ハイスクールD×D 無限の守護者   作:宇佐木時麻

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やっと書きたかったシーンが書けた! ヤッホーイ!


目覚め

 放たれる神槍。俺の認識を遥かに凌ぐ速さで放たれた、まさに神速と呼ぶに相応しい一撃。常人ならば何をされたのか理解できないまま死んでいたであろうその一撃に、俺は驚愕していた。

 

 その一撃が余りにも速すぎたから驚いたのではない。先程のドラゴンを一撃で仕留める様子を直で見て、その程度は理解の範疇だ。

 

 だから、驚いたのは曹操の放った一撃に対してではなく。

 

「――――」

 

 その神速を躱した己自身に驚愕していた(、、、、、、、、、、、、、、、、、、)

 

 明らかに今のは躱せる一撃ではなかった。攻撃が来ると理解した時間。回避行動に移る時間。それらが明らかに間に合わないと理解できるほど目前まで槍が迫ってくるのをこの目で確かめたのだ。

 

 言うなれば、弾丸と同じ速度で移動するようなもの。そんなことは普通不可能だろう。

 

「チ――――!」

 

 まるで自分ではない何かに動かされた違和感に眉間に皺を寄せるが、そんな思考をする暇などない。僅かに舌打ちをして、その場から現在己が出せる全力の跳躍で離脱する。

 

 その直後。

 

「は――――今のを躱すか、信貴!」

 

 一秒未満の間に曹操が槍をその場所に振り下ろした。

 

 その破壊力は到底子供が出せるとは思えない威力。渾身の一撃は地面にクレーターを生み出し、抉り出された物体はそれ自体が武器と化して襲い掛かってくる。

 

 迫る土や小石はもはやショットガンの弾幕。まともに食らえば重症は避けられないほどの威力を持つだろう。

 

 身体は宙に浮いたまま。前方に障害物はなし。途中方向転換は不可。ならば――――迫るモノを使えばいい。

 

「――――」

 

 小石の弾幕を一瞥して、最良なものを選択する。選んだのはちょうど俺の足サイズの石。直撃すれば骨を何本か持っていかれるだろうが、当たらなければどうってことない。

 

 足に意識を集中させ、身体を僅かに操作する。例え空中と云えと、完全に身体の自由が効かなくなるワケではない。足の方向を微調整して、その場に固定する。

 

 迫る小石の弾幕。その前衛の最も大きい石が俺の脚の裏に触れ――――瞬間、俺はその石を蹴り上げた。

 

 脚から衝撃が伝わり、それすら利用して別方向に逸れながら加速する。足場があれば例えそれがどんなに不安定だとしても移動できる。

 

 変化した方向の先は大樹だった。まるで急な坂道をノウストップで駆け落ちているような疾走感。だが。

 

「――――どうした、それで終わりか?」

 

「――――!?」

 

 背後から聞こえてくる声。大樹の幹に着地するために姿勢が反対に向き、背後が正面となる。

 

 俺の正面。目前とも云える距離に、曹操は既にいた。

 

 その事実に、目を見開く。馬鹿な、有り得ない、いったいどうやって。様々な疑問が脳裏を横切るが、すぐさま結論に辿り着く。

 

 それは単純かつ理不尽な答え。子供でも分かる真実だった。

 

 つまり――――曹操は俺よりも速いということだ。

 

 まるで弾丸のような速さでも、この男の方が速い。こっちは無手だというのに、得物を持っている向こうの方が速い。なんという悪夢。なんて、無様。

 

 だが、そんな理不尽に嘆く時間などない。身体を少しでも速く着地できる様に空気抵抗を減らす姿勢を取る。

 

 そして。曹操の槍が振るわれるのと俺が幹に着地するのはほぼ同時だった。だがほんの僅か。一瞬だけ、俺の方が先に着地した。

 

 脚の裏に感触がした瞬間、全力で地面に跳躍する。振るわれる横殴りの一撃。それは俺の頭上を紙一重で流れていき、大樹に直撃した。

 

 俺の身体を軽々と受け止める大樹が、一撃で木端微塵に砕ける。恐ろしい破壊力。あんなものを食らえばまともではいられまい。

 

 だが、これは逆にチャンスだった。攻撃した直後は誰であろうと無防備になるもの。今ならば――――

 

 宙に舞う木片から瞬時に武器として使用できるものを選択する。先端が尖り、相応の太さがあるものを。見つけたそれを、俺は渾身の回転蹴りで曹操の喉元に叩き込んだ。

 

 我ながら絶妙なタイミング。爪先と杭が垂直となるポイントで放たれたそれは、おそらく二度と出来ない最速の一撃だった。

 

 だが――――

 

「見事――――だが、俺を殺すにはまだ甘い」

 

 砕け散る破壊音。放たれた杭はどういう事か、既に手元へと引き寄せられていた曹操の槍に受け止められ、跡形もなく砕け散った。

 

 速い、速すぎる。反応速度、経験、実力が違いすぎる。それに曹操は完全に二メートルもの槍を使いこなしている。どれを取っても此方が圧倒的に不利だ。

 

 なら、せめて――――

 

「ほう。考え事をする余裕があるのか」

 

「――――ッ」

 

 まずい。まずいまずい躱せ――――!

 

 接近した状態で振るわれた一撃を、死に物狂いで後方に回避する。アキレス腱が切れたと思うほど負荷を掛けた跳躍。しかし、それでも完璧に躱すことは出来なかった。横薙ぎされた槍の先端が胸元を掠める。それだけで、俺の身体は後方に弾き飛ばされた。

 

「づぁッ――――」

 

掠めただけ。それだけで自動車と正面衝突したような衝撃で吹き飛ばされる。しかも痛みが走るのが身体の外側ではなく内側だ。内臓を直接殴られたような激痛に悶絶し、無様な受け身を取りながら何とか地面に着地した。

 

 そう――――予定通りの位置に。

 

「ほう…………」

 

曹操が何やら驚いていたが、そんなことは無視して痛みに堪えながら起き上がる。

 

 その手に、白銀に輝くナイフを握り締めながら。

 

「なるほど、そこまで計算していたか。ここは初めの場所。あの時渡したナイフをそういえばまだ回収していなかったな。ドラゴンの皮膚すら斬れるそのナイフなら、俺の槍を受け止められるかもしれないというワケか。見事、実に素晴らしい」

 

 曹操は余裕の笑みを浮かべながら、こちらを称賛する。敵に武器が渡ったというのにその様子からは何の憂いも感じさせない。いや、むしろ喜んでいるようにも見えた。

 

 ナイフを手に取り、己の性能を確認する。五体満足、内臓が少し痛むが、戦闘に支障なし。戦闘続行可能。あとは――――

 

 

 

 曹操を――――殺――――す――――

 

 

 

「――――待て」

 

 一歩踏み出して、身体が停止する。悪寒が全身を駆け巡る。

 

 今……俺は何を考えた? 平然と、何の躊躇いもなく、至極当然のように、俺は曹操を殺そうとしていた。

 

 それが間違いなど疑わず、さぞ当たり前の様に。

 

「――――」

 

 己自身の異常に息を呑む。まるで自分自身が別の何かのような違和感。何かが俺を根本から作り変えている様な感覚に嘔吐感が込み上げてくる。

 

 先程の動きだってそうだ。曹操に襲われて抵抗したが、あの動きは常人が出来るものではなかった。現実離れした動作。そして、それが可能だと何一つ疑わなかった己の精神。

 

 おかしい。絶対ヘンだ。自分の感覚と経験が比例していない。

 

 まるで、誰かの経験を知っている様な――――

 

「ふむ。先程の様子からすると、どうやら継承は済んでいるようだな。だが、精神が肉体に追い付いていない。…………同調していないのか?」

 

 ぶつぶつと誰に訊かせる訳でもなく呟く曹操。その視線は観察動物を眺めるように冷酷で、芯まで見通されているような感覚に陥る。

 

「魂が分裂している……? いや、そうじゃない。限りなく同質だが、僅かに違っている。互いに反発し合っているから、交わっていない。だから不完全な継承だったのか。複合……いや、共鳴か? 限りなく似ているが、決定的に違っている。ああ、なるほど。つまり君は――――」

 

“英霊でありながら――――英雄ではないという事か”

 

「ふふ、くくくく……」

 

 曹操は俯いて、喉を鳴らし、やがて天を仰いで大笑した。

 

「ははは、ははははは、ははははははははははははははははははははははははは――――!」

 

 それは、破壊の咆哮。曹操は笑っている。何かに気づき、それが愉快で堪らないと腹を抱えて笑っている。

 

 その瞳が一瞬――――黄金に染まっているように見えたのは、目の錯覚か。

 

「ああ、なるほど。ならば理解できる。確かに、英霊ではないなら、それが何者なのか分からなくて当然か」

 

「おまえは…………何を言っている?」

 

曹操が何を言っているのかこちらは皆目見当が付かない。奴は自分の中だけで結論を自己完結している。だが、その答えはきっと俺が知らなければならないものだ。

 

 曹操はおそらく、俺の異常の正体を知っている。

 

「しかし、そうなると一つ謎が残るな」

 

 曹操の視線が俺を射抜く。――――いや、奴は本当に俺を見ているのか? 視線は深く、深く、深く見抜いてくる。俺の全てを見るように。

 

 まるで――――俺を通して、誰かを見ているような――――

 

 

 

「――――貴方は何者だ(、、、、、、)?」

 

 

 

「――――ッ」

 

 その言葉に鼓動が高鳴る。分からない。理解できない。こいつが何を言っているのか全く解らない。なのに。なぜ。どうして。

 

「ぁ――――」

 

 俺の内からその問いに反応する何かが在る。まるで共鳴するように、今まで深く奥底で眠っていた何かが、奴に反応する様に表側(こちら)に這い上がってくる。

 

 作り変えられる。俺という核を中心に、何かが俺を別のモノへと変貌させていく。身体を、魂を、起源を、根源を。見えない幻想を食い潰し、見たくない真実を顕にしていく。

 

 そう。世界が――――■に満ちているという事実(こと)を――――

 

「まだ眠っているのか。ならば――――こちら側に引きずり上げるしかないか」

 

 曹操は薄く微笑すると、その手にある槍を掲げる。それを直視して、俺の身体は硬直した。

 

 駄目だ、あれは神威だ。人ならざる、神の恩恵。それが曹操の持つ槍から溢れ出している。それを直視した途端、魂を鷲掴みされた様に身体の自由が効かなくなった。当然だろう、あれは神の力。人とは次元が違う法。あれを見てば、頭を垂れるしかない。だからこそ、俺はその場に留まるのが限界だった。

 

 身体は指一本さえ動かせない。なら、それは曹操にとって格好の獲物だろう。

 

「どうする? そのままなら、彼は死ぬぞ?」

 

 曹操は俺を見ながら、俺を見ていない。まるで俺を通して他の誰かに告げるように。

 

「さあ――――君の魂の輝きを、俺に魅せてくれ」

 

 そして、曹操は必殺の一撃を繰り出した。

 

「――――ぁ」

 

 死んだ。間違いなくこれは死ぬ。今まで曹操が繰り出してきた中で最高の一撃。おそらく身体が自由に動けてもこの一撃は躱せなかっただろう。そう確信できるほどの見事な一撃。

 

 時間の流れが遅い。己が死ぬと身体が感じ取ったのか、一瞬が何万倍にも引き伸ばされる感覚。脳裏を横切る思い出は走馬灯か。

 

 運命は変わらない。訪れる末路は死のみ。ならばそれを受け入れろ。己の死を。それが条理なのだから。

 

『――――シキ』

 

 ――――嫌だ。

 

 嫌だ、死にたくない。ここが終わりだなんて認めない。だって、約束したから。居場所になると誓ったから。生きる意味も死ぬ意義も見つけられなかった俺が、ようやく見つけられた理由だから。

 

 だから、死にたくない。生きたい。

 

 帰るんだ――――あの陽だまりに。

 

 

 

『――――まったく、つくづく救いようのない宿主だ』

 

 

 

「…………え?」

 

 聞こえてきた声は真実か幻聴か。それを理解する前に、俺の意識は深い闇の中へと堕ちていった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 その一撃は曹操自身も見事だと自負できるものだった。神速と呼ぶに相応しい速度で放たれた槍は通過するものを跡形もなく破壊する。その威力は凄まじく、放った衝撃で五メートル先のものまで破壊尽くした。

 

「…………」

 

 曹操はその様子を静かに眺めると、そっと己の首筋に触れる。

 

 ――――斬られていた。

 

 頸動脈まで僅か数ミリ。その位置まで断たれていた。

 

 槍を放った瞬間。曹操は直感的に首を僅かに逸らしていた。もしそうしなければ確実に頸動脈まで断ち斬られていただろう。一瞬でも判断を誤っていれば死んでいた。

 

 その事実に――――

 

「――――は」

 

 曹操は薄く微笑した。

 

 これが常人ならば死に恐怖していただろう。だが、曹操はその事実を受け入れ、その恐怖に歓喜した。それは傍から見れば狂人の類なのかもしれない。だが、勘違いしてはならない。

 

 元来、英雄と呼ばれるに相応しい者らは皆まともではない。何故なら、まともな人間が怪物に勝てるなど考えるはずがない。

 

 故に、曹操は間違いなく英雄だった。

 

 曹操はゆっくりと背後に振り返る。その貌に笑みを浮かべ、己を斬りつけた元凶を視る。

 

 

 

(われ)は面影糸を巣と張る蜘蛛。

 ――――ようこそ、この素晴らしき惨殺空間へ」

 

 

 

 そこにいたのは信貴であり、信貴ではなかった。

 

 口許には嘲笑を。瞳は蒼く、魔に満ちている。身体中から黒い闇が溢れ出す。手に握るナイフは侵されたように赤い血管の様なものが張り巡らされ、蠢いている。

 

 放たれる威圧感はまさに怪物。常人が直視すればそれだけで自殺したくなるほどの殺気を全方位に放ちながら、それはそこにいた。

 

 それを前にして。

 

「初めまして、でいいのかな?」

 

 曹操はごく自然に尋ねた。その様子に何の緊張も戸惑いもない。当然だ、彼もまた、人ならざる者。

 

 英雄と怪物。その存在は真逆だが、どちらも人間を超越していることには変わりない。ならば、恐れる道理などない。

 

「一つ問いたい。…………貴方は、何者だ?」

 

「“何者”か…………だと?」

 

 曹操の問いに、彼は。

 

「――――名前など、無いさ」

 

 殺人鬼は、嗤いながら告げた。

 




やはり戦闘シーンは難しい。そして曹操がチートすぎる。次回で何とか曹操編は終わらせたい。

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