インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第69話 覚醒式

「こうなれば仕方ない、荒療治だ」

 

翌日、群馬の三津村重工兵器試験場の会議室でせっちゃんがそう切り出した。

未だ一次移行に至らない織朱に対して色々な対処がなされていたがそのどれも効果がなかった、例えば延々と走ってみたり射撃をやってみたりエムロードを振り回したり延々とダンスを踊ってみたり。俺だって、十二時間耐久ユーロビートなどもうやりたくはない。

 

「荒療治ですか? Night of Fireや恋はスリル、ショック、サスペンスが荒療治ではないと? もう俺、世界一パラパラがうまいIS操縦者と自信を持って言える位にはなったのに」

「キミだって途中からノリノリで踊ってたじゃないか」

 

織朱を纏って延々とパラパラを踊り続ける俺、あれは本当に地獄だった。だけどなんだか楽しかった。もう少しで一次移行できそうな気もしていたんだが、それ以前に俺の体力が尽きてしまったのだ。

 

「で、本当の荒療治というのは」

「一度、戦ってみようと思う」

 

戦う、確かにその方法はありかもしれない。一夏だってセシリアさんとの戦いで一次移行を果たした、あのちびっ子だってそれは同じだ。ならば俺も一次移行出来るかもしれない。

 

「戦う……ですか、でも戦うには相手が必要ですよ? 有希子さんはフランスだし……もしかしてIS学園からシャルロットを呼びつけるんじゃないでしょうね? それは幾らなんでも可哀想ですよ、あいつだってタッグマッチで忙しいんだから」

「いや、キミの相手はもうここに来ている」

「来ている?」

 

会議室をぐるりと見渡す、今ここに居るのは俺とせっちゃんと不動さんに成実さんと開発担当の男性研究者二人だ。つまりここに女はたった二人、不動さんは整備課だったので実力はお察しだ。となると残りは……

 

「もしかして成実さん!?」

「いや、違うよ?」

「え、だったらもう居ないじゃないか」

 

いや、まだ可能性がある。かなり低いが。

 

「そこの白衣のおっさん二人! もしかしてお前ら女なのか!?」

「いや、我々は……」

「普通に男ですが」

「だったら誰なんだよ! せっちゃんか! 実はせっちゃんは女だったのか!? そして成美さんとはレズカップルだったのか!?」

 

女尊男卑のこの時代、実はこの国では同姓婚が認められたりしている。しかし実物を生で見ることが出来るとは。

 

「期待に添えない様で残念だが、ボクは男だ」

「だったら誰なんだよ! もう誰も居ないじゃないか!」

「おいコラそこのめくら、私が見えないのか?」

 

なんだか不動さんが怒っている、彼女は最初から候補にすら入っていなかった。

 

「えっ、もしかしてマジで不動さん?」

「そうだよ」

「いやいやいやいや、無理しなさんな。流石に整備課の不動さんじゃ話しになりませんよ、当分ISに乗ってないでしょ?」

「ところがどっこい、三年の初めくらいまでは普通に乗ってたんだよね」

「乗ってたって言っても整備のためでしょ? 俺はガチンコバトルの経験者を求めてるんですよ」

「それなら尚更好都合だね、だって私先代のIS学園生徒会長だもの」

「え?」

 

IS学園生徒会長、その称号はIS学園最強の生徒に贈られる称号である。その称号を手にするためには今の生徒会長となんらかの方法で戦い、勝利しなければならない。

以前俺も生徒会長の座を目指していた時期があったが、それはあっけなく阻まれた。その位生徒会長の座に至るのは厳しいのだ。

 

「まぁ、たっちゃんに挑戦させて速攻でその座を明け渡したけどね。その頃は打鉄・改の開発や、その他諸々で忙しかったし」

「まぁ、そうですよね。幾らなんでもたっちゃん相手に不動さんが敵うわけないですもんね」

 

となると、先々代の生徒会長ってさぞかし弱かったんだろう。

 

「ああ、ちなみに先々代の会長さんは今はどこぞの国で国家代表やってるとか。懐かしいなぁ、あの人めちゃ強かったもんなぁ」

「ワッザ!?」

「ちなみに、たっちゃんは私に勝つまでに二十連敗しました。しかも勝った時もやらせで勝ちました、あの子って本当に弱くって……」

「ちょ、ちょっと待て!」

 

俺はスマホを取り出し、たっちゃんに電話を掛ける。数回のコールの後、たっちゃんが電話に出た。

 

『もしもーし。ノリ君、おねーさんに何か用? そうだ、ノリ君が出た雑誌見たよ。格好良かったよ~』

「そんな事より! 不動さんが前代の生徒会長でたっちゃんが生徒会長になるまでに二十連敗したって本当の話か!?」

『あ、うん。一応そういう事になるね』

「マジかよ!」

 

そう言って電話を切る、どうやらさっきの話は不動さんのホラ話ではなかったらしい。

 

「いや、それでもおかしいだろ! 不動さんがそんなに実力者なら、代表候補生、いや国家代表にだってなれたはずだ!」

「ああ、そういうのは全部断った」

「なんで!?」

「私の初恋の人がアストナージさんだったから、私もあの人みたいになりたかったんだよね。主にスパロボのアストナージさんだけど」

「趣味悪っ!」

「趣味悪いとは何事だーっ!」

「あんなデカッ鼻のどこが良いんだよ!」

「なにーっ! 私の青春を馬鹿にする気か!?」

「煩いっ! いい加減にしろ!」

 

その瞬間、激しく机を叩く音が会議室の中に響く。その音の主はせっちゃんであった。

 

「兎に角、明日藤木と不動で模擬戦を行う! それまでに各々準備をしておけ!」

 

その声は明らかに怒気を孕んでおり、せっちゃんの大声を初めて聞いた俺は驚いてしまう。不動さんも同様のようで、背筋を伸ばしその声に聞き入っていた。

 

その後せっちゃんは無言で会議室から退室し、成美さんも後を追うように部屋から出た。

 

「以外と……怖い」

「うん、あんまり逆らわない方がよさそうだね」

 

白衣のオッサン二人も部屋から出て行き、会議室に取り残された俺達はそんな感想を口々に述べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、俺と不動さんの模擬戦が始まろうとしていた。

 

『さて、今回のルールを説明しておく。今回はこちらが用意した近接武装のみで戦ってもらう、ここにはアリーナ用のシールドなんて無いからな。あと、エムロードは使ってもらって構わないが超振動及びエッケザックスは発動するな、攻撃力が高すぎるからな。不動は打鉄用の近接ブレードのみ使用可だ。何か質問はあるか?』

 

俺の目の前には今までの俺の愛機、ヴァーミリオンを纏う不動さんが立っている。彼女は先代生徒会長にしてたっちゃんに二十連勝した猛者中の猛者、もしかしたら今までで最も強い相手かもしれない。

 

「織朱にビットがついたままになってるんですけど、それは使っていいんですか?」

『特別に許可しよう。但し、建物に当てるなよ』

「了解」

『不動は何かあるか?』

「いえ、私はありません」

 

不動さんの様子が今までとは明らかに違う、これが彼女の戦闘モードってやつだろうか。

 

『ならいい。では、試合開始だ。好きなように始めてくれ』

 

そう言ってせっちゃんは通信を切った。俺は展開領域からエムロードを取り出し、中段に構える。

 

「仕掛けてきてもいいよ」

「そっすか。では、行きますよ」

 

俺はおもむろにビットを繋げたまま射撃を行う、不動さんはそれをサイドステップで避ける。その動きには全く無駄が無い、この動き一つで彼女が強者だという事は簡単に解った。

 

「いきなり射撃? ちょっと卑怯じゃない?」

「こちとらそうも言ってられない事情がありましてね」

 

今の織朱は動きが重い、そんな状態で近接戦闘を挑めば軽く蹴散らされてしまうのが関の山だ。とはいえ、こんなビームを打ったところでまともに勝てるとも思わない。

経験、今の織朱に必要なのは経験だ。一次移行に至るまでの経験値を稼げればこの模擬戦は成功なのだ、だから勝つ必要は全く無い。無いのは解ってるんだが……

 

「攻めて来ないなら私から行くよ?」

「ちょ、ちょっと待って」

 

最初からこうも打つ手が無い戦いというのは初めてだ。近距離じゃ勝てない、かと言って射撃もかわされる。どうすればいい、どうすれば……

 

「じれったい、やっぱり攻めさせてもらうよ!」

 

その言葉と共に不動さんが俺に向かって突撃を仕掛ける、一気に俺に近づいた不動さんは上段からの唐竹割りを仕掛けてくる。なんとかそれをエムロードで防御するものの、不動さんのパワーは圧倒的で一気に俺は押し込まれる。

 

「くっ……」

「弱いっ!」

 

エムロードに対する重みが一瞬消えたかと思えば、その次の瞬間に腹部に大きな衝撃が走る。サイドキックを受けたと理解した時には俺は既に地面をバウンドしていた。

 

「っ、痛ってええっ」

「どうした? 織朱の実力はそんなものじゃないだろう?」

「そんなもんなんですけどねぇ……」

 

機体が重いとどうしても動作が緩慢になる、今の戦いが俺と織朱に出来る精一杯だ。

 

「立って、その位は待っててあげるから」

「くっ……そう……」

 

重い機体をなんとか立たせる、もうこれって公開イジメなんじゃないだろうか?

再度俺はエムロードを中段に構える、まだまだこの戦いは終わりそうにない。

 

「もうこうなりゃヤケだ! やれるところまでやってやる!」

 

大声を出して、自分を鼓舞する。もう勝ちとか負けとかどうでもいい、ぶっ倒れるまで戦い抜くだけだ。

 

「いいね、来いよ。藤木君が動けなくなるまで付き合ってあげるよ」

「だらあああああああっ!」

 

緩慢な動きならがらも不動さんに近づき、エムロードを振り下ろす。不動さんはそれを受け止めるがまだまだこれからだ、そのまま俺達は鍔迫り合いに移行する。

 

「うおぉぉぉぉぉっ! だぁあああああああああっ! はいだらああああああああああっ!」

 

意味の無い大声を上げながらエムロードに力を込める。周りから見ればさぞかし滑稽に見えるだろう、実際に相手をする不動さんもつまらなそうな表情だ。

 

「うーん、やっぱり模擬戦でも効果なさそうな気がしてきた。藤木君に織朱は無理みたいだね」

「それだけは嫌なんだよおおおおおおおおおおっ!!」

 

嫌だ、この織朱は俺だけのための機体だ。俺の名を冠するこの機体だけは誰にも譲れない、俺は織朱と共に栄光の道を歩むのだ。だから絶対に不動さんには負けられないんだ!

 

「そうは言ってもねぇ? キミにはやっぱりヴァーミリオンがお似合いだよ」

 

その言葉と共に俺のエムロードは弾かれ、流れるような斬撃が三度俺の身を切り裂く。動きを失った俺はそのままとどめの前蹴りを食らい、格納庫の壁に激突する。

 

「もう、終わりだね」

「嫌だ、嫌だ、嫌だあっ……」

 

こいつは俺の機体なんだ、俺の未来なんだ、俺の栄光なんだ。織朱と名付けられたのは偶然じゃない、きっと俺をこの世界に遣わした神、カズトさんの思し召しなんだ。だから、俺が…………っ!

 

「織朱! お前は俺だ! 俺の力だ! だから……だから動け! 動いてくれよおおおおおおおっ!」

 

思いの丈を全てぶちまける、以前授業でISには意志のようなものがあると習った事がある。だとしたらこの声が届いていてほしい、俺はそう願うしかなかった。

 

「駄目だよ。もう終わろう 、藤木君」

「織朱! 俺に答えてくれ!」

 

意味もあるかどうか解らない叫びがこだまする。不動さんが近づいてきて俺の真の前に立つ、そして俺の腕を握った。その瞬間だった。

 

『オーライ、貴方に力をあげましょう』

『だね、そして今こそ念願の合体の時!』

 

聞こえた、奇跡の声が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした!?」

「織朱が……一次移行を始めています!」

 

藤木と不動が戦っているのを見守っている僕らが居る部屋が急に慌しくなる。ついに藤木は成し遂げたのだ、そしてボクの提案した荒療治はどうやら意味のあるものになったらしい。

 

「観測を続けろ、何か変わったところはないか?」

「織朱のエネルギーが上昇を始めています! この量は……設定値の三倍!?」

「三倍だと!?」

 

研究員の声に部屋の中がざわめきに包まれる、無理もない事だ。

 

「落ち着け、キミ達は与えられた役割をこなすだけでいい」

 

そう言ってボクは再度藤木と不動の様子を観察する、これは面白い事になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理解した、この織朱の全てを。

理解した、俺の前から姿を消したあの人たちの行く末を。

理解した、この織朱が人智を超えたISであることを!

 

「だらあああああああああああっ!」

 

不動さんに掴まれた腕を掴み返し、力任せに放り投げる。投げられた不動さんは空中で姿勢制御をし、音も無く着地する。

 

「ちっ、まだ倒しきれてなかったか!」

 

不動さんの悔しそうな声が聞こえる、しかし俺的にはそんな事に構ってる場合じゃなかった。

 

「久しぶりだな」

『ええ、お久しぶり』

『私も居るからね!』

 

俺の脳内に響く二人の声。それは今となっては懐かしい俺の隣人、天野さんと聖沢さんのものだった。

 

「一体どういう事だ? もしかして俺に落とし前でも付けに来たのか?」

『いやいやいや、滅相もない』

『私達はただ、大好きな藤木君と合体したい一心で』

「合体したい一心で?」

『この機体に憑りついてみました!』

「なんてこったい」

 

天野さんと聖沢さんは一年以上前、IS学園で死亡した女子生徒である。俺の拠点であった特別室は彼女たちの住む部屋の隣で、俺は二人が死人だとは気付かぬまま薄い壁越しに交流を重ねてきた。

しかしそんな日々にも終わりが来た。夏休み最終日に二人は俺と合体したいという理由で俺を襲い、最終的にTさんに退治され、IS学園から姿を消したのだ。

 

『あの後、私達メガフロートまで逃げてきたんだけど』

『偶然そこで藤木君の新専用機を見つけて』

『これなら合法的に合体できるという事で……ね?』

「幽霊に合法もクソもないだろうに」

『合法というか穏便に? って感じよ』

『もうTさんは嫌なんですよ、あんなの食らったら魂が消滅しちゃうから』

「ま、まぁ……俺の力になってくれるんなら構わないが……」

『もっちろん! 元日本代表候補生の私の力、存分に使ってよ!』

『わ、私も整備課志望として色々アドバイスします!』

 

頼もしい仲間が出来た、人外のだが。しかしこれであの兎さんに対抗する術を身につけた気がする、奴とて幽霊と戦う事は想定していないだろう。

そしてその時、せっちゃんから通信が入った。

 

『どうやら一次移行は完了したようだな』

「あっ、はい。お陰様で」

『早速で悪いんだが、このまま模擬戦を続けてもらいたい。想定外の事態が起こったのでこちらとしても観察を続けたいんだ。不動、それでいいか?』

「うっす、こっちは無傷ですし構いませんよ?」

「想定外の事態っていうのは?」

『キミの織朱なのだが、エネルギーが想定値の三倍を記録している。それがどんな動きをするのか見てみたいんだ』

「さ、三倍っすか!?」

『ああ、多分私達のせいだね』

 

確かに今の織朱はある意味三人乗りだ、しかしそれが単純に三倍の性能を有する事になるとは驚きだ。

 

『ん……誰だ、通信に割り込んでるのは』

『天野でーす!』

『私は聖沢です。あの……水無瀬博士、私貴方のファンなんです。サインを頂けないでしょうか?』

『サイン位なら別に構わないが……って、そんな話をしているんじゃない、この回線は一般には秘匿されているはずだぞ。どうやって割り込んだ』

「あー、それなんですが……」

 

せっちゃんにどう説明したものか、この二人が織朱に憑りついている幽霊って言ったところで簡単に信じてもらえそうにはない。

 

『ういっす! 今はこの織朱に憑りついている幽霊やってます!』

『……なんの冗談だ? そういう非科学的な話嫌いだよ、ボクは』

『あっ、まぁ信じてもらえませんよね……』

 

そりゃ信じてもらえるわけがない、幽霊と言った所でその証拠なんて見せる事が出来なければそんな話に何の意味も無い。

 

『ふっ、仕方ないね。なら私達の実力をお見せしますか!』

『えっ、もしかして……ゆうちゃん、やるの?』

『やってやるぜ!』

『一体何をやるつもりだ? ……うわっ! や、やめろっ! うわああああああああああああああっ!』

 

通信越しにせっちゃんの叫び声と、モニタールーム内の喧騒が聞こえる。一体何が起こっているというのだ。

 

『わ、解った! 信じる、信じるからやめてくれ!』

『ふっ、どんなもんだい!』

『す、すみません。手っ取り早く信じてもらうにはこれしかなくて……』

『はぁ……酷い目に遭った……』

「一体何をやったんだ?」

『ポルターガイスト!』

『あと、モニタールームのディスプレイを全て精神的ブラクラに差し替えてみました』

「確かに酷ぇなそりゃ」

『よ、よし。とりあえず模擬戦を続行しよう、観測機器も復活したしこちらには何の問題もない』

 

そういうせっちゃんの声が震えている、しかしここは聞かなかったことにしよう。武士の情けだ。

 

「そ、そっすね。じゃ模擬戦再開しますね。不動さん、お待たせしました」

「いいっていいって、面白い事になってるからね」

『不動せんぱーい、お久しぶりっす!』

「はいはい、お久しぶり。こんな再会になるとは私も予想外だよ。さて、かかって来な。お前達の新しい力、見極めてやるよ」

「先に言っときますけど……今の織朱、めちゃ強いですよ」

「望むところさ」

 

単にこの機体を纏っているだけでも織朱は今までのISとは全く違うというのがよく解る。今までISを装着している時、自分の体に機械を装着しているという感覚があった。しかし織朱は違う、このISが自分の体の一部だというような感覚を覚える。その装甲は俺の皮膚であり、その機械のアームは俺の腕であり手であった。本来人間に存在しない翼すらそんな感覚になる、きっと天使や悪魔もこんな感覚なのだろう。

 

『あっ、いい場所発見。今日からここを私のおうちにしましょう』

『じゃあ私はこっち側にしますね』

 

脳内で二人が会話をしている、おうちってどういう事だろう。

 

「おうち?」

『はい、とりあえず私達はビットの中に居ますので必要とあれば呼んでください』

「ビット……おっ、いい事思いついた」

『ん、なになに?』

「そのビット、二人にあげるよ。だから戦闘中は基本的にはそれで援護してほしい、出来るだろ?」

 

ポルターガイストすら出来る二人だ、この位は簡単だろう。

 

『おっ、いいねいいね。私達も直接戦闘に参加できるって事だね』

「そういう事、俺そのビット全く使えないから丁度いいし」

『うんうん、それに私達が直接動かせるんならブルー・ティアーズよりいい動きが出来ると思うよ。セシリアちゃんはあの全てを一人で運用しないといけないからどうしても精度がね』

『簡単に言えば、ビット一つに割ける人的リソースの割合が私達とは圧倒的に違いますからね。まぁ、私は元々戦闘向きじゃないのであまりお役に立てないかと思いますが』

「あの時、篠ノ之さんの腕を絞り上げていた人の台詞じゃない気がするんだが」

『それでもゆうちゃんに比べればまだまだですよ』

 

あれで天野さんと比べればまだまだだっていうのか、だったら天野さんの実力はいかほどのものなのだろうか。確か織斑先生の後継の役割を期待されてたって言われてたんだったか、それって滅茶苦茶強いじゃん。

 

「おーい、そろそろ模擬戦再開しようよー」

「あっ、すいません。ついつい話し込じゃって。さて天野さん、聖沢さん。俺に力を貸してくれ」

『そんな呼び方じゃ駄目よ、私達は一心同体なんだからもっとフランクに行きましょう』

「だったらどう呼べばいいんだよ?」

『私の事はゆうちゃんって呼んでね』

『私は……あだ名がないので名前で呼んでくれて構わないです』

「そうかい。では、ゆうちゃん、霊華さん。準備はいいかい?」

『『yeah!』』

 

なんだか急にノリがアメリカンだが気にしないでおこう、俺はエムロードを構えなおし超振動を発動させた。

 

「ちょ、超振動は使用禁止だってば!」

「あっ、そうだった。ついついノリで出しちゃった」

『いや、構わない。超振動を使ってみろ』

「いいんすか?」

『ああ、織朱の武装の使用データが不足しているからな。不動、構わないか?』

「あなたにそう言われて拒否出来るほど私は偉くないんだよなぁ」

『だそうだ。藤木、全力を以って不動を倒せ』

「了解っす」

 

超振動のせいで唸りを上げるエムロード、それを見た不動さんもさっきと同じように近接ブレードを構えた。

 

「さて、行こうか。なんかアドバイスとかあるか?」

『はい、インストラクション・ワンです』

 

俺の問いに霊華さんが答える。インストラクション・ワン……一体何を教えてくれるというのか。

 

「百発のスリケンで倒せぬ相手だからといって、一発の力に頼ってはならぬ。ってやつか?」

『いえ、この日のためにオリジナルマニューバを考えてきました』

「ほう、準備がいい」

『その名も迅雷跳躍(ライトニング・ステップ)です。プラズマ推進翼を装備する事で可能になる技で、これを使えば瞬時に前後左右の移動が出来るようになります』

「ほうほう、奇襲とかに使用できそうだな」

『奇襲後にもそのまま再度迅雷跳躍を行う事によって追撃も可能になるはずです、テレパシーでイメージを伝えますのでちょっと待って下さい』

「テレパシーか、もうなんでもアリだな」

 

次の瞬間、霊華さんから迅雷跳躍に関するイメージめいたものが頭の中に直接流れてくる。一瞬ズキリと頭が痛むが、それもすぐに治まり俺は迅雷跳躍のやり方をマスターする。

 

「お、おおっ。これってもしかしてすっげえ便利じゃね?」

『迅雷跳躍がですか?』

「いや、テレパシー。迅雷跳躍を一瞬でマスターできるとは」

『でも、脳に対する負荷が大きいんで何度も使えませんけどね』

「仮に使いすぎるとどうなるんだ?」

『悪くて脳死、良くて廃人になります』

「怖っ、まさに切り札って感じだな」

『まぁ、今回はお試しという事で。さぁ、不動さんが待っていますよ』

「そだな、いつまでも待たせたら悪いもんな。ところで援護はしてくれるのか?」

『あっ、今回はパス。今は織朱に慣れるのが優先って事で』

「オーケイ、今回は一人で戦ってみる」

『頑張ってね~』

 

ゆうちゃんのゆるい応援を受けながら俺は再度不動さんを見据える、散々待たされた不動さんは退屈そうにしていた。

 

「お待たせしました、今度こそ行きますよ?」

「いつでもどうぞ」

 

不動さんが話し終えた瞬間、俺は迅雷跳躍を発動。一瞬で不動さんの目の前に躍り出る。

 

「速っ!」

「うわっ!」

 

俺は迅雷跳躍を止めるタイミングを間違いそのまま不動さんに撃突、不動さんは俺の体当たりを食らって吹っ飛んだ。

前言撤回、まだ迅雷跳躍をマスターし切れてないようだ。

 

『止めるタイミングは自分の体で覚えるしかありません、練習と集中力の鍛錬が必要なようですね』

「そういうのは先に言ってくれればいいのに……」

 

霊華さんには悪いが今回は迅雷跳躍を使うのはやめにしておこう、これはもうちょっと練習してからじゃないと相手どころか自分も危ない。

 

「あ痛たたたっ。完全に不意を突かれたわ」

「すんません、本当はもう少しうまく出来るはずだったんですけど」

「いいって、これも仕事の内だから」

 

土煙から不動さんが出てくる、まだまだ戦いは終わりそうになかった。

 

「仕切り直し、行くぜ?」

「今度はさっきのようにはいかないよ?」

「上等っ!」

 

プラズマ推進翼のエネルギーを開放し、今度は不動さんの真横に移動する。そこからエムロードを両手に持ち、俺は袈裟切りを放つ。

 

「その位じゃ、私を倒せないよ!」

 

俺の斬撃を不動さんは近接ブレードで弾く、しかしパワーの差があるのか不動さんが仰け反る。

 

「もろたで工藤!」

「私は不動だっ! それにさんをつけろよデコ助野郎!」

 

仰け反りながらも再度近接ブレードを振り下ろす不動さん、俺は今まさに振り下ろされている腕の手首に狙いを定めた。

手というのはISの中でも最も間接が密集している場所で、必然的に一番脆くなってしまう場所だ。しかもヴァーミリオンは固定武装がなく、腕を失うという事は攻撃手段を失うという事になる。

ならばここを切り落とせば勝利は確定したも同然、俺は超振動の威力を最大にして手首目掛けてそれを斬り上げる。

 

「……っ!」

 

熱いナイフでバターを切るかのように抵抗もなく手首が斬られ宙を舞う、次の瞬間には俺はエムロードを不動さんの首筋に当てていた。

 

「……ま、まいった」

 

宙を舞う手首がついた近接ブレードが地面に突き刺さる。俺は勝った、スイーツ(笑)

 

「やったぜ」

「やられちまったぜ」

 

エムロードを展開領域に収納する。しかし不動さんをここまで圧倒できるとは、この織朱の力は凄まじい。

 

『よし、これで模擬戦は終了だ。二人とも、片付けが終わり次第レポートを提出しろ』

「うへぇ、まだ仕事っすか」

『文句を言うな。後、天野と聖沢の件はこの場に居る者だけの秘密だ。口外しないように』

「え、それでいいんですか?」

『上層部に対して織朱に幽霊が憑りついたのでとても強くなりましたと報告しろと?』

「あ、いや……まぁそうですよね」

『とにかく、これで終了だ。それと不動、お前はヴァーミリオンの修理をしておけ。出来るだけ早くな』

「手首、吹っ飛んじゃいましたもんね」

『早く仕事を終わらせればそれだけ早くIS学園に帰れる。藤木、キミも早く帰って織朱を自慢したいんだろう? だったら不動の手伝いでもしてみるか?』

「ば、ばれてる!」

 

そうだ、早くIS学園に帰りたい。そしてラウラと和解し、織朱の力を見せ付けてやるのだ。




お盆、そりゃ幽霊も帰ってきます

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