インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第31話 雷速ワルツの中心で

「ぐ……っ……」

 

銀の福音が第二形態移行(セカンド・シフト)してからというもの私達は劣勢に追い込まれた。

最初にラウラが落とされ、指揮を失った私達は福音のなすがままになっている。

その最たるものが私だ、現在銀の福音に首を掴まれ呼吸することもままならない。

 

何のための力だったんだろう、紅椿を手に入れた後一夏の足を引っ張り続け今ではこのザマだ。

もう死んでしまいたかった。

 

私の脳裏に一人の男が浮かぶ。

私の不甲斐なさのために傷ついた愛しい人。

 

会いたい、一夏に会いたい……

 

「いち、か……」

 

そんなか細い声にだれも返す者は居なかった……わけではなかったようだ。

 

「まぁ、聞きました? シャルロットさん『いち、か……』ですって、私達が必死こいて助けに来ようと頑張ってるのにあの子は惚れた男の名前呼んでますわよ。テンション下がるわ~」

「茶化さないの、戦闘中なんだよ?」

「仕方ないだろ、怖くてこうでもしないと自分を保てないんだ」

「へぇ、怖いんだ?」

「ああ、怖いね。しかしここで頑張らなきゃヒーローじゃないだろ。ということで篠ノ之さん、助けに来たよ。一夏じゃなくて残念だったな。さてシャルロット、射程距離に入ったら一斉攻撃するから準備よろしくね」

「箒を巻き添えにするつもり!?」

「仕方ないだろ、出し惜しみして勝てる相手じゃなさそうだ。ということで篠ノ之さん、巻き添えにされたくなかったら誰かに助けてもらうか自力でなんとかしてね。っと射程距離まで後十秒だ!」

 

その言葉の終わろうかという時、銀の福音が射撃を受け大きくバランスを崩す。

誰が撃ったかは解らないがこれは好機だ、私は銀の福音を蹴り上げその場を離脱した。

 

次の瞬間、銀の福音にミサイルが殺到し大きな爆炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤木! 聞こえるか!?」

 

ラウラを助けるために戦闘区域に移動している途中、織斑先生から通信が掛かってきた。

 

「うっす、何か用ですか」

「お前、戦闘区域へ行くつもりか? それは罠だ、今すぐ逃げろ」

「罠? ああ、無職のですか? そりゃ危なそうですね、でもお断りします」

「どういうつもりだ」

「織斑先生、以前山田先生にも言ったことがあるんですが、俺ヒーローになりたいんですよ。ヒーローってのはそういう罠に飛び込んでいって華麗に勝利を収めるものなんですよ。それにラウラが俺に助けてくれって言ったんです、あのラウラがですよ? あの子は強い子だ、少なくとも俺に弱さを見せたことなんてなかった。そのラウラが俺に助けを求めているんだ、こりゃ行かないと兄の沽券に関わりますよ」

「しかし!」

「織斑先生、理屈じゃないんだ。あなただって一夏がピンチの時真っ先に助けに行ったじゃありませんか」

 

第二回モンドグロッソの決勝戦直前、一夏は謎の集団に攫われた。織斑先生は一夏を助けるために決勝戦を諦め一夏を助けに行ったそうだ。

そんな事が以前三津村から貰ったラウラに関する資料に書いてあった、ちなみにその際ドイツ軍に協力してもらったとかの理由で織斑先生はドイツで教官をしていたというわけだ。

 

「お前……知っていたのか」

「三津村の情報力舐めないでください、これでも日本の経済界を引っ張ってる企業グループですよ?」

「そうか、理屈じゃないのは解った。しかし私は教師だ、それでも行くのならお前から打鉄・改を剥奪しなくてはならない」

「うっ、マジっすか? そりゃ厳しいなぁ……ん? 待てよ……」

 

ISコアは貴重品で取引することも出来ない、故に専用機などというものは贅沢の極みな訳だ。

しかも俺は、その贅沢に慣れきっているわけだからそれを剥奪されるのは滅茶苦茶痛い。

ああ、どこかからコアが出てこないかなぁ……

 

あ、そういえば今日三津村の保有するコアが増えたじゃん。あれでとりあえずシャルロットの機体の予備パーツか何かで機体を組んでもらえれば俺の繋ぎの専用機二号機の完成じゃん。

なんだ、全く問題ないな。ってかラッキーだ! この動かしづらい打鉄・改ともおさらばだ! さようなら打鉄・改! こんにちは繋ぎ専用機二号! そして早く来い! 俺の新専用機! いつまで待たせるつもりだ!?

 

「どうした? 何か言え」

「仕方ないですね。と言いたいところなんですが、今更そう言われてやっぱり逃げますなんて言ったら格好悪いでしょ。ということで戦闘に参加します、ごめんなさい織斑先生」

 

一応それらしい嘘をついておく、こんなこと話せる訳がない。ってか無人機撃破はIS学園には秘密だからね。

 

「そういうことで、後で煮るなり焼くなりしてください。ラウラが待ってますんで」

 

そう言い、織斑先生との通信を切断した。

さて、俺には明るい未来が待っている。とりあえずは格好よく彼女達を助けに行こう!

あっ、そうだ。シャルロットにも話を聞いておこう。一応この先向かう戦場には罠が張られているらしいし。

 

「シャルロット、さっきの話つい勢いで突っぱねたんだけどお前が嫌なら降りてもらっても構わないぞ」

「いや、一緒に行くよ。さっき台詞中々格好良かったしね。なんだかヒーローみたいだったよ」

「ははは! そうかシャルえもん! 俺に惚れてもいいんだぜ!?」

「ははは……考えておくよ」

 

俺はシャルロットの乾いた笑いを聞きながら更に加速をする、戦闘区域までもうすぐだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと射程距離まで後十秒だ!」

「本当に撃つの!?」

「当たり前だ! 俺のマイクロミサイルの操作権限もお前に渡す! しっかり狙って撃てよ! 後五秒!」

「解った! 箒……ちゃんと避けてね……」

「3」

「2」

「1」

「feu!」

 

その掛け声と共に俺とシャルロットの機体からミサイルが発射された、ミサイルの白い排気煙が黒い空に良く映える。まるで板野サーカスのようだ。

板野サーカスは間違ってるか……あれはミサイルが沢山発射される様子を表しているのではなく、カメラワークによる演出方法だ。前世でテレビで見た板野がそう言っていた。だから板野サーカスはミサイル一本でも出来るし、ミサイルじゃなくても出来るんだってさ。

 

そんな事はさておき、ミサイル群は銀の福音に命中し銀の福音は爆炎に包まれる。

俺とシャルロットは爆炎の真横を通り過ぎ、仲間たちの居るところで俺はシャルロットをパージした。

 

その時、福音が爆炎の中から現れ俺に突撃してくる。

 

『第一目標発見、警戒度B。排除する』

「ちっ! やっぱり俺狙いか! 罠ってのは本当みたいだな!」

 

俺はストーム・ブレイカーのスラスターに火を入れその場から急速離脱する。

 

「おい! 俺が囮になってる間に態勢を立て直せ!」

 

こうして、俺と福音の追いかけっこが始まった。

 

「二次形態移行してるって話だったか……スピードも段違いだね。しかしお嬢さん、俺も結構速いんだぜ。なんてたって俺は三津村だからな!」

 

福音は光の翼をはためかせ俺を追いかける、対する俺は戦闘機の翼、つまり銀翼を駆使しそれから逃げる。

このストーム・ブレイカーに操縦桿なんてものはついてない、機動は全てイメージインターフェースを通して行われる。気分はマクロスプラスだ、機体はYF-21ではないがそんな感じだ。

現在の脳内BGMはもちろんINFORMATION HIGHシャロン・アップルの声が心地よく脳内に響いてくる。

 

「ハハッ、このまま宇宙まで行きますかお嬢さん? それとも雷速のワルツがお好みかな?」

 

福音はそれに答えるようにエネルギー弾を発射する、どうやら福音はワルツを御所望のようだ。

 

「いいねいいね! 俺もアンタと踊りたいのさ! 罠だろうが何だろうが食い破ってやろうじゃないか!」

 

俺と福音の速度は他の誰にも追いかけられない域、超音速を迎えた。

 

「さて、やられっ放しってのは性に合わない。そろそろ俺も反撃させてもらいますよ!」

 

俺はさらに加速を掛け、福音をぶっ千切る。そしてそのままインメルマン旋回をし、福音と相対した。

その瞬間福音にロックオンするがロックオンされたのは俺も同じのようだ。

 

「リスクなんて気にしない! 全弾発射!」

 

俺の声と共にマイクロミサイルと機首の機関銃が発射される、マイクロミサイルを撃った後そのままバレルロールでエネルギー弾を回避する。

いい感じだ、前世で培った飛行スキルをイメージインターフェースにより存分に生かすことが出来る。

俺は前世ではメビウス1って呼ばれてたんだ、主に画面の中で。

これでもエースだったんだぜ? あくまで画面の中での話だけど……

 

「さてと、そろそろ向こうの準備もいい感じかな? 現場のデュノアさーん」

「もうちょっと緊張感持とうよ、お陰で態勢はなんとか立て直せたけど」

「スマンがこのノリはやめられないな、本当は怖くておしっこ漏れそうなんだ」

「そうなんだ……格好悪い……」

「そう褒めるなって、照れるじゃないか」

「もういいよ……とにかくこっちの準備は大丈夫だからそろそろ帰ってきてもいいよ。紀春を追いかけた福音に一斉射撃を仕掛けてみる」

「こいつ、結構タフだけどそれで大丈夫か? 俺とお前の一斉射撃を耐え切った奴だぞ」

「解らない、でもやれることはやらないと」

「せやな。俺も結構ギリギリだし、やれるだけやるってのは賛成だ――うぉっ!?」

「紀春っ!?」

 

やられた、見切ってたつもりだったがエネルギー弾を右主翼に受け右主翼が木っ端微塵だ。

PICがあるため落ちることは無いが、それでもこれで大胆な機動を行うことは出来なくなっただろう。

片羽の妖精……俺はどうやらメビウス1からピクシーになってしまったようだ。

奇しくも彼と同じF-15に乗っている、こりゃ最終的にはモルガンに乗れるかもね。

 

「ヤバイ、ギリギリどころか超ピンチだ。なんとかそっちまで行ってみるから後は頼む」

「解った、なんとかこっちまで来て!」

「ガッチャ!」

 

とにかく、現在の俺ではもう福音に敵わない。俺は急いで仲間達の居る所を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、紀春が帰ってきたら一斉射撃。ボロボロで辛いだろうけど頑張って」

 

ストーム・ブレイカーからパージされた僕は全員に声を掛け態勢を立て直させる。

この場で一番余力を残しているのは僕だ、フルブラストの一斉射撃もあと一回分の弾薬が残っている。僕が頑張らないとね。

 

この場に居るのは箒、セシリア、鈴と僕だけだ。

 

「ラウラはどうしたの? ここに居ないようだけど」

「福音が二次形態移行した後真っ先に落とされたわ」

 

僕の声に鈴が答える、このことは紀春に伝えない方がいいだろう。

ラウラを大切に思っている紀春がそれを聞いたらどうなるか解らない。

現在、一人で福音と戦っている紀春の精神は相当消耗している。あのふざけた調子は自分を鼓舞するためにやっているようだし、戦闘中の独り言も多い。多分そうでもしないとやっていられないのだろう。

故にラウラの状態を紀春に伝えるのは危険だ。

 

その時紀春から通信が掛かる、やはり紀春の限界は近いらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッヤッホオオオオオッ!!」

 

片羽のストーム・ブレイカーはなんとか福音の攻撃をかわしながら仲間達が待っている地点に向かって飛ぶ。

このカラ元気もそろそろ限界が近い、長い間戦っていたわけではないが本物の戦闘の空気にに俺は完全に酔っている。それに福音が圧倒的な格上ということも俺の精神を磨耗させる。

初めての無人機戦もそうだったって? あの時は増援来るまで粘ればなんとかなるって思ってたし、来た増援もたっちゃんでたっちゃんが来た後は楽勝だったからね。

しかし、今回は違う。この強大な軍用IS『銀の福音』を俺達だけで倒さないといけない、俺達の中で唯一の軍務経験を持っているラウラが今の俺の心の支えだ。ラウラならなんとかしてくれる。そんな気がするが、あいつ踏み台だからなぁ……大丈夫かな?

イカンイカン、思考がネガティブになってる。自分を鼓舞しろ、ガンバレ俺☆

 

そんな事を考えながら俺は彼女達の元へ舞い戻り、そのまま通り過ぎて行った。

 

「後はヨロシクゥ!」

 

ハイパーセンサーの視界で後方を確認する味方のISは……4機しか居なかった。

ラウラが居ない! 俺は早速心の拠り所を失いパニックになりそうになるがなんとかこらえる。

落ち着け、冷静になれ俺。ここでパニックになったら勝てるものも勝てない。現在味方の最大戦力は無傷な俺とシャルロットだ、ここで取り乱してはいけない。ISには絶対防御があるんだ、戦闘不能になろうとも死んではいないはずだ。

 

味方ISが一斉射撃を敢行し、福音はまたしても爆炎に包まれる。

しかし、福音はそれを気にも留めないように爆炎から飛び出し俺を追いかけてきた。

もうなんなの? タフ過ぎるだろ……

 

「ハッ! もてる男は辛いねぇ! 一夏の気持ちが少しだけ解ったよ!」

 

もうマイクロミサイルの残弾は尽きた、機関銃の残弾は残っているが福音からすればこんなもの豆鉄砲みたいなものだろう。

そうなると俺が現在持っている最大火力は……コレしかないか……

 

俺は旋回し、再度福音と相対する。

右主翼を失ってるため普通の戦闘機ではこんな事出来ないのだがPICのお陰でそれも実現できた。

そのまま全速力で福音に向かって突撃する。俺の現在の最大火力、それはこのストーム・ブレイカーそのものだ。このまま体当たりすればあのタフな福音も倒せることが出来るだろうか? マクロスプラス的に考えて。

福音のエネルギー弾がストーム・ブレイカーを襲い、機体のあちこちから火が噴き出す。しかしもう止まらない、止められない。

 

「お前はコイツとキスでもしてな!」

 

激突の寸前、俺はコクピットを脱出しISを全身に展開する。直後に襲ってきた爆炎を盾で防ぎ、爆風に乗って大きく後退した。

 

「やったか!?」

 

その言葉を言った直後に後悔した、脳内でフラグの立った音が聞こえたのだ。

今回立ったフラグの名前……それは生存フラグ!

 

当然のように爆炎から飛び出す福音、その飛び出した勢いそのままに俺に膝蹴りを決める。

吹っ飛びそうになるが福音は俺の腕を掴んで放さない、そのまま俺は福音の光の翼に包み込まれ、翼の中で全方位からのエネルギー弾の攻撃を受け、海中へと落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大丈夫、まだ俺は生きている。少しの間気を失っていたがそれでも俺は生きていた。うん、生きてる。大事なことなので3回言いました。

 

海底に落ちた俺の視界の隅にラウラの姿が映る、俺の打鉄・改も相当ボロボロだがまだなんとか動くようだ。

海の中を移動し、ラウラを抱きかかえる。近くに丁度いい岩礁を発見したので俺はラウラを抱えたままそこまで移動した。

 

空を見上げると仲間達が戦っているのが解る、しかしながら劣勢は変わらないようだ。

ラウラはちゃんと呼吸しているようでとりあえず一安心だ。

さて、俺も戦列に復帰せねば。そして、空を再度見上げた瞬間福音と目が合った。

目が合ったというのは語弊ががるだろう、銀の福音の頭部はすべて装甲に覆われているのだから。

 

俺が生きている事を確認した福音は射撃体勢に入る。マズイ、これじゃラウラもろとも木っ端微塵にされてしまう。

ラウラだけでも守らないといけないと思いラウラに覆いかぶさる。しかし、福音の射撃は俺を襲うことはなかった。

俺はまた空を見上げる。

 

「遅かったじゃないか……一夏」

「ああ、悪かったな。遅れた分は取り戻す」

 

主役は遅れてやって来る、主人公織斑一夏の登場だ。


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