インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~ 作:たかしくん
「織斑先生、貴方は藤木君にあの戦いが罠だと仰いました。あなたの言うとおり藤木君は罠にかかり今は治療を受けている真っ最中です。では、貴方はなぜあの戦いに罠があると思ったのですか? その根拠を教えてください。……いや、私が聞きたいのはそんなことじゃない。篠ノ之博士はなぜ藤木君を狙っているのですか?」
前置きなんてまどろっこしいことをしている余裕は私にはなかった、私は本当に聞きたいことを織斑先生にぶつける。
「…………」
しかし、織斑先生何も言わない。その態度が私をイラつかせる、私は織斑先生の胸倉を掴み壁に叩きつけた。織斑先生は世界最強の肩書きを持つ人だ、本当なら私なんて一捻りだろう。しかし織斑先生は抵抗の意思すら見せない。
「答えろ! なんでウチの藤木があんな目に遭わなければいけないんだ!? どうして子供だけであんなのと戦わせたんだ!? アイツは何を考えてるんだよ……」
沈黙があたりを包む、その後織斑先生が口を開いた。
「一夏、悪いが部屋から出て行ってくれ。お前に聞かせていい話じゃない」
「……解った」
織斑君が個室から出て行く、私はそれを見送った後。織斑先生から手を離す。
「すみません、取り乱しました」
「いや、構わない」
私と織斑先生はパイプ椅子に座り、話を始める。その内容はなんともふざけたものだった。
不動との話を終え、私は花月荘へと帰ってきた。今日はもう出来ることはないので気分転換がてら海岸を歩き岩場にやってきた。
そういえばここは藤木と束が一悶着起こした所だ、あれからまだ半日も経ってはいないが藤木は病院送りにされ束は行方知れず。しかも今回の藤木の一件は束の仕組んだことなのだろう、奴は一夏をヒーローにするために藤木を殺そうとしているのだ。
気に入らない、束は自分の恩人だが弟や教え子に手を出そうとする奴を許すわけにはいかない。
「やっほーちーちゃん、元気なさそうだね? 何かあったの?」
噂をすれば影、とでも言うのだろうか? 束が空から舞い降りてきた。
「今回の藤木の一件、やはりお前か」
「藤木?……ああ、あのクソガキのことね。さてどうだろうね?」
懐に仕舞っていたサイレンサー付きの小型拳銃を取り出し、束に向かって一発放つ。
しかし、その弾丸は束に到達する前に空中で静止する。
「わわっ!? ちーちゃん、危ないよ!」
「ふざけるな、あんな事をされて私が何も感じていないとでも思ったのか?」
私の考えは決まった、もうコイツとは決別するべきなのだろう。コイツがいる限り一夏や藤木に安寧は訪れない、そして私の仕事はあの二人を含め教え子を守ることだ。
「安心しろ、一夏や篠ノ之には黙っておくしマスコミも抑えておいてやる。だからおとなしくお縄につけ、これが最後通告だ」
「酷い、酷いよちーちゃん! 束さんはちーちゃんやいっくんのために一生懸命やってきてるのになんでそんな事言うのさ!?」
「一番酷いのはお前だ! 私がお前にそんな事頼んだのか!? お前は何故私達を放っておいてくれないんだ!? もう充分だろう、これで終わりにしてくれ」
その言葉を聞いた束が俯く、しかしコイツに説得など意味はないのだろう。
「そうか……そうなんだねちーちゃん、あのクソガキがちーちゃんを誑かしたんだね」
「違う、お前のこれまでやってきた結果だ。藤木は関係ない」
「だったら!」
「もう終わりだ、やはりお前は私達とは相容れない」
その瞬間、私と束の関係は一つの終わりを迎えた。
束は震えていて涙を流している、しかしもう終わったことだ。
「……そう、やっぱりちーちゃんも私の味方じゃなかったんだね……」
「お前の自業自得だ」
束が振り返り背中を見せる。
「あーあ、やっぱり天才ってのは理解されないものなんだね。辛いなぁ……」
束の声が震えている、そしてその体は宙に浮かんだ。
「ちーちゃんがそう言うのなら仕方ないね、でも束さんは諦めてないからね」
「…………」
その言葉と共に束は漆黒の空へと飛び立った。
知らない天井のバリエーションがまた一つ増えた。今回は淡い緑の天井だ。パステルカラーってやつだろうか?
周りを見渡すといくつか気になるものがある。とりあえずは俺の右手を握り締めて座りながら眠っているシャルロットだろうか? どうやらかなり心配をかけたようだ、目尻には涙の跡がうっすらと見える。
さて、ココで問題が発生した。久々の記憶喪失でなんでこの状況になっているのかが全くわからない。
いや、予想は出来る。今の俺の記憶は福音と戦う直前までのものは残っている。
多分福音にこっぴどくやられたのだろう。しかし、俺が生きてるってことは多分勝利を収めることができたのではないだろうか? みたところシャルロットに外傷の類はなさそうだし、そこのところも安心できる要素だったりする。
時計を見ると現在は7月8日の午前4時、確か福音と戦う直前の時刻が昨日の6時くらいで多分一時間くらいは戦ったのだろうか? だから大体9時間寝たって事か。うん、結構普通だ。
さて、寝るか! こんな時間に起きてても何もやることがない。そんな感じで俺は優雅に二度寝を決め込むのであった。
「んぁ、よく寝た……」
「紀春!? 大丈夫!?」
部屋の中を見回すと三人の人物、シャルロットと楢崎さんと不動さんが居た。
「いや、全然大丈夫じゃない。体中が痛いよ」
「とにかく医者を呼んでくるわ、貴方はそこで寝てなさい」
そう言って楢崎さんが部屋から退出した。
「本当に心配したんだよ。僕、紀春が死んじゃうんじゃないかって思って……」
「死ぬ? 俺はそんなに深刻な事態になってたのか」
「紀春……もしかして……」
「うん、さっぱり覚えてない。よければ教えてくれないか?」
壁にもたれ掛かった不動さんが溜息をつく、しかしこればっかりは仕方ないじゃないか。体質だもの。
その後、シャルロットから昨日何があったのかの説明を受けた後、医者が到着し俺は検査を受けた。
医者は、高速でISに生身で衝突してこんなに元気なんて信じられないと言っていた。
普段から鍛えてるお陰だろうと返したのだが、医者は苦笑いを返すだけだった。
俺の怪我は口内の裂傷、肋骨の骨折、脇腹の切り傷、全身打撲だそうだ。
昼になり昼食が出されたのだが、俺の超デリケートな口内環境に配慮されてか出されたものは流動食ばかり、主食は重湯。ってわしゃ友子じゃないぞクソ森。
「全くもって味気ない、食う気も失せるな」
「わがまま言わないの、はい、あーん」
「あーん」
しかもシャルロットに食べさせられている、後ろで不動さんがクスクスと笑っている。もうすっごく恥ずかしい、自分で食べるといったのだがシャルロットがそれを許してくれない。
しかもふーふーのおまけつきだ、いや熱いと食べられたモンじゃないから仕方ないのかな?
そんな感じでシャルロットと不動さんに見られながらの昼食タイムも終わろうかという時、病室のドアが乱暴に開かれる。
「紀春!」
「兄っ!」
ラウラと一夏を先頭にした専用機持ちご一行が部屋へとなだれ込んできた。そんなご一行を部屋出待ち構えているのはスプーンを口にくわえてる俺とそのスプーンをもつシャルロット、そして壁を背にして笑う不動さん。
「あっ……」
「……」
「……」
沈黙が部屋を包み込む、前もこんな状況があったな。
「ええと、また後で来るよ」
一夏が気まずそうな顔で話す。
「やるなシャルロット。頑張れ、その調子だ」
ラウラがシャルロットに微笑む。
専用機持ち達はなんだか気持ち悪い笑顔を浮かべながら部屋を後にした。
「こんな所にお呼び立てしてすみません、こちらもバタバタしてまして」
「いえ、生徒達を送るついででしたので」
「そうですか、彼らは藤木君の病室に?」
「ええ、今頃は病室で騒いでいるのではないでしょうか、静かにしろとは言っているのですが」
藤木君が運ばれた病院の屋上、私はそこに織斑先生を呼び出した。
屋上には私と織斑先生以外は誰も居ない。
私はバッグから銀色のブレスレットを取り出し、織斑先生に手渡した。
「これは……」
「修復は完了しています、どうぞお受け取りください」
「早いですね、あれから一晩しか経っていないのに」
「それが私達の取り柄ですので」
「ですがこれは受け取れません、今の藤木にはこれが必要なはずです」
「それを剥奪しようとしたのは貴方じゃないですか、織斑先生」
ここぞとばかりに営業スマイルを決め、織斑先生に向ける。笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点である。そんなことを何かの本で読んだ。
「アレはただの脅しです、全く効果はありませんでしたが」
織斑先生が溜息をつく、どうやら織斑先生も藤木君に苦労させられているのだろう。
「ということでこれは受け取れません、彼にはこれがまだ必要なはずだ」
「いいえ、私達が彼を守りますのでもうそれは必要ありません」
「しかしっ!」
「要らないと言っているのです、戦闘中に突然解除されるISなんて怖くて使えるわけないじゃないですか」
「――っ!」
織斑先生が言葉を詰まらせる、もう彼女は私に何かを言い返すことは出来ないだろう。
「藤木君のことなら安心してください。彼の専用機完成にはまだ時間が掛かりますが、今回のようなことは二度と起きないでしょう」
「その根拠は?」
「企業秘密です、では私はここで失礼しますね」
私は屋上を後にする、織斑先生はそんな私を無言で見送った。
「紀春、あーん」
鈴がパイナップルをフォークに刺し俺の口の近くに持ってくる。
「紀春さん、あーん」
セシリアさんがグレープフルーツをフォークに刺し俺の口の近くに持ってくる。
「藤木、あーん」
篠ノ之さんがキウイをフォークに刺し俺の口の近くに持ってくる。
「兄、あーん」
ラウラがイチゴをフォークに刺し俺の口の近くに持ってくる。
「紀春、あーん」
一夏がバナナを剥いて俺の口の近くに持ってくる。
全員が気持ち悪い笑みを浮かべて果物片手に俺に迫る、シャルロットは部屋の隅で椅子に座って目を伏せる。
「てめえらいい加減にしろよ」
「なによ紀春、気に入らないって言うの? こんな大勢の女の子に食べさせてもらうなんてあんたの人生で最初で最後よ。精々楽しみなさい、私達の優しさよ」
「その割には果物のチョイスに悪意しか感じられないんだが、絶対沁みるだろそれ。そして一夏、お前のチョイスは最悪だな。お前、やっぱりホモだったのか」
「なっ!? 俺はただ鈴に言われただけで……」
一夏がバナナに込められた意味に気付いたようでうろたえる、そしてそれを見た鈴がクスクスと笑った。
「とにかくそんなモン食えるか! おまえら俺にもう少し優しくしろ――ぶへっ!?」
大声を出した俺の口の傷が開き、また血を吐き出してしまった。
「きゃぁっ!? 汚い!」
「オバエクダナイドゥヴァナディゴドゥダ!?(お前汚いとは何事だ!?)」
「血を吐きながら喋らないでよ! 飛び散るでしょう!」
そんなやり取りをする間も俺の血は止まらない。
「と、とにかくナースコールを!」
一夏がナースコールのボタンを押す、生死の狭間をさまよった翌日なのだが俺の回りは相変わらず騒がしかった。
「うーん、足りなかったか……」
モニターに囲まれた空間で稀代の天才篠ノ之束は一人呟く。
足りなかった、自分には覚悟が足りなかった。人一人を死に至らしめる覚悟が。
自分の計画を存在しているだけで邪魔する者、藤木紀春を殺そうという決意は確かにあった。
しかし、思うだけと実際にやるのとでは大きな隔たりがある。
自分でも今回の一連の殺害計画は杜撰だと思う、杜撰さを招いたのは自分の覚悟の無さだ。
結局、藤木紀春は生きながらえている。そして自分は親友を失うという大きな代償を払った。
「何で殺せなかったんだろう? やっぱり怖いのかな?」
駄目だ、こんな事では自分の計画を遂行することすら出来はしない。これから始まる計画は多くの人を死に至らしめる。こんなことで迷ってるのでは計画の実現は夢のまた夢だ。
「うーん……駄目だ、考えがまとまらない」
そんな事を呟きながらとあるスイッチを押す。
正面のモニターに明かりが灯り、それを見た束はコントローラーを握る。
こういう時は気分転換だ、自分の好きなゲームでもやろう。
そのゲームは古いRPGだった、よく言えば王道、悪く言えばありきたり。そんなゲームだった。
ストーリーは単純明快、魔王に攫われた姫をたった一人の勇者が助けに行く物語。
このゲームはもう何回もクリアしたのだが、それでも飽きない。その位好きだった。
「まぁ、充分痛めつけたしあのクソガキも少しはおとなしくなるだろ……」
結局問題を先送りにするという結論に至った、問題が解決するのはいつになるのだろうか?
「福音戦の途中からのログが完全に消去されてるね、やはりハッキングを受けたと考えるのが妥当だろう」
「やはり、篠ノ之束ですか?」
「さぁ、それはどうだろう? 命令の送信元は完璧に秘匿されてるからボクにも解らないや」
「しっかりしてくださいよ、三津村最高の頭脳を持つ貴方が解らないって言ったらもう私達は何も出来ませんよ」
藤木君が病院に運ばれて数時間、私達新専用機開発チームは打鉄・改の修理に勤しんでいた。
今日は、装備試験の監視や無人機の運搬、藤木君の戦闘のモニタリングなどしてきたが私の仕事はまだ終わらないようだ。
「大体、ボクの頭脳はこんな事をするためにあるんじゃないんだ。なんでこんなつまらない事を……審判の日は刻一刻と近づいてるというのに……」
「会社命令です、従ってください。大体審判の日ってのはなんなんですか?」
「世界の真実を知らない者が知っても意味のない事だよ」
「また厨二病を発症したんですか? 程々にしてくださいよ」
「コレだから凡人は……ああこの気持ち、神の刻印を受けし者なら理解してくれるのだろうか……」
「神の刻印? なんだそりゃ?」
「キミには関係のない事さ、因果律の破れか世界線を越えてきた者でないとこの世界の真実に気付くことは出来ない」
「はぁ……そうですか……」
この厨二病患者、かなり厄介な存在だが頭脳は本物だ。伊達に三津村最高の頭脳とは呼ばれていない。しかし、直属の部下である私は非常に苦労させられている。
さぁ、作業の続きを始めよう。今日は色々な事があったが私の一日はまだ終わらない、この仕事が終わったら休暇申請でも出してみようかな?
「あっ、無人機のコアの方はどうなりました?」
「あちらも結構な細工がされていたからクリーニングしておいたよ。これであのコアは完全にボク達のものだ」
「ハッキング対策とかは出来てるんですか?」
「一応それらしいことはやってみやけど、相手が篠ノ之束クラスになると時間稼ぎにしかならないだろうね」
「時間稼ぎ? どれくらいのですか?」
「おおよそ二ヶ月」
「……」
どうやらハッキング対策は出来ているということでいいのだろう、無人機のコアを手に入れてから6時間くらいしか経っていないのに無人機のコアはこの人に掌握されたということらしい。やはりこの人は天才だ。
IS学園整備科主席として鳴り物入りで三津村に入社した私だったが、社会に出てから上には上が居ることを散々思い知らされた。その最たる人がこの厨二病患者だ。
この人の背中に追いつくまで私はどれほどの時間がかかるのだろうか? いや、そもそも追いつくことが出来るのだろうか……
そんな感じで私達の夜は過ぎていく。
次回から夏休み、もうめっちゃオリ展開です。
一週間くらいで投稿再開したいです。