インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~ 作:たかしくん
それから数日、俺は未だに織斑先生による直接指導を受けていた。
「もっと素早く剣を振れ! 動きと動きの間に隙を作るな!」
「って言ってもですね! 次どうすればいいか考えないと」
「そんなもの考えるな、兎に角流れに乗ることだけに集中しろ! 直感でベストな動きを導き出せ!」
「ちっ、教官は無茶をおっしゃる!」
俺の連続攻撃に織斑先生は防戦一方だが実際に追い込まれているのは俺の方だ、この剣戟を数十分も続けているのだからそれも致し方ないだろう。
「だらあああああっ!」
「甘いっ!」
俺の振り下ろしに下段から合わせる織斑先生の剣先がエムロードⅡの柄に激突する、そして俺の腕の痺れと共にエムロードⅡは天高く舞い上がった。
そして次の瞬間には近接ブレードの剣先が俺の目の前でピタリと止まる。やはり俺はまだこの人の足元にも及ばないと実感させられる。
「あっ……」
「不用意に大技を狙いすぎだ、それに先も言った通り動きと動きの間に隙が多すぎる」
「……流れに乗るですか、言わんとすることはなんとなく解るんですがどうしても思考が先行してしまいがちで」
「お前の悪い癖だ。今までの策を持っての戦いでそれなりに成果を挙げてきたからそれに執着してしまうのだろう、しかしお前はその策を破られた時がとてつもなく弱い。思考が真っ白になってしまうから途端に何も出来なくなるんだ」
今までの俺のスタイルは事前に策を用意しその流れに相手を乗せるような感じだ。つまり戦いにおいてやることが最初から決まっていて、それに沿った動きをしているだけだった。
しかしそれも今後通用しなくなる、今後は直感を重視したスタイルを磨いていかなければならないのだ。
「斉藤一という人物を知っているか?」
「確か……新選組でしたっけ?」
「ああ、彼が語っていたことを書物で呼んだのだが真剣での斬り合いというものは、敵がこう来たらこう払ってこう切り返すとかいう予め考えている動きをするのではなくただ夢中に切り合うものらしい。勿論それはISにだって同じことが言える。それにスポーツの世界でも芸術的なトリックプレーを成功させた選手もただ自然に体が動いただけと語っている。つまりそういう世界で最も求められるのは直感だ、そしてその直感を磨くために必要なのは経験なんだ」
「つまりこの訓錬を延々とこなしていけばいずれ俺もその世界に辿り着けると?」
「さぁな、しかしお前の動きも少しづつだが良くなってきている。精進しろよ」
そう言った織斑先生は俺に背を向け格納庫の方へと歩き出していく、どうやら今日の訓錬はこれで終わりらしい。そう思った瞬間、疲れがどっと押し寄せ俺はへたりこんだ。
「あ゛ー、きっつ」
「大丈夫か? 兄よ」
「大丈夫じゃねーよ、何十分か解らんが剣振りっぱなしなんだぜ?」
「まぁ、確かにそうだな」
俺を心配そうに覗き込んできたラウラから笑顔が零れる、それは俺にとってここでの数少ない癒しであった。
「でも悪いな、ラウラ。織斑先生独占しちまって」
「いや、いいさ。不満がないわけではないが確かに兄の成長は重要な事だ、なにせISLANDERSの看板なのだからな」
「どこへ行っても看板役ってのは嫌なもんだ、気が抜けないからな」
「しかしそれこそが兄に求められている役割だ、頑張ってくれ。……そうだ、この後予定はあるか?」
「予定……」
「よければ付き合ってほしいことがあるんだが」
「予定は……ああ、あるわ。確か新井とデートの約束があったんだ」
「あっ、新井だと!?」
「近くの街まで生活必需品を買いに行くだけだよ。まぁ、あいつに構ってやれてないからたまにはそういうのもいいだろう」
「そ、そうか……」
「ということでお前とのデートは次の機会にってことで……よっと!」
そう言いながらネックスプリングをして俺は立ち上がる。新井との待ち合わせの時間も近い、俺も行かねば。
「さて、たまには家族サービスでもいたしましょうかね」
「言ってる事がまるで休日の父親だな」
「ははっ、その通りだ」
そんな会話をしながらも俺達は格納庫を目指す。さて、新井のためににぃにとしての勤めを果たすとしよう。
「しかし沢山買ったな」
「うん! 隊長や副隊長の日用品もあるからどうしてもね」
「だからこの量ってわけか」
「それにあの二人は何かと忙しいからこの位は手伝わないとね」
そんなわけで新井との買い物も終わり俺達は基地に戻ってきた、やたら多い荷物を持たされてはいるがこれも愛する妹達のためだと思えばあまり苦にはならない。しかし生理用品は俺が居ない時に買ってほしかった。こんなの持たされても困惑するだけだ。
しかし新井の笑顔もラウラに負けず劣らず眩しく、そんな顔を見ると俺の心も暖かくなる。俺はいい妹を持ったようだ。
「邪魔だ、ガキ」
「うわっ!?」
そんな感じで俺達が歩いていると前方にアメリカ軍の軍服を着た集団に出くわす、そして俺達はその横をすり抜けようとした時その軍人の一人が新井を突き飛ばしたのだ。
「あ痛たたたっ」
「大丈夫か新井! ……テメェら何しやがる!?」
転んだ新井を助け起こすと同時に俺は突き飛ばした軍人にメンチを切る、さっきの行動は明らかに故意にやったものだ。だとすれば簡単に許してはおけない。
「俺達の基地にお前らみたいなションベン臭せぇガキが居ると迷惑なんだよ、だとすればささやかなストレス発散位は勘弁して欲しいもんだ」
そう言ったゴリマッチョな軍人の取り巻きが馬鹿みたいに大笑いする、しかしこっちは笑う気にはなれない。
「あぁ? ストレス発散ならもっといい方法があるぜ? 試してみるか?」
そう言って俺は半身に構える、戦闘準備完了だ。
「にぃに! 私の事はいいから!」
「うるせぇ! 俺だって自分がロクデナシである自覚はあるが目の前で妹虐められて黙って見てるほど腐っちゃいねーんだよ!」
「妹? なんだそれ、新手のギャグか?」
そしてまた取り巻きが大笑いをする、それが益々俺をイラつかせる。
「ちょっと貴方達なにやってるの!?」
その直後、聞き覚えがある声が響き渡る。その声の方へ目をやるとたっちゃんがが立っていた。
「おお、これはこれはロシアの国家代表様じゃありませんか。いや、我々はただ躾がなってないガキ共を教育してやろうと思いましてね」
「はっ、どうだか。躾がなってないのはお前らの方じゃないのか? 馬鹿みたいに体だけデカくなりやがって脳味噌はガキのままじゃねーか」
「ンだとコラァ!?」
「そんなみっともない脅しに屈するとでも思ったか? 俺とお前らじゃ潜ってきた修羅場の数が違うんだよ、ナメんなコラァ!!」
そんな俺達を尻目にたっちゃんはなにやら新井と話をしている、多分この言い争いの原因を問い質しているのだろう。
「……話は聞きましたがどうやら貴方達の方に非があるみたいですね」
「おいおいちょっと待ってくれよ、俺達の意見も聞かずに悪者扱いかよ」
「戦闘員でもないこんな子を突き飛ばしておいてよくそんな事が言えますね、お話はもう結構です。ノリ君、やっちゃいなさい」
「え?」
「え?」
俺とゴリマッチョがほぼ同時にそんな反応を返す、てっきりたっちゃんが仲裁してくれるのかと思っていたがこの場面を更に煽るとは予想外だ。
「え? ここは一発やりあってどっちが正しいか決める場面じゃないの?」
違う、絶対に違う。しかしながら俺としてもここまで言ってしまった以上引っ込みがつかないのも事実、ここはこいつをコテンパンにして場を収めるのもいいかもしれない。
「ああ、それもいいかもな。おいゴリラ、掛って来いよ」
「上等じゃねーか、テメェみたいなロン毛のヒョロガキじゃモノ足りねーが妥協してやろうじゃねーか」
次の瞬間、ゴリラが俺に大振りのフックを顔面目掛けて放つ。そしてそれを俺は華麗なスウェイで避けきってみせた。
見えてる、俺にも敵の攻撃がちゃんと見えるようになった。だとすれば今までのたっちゃんや織斑先生から受けた指導も無駄ではなかったということか。
「なにぃ!?」
「あ、アニキのパンチを避けただと!?」
ゴリラとその取り巻きが驚愕の表情を浮かべる、しかしこの位ISLANDERSなら余裕だろう。だとすればこいつの筋肉はほぼ見せかけで多分こいつ自身も大したことない。
「どうした? この程度で終わりじゃないよな?」
「うるせえっ!!」
そんな言葉と共に放たれる連続攻撃も今の俺からすれば蚊が止まるようなスピードにしか見えない。やはり俺は以前よりかなり強くなっている、そんな確信を持てただけでもこのゴリラとやりあう意味があったのかもしれない。
「はぁ、はぁ……」
「おいおい、これで終わりか? 弱いな、あんた」
「黙れええええっ!」
そしてゴリラは渾身の力で右ストレートを放ってくる、俺は体をやや左にずらしながらカウンターの右ストレートをゴリラの顎目掛けて放つ。いわゆるクロスカウンターってやつだ。
「がぼっ!?」
拳がゴリラの顎を捉えた瞬間、ゴリラの口から声にならない声が響き、膝から崩れ落ちる。
「あ、アニキが……」
「ワンパンKOだと!?」
「こいつを持ってどっか行け、それともう二度と俺の前にツラ見せんじゃねーぞ」
「ひぃぃいっ!」
「す、すいませんでしたー!!」
そう言いながら取り巻きはゴリラを抱えて俺達から離れていく、というわけで一件落着だ。
「けっ、マジで大した事なかったな」
「へぇ、チンピラ殴ってご満悦か。武闘派エロゲヒロインかよ」
「ん?」
急に意識外の方向から声が掛る、慌ててその方に目を向けるとイーリスさんが立っていた。
「なんだよ?」
「いや、別に? 流石は男性IS操縦者、お強うございますねってだけさ」
「なんだよ、アンタまで喧嘩売りに来たのか。国家代表ってのは随分暇な職業なんだな」
「ノリ君!? さっきのチンピラはともかく彼女にまで喧嘩売るのはマズイわよ!」
外野のたっちゃんがそう言うが、そんな言葉は俺の耳にはもう入らない。そしてそれはイーリスさんも同じだろう。
「んだと?」
「そもそも最初からアンタの事は気に入らなかったんだよ、折角俺が手を差し伸べてやったのになんだあの態度は。アンタと俺の立場の差、解ってんのか?」
「その台詞、そっくりそのまま返させてもらうぜ。立場の差を理解してないのはお前の方だろう?」
「はぁ? 一山幾らの国家代表がナンボのもんじゃい! 俺は世界に二人しか居ない男性IS操縦者だぞ! レア度が圧倒的に違うんだよ!」
背後から溜息が聞こえる、多分たっちゃんのものだろう。
「ははっ、流石日本のギャグってのは面白いな。だがギャグで済ませてやるほどアタシはお人好しじゃねーんだ」
「ギャグで言ったつもりはねーよ、アメリカ人は笑いのレベルが低すぎてそんな事も解らないんだな」
「どうやら死にたいみてーだな、自殺幇助は趣味じゃねーがテメェも後に引く気はなさそうだし仕方ないか」
そう言ってイーリスさんが戦闘態勢を取る、それに呼応するかのように俺もファイティングポーズを取ってみせた。
「はいストーップ!」
しかし次の瞬間に俺達の間に割って入る人影、それはたっちゃんのものだった。
「ん?」
「なんだよ、更識。そう言えばお前もこいつの味方だったか、だったら二人掛りでも別にいいんだぜ?」
「いやいや、滅相もない。しかしですね、ISLANDERS同士に天下の往来で喧嘩されるのは色々マズイんですよ。ほら」
そう言われて周りを見渡すと、俺達を囲むようにギャラリーが出来ていた。話に夢中でそんな事にも気付かないとはちょっと恥ずかしい。
「だったらどうしろってんだよ、もう両方とも収まりがつかねぇぜ?」
「ええ、そうですね。ということで模擬戦しましょう!」
「え?」
「だから模擬戦ですよ、これだったら合法的にやりあえるでしょう?」
「いいっすねぇ、それ。模擬戦だったら邪魔が入らなそうだし」
「まぁ、いいだろう。アタシ達の本分はISだからな。藤木、てめぇ覚悟しとけよ」
「そりゃこっちの台詞だ、存分に恥かかせてやるからな?」
「はいもう一回ストーップ! ということで後の事は模擬戦でお願いしまーす!」
「チッ」
イーリスさんはそんな捨て台詞を吐き捨て俺達の元から去る。俺達の戦いはたっちゃんにより模擬戦に決まった、なら戦いに向けて準備をしないと……
そんな事を思っていると俺の肩に手が置かれる、それは明らかにたっちゃんのものである。
「ノリ君」
「なんだい、姉さん?」
「これからお説教ね」
「オーライ、任せてくれ」
そして俺はたっちゃんに襟首を掴まれずるずると引きづられていく、そうして俺の戦いへの意欲は一気に萎えた。