インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第67話 オリ主・ニュービギニング

「おり……しゅ?」

「ええ、オリ主。何か文句でもある?」

 

文句なら大有りだ、なんでよりにもよってそんな名前なんだと言ってやりたい。しかしそんな事言える訳が無い、俺が神様転生したオリ主だなんて言っても誰も信じちゃくれないからだ。

 

「…………い、いや別に……」

 

というわけで俺はこう言うしかない、しかし楢崎さんはどういう意図でこんな名前をつけたんだろうか?

 

「ええと、漢字で書くと織斑君の織に朱色の朱で織朱ね。私的にはそんなに格好悪い名前だとは思わないんだけど」

 

なんだ、オリ主ではないらしい。どうやらさっきのは俺の聞き間違いだったようだ。いや、ちょっと違うけど。

 

「なんだ、織朱か。俺はてっきりオリ主だと思って焦りましたよ」

「藤木君、自分で自分が言ってる事がおかしいと思わないのかしら?」

 

うん、確かにおかしい。楢崎さん達はオリ主というキーワードを知らないのだ、ならば俺が言っている言葉がおかしく感じるのも致し方なしか。ん、待てよ。織朱って……

 

「織朱……織朱か……どこかで聞いたことあるようなキーワードなんですが……」

「ええ、藤木君はこの名前をよく知ってるはずよ」

「ええと……ちょっと待ってください。昔聞いたような名前なんですよ……」

 

俺はオリ主頭脳をフル回転させ記憶を掘り起こす、そうするとその名前の正体が判明した。

 

「思い出した、その織朱って俺の昔の学校の名前じゃないですか!」

「はい正解! 自分の母校の割りに随分時間が掛かったわね」

「それはそうとして、なんでその俺の母校の名前が付いてるんですか?」

「それは……多分ボクのせいだ」

 

せっちゃんが後ろめたさを感じさせるような声で言う、それはいつものせっちゃんの自信ありそうな態度とは真反対のものだった。

 

「せっちゃんのせい?」

「結果的に見ればそうかもしれませんね。では、藤木君に何故この機体に織朱という名前が付けられたのか説明しましょう」

「はい、よろしくお願いします」

 

この機体の名前はよりにもよって織朱。それは実際には神の思し召しかもしれないが、それに至るには合理的な理由が必要だ。なにせこの機体は三津村の看板たる俺の専用機なのだから。

 

「この機体、織朱は本来ならもっと早くに開発終了しているはずの機体だったのはご存知かしら?」

「そうなんですか? ……いや、そうなんでしょうね。織朱の開発名称はプロトタイプ・ヴァーミリオン・カスタム、本来ならカスタムって名前は入るべきじゃなかった。それが開発の遅れの原因ですかね。そしてよりにもよって派生機体であるヴァーミリオンが先に開発終了してしまったことからそれは三津村にとっても予想外の出来事だったんでしょう」

「ええ、三津村の看板たる藤木君を乗せる機体として経営陣は世界最強のスペックを要求したわ。しかしそれにしても時間が掛かりすぎた、そして時間が掛かるという事は……」

「必然的にコストも掛る、ってところですか?」

「その通り、そして幾ら世界最強のスペックを要求するとは言ってもその予算には限りがある」

「しかも、開発チーム内部のロマン派は余計なものまで開発計画に組み込んだ。そうすれば限られた予算は更に圧迫される事になる」

 

俺達の話にせっちゃんが口を挟む、多分試製強粒子砲の事だろう。

 

「そして何度か予算の増額は行われたけどついに経営陣の堪忍袋の尾は切れてしまい、経営陣は開発チームにある要求をする事になったわ」

「ある要求?」

 

なんだろう、順当に行けば無駄な開発の削減か? いや、それは結果的にありえない。既に試製強粒子砲は完成しているのだから。

 

「経営陣は、開発チームに独自に資金を調達するように命令してきた。そしてそれが出来ないのなら新専用機の開発を打ち切りにすると」

「お、おお……」

 

今の三津村の経営は火の車、織朱の開発に加えデュノア社買収やヴァーミリオン・プロジェクトも発足してついに経営陣も音を上げたのだろう。

 

「そこでボク達は独自にスポンサー探しをする事になった」

「そこで手を上げたのが織朱大学、ひいてはその経営母体である学校法人織朱学園ですか」

「ええ、織朱学園は資金提供の見返りにあるものを要求してきたわ」

 

ああ、もうここまで来ればその見返りというのは一目瞭然だ。

 

「ネーミングライツ、いわゆる命名権ですね?」

「ええ、その通り。と言いたいところだけどネーミングライツってのは施設命名権って意味でちょっと違うわよ」

「そんな小さな間違いに突っ込まなくたってええやん」

 

やっぱりそうだった……しかしISの名前に命名権を導入するなんて前代未聞だ。

 

「やっぱそうかぁ……」

「嫌なら変えていいのよ?」

「えっ、いいの? 俺好みの名前付けちゃいますよ?」

「ええ、但し年間で2億払う事が出来ればの話だけど」

「そんなの俺には無理に決まってるじゃないですか……」

 

俺の希望は一瞬で打ち砕かれた、もうこの機体の名は織朱しかなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の午後、ようやく織朱の初搭乗の時間となった。そして、新専用機移行に伴い俺には新しいISスーツが用意されていた。スーツのあちこちに幾何学的なライン模様が入っているがこれは織朱を装備した時に映えるようにデザインされたものなんだとか、スーツ単体でもそこまで格好悪いものではなかったの俺的には特にいう事はなかった。

 

「さて、早速始めようか」

「了解っす」

 

せっちゃんに言われて俺は織朱の目の前に立つ。これが『オリ主』の名を冠する俺のために作られ、これからの生涯のパートナーとして俺の命を預けるISだ。

俺はこの機体を駆り、世界を脅かす悪と戦うのだ。そしてこれがファーストコンタクト、否が応にも緊張するというものだ。

 

「織朱、俺がお前のご主人様だ。これからお前は俺と共に多くの戦いに赴く事になる、だからその力を俺に貸せ」

 

誰に言うわけでもなく、そんな言葉が出てくる。些か感傷的になってるようだ。

そして俺は織朱に背中を預ける。そうすると織朱はひとりでに動き出し、俺の体に鋼の鎧を纏わせていった。

 

「これが、織朱か……」

 

装着した感想としてはあまりヴァーミリオンと変わらない気がした。しかし何故だろう、何かしっくりこないような感覚も覚える。いやいや、それはありえない。これは三津村の天才せっちゃんが俺のためだけに作ったISだ、多分俺が緊張しているせいだろう。

 

「よし、装着は問題なく行えたな。早速だが動作確認を始めよう、とりあえず歩いてみてくれ」

「了解……っ。お、重い」

「重いだと?」

 

重い、機体が重い。実際はパワーアシストがあるため動けないほどの重さではないし、パワーアシストを切って動いても俺の体力なら普通に動かす事は出来る。しかし、今はちゃんとPICもパワーアシストも入れているというのに普段感じるISの重さとは比較にならない位重かった。

 

「い、一旦外します。なんだかうまく動かなくて……」

「解った、一度機体のチェックを行う。それまで休憩してていいぞ」

 

そう言われて、織朱の装着を解除する。織朱から抜け出した俺とは正反対にせっちゃんと成美さんが織朱へと駆け寄り、機体のチェックを始める。

 

「大丈夫?」

「まぁ、大丈夫ですけど……一体何があったんだ。確かに重いって言っても動けない程じゃないんだけど、あんな重さじゃこれから戦う相手にはついていける訳がない」

「ここまで来るまでに何度もテストは重ねているはずなんだけど」

 

その間も織朱のチェックは続いている、今は成美さんが織朱を装着し基本的な動作を繰り返している。しかし、その動きは俺が装着した時と比べかなり軽快そうだ。

 

「……問題なさそうだな」

「……うん、問題ないね」

 

水無瀬夫妻はどうやらその結論に至ったらしい、だったらどういう事なんだ。

 

「問題ないんですか?」

「ああ、そうだ。成実が動かした限りでは問題なかったし、システムやハードにエラーは出ていない」

「成実? せっちゃん成実さんの事名前で呼ぶようになったんですね」

「ああ、最近三十歳の誕生日を迎えたからな。三十路にもなって厨二病なんて格好悪いだろう?」

「あっ、やっとその結論にたどり着いたんですね。でも十五年程遅かったと思いますよ」

「その話はやめてくれ、捨て去りたい過去の思い出なんだ」

「まぁ、いいですけど……結局問題はなかったわけですか」

「そうだな。しかし、そもそも男がISに乗る事自体がおかしい話なわけだしもしかしたら男が乗る事によって起こる不具合があるのかもしれない」

「いままではそれがたまたま起きなかっただけって可能性も考えられるって事ですね?」

「ああ、あくまで仮定の話だがな。それに問題となる可能性のものがもう一つ考えられる」

「もう一つの問題の可能性?」

「ああ、別に教えて何があるわけじゃないからあえて今まで言わなかったんだがこの機体のコアには以前篠ノ之束から頂戴した無人機の物が使用されている」

 

それは……中々問題がありそうな気がする。

 

「衝撃の事実をさらっと言いましたね」

「今、三津村の保有しているコアは全てヴァーミリオンに搭載されているからな」

「俺のためにコアを空けてたんじゃないんですか?」

「ヴァーミリオンの普及のためには致し方なかったんだ、それにキミがいきなりコアを持ってくるのがいけないんだ」

「俺のせいにしないでくださいよ」

 

臨海学校で兎が現れた日の夜、俺とシャルロットが海辺の工場で無人機に襲われたのを思い出す。無人機は俺の華麗な戦いにより難なく撃破されたが、その時に俺は無人機の残骸とコアを回収していた。まさか、あの時のコアが織朱に使われているとは……

 

「兎に角だ、機体の方に問題は一切見当たらない。キミには悪いがこのまま動かし続けてくれ、もしかしたら一次移行で何か進展があるかもしれない」

「もうそれしか無さそうですね、仮に一次移行で進展がなかった場合ですが」

「その時はヴァーミリオンを全力でカスタマイズするしかないようだな、そしてこの織朱は野村かデュノアにでも使わせよう」

「そうですか、そうならない事を祈りたいですね」

「全くだ」

 

俺の新専用機、織朱の未来にいきなりの暗雲が立ち込める。しかしこの機体の名は織朱、俺の名を冠する機体なので有希子さんはもちろんシャルロットにだって渡したくはない。

とはいえ、今出来る事はこの重い織朱を動かして一次移行を迎えることだけだ。だから頑張ろう、俺と織朱の未来のためにも。




次回も月曜更新の予定ですが、話の流れに何の関係もない上に酷い出来になってますので見なくていいです。

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