インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第63話 サルの木星

時は流れ、時刻は午後五時。そして場所は織斑家リビング、そこはもうパンク寸前だった。

 

「じ、人口密度が異様に高い! トイレ行くのも一苦労だ!」

 

この中に居る人数なんと十四人、そしてその中の女性率脅威の70パーセントオーバー。一夏のもてっぷりが遺憾なく発揮されている。

 

「しかし、お前大丈夫なのか? セシリアもそうだけど結構な怪我だったそうじゃないか」

「全然大丈夫じゃないが何か?」

「いや、だったらIS学園で寝てた方がいいんじゃないのか?」

「俺もそうしたかったんだけどね……」

「?」

「セシリアさんがどうしても誕生日パーティーに行くって言うもんだからさ」

「お前の怪我とセシリアがどう関係するんだ?」

「だってひとりぼっちで取り残されるなんて寂しいじゃん。セシリアさんと寂しさを分かち合うことすら出来ないじゃん、それって本当にやるせないじゃん」

「そ、そうか……」

「だから僕がついててあげるって言ったのに」

「駄目だ、こういう行事をおろそかにするとどこかの誰かさんみたいにぼっち一直線になるんだからな。どこかの誰かさんが誰かってのは本人の名誉のために伏せておくけど」

 

篠ノ之さんがびくっと反応した後、こちらを睨みつける。怖い。

 

「それはそうと戦いの後紀春を見つけたときは本当にびっくりしたよ、血達磨のまま泣きじゃくってるんだもん」

「へぇ、紀春が泣きじゃくってるって……ねぇ?」

 

その言葉に目ざとく反応した鈴がにやにやしながらこっちに生暖かい視線を送る。

 

「やーめーてー、その話はしないでー」

 

おどけて誤魔化してはみるが本当に悔しい、弾薬切れに気付かないとかいうルーキーみたいな負け方を今更してしまったのだから。

 

ふと一夏に視線を移すと、みんなが一夏にプレゼントを渡していた。各々中々気合のはいったプレゼントのようで、このパーティーに賭ける意気込みが伝わってくる。でもラウラ、ナイフは無いと思うんだが……

 

「一夏、こっち来い。プレゼントをやろう」

 

自分は結構おごりたがりな性格をしていると思う。誕生日や記念日ですらないのに人にプレゼントをあげたことはもう数え切れないし、この学園に来て以降収入が一気に増大したのもあってかものをあげまくっている。

ええと、ここに居る奴等で言うと……確か篠ノ之さんに百万円と○ロルチョコ、セシリアさんには非合法の一夏写真集、鈴にはワキガ用軟膏、シャルロットには銀のブレスレット、ラウラには普段用の服のセットか。結構使っている。ここに居ない面々だとソフトボール部の練習機材の一部は俺からの提供だったりする。

まぁ、兎に角俺は人に物を贈るのが好きなようだ。そして今回もそれなりに気合を入れてプレゼントを用意した。

 

「悪いな、気を遣ってもらって」

「気にすんなって、俺の誕生日に三倍返ししてくれればいいから」

「三倍返しか、あまり高いものじゃなければいいんだが」

「まぁ、俺のプレゼントもそんな高価なものじゃないから別に気負わなくたっていいぞ。ほい、これだ」

「ええと、服か。良かった、本当に高そうなものじゃない」

 

気にするところそこか。まぁ、気合を入れたといっても実際に値段的にはそんなにするものでもないからな。

 

「ええと、JPオブザモンキー? 聞いた事ないブランドだな」

「シブヤで若者に人気のブランドだ、実は俺も愛用している」

「へぇ、そうなのか」

「ちなみにお値段はヨンキュッパだ」

「これ4980円もするのか!? 今俺が着ていシャツなんて2980円だぞ」

「え? 違うぞ、49800円だぞ」

「ヒエッ…… つまり三倍返しで149400円!」

 

こいつ、計算速いな。

 

「こ、こんな布切れが49800円…… お前セレブだったのか」

「セレブって使い方間違えてるぞ、本来の意味ならお前も俺と同じくらいセレブだ」

「いや、そういう事言ってんじゃなくて……」

「まぁ、本当に気にするなって。別にお前から三倍返しなんて期待してないから」

「これは、仕舞っておこう。汚したらいけないし」

「仕舞うな、着ろ。服ってのはそういうためにあるんだから。ちなみにおススメのコーディネートはそれに音楽プレーヤーを首からかけて、更にヘッドホンをして短パンを穿き自分から世界を遮断するような雰囲気を醸し出す感じだな。あっ、髪は茶色に染めてバッチリ尖らせておけよ。そして超能力を使えるようになると最高だね」

「嫌だよそんなコーディネート! それに超能力ってどう使うんだよ」

「修行だ、修行。まずはスプーン曲げから挑戦してみよう」

「いーやーだー!」

 

いつしか俺達の漫才に周りが笑っていた、それに対し一夏は不満そうな顔を見せる。

それを見て俺も笑う。そうだ、笑えるのなら今のうちに笑っておこう、日常に戻れば辛い現実に目を背ける事が出来なくなるのだから。

虎子さんは俺にもっと強くなれと言った、その言葉の真意は未だ理解できないがこれからも亡国企業が俺達に何らかの仕掛けをしてくる事は確実だ。ならば虎子さんの言う通り強くなる事に越した事はない。

そして明日からたっちゃんにもっと強くなるための修行をお願いしている、だからせめて今だけは全てを忘れて笑い心を癒そう。明日からの辛い現実の始まりに心が折れないように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな、付き合わせて。まだ体痛いんだろう?」

 

両手にたくさんの飲み物を抱えた一夏が言う、誕生日パーティーで足りなくなったジュースの類やらを補充するために俺達は一夏の家の近くにある自動販売機までやってきて今はその帰りであった。

 

「まぁ、そうだけどちょっと涼んでいきたかったからな。お前んちのリビング人多すぎて熱気がすげぇのなんの」

「まぁ、あんな賑やかな誕生日は俺も初めてだったよ」

 

九月後半の夜風は今の俺には丁度いい涼しさをもたらしてくれる、体は相変わらず痛いが心はこの夜風のお陰か幾分と爽やかになった。

 

「さて、帰ろうか」

「おい、あれ……」

 

一夏に言われて指し示された方向を見ると人影が見える、しかしそれは丁度街灯の明かりが届かないギリギリのところに立っており顔はよく解らない。シルエットからして女の子みたいだが。

多分俺達が飲み物を買っている所に偶然居合わせたのだろう、そして飲み物を買っている男二人組みがよりにもよって俺と一夏なもんだから緊張してどうしたらいいのか解らなくなってると。

まぁ、これもファンサービスの一環だ。写真なり握手なりをして適当にあしらおう。

というわけで、俺は女の子の居る方向へと歩き出した。

 

「お、おい……」

「やぁ、お嬢さん。サインでも欲しいのかい?」

 

極めて爽やかな面持ちで女の子に笑いかける。これが俺の必殺技、オリ主営業スマイルである。この営業スマイルのお陰で俺の世間様から爽やかなスポーツマンというイメージを持たれている。

女の子に向かって二歩目を踏み出そうとすると、その女の子も一歩前に出てきた。

 

「…………」

 

……最悪だ、明日からやってくる辛い現実がいきなり今からに前倒しされるとは。

一夏は驚いたような表情のまま顔面を硬直させている、まぁそれは致し方ないだろう。

 

「よお、こうやって顔つき合わせるのはドイツ以来か?」

「お、おい。お前あの人と知り合いなのか!?」

「下がってろ一夏、多分危ない事になるぞ」

「そんな事より! なんであの人が千冬姉そっくりなんだよ!」

 

それを聞いた俺の口から溜息が漏れる、そして俺の真正面にいるちびっ子は薄ら笑いを浮かべていた。

 

「もう一度言う、一夏。下がってろ、というか帰れ。そしてたっちゃん呼んで来い」

 

ここで戦闘になるとかなり厳しい、むしろ負傷中の俺ではまず勝ち目がない。こちら側の最大戦力であるたっちゃんならなんとか出来るだろうか。

いや、今の状況はたっちゃんでも厳しいかもしれない。この住宅街のど真ん中で戦闘をおっぱじめようものなら被害がどれだけ出るか皆目検討がつかない。

 

「下がるのはお前だ、藤木紀春。貴様に用はない」

「テメェに用がなくても俺にはあるんだよ。ドイツの時と今日の落とし前、きっちりつけさせてもらうからな」

 

口では強気で言ってみるものの、この状況では手詰まり感は否めない。おとなしく帰ってもらう事も出来なさそうだ。

 

「今日の落とし前って……まさか」

「ああ、こいつがサイレント・ゼフィルスのパイロットだ」

「その通り、そして私の名前は……」

 

その時一陣の夜風が俺達の間を通り抜ける、そして、遠くで小さく聞こえる車のエンジン音がやけに気になった。

 

「織斑マドカ、だ」

 

まぁ、予想通り感は否めない。多分何らかの血縁関係もあるのだろう、流石に同姓のそっくりさんって事はなさそうだ。

 

「織斑一夏、私が私であるために……お前の命をもらう」

 

すっと差し出されたハンドガンが鈍く光る。しかし俺はそれと同時にヴァーミリオンの右手とガルムを展開し、ちびっ子に狙いを定める。

 

「撃つな、撃てば俺も撃つ。というか俺が先に撃つ」

「出来るのか? お前に」

「やってやるさ……」

 

もちろん出来る事なら撃ちたくはない、撃てばちびっ子は死んでしまうだろう。しかし撃たなければ後ろで硬直している一夏が殺される。

一夏の命とちびっ子の命、俺にとってその価値の差は歴然だ。しかしそれと同時に同族殺しに対する本能的な嫌悪感もこみ上げてくる。テロリストと言えど人間、虫や魚を殺すのとは訳が違う。

ああ、トリガーにかかる指が重い。しかし、やらねばならない。

 

そして次の瞬間、どんっ、という鈍い音が響き渡り、ちびっ子が前のめりに地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「の、紀春。お前…………」

 

ヴァーミリオンの展開を解く、俺はついにやってしまった。

後ろの一夏が後ずさる、きっと顔も青ざめているだろう。

 

「や、やっちまった……」

「紀春っ……」

 

ああ、やってしまった。でも仕方なかったんだ、これしかこの場を収める方法がなかったんだ。

 

「やっちまった、これで俺は……傷害幇助だ……」

「え、傷害? お前撃ったんじゃないのか?」

「違うぞ、俺撃ってないぞ」

「はぁ!? だったらなんでこいつ倒れてんだよ!」

「それは私よ!」

 

暗がりから虎子さんが現れた、目を凝らすとその後ろには黒塗りのワゴン車が見える。

 

「ごめんね藤木君、今日ああいった事があった手前私としてもかなり心苦しかったんだけど」

「いや、こっちこそ今日の事は本当に悪かったと思ってる。接着剤が髪につくことは想定してたんだけどまさか虎子さんの髪に付くとはその時は考えてなくて……」

 

今の虎子さんの髪型は戦っていた時とは違い、ショートボブになっている。その髪型は何となくクールな印象を持たせており中々似合っている。

 

「いいのいいの、私もそろそろ切ろうかなって思ってたところだし気にしないでいいのよ」

「そうか、だったら俺としても気持ちが軽くなるよ。それに、俺達のピンチを救ってもらったわけだし虎子さんには頭が上がりそうもないな」

「いやいや、そもそもこんな事態を巻き起こしたのも結局は私の管理不行き届きが原因だし」

 

困ったような顔をする虎子さんがとてもかわいい、一度は袂を別ったもののまた靡いてしまいそうだ。

 

「あ、あのーーー」

 

一夏が困惑したような顔をして手を上げる、どうやらこの状況がまるで解っていないようだ。まぁそれも致し方なしか。

 

「ああ、お前の言いたいことは解ってるから一から説明してやろう」

「頼む」

「まず、このちびっ子だが勿論死んじゃいない。多分気絶してるだけだ」

「どうやって?」

「私が撥ねたわ、この車で」

「お、おう……撥ねたのか。で、何でここにハニトラさんが?」

「実はちびっ子と話をしている最中、虎子さんから通信があったんだ。『エムがこっちに来てないか』って、エムってのはこのちびっ子の事な」

「なんでハニトラさんがお前に通信掛けるんだよ、俺達敵同士だろ?」

「この子の管理は私がしているの、それが逃げ出されたのがばれたら一大事じゃない? 幸いこの子はちょっとした理由があって織斑君に執着しているから織斑君が居る所に現れるだろうと思って私もこの近くには居たんだけど中々見つけられなくてね」

「まぁ、そんな中俺達の利害が一致して共闘に至るというわけだ。まぁ、俺はここの位置情報を送ったのと時間稼ぎしかしてないんだが」

「そうだったのか……」

 

そんな中、ちびっ子がぴくりと動き出す。どうやら目が覚めたようだ。

 

「た、タイガー。貴様ぁ……っ」

 

流石に撥ね飛ばされた直後とあってか声が弱弱しい。というか虎子さんってタイガーって呼ばれてるのか、そのまんまだね。

 

「おはよう、エム。あんたのせいでこっちがどれだけ苦労したと思ってるのよ!」

 

急に虎子さんの声のトーンが激しくなり起き上がろうとしたちびっ子を蹴り飛ばす、そしてその表情も今までにないようなものになる。これが鬼の形相ってやつか、やっぱり女は怖い。

 

「がっ……かはっ」

 

ちびっ子はブロック塀に激突し、再度気絶する。そしてその体を虎子さんが担ぎ上げる。

 

「さて、もう用事もないからお暇するわ。本当にありがとうね」

「別にいいさ、でも次会ったら今度こそ敵同士だからな」

「ええ、それまで藤木君の成長を楽しみにしてるわ」

 

虎子さんはちびっ子を無造作にワゴン車の後部座席に放り投げ、運転席に乗り込む。その後車のエンジンが掛り虎子さんはそのまま俺達の横を通り過ぎていった。

 

「…………」

「……じゃ、俺達も帰ろうか」

「もう帰るのか!? 余韻も何もあったもんじゃねぇな!」

「別にいいじゃないか。一夏、今あった事は誰にも言うなよ。特に織斑マドカって名前はな」

「……ああ、解ってる」

 

俺達は今日で二度も世界の裏側に触れてしまった、そこから醸し出される闇は今後どんどんその色を濃くしていくだろう。ならば、その闇に打ち勝つ力一刻も早くを手に入れなければならない。

何故か、それは俺がオリ主だからだ。俺が行く道は栄光のオリ主ロード、その道のりにはこれからもきっと数々のドラマと研ぎ澄まされた敵の牙が待ち受けているのだろう。




第一部、完 的な?

それにしてもこいつ、いっつも死ぬ死ぬ詐欺してんな。

ついったーやってます、よければ見てください。

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