インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第49話 灼熱オンステージ

それから一夜明け放課後、とうとう戦いの日がやってきた。薄暗いピットの中には俺と不動さんの二人だけしか居なく少々寂しい感じがする。

しかし仕方あるまい。現在の俺は鬼畜レイパーであり、生徒会長更識楯無を敵に回した大悪党である。

昨日の全校集会から矢が飛んできたり、ベッドの下に爆発物が仕掛けられていたりと俺の命の危機を数はもう両手では数え切れない。しかしこんな時こそ冴え渡るオリ主シックスセンスは俺の危機を悉く救ってくれた。オリ主で良かったな俺、一般人なら確実に死んでたはずだ。

 

「で、昨日は結局勝ち筋を見出す事が出来なかったけど何か思いついたの?」

「策って訳じゃないけどそれらしい事は一応考えてきたよ」

「へぇ、どんなの?」

 

不動さんが俺に尋ねると俺は展開領域から二丁のグレネードランチャーを取り出した、それは回転式弾倉を持ち連続で発射できる仕組みになっている。

 

「グレネード? そんなモノで勝とうっての?」

「まぁね」

 

不動さんが不安そうな顔をする、確かに百戦錬磨のロシア国家代表を倒すために用意した武器がグレネードランチャーでは力不足もいいとこだろう。

しかし、俺のオリ主頭脳が提示した最良の勝ち筋はこれしかない。あの時はいい策だとは思っていたがいざ実行に移すという段階での不安を拭い去ることは出来ないでいた。

勝ち筋を得るための情報が足りない、その情報を基に策を練る時間が足りない、それを実行に移す準備も足りない、そもそもたっちゃんを倒す実力はもっと足りない。

しかし時間は有限である、結局は配られたカードをどうにかやりくりして勝負するしかないのだ。

おっといかん、今から負けたときの言い訳を考えてどうする。こんな弱気では万に一つの勝利の可能性すら取りこぼしてしまう。

今は勝つことだけを考えろ、厳しい戦いになるのは当然であるし俺の勝機は万に一つだ、しかしそれでも信じろ。お前を信じる俺を信じろ!!

 

……あれ? この『俺』は誰なんだ? 『お前』が俺だから『俺』に当たる人物は……

 

「不動さん、俺って勝てると思いますか?」

「いや、無理でしょ」

 

不動さんではなかったようだ、俺は『俺』を探すためスマホの電話帳を開く。とりあえず一夏に電話を掛けてみた、数回のコール音の後電話が繋がる。

 

「もしもーし」

『紀春か!? お前大丈夫なのかよ?』

「大丈夫大丈夫。ところで聞きたいんだけどさ、俺ってこの戦いに勝てると思う?」

『こういう事を言いたくはないが無理じゃないか? 楯無さんってIS学園で一番強いんだろ?』

 

一夏は『俺』ではなかったようだ。しかし他にも当てはある、彼女なら俺の勝利を信じてくれるはずだ。

 

「そう……ところでラウラは近くに居ないか? 電話代わってもらいたいんだけど」

『ああ、みんな観客席に居るから代わるな』

 

数秒の無音の後、ラウラの声が聞こえた。

 

『兄よ、戦闘直前に電話なんていいのか?』

「お前の声が聞きたかったんだよ、それだけで勇気が出てくる」

『兄っ……』

「愛してるぞ、ラウラ。ところで話は変わるんだが、俺って勝てるかな?」

『無理だろ』

 

さっきまでの声のトーンが一気に冷める、愛しの妹は案外ドライであった。ええい、次だ次!

 

「シャルロットに代わってくれ、お前の声を聞いてるとやる気がなくなってくる」

『どっ、どうした兄っ! 何か悪い事でも言ったか!?』

「うるさい、とっとと代われこの踏み台が」

『踏み台とはなんだ!? 意味が解らんぞ』

「今更しらばっくれるつもりか? 兎に角代われ、お前に用はない」

 

その後、電話はシャルロットに代わる。

 

『どうしたの? ラウラが凄く落ち込んでるんだけど』

「よくある意見の食い違いだ、大した問題じゃない」

『そう……で、僕に何の用?』

「俺はこの戦いに勝てるかな?」

『無理じゃない?』

「篠ノ之さんに代われええええ!」

『わっ、びっくりした! 急に大声出さないでよ!』

「良いから代われ! 早く(ハリー)! 早く(ハリー)早く(ハリー)!!早く(ハリー)早く(ハリー)早く(ハリー)!!!」

『わっ、解った!』

 

「篠ノ之さん! 俺勝てるかな!?」

『無理だろ』

 

「セシリアさん!」

『どう考えても無理ですわね』

 

「鈴!」

『無理に決まってるでしょ』

「Tさん!」

『Tさんって誰?』

「谷本さん!」

『はいはい、今代わるわね』

 

「Tさん! 俺勝てるよね!」

『絶対に無理!』

「……そう、もういいや。さよなら」

 

失意のままに通話を切る、誰も俺の事を信じてくれなかった。

……いやまだだ! 俺には最高のベストフレンドが居る! アイツなら俺のことを信じてくれるはずだ!

 

俺は再度電話を掛ける、長いコールの後電話が繋がった。

 

『久しぶりだねかみやん、急にどうしたの?』

「太郎! 俺勝てるよね!?」

『何言ってんの? あっ、練習の休み時間がもうすぐ終わるから切るね。相談事なら後でメールでもしてよ、今忙しいから』

 

太郎はそう言って通話を切った。結局誰も俺のことなんて信じてなかったのだ、そんな事実が俺のオリ主ハートはおろかオリ主ソウルも凍えさせていく。

 

「あはっ、あはははははははははは。よーしがんばるぞーみんなおうえんしてくれてるぞーきたいにこたえるんだー」

「大丈夫?」

 

大丈夫ではなかった、そんな中ついに試合開始の時刻になってしまった。

 

「と、兎に角っ! 試合開始だから頑張って! ね?」

「うん、ぼくがんばるー」

 

俺の心の中はもう空っぽだ、そんな精神を抱えた体はロボットのような動きでカタパルトを踏む。

 

「ふじきのりはる、ばーみりおんにごうきいきまーす」

 

そんな感じでカタパルトは動き出す、そしてカタパルトの勢いそのままに俺はアリーナへと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ内では既にたっちゃんが待っていた、そこに降り立つと観衆はブーイングで俺を迎える。そして向かいに立つたっちゃんは微笑む。

 

「ふふっ、えらく嫌われたものね」

「うん、みんあおうえんがりがとー」

 

そんなブーイングに俺は笑顔で手を振る、するとそのブーイングはひときわ大きくなった。

 

「えっ、ノリ君大丈夫?」

「だいじょうぶだよーぼくはかつよー」

 

明らかに大丈夫ではない俺をたっちゃんが心配そうな表情で見つめる、そんな中試合開始が告げられた。

 

「よーしがんばるぞー、ということでぱーんち」

 

俺は隙だらけの素人丸出しテレフォンパンチをたっちゃんに繰り出す、力もスピードもないそれは小学生ですら簡単に避けられるようなものだった。当然のように暗部組織の長兼IS学園生徒会長兼ロシア国家代表であるたっちゃんはスウェーバックで避ける、そして俺はパンチの勢いで派手にすっころんだ。そして観客席からは失笑が漏れる。

 

「あいたたた、あれー? どうしてあたらないんだろう?」

「本当にどうしたの? もしかして私を陥れる策か何か?」

 

たっちゃんは見当違いな考えを口に出す、もちろん俺にそんな意図はない。戦いにおいての精神的な要素が完全に取り払われているだけなのだ。

 

「こんどこそはあてるぞー」

 

起き上がりまた素人丸出しのパンチの連打を放つ、その動きは緩慢すぎてISに初めて乗った群馬での訓錬時代の俺でも今の俺を簡単に倒せるような動きだった。

そんな俺の攻撃を避け続けるたっちゃん、そんな攻防を続けているうちにたっちゃんの顔色が見る見る変わっていく。

 

「くらえー」

「いい加減にしなさいっ!」

「ぐぼあぁっ!?」

 

俺の右ストレートにカウンター気味で合わせられたたっちゃんのスマッシュが俺の顎を正確に打ち抜く、そんな打撃を受けた俺は右に捻りを加えながら回転し地面に倒れた。

 

「何やってんのよ!? 何か策があると思って付き合ってあげたけど結局何も無いじゃない! そんなんで私に勝とうっての!?」

 

たっちゃんがまくし立てる、こんなに怒ってるたっちゃんを見るのは初めてだ。

しかし、もう大丈夫だ。さっきの一撃で完全に目が覚めた。

立ち上がり膝にこびりついた土を払う、今まで一体何やってたんだ。

 

一夏もラウラもシャルロットも以下略も俺のことは信じていなかった、しかしそれでも俺は俺を信じよう。俺が信じる俺を信じよう。何故なら俺はオリ主だからだ、根拠はそれだけで充分だ。

 

「悪いな、試合前にショッキングな事があって呆けていたようだ。でももう大丈夫、今から本気出す」

「やっぱりさっきのは何かあったのね、でもそういうことなら私ももう手加減はしないわよ」

「望むところだっ!」

 

その瞬間に推進翼に火を灯したっちゃんに再度右ストレートを繰り出す、ショートレンジでの加速からの右ストレートは並みのパイロットでは到底避けられるものではないだろう。しかしそれでもたっちゃんは紙一重で避ける、並みのパイロットではないことは重々承知だがあまりの反応速度の速さに舌を巻く。

避けられたストレートの勢いを地面を蹴って殺し反転し今度はレッグラリアートを放つもたっちゃんも反転しそれを腕でがっちりと防御する、しかしながらその衝撃を殺しきれるものではなく大きく後ろに後退した。

 

たっちゃんに笑顔が戻る、俺の気分もいい感じだ。

ヴァーミリオンのイメージインターフェースが俺の考えた動きを正確にアシストしてくれている、他のISならば俺はこれほどの技量を発揮できることはないだろう。

しかしながらこの動きにたっちゃんはついてくる、そこが今の俺とたっちゃんの技量の差なのだ。俺はイメージインターフェースの補助があってはじめて彼女と同じ土俵に立てている。いや、実際はまだ彼女の方が一歩も二歩も上を行っているはずだ。そう、たっちゃんのISであるミステリアス・レイデイの一番の武器は水だ。それをアクア・ナノマシンというものを使って操っているらしい。

それをどうにかしないと勝ち目が無い、しかし俺にはその対策をするための武器がある。試合前に不動さんに見せたグレネードランチャーだ。

 

後退したたっちゃんから更に距離を離す、ハイパーセンサーが彼我の距離を正確に測りそれが21メートルジャストだという事を教えてくれる。あの時の距離の丁度十倍だ。

 

俺はヒロイズムを取り出し構える、それに対応するようにたっちゃんはランスを取り出した。あのランスはたしかガトリングガンが内蔵してあるハイテク仕様のランスだ、俺の突突とかいうローテクランスというかゴミとはえらい違いである。でもいいもん、その分ランスの強度はこっちの方が上だから。

 

ヒロイズムのターゲットサイトがたっちゃんを捉える。たっちゃんは動こうとしない、多分こちらの射撃の瞬間と同時に仕掛けてくるのだろう。

上等だ、そっちがその気ならロシア国家代表の実力とやらを存分に見せてもらおうではないか。

俺はそんな気持ちのままヒロイズムのトリガーを引いた。

 

ヒロイズムから放たれる光速の弾丸に対しステップで避けるたっちゃん、お返しと言わんばかりに放たれるガトリングガンの弾幕が俺を襲う。しかしながら俺だって既に並のパイロットの域は超えている、牽制で放たれるような攻撃など掠りもしない。

放たれる弾丸の応酬を行っていくうちに俺達は自然と円状制御飛翔(サークル・ロンド)へと移行する。

これは射撃と高度なマニュアル機体制御を同時にこなさなくてはいけない射撃型の戦闘動作(バトル・スタンス)である、しかしここでもヴァーミリオンのイメージインタフェースによる動作補助が効いてくる。自身の考えを自然に機動に反映するそれはこの高度な戦闘動作を比較的容易なものへと変えてくれるのだ、比較的容易とはいえ結構難しくはあるんだけどさ。

 

円を描きながら飛翔する赤と青、その間を行き来する光の筋は傍から見るとある種幻想的な光景とも見えるだろう。しかし実際やっている俺としてはたまったもんじゃない、一瞬前に居た場所を通り過ぎる弾丸からは明確な害意が込められていて少しでも気を抜くとそれに蜂の巣にされてしまうのだ。

そしてその弾丸を放っている円の先に居る彼女は微笑んでいる、俺がこんなにも心を削っているのに彼女はまだ余裕なのだろう。

 

このまま行けばジリ貧だ、弾丸を避け続ける事は出来ているがいずれそれも叶わなくなるかもしれない。

この高速機動の中一発でも弾丸が命中すればそのままバランスを崩し地面に激突、そしてそのままサヨナラだ。

それは避けたい、たっちゃんのために用意した虎の子のグレネードランチャーは未だ展開してすらいないのだ。

 

俺は意を決し、この回転から直角にターンし弾丸の雨へと向かっていく。流石にこの機動変更にたっちゃんの動きが一瞬遅れる、いくら国家代表とはいえ彼女は人間の枠を超えた超人ではない。それ故に先に仕掛けられた場合に人間の反応速度分だけ遅れが生じてしまうのだ。

その一瞬の遅れは弾丸の雨から俺を外し、一人きりの円状制御飛翔を行う時間を作ってしまう。

俺はたっちゃんが移動してくるであろう場所を狙い偏差射撃を行う、そして光速の弾丸はついに彼女を捉えることに成功したのだ。

 

「きゃっ」

 

女の子らしくなんともも可愛らしい声が聞こえる、そんな声を発した彼女は射撃を受けながらもバランスを崩すことなく地面へと着地した。

今回の一連の攻防におけるダメージレースとしては彼女に軍配が上がるだろう、俺は数発の弾丸を受けてしまった。そして何より彼女はダメージを負っていないのだ。何故なら……

 

「そいつが噂のアクア・ナノマシンか」

「そういうこと、残念だったわね」

 

彼女は俺の攻撃をご自慢の『水』で防いでいたのだ。

一度彼女と共闘した時、俺を守るため彼女はこの『水』で無人機の攻撃を防いでいたことがある。この『水』が有る限り彼女に射撃は通らない、という事はあの円状制御飛翔の攻防は俺にとって全くの無意味だった。……というわけではない。

あの攻防を狙った俺の意図、それは彼女から『水』を引き出す事にあった。

何故かって? この虎の子を活かすためさ!

 

「グレネードランチャー?」

「その通り」

 

ヒロイズムを捨て両手にグレネードランチャーを展開する、今回たっちゃんのために用意した俺の切り札である。

 

「うーん、ビームはともかく流石にそんなのに当たらないわよ私」

「そうだろうね」

 

全くもってその通りである、あれだけの戦闘機動を見せた彼女なら低速で放たれるグレネードランチャーの弾など止まって見えるだろう。そして俺もこのグレネードを当てるつもりは一切なかったりする。

 

「という事でちゃんと避けてくれよ! 別に当たってくれてもいいけど!」

「避けられるのを期待してるなんておかしいんじゃない?」

 

その問いに俺はトリガーを引いて答える、グレネードランチャーから発射された弾は真っ直ぐにたっちゃんの居る方向へ向かう。

そしてそれを大きく横っ飛びで避けるたっちゃん、そのまま弾は地面に着弾し大きな爆炎を上げる。

 

「期待どうりに避けてあげたけど、これに何の意味があるのかしら。教えてくれない?」

「すぐに解るよ」

 

炎に照らされ若干顔が赤くなったたっちゃんに対し俺が言う、そしてそのたっちゃんを照らしている炎は消えることなく燃え続ける。

 

「そう……時間がない割りにはよく考えたわね」

 

燃え続ける炎を見る彼女はその炎の正体と俺の目的にに気付いたようだ。

 

「ありがと、ということで……骨まであっためてやるよぉ!!!!」

 

そうしてグレネードランチャのトリガーを今度は二丁同時に引く、その弾は彼女に当たることなく地面に着弾。そして炎の柱を作っていく。

俺が装備しているグレネードランチャーの弾は通常の榴弾ではなくナパーム弾であった。

 

俺の狙いはこのナパーム弾から発せられる熱でこのアリーナ内部を極限まで暖めることにある、まぁ最低でも500度くらいには。

そのためにグレネードランチャーを乱射する、適当に打ち出されたナパーム弾はアリーナ内部の各地に飛び散り炎の柱を作る。そしてとうとう計12発の弾は底を突き、俺はグレネードランチャーを投げ捨てた。

 

そして急上昇するアリーナ内部の気温、ナパームの炎のお陰で酸素も不足しISを装備していない人間がこの中に入ろうものなら一瞬で死んでしまうだろう。しかしISには操縦者保護機能がありこんな地獄の業火に晒されようと俺達は戦いを続ける事が出来る。

 

そして俺がアリーナ内部を暖めている理由だが、たっちゃんの武器である『水』を封じるためである。

いくらアクア・ナノマシンが水を制御できるといってもその水を蒸発させてしまえばそれは無用の長物に変わる、しかもこの超高温の環境ではそのナノマシンもまともに動く事はないだろう。

そしてこのアリーナで水の補給も不可能だ、つまりたっちゃんはもう『水』を使うことは出来ない。

 

「もっと! 熱くなれよおおおおおおっ!!」

 

その俺の言葉に応えるかのように燃え盛る炎、アリーナ内部の気温はもうすぐ400度に達しようとしていた。

 

「はぁ、やられたわ……」

 

諦めたように溜息をつくたっちゃん、しかしここから先は完全ノープランだ。つまり素の状態でたっちゃんと戦わなければならない、正直しんどい。

 

「さて、ここからが本番だ」

「その感じからするとこれ以上の策はなさそうね」

「…right。その通り。よく気付いたね」

 

たっちゃんが微笑む、俺も微笑む。この地獄めいた光景の中で清涼感すら感じる、そして彼女に合わせるように突突を展開し構えた。

ここから先、射撃武器はもう使えない。超高温環境の中でいつ火薬が爆発するかとか内部機構の誤作動が起こる可能性を考えると怖くてとても使えたもんじゃないからだ。

 

たっちゃんもそれをちゃんと理解しているようでガトリングガンを撃ってくる気配はなく静かにランスを構えているだけだ。

これから先はショートレンジの殴り合いだ、技量差を考えると勝ち目は薄い。しかしながらこれが俺の選んだ戦い方だ、もう後には引けない。

 

気合を入れてスラスターに火を入れたっちゃんに飛び掛る、スラスターがいつもより派手に燃え盛っているのは気のせいだろう。

俺の渾身の突きの軌道をたっちゃんはランスの先端で軽く弾き逸らす、そしてそのままランスの腹で俺を殴りつけた。

 

「ぐぉっ!?」

 

ランスが顔面にクリーンヒットし一歩後退する俺を追撃するかのような突きが腹に刺さり大きく吹っ飛ぶ、なんとか地面を削りながら着地をするが更に追撃のランスが俺の目の前に迫る。

俺は不恰好ながら体を捻り追撃の突きを避ける、しかし回避行動でバランスを崩し地面に倒れてしまう。

 

今の回避ははっきり言って偶然としか言い様がない、そんな事を思いながら立ち上がる。しかしそこには……

 

「あれ、なんだこれ?」

「ふふっ」

 

ランスを持つ右手に『水』が巻かれていた、そしてその先にはたっちゃんが握っているこの武器の柄。

どいうことだ? 『水』は既に攻略したはずなのに……

 

「これくらいの温度じゃ私の『水』は蒸発しないわよ」

 

騙された! 本当はたっちゃんは『水』を使えたのだ! 

彼女としてはさぞ面白い展開だろう、そして今になって隠していた『水』を使うということはきっと彼女はこの試合を終わらせようとしているということだ。

 

「ノリ君、これからキミがどうなるか解るかしら?」

「大体ね……」

 

『水』で右手を封じられ、目の前には『水』を纏ったランスを構えた我らが生徒会長様。

この状況、どう足掻いても勝てない。

 

「ということで……これで、終わりっ!」

「ぎゃああああああああああああっ!!」

 

突き、突き、突き、突き!

空いた左手で防御しようにもこの怒涛の突きの連続にそんなものは無意味だった、一発ごとにシールドが削れていき俺の敗北は時間の問題だ。

そして後一撃でシールドが削りきれるその時、たっちゃんのランスが俺の目の前で止まる。

 

「ノリ君、降参しなさい」

「……何でトドメを刺さないんだよ」

「この状況でそんな事言うの?」

 

この状況? ……あっ。

 

俺達の周囲には俺が作り出した12の火柱、こんな所でISが解除されてしまったら一瞬で俺のグリルが完成してしまう。

 

「そうだった……負けたときの事考えてなかった」

「危ないわねぇ、万が一私が負けたら死んじゃうところだったじゃない」

「本当危ないな、というわけで降参します」

 

その瞬間、俺の生徒会長への挑戦は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああー、負けたああああああー」

「負けちゃったわね、でも中々やれたんじゃない?」

「いや、完敗だよ」

 

ピットの椅子にどかっと腰を下ろしながら不動さんに言う。今回の戦い俺は手も足も出なかった、『水』を無力化させることも出来なかったしたっちゃんに有効打は一撃も与えることが出来なかったのだ。

 

二人で無人機を倒したあの日、俺はたっちゃんの守られながら戦った。あの日の自分より今の自分は格段に強くなっている、これは自惚れではなく事実である。しかし、あの背中に追いつくにはまだまだ実力が足りないのを嫌と言うほど思い知らされた。

 

「でも一撃入れられるくらいの実力はあると思ってたんだがなぁ……」

「そうなりたいんならもっと強くならないとね」

「そうだね……」

 

緊張の糸が解けたのか疲れがどっと押し寄せてきた。なんだかんだで灼熱地獄の中で戦っていたわけだし、幽霊騒ぎの解決からまだ二日しか経っていない、昨日も作戦を練ったりベットの下の爆弾解除に時間を費やしていたため寝てなかったからここ数日にまともに寝た回数は一回だけだ。いや昼寝はしていたのでそうでもないか。

 

しかしそんな事を意識しだすと更に疲れが押し寄せてくる、そうしてどんどん意識が闇の中に吸い込まれていく。

あっ、落ちる……

 

「あれ、藤木君大丈夫!?」

「大丈夫じゃ……ない……」

 

そうして俺の意識は完全に闇へと落ちて行ったのだった。




今日で一周年です、結構やってたんだなぁ。
書いてない期間が長すぎるのもあるんだけど。

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