インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第65話 青春劇場、開幕

「そ、そうだったのか……」

「ああ、つまり全部ラウラの勘違いで紀春はヨスガってないんだよ。多分」

「なんてことだ…なんてことだ… それなのに私は兄にひどいことを言って傷つけてしまった」

「紀春が仕事から帰ってきたら謝ろうな」

「あ、ああ。でも兄は私を許してくれるだろうか……」

「大丈夫、多分ラウラなら許してもらえるって」

 

朝の教室。そこで僕は一夏に今朝あったことを相談し、ラウラに男性の生理現象について話をしてもらった。

それを聞いたラウラの顔はすっかりと青ざめ、今は頭を抱えて絶望に打ちひしがれている。

でもこれで大丈夫なはずだ。後は僕が紀春にラウラの誤解は解けたってメールでもして、少し時間を置けば二人の関係も修復される事になるだろう。

 

「はーい、みなさんSHRを始めますよ~席についてくださーい」

 

そんな中、山田先生が教室に入ってくる。僕も席に戻ろう。

 

「ええとですね、知ってる人も居るかも知れませんが今日から藤木君が当分お休みする事になりました」

「せんせー、なんで休んでるんですか?」

「それが私もよく解らないんです。デュノアさん、何か藤木君から聞いてませんか?」

「あ、はい。聞いてます。詳しくは話せないんですけど緊急の仕事が入ったみたいです」

「ほうほう、藤木君はお仕事と…… まだ若いのに大変ですね、みなさんも藤木君に負けないように頑張りましょうね」

 

山田先生の顔がいつもより明るい気がする、多分問題児の紀春から解放されて喜んでいるんだと思う。

そしてSHRは続いていく、次の話題は専用機持ちタッグマッチについてだ。僕もこれに出場するわけだし早くペアを決めないと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事があった日の翌日のIS学園整備室、本来ここは二年からはじまる整備課の城とも言える場所で関係者以外はあまり入ってこない。しかしそこに入り浸る一年女子が一人、更識簪であった。

 

「……各駆動部の反応が悪い。どうして……」

「それは単純にハードの問題だね、機体重量に対して間接部の部品の性能が追いついてないんだ。いくらソフトウェアをいじってエネルギーバランスを変えてみてもその問題からは永遠に解決されないよ」

 

簪が振り向く、そこには三津村重工所属でこの学園で紀春のサポートを仕事にしている不動奈緒の姿があった。そして彼女もこの整備室に入り浸る者の一人であった。

 

「不動さん……」

「となると考えられる解決策は大きく分けて三つ、一つ目は間接部の部品を更に性能の良いものに替える。二つ目は装甲を削る。ええと、この場合だと二十キロ位削ればなんとかなるかな? まぁそんな事をすれば機体バランスの計算を一からやり直す羽目になるし防御力の低下にも繋がるからおススメはしないけどね。そして最後の三つ目はおススメだよ、簪ちゃんがダイエットする! やっぱり女の子はいつも体重が気になっちゃう生き物だからね、でもこれをすれば簪ちゃんはもっと痩せて駆動部の不具合も解消と一石二鳥だよ!」

「……でも二十キロ痩せないといけないんですよね?」

「そうだね!」

「私死んじゃうじゃないですか……」

 

確かに太ってもいない簪が二十キロも痩せるとなると死の危険が伴う、しかしそれは不動の冗談だという事は簪にも解っていた。

 

「だとすると間接部の部品の交換しかないわけですか」

「そういう事になるね」

「ええと、倉式技研のパーツ類のカタログは……」

 

空中投影ディスプレイにカタログが映し出される、それをしばらく眺めていた二人であったがお眼鏡に適うものは見つけられなかった。

 

「こ、これじゃ私がダイエットするしかないじゃないですか……」

「ええと、確か……」

 

そんな簪の言葉を他所に不動は持っていたノートパソコンをいじる。

 

「おっ、これならいけるんじゃない?」

 

簪が不動の持っているノートパソコンのディスプレイを見る。そこにはとんでもない物が映っていた。

 

「これは、三津村重工のパーツじゃないですか。しかもこれってまだ正式に世に出てないヴァーミリオンの専用パーツですよね……」

「そうだね、まぁ専用って言っても多少の組み換えは効くように出来てるから多分簪ちゃんのISにも組み込めると思うよ?」

「でも、どうやってこれを入手するんですか?」

「私を誰だと思ってるんだい、これでも三津村重工開発部の正式な社員だよ?」

 

不動は胸を張りドヤ顔を決める、しかしそれでもなお簪は不安そうだった。

 

「でも、不動さんって所詮新入社員ですしそこまでの権限はないんじゃないんですか?」

「ああ、煩いなぁ。さっきからでもとかだってばっかりじゃないか! そんなに私に助けられるのが嫌か!?」

「そ、そうじゃなくて……」

「だったら簪ちゃんは、はい、お願いしますって言えばいいんだよ」

「…………」

 

簪が俯く、彼女は見た目に反して強情な所がある。しかし不動もそれをこれまでの付き合いでその事は充分承知していた。

不動は簪の両肩に手を置き、まるで諭すかのように話しかけた。

 

「簪ちゃん、君は今まで自分一人でこの機体を開発していると思ってるかもしれない。でもそれは間違いだよ。確かにこの機体は白式開発の煽りを受けて開発が途中で中止になったものだけど、それでも途中までは倉式技研の開発者たちが作ってくれたものだ。それにその後だって君は多くの人の手を借りている、もしかして気付いてないのかい?」

 

簪があたりを見回すと整備室の中に居る多くの人が自分を見ている事に気付いた。そしてもう一つの事にも気付いた、彼女たちが自分を支えてくれていた事を。それはほんのさり気ないものだった、簪が使う工作機械の整備をしてみたり、ソフトウェア用の教本を用意してくれていたり、喉が渇けばジュースを持って来てくれたりとその程度のものだ。しかし、そのさり気ない気配りに簪は今の今まで気付いていなかったのだ。

 

「簪ちゃんは気付いてなかったかもしれないけど彼女たちはずっと君の事を支えてくれいてくれたよ、だからこの機体を自分一人で開発してるなんて思っちゃ駄目だ」

「でも、何で私なんかのために……」

「みんな簪ちゃんの事が好きだからだよ、それに頑張ってる人って応援したくなるものじゃない? あと今ここに居る人だけじゃないよ、藤木君も織斑君も君の事を想ってる」

「えっ……」

 

一夏に対しては最近やたらと絡んでくるので思うところはあった、しかし紀春が自分を応援してるとは簪には信じられなかった。

 

「はい、これ。藤木君から簪ちゃんへのプレゼント。機会を見て渡してくれって頼まれたの」

 

不動はカバンから分厚い紙の束を差し出す。簪はその表紙に書いてある文字を読み、その内容がなんであるかを把握する。

 

「これは、ヴァーミリオンの基礎データ!? なんで藤木さんが……」

「打鉄弐式がラファール・リヴァイヴを参考にしているんならヴァーミリオンのデータは役にたつんじゃないかってさ。それに同じ打鉄ストなら助けないわけにはいかないって言ってた」

「そんな、藤木さんまで……」

 

簪は自分が多くの人たちに支えられてるという事を痛感した。それに目の前にいる不動にすら数々のアドバイスをもらっているのも思い出した。

 

「ごめんなさい、不動さん。私、こんなに恩知らずな人間だったなんて……」

「いーのいーの、みんな好きでやってる事なんだから。さて、簪ちゃん。最初の話の答えを聞かせてもらおうか、私達に君を助けさせてもらえるかな?」

 

もう簪の心は決まっていた、この人たちと共に打鉄弐式を完成させたいと。そして簪がその答えを言い始めた時、整備室の扉が乱暴に開かれる。

 

「はい、「簪さん! 俺とタッグを組んでくれ!」お願いします。……はい?」

 

整備室に一夏が入ってくる、そしてその表情は晴れやかだった。

 

「やったああ! 組むって言ったな! な!? よし! それじゃあダッシュで職員室だ! 不動さん! 簪さん借りてくから!」

「はいはい、いってら。開発の続きあるから早めに戻って来てね」

「了解です! いくぞ簪さん!」

 

一夏は簪を小脇に抱え上げ猛スピードで整備室から出て行く、その姿を残った面々が笑いながら見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、こんな事に……」

「いいじゃん、それに途中で拒否らなかったんでしょう? なら簪ちゃんの負けだよ」

「それは、そうなんですけど……」

 

簪は整備室に戻り、愚痴を吐いていた。一夏はというと問題しかない白式のエネルギー効率の調整を他の整備課の人々と共に再調整をしていた。

 

「とりあえず、間接部の問題は解決したも同然だね」

「まさかあんなに早くパーツが届けられるなんて」

 

簪がこの整備室に帰ってきた直後、S○G○W○がやってきてパーツが届けられたのだ。ちなみにパーツに損傷はなかった。

 

「S○G○W○、侮ってました。というかISのパーツって宅急便で届くんですね」

「流石に私もびっくりだよ。さて、他の問題も一気に片付けちゃおうか」

「ええと、後はマルチロックオンシステムによるミサイル誘導の問題と、荷電粒子砲の問題ですね」

 

どちらも圧倒的にデータが足りていない代物だ、荷電粒子砲については白式のデータを参考になんとかなりそうだという事になったがマルチロックオンシステムについてはどうにもうまくいかない。

 

「荷電粒子砲については織斑君に頼むとして……ミサイルについては私に任せてよ」

「何か当てでもあるんですか?」

「もちろん。ええと、これだね」

 

二人の目の前の空中投影ディスプレイに新しい映像が映る、そこには戦闘機が映し出されていた。

 

「……戦闘機? これが何の役に立つんですか?」

「違う違う、これは戦闘機じゃなくて立派なISのパッケージだよ」

「もしかして……ストームブレイカー……」

「正解、男性IS操縦者から世界を脅かすテロリストも愛用する世界最速のパッケージだよ」

「テロリスト?」

「あっ、やべっ。今の聞かなかったことにしといて」

「わ、解りました。しかしそんなモノが何の役に……あっ、そうか……」

「ミサイルベイに積まれてるマイクロミサイルは多重ロックシステムを使用してるからね。まぁマルチロックと多重ロックでは勝手が違うんだけど、軽くシステムをいじればそれっぽいものが出来上がるよ。そこからは簪ちゃんの腕の見せ所だね」

「こんな物まで…… 私、不動さんに何てお礼を言ったらいいか」

「だから気にしないでって言ったでしょう。それに、もう最後だからね」

「えっ……」

 

不動の言った言葉に簪の心がざわめく。最後という言葉が何を意味するか、そんな事が解らないような歳でもなかった。

 

「不動さん、最後ってどういう……」

「私、今日でこの学園を出て行くことになったんだ」

 

ざわめく簪を他所に不動はあっけらかんとした物言いで簪にとっては重大な事柄を告げる。

 

「もうここでする事がなくなっちゃったんだよねぇ、藤木君の新専用機も完成してしまったからデータを取る理由もなくなっちゃった」

 

不動の仕事とはあくまで紀春の新専用機開発のためのデータ収集とそのサポートである、故に新専用機が開発されれば彼女がここに居る理由もなくなる。

 

「そ、そんな……私、不動さんが居ないと……」

「簪ちゃんはもう大丈夫だよ、君にはもうたくさんの仲間がいるでしょ?」

「でも、嫌です……」

 

簪は不動の着ている白衣の裾をぎゅっと握り締め俯く、そしてその頬からは涙が流れていた。

 

「ああ、もう可愛いなぁ! そんな事されたら出て行きたくなくなっちゃうじゃないか!」

「だったら、行かないでください……」

 

無茶なお願いをしているのは自分でもよく解っているはずだ、しかしそんな言葉しか簪の口からは出てこなかった。

そんな時、簪の背中に不動の腕が回される。そして、自然と抱きしめるような形となった。

 

「簪ちゃん、君はもう大丈夫。初めて会ったときは危なっかしい子だなって思ってたけど、あの時と今の君じゃ違うだろう?」

「でも、でも……」

「でもでもだっては君の悪い癖だね、だから藤木君にも叱られるんだ。あんな説教もう嫌だろう」

「それでいいですからっ……」

「駄目だよ。簪ちゃんの専用機はもうすぐ完成する、そうすれば君も専用機持ちとして大きな責任を負うことになる。そうするともう逃げる場所はなくなるよ、時には自分一人の力で戦わなくてはいけない日だって来る。でもそんなんじゃ私は心配だよ」

「だったら、専用機なんて要りません……だからずっと一緒に……」

「いい加減にしろ更識簪っ!」

 

抱きしめていた腕を解くと同時に、不動の張り手が濡れている簪の頬を打つ。その衝撃はすさまじく、簪は座っていた椅子から転げ落ちた。

 

「ふ、不動……さん?」

「甘えるな、君がこれから行く世界はそんなものを許してくれるような場所じゃないんだぞ? 私だって藤木君を通して多少はその世界を見てきたから解る、あそこは一瞬の隙が命取りになる恐ろしい場所だ。藤木君も織斑君だってこの学園に来てもう何度も死ぬような目に遭ってきている、そんな場所に甘えなんて持ち込んだら死ぬんだよ!」

 

それを見ている一夏はこの状況を止めようともしない、不動が言っている事が正しいからだ。この学園に来て以来自分や仲間たちが死ぬような目に遭ってきた回数は両手では数え切れない、そしてその度に自分の中の甘さや弱さを少しづつ切り落としてきたつもりだ。

紀春だって普段は冗談や出鱈目ばかりを言っておちゃらけているが、彼だって戦いのために普段から自分を鍛え続けている。そして最近は特にその傾向が強い。

 

「簪ちゃん。もう戻れないよ、君がその力を望んだんだから。話が違うって喚いてもそんな事だれも気にしちゃくれない、それとも君のお姉ちゃんに泣きついてみるかい? あの人ならなんとかしてくれるかもしれないよ?」

「それは……嫌です……」

 

涙を流す簪が絞りだすように答える、それが彼女の精一杯の強がりだった。

 

「だったらもう泣くな。涙は視界を曇らせる、そしたら戦えなくなるよ。簪ちゃん、強くなってね。いつか私が君に色々教えてたと世界中に誇れる位に」

「はい、頑張りますっ」

 

不動はそれを聞いて満足そうな顔をして振り返る、そして整備室の出口に向かって歩き出した。

 

「不動さん! ありがとうございましたっ!」

「ありがとうございましたっ!!」

 

簪に続いて整備室の面々が声を揃えてそう言う。不動は簪がこんな大声を出すのかと少し驚きながらも背を向けたまま手を振り、満足そうな笑みを浮かべたまま整備室を後にした。

 

(せ、青春してるなぁ……)

 

そんな中、一夏は一人そんな事を思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九月も後半になってくると流石に日の入りも早くなってくる、まだ午後六時だというのに外は真っ暗だ。

さて、この後はどうしよう。帰るための荷物は昨日の時点で送ってるし、そもそも今日私は休日だ。それなのにまぁあんな小っ恥ずかしいことをしてしまうとはね。ああ、思い出すと背中が痒くなってくる。

 

「で、いつまで私をストーキングしてるんだい? 会長さん」

「あっ、ばれました?」

 

そう言いながら物陰からたっちゃんが姿を現す、この学園を卒業してもここに入り浸っていた私だったがこうやって直接会うのは卒業式以来の出来事で随分懐かしく感じる。

 

「どうせ知ってると思うけど私今日でここを出る事になってるから」

「はい、あのやり取りは全部見てました」

「はぁ、相変わらず趣味悪りぃね」

「趣味の悪い稼業をやってますから、仕方ないですね」

 

あんな青春劇場なんて私の柄じゃない、それを見られていたと思うと尚更恥ずかしい。ああ、やっぱりやりすぎたかなぁ、でもあれは全部簪ちゃんが可愛いのが悪いんだ。だから仕方ないね。

 

「あの、妹がお世話になりましたっ!」

 

そう言ってたっちゃんが頭を下げる。

 

「おいおい、やめろって。今のキミはそんな簡単に頭を下げていい立場じゃないだろう?」

 

ロシア国家代表にして暗部組織の長、更には現IS学園生徒会長。そんな肩書きを持つ彼女に頭を下げさせる事が出来る人間がこの世界にどれだけ居るだろうか。かたや私は一介の高卒平社員、頭を下げさせるどころか頭を下げっぱなしの毎日を送っている。主にあの厨二病患者に。

 

「いえ、不動先輩は特別ですから」

「先輩か……キミに先輩らしい事をした記憶があまりないんだけど」

「そうでもないですよ、私のISだって先輩のアドバイスがあったから完成したようなものですし。それに、あの時の事だって……」

「そんな事もう忘れたよ、それにキミを支えてくれたのは私だけじゃないだろう?」

 

たっちゃんのIS開発に対する私の貢献度なんて雀の涙ほどしかない、むしろその頃の私は打鉄・改開発や幽貴や霊華の死亡事故の後片付けに力を注いでいた。あの二人もつまらない事で死んだものだ、もしあの二人が生きていたならIS学園はもっと面白い所になっていただろうに。

 

「そして何より簪ちゃんをここまで育てていただきました」

「おねーちゃんが頼りないからね、代わりに私が頑張るしかないだろう」

「う、それは……」

「はははっ、まぁ気にするなって! 私も楽しかったから」

 

私はたっちゃんの背中をばしばしと叩きながら笑ってみせる、この姉妹の確執も随分前から知ってる事だった。でもそれから色々な事があった、きっと大丈夫なはずだ。

 

「じゃ、私はもう行くよ。いつまでもここに留まっていたら未練が出てくる」

「そうですか……」

「という事でIS学園の平和はキミに任せた。これからも忙しい事になると思うけど期待してるぜ、会長さん」

 

そう言って私は歩き出した、今度こそこの学園からおさらばだ。

 

「はい、任せてください。前会長」

 

そんな言葉を聞きながら私は歩き続ける。さぁ、明日からは群馬に出張だ。藤木君が新専用機に悪戦苦闘しているらしいからサポートをしてやらないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッグマッチ当日のアリーナ、そこは地獄絵図と化していた。試合開始の直前に無人機の乱入があり、俺達は一方的な展開を強いられている。

 

「ほ、箒、簪。行けるか?」

「ここで行けないなんて言えないだろう?」

「う、うん……」

「……そうだよな」

 

その結果、楯無さんは戦闘不能に、そして簪は楯無さんを守るように後ろに立っている。

最大戦力の楯無さんが戦闘不能なのは痛すぎる、しかしやるしかない。エネルギーが心もとないがやるしかないのだ。

 

「ちっ、来るなっ!」

 

簪を襲おうとしている無人機に反射的に雪羅を放つ。しかしそれは避けられ、アリーナのカタパルト部分に命中する。

いや、これでいい。エネルギーは更に心許なくなってしまったが簪を一時的に守れたのだから万々歳だ。

 

「一夏っ、前だ!」

「えっ?」

 

簪に意識を取られているうちに目の前に無人機がブレードを振りかぶりながら踊り出る、そしてそれに対し俺は何の対抗手段も持ち合わせて居なかった。

 

「……っ!」

 

しかし俺にブレードが当たろうかとしたその瞬間、無人機は動きを止める。そしてその代わりに無人機はエメラルドのように輝く刃がついた剣を胸から生やしていた。

 

「乾く、乾くねぇ……こんなんじゃ全然滾らないじゃないか」

 

剣が抜かれると同時に今度はその胸から赤い腕が生える。そしてその腕はISコアを握り締めていた。

そしてその腕が引き抜かれると無人機は力を失い倒れる。そしてその後ろにはヴァーミリオンによく似た、しかし明らかに違う真っ赤なISが立っていた。

 

「だ、誰だ……」

 

誰かなんて最初に出した声で解りきっている、しかし俺はほぼ反射的にそう言ってしまった。

 

「俺か? 俺はオリ主だ」

「おり……しゅ?」

 

俺の目の前には新しいISを纏う紀春の姿があった。


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