外角低め 115km/hのストレート【完結】   作:GT(EW版)

30 / 91
ラブパワー発動

 

 一度豪腕を振り切れば、空気が唸る。

 マウンド上の男が全神経を指バネに集中させて放った白球は直線を描き、半瞬後にはキャッチャーミットから重い衝撃音を響かせていた。

 

「ストライクッ! バッターアウト!」

 

 試合が始まって二分と掛からず、スコアボードに初のアウトカウントが刻まれる。

 恋々高校の一番打者(リードオフマン)佐久間は、己のバットから一度も手応えを感じなかったことに肩を落としながらベンチへと帰っていった。

 相手チームである恋々高校のベンチは、そして味方チームである竹ノ子高校のベンチすらも、彼の放つ剛速球に騒然としていた。

 

「うわぁ……」

「おい見ろよ、今の148キロだってよ」

「やっぱりキャプテンってすげぇ……」

 

 小手先の技術など無用とばかりに、彼が投じた三球のストレートは圧倒的な威力を持っていた。

 まさに別格――モノが違い過ぎるというのが彼に対する評価である。

 

(仕上がっているな、波輪先輩は)

 

 多くの一年生部員が自分達の主将の投球に興奮している中で、星菜は川星ほむらの隣で無表情にそれを観察していた。

 変化球はまだわからないが、真っ直ぐ(ストレート)に関しては何の不安もなく本大会を迎えられそうな仕上がりぶりである。やはり二年生になって身体が一回り大きくなったからか、波輪の投球は星菜がかつて観客席から観た時よりも数段レベルアップしていた。

 

「ストライク! アウトッ!」

 

 恋々高校の一番佐久間を空振りの三球三振に仕留めた後、続く二番球三郎もストレートの三球勝負で見逃し三振に切って取った。星菜が参考程度に目を向けたモニタースクリーンに映る球速表示は常に140キロ台後半をマークしており、目視でも球が走っているのがわかる。本日の竹ノ子高校のエースは、すこぶる好調のようだった。

 

《三番、ピッチャー――奥居君》

 

 しかし相手の恋々高校は来年のドラフト候補である好投手、パワフル高校の山道翔を打ち崩した打線である。そのクリーンアップが波輪の剛速球にどう対応していくか、星菜は敵ながら期待していた。

 たった今ウグイス嬢からコールされた三番の奥居――彼は苗字から察するに、おそらく以前友人の亜美が話していた彼女の兄なのだろう。顔を見た限りでは全く似ていないが、そう何人も居るような苗字ではないので星菜はそう推測する。彼はスパイクで足元を慣らしながら、自分のペースでゆっくりと右打席へと入った。

 試合が始まる前、星菜とほむらはマネージャーとして仕入れてきた情報から恋々打線では特にクリーンアップに注意しておくように伝えている。そのことがしっかりと頭に入っているらしく、奥居の名がコールされてから若干波輪の目つきが変わったように見えた。

 キャッチャー六道明のサインに頷くと、波輪はノーワインドアップから左足を振り上げ、大きなテイクバックから右腕を振り下ろした。

 

 ――瞬間、鋭い金属音が響いた。

 

 それは、この試合七球目にして初めて聴こえたバットの音だった。打球は一塁ランナーコーチの傍らを通り抜けていくファールボールだったが、奥居は初球にして剛速球を打ち返したのである。

 

(やっぱり、パワフル戦での活躍はまぐれじゃないみたいだ)

 

 打った本人は今の打球がフェアゾーンに飛んでいかなかったことに首を傾げているが、初見でバットの芯に当てただけでも十分に褒められることである。

 キャッチャーの六道も彼は只者ではないと感じたのか、二番打者までよりもミットの構えを厳しくしていた。

 

 波輪が二球目に投じたボールはこの試合初めての変化球――スライダーだった。

 外角に向かって放たれたボールはベースの手前でキレ良く横滑りすると、右打者のバットが届かないストライクゾーンの枠外へと外れた。あわよくば空振りを狙ったのだろうが、打者の奥居はピクリとも動じずに見送ってみせた。

 しかし三球目、奥居は同じコースに続けたスライダーを強振し、空振りする。ストレートを狙っていたのだが読みが外れたと言うところか、打席上の奥居は悔しそうに苦笑いを浮かべていた。

 

「あちらの三番バッター、良い振りをしていますね」

「当たったら飛びそうッスねぇ」

 

 波輪の長所には最速150キロを超える剛速球の他にもこのスライダーの曲がり、キレの良さがある。彼が一年生だった昨秋は寧ろこちらの方を武器にしていたぐらいであり、強者揃いである海東学院高校の打線を苦戦させていたことが記憶に新しい。

 そして今年はそのスライダーにさらなる磨きを掛けており、既にプロ級のレベルにあると見ていた。

 だがだからと言って、何球も連続してスライダーだけを続けるのは愚行である。キャッチャーの六道は腰を上げると、四球目は高めに大きく外れた釣り球のストレートを要求した。

 外角の変化球に意識を向けさせた後、それまでと異なるコースに異なる球種を投げさせるのは配球のセオリーだ。高めの釣り玉は制球を誤った際には丁度打者が打ちやすいコースであるベルトの位置へと入ってしまう恐れがあるが、今日の波輪の調子ならば問題無いと踏んだのだろう。六道は自信を持って要求していた。

 そのリードに従い、波輪はこの回最速である149キロのストレートを高めに外した。

 打者の奥居は迂闊に手を出さなかったものの危うくバットが出掛かり、打席を外して「危なかったぜぇ……」と呟きながらその場で屈伸運動を行った。

 

(今の球を振ってくれれば儲けもの。振ってくれなくても、今の真っ直ぐは頭に残った筈。私なら次は外角低め(アウトロー)に緩いカーブかチェンジアップを投げたいところだけど、波輪先輩はどっちも投げられないから……)

 

 波輪風郎は現時点でも超高校級の実力者であるが、あえて課題を上げるとすれば星菜が得意とするスローカーブのような球種を持っていないことであろう。それ故に投球の引き出しが狭くなりがちで、何度か投球を見ればある程度は配球が読めるのである。

 無論、だからと言って簡単に打てる投手ではない。

 

(あえてインコースに真っ直ぐとか良いかもな)

 

 わかっていても打てない、それが波輪風郎という男の強さなのだ。

 

「っ!」

 

 奥居の表情が苦渋に染まる。

 カウントツーエンドツーから投じた五球目のボールは、星菜の読み通り内角へのストレートだった。高さは六道の要求よりも甘く入ってしまったが球自体に威力があり、奥居は当てに行くだけの打撃になってしまった。

 この期に及んでも140キロ台後半のストレートに振り遅れなかった点は賞賛出来るがボテボテと転がる打球の勢いは褒められたものではなく、フェアゾーン上でサードの池ノ川に捕球されると、強肩からすかさず一塁へと送られスリーアウトとなった。

 

「スマンな小波」

「ドンマイ、ピッチング頼んだよ」

「おう、任せとけ」

 

 凡退となった奥居はネクストバッターズサークルに待機していた四番打者と共にベンチへと帰り、守備の用意へと移る。

 そして初回の守りを三者凡退で乗り切った竹ノ子高校ナインは、波輪の好投と池ノ川の好守を称えながら星菜達の居るベンチへと戻ってきた。

 

「ナイスピッチングッス波輪君!」

「サンキュー!」

「ナイスピッチングだ。だがいきなり飛ばしすぎだ。青山が居ないんだから少しは手を抜いとけ」

「へーい……」

 

 ほむらや茂木監督から各々の言葉を掛けられ、波輪はそれぞれに正反対の反応を返す。

 確かに今日は二番手投手である青山が欠席している為、波輪には長いイニングを投げ抜き、可能ならば完投をしてもらわなければならない。選手の故障に関してだけは異常に神経質な茂木としては、この初回は完璧過ぎるが故に不安な立ち上がりに見えたのかもしれない。

 

「おっしゃ行けよ矢部!」

「一発かましたれメガネェッ!」

「任せるでやんす!」

 

 攻守交替となったことで竹ノ子高校の一番打者、矢部明雄がバッターボックスへと向かう。久しぶりの対外試合の初打席だからか、常にも増して気合いが入っている様子である。

 恋々高校のバッテリーは投球練習最後の一球を投げ終えた後、捕手の小波がボールを緩やかに二塁へと送り、仮想の盗塁阻止練習を行っていた。

 

「打たせていくよ」

「おう!」

 

 捕手は守備陣に一声掛けるとマスクを被り、キャッチャーボックスに座って矢部の到着を待った。

 矢部が打席に入りバットを構えると、「プレイ!」という号令によってイニングが始まった。

 そして投手奥居の一球――セットポジションから投げ下ろされたボールは、リリースポイントから糸を引いてキャッチャーミットへと収まった。

 

「ストライク!」

 

 星菜が観に行ったパワフル高校の練習試合でも奥居は登板していたが、この試合で投げた第一球はその時と変わらず威力のあるストレートであった。

 

「138キロか……」

「向こうも結構速いなぁ」

 

 モニターの球速表示を見た部員達から驚きの声が上がる。

 右のオーバースローから放たれる奥居のストレートには、強豪校を相手にも通用するほどのスピードがある。他のメンバーにも言えることだが、星菜は公式戦に出場したことのない恋々高校が良くもこれほどの人材を集められたものだと感心していた。

 部員の数は辛うじて試合が出来る程度の人数しか居ないらしいが、レギュラーメンバーの質は驚くほど高い。おそらくは今後の大会において、恋々高校の名はダークホースとなりそうだ。

 

(……でも、あの人は大したピッチャーじゃなさそうだ)

 

 だが星菜は、現時点の奥居という投手自体にはそれほどの脅威は感じなかった。

 確かに球は速いかもしれないが投球フォームに粗が多く、制球があまりにもアバウトだからだ。

 テンポ良く投げ込まれていく矢部の打席は初球と二球目こそストライクを取ったものの、次からの投球は捕手の構えから大きく外れ、ツーナッシングからスリーボール、あっという間にフルカウントになってしまった。

 

(前観た時も思ったけど、このピッチャーは典型的なノーコン速球派だな)

 

 そして次の一球は140キロを計測したものの際どく内に外れ、球審からボールを取られる。そして矢部の一打席目は、一球もバットを振ることなくフォアボールとなった。

 

「ナイス選ナイス選!」

「矢部君、案外落ち着いてたッスね」

 

 球離れがやや早いため、投げる瞬間にボールがどこへ来るのかわかりやすいのだろう。今のフォアボールに関しては打者矢部の選球眼も賞賛すべきかもしれないが、星菜としては投手奥居を叱りたい気分であった。

 

「あの人の構えたところに投げれば、何の問題も無いのに……」

 

 捕手がどれほど思考を練って配球しても、投手が応えられなければ意味は無い。恋々高校の捕手の優秀さを知っているだけに、星菜は彼の投球が腹立たしかった。

 

「……あっちじゃなくてウチを応援しましょうよ、泉さん」

 

 奥居の制球力を苛立たしく思っていると、どこからかそんな声が聴こえてきた。星菜がその方向に目を向けると、声を放った人物はヘルメットとバットを持ってバッターズサークルへと移動している最中であった。

 

(……それもそうだ)

 

 彼の言う通り、対戦校の投手を応援するのは確かにおかしいだろう。しかしあの人物が捕手を務めていることへの小さな嫉妬心と速球派投手へのコンプレックスからか、星菜はつい苛立ってしまい、勿体無いと思ってしまうのだ。

 

《二番、キャッチャー六道君》

 

 矢部が出塁すると、ウグイス嬢からコールされた六道明が打席に入る。二番打者の仕事としては、この走者(ランナー)は何としてでも進塁させたいところである。

 しかし六道明は本人も言っているが、打撃は得意ではない。身長は172センチ程度あるが体格は捕手とは思えないほどスリムであり、ボールを飛ばす力には乏しい選手である。

 だがそう言った短所を補う為に練習したのか、進塁打やバントのような小技は大の得意としていた。打席に入る前にベンチに居る茂木からサインを窺っていたが、おそらくこの場面での指示は送りバントであろう。

 

(でもピッチャーの制球が荒れているから、四球を狙って一球ストライクが入るまで待った方が良いかもしれない)

 

 バントの名手であれば、ここは初球から簡単に決めてしまうのは勿体無いような気もする。

 それは打席上の六道と監督の茂木も同じ考えだったのか、クイックモーションから放たれた奥居の一球に対して、六道は一度バントの構えを見せた後、寸前のところで後ろに引いた。

 しかし、それはただの揺さぶりではなかった。投手の奥居を揺さぶる目的は少なからずあったのかもしれないが、本来の目的ではない。どちらかと言えば、捕手を揺さぶる為の行動だった。

 

「走ったぞアニキ!」

 

 奥居が投球動作に入った瞬間、一塁ベースに着いていた恋々高校の一塁手(ファースト)が声を上げた。走者の矢部が盗塁のスタートを切り、全力で走り出したのだ。

 矢部明雄は貧相な見た目で損をしているが、竹ノ子高校野球部随一の俊足の持ち主である。加えて彼の盗塁走塁の技術は強豪校相手にも通用するレベルであり、昨秋の大会でも何度か盗塁を成功させていた。

 しかし、今回ばかりは相手が悪すぎた。

 

「……! アウトッ!」

 

 矢部が盗もうとした二塁ベースに、彼の足が届くことはなかった。

 恋々高校の捕手が座りながら放った弾丸のような送球が、瞬く間に遊撃手のグラブへと収まったのである。矢部はたった今自分が刺されたことが信じられないでも言うように、スライディングの態勢のままその場に固まっていた。

 そして盗塁の成功を疑わなかった竹ノ子高校のベンチもまた、驚愕に包まれていた。

 

「あれが、小波って奴の肩か。座りながらの送球でアレとか、いくらなんでもヤバすぎだろ」

 

 その声を漏らしたのは、竹ノ子高校野球部の主将波輪風郎である。

 しかしその顔には驚きこそあれど怯みはなく、寧ろ非常に楽しそうにしていた。

 そしてこちらに顔を向けると、メンバー一同に向かって強く言い放った。

 

「おいお前ら! 恋々高校が大会に出たこともないチームだからって舐めてる奴が居たら、そんな考えは捨てろよ!」

 

 既に彼は、恋々高校というチームをはっきりと強敵として認識しているようだった。

 その心中は、あの小波に打席が回る次のイニングが今から待ち遠しいといったところであろう。その気持ちは星菜にも、痛いほど(・・・・)わかった。

 

(……小波先輩……)

 

 自分も戦ってみたい――そう思ってしまう今の自分には、彼のような熱い心が備わっているのだろうか。

 もしそうならばこの試合は自分にとって思っていた以上の苦痛になるかもしれないと、星菜はまるで他人事のように冷静に考えている己に気付き、ふっと苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その男のことを、鈴姫健太郎は心から尊敬していた。

 

 彼は星菜と同様に天才肌で、何をやらせても完璧にこなせる人間で。

 人当たりも良く、先輩や後輩、大人達からも信頼されていた。

 リトルリーグに所属していた頃の鈴姫は三年間とも補欠であったが、彼はその反対で、四年生の頃からチームの中心選手として活躍していた。そして六年生時にはエースの星菜の球を受ける正捕手のキャプテンとして、チームを優勝にまで導いてくれた。

 鈴姫は彼に恩がある。片や正捕手、片や補欠という関係でありながらも彼は鈴姫の練習に何度も付き合ってくれて、鈴姫はその都度多くのアドバイスを貰ってきた。

 

 そして何よりも重要なこととして、彼は星菜と仲が良かった。

 

 話によれば彼は星菜が一度この街を引っ越す前に知り合った親友で、当時野球のやの字も知らなかった彼に野球を教えたのが星菜だったのだと言う。

 それが数年後になって同じ野球チームのチームメイトとして再会したというのだから、鈴姫は子供心にロマンチックなものを感じたものだ。

 

(……あの時の俺は、あんたとアイツの仲に嫉妬していた。でも、それでも良いと思っている自分が居た)

 

 彼は当時から背が高く、性格も大人っぽくて落ち着いていた。

 一年先輩だと言うのに後輩に対して一切偉ぶることがなく、それでいて他人が間違いを犯した際には厳しく叱ることが出来る男だった。

 そんな完璧な人間である彼と自分を見比べる度に、幼い鈴姫は「あの人には勝てない」と激しい劣等感を抱いていた。

 

 ――だが、だからこそ安心もしていた。

 

 もしも今後星菜と彼が「そういう関係」になったとしても、彼ならば間違いなく星菜を幸せにしてくれると。小波大也という人間の器の大きさには完膚なきまでの敗北感を味わったが、同時に絶大な信頼を寄せることが出来たのだ。

 それ故に、今の鈴姫は激怒していた。

 

(俺が勝手に期待していただけだっていうのはわかってるさ。でも、あんたはアイツを助けてくれなかった。何もアイツにしてくれなかった……!)

 

 中学時代に星菜が野球部を辞める原因を作った男がよくもまあおめおめと野球をやっているものだと、ここが野球場でなかったらまた一発殴ってやりたいところだった。

 しかしバットを片手に持つ鈴姫は表面上は無表情を装っており、その内心をぶちまけることはなかった。

 

「アウト!」

 

 二番六道明がカウントツーエンドツーから打ち上げた小フライを、キャッチャーマスクを外した小波が危なげなく捕球する。彼はツーアウト!と二本の指を立てて声を上げると、そのボールを投手へと返した。

 

《三番ショート、鈴姫君》

 

 そして、自分の打席が回ってくる。

 凡退した六道と無言で擦れ違った後、鈴姫はゆっくりと左打席に入った。

 

「試合前に、何か言われると思ったよ」

 

 足元を慣らしている最中、ふとキャッチャーボックスの方向から声を掛けられた。

 一年以上ぶりに耳にする、どこまでも苛立たしく甘い声色である。

 

「俺はそうしてやりたかったんですけどね。でも、今日は野球をしに来ているんだ。……アイツにそう言われた」

「はは、君は相変わらず、星ちゃんが大好きだね」

 

 球審からプレイの声が掛かり、相手投手が投球動作に移る。

 柔らかさを感じないロボットのような投球フォームから、その右腕が素早く振り下ろされた。

 指から放たれたボールは18.44メートルの間で緩やかな弧を描くと、ホームベースの後ろでショートバウンドしてから小波のミットへと収まった。

 球審の判定は、もちろんボールである。鈴姫にとっては反応するに値しない、球のキレを感じられないカーブだった。

 

「見せ球にもなりませんよ。そんなへなちょこカーブ」

「そう言うなよ。奥居君の本職はサードなんだから」

「言い訳をする人間に進歩はありませんよ、先輩」

「ふむ、一理あるね」

 

 小波からの返球が、ビシュッと風切り音を立てて投手のグラブへと到達する。その間、鈴姫は一度としてキャッチャーボックスの方向を見なかった。

 今そちらに目を向ければ、野球どころではなくなってしまう気がしたのである。鈴姫は今の自分の精神状態を深く理解していた。

 バットを構え直し投手の姿を睨んでいると、間を置かずに二球目のボールが向かってきた。直線的な軌道を辿るそのボールには、中学野球ではほとんど目にかかれないほどのスピードがあった。

 

 ――だが、それがどうしたというのか。

 

 鈴姫は思い切り右足を踏み込むと、内角に食い込んできた速球をバットの真芯でいとも容易く弾き返してみせた。

 爽快な金属音と共に打ち返した打球は、瞬く間にライト線を突き破っていった。

 

「フェア!」

 

 二転、三転と転がっていく打球は勢いを緩めないままフェンスまで到達し、鈴姫は悠々と二塁ベースへと辿り着く。

 隙あらば三塁を狙おうとしたがライトからの返球が予測していたよりも早く内野に返ってきた為、鈴姫は数歩ほどオーバーランをしたところで二塁へと戻った。

 

(アイツの前であんなノーコンの、球が少し速いだけのピッチャーに抑えられてたまるか……)

 

 ツーアウトからツーベースヒットが出たことで、竹ノ子高校ベンチからはやたらと大きな歓声が聴こえてきた。その声の中に心の内の大半を占める人物の声が混じっているのかどうかは、今の鈴姫にはわからなかった。







 今回試合が始まったということで、おまけとして今回登場した竹ノ子選手のパワプロ風ステータスを。


※あくまでこのステータスは参考程度に考えてください。


 矢部(やべ) 明雄(あきお)

 右投右打

 ポジション 中堅手

 弾道2
 ミート E
 パワー C
 走力 B
 肩力 E
 守備力 D
 エラー回避 F

 チャンス2 ヘッドスライディング 盗塁4 走塁4 エラー

 備考:原作パワポタ3と大体同じ


 六道(ろくどう) (あきら)

 右投右打

 ポジション 捕手

 弾道2
 ミート F
 パワー F
 走力 E
 肩力 D
 守備力 B
 エラー回避 B

 バント○ キャッチャー○ 流し打ち

 備考:劣化ひじりん 弱肩


 鈴姫(すずひめ) 健太郎(けんたろう)

 右投左打

 ポジション 遊撃手

 弾道3
 ミート B
 パワー D
 走力 B
 肩力 C
 守備力 B
 エラー回避 A

 安定度4 アベレージヒッター バント○ 流し打ち 内野安打○ 盗塁4 走塁4 寸前× 星菜病

 備考:主人公の存在で原作よりも少し強くなっている



 次回の後書きでは四番~六番打者のステータスを載せる予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。