アルベルト・フォン・ライヘンバッハ自叙伝   作:富川

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青年期・開明派の台頭(宇宙歴768年1月11日)

「おはようございます。司令官閣下」

「おはよう。シュタインメッツ少尉」

「作戦部より先のニュー・ブリスベーンにおける遭遇戦に関する報告書が届いています。それと今日の後方部・人事部・総務部とのミーティングに必要な資料を纏めておきました。ご確認ください」

 

 シュタインメッツ少尉に礼を言うと私は執務室の椅子に座り、自身の端末を確認する。余談だが、本当に重要な情報は電子媒体では無く紙媒体に記録される。戦場や悪環境において電子媒体よりも紙媒体がより長く情報を保持し続けるのは一三日戦争やシリウス戦役で証明された通りだ。とはいえ日常業務の些末な書類まで紙媒体で用意するのは物資の無駄というものである。

 

「少尉。君が優秀なおかげで助かるよ。私みたいな経験の浅い将官でも部隊の状態を逐一把握できるのは君の仕事が良いからだ」

「勿体ないお言葉です。しかしながら小官の纏めた資料はあくまで要点を絞ったものです。あくまで基礎的な情報に過ぎないとお考え下さい」

「分かっている。しっかり後方参謀たちと話をしてくるさ」

 

 私はそう答えるとニュー・ブリスベーンにおける遭遇戦に関しての報告書を読む。偵察に出た麾下の第二六一巡航群――ハウサーが指揮する部隊だ――が同じく偵察に出てきていたと思われる同盟の偵察部隊と遭遇し、これを散々に打ち破ったのだが作戦部の評価は二分していた。詳細は省くが、敵の偵察部隊は第二六一巡航群の三倍の戦力を有していたのだが、ハウサーはそれによる相手指揮官の油断を突き、これを散々に打ち破った。

 

 その戦術手腕に関して問題視する者は居ないが、そもそも数で勝る敵の偵察部隊と交戦する必要があったのかという点でエルラッハ作戦副部長やシュターデン作戦参謀が疑念を示している。戦力保全を第一とすべき状況であり、第二六一巡航群は交戦を避ける選択肢があったにも関わらずこれの検討を怠っており、ハウサー中佐が適切な判断をしたとは言えない、との意見だ。……エルラッハとハウサーは幼年学校以来の友人であるが、そういう関係を職務に持ちこむことをエルラッハは嫌う。それはエルラッハの美点であり、欠点であるようにも思われる。

 

 一方でエッシェンバッハ作戦部長はハウサー司令の判断に理解を示しており、他の作戦参謀にも支持する者が少なくない。交戦を避ける選択肢を選んだとしても確実に離脱できるとは断言できず、またニュー・ブリスベーンの位置関係を考慮すれば、最悪追撃によって帝国軍の仮説基地が同盟軍に露見することすら有り得る。仮に敵部隊を撃退する術があるのならばそれが無謀で無い限りは採用しても良いだろう、とまあ大体そういう意見である。

 

「少尉。君はどう思う?」

「小官にハウサー司令のような用兵手腕はありませんが……。私見を述べるのであればハウサー司令の判断は間違っていないかと思います」

「ほう……。エッシェンバッハ作戦部長たちと同じ意見か」

「はい。ハウサー司令は恐らくやろうと思えば叛乱軍の追撃を振り切って撤退することも出来たでしょう。しかし、戦隊全体の士気を考えて敢えて積極策に出たのだと考えます」

 

 私は納得する。確かにシュタインメッツ少尉の言う通りだ。

 

 宇宙歴七六八年一月一一日、派遣艦隊がドラゴニアに到着して約半年が経った。その間、『ドラゴニア特別派遣艦隊』は同盟軍の活動が低調だったこともあり、僅か一万隻という少数ながらも「帝国地上軍の支援」という作戦目標を十分に果たしていた。……しかしながら、それにもかかわらず各部隊での士気の低下が著しい。

 

 原因は言うまでも無い。……長い帝国史上において、一年八か月も皇帝の座が空位だったことなど一度も無い。兵士たちは極々素朴に自分たちの皇帝を誇りに思い、皇帝の為に命を賭ける。歴代の皇帝は自らの為に血を流す兵士たちを(帝国基準では)厚遇してきた。兵士たちはその厚遇に恩義を感じ、皇帝に忠誠を誓う。皇帝が居なければ一体誰に忠誠を誓えというのか?自らの血を誰の為に流せというのか?戦友たちは一体誰の為に死んでいるのか?

 

 その答えの一つは第一分艦隊や第一一特派戦隊にあるだろう。ミュッケンベルガー少将は自らの威風で、メルカッツ准将は自らの人徳で兵士たちの士気を維持している。皇帝が居ない以上、指揮官が兵士の偶像となるしかない。

 

「なるほどな……。確かに第一二特派戦隊でも士気の低下が目立ち始めている。ブレンターノ法務部長とペイン憲兵隊長も兵士同士のトラブルや職務怠慢が増加していることに危機感を抱いていた。ハウサーの快勝を喧伝すれば少なからず兵士たちの士気が回復するか」

「ええ。しかしながらハウサー司令と各戦隊司令には釘を刺す必要もあるかと考えます。独断専行という程の事ではありませんが、それでもハウサー司令は予め閣下と話をしておくべきでした。組織の秩序維持と危機管理の観点から考えるとハウサー司令の判断は危険でもあります」

「君の言う通りだな……。帝国軍人は全体的に功を焦る風潮がある。第一二特派戦隊は司令官の私からして武功に拘らない姿勢を示しているから麾下の司令たちも内心はどうあれ大人しくしている。ハウサーの判断を全肯定すると他の連中も『悪癖』を発症しかねん」

 

 私は苦々しい表情を浮かべているだろう。私の麾下についた指揮官は半数が父の元帥府に所属しているか私と個人的な面識がある。もう半数も独立艦隊の叩き上げや中央艦隊で経験を積んだエリートたちだ。能力的な質に関しては申し分ないのだが、どうにも功績に飢えたところがある。それでも軍隊秩序かライヘンバッハの名前が効いているのか私は何とか彼らを統制出来ている。

 

「シュタインメッツ少尉。君の意見は参考になった。私は君を頼りにしている。これからも支えてくれ」

「恐縮です。……しかしながら閣下。小官は未だ一七歳の若造ですし、士官学校すら出ておりません。勿論軍の中央で勤務した経験もありません。閣下やクラーゼン中佐、シュターデン大尉はそんな私にも目をかけてくださいますが、客観的に申し上げて小官は閣下の副官として相応しい人材とは言えません」

「ふむ……。私はそうは思わないがな?」

「客観的な話をしております。閣下に重用していただけるのは光栄ですが、他者から見たときに小官はそれに相応しい理由を何一つ有していないのです。閣下が小官を重用することは司令部に不和を招くことになりかねない、と愚考いたします」

 

 シュタインメッツ少尉は真っ直ぐに私を見つめながらそういった。どうやら私は諫められたらしい。なるほど、私は後の名将カール・ロベルト・シュタインメッツを知るが、他人はそれを知らない。何故私が彼を重用するのか、納得のいかない人間は少なくないだろう。……特にこの戦隊にはシュタインメッツ少尉よりも長く私と付きあいのある友人たちが多く属している。私が彼らよりもシュタインメッツ少尉を信頼するのはどう考えても不合理だ。

 

「覚えておこう。だが君に期待していることは変わらないよ」

 

 私は笑いながらそう返した。

 

 

 

 

「ふむ。いつ気づくかと思っていたが、まさか副官の方が先に気づくとは思わなかったな」

「どういう意味だ?」

 

 ラルフはそう言いながらワイングラスを傾ける。私は友人であり部下であるラルフ・ヘンドリック・フォン・クラーゼンと士官専用ラウンジで飲んでいた。

 

「君があの副官を重用していることを疑問に思う人間は少なくなかったという事さ。彼が門閥の出身だったり、士官学校の首席卒業者だったり、あるいは……とんでもない美少年だったりしたらまだ分かるんだけどね。どうにもそういう訳じゃなさそうだ。私は君がノーマルなのを知っているしね」

「……彼は優秀だ。信頼して何が悪い」

 

 私はラルフの言い様に少し不機嫌になりながら応じる。私もワインを喉に流し込んだ。

 

「あの副官に才能があるのは見れば分かるさ。だがアルベルト、君は第四猟兵分艦隊司令部の士官名簿を見た瞬間即決でカール・ロベルト・シュタインメッツを副官にすることを決めたというじゃないか」

「噂に惑わされないでくれ。若い平民の士官をリストアップして、その中で特にシュタインメッツ少尉が私の副官に適しているという結論になった」

「その根拠は?」

 

 ラルフは笑いながら尋ねてくるが、まさか「前世の物語で活躍した~」なんて言える訳も無い。一応言い訳も考えてはいるが……。

 

「過去一〇年でノイシュタット幼年学校を優等で卒業した生徒の九一%が爵位持ちだ。彼は貴重な九%の側だった」

「ヘルゲンシュタイン幼年学校も条件じゃ変わらない」

 

 ほら見たことか。抜け目のないこいつの事だ。私の言い訳など調べ上げた情報で大体封じているのだろう。副官の最終候補に残った、とある平民士官の出身校がヘルゲンシュタインだ。過去一〇年で幼年学校を優等で卒業した生徒の九二%が爵位持ちである。

 

 私はお手上げのポーズをした。他にも色々と言い訳を考えていたが、今の言い訳が通じないなら残りも無駄だろう。……ラルフの追及を予測した私はシュタインメッツ少尉の経歴を調べ上げて尤もらしい理由をいくつか創作したのだが、その中で最も統計を取るのに時間がかかり、またラルフを誤魔化せる自信のあった理由がこれだ。

 

「……ま、深くは訊かんさ。君とは引き続き友人で居たいし、私は別に誰が木槌(ギャベル)を打とうが構わない。私に関係が無い限りはね」

「何を言ってるんだ?」

 

 ラルフはどうも私やクルトに裏があることに気づいているらしい。木槌というのは議会の暗喩か、裁判所の暗喩か。しかしながらシュタインメッツ少尉の不可解な抜擢も私たちの裏側と関係があると思っている様子を見ると、やはり核心にまでは到達していなかったのだろう。

 

「さて、アルベルト。君に渡したいものがあるんだがな」

 

 ラルフはニヤニヤしながらバックから一冊の本を取り出す。

 

「大ベストセラーとなりつつあるヨハン・コナー作の『平民階級とは何か』……中々刺激的な出だしじゃないか。『平民階級とは何か?全てである。今日まで何であったか?無である。何を要求するのか?それ相応のものに』」

 

 ラルフは肩を竦めるとそのまま本を私に差し出してきた。

 

「お前……!何でそんなモノを持ってるんだ!?予め遠征に持ち込んでたのか!?」

 

 私は驚愕せざるを得なかった。

 

 『平民階級とは何か』とは去年の暮れごろから開明派の後押しで帝国中に流通し始めた啓蒙本の一つだが、その中でも特に過激な――時代が時代なら禁書指定されているだろう――モノである。元々、宇宙歴七五七年にメクレンブルク=フォアポンメルン行政区のブラッケ侯爵領で出版され、その後一部開明派貴族の領地や辺境自治区で読まれていた本だったが、去年ブラッケ侯爵とリヒター子爵の開明派二大巨頭が帝都での出版を強行した。

 

 当然ながらその内容は内務省情報出版統制局と社会秩序維持局に問題視されたのだが、ブラッケ侯爵ら開明派は弾圧に動いた両局を激しく批判。その結果最初は殆ど注目されていなかった『平民階級とは何か』に注目が集まり、帝都や中央地域の市民に広くその内容を知られることになった。

 

 ブラッケ侯爵はオトフリート三世猜疑帝の外孫であり、リヒター子爵はオトフリート四世強精帝の五男である。その他の開明派もこれまでの体制内改革派とは違いそれなりの地位にある人物ばかりだ。社会秩序維持局も遠慮して最初は穏便に済ませようとしていたが、ブラッケ侯爵らの抵抗は激しくついに実力行使に移った。

 

 宇宙歴七六七年一一月二八日。社会秩序維持局は内務尚書ノイエ・シュタウフェン侯爵の名前で、帝都防衛軍司令官カール・フェルディナント・フォン・インゴルシュタット、枢密院議員コンラート・フォン・バルトバッフェルの両名に参考人として出頭を命じるが両名は拒否。ならばと保安警察庁の部隊を動かして両名を拘束しようとするが、保安警察庁公安部長のシュテファン・フォン・ハルテンベルク伯爵らが意図的な不協力行為によって妨害。結果としてバルトバッフェル子爵とインゴルシュタット宇宙軍中将の帝都防衛軍司令部籠城を許してしまうことになる。

 

 そして同時に平民に人気のあるブラッケ侯爵やリヒター子爵らが街を練り歩き、社会秩序維持局の不当性を声をからして訴え、インゴルシュタット宇宙軍中将とバルトバッフェル子爵の潔白を叫ぶ。それを聞いた三部会の平民議員が中心となり帝都の活動的な市民約四〇〇〇名が両名を救うために帝都防衛軍司令部の周囲に集まった。

 

 群衆を解散させるべく、即座に保安警察庁の機動隊が動員されたが士気は低かった。そもそも保安警察庁は社会秩序維持局に良い感情を持っていない。両組織の確執は古くは銀河連邦末期まで遡る。ハルテンベルク伯爵らの行動も社会秩序維持局に対する反感と保安警察庁の職権拡大を目指す意図があったのだろう。

 

 宇宙歴七六七年一二月四日。クレメンツ大公が開明派を支持する声明を発表する。その数時間後にはオーディン高等法院が社会秩序維持局によるインゴルシュタット中将、バルトバッフェル子爵の出頭命令を無効と判示する。この報せを受けた社会秩序維持局は大きな衝撃を受けた。

 

 内務省報道出版統制局や保安警察庁がリヒャルト大公派の牙城となっていた為に社会秩序維持局はクレメンツ大公寄りの姿勢を取ってきていた。平民を支持基盤の一つとするクレメンツ大公が開明派との対立を望んでいないことは社会秩序維持局も分かっていた。とはいえ、開明派と社会秩序維持局を天秤にかければ常識的に考えて後者を取る。まして法と伝統を無視しているのは開明派の方だ。クレメンツ大公の理解も得られるだろう……。社会秩序維持局の高官たちはそう考えていた。

 

『昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の仇。昨今の宮廷はまさしくそのような有様と言うのに何故自分たちだけは特別だと考えていたのだろうな?』

 

 後に司法尚書ルーゲ侯爵は交友のあるリヒターに対して肩を竦めながらそう語ったと聞く。……そう語ったルーゲ侯爵も後に「友人」リヒターらに主導された開明派によって地位を追われることになるのだから皮肉な話だ。

 

 宇宙歴七六七年一二月六日。リヒャルト大公と国務尚書アンドレアス公爵が仲裁に乗り出したことを受け、社会秩序維持局はバルトバッフェル子爵とインゴルシュタット中将の検挙を断念する。一応『平民階級とは何か』の出版に二年の期限を定めることに成功するが、量的制限が無い以上は大して意味が無いだろう。その期限が来るまでに帝国領内に大量の危険文書がいきわたる筈だ。社会秩序維持局の役人たちはその未来を思い一様に暗い表情になったという。

 

「まさか。遠征前にはまだ帝都じゃ流通していなかっただろう?……クルトの奴がヴィンツェルに無理を言って取り寄せさせたらしい。明らかな職権濫用だし、こんな代物を取り寄せさせるなんてブレンターノ法務部長に伝えたら大問題になるだろうな。……それとも見て見ぬふりをするのかな?法務部長も君たちと仲が良さそうじゃないか」

 

 ラルフはくつくつと笑っている。私は思わず頭を抱えた。クルトは馬鹿なのだろうか?あの本狂いは結局死ぬまで治らないのだろうな。……『平民階級とは何か』にクルトが飛びつかない訳が無いとは思っていたが、まさか後方部長のヴィンツェルに頼んで戦地まで届けさせるとは、あの時ばかりは流石に呆れ果てた。

 

「……あのバカ……」

 

 私はラルフから本を預かる。私も気にはなっていたが……流石に非合法なルートで戦地に取り寄せようとは思わない。クルトが機関ではなく後方部長のヴィンツェルを頼ったのも私が反対すると分かっていたからだろう。

 

「……これは独り言だけどね。こんな代物をばら撒いて君たちは何処を目指してるんだ?」

 

 ラルフは真剣な表情で尋ねるが、そんなことを聞かれても答えられる訳が無い。帝都の状況を詳細に把握している訳じゃないが、両大公による帝位継承権争いも開明派を軸とする騒乱も機関のコントロール下に置かれているとは到底思えない。間違いなくこの状況は特定の勢力の意図によって作られたモノではない。

 

「……とりあえずは来月のドラゴニア星系強襲を成功させたいね。後の事は分からないよ」

 

 私は手元の『平民階級とは何か』に目線を落とす。このような過激な文章が合法的に流通しているのだから、この国は専制国家として末期に入ってきているのかもしれない。あるいは、リヒャルト大公やクレメンツ大公は即位したとしても後世からロクな呼ばれ方をしないだろう……。私はそんなことを考えていた。

 




注釈18
 ヨハン・コナーの『平民階級とは何か』とはフランス革命に多大な影響を与えたエマニュエル=ジョセフ・シエイエスの『第三階級とは何か』を意識した……というよりも明らかにその内容を模倣して書かれた本である。特にその出だしは完全に『第三階級とは何か』と同じであり、内容に関しても国民主権という概念や代議員制に深く踏み込んだ内容になっている。

 なお、ヨハン・コナーなる名前は偽名であり、本来の著者は恐らく帝国大学歴史学部名誉教授ブルーノ・フォン・ヴェストパーレ男爵であると推測される。この推測が正しければ偽名のヨハン・コナーは北方連合国家陸軍少将ジョン・パトリック・コナーから取られていると思われる。

 ジョン・パトリック・コナーの人生は地球時代を題材としたドラマなどで何度も描かれているが、それによると一三日戦争の到来を予測し、その回避に尽力した人物とされている。また、一三日戦争後には北米大陸各地の残存陸軍部隊を集めレジスタンスを結成、自由を取り戻すべく暴走した無人兵器群の殲滅に尽力し、多くの人々を守ったという。その名声は高く、救世主とさえ呼ばれていたそうだが、ロサンゼルスの戦いで戦死、または暗殺されたらしい。

 ただし、実際にジョン・パトリック・コナーに関して残る資料は極めて少なく、北方連合国家の軍部良識派に属し、一三日戦争後にカリフォルニア地域の軍閥のトップであったことしか判明していない。その他の「レジスタンス結成」「無人兵器群との戦い」「救世主と呼ばれた」「ロサンゼルスで暗殺」等のエピソードを証明する歴史的資料は現存しない。しかしながら、架空の話としてはあまりにも様々な時代、様々な媒体で「英雄ジョン・コナー」のエピソードが語られているために、数度の戦乱の中でこれらを裏付ける資料が散逸したと思われる。

 なお、私が生前にアルベルト・フォン・ライヘンバッハ伯爵に対してこの話をした際には引き攣った笑みを浮かべながら「……まあ、一三日戦争は私の守備範囲外だから良いよ」と語っていた。

注釈19
『平民階級とは何か』を巡る一連の社会秩序維持局と開明派の対立を振り返った元社会秩序維持局職員の手記が手元に存在するので内容を一部ここに引用したい。

『……当時の開明派の勢力はまだ社会秩序維持局にとって対処可能な範囲内だった。しかしながら、開明派は平民の心を掴むことで間接的に当時の政治権力者の二五%以上を味方につけていた。社会の安定か派閥の勝利を優先する二五%強の権力者にとっては社会秩序維持局こそが騒乱の原因であったと言える……(中略)……二人の大公の勢力が拮抗している状況下において、二五%というのはキャスティングボードを握るに足る数字であった。我々の失敗の原因は自分たちが常に多数派に属していると錯覚していたことである。あの時、あの瞬間において我々は一派閥の少数派に過ぎず、大して開明派は多数派内の多数派となり得ていたのだ……』

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