インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第76話 愛するあなたへ

「……はい、これで契約手続きは完了です。藤木さん、これからよろしくお願いします」

「ご期待に沿えるよう精進します、これからお世話になります」

「はい、私どもも期待していますよ」

 

そうして俺は差し出された右手を握り返す、今俺の目の前で会話をしているこの人は国際IS委員会から派遣された役人で、たったいま俺はこの人を介して国際IS委員会と傭兵契約を結んだところだ。

 

「この後、時間はありますか? 折角ですので親睦も兼ねてどこかお食事でも」

「すみません、仕事のスケジュールが立て込んでいまして……」

「そうですか、まだお若いのに大変そうですね」

「いえ、それほどでも。会社の方々が僕を支えてくれていますから」

「そうですか、では私はこれで失礼します」

 

そう言って国際IS委員会の役人は部屋から出て行く。ドアが閉まった瞬間、俺の力は一気に抜けた。

 

「あー、マジで堅苦しい。こういうのは苦手だ」

「それでも少しは様になってきたじゃない、昔に比べたら進歩してるのね。藤木君も」

 

隣に座っている楢崎さんが言う、彼女は相変わらず涼しげな態度で俺をディスってくる。

 

「大体なんだよ傭兵契約って、しかも俺個人が直接契約ってことは今後は三津村はケツ持ちをしてくれないって事ですか?」

「そうでもないわよ、水無瀬夫妻がスポンサー代表としてISLANDERSに出向することになってるから今後も私達のサポートは続くわよ」

 

三津村がISLANDERSのスポンサー? 聞いたことない話だ。

 

「どういう事です? スポンサーって」

「ISLANDERSのスポンサーに三津村、いえ、メガフロートが名乗りを上げたわ。それに伴い本日水無瀬夫妻はメガフロート管理委員会に移籍、そして即日ISLANDERSに出向という事になったわ」

「メガフロートっすか、予想外の名前が出てきましたね。しかし相変わらず忙しいこって、でも三津村が直接スポンサーに名乗りを上げないのはどうしてですか?」

「この国は戦争アレルギーに掛ってるから直接スポンサーになると色々まずいのよ」

「ああ、素晴らしきかな平和国家日本。お陰でせっちゃんは転勤で俺は傭兵だ」

「そうね、ということで名目上は藤木君個人が自分の意思でISLANDERS入りするのが最も波風が立たない方法なのよ」

「ここまで俺が自分の意思を発揮できた場面がどれだけあっただろうか……」

 

断言できる、そんなモノは一切ない。俺がISを動かしてきてから半年以上、俺は三津村の意のままに動き続けてきた。

 

「ところで次の仕事まであとどれ位ありますか?」

「あと三十分ね、そろそろ支度しないと」

「本当に早い、もう嫌になりますよ」

「今回は時間もないことだしほとんど藤木君のアドリブでいって貰うわ、頑張ってね」

「前回だってほぼアドリブだったでしょうに」

「それは言ってはいけない約束よ」

「そんな約束した覚えがないですね。でも、今回は安心ですよ。一応仕込みをしてますから」

 

そう言いながら俺は席を立つ。現在時刻は午後一時、たっちゃんを倒してから三時間、そして三十分後には俺は記者会見を行う事になっている。

そして、今回の話題はもちろんISLANDERS加入についてだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシャバシャバシャバシャッ

 

俺がここに入ってきたとき最初に聞いた音はそんな音だった。

ここは三津村商事本社ビルにある会見場、目の前にあるのは目が眩みそうになる光の嵐。この光を放つ人々は今日俺のために集まった人々だ。

以前はジジイに連れられて俺はこのひな壇の中央に座った。しかしジジイは居ない、今日ここは俺一人だけの舞台だ。

 

「本日は急な発表にも関わらずお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。三津村商事広報課所属の藤木紀春です。早速ですが発表させていただきます」

 

ということで俺もジジイスタイルで会見を始める。さて、世界中を驚かせてやろう。

 

「本日、ロシア連邦IS国家代表更識楯無様から推薦を受け、私、藤木紀春がISLANDERSに加入する運びとなりましたことを報告させていただきます。それに先立ちまして、更識楯無様よりIS学園生徒会会長の座をお譲り頂いたことも重ねて報告させていただきます」

 

早速記者たちがさわつく、彼らとてIS学園生徒会会長がどうなればなれるのかを知らないはずがない。

 

「すみません、早速質問よろしいですか?」

「はい、結構ですよ」

 

血気盛んそうな記者が手を上げる、あの記者は有名な左翼系マスコミの記者だ。そして、彼は俺に仕込みを受けている。つまり彼は俺の答えたい質問をしてくれる、そしてこの俺の舞台の大事な共演者であるのだ。

 

「まず、一つ目。ISLANDERSに加入する今のお気持ちをお聞かせください」

「はい、まず大前提で話しておきたいのがここ最近のIS学園に関する数々の事件の事です。IS学園ではイベントを開催するたびなんらかのトラブルが頻発しています。最近ではキャノンボール・ファストでの亡国機業の襲撃、そして先日あった専用機持ちのタッグマッチでの無人機の襲撃です。その数々の事件は僕の仲間を心身共に傷つけました、もちろん僕もですけど。もう彼らの傷つく姿を見たくはないんです、そしてそんな事を思ってる時に更識先輩から今回の話を持ちかけられた。という所です。正直この話は渡りに船でした。それに新しい環境に身を置けば更に僕は強くなれるはずです、今度こそ僕は仲間の誰も傷つけさせる事の出来ないような強い力を身につけたいんです」

 

記者達が関心したような声を上げる。よし、反応は上々だ。次はもっと盛り上げてやろう。

 

「それでは二つ目、日本人である藤木さんがISLANDERSに加入するにあたり政府とはどのような協議を重ねられたのでしょうか?」

「いえ、政府とは何も話をしていません。僕個人がISLANDERSと直接傭兵契約を結ばさせて頂きました」

 

記者たちがざわつく、きっと彼らはこう思っているに違いない。

 

「それはおかしくないですか? 藤木さんの所有しているISには日本政府から研究用に特例で貸与されているISコアが使われているはずでは? つまり貴方はこの日本のコアを勝手に使い、戦争に加担するつもりですか!? そんなの許されるんでしょうか」

 

記者はまるで怒ったような態度を取ってまくし立てる、そして実際に周りからは怒っているように見えるだろう。しかしこんな態度ですら俺の仕込みだ。

そして記者も言った通り政府から寄越されたコアを無断で使うのは明らかに許されない事である。しかし彼らは知らない、このコアが特別なコアであることを。

 

「はい、許されます。そもそもこの織朱に搭載されているコアは世界にある467個のコアの中には全く含まれない別のコアです。つまりこのコアは国家の縛りを受けないということになりますね」

 

記者達のざわめきが一層大きくなる、予想してたとはいえこの反応は嬉しすぎる。そして俺に質問している記者も他の記者と同じように驚いている、彼はこの返しも知っているはずなのにまるで初めて聞いたかのような反応だ。どうやら俺の共演者は中々の演技派らしい、なら俺も負けられない。

 

「そ、それは……一体何処から!?」

 

演技派の彼がまくし立てる。さぁ、ここからがこの舞台の見所だ。

 

「決まっているでしょう? 僕は篠ノ之束博士から直接このコアを賜りました」

 

次々に起こる驚愕の声、この会見場は興奮の坩堝と化していた。

 

「し、篠ノ之博士から直接!? 一体どういう事ですか!?」

「ええ、あれは……確か七月の始めでした、臨海学校の授業中に篠ノ之博士とお会いしましてその時にこのコアを受け取ってくれと」

「しかし、藤木さんに篠ノ之博士がどういった理由でコアを?」

 

ここからはあの兎さんにも見てもらいたい、これは俺からの彼女に対する戦線布告なのだから。

 

「篠ノ之博士はこの世界の現状を憂いています。人類の更なる発展のために作られたISは今や戦争の道具となり下がり、それを使ったテロがそこかしこで起こっている。そんな状況を打破するための力になってほしいと僕に直接コアを……というわけです」

「篠ノ之博士が……そんな……」

「篠ノ之博士は心優しい人です、そして世界中から狙われ逃げ続ける生活の中で心を痛めています。僕はそんな彼女の力になりたいんです、ISを悪い事に使う人々を打ち倒しそして彼女が安心して生活できる世界を、という所でしょうか?」

 

ここぞとばかりにカメラに優しげな笑みを浮かべる、しかしこの言葉と笑顔の意味は本当の俺を知る人と知らない人では意味合いが大きく変わってくるだろう。

 

「もしかして……藤木さんは?」

 

よし、トドメだ。ばっちり決めてやる。

 

「そっ、そんな事あるわけないじゃないですか! 確かに篠ノ之博士は魅力的ですが、僕なんかじゃとても……あっ……」

 

失言をした振りをして顔を真っ赤に染める、しかしこんなのは演技だ。というかIS学園に来てからというもの俺の演技力はうなぎ登りだ、もしもISで食っていけなくなったら俳優にでもなろうかと思う。

 

「ああ、そういう事ですか」

 

にやにやと笑う記者がそう言う。この人も本当に演技派だ、彼も俳優になったらきっと大成するだろう。

 

「あ、あの……カットとかって、出来ます?」

「生放送なので無理ですね」

「そう……ですか……」

 

記者たちが笑う、そして俺も誤魔化すかのように笑う。更に心の中では黒い笑みを浮かべる。この後記者会見はつつがなく進行し終了した。さて、明日のスポーツ紙が楽しみだ。きっと愉快な事になっているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やってくれたわね、藤木君」

「そりゃどうも。で、世間様の反応はいかがでしたか?」

 

記者会見の翌日、仕事の関係で未だIS学園に帰れない俺はホテルで楢崎さんと会う。そして、『やってくれた』と言った割りには楢崎さんはなんだか嬉しそうだった。

 

「ええ、会社には抗議の電話が鳴りっぱなし、主に左巻きの方々からね。それとネットも大荒れよ、藤木君の行く末について右と左が壮絶な議論を交わしているわ」

「まぁ、どんだけネットが荒れようと関係ないっすね。っていうか俺、右も左も嫌いだし」

「あら意外ね、IS操縦者っていうのは基本的に右寄りの人間が多いんだけど」

「そりゃ好き好んでISに乗ってる連中はそうでしょうよ。でも俺はそういうのじゃありませんし、政治には興味がないですから」

「折角だから靖国にでも参拝させようかって思ったんだけど」

「やめてくださいよ、さっきも言いましたが俺は特定の思想に肩入れするつもりはないですからね」

「そう、残念」

 

この人絶対右寄りの人間だ、しかも戦争を賛美する性質悪い方のやつだ。

正直こうい政治の話は得意ではないし、今後も極力関わりたくはない。しかしISLANDERS加入を表明した以上そうもいっていられないのかもしれない。

 

「そうそう、それと藤木君当てにファンレターが沢山届いているわよ」

 

急に話を切り替えた楢崎さんは持っている大きなバッグから大量の封筒を取り出した、そして俺はそれを受け取る。

 

「ほうほう、俺のファンからの激励の手紙ですか。ありがたい、こういうのはマジで励みになりますよ」

「なに寝ぼけた事言ってるのよ? その封筒の中身、9割方カミソリ入りだからね」

「ファッ!?」

 

受け取った封筒は全て開封済みのようで、簡単に中身を窺うことが出来る。俺は封筒の中から無作為に一つ選び出し中身を見てみる、確かにカミソリが入ってた。というか検閲済みならカミソリは抜いていて欲しかった。しかも中身は新聞の切抜きで作った古風な怪文書である。

 

「篠ノ之博士に愛の告白をしたのが悪かったようね、全国の篠ノ之博士の信奉者が激おこよ?」

「あー、そこまで考えてなかった……」

 

俺にファンが居るようにあの兎さんにだってファンが居る、あの会見は確かに兎さんのファンからすれば激おこものだろう。

 

「はぁ、ちょっとしたお茶目なのに。全く、愚民共はユーモアというものを解っていないようだ」

 

これだからバカは嫌いだ、俺に必要なのは俺に賞賛を贈る人たちだけでいい。俺を嫌う奴は俺にとっては全て不要な存在である。

 

「しかし、社会というのはその愚民共が支えているのも事実か。まぁ仕方ない、奴らを退屈させないようにするのが俺の仕事ですからね。そろそろ行きましょうよ、次も取材ですか?」

「ええ、今日中にISLANDERS絡みの仕事は全て片付けるわよ」

 

そう言いながら俺と楢崎さんはホテルを出て迎えの車に乗り込む。さて、今日もお仕事頑張りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんじゃこりゃー!!」

 

彼女は思わず持っていた新聞を引き裂く、そこには『藤木紀春、篠ノ之束に大胆告白!!』と表紙にでかでかと書かれていた。記事の内容は先日、藤木紀春がISLANDERSに加入した際に行われた記者会見の内容を簡潔にまとめているものなのだが、その見出しは客をひきつける為にキャッチーな仕上がりとなっている。

 

「た、束さま?」

「くーちゃん、電話っ!」

 

そう言われてくーちゃんと言われた少女、クロエ・クロニクルはおずおずと電話を差し出す、束はそれを乱暴に受け取り着信履歴を表示させる。そこには延々と『doctor』という名前と電話番号が記されていた。彼女が電話する相手なんてこのドクターしか居ないのである。

 

そして数回のコールの後、目的の人物の声が届けられる。

 

「……なんだ?」

 

電話越しでも解る気だるそうな声、電話の相手であるドクターはいつもこんな感じだった。

 

「なんだじゃないよ! あいつ殺せ! 今すぐ殺せ! 束さん激おこぷんぷん丸だよ!」

「ああ、あの記者会見の事か。別にいいじゃないか、何か被害を被ったわけでもないんだから」

「束さんは充分に精神的苦痛を味わってるよ! 勝手に自分の意見を捏造されて、挙句の果てには愛の告白なんて気持ち悪くてゲロ吐きそうだよ!」

「我慢しろ、君に協力するとは言ったが精神的な苦痛のフォローまですると言った覚えはない」

「へぇ、そんな事言うんだ。だったらお前らはおしまいだね、束さんが直々に成敗してやってもいいんだよ?」

「好きにしろ、そうしたらお前もどうなるか解ってるんだろうな?」

「えっ?」

「そうだな、君の所に直接藤木紀春を差し向けよう。きっと彼もキミに会いたいだろうからな」

「な、なんだ。そんな脅しに屈すると思ったか。むしろ好都合だよ、あんな奴返り討ちにしてやる」

「そうか。一応言っておくが彼のISにハッキングを仕掛けない方がいいぞ、あれはもう僕の手にすら負えないバケモノになってしまったからな」

「……自慢か?」

「好きに取ってくれていい。まぁ、無駄だとは思うが精々頑張ってくれ」

 

そう言って彼は電話を切った。

藤木紀春のふざけた会見、ドクターのそっけない態度。そのせいで束の心には怒りの炎が渦巻いている、そして彼女は電話を放り投げディスプレイの前に座る。

 

「くそっ、どいつもこいつも束さんを馬鹿にしやがって。思い知らせてやる」

 

と言いながらいつも使うハッキングツールを開く、束は目と指先を目まぐるしく動かしながらハッキングする目標を探した。

 

「ええと、これはいつぞやに使ったゴーレムのコアか……だったら楽勝だね」

 

そしてそのゴーレムのコアにハッキングを仕掛ける。数分後には藤木紀春のISは勝手に起動し、ドクターの現在の居場所を焦土にするために動き出すだろう。そして最後は成層圏まで行ってISを強制解除させるという風に設定した。

 

「ふふふっ、あのクソガキが最後に見る景色はとっても綺麗なんだろうなぁ。やっぱり束さんは優しいね。くーちゃんもそう思うでしょ?」

「はい、勿論」

 

クロエが束に微笑む、それを見た束もクロエに微笑み返す。

ハッキングツールは順調に稼動している、今の所ドクターの言った脅しの心配もない。全てが順調だった、はずだった……

 

「あれ、止まった」

 

あと少しといった所でハッキングツールが動きを止める、そして止まったのはそれだけではなかった。

 

「あれ、停電? まいったなぁ、電気工事は苦手なのに」

 

束の居る部屋の明かりが全て消える、と言ってもその部屋の光源なんて目の前で煌々と光るディスプレイとさっきまで新聞を読むのに使っていたデスクライトしかないのだが。しかし、その停電はすぐに復旧した。

 

「なんだ、大した事なかったのか。くーちゃん、大丈夫?」

「た、束様……あれ……」

 

クロエ恐る恐る束の後ろを指差す、そして束はそれにつられるようにその先を見る。いや、見てしまった。

 

「ぎ、ぎゃああああああああっ!」

 

その先に映し出されたのは無数の精神的ブラクラ、しかもかなりグロいやつである。束は反射的にディスプレイを殴りつけ、それを物理的に沈黙させた。

 

「…………」

「…………」

 

そして部屋を包む静寂、この短い間で束の心は疲れ切っていた。

 

「……もう寝る」

「そ、そうですか……」

 

束はまたしても藤木紀春抹殺計画に失敗した、彼女は部屋から出て行き寝室へと向かう。そしてこの部屋の中ではコンピュータが煙を上げる音が空しく響いていた。


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