アルベルト・フォン・ライヘンバッハ自叙伝   作:富川

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青年期・茶会の終焉と奪われた聖夜(宇宙歴760年12月23日~宇宙歴760年12月27日)

 宇宙歴七六〇年一二月二三日、マックス・フェルバッハ総督が突如として暗殺されかけ、私はその下手人として何故か駐留艦隊司令部に拘束された。その後私は独房に放り込まれ、二日間を過ごすことになる。その間外で何が起こっていたのか、私は何一つ分からない状況に置かれた。

 

 宇宙歴七六〇年一二月二五日夜、私の下を再びロンペル少尉が訪れた。ロンペルは私を立たせると、そのまま司令室へと私を連れて行った。

 

「ご苦労じゃったロンぺル少尉。少し外してくれるかのう?」

「は!」

 

 部屋の中では当然ではあるがノーベル大佐が私を待っていた。相変わらず穏やかな表情だが、この人が一体何を考えているのか、私は確かめなければならなかった。

 

「……司令、これはどういうことです?何故フェルバッハ総督が襲われ、私がその犯人として拘束されているのですか?」

「ふむ、それは卿の心に聞いてみてはどうかな?」

 

 ノーベル大佐は表情を変えずにそう答えた。そう言われても私には分からない。そのまま黙ってノーベル大佐を睨んでいると、ノーベル大佐はため息を一つついて口を開いた。

 

「分からんか。言ったはずじゃ……儂が機関に命を賭けたのはコーゼル閣下の為だと」

「……確かにそう聞きましたが、それがどうしたというのですか」

 

 私はそう聞き返したが、「コーゼル閣下」という言葉を聞いた瞬間、かつてこの場所で考えた、最悪の可能性を思い出した。……目の前の老人にコーゼル提督に関して私の知ることを全て話せばどうなるか。

 

「本当に分からんのか。ということは卿は本当に第二次ティアマト会戦で何が起こったのか知らないらしいのう……。良かろう、儂が教えてやる」

 

 そういうとノーベル大佐は話し始めた。それは機関が第二次ティアマト会戦に際し、立案した『マルドゥク作戦』に関する話だ。その内容は大方今までにこの本に書いてある通りである。機関は障害となるツィーテンたちを第二次ティアマト会戦を利用して葬ったという話だ。ただ、ノーベル大佐が語る話は、シュタイエルマルク提督や父から聞いた話と二点違っていた。

 

 一点目は機関にとっても第二次ティアマト会戦の大敗が想定外であった、ということが語られなかった。徹頭徹尾、『マルドゥク作戦』は成功したとノーベル大佐は思い込んでいるらしい。そして二点目は……ヴァルター・コーゼル提督が実際に暗殺されたと彼は思い込んでいた。しかし、私の聞いた話では結局、暗殺者が手を出すまでも無く、コーゼル提督は戦死したはずだ。

 

「……なるほど、司令の話は分かりました。つまり……司令は機関を裏切った、という理解で宜しいですね?」

「……裏切った!?違うな!裏切ったのは機関の方だ!しかも、コーゼル閣下を殺すと決めたのはシュタイエルマルクだと!?ふざけるな!コーゼル閣下はシュタイエルマルクをどれ程信頼していたと思っている!」

 

 ノーベル大佐は机に手を叩きつけて怒鳴った。

 

「儂はなぁ、大尉。機関とシュタイエルマルクに裏切りの報いをくれてやるつもりだ。だがな大尉、卿は第二次ティアマト会戦の時にはまだ機関に入っていなかった、そうだろう?だからチャンスをやる。機関を抜けろ。儂とて無駄に若い命を散らしたいとは思わん。それに卿の父上には機関を潰す手助けをお願いしたいからな……」

 

 ノーベル大佐は私に向けてそう言った。私は当然、彼の忠告に従うつもりは無かった。しかし、ここでいたずらに抵抗しても無意味だ。一刻も早くここを抜け出して、同志たちにノーベル大佐の裏切り――本人の主観では復讐――を知らせなければならない。

 

「……司令の話が本当だとするならば、確かに小官としても見逃しがたい話です。しかし、それが本当だという証拠がどこにあるのですか?失礼ながら、司令の作り話かもしれませんし、あるいは司令が騙され……」

「これを見るんじゃ」

 

 ノーベル大佐は私の言葉を遮り、紙の束を放り投げてきた。私はそれに目を通して顔色を変える。それはジークマイスター機関の『マルドゥク作戦』に関する機密書類だった。

 

「そんな……馬鹿な」

 

 私は思わず呟く。ノーベル大佐は私の驚きを内容に対する物と考えたらしい。

 

「本物であることは卿なら分かるじゃろう?儂がある筋から手に入れた動かぬ『証拠』じゃ」

「……」

 

 私は声が出なかった。これがここにあるということは機関の中に、内通者が居るということだ。単にノーベル大佐と内通しているだけだとは考えにくい。ノーベル大佐にこの書類を渡し、彼の復讐心を煽り立てた『誰か』が居るのだろう。

 

「少し……考えさせてください……」

 

 私はやっとのことでそう言った。ノーベル大佐は少し憐れむような表情で頷くと、ロンぺル少尉を呼んだ。

 

「大尉。あまり時間は残されていないぞ?賢い選択を期待している」

 

 ノーベル大佐は私に最後にそう言ってきた。ノーベル大佐はどこか必死さを感じる表情をしていた。

 

 

 宇宙歴七六〇年十二月二七日の朝、独房の外が急に騒がしくなった。暫くして扉が開くと、そこにはメルカッツ少佐が居た。

 

「大尉!大丈夫か。無事で良かったよ……」

「メルカッツ少佐……助けに来てくれたのですか?」

 

 私はメルカッツ少佐に尋ねた。メルカッツ少佐は良い人ではあるが、フェルバッハ総督暗殺未遂犯として捕まっている私を解放しにくることは期待していなかった。

 

「ああ、貴官の部下に色々と話を聞いてね……。私は貴官とアーベントロート中尉の側につく。ノーベル大佐をこのまま放っておけば大変なことになる……」

「大尉殿の身分証明書と拳銃です。奪還しておきましたぜ」

 

 見覚えのある大柄の兵士がそう言って鞄を差し出してきた。確か……コニーと言っただろうか。

 

「変装道具も入ってます。バレない内にさっさと逃げやしょう」

「あ、ああ。有難う。しかし逃げるとは……」

「閣下、そろそろバレそうです。急いでください!」

 

 廊下の先から声が聞こえた。それを聞いて私はとりあえず疑問を捨てて、鞄の中の道具をつけて変装する。

 

「よし、迎えが来る手筈になっている。ペーターたちが騒ぎを起こしている間に合流するぞ」

 

 メルカッツ少佐はそう言って走り出した。慌てて私もついていく。途中、何度かすれ違う兵士たちが居たが、明らかに怪しい私たちを見て見ぬふりだ。どうやらメルカッツ少佐は兵士たちにも手を回しているらしい。流石は人望厚いメルカッツ少佐だ。私たちは裏手の資材搬入口に出た。

 

「コニー、後何秒だ?」

「一一秒です。カウントします。九、八、七……」

 

 コニーが「ゼロ」と言うのと、猛スピードで走ってきた軍用車が私たちの前で止まるのは同時だった。メルカッツ少佐は口笛を吹き、「良い腕だ」と称賛した。私たちが車に乗り込むと、車は猛スピードで走りだした。

 

「御曹司!無事で良かった……心配しましたぜ」

「ヘンリク!助かった。メルカッツ少佐もコニーも有難う」

 

 私は彼らに頭を下げて礼を言った。コニーは少し戸惑った様子だ。私が頭を下げるとは思っていなかったのだろう。

 

「ヘンリク、メルカッツ少佐でも良いです。今はどういう状況なんですか?」

 

 私の質問に彼らが代わる代わる答えたところによると、総督府を掌握した次の日、ノーベル大佐は「フェルバッハ総督暗殺未遂に関係している可能性が高い」として自治領府のアデナウアー総書記を初めとするベルディエ在住の独立派の要人たちを全員逮捕、内一二名を即決裁判で銃殺刑にしたらしい。さらに「叛乱の恐れあり」として自治領警備隊司令部を制圧。それから独立派の拠点となっていた複数の場所を強襲し、そこに居たアルベール・ミシャロンを初めとする過激な独立派の中核メンバーを悉く射殺、もしくは拘束したという。

 

 さらに自治領府及び分治府の一時権限停止、立法府・警察府の廃止、夜間外出禁止、報道統制、駐留帝国軍全将兵に対する逮捕権付与などを矢継ぎ早に発表した。この事態に地方分治府は当然反発したが、即座にノーベル大佐は駐留艦隊を派遣して威圧、駐留地上軍が分治府を取り囲み、反帝国的な分治府幹部が次々と逮捕された。

 

「馬鹿な……」

 

 私は愕然とした。この話が本当ならばリューベック独立派の中核が残らず弾圧されたということになる。しかもメルカッツ少佐によると、駐留艦隊司令部はまるでどこに独立派の拠点があり、誰が指導者であるのか残らず把握しているかの如く、極めて効果的に『頭』を叩いたらしい。……当然だ。ノーベル大佐は私を通じてリューベック独立派の活動を正確に把握していた。帝国総督府や憲兵隊が把握していないような拠点、人物にも残らず対処できたのだろう。

 

「現在、リューベック独立派は中核が壊滅状態ですが、だからこそ質が悪い」

 

 ヘンリクは表情を歪ませながらそう言った。

 

「……指導者を失ったリューベックの自治領民たちの間で不満が広がっています。従来彼らの不満を束ね、指導していた者たちが残らず収監されているために今でこそ大規模な暴動は起きていませんが……きっかけがあれば一気に燃え広がるはずです」

「アーベントロート中尉はこの事態を避けるために中央から送り込まれたそうだ」

 

 ヘンリクの説明に続いて、メルカッツ少佐が語る。

 

「アーベントロート中尉が?」

「ああ、ノーベル大佐が不穏な動きをしていることに気づいたグリュックスブルク中将の命令で、ノーベル大佐の内偵を行っていた。……アーベントロート中尉はどうやら大尉の事も疑っていたらしい。後悔していたよ……自分が大尉殿に相談していればノーベル大佐の計画を防げたかもしれないとな」

 

 それを聞いて私は複雑な気持ちになった。どうやらアーベントロート中尉は機関の動きに勘付いて活動していたようだが、ノーベル大佐が機関を裏切ったことで、結果的に機関に忠誠を誓う私を無実だと誤認したのだろう。

 

「……ノーベル大佐の計画とは何です?」

「分からん、ただこのリューベックで騒乱を起こし、何かやるつもりではないかとアーベントロート中尉は予想していた。何か大きな計画の一部ではないかと。例えば最近不安定な帝国と各辺境自治府の関係をさらに悪化させる為の一手ではないか、とな」

「……なるほど」

 

 私はアーベントロート中尉が『茶会(テー・パルティー)』計画の全容にまでは辿り着いていないことが分かり、一安心した。しかし、この状況は極めて不味い。

 

「御曹司、『上』には報告しておきました。向こうでも対応するそうですが、とりあえず混乱を避けるようにとの御命令です」

「混乱を避ける、ね。簡単に言ってくれるよ……」

 

 既に同盟宇宙軍第三艦隊がリューベックに向かっている筈だ。第三艦隊が到着したタイミングで、リューベックが帝国の支配下にあれば……第三艦隊は最悪壊滅するかもしれない。機関の遅滞工作にも限界がある。リューベック全域で帝国軍が抵抗する状態で辺境艦隊に退路を断たれれば、第三艦隊は袋のネズミだ。

 

「……御曹司、とにかく今はアーベントロート中尉に合流すべきです。総督府防衛大隊は概ね我々が掌握しています」

「……分かった。そうしよう」

 

 私たちはベルディエにある総督府防衛大隊の駐屯地へ向かった。

 

 

 

「アルベルト!無事で良かった!」

 

 車を降りるなり、私はランズベルク教育局長の熱烈な歓迎を受けた。後で聞いた話によると、アーベントロート中尉が各方面に根回しし、私を救出しようとしている間、ランズベルクは総督府でアーベントロートの不在を誤魔化していたらしい。

 

「大尉殿!申し訳ありません。自分が手をこまねいている内にノーベル大佐の暴挙を許してしまい……」

「いや、別に構わないよ。それよりも……これからどうする?」

 

 私は本心からそう言った。状況は極めて厳しいといって良い。ところが、私はこの状況をどうにかする手立てが一つも思いつかなかった。

 

「……とりあえずはエルザス・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン辺境軍管区司令部にこの状況を報告しましょう。後は上位司令部に任せるしかありません」

「そうか……」

 

 上位司令部に報告したとして少なくとも機関にとってこの状況が好転することは無い。アーベントロート中尉はそもそも機関と対立する側の人物だ。ここで私が彼と共闘する立場にあるのは偶然の産物だろう。

 

「御曹司、長時間の拘束でお疲れでしょう。どうぞこちらへ……」

 

 ヘンリクがそう言って私を連れ出そうとする。私はそれに応じた。この状況で頼りになるのはヘンリクだけだ。アーベントロート中尉もメルカッツ少佐も機関の協力者では無い。まして、ランズベルク教育局長は論外だろう。

 

「ヘンリク……この状況は極めて不味い、どうすれば良いんだ?」

「落ち着いてください御曹司。こういう時はもう一度目的とその為に必要な物を振り返りましょう。『茶会(テー・パルティー)』計画の目的はリューベックを自由惑星同盟軍の前線基地とすること。そしてその為に必要な条件は三点です」

 

 ヘンリクは落ち着いた表情で言う。

 

「一点目、『リューベック独立派の健在』。二点目、『リューベック駐留帝国軍の無効化』。三点目、『自由惑星同盟軍のリューベック進駐』」

「その通りです、さて考えてみましょう。現在我々は一点目と二点目が達成できていません。一点目に至ってはほぼ達成不能の状態です。三点目の『自由惑星同盟軍のリューベック進駐』はこのままなら達成できるでしょう。それで『茶会(テー・パルティー)』計画は達成できるでしょうか?」

 

 ヘンリクは私に尋ねる。私は即答した。

 

「無理だ」

「その通りです。無理です」

 

 ヘンリクはそう言ったきり黙った。私は続きの言葉を待った。しかし、ヘンリクは何も言わない。

 

「まさか……ヘンリク、君は……」

「……『茶会(テー・パルティー)』計画は失敗です。我々が為すべきは敗戦処理、とお考え下さい」

 

 ヘンリクは淡々とそう言って、私は天を仰いだ。

 

「なんてことだ……私が不甲斐ないばかりに……ノーベル大佐の裏切りに気づいていれば……」

「御曹司、落ち込んでいる暇はありませんよ。計画が失敗した今、我々は機関に少しでもダメージを与えないようにここから撤退する必要があります」

 

 ヘンリクは私をそう言って諭した。ヘンリクの言う通りだ、ノーベル大佐は機関とシュタイエルマルク提督への復讐を目指している。そして私にはフェルバッハ総督暗殺未遂の容疑が掛かっている。これを何とかしなければ不味い。

 

「御曹司、ノーベル大佐とは会いましたか?会ったのであれば、その時の話をお聞かせください」

「ああ、分かった……」

 

 私はヘンリクにノーベル大佐との会話を伝えた。ヘンリクは考え込み、やがて言った。

 

「……なるほど。どうやら何とかなりそうです」

 

 ヘンリクは笑みを見せつつそう言った。

 

「御曹司。何故、御曹司は拘束されたまま放置されていた上に、ノーベル大佐から『改心のチャンス』を与えられたと思います?リューベック独立派の一部は既に処刑されているという噂も流れています。実際、捕まった時点で本当にフェルバッハ総督暗殺を目論んでいた不運な連中が銃殺刑に処されているのは私自身がこの目で確認しました」

 

 私はヘンリクの指摘を受けて考える。言われてみれば……私を生かしておく必要はあるだろうか?こうして逃げ出すことは流石に予想できないにせよ、さっさと殺してしまわない理由という物も特に見当たらない。ノーベル大佐自身が言っていた通り、私に慈悲をかけたのか?父の助力を期待したのだろうか?……私はそう思った。

 

「父の存在じゃないか?」

「御曹司……御曹司がノーベル大佐の立場だとして、この状況でカール・ハインリヒ様が機関のメンバー『ではない』なんて考えますか?あの方はシュタイエルマルク提督の艦隊の副司令官を務めていたのですよ?」

 

 ヘンリクは少し呆れたように言った。私は若干イラっと来たが、言っていることはその通りである。

 

「それなら……慈悲をかけたのか?」

「御曹司、こういう分野で戦う時は敵の善意なんざ期待しちゃいけません。悪意を想定しないとすぐに死にますよ。……良いですか?奴さんは機関とシュタイエルマルク提督に復讐したい、しかし具体的にそんなことが出来ると思いますか?辺境の中のド辺境に居る平民の一大佐が、軍務省次官と強大な秘密組織を相手取って復讐をする、土台、無理な話ですな」

 

 ヘンリクは肩を竦めてみせる。

 

「知っての通り、機関のメンバーを全て把握している人間は一人も居ません。シュタイエルマルク提督ですら、ミヒャールゼンライン出身者は完全に把握している訳じゃない。当然、末端のノーベル大佐が機関に関して知る情報などほんの僅かな物です。……だから御曹司に改心を迫ったんですよ。御曹司はノーベル大佐にとっての唯一の手掛かりですからね」

 

 私は思わず唸った。全く以ってヘンリクの言う通りだ。

 

「となると、ノーベル大佐を利用しようとした『誰か』の意図が見えてきます。その『誰か』は『マルドゥク作戦』に関する資料を入手する程の力を持ってはいるが、機関を壊滅させる力は無い、またはさせる気が無い、あるいは……させることが出来ない」

「そうか……大分見えてきた。つまりノーベル大佐はただ単にリューベックにおける機関の作戦を破綻させるのが目的であると同時に、それしかできない。ノーベル大佐を唆した『誰か』も少なくとも機関を壊滅に追い込もうとしている訳ではない。ということは、私たちがやるべきことは……ノーベル大佐を黙らせることか」

 

 私は落ち着きを取り戻した。こういっては何だが、先ほどまでは私の失敗が機関全体の壊滅に繋がるのではないかという恐怖にすら襲われていた。それが単純にノーベル大佐を黙らせるだけで良い、というのはかなり『マシ』な状況だと言えた。

 

「まあ、それだけでもありませんがね。こちらに向かっている第三艦隊へこの状況を知らせる必要がありますから、少なくともブロンセ・ゾルゲかその仲間には何とか接触する必要がある。もし捕まっているなら解放しないといけない。ついでに、フェルバッハ総督暗殺未遂の疑惑を晴らしつつ、このままアーベントロート中尉の信頼を得続ける必要があります」

「それなりに厄介だな……。だがまだ何とかなりそうだ。有難うヘンリク、落ち着いたよ」

 

 私はヘンリクに礼を言い、再びアーベントロート中尉らの下へ戻った。

 

 ……ここに書いた通り、私の初めての任務は失敗に終わった。だが、失敗は終わりを意味するものではない。私の闘いはまだ始まったばかりであったし、リューベックにおける闘いはここからが本番であった。

 

 リューベック独立派に対する大規模な弾圧が行われた宇宙歴七六〇年一二月二四日は後世、『奪われた聖夜』と呼ばれることになる。そして同年一二月二七日、領都ベルディエから二〇〇㎞程離れた都市ロブセンで弾圧から逃れた大柄の茶髪の青年が叫んだ。「我らはついに聖夜までもを奪われた。奪還せよ!我々の全てを!」と。その声は瞬く間にリューベック中に広がっていく。後世『リューベック奪還革命』と呼ばれる一連の騒動にはジークマイスター機関が深く関わっていたことを私はここに明記しておきたい。

 

 

 


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