ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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現在月姫攻略中。琥珀さーーーん! 好きだーーーー!


混沌

「つーかよ、ひょっとしておまえが噂の“殺人貴”って奴なのか?」

 

「……なんだそれ?」

 

 警戒しながら城の中を探索していると、先ほどから何故か連いてくるフリードに尋ねられて思わず振り返った。

 

「教会でも噂になってたぜ。近頃強力なはぐれ悪魔が次々に討伐されて、しかもそれが誰かなのか分かんねえから教会の爺婆共が慌ててたぜ? まあ無所属の何処の誰かも分かんねーから敵になったら大変なのは分かるが、腰抜けすぎんだろ。まったく」

 

「……で? その殺人貴とやらがどうして俺だと思うんだ?」

 

「あ? ああそれね。実は何処の誰が言い出したかは知らんが、殺人貴っていう輩は常に全身を黒い闇で覆っていて、一撃で相手を滅ぼすことが出来る輩っていう噂が流れていてな。さっきおまえの姿を見てピンッと来たんだが、実際のトコどうなのよ?」

 

「…………」

 

 思わず溜息を吐きたくなる。何処のどいつだ、そんな噂流した奴。確かに最近はぐれ悪魔狩りを中心としてきたが、まさかそんな噂が流れているなんて予想外だった。

 

 まあ、確かに冷静に考えると今まで討伐することが困難だった強者であるはぐれ悪魔達がいきなり討伐され始め、あげくそれを行っているのが同一人物だとしたら、普通は警戒するか。

 

 少し焦り過ぎたか、と己の不注意に嘆息が漏れる。

 

「で? おまえが本当に噂の殺人貴って奴なのか?」

 

「…………」

 

 ニヤニヤと、不敵な笑みを浮かべたまましつこく尋ねてくるフリードに若干苛立ちを覚える。一発ぶん殴ってやりたいが、どうせ躱されると思うので息を吐き出して耐える。

 

「知るか。何処の馬鹿が言い出したか知らないが、俺はそんな名前で呼ばれたことは一度もない」

 

「ふーん。まあどうでもいいんだけどな」

 

「じゃあ訊くなよ。というかおまえはいつまで付いて来るつもりだ」

 

「あ? なに勘違いしてんだ。おまえがオレの先を勝手に歩いてんだろうが。嫌ならおまえがどっか行けよ」

 

 などと、他愛もない会話をしながら進んで行く。すると、ふと巨大な扉が俺達の前に立ち塞がった。

 

「これは……」

 

「おーおー、ようやく当たりってわけか。まったく、城っていうのは無駄に広いからメンドくせえ。案内板でも置いとけよな」

 

「いや、侵入者に対して親切な家設計っていうのはありえないだろ普通」

 

 軽口を叩きながら巨大な扉を開けていく。明らかに質量と比例していない重さで、子供二人程度では到底動かせない荘厳な扉は、まるで己から開いていくようにゆっくりと開いていく。

 

 扉の先。そこには、明らかに城の内部とは思えないほどの広大に広がった廊下が続いていた。夜とはいえ、窓から月の光が入り込んでいるが、それでも反対側の扉が見えないほど長い廊下。少なくとも三キロはあるだろう。

 

「へえ、空間魔法か。この規模で考えると、あと少しってトコに居そうだな。これ程でかい結界を張るには術者が近くにいねえとキツそうだしな」

 

 流石はエクソシストというべきか。瞬時にこの廊下に掛けられている魔法を見抜くフリードの観察眼には驚嘆する。しかし、フリードの言った事が正しいのであれば、

 

「つまり、ここが正念場ってことか」

 

「そういうこと。ほら――――やっこさんのお出ましだぜ」

 

 戦闘の気配を感じとって、共に互いの得物を取り出す。それに反応するかのように、反対側の通路から次々に敵の気配が増加していく。一、十、数十、百、数百――――と、眼に写るだけでも有り得ない馬鹿げた量。大小問わず、様々な姿をしたキメラが襲い掛かって来る。

 

「おお、こりゃ凄ぇ数だな。おそらくこの城にいるヤツ全部いるんじゃねえか?」

 

「まさに総戦力だな」

 

 一応年には念を入れて背後の扉を動かそうとしてみるが、ビクともしない。扉が動かないというよりも空間を固定されたような感覚。

 

「当然、逃げ道は封鎖されてるか」

 

「あ? なんだおまえ、逃げるつもりだったのか? だったら大人しく隅の方でガタガタ震えながら隠れてろよ。案外助かるかもしんねえぜ?」

 

「冗談抜かすな。ただ一応確かめただけだ。それに、ここまで進むのを妨害してくるってことは……」

 

「ああ。間違いなくこの先にいるな。ここまで警戒してたら居場所教えてるようなもんだろ」

 

 迫るキメラの大群。その距離はもはや五百メートルを切っている。量の差は絶望的。だが、質の差ならばどうだ。質が量に劣るなどと妄言を説いた覚えはさらさらない。

 

 所詮は有象無象の塵芥。優れた身体を手に入れた程度で、伽藍洞な魂で勝てるなどとほざくならば、一度死んでやり直して来い。

 

 身体に力を込める。ナイフを強く握り締め、未だヘラヘラ笑っているフリードに向かって告げる。

 

「フォローなんか期待するなよ」

 

「そりゃオレの台詞だっての」

 

 フリードは獰猛な笑みを浮かべ、手に銃を構える。肩を並べるのは初めてだが、不思議と肩を並べることに何の抵抗も覚えないほど信用できた。

 

「じゃあ、行くぞォォおおおお――――!!」

 

 唸り、地面を蹴りつけて前方に突進する。百鬼夜行のように蠢く数多のキメラの渦に、ナイフで斬り裂いて激突した。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「……馬鹿な」

 

 唖然。シヌイの心境を一言で表すとしたらまさにその一言だった。遠見魔法で見る光景に絶句する。何故、何故……!

 

「私の作り上げた、研究品がたった二人の人間の若造を殺せない……!?」

 

 空間魔法で作り上げた空間領域。そこに先ほどに失敗の反省も活かして、失敗だけではなく完成品である残り八体も投入した、全戦力である全てのキメラで彼等を嬲り殺しにする予定が。

 

 蹴りで、刃で、銃弾で。こうもあっさり殺されていく――――!?

 

 空間内のキメラの数が、たった一分そこらで物凄い勢いで死んでいく。有り得ない。そんなはずではない。何故、なぜ、ナゼ、

 

「私が人間風情に追い詰められなければならない――――!?」

 

 声を荒げて手元の机に拳を叩き付ける。衝撃で机が真っ二つに砕けるが、そんな些細なことはどうでもよかった。

 

 ただあるのは胸の憎悪。家畜風情にここまで追い詰められたことに対する憤怒が、彼の胸を焦がしていく。赦さない、認めない、粋がるのも大概にしろ。貴様等人間など私のモルモットにでもなればいいのだ。その程度の価値もない塵の分際で。

 

「……く、くくく、はははははは……!

 ――――よかろう。ならば我が研究の成果を貴様等で試してやろう。少々検証が不十分であるが、問題あるまい」

 

 そう言って、彼は私室の更に奥の部屋に向かう。そこには何重にも結界が施されており、厳重に保管されていた何かを取り出した。それは一見、泥のようなものが入っているビン。それを見つめると、恍惚の笑みを浮かべる。

 

「我が命題。我が悲願を果たすため研究を重ね幾年月。ついに、ついに私の研究が成就するときが来た! 再生と崩壊、原初と終焉、回帰する生の理。原初の秩序。永遠とは何か、その果てに辿り着くための手段を得る研究が!」

 

 ピキッ、とビンに罅が走り、彼の握力に耐えきれず粉々に砕け散った。手に残った泥のような存在を愛しげに眺め、

 

「今宵、私は新たな存在として誕生する――――!」

 

 それを、口に含んだ。

 

「ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 轟く咆哮。それは誕生の雄叫びか。或いは生まれ変わることへの歓喜か。ただ分かるのは、シヌイという存在はたった今絶命し、別の何かが生まれたということのみ。

 

 変わる。

 

 変貌する。

 

 作り替わる。

 

 生まれ変わる。

 

 世界が――――創造された。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 ナイフを獣の脳天に深々と突き刺す。それで獣は絶命した。

 

「……ふぅ」

 

「おー、お疲れさん」

 

 最後のキメラにとどめを刺すと、タイミングを計っていたようにフリードが話し掛けてきた。横眼で姿を確認するが、返り血を浴びているだけで目立った傷は負っていなさそうだった。

 

「そっちはどうだ?」

 

「問題ねえよ。全部しとめた。そっちは?」

 

「こちらも大丈夫だ。……というか、何処にそんな大量の弾丸隠してんだ?」

 

 フリードが倒したキメラの数を数えても、おそらく数百は超えているだろう。俺のようにナイフのような近接武器ならともかく、銃のような消耗品なら明らかに弾丸の量が持たないと思うんだが……

 

「あ? なんだおまえ、知らねえの? 教会の連中は異空間に物を置いて取り出しが可能なんだよ。だからエクソシストってのは基本必要最低限のモノを所持して、他は異空間に置いとくんだぜ」

 

「……は?」

 

 なんだそれ。それってつまり……

 

「だから、エクソシストが基本武器切れってのは有り得ねえんだよ。もしそんなことがあるなら空間制御が効かない状況か、武器を置き忘れた馬鹿がやるぐらいなもんだな。ああ、でも今回は実弾を使う量が多かったから、あとで仕入れとかねえとなー」

 

「普段は実弾はあまり使わないのか?」

 

「そりゃそうだろ。なんせオレらは悪魔祓い(エクソシスト)だぜ? 使うのは当然聖なる光を宿した弾丸がメインになるさ。ま、今回は悪魔じゃなくてキメラだったせいで対怪物戦闘用弾丸を大量に使う羽目になったけどな」

 

 そう言ってフリードは銃をリロードして、銃の点検を終えていた。俺もナイフの点検や身体に何処か不具合がないかを確認して、万全であることを再確認する。

 

「身体の様子だ大丈夫か? 何処か怪我とかしてないだろうな?」

 

「ハッ。あんな雑魚共に怪我を負うようなマネするかよ。そっちこそ、もう限界とか思ってんじゃねえだろうな?」

 

「そんな(やわ)な鍛え方はしてねえよ」

 

 そんだけ生意気なことを言えるのならば何の問題もないだろう。流石に数百体は少し身体にきたが、まだまだ戦える。俺達は血や死体の海を乗り越えながら、反対側の扉に向かって進んで行く。

 

「…………?」

 

「ん? どうかしたか?」

 

「あ、いや……」

 

 途中、ふと死体が動いたような気がした。念にしばらくじっと眺めてみるが、やはり動く気配はない。おそらく歩いた時にできた血の波紋が動いたように錯覚したのだろう。

 

「いや、なんでもない。気のせいだ」

 

「そーかい。……おっと、ここが目的地みたいだな」

 

 屍山血河を超え、ようやく反対側の扉の下に辿り着く。おそらく予想が正しければ、ここに今回のターゲットがいるはずだ。

 

「AA級はぐれ悪魔“合成獣創造(キメラ・バース)”シヌイはキメラを創造するのが得意であって、本人自体の戦闘能力は低いって訊いてるが……」

 

「まあ、十中八九そんな甘くはねえだろうな」

 

 フリードの意見に賛同する。戦闘で鍛えられた直感が“まだ終わっていない”と告げてくる。先ほどの戦闘でこの城にいるほとんどのキメラを殺したというのに、嫌な予感が拭えない。

 

 だとしても、先に進むしかない。罠だと分かっていても、後退するわけにはいかないから。

 

「それじゃあ、行くか」

 

「了―解」

 

 意を決して、最後の扉を開く。ギギギッ、と重い手ごたえを掌から感じながら、ゆっくりと扉の中心から裂けていき、開いていく。扉の先、そこには。

 

 

 

「――――ようこそ、人間達よ。私の工房(世界)へ」

 

 

 

 まるで舞踏会場のような大ホール。何百人も入るであろうその部屋で、ただ一人、白衣を身に纏った男が不敵に笑いながら立っていた。

 

「……臭ぇな」

 

 横にいるフリードが部屋に入った途端、顔をしかめた。そして、それには俺も同感だった。

 

「そうかね? 空気清浄は完璧だと思うのだが」

 

「そうコトじゃねえよ」

 

 ここにはあまりにも死が多すぎる。幾ら洗っても落ちないほど、この部屋には血が染み付いている。それは普段からこの部屋で過ごしている者には気づかないだろう。ましては、一番その臭いを漂わせている者からすれば。

 

「……おまえが、この城の主か?」

 

 おそらく確実だろうが、一応尋ねておく。それに対し、彼は大袈裟と言えるほど手を広げ、役者のように答える。

 

「無論、その通りだとも。私が、この城の主だ」

 

「そーかい。だったら話は早ぇ。AA級はぐれ悪魔“合成獣創造(キメラ・バース)シヌイ。おまえを神の元へ送ってやるよ」

 

 フリードは銃を構え、シヌイの眉間を撃ち抜こうとする。しかし、その言葉に対し彼はやれやれと嘆息した。

 

「否。私の名前はシヌイではない」

 

「……なに?」

 

「その名は、つい先ほど捨てた(、、、、、、、、)

 

 笑みを浮かべながら断言する。その微笑みが何故かとてもおそろしく感じる。何か、とてつもなく嫌な予感が頭から離れない。だから、つい尋ねてしまった。

 

「……だったら、おまえは何だ」

 

 それは、尋ねてはならなかった問いだった。奴はそれに対し、愉悦の笑みを浮かべ、

 

 

 

「――――混沌(カオス)と、そう呼び給え」

 

 

 

 刹那。部屋の窓が総て砕け散った。

 

「なっ!?」

 

「へー、こいつは驚いた」

 

 咄嗟に互いに背後を庇い合い、己の得物を取り出す俺とフリード。しかし、目前の光景を見て、俺達は絶句した。

 

 何百人は入るであろう大ホール。つい先ほどまで三人しかいなかったこの部屋は、つい先ほど窓から侵入してきた者等によってほとんどを埋め尽くされていた。いや、それだけならばまだこれ程驚かなかっただろう。驚愕したのは別の要因。

 

 何故なら、部屋に侵入してきたのは、

 

「こいつら……さっき殺したはずのキメラ達!?」

 

「幻覚……ていうわけでもなさそうだな」

 

 そう。そこにいたのはこの部屋に辿り着く前に殺したはずのキメラ達が、何の冗談か存在していた。一度見たので、見間違いではないだろう。

 

「どういうことだ……なんで、こいつらがここに……」

 

「まあ、そういうのは後回しにして――」

 

 フリードはいつも通り、何の躊躇も躊躇いも気負いもなく、

 

「とりあえず、死んどけ」

 

 トリガーを引いた。

 

 弾丸が銃口から放たれる。それは迷いなく、はぐれ悪魔の脳天を木端微塵に砕こうとして――――その前に立ち塞がった人型のキメラの脳天を砕いた。

 

「チッ」

 

 不意打ちが失敗したことにフリードが舌打ちする。それに対し、はぐれ悪魔は何故か不気味なほど笑みを浮かべている。

 

「いきなり酷いことをする。“私”が死んでしまったではないか」

 

「あ? おまえ、何ワケ分かんねえことを――――」

 

 ふと、フリードの口が止まった。だがそれは仕方ないことだろう。おそらく、俺もフリードと同じような表情を浮かべているはずだ。

 

 フリードによって撃ち殺された遺体。それがたった今、泥となってはぐれ悪魔の影の元に戻り、再び形を取り戻して再生したのだから。

 

「――――」

 

「驚いて貰えたかな? これら総てのキメラは私自身。彼等は何度滅びようとも、私が存在し続ける限り何度でも蘇る。そして、私自身もまたキメラ達と同様。私を滅ぼしたところで他のキメラが存在する限り蘇る。この身は数多の生命が混濁する一つの世界。ゆえに混沌」

 

 はぐれ悪魔は愉悦の笑みを浮かべ、両手を大きく広げ、抱き締めるように告げる。

 

「貴様らは既に我が体内にいるのだ。逃しはしない。その身も我が混沌に堕ちるがいい」

 

 まるで指揮者のように、はぐれ悪魔はあまねく総てのキメラ達に命令する。命令内容はただ一つ。

 

 

 

「――――混沌の海に永遠に沈め、人間共」

 

 

 

 瞬間、数百のキメラが全方向同時に襲い掛かって来た。

 




フハハハハハ! 圧倒的戦力差に絶望するがいい!!

……うん、書いた本人が言うのもあれだけど、凄まじい小物っぷりだなシヌイ(仮:カオス(笑))。なるべく絶望感を出そうとしたけど全然不安にならないな、うん。

そしてエクソシストは皆ドラえもん説。だってゼノヴィアも剣仕舞ってるし、だったらフリードも使えても何もおかしくないよね!

さて、次回でようやくフリード編終わるかな? それでは!

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