インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~ 作:たかしくん
もう駄目だ、俺は。
こんな事を相談できる相手なんて居やしない、下手な相手に相談すれば俺はたちまち黄色い救急車に乗せられ鉄格子付きの病院に入れられることになるだろう。
しかし、今俺の身に起こっている事は紛れも無い事実だ。
夏休みの終わり、この世界が想像以上にファンタジックであることは理解していたつもりだったが実際にそのある意味ファンタジックな現象を体験してしまった俺の心は憔悴しきってしまっていたのだった。
「おい、藤木」
「なんでしょう?」
「痛くないのか?」
「痛いです」
「そうか……」
新学期が始まった初日、早速授業も再開された。織斑先生に問題を答えるように指名されたのだが今の俺はそれどころではなかった、お仕置きのアイアンクローを食らっても俺の心は別のことでいっぱいで痛みを感じることはあっても心がその痛みについてこない。
織斑先生が溜息を吐きアイアンクローを解く、なんだかちょっと勝った気分になるがそれは気のせいだろう。
「保健室に行った方がいいんじゃないのか?」
「いや、大丈夫……」
「そうか、辛くなったらいつでも言えよ」
「ああ……」
一夏が心配そうに声を掛ける、しかし俺はそれに虚ろに返事する事しか出来ない。
自分ではどうにもならない事を誰かに助けてもらうのは決して恥ではない、俺はそうやって夏休みの宿題を乗り越えてきた。
しかし今度ばかりはどうなんだろう? 俺を助けてくれる人は……あっ、居た。
篠ノ之箒、俺の隣の席に座っている彼女の実家は神社だ。もしかしたら彼女は俺の力になってくれるかもしれない。可能性は低いがゼロではない、しかしどう切り出したものだろう。
休憩時間になるとそんな俺を察してか篠ノ之さんのほうから声を掛けてくる。
「どうした藤木、私に何か用があるのか?」
「いや、ええと……」
彼女は俺の心でも見透かしているのだろうか、もしかしてエスパーか? いや、それは無いな。エスパーは織斑先生だけで充分だ。
「一体なんなんだ? 用が無いようには見えないが」
「まぁあるといえばあるんだけど……」
「どうしたんだ? 用があるんなら話してくれ」
話してもいいのだが今の俺のファンタジックな状況を人が大勢居る教室で話すわけにはいかない、この話は出来れば二人きりの時にしておきたい。
二人きりになれる状況をIS学園で作るには難しい、どうしたものだろう?
そうだ、放課後の屋上なんてあまり人が居ないな。そこで相談してみよう。
「いや、あまり他の人に聞かれたくない内容でさ。今日の放課後とか時間ないかな?」
「放課後か? 今日は特に用事はないな」
「だったら放課後に屋上に来てもらえないかな? ちょっと込み入った話があるんだ」
「解った、放課後に屋上だな」
「じゃ、よろしくね」
よし、一歩前進だ。少し気が軽くなったのか思い出したように尿意が俺を襲う、もちろん漏らすわけにはいかないので俺はトイレに行くことにした。
「あれ? どこへ行くんだ?」
一夏が声を掛ける、その間にも尿意は俺を襲い続ける。
「ちょっとトイレ」
「そうか」
俺は足早に教室を後にする。ヤバイ、想像以上に尿意が強い、急がないと本当に漏らしてしまう。
俺は駆け足になりながらトイレを目指すのであった。
「悪いね、急に呼び出して」
「いや、別に構わないが。しかし、一体何があったんだ?」
放課後の屋上、俺は呼び出した篠ノ之さんと対峙していた。
いつぞやの冬のように夕焼けが眩しく、その光が篠ノ之さんの顔を赤く染める。あの時は酷い勘違いをしたもんだなと心の中で苦笑する。
しかし俺はあの時と同じような、いやそれ以上緊張感に包まれていた。
このある意味重大な告白を彼女は受け止めてくれるだろうか、俺の当てが外れれば明日から俺は学園中の笑いものにされてしまう。
ええい、もう彼女を呼び出してしまったんだ。男らしく腹を括れ、俺。
「助けてください!」
その言葉と共に高速土下座を行う、彼女はそんな俺の姿に困惑しているようだ。
「どっ、どうした!? 急に土下座なんかして」
「もう俺にはどうにもならないんだ、あんな事が起きるなんて……」
「あんな事? 一体何があったんだ?」
「それは……」
俺は言葉を詰まらせながら俺の身に起きたファンタジックな事件を語っていく、彼女も真剣な面持ちでそれを聞いてくれていた。
そう、事件起こったのは昨日……夏休み最終日の暑さが残る夕方の出来事であった。
「さてと、手土産としてはこんなもんで充分か」
現在俺は一人夕方の寮の廊下を歩いている、目的地は特別室の隣の部屋だ。
現在俺は1025室で生活をしているが、いまだ俺の荷物の多くは特別室に置いてあるばかりかたまに一人でのんびり過ごしたい時や一人でゲームをしていたい時にはよく利用しており、ちょっとした別荘気分な感じで特別室を便利に使っている。
そんなわけで隣の部屋から拝借しているコンセントの類は未だに占領状態になっていて、隣の部屋の彼女らにもいまだ迷惑を掛けているわけだった。
流石に自分の娯楽のために彼女らに迷惑を掛け続けているのは忍びない、しかし俺の便利生活にとってもう特別室はなくてはならない存在だ。っていうか特別室の荷物を1025室に持っていこうものなら1025室は物で溢れかえってしまうだろう。
という事で二学期以降も彼女らの部屋のコンセントを貸してもらう約束を取り付けるついでに彼女らの機嫌を取る為に今回も諭吉入り饅頭を持参し特別室の隣の部屋に訪問しようとしているわけである。
明日は二学期も始まるし流石に彼女らも部屋に居る事だろう。
そんな事を考えながら歩いているといつの間にか部屋の前に到着していた。
「こんちわー、居ますかー?」
コンコンとノックをし、ドア越しに声を掛けてみる。しかし、部屋の中からは全く反応が無い。
もしかしてまだ学園に帰って来ていないのだろうか? 夏休み最終日だからどこかでパーッっと遊んでいるのかもしれない。
開くかどうかも解らずになんとなくドアノブを捻ると簡単にドアが開く。
「あれ? 開いてる」
部屋の鍵が開いているが中からは反応が無いって事は学園内のどこかにいるのだろう、いつ帰ってくるかも解らないし今日のところは手土産と置手紙を置いて帰ろう。そんな事を考えてドアを大きく開けた。
「…………えっ? これどういう事だよ」
ドアが開け放たれた部屋は薄暗く、その中には何も存在していなかった。備え付けのベッドや机も無くがらんとしている、いや何も無いというのは間違いだ。実際には部屋の床に腐った饅頭入りの箱と壁の穴から伸びるコンセントのケーブルしかなかった。
「ちょっと藤木君! 何やってるんですか!?」
「えっ?」
後ろを振り向くと山田先生が焦ったような顔をしてこちらに走り寄ってきた。
「兎に角、ドアを閉めてください!」
山田先生に怒られたのは初めてで面食らっていた俺は腕を掴まれ強引に後ろに引き戻される、そして山田先生はドアを閉めこちらに振り向く。
「ここの部屋は鍵が掛かっていたはずなんですけど、藤木君が開けたんですか?」
「いえ、最初から開いてましたよ。しかし一体何なんですか? あの部屋何もありませんでしたよ」
「あの部屋はいわくつきで一年以上前から閉鎖されているんです、しかし藤木君はあの部屋に何か用があったんですか?」
一年以上前から閉鎖? いやそれはありえないだろう、お隣さんとは当分会ってはいないが特別室をリフォームした日には俺はあの部屋に入っているし、タッグトーナメントが終了するまでは俺は特別室で暮らしていてお隣さんとは壁越しによく話をしていたのだ。そんな疑問を山田先生にぶつける。
「えっ? 藤木君、嘘はいけませんよ。そんなのでは流石に私も騙されませんよ」
「いや嘘なんかじゃないですって、特別室の電力はあの部屋から引いてるんですよ。その時にお隣さんにも会いましたし」
「…………本当なんですか?」
「はい、本当です」
山田先生が唸る、いくらか考え込むような仕草をした後。再度俺に声を掛けた。
「藤木君、ちょっとお話があります。特別室に行きませんか?」
「ええ、別に構いませんけど」
そう言うと山田先生は特別室のドアを開け中に入っていく、俺もその後を追った。
「そこの椅子使ってください、何か飲み物でも要ります?」
特別室に入り冷蔵庫を開ける、そこには沢山のペットボトルが並んでいる。
「ええと、午○の紅茶に○リンレモンにトロ○カーナに……」
「見事に○リンの商品しかありませんね」
「○リンって三津村グループなんですよ、知ってました? お陰で無料で貰ってます」
「へぇ、それは知りませんでした。あっ、お茶貰えますか?」
「はい、無糖でいいですか?」
「ええ、それでお願いします」
山田先生に午○の紅茶無糖を渡し、俺は○リンレモンと冷凍庫からガリガ○君を取り出す。そして、ガリガ○君をコップに入れそこに○リンレモンを注いだ。
「変な飲み方をするんですね」
「某球場でこれが売ってたんですよ、結構うまいですよ」
「そうなんですか、今度試してみます」
その言葉を聞きながら○リンレモンを飲む、ガリガ○君のソーダ味がいい具合にミックスされ相変わらずうまい。
「で、お話とは」
「お隣の部屋の事についてです」
ペットボトルを握り締めている山田先生の表情はいつになく真剣だ、山田先生はただたどしくも言葉を紡ぎだす。
「藤木君が隣にいる人に会ったと言っていましたがやはりそれはありえません、……何故なら隣に住んでいた二人の生徒は昨年両方とも亡くなっているんです」
「えっ?」
部屋の空気が一気に重くなったのを感じる、だったら俺が今までこの部屋で会話をしていた彼女らは一体何だって言うんだ。
「一体何があったんですか?」
「私も詳しく知っているわけではありません、この件に関しては他の教師の方々もあまり話そうとはしませんし。ただ彼女らの死後彼女達の声を聞いたとか、彼女達を目撃したとかいう噂があちこちで発生していたようです。まぁ、これは思春期特有の妄想だとかいう事で片付けられてしまいしたが」
「どうしてあの二人は死んでしまったんでしょう?」
「一人目はIS稼動の実習中に事故で亡くなり、その事故を引き起こしてしまったルームメイトががそれを苦に自殺してしまったと聞いてます。そのせいで当時の学園もかなり荒れてしまいましたね」
「うわぁ、想像以上に重い話ですね」
「その後自殺者が出た隣の部屋は閉鎖、荒れ模様だった学園も何とか落ち着きを取り戻し今に至るというわけです」
「しかし今までそんな話は聞いたことは無かったのは何故なんでしょう? IS学園で事故による死者が出たり自殺者が出れば世間は大騒ぎになっているはずでしょう?」
「そこに関連してくるのが、その、三津村グループなんです」
三津村? 何故一年前の事故に三津村が関わってくるんだ?
「事故の原因がその時使用されていたIS、打鉄に使用されていた三津村重工製の部品にあるらしいという調査結果が出たんです、再度の調査の結果それは否定されたのですがその間に三津村重工によってマスコミの囲い込みが行われたらしく」
「事故の報道は握りつぶされたと」
「はい、実際は証拠がないのであくまで噂程度の話ですけど。事故で亡くなった人、天野さんっていう人なんですが彼女は専用機こそ持っていないものの日本代表候補生で、織斑先生が国家代表を辞した後の次期国家代表候補筆頭と言われてる人でしてかなりのニュースであったはずなんですが一切報道されませんでしたしそういう噂が出てくるのも致し方ないかと」
「うわぁ、俺のご主人様すげぇ悪役じゃん」
「天野さんの実家はあまり裕福ではなかったと聞いているのですが、事故後妙に羽振りが良くなったというのもその噂に信憑性を持たせているんです」
「証拠は無いけど三津村は限りなく黒に近いグレーってわけか……」
「はい、そうなります」
なんてこったい、三津村が正義の味方なんてのはこれっぽっちも思ってはいないがここまで黒い存在だとも思っていなかった。つうか俺がIS学園の教師陣から嫌われてるのってこれが原因じゃないのか? 特別室だってその被害者の隣の部屋で暮らさせてやろうって意味で宛がわれたんじゃないのか? むしろ隣の部屋を宛がわれなくて良かったよ。
「その当時の話を詳しく知っている人は他には居ないんですか?」
「教師や事故を目撃した二年生の一部の人は沢山居ますけど、流石に話を聞くのは難しいんじゃないでしょうか。話していて気持ちの良い話ではないですし」
「そうですか……しかし、俺は隣の部屋の彼女たちと何度も会話をしてきたんですけどあの人達は一体誰なんだろう」
「……幽霊、なんですかね?」
「今真剣な話をしてるんですよ、茶化さないでくださいよ!」
「すっ、すいません! 先にも言った通り彼女達の死後幽霊騒ぎがあったものですからつい」
俺は幽霊とか妖怪とかそんなのは信じないタイプだ、神の存在は信じてるけど。つまり死んだ隣の女生徒のフリをして俺をからかっている奴が居るという事だ。死んだ人間を担ぎ上げてこんな真似をしている奴が居るなんてもう悪戯の域を超えている、そんな奴はオリ主である俺が直々に成敗してやる。
そんなこんなで俺は山田先生と別れ特別室に残る、今日その悪戯者が俺と接触するとは限らないが奴と接触するのはいつだってここ特別室だ。
待っていてください隣の部屋の天野さんと名も知らぬ自殺者よ、貴方達の名を騙る悪党は俺が成敗し貴方達の墓前にその首を捧げましょう。
飲み掛けの午○の紅茶無糖一気にあおる、いつもよりちょっと美味しい気がした。よし、気合入った。ガンバルゾー。
しかし、後になって思う。この決意は全く意味の無いものだという事を。
「…………」
寮も消灯時刻を過ぎたが俺は1025室に帰ることなく特別室に留まっていた。今晩はこの部屋で夜を明かす予定だ、むしろ悪党と遭遇するまで毎晩ここに泊まってやる。
今の俺はそんな気持ちだ、人の死を愚弄する奴を許しておくわけにはいかないのだ。その時だった。
「ふ~じ~き~くん」
壁の穴から声が聞こえてきたのだ、この時を待っていた!
「出てきやがったな悪党め! 人の死を愚弄するお前らは俺が成敗してやる!」
そう言い俺はヴァーミリオンを展開、特別室と隣の部屋を繋ぐ壁に正義の鉄拳を叩きつけた!
壁は無残にも砕け散りIS一機が入れる程の大きな穴が開いた。
「おらぁ! 出て来いや!」
隣の部屋には誰も居ない、一体どこに隠れたというのだ。
「姿を現せ悪党、お前たちがやってる事は到底許される事ではないぞ!」
「ふふふっ、姿を現せって言われてもねぇ」
「どこだ、どこに居る!?」
「ここに居るよ。藤木君、遊びましょ?」
悪党の声はどこからともなく聞こえてくる、まるで頭の中に直接話しかけているようだ。
「ああ、遊んでやろうじゃないか。テメエらの首でお手玉でもしてやろうか?」
「あら怖い、でもそれは無理ね。私達の首はもうないから」
「ああ? 幽霊気取りかテメーら、出て来いよ」
「だから無理だって、私達の首でお手玉は無理だけど……そうだ、キャッチボールでもしましょうか」
背中のほうからガタガタと音がする、ハイパーセンサーの視界で確認すると俺の野球道具の硬球がその音を出していた。
「なにっ!?」
振り返ると硬球が凄まじいスピードで俺を襲う、俺はとっさに腕でそれを防ぐ。
「何なんだ、一体……」
さっきの一撃でシールドエネルギーが微量に削れる。おかしい、ISのシールドを削る方法はISで攻撃する以外には存在しない。一夏の零落白夜はあくまで例外中の例外だ。
「キャッチボールなんだからちゃんとキャッチしてよね! じゃあ次行くよ!」
その言葉と共に硬球約十個が俺を襲う、避けたいのだがISで動くには部屋は狭すぎて全く避けられない。
「痛い痛い痛いっ、しかしこれってもしかして……」
「そっ、俗に言うポルターガイストってやつよ」
「ってことはもしかして」
「ようやく気付いたようね、私の名前は
「ひいっ、マジで幽霊だとはっ!?」
「という事でもっと遊びましょう?」
「嫌ああああっ!」
その間も硬球は俺のシールドエネルギーを削り続け、とうとうその残量はゼロとなり俺は意識を手放してしまったのである。
「んっ……はっ!?」
目を覚ますと特別室の窓からは光が差し既に朝だという事を教えてくれる、俺はあの元日本代表候補生の幽霊に無残に負けてしまったというのか……
ISの歴史は浅く10年しか経ってはいないが幽霊と戦い敗北するというのは前代未聞の出来事だろう、そんな事を考えながら俺はふと天井を見上げた。いや、見上げてしまった。
「ひいいいっ!? もう嫌ああああっ! 誰か助けてええええっ!」
俺は全速力で特別室から走り去った。
ちなみに天井には血のような赤い文字でこう書かれていた。
『フジキ君ダイスキ、マタ遊ビマショウ』
「そんなこんなで今に至るというわけだ、信じてもらえないと思うが全部本当の話だ」
「そうか、そんな事があったのか……さっきの話だが信じよう、私としても幾らか心当たりがある」
「信じてくれんの!? ってか心当たりってどういうこと?」
「まあ、私の実家は神社だからな。そういう霊的な事に関しての知識も持っているし、所謂霊感というのも無いわけではないしな」
「神社生まれスゲェ!」
やはり篠ノ之さんに相談してみて正解だったようだ、彼女なら俺の今の緊急事態を解決してくれるかもしれない。
「というわけで、今の俺の事態の解決方法を知らないだろうか」
「ふむ……やはりここは除霊というのが一般的な解決方法なのだが……」
いきなり言葉を濁す篠ノ之さん、しかし彼女は除霊も出来るのだろうか? だとしたらマジでスゲェな。
「除霊出来るのか?」
「いや、残念ながら私では力不足だ。しかし、他の方法が無いわけでは無いが……」
「何か問題があるって感じだな」
「ああ、そういう除霊を専門としている職業で
「ゴーストスイーパー? ゴーストバスターズの親戚みたいなもんか?」
「そういうものだ。しかしGSを学園に入れるというのは許可を取るのに時間が掛かるし、なにより奴らはボッタクリだ」
「多少ぼったくられるのは構わないんだが、時間が掛かるってのはなぁ……」
「となると、私が除霊するしかないか」
「でも出来ないんでしょ?」
「GSから除霊用のお札を買えば私でもなんとかなるかもしれない、ぼったくられるのには変わりないがな」
「RPG的に言うと、自分の攻撃じゃダメージが与えられないから強力な攻撃用アイテムで戦うって感じか。しかし金なら心配しないでくれ、俺が望むのは一にも二にも事態の早期解決だ」
「そうか、それならいいんだが」
「しかし、どれ位掛かるんだ? ボッタクリって言うくらいだからこんくらいあれば足りるかな?」
俺はそう言って自分の懐から財布を取り出す、その中に帯封付きの福沢先生がいらっしゃったのでそれを篠ノ之さんに渡す。
「学生がポンと渡す金額じゃないと思うのだがな」
「学生兼アイドルですから、しかも使う機会が少ないから結構溜まってんだよ」
「まあいい、これだけあれば多分大丈夫なはずだ」
そう言いながら篠ノ之さんは百万円を懐に仕舞う、この場面を誰かに見られていたら絶対に勘違いされる気がするが屋上には誰も居ないので多分安心だ。
「余ったら小遣いにでもしてくれ、それがお礼ってことで」
「いや、余ったら返す。友人の危機に付け込んで金や物をせびるつもりはない」
「夏休みの宿題の時には思いっきり物に釣られていた気がするが、あれは俺の気のせいだったか」
「…………ああ、きっと気のせいだ」
いい感じにオチもついたので俺達は会話を切り上げ屋上から帰っていった。
「ふーじーきーくーん! あーそーぼー!」
「あーそーぼー!」
「何か幽霊増えてない?」
「あっ、初めまして。ゆうちゃんのルームメイトで自殺した
「アンタも幽霊になってたのかよ……」
「はい、ゆうちゃんがいい遊び相手が居るって教えてくれたので遊びに来ちゃいました」
その日の夜、1025室で寝ているとまたしても幽霊の天野さんから声が掛かる。しかももう一人も幽霊となって出てくるとは……これで俺の負担も二倍となったわけだ。
「嫌ああっ、もうやめてえええっ」
隣のベットで寝ている一夏は完全に熟睡していて俺の悲痛な叫びは彼の耳には届かない、こうして俺は眠れぬ夜を過ごす羽目になったのだった。