インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第44話 告白事件再び

「おい、藤木」

「なんでしょう?」

「痛くないのか?」

「痛いです」

「そうか……」

 

新学期が始まった初日、早速授業も再開されたのだがなにやら紀春の様子がおかしい。

なんだか目がうつろで反応も薄い、千冬姉に問題に答えるように指名されても虚ろに返事をするだけで何も答えようとしない。そんな態度が千冬姉の怒りを買うのは当然でアイアンクローを食らうのだが、そんな状態でも紀春の反応が薄い。千冬姉も根負けしたのかアイアンクローを解く、そんな異様な光景はクラスの視線を釘付けにしていた。

 

「保健室に行った方がいいんじゃないのか?」

「いや、大丈夫……」

「そうか、辛くなったらいつでも言えよ」

「ああ……」

 

俺も話しかけてみるが虚ろな反応は相変わらずのまま、そんな状態で授業は終わり休憩の時間になった。

 

休憩時間になった途端紀春は突然そわそわしだす、観察していると箒の方にちらちらと視線を移しているのが解る。箒もその視線に気付いているのか怪訝な様子で紀春を見返すのだがその度に紀春は視線を逸らした。

 

「どうした藤木、私に何か用があるのか?」

「いや、ええと……」

 

視線に耐え切れなくなった箒が声を掛ける、紀春はわざとらしく驚いたような態度を取る。

 

「一体なんなんだ? 用が無いようには見えないが」

「まぁあるといえばあるんだけど……」

「どうしたんだ? 用があるんなら話してくれ」

「いや、あまり他の人に聞かれたくない内容でさ。今日の放課後とか時間ないかな?」

「放課後か? 今日は特に用事はないな」

「だったら放課後に屋上に来てもらえないかな? ちょっと込み入った話があるんだ」

「解った、放課後に屋上だな」

「じゃ、よろしくね」

 

そう言って紀春は席を立つ、教室の入り口を目指す紀春の背中に少し元気が戻ったようにも見える。

 

「あれ? どこへ行くんだ?」

「ちょっとトイレ」

「そうか」

 

そう言うと、今度は箒も席を立つ。

 

「箒はどこに?」

「私も同じだ」

「そうか、悪かったな」

「別に構わない」

 

箒は紀春の後を追うように教室を出る、クラスメイトの何名かが教室の入り口から箒の背中を見送る。箒の姿が見えなくなった時、教室の中は爆弾が爆発したかのような歓声に包まれた。

 

「きゃあああああああああっ! 告白よ告白!」

「放課後! 屋上! 夕焼け! もうそれしか考えられないわね!」

「告白しようって言うんならあの藤木君の緊張振りも納得できるわね!」

「はぁ!? ふざけんなよ! 一夏が居るのに何で女に告白するんだよ!?」

「畜生っ、畜生っ、畜生っ! 紀春も私達を裏切るつもりかよ……」

「織斑君! このままでいいの!? 藤木君が取られちゃうわよ!? それも女に! 悔しくないの!?」

「いや……別に……」

「うわあああっ! 一夏も私達を裏切ったあああ!」

 

その時である、俺の右隣からバキッと何かを粉砕するような音が聞こえる。

右に視線を移すと、板書を書き写していたシャルロットがシャープペンシルを握り潰していた。

 

「あれ? 壊れちゃった。このペン結構古かったし寿命だったのかな?」

 

シャーペンの寿命なんて聞いたことがない、仮に寿命があったとしても砕け散らないだろう。と心の中で突っ込みを入れる、しかしそれを言葉に出す事は出来なかった。

何故なら壊れたシャーペンを持つシャルロットの笑顔から黒いオーラが発っせられそれがプレッシャーとなって俺を襲うからだ、俺はその笑顔に恐怖しか感じる事が出来なくなっていた。

 

そんな大騒ぎの教室で異彩を放つ人物を俺は発見した。それは一人静かに考えごとをしている谷本さんだった。

 

「谷本さん、何かあったのか?」

 

このホモ的空気崩壊の危機(?)に腐女子の最右翼である谷本さんが騒いでいないなんておかしい、何か悪い物でも食べたのだろうか。

 

「いえ、ちょっとね……」

 

あからさまにお茶を濁す谷本さん、しかしこの胸がモヤッっとする感覚はなんだろう。俺は今まで初めて感じる感覚に居心地の悪さを感じながら次の授業が始まるのを待ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「紀春が箒に告白ですって!?」

「声が大きいって!」

「ごめんごめん、でもあの二人が……意外ね」

「そうでしょうか? 紀春さんと箒さんはココに来るまでは同じ学校で過ごしていたのでしょう? もしかしたらその時にわたくし達の知らない何かがあったとしてもおかしくはないのでは?」

「む、確かに言われてみればその通りね」

 

昼休みになり食堂で昼食を摂りながら教室であった事件を鈴に報告する、ちなみに事件の当事者である二人はこの集団には参加していない。紀春は一人になりたいと言ってどこかへと行ってしまったし、箒は剣道部の部員と昼食を摂る約束をしていたらしくそちらに行ってしまった。

 

ちなみにシャルロットの様子は相変わらず暗い、そして時たま聞こえる破壊音が俺の心を恐怖に染める。食堂に来てからシャルロットはもう十本も割り箸を握りつぶしていた。

 

「なんでなんでどうしてこうなったなんでほうきなののりはるはへたれだからつつましやかにあたっくしてきたつもりだったのに……」

 

さっきから何かぶつぶつと言っているのも怖い、しかし教室では隣の席だしこうして一緒に食卓を囲んでいる関係上俺はこの謎のプレッシャーから逃れる事は出来ないでいた。

 

「でも何で箒なんでしょうね。一夏、何か心当たりとか無いの?」

 

こんなプレッシャーの中、鈴が俺に聞いてくる、心当たりか……今の俺に思いつくのはあの夏祭りで紀春が言っていた事くらいしか思いつかない。

 

「心当たりねぇ……あえて言うなら紀春はどうやら巫女萌えらしいってことくらいか?」

「巫女萌え? 何でそうなるのよ?」

「以前俺と紀春で箒の実家の夏祭りに行った時に紀春が『巫女のコスプレは萌える』って言ってたんだ」

「ふぅん……あっ、そういうことか」

「何か解ったのか?」

「飽くまで推測だけどね。一夏の証言から紀春は巫女萌えであることが解ったわ、そして紀春は無類の巨乳好きよ。そこから導き出される答えは……」

 

みんなの視線が鈴に集中する、鈴が溜めてくるので思わず唾を飲んでしまう。

 

「答えは?」

「箒が紀春の好みにドストライクってことよ!」

「な、なんだってーーー!!!」

 

確かに紀春は巨乳好きだ、鈴の推測強ち間違いではないのかもしれない。

 

「そう言えば紀春さんって前に箒さんに告白してませんでしたか?」

「あっ、確かにそんな事あったな。もしかして……」

「えっ、どういうこと?」

 

ぶつぶつ言っていたシャルロットが我に返り俺に質問してくる。その質問にセシリアが答えた。

 

「確かアレは……入学式の当日でしたか、わたくしの若気の至りで一夏さんと紀春さんと決闘する事になったのですがその時軽いセクハラを受けまして」

「セクハラって……まぁ、アレは確かにセクハラか」

「紀春さんは織斑先生に殴られ気絶したのですが、気絶から復活するといきなり箒さんに告白、教室が大騒ぎになりましたわね」

「しかも授業中にだからな、その結果また千冬姉に殴られて気絶。記憶喪失で何で告白したかも忘れてしまったというわけだ」

「もしかして今になって思い出したのでしょうか」

「もしかしたらそうかもしれないな」

「そんな……僕は勝負する前から負けていたなんて……」

「そうか……箒が兄嫁になるのか、今後の事も考えてもう少し仲良くしておくべきか。残念だったなシャルロット、義姉の話は無かった事にしてくれ」

 

ラウラの空気を読まない言葉がシャルロットを襲う、その言葉を受けたシャルロットはがくっと崩れ落ちる。そのまま彼女は昼休みが終わるまで動く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たわね」

「来ましたわね」

「来たな」

「なんでどうして……」

 

そして時は流れ運命の放課後になった、俺達は学園の中心にそびえ立つやたらねじれた塔の上に来ておりそこから屋上を眺めていた。この塔の耐震性はこの地震大国日本でも大丈夫なのかという疑問が浮かび上がってくるか今重要なのはそれじゃない、紀春の告白の行方だ。

塔から屋上の距離は大分離れているが俺達は全員専用機持ちだ、ハイパーセンサーのお陰でこの距離でも屋上の光景が手に取るように解る。

 

そして数分の時が経ち、屋上で一人佇んでいる紀春の下に箒がやってきたのだった。

 

「ハイパーセンサーのお陰で見る事は出来るけど声まで聞こえないってのは残念ね」

「まぁ贅沢言っても仕方ありませんわ。紀春さん、頑張ってくださいね……」

「しかしライバルが減るのはいい事だ。兄よ、私達には見守る事しか出来ないが応援しているからな」

「そうだ、グレネードでも打ち込めばこの状況を有耶無耶に出来るかも……」

「ラウラ! シャルロットが危ないわ! 急いで確保を!」

「任せろっ!」

 

なにやらぶつぶつと言いながらグレネードランチャーを展開するシャルロットを鈴の指示を受けたラウラがAICで拘束する。

 

「ちょっと! 邪魔しないでよっ!」

「悪いなシャルロット、兄の一世一代の告白を邪魔させるわけにはいかない」

「本当はライバルを減らしたいだけでしょう!?」

「それもある」

 

ぎゃあぎゃあとシャルロットが喚いているのを尻目に紀春の方を見る、あの二人を見ているとなんだか胸の辺りがもやもやとしてくる。どうしてしまったんだ、俺は。

 

「一夏、幾らあんたでも邪魔するのは許さないわよ」

「そうですわ、紀春さんの門出は誰にも邪魔させませんわ」

「いや、邪魔するつもりはないんだけど……」

 

そう言いながらも俺の胸のもやもやは一向に収まる気配が見えない、それでも俺はなんとか堪え紀春の行く末を見届けることにした。

 

そしてその時、紀春がアクションを起こした。

 

「えっ? 土下座?」

「土下座で告白ですか、はっきり言っていい告白方法とは思えませんわね」

「箒も困ってるわね、正直あたし的にも無いわね」

 

土下座をしている紀春に対して明らかに困ってる態度をとる箒、しかし土下座しながら喋っている紀春の話を聞いているうちにその表情が徐々に固くなる。

 

「一体何を喋っているんだ」

「聞こえないってのは本当にもどかしいわね」

 

俺達が見守っている中紀春が土下座を解く、どうやら箒がやめさせたらしい。しかしまたしても俺達の予想を超える出来事が起こる、紀春が自分の懐から財布を取り出しその中から大量の紙幣を箒に差し出したのだ。

 

「凄い量ね、帯封が付いてる福沢先生ってことは……」

「百万円ですか……しかし何で箒さんにあのような大金を渡す必要があるのでしょう?」

「もしかして……今月の友達料の徴収!? あたしなんて一銭も貰ってないのに!」

「流石にそれはないだろ」

「だったらなんだって言うのよ?」

「そこまでは解らないけど……」

 

箒が紀春から百万円を受け取る、一体あそこではどんな会話が繰り広げられているのだろう?

 

その後、紀春と箒はいくらか言葉を交わした後屋上から去って行った。

 

「なんとなく告白っぽくないってのは解ったけど……」

「突然の土下座に差し出された百万円……」

「謎が謎を呼ぶな、もう訳がわからない」

「しかし良かったなシャルロット、どうやら兄は箒に靡いたわけではないようだぞ」

「ん゛ーっ!」

 

そう言えば屋上の様子を覗き見していた時シャルロットとラウラの声が聞こえなかったな、そう思いながら俺は振り返る。

 

そこにはワイヤーブレードでラウラに縛り上げられたシャルロットの姿があった。

 

「一夏、ジロジロ見ちゃ駄目よ」

「そ、そうだな」

 

じっと見ていると鈴に窘められてしまった、縛り上げられたシャルロットはなんだか艶かしくちょっとドキッとしてしまったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ二日後、九月三日。

一組と二組の合同実践訓錬で俺は鈴にボコボコにされてしまった、俺の白式はセカンドシフトして以来大幅にパワーアップしているはずだがその弊害として燃費もさらに悪くなってしまった。新たに装備された雪羅によって射撃の訓錬もしなくてはいけないし基礎戦略も組みなおさなければならない、しかしそんな俺より問題を抱えている人物が居る。紀春だ。

 

あいつも新しい専用機を手にし大幅にパワーアップしているはずだが、模擬戦相手のシャルロットに手も足も出ていない。紀春の専用機であるヴァーミリオンはラファール・リヴァイヴの後継機であり、シャルロットのISよりも全ての面で勝っている機体らしい。しかしその機体の有利は全く生かす事が出来ていない、はっきり言って今の紀春であれば俺はもちろん量産機を纏うクラスメイト達でも圧倒する事が出来るだろう。

 

「何だ今のザマは、それでも専用機持ちか!?」

「すみません……」

 

そんな紀春は相変わらず千冬姉に怒鳴られている、一通りお説教を受けると気分が悪いと言ってアリーナから出て行ってしまった。

 

「すみません織斑先生、私も保健室に……」

「どうした篠ノ之、お前も気分が悪いのか?」

「ええ、少し」

「そうか、無理するなよ」

 

箒がそう言って紀春の後を追うようにアリーナから出ていく、その姿を見るとまたしても胸の辺りがもやもやしてしまう。

 

「もしかして……」

「ぱっやり藤木君の告白って成功したのかしら?」

「つまり保健室でしっぽりやったろうってか? ムカツクわね」

「やっぱり紀春はノンケだったのか……」

 

クラスメイト達が口々に感想を述べる、あの二人の行方が凄く気になる。

 

「織斑先生、ちょっとトイレに」

「……早く行って来い」

 

千冬姉にそんな嘘を吐いて俺もアリーナを抜け出す。何やっているんだろう、俺は。

 

箒を追いかけるとアリーナ内部の廊下でベンチに座っている紀春と箒を発見する、疚しい気持ちなどないはずなのだが身を隠して二人の話を盗み聞きするような格好になってしまう。

 

「全然…………夜……出来ない」

「……か、しかし……」

「もう…………なって……山田」

「……だ、……今日の放課後……」

「……か!? ……しても……!?」

「ああ…………放課後…………よう」

 

箒と話している紀春の顔が明るくなる、話は途切れ途切れにしか聞こえないが今日の放課後何かがあるらしい。

 

あっ、箒がこっちに来る! 逃げなければ!

 

俺はその場から足早に去る、今日の放課後何かが起こる。それだけは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その情報、確かななのね?」

「ああ、話は途切れ途切れにしか聞こえなかったけどな」

「しかし一体、何が起こるのでしょうか?」

「今は兄は特別室に居るのだろう? もしかして大人の階段を上るつもりか?」

「ん゛ーーーっ! ん゛ーーーっ!」

 

俺達は息を潜め隠れて特別室の前の廊下に居る紀春の様子を窺っていた、紀春は真剣な面持ちで立って入るが何故かその両手にはファ○リーズ、一体これから何が行われるというのだろうか。

ちなみにシャルロットはまたブツブツ言っていたので鈴に危険だと判断され縛り上げられ猿轡を噛まされている。

 

しばらく待っていると箒がやってきた、しかしその格好はいつもの制服とは違っていた。

 

「巫女服? どういう事だ?」

「もしかして……」

 

鈴が考え込むような仕草をする、何か気付いたことでもあるのだろうか?

 

「どうした?」

「謎の百万円、箒の巫女服、そして紀春は巫女萌え。ここから導きだされる答えはひとつしか無いわね」

「答え? 一体何なんだ?」

「つまり、これは……」

「これは?」

 

思わず唾をごくりと飲んでしまう、以前紀春が夏休みの宿題を俺達に頼んだかのように鈴が俺達の緊張を煽る。

 

「コスプレ援交、もうこれしか考えられないわ」

「はあっ? いやいやいや、幾らなんでもそれは無いだろ」

「だったら何だって言うのよ?」

「いやそれは解らないけど」

「やっぱり解らないんじゃない、だったらコスプレ援交しかないわね」

 

幾らなんでもそれは暴論だと思う、そんな事を考えている間に箒は特別室に到着し特別室の前に立っていた紀春がそれに応対する。

 

「あれ? 特別室でするんじゃないのかしら?」

 

そんな鈴の考えを他所に箒と紀春は特別室の隣の部屋の前に立つ。

箒は一度深呼吸をし、隣の部屋のドアを開ける。その後二人は部屋の中へ入って行った。

 

「隣の部屋? 確かあそこって今は……」

 

なんだか鈴も何かをブツブツと呟いている、そんな中俺の胸のもやもやも再発していく。

 

「やっぱり何かおかしい、俺行ってくる!」

 

胸のもやもやが何を意味するのか俺には解らない、しかし二人をあのままにしておくのはいけない。そんな思いに駆られて俺は走り出す。

 

「ちょっと! 待ちなさいよ!」

 

そんな鈴の言葉を無視し俺は特別室の隣の部屋のドアを開ける。

 

「ちょ、ちょっと待ったああああ!」

 

そんな叫びと共に俺は部屋へと突入して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後になって思う、後先考えずに行動するって事はとても良くない事だと。俺はこの一件でその事を嫌と言うほど思い知らされるのである。


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