早朝。まだ朝日が顔を出し始めて間もない時間帯。人気のない朝の公園で、俺とイッセーは朝の鍛錬を行っていた。
「そろそろ時間か……」
平日のため、この後も学校がある。あまり無茶して学校生活に影響が出るようでは駄目だろう。汗を拭いたタオルを休憩していたベンチに掛け、身体をほぐす。
「よし、休憩終わりだイッセー。そろそろ……」
声を掛けながらイッセーの方を向く。そこには、
「…………」
チーン、とまるでお香でも焚かれそうな半死体が存在した。というかイッセーだった。白目を剥いてて非常に気持ち悪い。とりあえず意識を失ってるぽいので起こすために鳩尾に蹴りを一発叩き込む。
「ごふゥっ!?」
「ようやく起きたか」
「起きたか、じゃねえだろ!? 普通倒れてる可愛い弟を蹴るか!?」
「イッセー、一つ言っておく。……おまえは可愛くない」
「鬼だこいつ!」
イッセーが何やら喚いているが、それを無視してベンチに置いておいたスポーツドリンクをぶん投げる。こいつと鍛錬を行うようになってから四年が経つ。それだけ鍛錬を共にすればこいつの限界くらい判断できる。
……まあ実際、こんだけ喚けるならまだまだ余裕だろう。
「……ん……ん……ぷはっ! あーー生き返るーー。この一杯のために生きてるって言っても過言じゃないな!」
「まったく……それを飲んだらラストに入るぞ」
「諒解っと!」
イッセーは腰に手を置き、一気にスポーツドリンクを飲み干す。空になった水筒をベンチに置くと、元気よく立ち上がった。
それを確認し、俺も向き合う形になるように距離を取る。およそ五歩の距離。遠すぎず近すぎない間合い。その位置に立つと、互いに構える。
「じゃあ、いつも通りのルールで行くぞ。三十秒間、俺はイッセーに攻撃しない。イッセーは俺に有効打撃を一撃でも与えれば勝ち、一撃も食らわなければ俺の勝ち。負けた方は――――」
「今日の昼飯おごりだろ? 今のトコ全戦全敗だからな、今日こそ勝ってかつ丼定食おごらせてやる!」
「じゃあ俺は海鮮丼定食でもおごらせるか」
「あれ校内のトップクラスの値段じゃん!? 絶対に負けららない……!」
何かメラメラとやる気も漲らせているが、それを無視して腕時計のストップウォッチ機能に切り替える。
そして、
「全力で来い――――あるいはこの身に届くかもしれないぞ?」
「はっ――――上等ォッ!!」
犬歯を見せ、獰猛な笑みを浮かべるイッセー。俺はそれに笑みで答えると、腕時計のスイッチに指を置く。
「それじゃあ……スタートだ」
開始のスイッチを押した。
「うおおおおおおっ!」
直後、イッセーは迷うことなく全力で突っ込んできた。雄叫びをあげながら左拳を握り締め、顔面目掛けて渾身のストレートを放つ。
しかし、これは囮だ。人は周りの情報を得る時八割が視界からと言っても過言ではない。ゆえに、その視界の機能である眼を狙われれば無意識にそちらに注意が移ってしまうものだ。
だからこそ、本命はおそらく――――
「……右か」
迫る左拳を必要最低限の動作で躱し、右腕に注意を向ける。予測通り、右腕は左の一撃とほんの僅かに遅れて攻撃されていた。それも、鳩尾という肉体の最も中心で躱し辛い位置に向かって。
確かに厄介な一撃だ。だが、分かっているなら対処法など幾らでも存在する。迫る右腕の手首を掴み、強引に引っ張り姿勢を崩す。ついでに脚も引っ掛けておく。
全力で突っ込んできた状態で体勢を崩せば簡単に倒れる。普通ならそのまま前のめりで顔面が地面とキスするはずだが。
「――――っと!」
そこは経験と言うべきか。日頃から体勢を崩されているせいか、イッセーはその状態で堪えるのではなく逆に
逆に前に跳ぶことで速度が増し、イッセーは前方へ前回りの用法で身体への衝撃を抑え、最低限の時間で再度向かってくる。
――――その時。
「おらっ!」
「――――!?」
拳を放つ寸前、イッセーは握り締めていた掌を開いて顔面に何かをぶん投げてきた。それが眼に入り、痛みで思わず目を瞑る。
これは……砂……? だけど、いつの間に―――――?
「そうか、あの時……!」
俺に投げ飛ばされて地面を前回りした時。立ち上がるために地面に手を付いた時に拾っていたのか……!
「これで俺の、勝ちだぁ――――!!」
イッセーが己の勝利を歌い上げながら殴り掛かる。距離は僅か一歩の範囲。俺の視界は見えず、間合いを取る隙もない。なるほど、確かに絶好のチャンスだろう。
だがな、イッセー。
「まだ、甘い」
顔面に迫る拳。俺はそれを――――
「はあ!?」
驚愕するイッセー。しかし流石と言うべきか、一瞬で気を取り直し連撃を叩き込んでくる。腕、肘、膝、脚の全てを駆使した連撃。それを躱し、受け流し、ひたすら回避する。
「まて、待て待て待て! なんで目瞑ったまま避けれんの!?」
「うーん、なんとなくかな。目を閉じててもおまえが何処にいるとか、何処を狙ってるのか感覚的に分かるんだよ」
おそらく、感覚器官が人より何倍も優れているからだろう。そもそもその程度できなければ
「ますますチート磨きかかってんなぁ信貴!」
「チート言うな」
時間も限られているためか、イッセーの腕の振り方が焦りでお粗末になる。その隙を付いて、イッセーの額前に手を持ってくる。
「まあ、今回はなかなか惜しかったな」
手の形はデコピンの構え。そのまま中指に力を込めて――――
「悪いが、今回も俺の勝ちだ」
「あだァ!?」
デコピンの当たる音と、時間切れを告げるアラームが同時に響き渡った。
◇◇◇
「がぁー、また負けたーーッ! あとちょっとだったのに!!」
地面に寝転がってイッセーは心底悔しそうに叫ぶ。俺は眼に入った砂を水道水で綺麗に流し終えたあと、イッセーの傍に立つ。
「今回はなかなかヒヤッとしたよ。惜しかったな」
「勝者に言われても嫌味にしか聞こえねえよ、ったく。これで何敗目だ? というか俺はいつになったら勝てるんだ……」
「悪いが、まだ勝ちは譲らないさ。これでも兄だからな俺は。そう易々と弟に負けるわけにはいかないんだよ」
「弟っつっても、双子だからたった数分しか変わらないだろ」
「それでも、だ。俺にも年長者の誇りってもんがあるんだよ」
それに、イッセーとは実際精神年齢は倍近く違うため、まだまだ若いもんに負けるわけにはいかないのだ。
「しかし、あれだな。イッセーがこの朝の鍛錬を始めてからもう四年が経ったのか。考えてみると案外早いもんだなぁ……」
紫藤が越したあと。小学四年生に昇ると、ある日イッセーが朝の鍛錬に自分も参加すると言い出したのだ。最初はいつもの様にただ気紛れだと思って放置していたのだが、一週間連続で俺の後を追いかけてくるのを見て驚いた。
正直言って俺の鍛錬は子供が朝に行うものではない。往復十キロの距離を小学生が行うなど正気の沙汰ではないだろう。最初の頃は片道の半分走って力尽きてぶっ倒れていたが、今では俺と同じ距離を走れるようになった。
……まあ、時間は俺の二倍近く掛かるが。
だからこそ、なおさらイッセーがここまで身体を鍛える理由が気になった。走るということは他の運動と比べれば苦行に近い。誰かに見せるわけでも、大会に出て結果が残るわけでもない。ならば、何故?
「しかし、理由が『変わりたいから』っていうのも変な理由だよな」
「……悪かったな、変な理由で」
「あー、悪かった悪かったって。だから拗ねんなよ」
「別に拗ねてねえし!」
明らかに拗ねているだろう表情で顔を逸らす。その動作がおかしくて、また笑いそうになるのを必死に抑える。
しかし、イッセーの精神的強さには敬意を表さず得ないだろう。曖昧な目的で何かをし続けるというのは非常に辛いことだ。人は明確な目標があるからこそ、そこに向かって努力できる。もしゴールがないマラソンなどがあれば、誰だってモチベーションが上がらないだろう。
イッセーがこの鍛錬を始めたきっかけは、おそらく紫藤の喪失からだろう。今まで一緒にいるのが当然だと思っていた人がいなくなってしまった。だからこそイッセーはその空いた穴を埋めるために何かをしなければならないと考え、この鍛錬を行っているのだろう。
それは確かに立派で、素晴らしいことだろう。だがそれは同時に非常に危険な状態だ。今のイッセーには目的が見えていない。つまり今のイッセーは暗闇の中をただ闇雲にがむしゃらで走っているのと同じだ。このまま行けばいずれ限界を超え、崩壊してしまう。
そんな風にはなってほしくないから――――
「なあイッセー。おまえは強さってなんだと思う?」
未熟者ではあるが、俺がおまえを導こう。ここが分岐路だと思うから。
「強さ……? うーん…………」
「力が強いとか、脚が速いとか、技が巧いとかいろいろ有ると思うが、おまえは何だと思う?」
「……じゃあ信貴は何だと思ってるんだよ」
「俺か? 俺は…………」
強さとは何か。それは数多の回答が存在し、そのどれもが正しいのだろう。それはその極致に至った者だけが理解できて、俺のような者では到底理解不可能な理屈。
ならば俺の思う強さを述べよう。それが尊いと理解していながら、自分では不可能と理解している強さを。
まるで、英雄譚に憧れる子供のように。
「俺はさ、イッセー。強さっていうのは意志の強さだと思うんだ」
「意志の……強さ?」
「そう。誰かに決められたからとか、仕方ないからやるとかじゃなくて、自分の思いで行おうとする意志。それも精神が肉体を凌駕するほどの、世界の法則を己の渇望で塗り潰すほどの、世界の総てを敵に回しても構わないほどの、強い意志。それが俺の思う強さだ」
それが強さなのだと信じたい。それが強さなのだと祈りたい。それが強さなのだと願いたい。
そうではなければ、この世界はあまりにも残酷すぎるから。
「……よく、分かんねえ」
「まあそうだろうな。きっといつかおまえの思う“強さ”って言うのが見つかるさ。とりあえず、これだけは胸に刻んでおけ」
「なんだよ?」
問い掛けてくるイッセーに、俺は微笑みかける。
「――――女を泣かせるような男になるな」
おまえは“
「どんな理由を並べても、男が女を泣かしていい理由にはならないんだよ。嘘泣きはいい、だけど泣きながら嘘を吐かせるような真似は絶対にするな。一度守ると決めたなら、何があっても守り抜け。絶対に泣かせるな」
おまえにはそんな男になってほしい。きっとなれると思うから。
「……信貴ってさ、結構男尊女卑主義だよな」
「少なくとも、戦って傷ついている女の後ろで守られているのが当然だと傍観決め込んでいるような男は死んだ方がいいとは思ってるぜ」
そんな男として恥知らずな奴は、生きてる価値なんて無いだろう。
「ところで、何でこんな話を?」
「……さあな。たぶん疲れて少しセンチメンタリズムにでもなってんだろ」
腕時計で時間を確認する。そろそろ家に戻って朝食を取らなければ学校に遅刻する時間帯になってきた。
「ほら、イッセー。そろそろ帰るぞ。戻らないと朝飯抜きになるぞ?」
「げぇ!? それは非常に拙い!」
慌てて持ってきた水筒とタオルを手に取るイッセーの姿を確認すると、俺は苦笑しながら一足先に家に向かって走り出した。
◇◇◇
文明というものは時代の流れに伴い進化していくものだ。
たとえば百年前までは携帯のような小型端末が存在しなかったように、人間の文明は急な進化を遂げた。しかもこの最近でその成長はさらに飛躍し、今やインターネットを使えば大半の情報を入手することが可能となった。
だからこそ、昔の在り方では生き残れないものも存在する。時代の波に乗り、その在り方を常に変化し続けなければならないものも有る。
ゆえに、
「まさか、はぐれ悪魔の情報を携帯で見れるとか……ファンタジー要素の欠片もないな」
昼。昼食時に俺は学校の屋上でフェンスにもたれ掛かりながら、先ほどイッセーにおごらせたパンを齧り、携帯ではぐれ悪魔の情報を見ていた。
このサイトは俗に言う裏サイトであり、一部の者にしか見れないインターネット状の奥の底に存在するものだ。そのサイトを観閲するためには条件があり、ある一定値以上の戦闘力を魔術で計測できないと見れないらしい。
……そういうところはファンタジーなんだな。
ちなみに自分の名前と口座を登録しなければならない。もしかしたらそこから個人情報がバレるのでは? と思ってオーフィスに確認したところ、なんでもはぐれ悪魔を討伐してくれればならず者でも問題ないため正直偽名でも大丈夫だそうだ。ちなみに名前は当然偽名で登録してある。
閑話休題。それはさておき、実践経験を積むためにはぐれ悪魔討伐を初めてから三年が経過した。初めは雑魚クラスの相手しか観閲することが出来なかったが、今ではある程度認められたのか、大物の情報も観閲できるようになっていた。
しかし、それでも上級のはぐれ悪魔の情報を得るためには金を払わなければ見れない時もある。口座は別にはぐれ悪魔を討伐した際に出る賞金しかないので家族に迷惑かける心配はないが、情報を得るために金を支払うというのは精神的に損している気がする。まあ口座の金は使う気がないため無駄金なのだが。
大半のはぐれ悪魔の賞金首は常に拠点を転々としているため、何処に潜んでいるのか分からない。しかし稀に、拠点を移動させない強大なはぐれ悪魔もいる。
なら何故そのはぐれ悪魔を教会の者らが討伐しないのか。理由は単純だ。それを討伐するために掛かる費用の人材が割りに合わないからだ。
それを討伐するために多くの費用と人材を使用して万が一討伐出来なかったら、多くの無駄を浪費することになる。ならば初めから余所の輩にさせた方がコストは安くなる。
合理的で非情。だがそれが現実だろう。組織とはそういうものだ。
しばらくの間携帯に目を通していると、ふと一体のはぐれ悪魔に視線が止まる。
「……よし、今回はこいつにするか」
経歴を見て、危険度を見て、今回のターゲットを確定する。死ぬかもしれない危険度。しかし、この程度の相手で死ぬようではオーフィスの傍にいることなど到底不可能だろう。
直後、
「シキ、はぐれ悪魔討伐、行く?」
まるで初めからそこにいたように、オーフィスは屋上のフェンスの上に立っていた。
「…………」
「シキ?」
「……いや、もうおまえが何処から出てきても驚かない自信がついてきたわ」
「そう」
心配そうにこちらを見てくるオーフィス。しかしその悩みに種が自分だということに気づいて欲しい。
「オーフィス。一応何度も言ってるけど、学校ではいきなり現れるな。誰かに見られたらどうする気だ」
「問題ない。ちゃんと誰もいないのを気配で確認してから、我、出てきてる」
「……そうかい」
嘆息して、地面に置いておいたビニール袋からメロンパンを取り出し、口に運ぼうとする。しかし、横から強烈な視線を感じ、そちらに顔を向ける。まあ、この状況で視線を向けてくるのは一人しかいないが。
「…………」
「…………」
無言でメロンパンを凝視するオーフィス。少しメロンパンを左右にズラせば、それに釣られるようにオーフィスの視線が左右に揺れた。
「……食うか?」
「我、食べる」
メロンパンを受け取ると、オーフィスは静かに一心不乱に食べ始めた。その愛らしい姿に少しだけ微笑むと携帯に視線を寄せる。そして、携帯に写るその名前を呟いた。
「AA級はぐれ悪魔……“
◇◇◇
――――深夜。
薄暗い山道を一人の悪魔が疾走していた。月の光がほとんど差し込まない荒れた草木を全力疾走で駆け抜ける。
その悪魔の片腕は存在せず、血が吹き出るのも気に留めずただひたすら駆ける。
その顔に浮かぶは恐怖。混乱。絶望。
「何故だ。なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだッ!?」
壊れたようにただそれを呟きながら逃避しる。逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ……!
奴が来る。死が、やってくる。
「ひっ――――」
駆けていた脚の感覚が突如消え、悪魔は無様に地べたに激突した。その際に鼻が折れ血が出てきたが、そんなことはどうでも良かった。ただ一秒でも早く遠くに行こうと起き上がろうとして、
「な――――」
自分の脚が太腿から切断されていることにようやく気づいた。
「な、へ、え、いつの間に――――?」
身体をうつ伏せから仰向けに変え、後方を見る。悪魔が転んだその場所に薄く聖なる力を宿した針金が張られていることに気づいた。
それを理解して――――これが奴の張った罠だと悟る。
「あ、あ、あ、あ……!」
事前に張ったということなら、奴は必ずここに来る。なら逃げないと。しかし今の悪魔は翼を斬られ、脚をもがれた。今の彼に、逃げる術はない。
「
それはレクイエム。神に捧げる鎮魂歌。だがそれは、今の彼にとって死神の鎌の擦れる音にしか聞こえない。
足音が少しずつ近づいてくる。恐怖を具現化させた存在が、己の生命の奪おうと迫って来る。しかし悪魔にはもはやなす術がなかった。処刑台に立たされた罪人のように、ただ死を待つしかなかった。
「
その歌には少しの欠片も主に対して祈りが込められていない。まるで朝起きた時に顔を洗うように、ただ動作として歌っているだけ。
だからこそ、悪魔は恐ろしかった。そんな輩を、彼は一人だけ知っていた。
「
歌が終わる。それと同時に、その歌主の姿が月の光に照らされて顕になる。
白い髪に紅の瞳。改造され尽くした神父服だが、それには一級品の恩恵が加えられているのが分かる。手には魔を滅ぼす聖なる光の刃が握られている。
その者は、教会屈指の最凶。
「殺戮者」「代行者」「聖刃」「教会の狂人」「裏切りの使徒」「不死身狩り」
数多の異名を持つエクソシスト。その名を――――
「フリード・セルゼン……ッ!!」
「説明ご苦労さん。ご褒美として神の元に送ってやるから感謝しな」
フリードは気負いのない軽い笑みを浮かべると、悪魔の元に向かっていく。悪魔も必死に逃げようとするが、脚が断たれているため逃げることが出来ない。
「ま、待て! ボクが誰だが分かってるのか? ボクは――――!」
「ああ、別におまえの名前なんて興味ねえから。どうせこれから死んでいく奴のこと覚えても脳細胞の無駄でしかねえだろ?」
「な――――」
驚愕する悪魔。しかし何かを言う前に、躊躇いなく一瞬で悪魔の頭蓋を断った。
「――――AMEN」
頭部から噴き出る血を眺めながら、フリードは静かに呟く。しかし、その顔は苦虫を噛み潰したようにしかめ面だった。
「……チッ、やっぱこの程度じゃウォーミングアップにもならねえ。あの教会のクソジジイ共、もし今回の獲物が大したことなかったら皆殺しにしてやる」
もはや神父とは思えない毒舌を吐きながら、フリードは懐から一枚の紙を取り出す。
「ったく。今回は大物って訊いたんだから期待させてくれよ?」
紙にははぐれ悪魔の情報が書かれており、フリードは心底願うようにその名前を呟いた。
「なあ――――AA級はぐれ悪魔“
◇◇◇
運命が、交差する。
というわけで、今回からの主役メンバーは不良神父さんでした! というかフリードがメインのはずなのにほとんどイッセーに持っていかれてるだと……! まあこれも大事な伏線なので外せないんですが。
フリードとはDies iraeの蓮と司狼のような関係にしたい。
そして着々と進むイッセー上条化計画。