インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第87話 結束なきチーム

「腰をこんな感じで……くぃっと」

「こう……くいっと」

「違う違う、もっと全身を使って」

「……くいっと!」

「うん、いい感じだ。今の感じを忘れずに本番いってみようか」

「よし、行くぞ……」

 

そう言ったラウラは二歩後ろに下がり、プラズマ手刀を発動させる。しかしそれは普段のものと比べてかなり短い、これはプラズマ手刀を収束させて威力を増しているからだ。

 

「ベルリンの赤い雨っ!!」

 

その言葉と共にラウラはその手を振り上げる。そのフォームは完璧、つまり俺とラウラの新必殺技の開発もついに完了したのだ。

 

「ふっ、ついにモノにしたようだな」

「ああ、これで私は更に強くなれる。礼を言うぞ、兄よ」

「いや、お前ら何やってんだよ」

 

振り返るとイーリスさんがあきれ顔でこっちを見ている。しかし何をやっているのかと問われれば必殺技の開発に勤しんでいるわけで、何もおかしい所はないはずなのだが。

 

「見れば解るだろう、必殺技の開発だ」

「アホかお前ら、実戦で必殺技なんて通用するわけないだろう」

「そんな訳あるか、威力は十分にあるのだぞ?」

「威力があっても当たらなきゃ意味ないんだよ。いや別にプラズマ手刀を収束させて威力を上げるのはいいと思うんだが、その無駄に大仰なモーションはなんだよ。それじゃ当たるものも当たらないだろう?」

「しかし元気が出る!」

「あ、お前らマジでアホなんだな」

 

そう言ったイーリスさんはげんなりしている、そしてそれとは対照的にラウラは元気そうだった。

 

 

「しかしお前らこんな時間まで呑気に訓練なんてしてていいのか? 明日の準備は出来てるんだろうな?」

「あっ……」

 

実は俺達は明日、来たる実戦に向けたブリーフィングのため一時メガフロートに帰る事になっている。せっちゃんからもすぐには帰れないからそれなりの準備をしておけと言われていたがすっかり忘れてしまっていた。

 

「全然やってねぇわ、ラウラは?」

「もちろん何もやってない」

「おいアホ共、さっさと帰って準備してこい。当日は遅刻なんて許されないんだからな」

「イエッサー! 藤木紀春、直ちに帰投するであります!」

「うるせえよ、それにサーじゃなくてマムだ」

「イエス、マム!」

 

そんな小ネタを挟みつつも俺達は宿舎へと帰っていった。さぁ、明日からマジもののバトルが始まる。気合を入れていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、というわけで今回皆さんには亡国機業の拠点を襲撃していただくわけなんですが……」

 

時も所も変わって翌日のメガフロート、俺達ISLANDERSは本拠地であるメガフロート管理委員会のビルの会議室に居た。

いつもの戦闘部隊の他には作戦部からせっちゃん、織斑先生、マッケンジー大佐が来ており、三人の放つ独特の空気が否が応にも緊張を煽っていた。

その中でにこやかに喋っているのはたっちゃんであり、今回の会議の進行はどうやら彼女任せになっているらしい。

 

「で、どこにカチコミをかければいいのサね?」

「ええと、今回判明した拠点は合わせて四つです。一つ目が中東、そしてドイツ、オーストラリア、日本ですね」

「ド、ドイツだと!?」

 

ドイツという言葉に反応したのはラウラだった。まぁ致し方あるまい、母国にテロリストの巣があるとなれば気が気じゃないだろう。

それに引き換え自国に拠点を持たれている俺はそんなに驚きはしなかった。今まで何度か襲撃を食らっているし、虎子さんとも何度も会ったこともあるわけだからある意味当然と言えば当然だった。

しかし、日本の何処に拠点はあるのだろう? 何度も襲撃を受けたIS学園の場所と地理的な可能性から見ると東京か横浜、もしくは横須賀あたりが妥当だろうか。

 

「ええ、イグニッション・プラン選考会での襲撃があった時にストーム・ブレイカーが来たでしょう? いくらストーム・ブレイカーが速いからって長距離を移動して会場まで来るのは無理があるって事で色々調べてみたんだけど、どうやらドイツには複数の拠点が点在してたらしいわ」

「くっ、私達は自国にテロリストが巣食っているのをみすみす見逃してたというわけか……」

「まぁ、それはいいんだけどさ。各拠点の詳細な位置ってのはどうなってんだ?」

 

そう、肝心なのは場所だ。ドイツは多分ケルン近郊で間違いないと思うが他がどの位置にあるのかが気になる。

 

「まず知ってるとは思うけどドイツはケルン近郊の農場ね、ストーム・ブレイカーの発進位置はもうもぬけの殻らしいけどその近くに拠点があるらしいわ。そして中東はシリアのダマスカス北部、レバノンとの国境付近に拠点があるって情報よ。オーストラリアは首都キャンベラ郊外の廃工場が拠点になっていて、最後に日本は……京都よ」

「京都か……」

 

どうやら俺の予想は外れてしまったらしい。しかし京都か、また厄介な所に拠点があったもんだ。

 

「で、この四つの拠点を同時に攻めようってのが今回の作戦なんだけど……」

「明らかに戦力に不安があるな。ISLANDERSの戦力はIS9機、それを四分割するとなると拠点ひとつ当たりに割けるISは基本的に2機だけか。ところで亡国機業の戦力ってどれ位あるんだ?」

「現在確認されているだけで少なくともIS4機を保有しているわ」

「仮に一つの拠点にISを集中配備してたとなると勝つとか負けるとかのレベルじゃねーな、最悪ISを盗られて向こうの戦力増強もありうるぞ」

「そう、そこで現地の戦力に協力を仰ぐ事になったわ。まずドイツは残存するIS8機全て投入して援護に、シリアでは治安維持に展開しているアメリカ軍の地上部隊とIS2機が戦力に加わるわ」

「……となると人選は決まってるも同然か」

「ええ、ドイツにはドイツ組が、シリアにはアメリカ組がそれぞれ行くことになったわ。向こうからのご指名でね」

「ISLANDERSの存在意義、薄くなってない? でだ、残るオーストラリアと日本なんだけど……」

 

この状況から言えば日本に行くのは俺とたっちゃんあたりが妥当だろう、そして残りのオーストラリアにイタリア組と。有希子さんは日本かドイツって所だろうか。

 

「オーストラリアも国防軍からISとパイロットを供出してくれるそうよ、そして残りの日本なんだけど」

 

まぁ、ここは自衛隊の出番になるのだろう。しかし、たっちゃんがおかしな事を言わないかちょっと不安でもある。

 

「IS学園から戦力を引っ張ってくるわ」

「……っ!?」

 

俺の不安はすぐさま的中した。いや、してしまった。俺はたっちゃんに反論すべく立ち上がり口を開いた。

 

「……ちょっと待て、それはどういう事だ?」

「不満? 彼らとて世界最高峰の戦力、きっと力になってくれるはずよ」

「ああ、不満だ。何が世界最高峰の戦力だ、確かに実力ならそうかもしれない、しかしあいつらは素人だぞ? それをいきなり実戦投入なんておかしくないか?」

 

俺だってISLANDERSに入って織斑先生やイーリスさんの指導を受け、それなりに仕上がっているという自負がある。しかしその自負がある以上共に戦う仲間にも同じような水準を求めたい、戦力的なものではなく精神的なアレで。

その点から言うとIS学園の仲間を実戦投入させるというたっちゃんの物言いは俺には到底受け入れられないものだった、彼らを信頼していないわけじゃない、しかしそれとこれとは全く話が違う。

 

「言いたいことは解るわ、でも自衛隊は気軽に戦力を振るえるような組織じゃないの。今回の作戦はフットワークの軽さが求められる以上これも仕方ない事なのよ」

「仕方ない? そもそも襲撃場所が京都のど真ん中じゃないか、100万オーバーの人間が住む真上でドンパチやれってのか!? 何人の一般人を巻き添えにするつもりだよ!!」

 

市街地でのドンパチといえば思い起こされるのがキャノンボール・ファストの一件だ。あの時は奇跡的に死者が出てなかったらしいが、避難する人間の中には怪我人も出たと言う。しかし、それでも運がよかったのだ。俺達も気をつけて戦っていたとは言え、流れ弾が避難中の一般市民に当たらないなんて保障は一切なかったのだから。

 

「……」

「おい、なんかおかしくないか? 確かに京都のど真ん中に敵拠点があるのは由々しき問題だ、でも一般人を俺達の戦いの巻き添えにするのは許される事じゃないはずだ」

「確かにな、アタシは藤木の意見に賛成だ。京都襲撃は見送るべきだと思うぜ」

「イーリスさん……」

「最初はびびってるだけかと思ったが色々お前も考えてるんだな、ちょっと見直したぜ」

 

イーリスさんが俺の味方をしてくれるとは予想外だ、そしてこれでたっちゃんの立場は一層悪くなる。別に苛めたいわけではないのだが。

 

「さて、この当たりでいいだろう。更識君を苛めるのは」

 

そんな時、マッケンジー大佐が口を開く。彼は緊迫するこの会議室の中でも未だ柔和な笑みを浮かべていた。

 

「いやとっつあん、アタシ達は別に苛めてるわけじゃ……」

「ああ、解ってる。というか京都襲撃の件は作戦部でも意見が割れていてな、実働部隊の意見も聞いてみたいという事で更識君にはあえて悪者になってもらったんだ。というわけで彼女をあまり責めないでやってくれ」

「なんでまたそんな回りくどい事を」

「君達にも色々考えてもらいたかったからさ。我々ISLANDERSにとって政治は切っても切れない問題だ、そんな中戦ってもらう君達に求められるのは単純な強さだけではないって事さ」

「まるで誰かに対する当て付けみたいなのサね」

「ははは、さてどうだろうね」

 

アーリィさんが発した言葉にお茶を濁すかのようなマッケンジー大佐、メガフロート組の事はよく解らないが何か問題でもあるのだろうか。

 

「と、いうわけで襲撃から京都は外そう。となると残りの三箇所に誰を割り振るかなんだが……」

「どうせアタシとナタルは中東行きだろ?」

「まぁ、そうなるな。そしてドイツにはボーデヴィッヒ少佐とハルフォーフ大尉に行ってもらう事になる、異論はないかね?」

「当然だ、自国を守るのは私達の義務でもあるからな」

「で、だ。戦闘員が9人という事はやはり三人づつ割り振るのが妥当だろう、となると残りのメンバーでオーストラリア行きの人間と中東、ドイツの襲撃に参加するメンバーを決めるわけなんだが……」

「ちょっといいのサね?」

「どうした、戦闘に関する意見はいつ何時でも大歓迎だよ」

「だったら私とコイツは別のチームしてもらいたいのサね」

 

アーリィさんが左腕でテンペスタ二型の人を指差す。そして指を指されたテンペスタ二型の人は、不快感を隠そうともせずに顔を歪めた。

 

「ほう、理由を聞いていいかね?」

「単純に戦力として期待できないからなのサね、ISLANDERS最弱のコイツのお守り役なんて御免被るのサ」

「それはあなたがっ!」

 

アーリィさんの侮辱に対し、怒りを隠そうともせず立ち上がり怒鳴るテンペスタ二型の人。この二人にとてつもない溝があるのは簡単に見て取れた。

 

「あなたが……なんなのサ? 自分が弱いのは私のせいとでも言いたいのサね? まぁ、確かにそれは間違ってないのかもしれないのサ。私がテンペスタ二型の起動試験で起こした事故のせいでそんなリミッター盛り盛りでそこらの量産機以下の性能しかない情けない機体に乗る羽目になったんだから」

「そうだ、全部あなたのせいだ」

「でも、それとこれとは話が別なのサ。信頼できない機体に乗る信頼できない人間に背中を預けられるほど私も愚かじゃないのサ」

「くっ……」

 

確かにアーリィさんの言うとおり現在のテンペスタ二型は弱い。俺もアメリカで何度か手合わせをしたが一度も負けたことがなかったし、ドイツでの戦いではセシリアさんにも負けているのだから。

しかしそんな事より場の空気が最悪だ、メガフロート組で普段アーリィさんと一緒に行動しているはずの有希子さんに目で合図を送ってみるものの諦めたような視線を返されるだけだった。

どうにかして欲しいと思い、今度はせっちゃんに視線を送るものの何か作業をしているようでこの空気を気にするような素振りすら見せなかった。

 

「せっちゃん、何してんの? ここは司令らしくびしっと場の空気を引き締めてほしいんだけど」

「ああ、悪い。鉛筆を転がすので忙しくてだな……」

 

重要な会議の真っ最中に何してるのだろう、この元中二病は。

 

「よし、これで決まりだな。お前達! よく聞け」

 

司令であるせっちゃんの言葉に、口論を続ける二人も流石に黙る。そして会議場の視線がせっちゃんに集中する。

 

「どうせ中々決まらないだろうと思って人員の割り振りは鉛筆転がしで決めさせてもらった」

「それでいいのかよ……」

「この状況じゃどう組んだって何か不満が出るんだ、だったら決め方は何でもいいだろう。ちなみに現場指揮官として中東にはマッケンジー大佐、ドイツには織斑、オーストラリアにはボクが行くことになるから留意しておくように」

 

だそうだ。まぁ、確かにどう割り振っても不満が出そうなのは言うとおりなので一理あると思う。

 

「まず更識、キミは中東行きだ」

「うわ、周りアメリカ人だらけでうまくやってけるかしら?」

「大丈夫大丈夫、もし何かあったら私に言ってくれたまえ。できるだけの配慮はしよう」

 

不安そうなたっちゃんにやさしく語りかけるマッケンジー大佐。しかしこの二人の人となりを知らない人から見るとこの光景はなんだかヤバイ、なんたって女子高生と太った中年のおっさんなわけなのだから。

 

「そしてドイツ行きは野村、お前だ」

「よっし!」

「嬉しそうだな?」

「まぁ……色々な?」

 

フランス人になり常識人へと変貌した有希子さんが喜ぶ、きっとアーリィさんと別になったのが嬉しいのだろう。だってこの中でアーリィさんが一番常識なさそうなのだから。

 

「となると……」

「ちっ、外れクジを引いたのサね」

 

そしてオーストラリア組は犬猿の仲であるイタリア二人組みと俺という事になる。俺的には考えうる最悪の組み合わせだった。

 

「はぁ、もうやる気でないのサね。私はもう帰らせてもらうのサ」

 

そう言いながらアーリィさんは会議室から出て行く、もうマイペース過ぎて呆れるばかりであった。

 

「くっ……」

 

テンペスタ二型の人は相変わらず苦々しい顔をしている。そして会議の方は注意事項を確認した後にすぐに解散になった。

しかし、これで本当に大丈夫なのだろうか。初の実戦だというのに俺の心には不安しかなかった。


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