外角低め 115km/hのストレート【完結】   作:GT(EW版)

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野球少女たちの仲間

 

 

 小山雅にとって、泉星菜は過去の象徴だった。

 野球との出会いも彼女との出会いが最初であり、箱入り娘だった雅に自分の知らないことを教えてくれたのもまた、彼女だった。

 今の自分があるのは泉星菜のおかげであり。

 今の自分があるのは泉星菜のせいだった。

 

 だからこそ、断ち切らなければならなかったのだ。

 

 野球を断ち切るためにも。

 自分自身のためにも。

 

(超えるんだ……)

 

 泉星菜は雅の天敵にして、最大の壁だ。

 彼女を乗り越えることで、初めて雅は自分の過去を乗り越えられると思っていた。

 ……新しい自分に、変わることが出来ると思っていたのだ。

 

 

「プレイ!」

 

 球審から号令が掛かり、雅がバットを構える。

 もはや余計な言葉は要らない。

 ただ雅は、星菜の投げるボールを打つ為だけにその意識を集中させた。

 

 そして、マウンドの星菜が投球動作に移る。

 

 トルネード投法と招き猫投法を組み合わせた新たな投球フォームは、タイミングの取りにくさと球威を両立させている。体重移動が難しくなった分、制球が難しくなりそうなものだが――彼女はこれまで、狙ったコースを外したことがなかった。

 

「ファール!」

 

 一球目。挨拶代わりの如く完璧に制球された外角低めのストレートを、雅は一塁線外側へと弾き返す。その打球は、バットの芯を食った強烈な鋭い当たりだった。

 

(……凄い子だよ、君は)

 

 前の打席と同様に、自信を持って振り抜いた筈のバットが狙い通りの打球を飛ばせなかったことに、雅は今一度確信する。

 この試合の中で急激な成長を遂げている、泉星菜の途方もない投球センスを。

 その才能は雅にとって完全に読み違えであり、大きな誤算だった。

 しかし、それは嬉しい誤算でもある。

 

「ボール」

 

 二球目。低めに曲がり落ちた高速スライダーをハーフスイングで見送り、カウントはワンエンドワンとなる。振っていれば間違いなく、雅のバットは空振りを奪われていたボールだった。

 今の泉星菜には、間違いなく雅を抑え込めるだけの力があるのだ。

 

 ならばこそ。

 

(私の過去を象徴する君を乗り越えて、初めてボクは未来を見ることが出来る……野球の全てを、捨てることが出来る!)

 

 惨めな彼女を倒したところで、その心には虚しさと怒りしか湧き上がらなかった。

 だが今の彼女との勝負は、たとえどう転ぼうとそんな結果にはならないだろう。

 雅は今の彼女が相手ならば、どんな形であれこれが最後の打席として納得することが出来るのだ。

 

「ファール!」

 

 三球目。前の打席では空振り三振を奪われている低めのチェンジアップをすくい上げ、雅の打球はレフト線を大きく越えて遠方へと消えていく。その飛距離は、最初の対決で打ったホームランよりも大きかった。

 

「見切ったよ、星菜」

 

 前の打席ではそのキレに翻弄されたが、それでもなお雅の打撃は彼女の一歩上を行く。

 ボールの軌道が頭に残ってさえいれば、たとえ球種を読み違えても反応打ちで対応することが出来るのだ。唯一タイミングの微調整だけはまだ上手くいっていないが、今の時点でもストライクゾーンのボールを真芯で捉えることは造作も無かった。

 

 雅の呟きに、彼女は何も応えない。

 

 周りの様子など目にも入っていないかのように、今の泉星菜は集中していたのだ。

 そして相対する雅もまた、自らの集中力を極限まで高めていた。

 

「ボール!」

 

 四球目。内角高めのブラッシュボールを、雅は身じろぎ一つせずに悠々と見送る。

 これでカウントはツーエンドツーの並行カウントとなり、投手と打者、どちらにも有利と取れる状況になった。

 

 ――勝負は、次で決まる。

 

 五球目がこの打席最後の……自身の野球人生最期の一球になるだろうと雅は直感していた。

 その緊張からか、雅はこの場で初めて打席を外し、一旦素振りをした後で再び右打席に入った。

 

 憎しみも、怒りも――全ての思いをこのバットに込めて、彼女を打ち砕く。

 

 その決心で雅は星菜を睨み、星菜は息を吸った。

 そしてマウンドの星菜が、大きく振りかぶって五球目の投球動作に移る。

 

「これでっ!」

 

 ――全てが終わる。

 上体を捻り、星菜が思い切り振り下ろした左腕に、雅のバットが疾る。

 彼女の指先から放たれたボールは真っ直ぐの軌道ではなく、空中で大きな弧を描きながら何段階にも分かれるように曲がり落ちてきた。

 

 スローカーブ――80キロも行かない人を食ったような変化球。

 

 コースはストライクゾーン。見事な緩急を織り交ぜてきたその一球は、雅の膝元一杯に制球されていた。

 その一球に対して――雅の体勢は崩れない。

 決して読んでいたわけではない。

 ただ雅は、勝負が決まる最後まで、己の打撃の形を守り抜いていたのだ。

 

 雅は力強く左足を踏み込み、重心を低くして一瞬で腰を回転させる。

 そうして振り抜いたバットの軌道は鮮やかで美しく、鋭いレベルスイングだった。

 

 ――そして、快音が響く。

 

 雅はその瞬間、確かにボールを真芯に捉えた感触があった。

 タイミングもまた、完璧だった。そうして弾き飛ばされた打球は、間違いなく左中間方向へと飛んでいく筈だったのだ。

 

 一瞬にも満たない刹那の中で、打球の行方を目で追い掛けていた雅はその時――この勝負の決着を、はっきりと認識した。

 

 そして彼女は――この試合で初めて、その頬を緩めた。

 

 

「アウト!」

 

 

 雅が打ち返した打球の行方は、寸でのところで竹ノ子高校のショートに阻まれた。

 あと数センチでも方向や高さが違えば確実に左中間を破っていた筈の打球は、彼のがむしゃらな跳躍によって掴み取られたのである。

 

 ボールを捉えたのは小山雅だ。

 

 しかしこの対決を制したのは、泉星菜だった。

 

 その結果は、何も特別なことではなかった。

 

 野球は決して、投手と打者だけの戦いではないのだから。

 少なくとも今の泉星菜は、このチームには小山雅という強敵を共に乗り越えられるだけの「仲間」が居るのだと示していた。

 

 

「……終わった」

 

 一塁ベースに到達する前に終わってしまった勝負の行方に、雅はやり切ったような笑みを浮かべてベンチへと下がっていく。

 

(星ちゃん、やっぱり君は……私の全てを終わらせてくれる人だった)

 

 小山雅はこの瞬間、自らの過去の象徴と――かつての友との勝負に敗れたのである。

 肩の荷も胸の苦しさも、全てが取り払われた気さえする。

 

 かつての友が、はっきりと自分に引導を渡してくれたのだ。

 

 ならばもう……思い残すことは何も無い。

 

「終わったんだ……」

 

 これでもう、野球を続ける意味は何もかも無くなった。

 仲間さえ自分の手で切り捨てた以上、元々小山雅には戻る場所も無い。これで晴れて、待ち焦がれていた未来への道を歩くことが出来るようになったのだ。

 

 それは正しく雅が望んでいた筈のことであり――しかしこの時、小山雅の胸には何故か芽生えてはならない感情が芽生え始めていた。

 

 

「まだ試合は終わっておらんわ、馬鹿者」

 

 そんな雅がベンチに戻ると、朱雀南赤が真っ先に彼女を出迎えた。

 これで終わりと言った雅の言葉に対して、真っ向から否定する言葉だった。

 そしてそんな彼に続いて、茶来や稲田達が次々と雅に対して声を掛けてきた。

 

「そうそう、まだ九回が残ってるッスよ!」

「俺達を見捨てねぇでくれYO、雅ちゃん」

「ここまでやられてばっかりで何もしねぇんじゃ、男が廃るってもんだぜ」

「その通り! ついでにお前にも、もう一打席回してやるよ」

 

 雅が打ち取られたことによって、この回はスリーアウトになった。

 普通なら九回表の守りにつくべく攻守交代を迅速に行うところを、彼らはわざわざ雅に一声掛けてからそれぞれのポジションへと入っていった。

 

 ……あれだけ冷たくして、遠ざけた筈のときめき青春高校のチームメイト達にしては、あまりにも不可解な態度だった。

 

 彼らの様子に気味の悪い違和感を感じた雅は、最後に雅のグラブを抱えながら声を掛けに来た青葉春人へと言い放った。

 

「私は……君達が大嫌いだって言った筈だ」

「ああ、言ったな。だけど生憎、俺らは不良で馬鹿な奴らなんでな」

 

 あの地沖、雅は共に野球をしていた頃からずっと、彼らのことは嫌いだったと言った筈だ。

 その言葉は彼らの心に深く突き刺さり、大きな傷を与えた筈なのだ。

 

 ――そう、雅は仕向けたのだ。彼らの方から自分を見放してもらうように。

 

 朱雀南赤の予想外の一喝で、そんな彼らもある程度は立ち直ったように見えた。しかしそれにしても、雅はこの期に及んでの彼らの馴れ馴れしさが不可解でならなかった。

 雅の疑問に対して、青葉が困ったように頭を掻く。その表情は普段の彼の顔と何ら変わりなく、雅が打席に入る前に見た気まずそうな雰囲気は微塵も見えなかった。

 

「気に入らない顔だね……何があったって言うんだい?」

「いや、な……お前の打席を見ながら振り返ってちゃんと考えてみると、今まで俺達が見てきた雅ちゃんが全部嘘だったなんて信じられないんだよ」

「ふん、そんなことか……」

 

 青葉の言ったその言葉が思いがけず、一瞬でも表情を変えてしまったのは雅の誤算だった。

 その時の雅の様子は傍から見ればまるで、今の青葉の発言に図星を突かれたような反応にしか見えなかったからだ。 

 

「……女は、嘘が上手いんだよ」

「そんな女に上手く騙されてやるのが、いい男の条件らしい。さっき監督が言ってた」

「監督が? 似合わないことを……」

「まあ、はっきり言って俺ら、みんなお前のこと好きだったんだぜ。もちろん、一緒に野球をしてきた仲間としてな」

 

 言いながら、青葉が雅にグラブを手渡す。

 お前の居場所はいつだってグラウンドだと、そう語りかけるように。

 

「……嫌われても、俺は信じるさ。お前は俺達の仲間だ」

 

 

 

 

 小山雅は、彼らを完全に裏切った筈だった。

 自分の立場が悔しくて、何もかもが嫌になって……その怒りを、自分の気持ちを何もわかっていない彼らに対して包み隠さずぶつけて叫んだ。

 

 ――雅にとってそれは、丁度いい機会だったのだ。

 

 自分の人生から野球というものを切り捨てる為には……自分がこれからの未来へ向かう為には、これまでに得てきた余計な物を一切捨てなければならないと思っていた。

 

 その切り捨てるべきものの中には、今まで共に野球をしてきた彼らの存在もあったのだ。

 

 そんな彼らさえゴミのように捨てれば、この後の人生に何の後腐れも無くなる。必然的に、野球にだって戻れなくなる筈だと思っていた。

 小山雅にとって彼らへの言葉のほとんどが、自分自身で退路を断つために行った選択だったのだ。

 言わば彼らへの暴言は、半分が演技で……半分が本気だったのである。雅は自分の気持ちに気付いてくれなかった彼らのことを憎んではいたが……確かに、仲間だと思っていた。

 心の中では捨てるのが惜しい仲間だと、そういう思いもあったのだ。

 

 

「……なんだって言うんだよ」

 

 鈍感な彼らが、そんな雅の思惑を察したとは思えない。

 しかしこの時、彼らからは何故か自分に対するかつてのような信頼を感じていた。

 

 レフトのポジションへ向かっていく青葉の背を怪訝な目で見送った後、雅は彼らの態度を変えたと思わしき元凶たる人物の元を尋ねる。

 

「監督……あれは、貴方の仕業ですか」

「ふぉっふぉっふぉっ、はて? なんのことかな?」

 

 白々しく、そう言い返すのはときめき青春高校野球部の監督、大空飛翔だ。

 とぼけた老人のフリをして、中々にしたたかで狡猾な男だというのはこの時に改めた彼への認識だ。

 ……これだから、大人は嫌いなんだ。雅はそう、心の中で悪態をついた。

 そんな雅の感情に弁明するように、飛翔が言った。

 

「わしはただ、あやつらにお主の打席を真剣に見るように言っただけじゃよ」

 

 その言葉に、雅は「まあそんなことだとは思った」と納得する。

 雅が打席に立つ前と立った後の彼らの様子を見比べてみれば、その変わりぶりは明らかだ。変化の切っ掛けは雅が打席に立っている間に、彼らの間で何らかのやりとりがあったのだろうとはおおよそ察していた。

 

 しかしその推測はある意味では正解であり、ある意味では間違いであった。

 

「バッターが本気で挑んだ打席っていうのにはな、見ている方にもその思いが伝わるもんなんじゃよ。だからこそ、あやつらも感じたんじゃろうな……今のお主を、そんなにまで歪めさせてしまった責任を。そして、何より……」

「何より?」

 

 彼らの態度を変えたのは飛翔ではなく、他でもない雅自身だったのだ。

 しかし、それだけでは納得いかないし、面白くもない話だ。

 老人の話を冷めた目で聞き取りながら、雅が続きを促す。

 

 そして後に続く彼の言葉が、そんな雅の目つきを大きく変えた。

 

 彼の言葉が雅にとって、信じがたいほどに衝撃的な事実を明かしたのである。

 

 

「今のお主の顔を見ていたら、さっきまでのお主が強がっているようにしか思えなくなったんじゃろうて」

「は?」

 

 その時になってようやく、雅は自分自身の表情に気付いたのだ。

 金色の瞳から涙を流している――悲しみに染まった、自らの表情に。

 

「うそ……なんで……っ」

「ハンカチ、どうぞ」

 

 それは雅の中では、決してあり得ないことだった。

 星菜との勝負が終わり、思い残すことが無くなった今、その心に芽生えたのは確かな充実感だった筈だ。

 ならば決して、涙を流すことなどあり得ない。

 

 その涙を、雅は認めなかった。

 認めるわけにはいかなかった。

 

 それは全て、何もかもを捨てた筈の彼女には認めてならない感情だったのだ。

 もう二度と野球が出来ないことを自分が……悲しんでいるなどということは。

 

「雅さん。もう一度、みんなとお話しましょう。貴方には聞きたいことも、言いたいこともたくさんあります」

「……嘘だ……だって、散々言ったじゃないかっ!」

 

 全てを察したような顔をする大空美代子の手を振り払いながら、雅は頑なに否定する。

 周りから向けられる余計な気遣いも、優しさもたくさんだった。

 泉星菜との勝負が終わり、全てが終わった今……小山雅が進む道は野球を捨て去り、チームを捨て去り、何もかもを忘れ去った上で進める未来それだけだ。

 

 ……今更、どうして過去を顧みる必要があるものか。

 

「私はただ、君達を都合よく利用していただけだ! 自分が野球をやる為だけに、媚び売って! 親しくしていたように見せていただけなんだっ!」

 

 だから、否定する。

 小山雅は早口にそう叫び、チームメイト達が自分に対して思っているであろう気持ちの全てを高らかに否定した。

 

「今泣いていたのだって、悔しいからでもボクの野球が終わったからでもない! そうだ……! 嬉し涙なんだ! これでやっと、野球や君達から解放されるって!」

 

 呼吸を荒げ、神を振り乱しながら叫ぶ雅の姿はどこまでも必死で……癇癪を起こした子供のそれと同じだった。

 錯乱したように叫ぶ彼女に……チームのマネージャーは、どこまでも落ち着いていた。

 落ち着いて、その頭を下げた。

 

「……わかってますよ、全部。ごめんなさい……一時でも、貴方のことを疑ってしまって」

「冗談じゃない! 最低なのは私だ! 今更……! 君達に謝られる筋合いなんかないよっ!」 

 

 貴方の葛藤を、何もわかってあげられなくてごめんなさいと――チームを代表するように言った彼女の言葉が、雅には耐えられなかった。

 

 その瞬間こそ、わかってしまったからだ。

 今までの自分が、一体何を求めていたのか。

 

 ――自分は本当は、どこで何をしたかったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たった一回でも、納得出来る負けが必要だったんだろうな……」

 

 ときめき青春高校のベンチの様子を竹ノ子高校のベンチから眺めながら、鈴姫健太郎が悟ったようにそう呟く。

 小山雅という少女が、どういう人間なのか……今ときめき青春高校のベンチで広がっているその光景を見ているだけでも、彼には何となくわかるような気がした。

 ……というのも、彼女のああいった強情な物言いが、どこぞの野球少女のそれに似ていたからだ。

 その張本人が、彼の呟きに対して言い返す。

 

「負けって言っても、ピッチャーとしては全く勝った気がしない決着だけどね」

 

 彼女とのこの試合最後の勝負がショート鈴姫のファインプレーに終わったことについて、チームの一員としては喜んでいても投手泉星菜としては不満そうな様子だった。

 確かに打球自体は完全に真芯に捉えられたものであり、飛んだ方向が僅かでも違えば完全にこちらの敗北になっていたことだろう。一塁走者三森右京の走力を考えれば、そのままタイムリーになっていてもおかしくない当たりだった。

 この試合の中で突然の飛躍を見せた星菜もとてつもない怪物だが、あの小山雅もまたつくづく恐ろしい化け物である。とても少女に対して抱いて良い感情ではないが、鈴姫にはそんな彼女らの才能が怖いとすら思えた。

 だが、そんな素晴らしい選手が居るからこそ、野球は面白いものなのだ。願わくば彼女のチームとはお互いにもっと成長した後で、今度は公式戦で戦ってみたいと思った。

 

「なら、リベンジすればいいさ。また何度でも(・・・・)な」

「……そうだね。お前の言う通りだ。負けて悔しがる。次を求める。それは誰にだって許される、当然のことなんだから」

 

 小山雅は野球をやめるつもりだと言っていたようだが、鈴姫の目にはそんな様子にはとても見えない。

 経験者は語る、という言い方も妙だが、彼には思い当たる節があり過ぎるのだ。

 

 彼女の全てを否定して見下そうとする、やせ我慢の上手そうなあの顔には。

 

「……なに?」

「いや、やっぱり君とそっくりだなと思ってさ」

 

 星菜の顔を見つめながら、鈴姫は苦笑を浮かべる。

 彼女らの在り方は一見対極に見えるかもしれないが、その実鏡写しというのがまさにあてはまるほどに似すぎている。

 

 ……ならば自然と、解決への道筋は見えるというものだ。

 

「それにしても、泣き方まで君と似てるよな。ああやって自分が泣いてることもわからないところとか、そっくりだ」

「あーあーきこえないきこえなーい」

「それだけ、余裕が無かったってことなんだろうな。面と向かって話し合うことの大事さが、身に染みるよ」

 

 泉星菜にも居るように、小山雅にも信頼してくれる仲間が居るのなら。

 それに気づくことさえ出来たのなら、彼女もすぐに自分と向き合うことが出来るだろうと――他人事の気がしない気持ちで、鈴姫はそう思った。

 

 


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