だろう、オーフィスと関わると物凄く疲れる。この天然少女と会話しているとどんどん俺のキャラが崩壊している気がする。
しかし、俺の苦労は終わらない。
「こら、駄目じゃないイッセー。しかし二人ともドロドロになっちゃったわねえ。その格好で家に帰すワケにもいかないし…………」
「そうだ、二人ともお風呂に入ったらどうだ? その間に洗濯すればいいし、二人ともそのままじゃ気持ちわるいだろ?」
「…………お風呂?」
ーーーー神よ、お前はそこまで俺が嫌いか。
☆☆☆☆☆
お風呂。
それは古今東西日本人ならば誰もが好むであろう聖域。一日の疲れを癒し、恐らく最もほっとする場所だと俺は思う。もちろん俺も大好きだ。
普段の俺ならば脱衣所で速攻で衣類を脱いで風呂場に直行するのだが、今日ばかりは脱衣所で停止しざるおえない。
それは何故か。その理由は単純明快。
「ん」
「ちょっと待て、流石に幼い少女の衣類を脱がすというのは犯罪チックすぎるというかーーーーァッ!」
ーーーーオーフィスが俺に衣類を脱がすよう頼んできたからだ。
「というか何でお前は自分の服の脱ぎ方も知らないんだ!? どうやって着たんだそれ!?」
「これ、我の魔力で作られてる。いつも綺麗。だから我、脱ぎ方知らない」
「じゃあ魔力を消せばいいだろうが!」
「それは無理。この衣服は我の身体の一部でもある。姿形は変えられるけど、まだ衣服だけは外した事がないから仕方分からない。言うなれば鱗だけ剥がすようなもの」
「じゃああれか、お前常時全裸みたいなもんなのか!?」
「シキ、早くする。時間がもったいない」
「俺が悪いのか!? …………ああもう分かったよやれば良いんだろうがッ!!」
ーーーーここから先は音声のみでお楽しみ下さいーーーー
「えーと、まずは上を脱がして…………って何で顔を赤くする。何だか恥ずかしい? …………俺の方が百倍恥ずかしいっての。次は頭のカチューシャを外してって変な声出すな。頭を撫でられたみたいでボーとする? 気のせいだ。俺にナデポの力はない。さて、と。次はーーーーって絶対もう一人で脱げるよな。胸のところのテープと下着だけだし。…………無理? …………ああもう、分かったよ最後までやればいいんだろ。じゃあまずはテープからーーーーって色っぽい声出すな!? 胸のテープを剥がされる時なんだが身体の芯が熱くなる? …………頼むからそういう事は思っても口にしないでくれ、俺の精神力がガリガリ削れていくから。さて、それじゃあーーーー…………あの、オーフィス。本当に、最後までやらなきゃ駄目か? あ、駄目ですかそうですか。いやでもパンツを降ろすというのは流石にって何で俺の腕を掴んでよせ止めろ無理やり下げさせようとするなお前やっぱり自分で脱げるだろって肌白くて柔らかって違う俺はロリコンじゃないよせ馬鹿止めろォォーーーーッッ!!」
ーーーー終了ーーーー
「あ、危なかった。あと少しで目覚めてはならない何かに目覚めるところだった…………!」
「? シキ、ヘンな顔している」
誰のせいだ、誰の。
とりあえず何とかオーフィスの衣服を脱がす事に成功し、その衣類を洗濯機の中に突っ込む。ついでに俺も服を脱いで洗濯機の中に入れ、洗濯を開始する。洗濯機が起動する音を聞くと、俺は腰にタオルをしっかりと巻き付けた。
よし、これで準備万端。ようやくお風呂に入れる。
「シキ、待つ」
「ん、どうしたオーフィス?」
が、扉を開ける直前、オーフィスに腰に巻いたタオルを掴まれ止められた。
オーフィスは無表情な貌で告げる。
「シキ、風呂に入る時は全部脱ぐ」
……………………は?
「風呂に入る時、服を全部脱ぐのが当然だと聞いた。だからシキも脱ぐ」
いや、確かにその通りなんだが、流石に知り合って一日も経っていない相手に裸を見せるのはどうかと思うし、それにこの隠されたバベルの塔を見られたくないし、
「というか誰から聞いたそれ」
「ドライグ」
「お前の仕業かイィィセエエエエエエエエエエぇぇっ!!」
あの野郎…………! たぶんお風呂に入ったことがないオーフィスに色々説明してくれたのだと思うのたが、余計なことまで吹き込んでいた。
ちなみにオーフィスの言う“ドライグ”というのはイッセーの事だ。何故イッセーがそう呼ばれているという疑問はこれからおいおい話していくので今はひとまず置いておこう。今一番重要なのは目の前の問題なのだから。
そう、これは重要なことだ。選択肢を間違えれば俺の腰に巻かれてあるタオルは剥ぎ取られ、俺のガードは失くなってしまう。失敗だけは許されない。
俺は意を決して口を開いた。
「あのな、オーーーー」
「シキ、脱げないなら我が脱がす」
「ーーーーフィスさんお願いだからせめて説得する時間をくれ!」
言葉を話す猶予すらなく、俺の腰を守護していたタオルは無残にも奪われた。
「…………何か、失ってはならないモノを失った気がする」
「シキ、大丈夫?」
何故か風呂場に辿り着くだけで非常に疲れた。一方でオーフィスはお風呂が初めてなのか辺りの彼方此方に視線を向けて不思議そうにしている。といっても無表情なので何となくなのだが。
「そういえばオーフィスは風呂が初めてなのか?」
シャワーの水の温度が冷水から温水に変わるのを待っている間、ふと疑問に思ったことを尋ねる。
「我、知識だけは知っていた。けれど我、汚れない。だから不必要だと判断して今まで入らなかった」
「ーーーー」
オーフィスの話した内容にほんの少し眉を寄せる。
不必要ならばしない。それはつまりーーーー
ーーーー必要最低限な生き方しかこいつは知らないんじゃないか?
命令された通りにしか動けない機械のように。
殺すためだけの殺戮兵器のように。
不必要ならば切り捨て、無駄を失くし、当たり前の幸せも知らず、それがどんなに哀れなのかも気付けない。
ああ、それはなんてーーーー悲しいーーーー生き方なのだろうか。
「…………シキ?」
「…………え?」
気付けば俺は無意識にオーフィスの頭を撫でていた。
「あ、ああ悪い。ちょっとボーとしてたみたいだ。嫌だったか? すぐ退かすよ」
まだ逢ってから一日も経っていない相手に頭を撫でられても不快でしかないだろう。すぐに手を離そうとしたが、それよりも速くオーフィスの手が俺の腕を掴んだ。
「お、オーフィス?」
「…………嫌、じゃない」
「へ?」
今、オーフィスは何と言っただろうか。
「我、シキに頭撫でられるの、嫌いじゃない。シキの手、あったかい」
「…………」
静寂となった風呂場。訊こえてくるのは流れるシャワーの音と、煩いほど高鳴っている己の鼓動のみ。手の平からはオーフィスの髪の感触が伝わってきて、ただ彼女の頭を撫で続ける。
不思議な感覚だった。時間が止まってしまったような奇妙な錯覚。この時間が永遠に続けばいいと思うほど、この瞬間は幻想的だった。
出来れば、終わってほしくないとーーーー
『信貴ー、オーフィスちゃーん? 湯加減はどぉー?』
「ッ!?」
瞬間、母親の声によってそれは中断させられた。
「あ、ああ、大丈夫。別に何の問題もない」
『そぉー? なら湯あたりに気を付けなさいよねー』
まだ風呂に入っていないが、入っていないと言っても怪しまれるので適当な言い訳をして返事をする。しかし、何はともあれ助かった。あのまま母親が尋ねてこなければずっと撫でていただろう。
「ほら、オーフィス。身体洗ってやるからこっちに来い」
「ん」
何故か撫でられる体勢のまま固まっていたオーフィスを移動させて、鏡の前にある腰掛けに座らせる。そしてシャンプーやリンスで髪を洗い、石鹸で身体を洗った。その時髪が綺麗で肌が柔らかく、予想以上にドキドキしたのは秘密である。
そして。
「…………なあ、オーフィス」
「なに」
「…………どうしてもこの体勢じゃなきゃ駄目か?」
「駄目」
身体を洗い終え、俺とオーフィスは浴槽に浸かっていた。
浸かっていた、のだが…………
「でも、この体勢って物凄く恥ずかしいんだけど」
この体勢。それはオーフィスが俺の前に座り、俺がオーフィスを後ろから抱きしめているような体勢だった。
「何故? 我、この体勢好き」
こちらからでは後ろ髪しか見えないので彼女の貌が分からないが、恐らく喜んでいるのだろう。後ろに体重を掛け、もたれるようにオーフィスは倒れてくる。
…………何故、オーフィスかわ初対面の俺に対してここまで心を許してくれるのか分からない。俺は彼女に何もしていないのに。
だから尋ねた。どうして、と。それに対する彼女の応えは、
「初めてだったから」
それは、残酷な応え。
「我、抱きしめられるの初めて。シキの身体、気持ちいい」
他人の温度に一度も触れたことがなかった。そんな誰もが必ず経験することすら知らなかった。
「ーーーー」
その事実が、俺の胸を貫いた。
「…………シキ?」
「……………………」
抱きしめる。無言で力強く、彼女を抱きしめる。
それが己の自己満足だということは分かっている。それでも、少しでも伝わればいいと思う。
ーーーー冷たい彼女の心に、少しでも熱が伝わればいい。
ただそのことを思いながら、俺はオーフィスを抱きしめ続けた。
☆☆☆☆☆
「悪いなオーフィス、騒がしかっただろ?」
「別にいい」
夜。月が辺りを照らす中、俺とオーフィスは玄関の前に立っていた。
お風呂から上がった後もパーティーは続き、どんちゃん騒ぎした後、気付けば夜も遅くなってきたというワケでオーフィスは帰ることになり、一人で帰らせるのは危ないという事で俺が付き添いを任されたというのが今までの経緯である。
というか両親よ、俺もまだ小学生なんだが…………
「シキ?」
「ん? ああいや、ちょっと両親の常識を疑っていただけだ。別になんでもない」
心配そうに顔を覗き込んでくるオーフィスに何でもないと告げる。
「それより、お前はどうするんだ? また来るつもりなら、出来ればいつ来るか教えてくれると助かる。分からないと心臓に悪いしな」
そう冗談混じりに笑いながら言った。
だが、
「否。我、もうここには来ない」
その返答に、俺は硬直した。
「ここ、シキの居場所。我の居場所ではない。我がいてもいい場所ではない。だからここにはもう来ない」
それは望んでいた返答のはずだった。
オーフィスは強大な力そのものだ。大きなる力は災いを呼び起こす。だから、平凡で平穏な人生を目指している俺とは正反対な存在だ。
だからこれでいいはずだ。何の問題もない、本来の関係に戻るだけ。
なのにーーーー俺はどうしてショックをうけているんだ?
「…………じゃあ、オーフィスの居場所は何処にあるんだ?」
呆然とした状態でオーフィスに問う。その返答は冷たく、何の感情も込められていない。
「我の居場所、帰れない。グレートレッドいる。だから我の居場所、ない」
オーフィスの身体が夜の闇に溶けていく。誰にも気づかれることのない闇の中へ消えていく。
「…………ああ、そうか」
確信する。
ーーーーオーフィスは独りぼっちなんだ。
『
最強とは、孤高である。生物は弱いからこそ群れを作り、質を数で対抗する。
ならば、生まれた時から最強な存在はどうするのか。当然、群れを作るはずがない。
何故なら、その存在は初めから己一人で完結しているからだ。己一人で出来ることを何故他者の力を借りなければならない。
生態系のピラミッドは頂点に行けば行くほど数を減少していく。ならば当然、頂点となる存在は横に誰もいない。
ならそれは、孤独となにが違う?
「…………ふざけるな」
奥歯を噛み砕きそうになるほど強く噛む。
ふざけるな、何だそれは。こいつは何も分かっていない。いや、何も知らなかったんだ。
当たり前の楽しさも、触れ合う温かさも、無駄なことの大切さも。
何より悲惨なのは、それを彼女がどんなに哀れなのか少しも感じていないこと。
まるで道化のような孤独。無垢なる少女。
「…………なあ、オーフィス」
「なに?」
ふと、止めろと理性が叫んだ。それは駄目だ、その選択は兵藤信貴の日常を破壊する。兵藤信貴が貴いと思っていた
けれど、それが間違いだとは思わない。
いつか後悔するかもしれない。この事を呪うことになるかもしれない。
それでもこの瞬間、この選択だけは、間違っていないと信じている。
「お前、居場所ないんだような?」
「うん」
「だったらーーーー」
そう、だったら。こんな人でなしな俺だけど。
「ーーーー俺がお前の居場所になってやる」
お前を独りにしたくないって、思ってしまったんだ。
「…………え?」
オーフィスが驚いて振り返る。その戸惑った様子が可愛らしくて、ほほえましくあなる。
「シキが…………我の居場所?」
「ああ」
「…………でも、我の居場所、次元の狭間。シキじゃない」
「今は帰れないんだろ? だったら仮でもいい。だから、お前はここにいてもいいんだ」
手を伸ばす。オーフィスが手を伸ばせば届く距離。彼女は不安そうにこちらを見上げた。
「…………我、静寂が欲しい」
「そうか」
「…………我、生まれた理由が知りたい」
「そうか」
「ーーーー我、ここにいても、いい?」
「ーーーー当たり前だ」
おずおずと伸ばされた手を掴む。小さい女の子の手。離さないと誓うように、強く握りしめる。
月の光に照らされて、オーフィスの貌がはっきりと見えた。それは迷子になった子供が我慢してなる無表情な貌ではない。
「ーーーーシキ。我の、居場所」
太陽にも負けない、誰よりも美しく輝いた少女の満面な笑顔だった。
どうせ感想で言われると思うから先に言っておくーーーー私はロリコンではない。
どうも皆さんお久しぶりです、作者です。
この度は長い間、更新できなかったことをお詫び申し上げます。何故今まで更新しなかったというと、長い間書いていなかったせいで語彙が貧弱になっており、皆様にみせられるようなモノではなかったからです。まあ今もそうなんですが。
さて、今回はいかがでしたでしょうか。過去最高の文字数。そして私なりに頑張ってオーフィスを可愛らしく書いたつもりなのですが…………楽しんでもらえれば嬉しいです。
しかしあれですね、やはり私が書くとオーフィスがチョロフィスになってしまう。言っていることも意味不明ですし、もっと完成度の高い作品を書けるようにしたいですね。
さて、まだまだ実力不足な私ですが、皆様に楽しんで読んで貰えるよう精一杯頑張ります。なのでどつか、長い目で応援して下さい。
それでは。
ふと思った。
信貴「時よ止まれーーーーおまえは美しい」
マリィ「わたしがみんなを抱きしめるから」
フリード「最後に勝ちを狙って何が悪い」
アーシア「あなたに勝つため、日陰の女になってやるわよ!」
レイナーレ「いつまでもジャンル違いがのさばるんじゃない!」
オーフィス「知らぬ存ぜぬ。纏めて心底どうでもいい」
666「滅尽滅相ォッ!!」
…………これ、普通にハイスクールD×DでDies iraeできんじゃね?