アルベルト・フォン・ライヘンバッハ自叙伝   作:富川

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青年期・『真実(でっちあげ)』の創作(宇宙歴760年12月31日)

「……大尉。貴官は自分が何をしているかを分かっているのかね?」

 

 駐留大隊司令部に入った私を見て、アドラー中佐は開口一番そう言った。彼の後ろには銃を携帯した総督府防衛大隊第二中隊の兵士が立ち、その近くには目を閉じ、腕を組んで壁に背中を預けたメルカッツ少佐が居た。

 

 処刑場での放送と同時に、メルカッツ少佐率いる一個分隊が駐留大隊司令部に突入し、これを制圧した。メルカッツ少佐の協力を得るのは中々大変であったが、彼はほぼ軟禁されているロンペル少尉の側に居た為に領都の騒乱――あるいは狂奔――をその目で見ておらず、一方で監獄で行われた虐殺に心を痛めていた。最終的にメルカッツ少佐は駐留艦隊司令部から監獄駐留大隊司令部に対し、処刑再開の命令書が届いたことで私たちの計画に協力することを決意した。

 

 ……率直に言って、いくら貴族的選民意識が薄いメルカッツ少佐とはいえ、実際にあの民衆の蛮行を目にしていたら、私たちに協力してくれたかどうか怪しい気もする。尤も、今となっては彼があの蛮行を目にしてどう反応するかは分からないが。

 

「何をしているか分かっていないのは中佐殿の方でしょう。小官は小官の任務を果たすために出来ることならば中佐殿の御協力を得たかった。しかし、中佐殿は証拠を見せろの一点張り、これでは小官は任務を達成できない!」

「当たり前だろうが!貴官が嘘をついている可能性を考慮すれば……」

「ええ、その通りです。中佐殿の反応は正しい、正しいからこそ説得は諦めた!小官は任務を果たさないといけない。しかし、通常の手段では中佐殿の協力を得られない!ならば非常の手段に訴える!責任は無論小官が取りましょう」

 

 私はアドラー中佐の目を真っすぐ見つめてそう言った。アドラー中佐は私を睨みつけている。

 

「准尉!中佐殿を部屋へ連れていけ!丁重に扱えよ?彼は罪人ではなく同胞だ。……不幸にも叛乱軍に騙されている、な」

 

 私は中佐の側に立つ兵士に指示し、放送機器に近づく。

 

『監獄の兵士諸君よ!私の名はアルベルト・フォン・ライヘンバッハ宇宙軍大尉!……分かるな!?ライヘンバッハ宇宙軍大尉だ!』

 

 私は家名を強調する。末端の兵士でも今の宇宙艦隊副司令長官を務めている貴族は知っている筈だ。……ライヘンバッハの名は何と便利だろうか。私個人としてはこの名に助けられることが、まるで帝国の身分制度に助けられているようで極めて不本意ではあるが、使える物を使わないのは馬鹿のすることだ。

 

『ルーカス・フォン・アドラー中佐は叛乱軍に掌握された駐留艦隊司令部の命令に従い、エルザス・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン辺境軍管区司令グリュックスブルク中将より全権を委任された小官の命令を拒絶した』

 

 兵士たちは無学だ。彼らは法的根拠や指揮系統はほとんど気にせずに、『偉そうな奴』、『力を持ってそうな奴』に従う。士官の一部がどう動くは分からないが、アドラー中佐程気骨のある士官はそうそう居ない。

 

『よって現時刻を以ってアドラー中佐、並びに叛乱軍に欺瞞されている監獄駐留大隊司令部の指揮権を停止。監獄内の全将兵を総督府防衛大隊第二中隊長ヘンリク・フォン・オークレール少佐の指揮下に組み込む。以上、エルザス・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン辺境辺境軍管区司令カルステン・フォン・グリュックスブルク中将の密命を受けた総督府特別監査室長アルベルト・フォン・ライヘンバッハ宇宙軍大尉が命じる、監獄の将兵諸君は速やかに従うように』

 

 私は再三に渡って、自分の家名、地位、正当性などを強調する。強引にでも無理を通さなければ道理の通った事は何もできないのだ。

 

 同時に、監獄の各部署に第二中隊の兵士を派遣し、私の命令に服するか、背くかを確認させる。二〇分ほど経過した後、全ての部署からオークレール少佐を監獄の責任者として認める旨の返答があった。

 

「嘆かわしいな……。兵士はまあ良い。士官はこれがクーデターだと分からない訳でも無いだろうに」

 

 メルカッツ少佐は首を降りながらそう言った。私は反応に困り、聞かなかったことにした。

 

「……ヘンリク、作戦通り監獄は掌握した。ミシャロン氏たちを解放する。外の様子はどうだ?」

「相変わらずちょっかいを出しては来てますが、どこか様子を見ている雰囲気ですな。御曹司の演説を見たからでしょう」

 

 私はヘンリクに司令部を任せて、正門へと向かう。その途中、処刑場にとどまっていたミシャロン氏、ロシェ氏と合流した。

 

「上手く行ったようだな。言っただろう?帝国が強大だと言っても、辺境の司令部などこんなものだ。特に第二次ティアマト以降は質の劣化が酷い。領都警衛隊の司令官は少々厄介だったが、な」

 

 監獄の建物を出たところでミシャロン氏が平然とした調子で語り掛けてきた。ロシェ氏は「生きて出られるとは信じられん」と小声で呟いた。

 

「まだ分かりませんよ。……群衆は何をするか分からない。お二人の言葉も小官の言葉も通じなければ、その時は全員死にます。……平民も貴族も自治領民も、死は平等に訪れる。なんと無意味な区別でしょうか」

 

 私はつい、二人にそう呟いた。ミシャロン氏は肩を竦め応じ、ロシェ氏は目を丸くして「これまた信じられん」と呟いた。

 

「大尉殿!これをどうぞ」

「有難う兵長、後ろの二人にも渡してやってくれ」

 

 顔見知りの兵長が私に拡声器を渡した。私に言われて二人に対しても拡声器を差し出す。

 

「頼んだぞ!貴様らに我らの命が掛かっているのだ。馬鹿な民衆共に真実を教えてやってくれ!」

 

 兵長が笑顔でそう言った。ミシャロン氏は微笑して礼を言って拡声器を受け取り、ロシェ氏は不快感を何とか押し込めたぎこちない笑いを浮かべながら無言で拡声器を受け取った。

 

 ……同胞を大量に虐殺された直後の二人に掛けるには無神経な言葉ではあるが、それでもこの兵長の態度はかなり『マシ』な部類と言える。その理由は彼が私の語った『叛乱軍の陰謀』説を信じているからだ。『自分も自治領民も叛乱軍に騙されている』という共通の被害者意識が彼の好意――帝国基準では――の源だ。

 

「民衆は派手に暴れたらしいな。彼らが私たちを殺意の籠った目線で見ているのも分かる」

 

 城壁の上に上ったミシャロン氏は近くの帝国兵を一瞥した後、淡々とそう言った。

 

「『おお、自由よ!汝の名の下に如何に多くの罪が犯されたことであろうか!』」

 

 ロシェ氏は城壁の外を見て顔をしかめると芝居がかった調子でそう言った。

 

「その言葉は……?」

「ああ、いや。私の民族に伝わる警句のような物だよ……」

「ふむ……確か……ロラン夫人の言葉でしたか」

 

 私はロシェ氏にそう言ったが、ロシェ氏はきょとんとしている。

 

「そうか、これはロラン夫人の言葉なのか。それは知らなんだ」

「ロシェ議長、アルベルト。そんなことを話している場合でも無いでしょう」

 

 ミシャロン氏が苦言を呈する。……その通りだ。我々は民衆との話し合いの為にここに来たのだ。

 

「では……行きますか」

 

 私たちはリフトを使って門を開かないまま外にでる。民衆たちは私たちの存在に気づいているようで、発砲音が消えた。

 

『私はアルベルト・フォン・ライヘンバッハ宇宙軍大尉!約束通り囚人の解放を行いたい!君たちの同胞であるミシャロン氏とロシェ氏を連れてきた!自治領民たちよ!私の話を聞いてくれ!』

 

 私は声の限り叫ぶ。惨憺たる有様の跳ね橋を渡りながら私は少しずつ群衆たちに近づいていく。

 

「!大尉、危ない!」

 

 ミシャロン氏の声で咄嗟に伏せる。私の頭上で風を切る音がし、すぐに発砲音が響いた。

 

「クソ!」

 

 ミシャロン氏が射線を塞ぐように立ち、少し遅れてモタモタとロシェ氏がそれに倣った。私はとてつもない恐怖を感じた。撃たれたことにではない、私が死ねば監獄と民衆は再び血で血を洗うような戦いを再開する。それは恐らく惑星……いや、リューベック自治領(ラント)全体へと広がっていくはずだ。

 

『撃つな!私は無事だ!』

 

 私はすぐに叫ぶ、監獄側にだ。その声が後数秒遅れていれば、監獄側は『反撃』に出ていただろう。

 

「アルベルト、私を盾にしろ」

「いや、それはダメです!」

 

 私はそれだけ叫ぶと、再びミシャロン氏の前に出て歩き出す。その瞬間、脇腹に熱を感じた。

 

「ぐぅ……『撃つな!銃撃は外れた!』」

「アルベルト!」

『……止めろ!我々の同胞を殺したいのか!?彼が死ねば同胞も死ぬぞ!』

 

 片膝をついた私をミシャロン氏が支え、ロシェ氏が群衆に向けて叫ぶ。そのロシェ氏の拡声器が新たな発砲音と共に吹っ飛んだ。

 

「な……」

 

 ロシェ氏は自分に向けて発砲があったことに絶句する。それが私を狙った結果たまたまロシェ氏の方向へ銃弾が飛んでいったのか、ロシェ氏を狙っての物かは分からなかった。

 

「……大尉!議長!あそこへ!」

 

 ミシャロン氏が指差した方向にはスクラップになった装甲車がある。私たちはそこへ駆け込んだ。

 

「……彼らは何を考えている!?何故私を撃つんだ!?」

「落ち着いて!……最初に言った通り、私の同志には予め大尉と共にそちらへ向かうことは伝えてあります。彼らがすぐに対処してくれるはずです」

「その彼らが君の指示に従っている保証はあるのか!?私たちを裏切り者と考えていたらどうする!?」

 

 ロシェ氏はすっかり動転している。彼らが話している間も、私は監獄と群衆に叫び続けていた。

 

「……いや、その可能性は低いです。もしそうならば群衆は率先して私たちを殺そうとするはずだ。全ての群衆が私たちに殺到し、今頃私たちはボロ雑巾のようになっているに違いありません。……発砲音は僅かです。同志達の指示を無視して、はねっ返りの馬鹿が撃っているだけだと思われます。尤も、それがきっかけで再度監獄との間で戦闘が始まれば……」

 

 ミシャロン氏の表情は険しい。だが、やがて群衆側の発砲音が途絶えた。それでも私たちは装甲車の陰に隠れていたが、やがて群衆の側から拡声器による呼びかけが行われた。

 

『アルベルト・フォン・ライヘンバッハ宇宙軍大尉、革命臨時政府クリステンセン大隊司令部は貴官の訪問を歓迎したい。監獄側より我々の同胞へ不当な危害が加えられることが無い限り、貴官の身の安全は保障しよう』

 

 私はゆっくりと立ち上がり、装甲車の陰から出ようとしたところで脇腹に激痛が走り、倒れそうになる。脇腹……というより足の付け根と言った方が良いだろうか、その辺りから出血していた。私はミシャロン氏に肩を貸してもらい、痛みに耐えながらゆっくりと群衆の側へ向かう。

 

 やがて、群衆の側もきまりが悪くなったのだろうか、一台のジープがこちらへ走ってきた。……人間は誰でも状況次第でとことん残虐になることが出来る。だが、常に残虐であり続けることが出来る人間は極一握りだ。同じような例は他にもあった。

 

 一例を挙げよう。重傷を負い、側溝で動けなくなった憲兵少尉は寒さと痛みに耐えながら、その場で二日間を過ごした。幸運――あるいは不運――にも二日間彼は自治領民に発見されなかった。三日目に自治領民に見つかったとき彼は死を覚悟した。彼は迫りくる死に対して「やっと楽になれる……」と感じる程度に衰弱していたが、これから恐らく彼らの復讐心によって激しい拷問を受けるのであろうと考えると、朦朧とする意識の中で激しい恐怖が蘇った。しかし、憲兵少尉の予想は外れ、自治領民は彼を町医者に運び込み、そこに放置した。やがて不機嫌そうな医者がぶつぶつと帝国に対する不満を漏らし、時にわざと憲兵少尉を苦しませながらも、憲兵少尉の傷に対して適切な処置を施していった。……そして彼は領都憲兵隊の数少ない生還者となった。

 

 ……話を戻そう。ジープによって私も憲兵少尉と同じように医者へと担ぎ込まれた。脇腹の傷は幸い浅かった。そこで私は最低限の処置を受けると、そのままクリステンセン大隊司令部へと向かった。

 

「おお……!ミシャロンさん。よくご無事で……!」

 

 大隊長らしき青年がミシャロン氏を出迎えた。その周りには自治領警備隊の制服を着た男女が集まっている。階級章は外されているために分からないが、全体的に若い。自治領警備隊の士官クラスは各地の監獄に収監されている。恐らく何とか弾圧を逃れた士官だけでは足りず、下士官クラスを司令部要員として動員しているのだろう。

 

「彼のおかげでな。彼はノーベルと違い最後まで私たちと共に闘ってくれるようだ。……思う所はあるだろう。だが協力しろ。それがリューベックが生き残る唯一の道だ」

 

 ミシャロン氏は鋭い眼光で司令部を見渡した。司令部には私を激しく憎悪する目線がいくつもあったが、ミシャロン氏の眼光はそれらの目線を圧倒する。

 

「……我々があなたの命令に背く訳が無いでしょう。ライヘンバッハ大尉。貴官にはすまないことをしたな。だが、帝国が我々に与えた苦しみは……」

 

 そこまで言って大隊長らしき青年は激しくかぶりを振った。

 

「止めよう。そんなことを貴官に言っても仕方がないし、貴官が撃たれた原因は帝国の暴政だが、帝国の暴政の原因が貴官という訳でもあるまい」

 

 その言葉は自分と、他の司令部要員に言い聞かせるような響きを持っていた。

 

「私はマイルズ・ラングストン。革命臨時政府軍大佐だ。クリステンセン大隊とクラークライン監獄包囲部隊の総司令官を務めている」

「アルベルト・フォン・ライヘンバッハ宇宙軍大尉です。……小官の力が及ばず、このような事態になってしまったことをまずは謝罪させてください」

 

 私は深く頭を下げる。

 

「……ライヘンバッハか。えらく大物だな。謝罪は良い。それよりこれからどうするつもりか聞かせてくれ」

 

 私はミシャロン氏の方を見るが、彼は何も言わない。私の口から説明させる気だろう。……ちなみにロシェ氏は革命臨時政府が臨時庁舎としている旧・総督府の方へ向かった。

 

 私はラングストン大佐に説明を始める。……ミシャロン氏は機関が裏切ることも想定していくつもの策を立てていたようだ。私は今でもどこまでがミシャロン氏の立てた計画通りだったのか判断がつかない。少なくとも、彼が捕まったことは計画通りでは無いはずだが……。結果論から言うと、私と連携を取ることが出来たのは監獄に収監されたからだ。「そこまで読んでわざと」というのは流石に無いだろう。私がどう動くかはいくら彼でも予想出来ないはずだ。私が間に合わず、彼が処刑されていた可能性もある。

 

 まあ……彼が何を考えていたのかは今でも興味が尽きないが、今は彼の作戦について説明しよう。彼の作戦を一言で言い表せば『既成事実の積み上げ』である。

 

 私たちは一つの『真実(でっちあげ)』を用意した。それは自治領民への放送でも語った通り、「帝国辺境部を混乱させることを狙い、自由惑星同盟がノーベル大佐の差別感情を煽って虐殺を起こした」という物語である。この物語は三つの大きな事実を下敷きにして構成されている。すなわち、「リューベックが著しい混乱状態にある」事、「自由惑星同盟がリューベックを前線基地とするべく活動している」事、「ノーベル大佐が虐殺を起こした」事だ。どれも歴然とした事実であり、唯一「自由惑星同盟がリューベックを前線基地とするべく活動している」事だけはまだ知られていないが、同盟軍第三艦隊がリューベックに襲来すれば自ずと大衆に承認された事実となる。

 

 そしてこの三つの大事実を補強する形でいくつもの事実を取捨選択して組み合わせた。「コルネリアス一世帝の大親征の際に自由惑星同盟がリューベックを見捨てた」事、「リューベックの混乱が間違いなく帝国辺境部の混乱へと波及する」事、「大抵の帝国軍人が自治領民に対する蔑視感情を持っている」事……。まあ他にも色々と私たちの『真実(でっちあげ)』を補強するような事実はある。

 

 私たちの究極的な目標は、この『真実(てっちあげ)』を帝国にも自治領民にも「事実である」と思わせることだ。……可能ならばそれをリューベックの独立に繋げる形で。

 

 当然、このような『真実(でっちあげ)』をされれば同盟側は怒るだろうが……。正直この情勢下で同盟側がどう思うかはそれほど重視していない。とはいえ、流石に第三艦隊に被害が出れば間違いなく機関・リューベックと同盟の関係が拗れるので、それに関しては引き続き回避する為に努力する必要がある。

 

「……という訳です」

 

 私は説明を終える。司令部の人々は呆気にとられた様子だ。

 

「……計画の趣旨は分かった。だがな、それがどう独立に繋がるんだ?というか、そんなことが可能なのか?」

「最初に『既成事実の積み上げ』と言ったでしょう。この『真実(でっちあげ)』は同盟を共通の敵として帝国とリューベックが共闘することを可能にします。その過程で、独立の『既成事実』を積み上げます」

 

 ラングストン大佐は懐疑的な表情だ。司令部要員も困惑と疑いを表情に滲ませている。

 

「……マイルズ、一つ聞かせてくれ。マックス・フェルバッハ総督は生きているな?」

 

 ミシャロン氏が唐突に確認する。ラングストン大佐は一瞬言葉に詰まり、答えた。

 

「……革命臨時政府はフェルバッハ総督を最優先確保目標の一人と設定していますが、今の所、フェルバッハ総督を確保、ないし殺害したという情報はありません。……我々の欺瞞情報を除けば、ですが」

「……だ、そうだ。アルベルト。計画成功の可能性がまた一つ高くなったな」

 

 ミシャロン氏は私の方を向いてそう言った。私は頷いて、そしてラングストン大佐に語りかける。

 

「私たちが一番恐れていたのは、フェルバッハ総督が既に死んでいることです。彼が死んでいれば計画は恐らく破綻する。だが、状況から考えて彼が死んでいるとは考えにくい。だから私はミシャロン氏の計画に協力することを決めました」

 

 私は一度言葉を切り、溜を作る。……別にここで変な演出をする必要も無かったが。

 

 

 

 

 

「私たちがこの状況を引っ繰り返すべく考え出した一手。それは惑星リューベックのどこかに居る、マックス・フェルバッハ総督の『奪還』です」

 

 ……『リューベック奪還革命』の大きな転換点が、クラークライン監獄の開城であることは多くの歴史学者諸君の共通した見解であることは疑いようもない。だが、それを成し遂げたアルベール・ミシャロンという男を諸君は過小評価しすぎているように私には思えてならない。

 


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