ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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前話で誰も曹操の槍が殺された事について突っ込まれなかったことに驚いた。

もう私は開き直ることにしました。原作? そんなものはぶち壊すためにあるんだ――――!!

注意、曹操の槍名は変更することにしました。読者の皆様には大変迷惑と混乱させてしまいましたが、これからもこの作品を応援して頂けると嬉しいです。


蠢く闇

 ふと、ぼやけていた意識が覚醒していく。身体はまだ休憩を訴えてくるが、意識だけがそれらを無視して浮上していく。俺はそれにつられるように、瞼を開く。

 

「――――おはよう、シキ」

 

 目を開くと、オーフィスが俺を見つめていた。

 

「……オー、フィス?」

 

「なに、シキ?」

 

「あ、いや…………」

 

 どうしてオーフィスがいるのか、寝惚けた頭では判断できず口籠る。つい条件反射で身体を起こそうとするが、オーフィスに肩を掴まれ元の姿勢に強制的に戻されてしまった。

 

「駄目。シキの身体、凄く疲労困憊してる。我の回復タイプの『蛇』を入れたけど、馴染むまで安静にしてないと駄目」

 

「え、いや、だけど…………」

 

 上から見下ろしているオーフィスの体勢から考えると、頭の下に感じる柔らかいのは彼女の膝なのだろう。

 

「その、重かっただろう? だから、」

 

「平気。それに――――」

 

 そっと彼女の柔らかい掌が俺の頬を撫でる。大切なものに触れるように優しく、繊細に。

 

「もう少し、このままでいさせてほしい」

 

「…………」

 

 そう言いながらオーフィスは俺の頭を撫でていた。浮かべる表情は微笑みながら何処か辛そうに見える。

 

「……ああ、良いよ。もう少しだけこのままでも」

 

 だから、俺が出来ることなど所詮その程度。俺はゆっくり瞼を閉じると、オーフィスに総てを任した。オーフィスは何も言わず、ただ俺の頭を撫でている。

 

 ……いったいどれくらい時間が経ったのだろうか。俺は自分の身体がようやく動ける程度まで回復したのを理解すると、オーフィスに疑問に思っていたことを尋ねた。

 

「……なあ、オーフィス」

 

「なに?」

 

「そういえば、ここは何処なんだ? 見たことがない景色なんだが」

 

 首だけ動かして周囲の見渡すと、そこは何処までも続く荒野だった。地平線が見えるほど建築物一つ存在せず、あるのは所々散らばっている瓦礫の山だった。

 

「ここは次元の狭間にある空間の一つ。我が生まれた場所。普通の生き物なら要るだけで消えてしまうところ」

 

「なっ!?」

 

「けれど、シキは大丈夫。シキはそれが守ってくれている」

 

 慌てて己の身体を見ると、身体から薄ら黒い闇のようなモノが身体を覆っている。おそらくオーフィスの言う通りならばこの闇が俺も守っていてくれたのだろう。

 

 俺はじっとその闇を見つめ、

 

「……やっぱりあれは夢じゃなかったんだな」

 

 目を瞑って思い出すのは一人の少年。自分と同じ歳くらいでありながら、圧倒的な力を誇っていた人外。正直生き残れたのが不思議なほど実力を持っていた男。

 

 神槍の担い手、曹操。あの男との出逢いは夢などではなかった。

 

「――――ッ」

 

 それを認識した途端、不可解な頭痛が奔った。視界に一瞬黒い線や点が視えた気がしたが、それは直ぐに消えた。幻覚だったのか、疲れている今の思考では判断できない。

 

「……シキ、ごめん」

 

「……? なんでオーフィスが謝るんだ?」

 

 オーフィスは僅かに顔を歪ませながら俺に謝罪した。唐突すぎて何のことだかさっぱり分からない。

 

「我のせいで、シキ、怪我した」

 

「いや、これは――――」

 

「我が次元の狭間に連れ込まなかったら、シキは危険な目に合わなかった」

 

 オーフィスは掌を強く握り締めながら告げる。まるで懺悔するように。

 

「我、浮かれていた。我、シキのために何か出来ると思った。けれどシキ、怪我した。我のせい。我があんなこと言い出さなければ、シキ、怪我しなかった」

 

 オーフィスは告白する。自分のせいだと。自分のせいでこうなってしまったのだと。拳を強く握り締めるのはその感情の現れか。

 

「だから、ごめんなさい」

 

「…………」

 

 オーフィスの謝罪に俺は一息吐き、

 

「馬鹿か、おまえ」

 

 その脳天に軽いチョップを叩き込んだ。

 

「…………?」

 

 ぴしっと柔らかい音がして、オーフィスはこちらを見る。キョトンとした不思議そうな表情(かお)。おそらくなぜ自分が叩かれたのか理解できていないんだろう。俺は身体を起こし、何やら勘違いしているオーフィスに告げる。

 

「あのな、何を勘違いしてるか知らないがこうなったのは俺のせいだ。オーフィスが悔やむことなんて何一つないんだよ」

 

「でも……」

 

「でももしかしもねえよ」

 

 こんな情けない様なのは紛れもなく俺自身の責任だ。俺が弱かったから、あいつに太刀打ちできる実力ではなかったから。それをこいつが悔やむ必要なんかない。悪いのは俺の弱さなのだから。

 

 だけど。

 

「…………」

 

 オーフィスはやはり納得できない様子で目を伏せる。こいつは何だかんだ頑固な性格だし、何度聞かせてもそれで良しとはしないだろう。

 

 なら、オーフィスの罪悪感がなくなるような案を出せばいい。

 

「……分かった。オーフィスがそこまで言うなら、一つ訊いてほしいことがある」

 

「なに? 我に出来ることなら、我、何でもする」

 

 ズイッと身体を寄せて俺の案に耳を寄せるオーフィス。……と、その前に。

 

「あのな、オーフィス。何でもするとか言っちゃ駄目だ」

 

「なぜ?」」

 

 いや、なぜってそりゃ……………

 

「そういう事は軽々しく言っちゃ駄目なんだよ。世の中いい人ばかりじゃないし、騙されて酷い目にあうかもしれないだろ? ……あ、いや、確かにオーフィスに酷いことを出来る奴なんていないと思うが…………」

 

「…………?」

 

「とにかく! 何でもするとか軽々しく言うな。分かったか?」

 

 オーフィスは俺の言っている意味が分からないのか、首を傾げながら不思議そうにこちらを見ている。それからしばらく経った後、オーフィス自身の中で何やら答えを出したのか、頷きながら答えた。

 

「分かった。我、シキ以外には何でもするとは言わない」

 

「……そこでなぜ俺を区切る?」

 

「?」

 

 俺の問いにオーフィスは至極当然のように。

 

 

 

「我、シキになら何をされても構わない」

 

 

 

 俺の瞳を真正面から見ながら、そう告げた。

 

「――――」

 

 まるで外界を知らない子供のように。無垢で純粋で穢れない表情(かお)でオーフィスは言う。それがどういう意味なのか彼女自身分かっていないと理解していながら、俺は赤くなる顔を抑えられなかった。

 

「……シキ?」

 

「あ、いや、その。と、とにかく! 俺がオーフィスに頼みたいことは、これからも俺を鍛えて欲しいってことだ」

 

「…………え?」

 

 そんなことでいいのか? とでも言いたげな様子でオーフィスは口は半開きにしながらこちらを眺めている。だからこそ、その瞳を見つめ返しながらはっきりと頷いた。

 

「今回はトラブルで鍛錬どころじゃなかっただろう? だから、次はちゃんと鍛えてほしいんだ。それが俺の頼みだ」

 

「……けれど、もし今回の様な事になったら」

 

「その時に無傷でいられるようにするためだ。それに…………」

 

 チラッとオーフィスを見る。今回はオーフィスの介入がなければかなり危なかった。あのまま続行していれば殺されていたかもしれない。それほど俺と曹操には見えないほどの実力差が存在した。

 

 ゆえに思う。今のままじゃ駄目だ。今のままじゃ俺はオーフィスに護られてばかりだ。居場所になると言いながら、いつまでも護られているばかりでは駄目だろう。

 

 女の後ろで護られている男なんて、死んだ方がいい。

 

「……シキ?」

 

「ん、何でもない。とにかくそういう事だ。頼めるか?」

 

「……うん、分かった。我、シキを鍛える。それでいい?」

 

 そう言ってオーフィスはいつもの様に微笑んだ。彼女らしい、優しい笑み。それを見てやはりオーフィスは暗い顔よりも笑顔の方が似合うと思う。

 

「ところでシキ。もうすぐ夜の八時。早く戻る」

 

「え? マジで? ここの景色は真昼間なのに?」

 

「ここは時間に捕らわれていない。だから景色、関係ない」

 

「うわ、マジかよ……。絶対イッセー達に何があったか聞かれるな……」

 

「シキ、早く帰る。歩けないなら、我、おんぶする?」

 

「……それは勘弁してくれ」

 

 オーフィスに手を引かれながら、俺は次元の狭間を後にする。その最中、ふと思う。

 

「……曹操、か」

 

『根源の渦』に繋がっていると告げた圧倒的な実力を誇る人物。彼はいったい何者なのか。何を企んでいるのか。分かることは一つだけ。

 

 奴とは永い付き合いになる。それだけは直感した。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 長く重苦しい雰囲気が漂う大理石で造られた廊下を、曹操は靴音を鳴らしながら歩く。その様子からは緊張した気配は微塵も感じられず、自然な動作で歩いている。

 

 これこそ、天賦の才を持つ者の証だろう。子供の容姿でありながら、決して廊下の重圧に呑まれることなく自然体でいる。むしろ、この者こそがこの建物の主であるように。

 

 しばらく歩いていると、荘厳な門が現れた。見るからに侵入を拒んでいる門。どう見ても子供一人では到底開けられないだろう。

 

 だが、曹操は何の躊躇いもなくその扉を押した。それこそ軽く片手で小突くように。どう考えてもその程度の力で開くはずがない。しかし、それだけで扉は軋む音を立てながら縦に亀裂が走って開いていく。

 

 曹操はその内側に入り、告げる。

 

「ただいま」

 

 その声に反応し、中にいた数名が扉の方を向く。皆曹操と同じ歳くらいの少年少女達。曹操が入って来たのを理解すると、皆曹操の元へ駆け出した。

 

「お帰り、曹操! どうだった?」

 

「随分と早かったじゃねえか、曹操」

 

「ああ。ジャンヌ、ヘラクレス。ジーク達は何処だ?」

 

「僕らもちゃんとここにいるよ」

 

「俺もだ」

 

「ジーク、ゲオルク」

 

「曹操!」

 

 ふと、曹操の名前を呼びながら彼の元へ走ってくる少年がいた。曹操達よりもさらに幼い少年。彼は笑顔のまま曹操の元に駆け寄ると、そのまま彼の腹元に抱き付いた。

 

「おっと。レオナルド、危ないから余り走るな」

 

「そんなことより! ボクのドラゴンはどうだった!? 今回は中々の出来作だったんだよ!!」

 

「ふむ……。まだまだ『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の基本骨子が甘い。俺の一撃で絶命する程度ならまだまだ及第点はやれんな」

 

「曹操が絶対おかしいんだよ! どうして中級悪魔の攻撃も受け止められる装甲で一撃なの!? 絶対おかしいよ!!」

 

「なら次は上級悪魔の攻撃すら防げるようになれ。なに、おまえなら直ぐに創れるようになるさ」

 

「そ、そうかな? えへへへ……」

 

 曹操に頭を撫でられ嬉しそうに顔を綻ばせるレオナルド。その様子を見て話が進まないことに眉を顰めるゲオルク。

 

「ごほん! ……話を進めてくれないか、曹操」

 

「……少し空気読んでよ、ゲオルク」

 

「なっ!? 俺は時間を有意義に使おうとしたんだ、そんな恨めしい目で俺を見るなレオナルド!」

 

「ゲオルク……」

 

 ポンっとゲオルクの肩を叩くジーク。その眼には憐れみが込められていた。

 

「諦めなよ、キミはそういうポジションだ」

 

「それはどういう意味だジーク!?」

 

「はいはい、あんた達漫才もそのへんにしておきなさい」

 

「曹操、話してくれねえか?」

 

「ああ、そうだな」

 

 ジャンヌがその場を収め、ヘラクレスが曹操に促した。曹操はそれを承諾し、語り出す。

 

「今日、俺は数週間前に英霊の力を覚醒させた者と逢ってきた。ゲオルク、おまえの『絶霧(ディメンション・ロスト)』のおかげだ。礼を言う」

 

「ああ、気にするな」

 

「けどよ、曹操が一人で帰ってきたということは説得失敗か?」

 

「それとも、もしかしてやられてきたから逃走してきちゃったりしてー」

 

 ヘラクレスとジャンヌが冗談交じりに告げる。それに曹操は頷き、

 

「ああ、その通りだ」

 

 今まで持っていた折れた槍を皆に見せた。

 

「な……ッ!?」

 

「う、嘘でしょ!?」

 

 驚愕する一同。その中でも、ジークとジャンヌだけはいち早くその槍の異常に気が付いた。

 

「馬鹿な……この聖槍から、加護が消えている!? そんなことが……!」

 

「ロンギヌスを壊すなんて……いったいどんな方法で……?」

 

「所詮、神槍を模倣した(、、、、)模倣宝具にすぎん。贋作であるなら内に死を内包していて当然だろう。ああ、それとジャンヌ」

 

「な、なによこんなの見せられて冷静でいられるはずが――――」

 

「おまえから貰ったあのナイフ、奴にくれてやった。だから新しいナイフを頼む」

 

「――――……はい?」

 

 一瞬、何を言われたのか理解できず首を傾げるジャンヌ。そしてしばらく経過した後ようやくその意味を理解し、

 

「……ふ、ふ、ふ」

 

「ふ?」

 

「ふざけるんじゃないわよ――――ッ!!」

 

 咆哮。女の子のあげる声量とは思えないほどの絶叫をあげた。あまりの音量にレオナルドの三半規管が麻痺するほど。しかしその怒鳴られた人物である曹操は至って普通そうに、

 

「……どうかしたか?」

 

「あんたいったい何を考えてるの!? 私がアレを創るのにどれだけの時間と労力を駆使したと思ってるの! 一年よ一年!! それほどの業物をくれてやった? 喧嘩売ってんのかしらいいわよ買ってやるわよ上等じゃない表出やがれこんちくしょう!!」

 

 ガルル、とまるで野獣のような形相のジャンヌ。しかし、

 

「それがどうした?」

 

 曹操は変わらない様子で告げる。

 

「敗者が勝者を敬うのは当然だろう。それに、無いならもう一度作ればいいだけの話だ。前より更に強く、更に短い期間で創れるように。おまえにはその能力があるのだから」

 

「……簡単に言ってくれるわね」

 

「当然だろう」

 

 曹操は至極当然そうに。

 

「俺はおまえなら出来ると信じているからな」

 

「……あーもう、分かったわよ。やってやろうじゃない。後で絶対吠え面掛かしてやるわよ!」

 

「ああ、期待しているよ」

 

ジャンヌはぷいっとそっぽを向き、曹操はそんな彼女の様子を見て微笑む。ひと段落着いたところで、曹操はふと尋ねた。

 

「ゲオルク、例の術式はどうなっている?」

 

「ああ、あれか……残念ながら、今の俺の技術ではまだ時間が掛かりそうだ」

 

「それは構わない。時間が掛かるのは理解の範疇だ。いったいどの程度掛かる?」

 

「おそらく……あと八年あれば完成するだろう」

 

 八年.それは彼らの人生の半分の時間を指す。それは彼等にとって長すぎる時間だろう。

 

 だが、

 

「――――上出来だ。俺の予想では十五年は掛かると予想していたのだが、流石だな」

 

 曹操は笑っていた。それほど永い年月を耐え忍ぶ覚悟があったのだ、彼等には。

 

「さて、俺たちはこれから各々実力を磨き、人脈を広げ、耐え忍ぶ必要がある。おまえら、それを耐える覚悟があるか? 屈辱に身を侵される覚悟があるか?」

 

「――――勿論」

 

「――――当たり前」

 

 曹操の問いに、彼等は迷うことなく頷く。元より、彼等は皆曹操に憧れて彼の元にいるのだ。その彼が耐えるのならば、自分達も幾らだって耐えられる。

 

「ああ、必ず果たそう。我らの悲願を。――――そのために」

 

 ふと、曹操の視線が部屋の中央に向けられる。円卓の中心に存在する台座。そこに突き刺さる槍こそが、曹操の真の聖槍。

 

「――――『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』」

 

 曰く、最強の神器。

 

 曰く、神を貫く槍。

 

 曰く、神滅具(ロンギヌス)の原典。

 

「――――だが、最強の神器というのは誰もが使える最強に過ぎない」

 

 万能の聖槍。宿れば誰もが扱える最強。そんなものはその程度ということだろう。結論、宿れば時間を掛ければ誰でも最強になれるものなど、たかが知れている。最強というものは、一人でなければならないのだから。

 

 ゆえに、手に入れる。

 

 原初の神槍を。最強の神滅具ではなく、神が加工する前の神槍を。人では扱えない存在。神話の聖遺物。

 

 

 

「――――『原典・神話の神槍(ロンギヌス・ミソロジーオリジン)』」

 

 

 

 必ず、手に入れる。総ては、我らの悲願のために。

 

「その時は――――」

 

 おそらく、彼が敵として立ち塞がるのだろう。

 

 一度邂逅して理解した。彼とは相反する存在なのだろう。我らの宿敵。決して混ざることのない色。表と裏の存在。

 

 ゆえに、彼に魔名を送ろう。我らの宿敵となる存在ならば、その価値はある。

 

 

 

「また、いずれ――――『殺人貴』兵藤信貴」

 

 

 

 

 




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