剣鬼と黒猫   作:工場船

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第十五話:剣劇終わって

「終わっ、たの……?」

 

「……多分、おそらく」

 

 空中を漂う結界の泡に包まれながら、リアスは呟く。傍らの朱乃が答える声はしかし、どこか遠い場所に響いている。

 遠くには、堕天使コカビエルがその十枚の翼と四肢を斬り落とされ、腹を太刀に貫かれて地に伏している。長身の男がそれを見下ろし、静かに佇む姿を見れば結果は明白。しかし何が起きたかわからない。

 

 空中にいたコカビエルの右腕と翼が突然爆ぜ、直後に土煙から男――暮修太郎が出てくるところは見えた。そうして落ちるコカビエルの攻撃を悉く回避する姿も確認できた。その後の人知を超える攻撃の応酬も、内容はともかく行われていることだけは把握していた。

 だが。

 

「なんだ、あれは。斬った、のか――?」

 

「……そうだと思う。……あまり自信は無いが」

 

 呆然とする木場が呟き、ゼノヴィアがそれを肯定した。

 剣の達人であるグレモリーの『騎士(ナイト)』と聖剣使いたちは、この結界内にいる他の者よりもある程度詳しく状況を把握していた。

 

 莫大なオーラの防御でコカビエルが修太郎の斬撃に耐えたこと。

 特攻するコカビエルと、それでもなお斬り続ける修太郎の応酬。

 剣を持つ腕をかち上げられ、致命的な隙を曝け出した修太郎。

 それに放たれた渾身の黒槍。

 

 しかし、次の瞬間には四肢を落とし腹部を突き刺されたコカビエルがいた。

 

 その有り様を見れば何が起きたかは推測できる。誰にも認識できない速度で斬ったのだ。

 信じられないという、何よりもその思いが勝る。何もかもが間に合わない必殺のタイミングだった。それを覆すほどに速い一撃など聞いたことも無い。

 まるで読んでいる本が途中で落丁していたかのような感覚に、眩暈を起こしそうになる木場たち。

 

 コカビエルの撃破と共に、音も無く都市破壊の魔法陣が砕け散る。街と学園の危機は去ったのだ。訳の分からないうちに、何ともあっけなく。

 そんな中。

 

「え? え? ちょっ、いったい全体なにがどうなってるんですか!? コカビエルは? 俺のおっぱいは?」

 

「イッセー……」

 

「イッセーくん……」

 

「イッセーさん……」

 

「イッセーくん、キミってやつは……」

 

 一人疑問と焦りの声を上げる一誠。

 その姿を見て、眷族一同は呆れ、そして気を取り直すことができた。

 

「ふふっ、残念だったわねイッセー。今回は無しよ」

 

「ええええっ!? そんなぁ!?」

 

 リアスの答えに涙すら流して嘆き叫ぶ赤龍帝には、先ほど見せた勇猛さの欠片も無い。

 ともあれ雰囲気は随分と改善された。次にやらなければいけないことは決まっている。突然乱入してきた謎の剣士・修太郎、そしてはぐれ悪魔・黒歌との対話だ。

 気を引き締めなおしたリアスは、中空に浮かぶ黒歌へと声をかける。

 

「戦いは終わったわ! もういいでしょう、私たちを解放しなさい!」

 

 凄まじく堅固に構築された黒歌の結界は、たとえ一部分であっても消滅魔力を用いてさえ削りきるのに時間がかかる。故に、向こうが解除してくれなければ出ることができないのだ。

 相手は遥か格上、力の質のみを見れば魔王クラスと同等の実力者だ。疲弊しきったリアスたちでは一太刀浴びせることすら叶わない相手であり、そこに恐怖が無いと言えば嘘になる。それでも眷族の前で弱みを見せるわけにはいかない彼女は、毅然と言い放った。

 黒歌はその様子を値踏みするかのように見つめて――。

 

「……ふーん。ま、いいでしょ。ほいっ、と」

 

 人差し指をくるりと回せば、泡が割れるように結界が霧散する。同時に、学園全体を覆う空間断絶も解除された。

 綺麗に着地をするリアスと眷族たち。未だ自失状態のイリナはゼノヴィアに抱えられている。

 しかしながら突然解除された結界に対応しきれなかった一誠は背中から落ちた。そしてその上に『僧侶(ビショップ)』アーシア・アルジェントが着地する。

 

「ぐえっ!?」

 

「ああっ!? ごめんなさい、イッセーさん!」

 

 悶絶する一誠と謝るアーシアたち二人をよそに、リアスは同じく地に降り立った黒歌へ問いかける。

 

「……はぐれ悪魔・黒歌。あなたたちはいったい何が目的なの?」

 

「私の方はちょっとした野暮用だにゃん。話ならシュウの方に聞いて。それにしても、窮地を助けられたっていうのに随分上からな態度なのね。言っちゃなんだけど、どんだけ頑張っても今の赤龍帝ちんじゃ勝ち目なかったってのはわかってる? それでも「ありがとう」の言葉一つ無いのかにゃ?」

 

 からかうように、または挑発するように返答する黒歌に対し、リアスは図星を突かれた形だった。

 あの時の一誠が見せた力の高まりは確かに凄まじいものがあったが、先ほどの戦いで見せたコカビエルの本気と比べれば通用したかどうかはかなり怪しい。

 わかってはいるがしかし、それを一応犯罪者である黒歌に真っ向から指摘されるのはなんだか腹が立つ。

 

「あなた……! いえ、そうね……。助かったわ、ありがとう」

 

 とはいえ、文句を言っても仕方がなく、事実を飲み込まずに反論しても自身の不義を露呈するだけだ。リアスは素直に礼を述べた。

 それが意外だとでも言うかのような表情をとった黒歌は、少し満足げに笑う。

 

「へーぇ……。 食って掛かってこないのね。そういう殊勝な態度、嫌いじゃないにゃ。ま、そんなに警戒しなくてもこっちだって取って食おうって訳じゃないから、手早く話を済ませてくるといいにゃん。そんじゃ、いってらっしゃーい」

 

 そう言って、手をひらひらとリアスたちへ去るように促した。

 

「あなたに言われなくとも」

 

 その笑みを、からかわれたと思ったのだろう。

 先ほどから感じる不可解さも合わさって、微妙に怒りをにじませながら破壊された校庭に歩みを進めるリアスだった。

 

 後姿を見送る黒歌の前に、一人の影が立つ。

 

「黒歌、姉さま」

 

 白雪の如き白髪、小柄な体躯の美少女は塔城小猫。黒歌の妹――白音だった。

 心の中の何かを耐えているような、苦しげな表情には怒りと――恐怖が入り混じっている。

 

「ハロー、白音。久しぶりね。元気にしてた?」

 

「……はい」

 

 軽く挨拶の言葉を放った姉・黒歌に、躊躇いながらも答える。

 実に4年以上。久しぶりに出会った姉は、昔のような――本当に昔そのままの気楽な態度だった。

 しかし。

 

「中々悪くない主みたいで安心したにゃん。私の元バカマスターとはえらい違い。良かったわね、白音。あ、それとも――『小猫』って呼んだ方がいいのかしらん?」

 

「――――っ!」

 

 その最後の言葉を聞いた時、小猫の中の何かが噴出した。

 

「姉さま、あなたはっ……! 何で……、何を……!」

 

 わからない。姉が何を考えているのかわからない。

 何故今になって現れた? 何故自分たちを助けた? あそこまでの力を持って何をしようとしている? 何よりも――何故あなたがそんな言葉を吐ける?

 自然、拳を握る力が強まる。急激に白熱していく頭の中は浮かされたようで、冷静な判断ができていないのが自覚できた。

 

「私が、いったいどんな………!」

 

 湧き上がる疑問と、疾走する感情が止まらない。

 わからない。力に呑まれたはずなのに、今の姉からは何の悪意も感じられない。仙術を使わなくても把握できる馴染みのある気は、まるで在りし日の優しい姉そのままだ。

 最後に見た邪悪な何かは微塵も残さず消し飛んで、はぐれ悪魔となった直後のそれとは全く一致しない。

 

「あなたは……、あなたは……っ……!」

 

 何故、どうして、何が。

 疑問が言葉にならない。怒りと戸惑いを込めて、ただ睨むことしかできなかった。

 それでも――。

 何故、何故、何故、何故私の反応に、そんな寂しそうな目をするのだ。

 

「――――!」

 

 その視線に耐えられなくて、自分の心がわからなくて、少女はこの場を逃げ出すしかなかった。

 背を向けて走り出す妹を、姉は追わなかった。

 月光の下、一人佇む黒猫は呟く。

 

「『何で』だなんて。本当に、何なんでしょうね、私」

 

 小さな声で紡がれた言葉は夜の風に消え、誰の耳にも届くことは無かった。

 

 

 

 

 

                 ―○●○―

 

 

 

 

 

 どちゃり、と目の前に皮袋が置かれた。

 その物体を見て、ヴァーリは目の前の男へ疑問の言葉を投げかける。

 

「これは?」

 

「コカビエルだ」

 

 簡潔に答える男、修太郎の言葉は実に的確な事実だけを伝えていた。

 皮袋は人一人入りそうな大きさで、そして中に何か入っているふくらみがある。つまりはそういうことなのだろう。

 

「……何と言うか、キミは割と大雑把だな」

 

「否定はしない。しかし、この方が持ち運びやすいはずだ」

 

「確かにそうだが。……まあ、いいか。しかし皮袋なんて何処から出したんだ?」

 

 目の前の男は生粋の剣士である。

 偶に反則臭い投擲術を繰り出す以外は、本格的な魔術など修めていない武芸者だ。それ故に亜空間収納術は使えないはずなのだが……。

 

「ああ、魔法の道具を使っている。大きさに反してかなりの容量を持つポーチのようなものだ。いくらか前にドワーフたちから貰った品でな、以前はいちいち鞄を持ち歩くか、黒歌に頼ってばかりだったから助かっている」

 

 修太郎の腰の後ろに付けられているベルトポーチは、初めて斬龍刀を改修した際一緒に送られてきたものだ。彼らが作る魔法の品を見ていた時に、そういった物が欲しいと漏らしていたのを聞いていたのだろう。なんにせよ、ありがたく使わせてもらっていた。ちなみに中身は本やら衣服やらの他に、某携帯健康食品の段ボールがダース単位で詰まっている。

 

「なるほど。ああ、そう言えばフリード・セルゼンを忘れていたな。戦いに巻き込まれて死んだか?」

 

 破壊され尽くした校庭の風景を見て、ヴァーリは呟く。

 はぐれエクソシスト、フリード・セルゼン。木場祐斗によって倒された彼だが、先ほどまでここら付近で倒れ伏していたはず。一応、聞きださなければいけないことがあるとして捕縛対象に挙げられていたのだが、この様子では生きているかどうかはかなり怪しい。

 

「もう一人捕獲対象がいたのか? 済まんな、そちらまで手が回らなかった」

 

「いや、気にすることじゃない。いないならいないで別段問題の無いレベルだ」

 

 それより、と言葉を続ける。

 

「最後の技はいったいなんだ? 俺ですら認識できない斬撃とは、まさか、以前戦った時は手加減していたのか?」

 

 もしそうだったのなら腹立たしいことだと思う。

 戦いの空気にあてられたこともあり、返答によってはこの場で以前の決着をつけることすら考慮に入れていた。

 

「それこそまさかだな。お前相手に手加減などできようはずもない。あの時は単純に放つ隙が無かったというだけのこと。あれは乱発できる類の技ではないのだ」

 

 斬り下ろしから速度を保ったまま斬り上げる技術は、修太郎の一族が修める剣術の奥義に当たる。それを真なる雲耀の速度で放つことが『逆雷』の要訣であるが、この技は身体に多大な負荷を強いる代物でもあった。

 一秒――正確にはコンマ八秒の溜めを必要とする超神速の剣は、一度放てばなるほど必殺。しかし溜めの時間を考慮に入れつつ光と見間違うような速度を誇るヴァーリに対して当てるのは、修太郎をして至難を極める。少しでもタイミングを外せば空振るのは必至。加えてそう何度も放てる技でないとあれば、使える機会は限られる。

 

「……そうか、納得した。ともあれ、今回はいいものを見せてもらった。実に有意義だったと思うよ」

 

「それは良かった。では、アザゼル殿によろしくとでも言っておいてくれ」

 

「ふふっ、さあな。それは自分で言うといい。おそらく今後、出会う機会もあるだろう。では、また会おう。――禁手化(バランス・ブレイク)

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 そう言って皮袋を片手に光翼を広げたヴァーリが白い鎧を身に纏う。光速で帰還するつもりなのだろう。

 大気を震わせるような圧倒的な龍の波動は、以前戦った時よりも一回りは大きく成長しているように見受けられた。また強くなっている。

 

 その時、ちょうどリアスたちが校庭に到着した。

 禁手(バランス・ブレイカー)の鎧を身に纏うヴァーリを認めた一同は、揃って目を丸くして驚いている。その中で、一誠の内にある龍だけが言葉を発した。

 

『久しぶりだな、白いの』

 

「ドライグ……?」

 

 外界へ声を発した内なる龍へ疑問の声を上げる一誠。

 リアス含む眷族たちは、突如として聞こえてきた知らない声に驚き、一誠の方に視線を集めた。そんな一同をよそに二天龍の話は続く。

 

『何だ起きていたのか、赤いの』

 

『ああ。しかし、せっかく出会ったと言うのに何ともわからん状況だ』

 

『まあ、こういうこともあるのだろうさ。なんにせよ、いずれ戦うことになるだろう』

 

『いずれ、か。いやに敵意が薄いじゃないか、やる気が感じられないぞ』

 

『そちらも同じようだがな。どうにも互いに興味の対象が別にあるらしい』

 

『ふむ、そういうことか。まあこれも一興か』

 

 勝手に話を進めるドラゴンたちに、一誠は考える。

 コカビエルとの戦いの最中、突然乱入してきた剣士の男と、自身の禁手(バランス・ブレイカー)に似た白い鎧を纏う人物。

 どうにも白い鎧の方はドライグと――つまりは赤龍帝と因縁があるらしい。つまり、この人物は。

 

「ええっと、白龍皇『白い龍(バニシング・ドラゴン)』だっけ……?」

 

『そうだ、俺たちの宿敵だ。どうする相棒、ここで戦うか?』

 

「いやいやいや!! ……えーっと、俺も疲れてるし、また今度にしてもらいたいんだけど……」

 

『だそうだ。じゃあな、アルビオン』

 

『ああ、また会おう、ドライグ』

 

 別れの言葉を交わす二天龍。

 鎧を纏う白龍皇が一誠を見つめる。兜の奥から注がれる視線はこちらを値踏みするようで、一誠は不快な気分になった。

 

「そういうことだ、いずれ戦うだろう俺のライバルくん。出来れば次に会うときは、もう少し強くなっていてくれると嬉しい」

 

 そう言葉を残し、白い閃光となって飛び去った。

 

「リアス・グレモリー嬢とお見受けする」

 

 夜空に残る白い軌跡を見つめていたリアスへと声がかかる。

 そちらを向けば、長身痩躯の男が一人。目的の人物、暮修太郎だった。

 男の服装はボロボロだが、身体そのものに目立った傷は見られない。強いて言うなら頬に残った一筋の切り傷ぐらいだろうか。それはつまり初撃以降、コカビエルが放った猛攻の全てを完璧に捌ききったということ。その事実に寒気すら感じるリアスだった。

 

「……ええ、そうだけれど」

 

「自分の名は暮修太郎。今回は貴女に頼みがあって参上した」

 

「頼み……?」

 

 怪訝な表情で男を見るリアス。

 修太郎は一つ首肯して言葉を続ける。 

 

「魔王ルシファー殿へお目通り願いたい。叶えていただきたい事があるのだ。その対価として、自分の武力を差し出そう」

 

 

 

 

 

                 ―○●○―

 

 

 

 

 

「暮……修太郎ですか……」

 

「ええ、心当たりはあるかしら。ソーナ」

 

 リアスの問いに顎に手を当て考え込む少女が一人。リアスと同じくこの地方都市一帯の管理を任されている上級悪魔、駒王学園生徒会長のソーナ・シトリーだ。

 あの後、暮修太郎は「詳しい話はまた後日」と言って連絡先を寄越し去っていた。

 意図と目的を追求しようにも目の前で消え去られてはどうしようもない。気配すら残さず大気に溶けた男を認識できないリアスたちは、静かに見送る事しかできなかった。

 

 なんにせよ、コカビエルの件も含めこの事は魔王――兄・サーゼクス・ルシファーへ報告しなければならない。そしておそらく、兄は彼と会うことを決めるだろう。妹の住む街に得体の知れない強者、それも魔王クラスの者がいるとわかれば、公務を無視しても駆けつけるに違いない。実に遺憾なことだが。

 最後に見た白龍皇の存在と言い、どうにも今日は頭が痛いことばかりだ。

 

「リアス、その男性は本当に『修太郎』と名乗ったのですね?」

 

「ええ。ああ、それとこうも言っていたわ。『わからなければ、こう伝えていただきたい。『御道』が貴方との交渉を望んでいる、と』だそうよ」

 

「――!」

 

 その言葉に反応したのはソーナではなく、その傍らに控える生徒会副会長、シトリー眷族の『女王(クイーン)』真羅椿姫だった。

 同時にシトリー眷族の幾人かが表情を変える。特に眷族の『騎士(ナイト)』巡巴柄は顔を真っ青に震える始末。

 

「椿姫」

 

「……御道修太郎です。約4年前に失踪した、神州月緒流筆頭剣士にして日本最強の退魔剣士。『修羅御道』『護国の太刀』『月緒の妖刀』などと呼ばれる、接触禁止対象者です」

 

「接触禁止……? 彼が……?」

 

 驚くリアスの声に、やや硬い表情の椿姫は続ける。

 

「はい。彼に対する眷族へのスカウトは禁止されています。それと言うのも、彼が持つ剣士としての実力に目を付けた上級悪魔たちが悉く帰ってこなかったのです」

 

 その数、わかっている範囲で実に18人。

 最後の方では眷族全員を率いてすら反応を消失させたケースもあったという。これを由々しき事態であるとして、悪魔の重役たちは会議を行いそして彼を接触禁止対象と認定した。

 この『接触禁止』とされる人物は非常に少ない。元来は人間界に悪影響を与えないために、社会的・政治的に重要なポストを担う人間を守るための措置である。悪魔を守るためにそれが適用されたのは初めてのケースであった。

 

「認定そのものは7年は前のことだから、私たちはまだ10歳ぐらいでしょうか。リアス、覚えはないですか?」

 

「確かにリストは渡されたと思うけれど、ほとんどが政治関係の人物だったから興味が持てなくて。あまりよく読んでいなかったかもしれないわ」

 

 リアスの言葉に、一つ溜息をついたソーナは咎めるような表情で彼女を見つめる。

 

「当時の年齢を考えれば仕方のないことかもしれませんが、もう少し気を付けることです。私たちが本格的に眷族を集め始めた頃と、彼が日本で活動していた頃がかぶっていなかったのは幸いでしたね」

 

「うっ、でも心配いらないわ。私は眷族を自分の足で探すタイプだし、評判を真に受けて行動なんてしないもの」

 

「それでも偶然出会う可能性が無かったわけでは……。失礼、話が逸れました。ともあれ、少なくとも私たち悪魔にとって、過去彼は危険人物だったということです。だからこそ、はぐれ悪魔と行動を共にしていることは少々解せません」

 

「黒歌……。凄まじい力だったわ」

 

 力に呑まれ、主を殺したはぐれ悪魔。今では希少な大妖怪・猫魈の黒歌。

 複数種族の力と、複数体系の術式を自由自在に操るその様は、最上級悪魔を超えて魔王にまで届くと確信させるほどのものだった。

 

「ええ、結界を破壊された後、私たちも莫大な力の波動を感じました。御道修太郎のことを抜きにしても、現状の私たちでは手出しできない相手です」

 

「そうね、とても悔しいことだけれど。でも……」

 

「リアス?」

 

 リアスは考える。

 昔はどのようなものだったか知らないが、今の黒歌が仙術の力――邪気に呑まれている様子は微塵も見られなかったように思う。それは破邪の闘気を操ったことからも明白だ。

 であるならば。

 発想は飛躍する。

 もしも邪気の影響を完全に抑えられていると言うのなら、「野暮用」と言い放った彼女の目的は妹である小猫を助けることだったのではないだろうか?

 

「そう言えば、小猫は?」

 

 思えば、先ほどから姿が見えない。

 荒れ果てた校庭を見渡せば、リアスから叩かれたお尻を押さえる木場に、アーシアと一誠が話しかけている姿が確認できる。紫藤イリナと、それを支えるゼノヴィアもいる。しかし小猫の姿はどこにも無かった。

 後ろに控えていた朱乃に尋ねる。

 

「朱乃、小猫を知らない?」

 

「小猫ちゃんなら黒歌と少し話をしたあと、どこかに走り去っていきましたわ。一応、私の使い魔を付けていますから、場所はすぐにわかりますけど……」

 

 彼女の信頼する『女王(クイーン)』はこんな時でも頼りになった。

 目の前のことに注視し過ぎていたとリアスは反省する。因縁の姉と再会した少女をこそ、『(キング)』たる自身は気にしなければならなかったのだ。

 

「ありがとう、朱乃。迎えに行きましょう。ソーナ、悪いけれど話はまた後で。この場は任せていいかしら?」

 

「ええ、学園の管理は生徒会の仕事ですから。とはいえ、この損壊は少々厳しいですね」

 

 そう言って自身の眷族へと指示を出し始める。おそらく生徒会は今夜、徹夜で修復作業を行うことになるだろう。

 その様子を背後にリアスは一誠たちを呼び寄せ、朱乃の先導のもと小猫を迎えに行くのだった。

 

 




ヴァーリ「アザゼル、今戻った」

アザゼル「おう、ヴァーリ。お疲れさん。コカビエルはどうした?」

ヴァーリ「これだ」(どちゃり)

アザゼル「うん?」

ヴァーリ「これだ」

(アザゼル、袋の中身を見る)

アザゼル「oh……」

というわけで続き。お姉ちゃん、地雷踏んでますよ。
思ったより原作キャラと絡ませられなかった……!
作中の話が落ち着いたらもう少し頑張れるはず。
しばしお待ちください。

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