新人提督と電の日々   作:七音

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こぼれ話 水上機母艦 瑞穂の憂鬱  ※ 鹿島さんも出ます

 

 

「うふふ……。えへへへへ……」

 

 

 一一五○。執務室。

 雑務を片付ける桐林の傍らで、鹿島は花を咲かせていた。

 といっても、年がら年中、頭の中に咲き乱れている花ではない。見た目だけなら愛らしく美しい、彼女の笑顔のことである。

 残念な中身を知らなければ、大抵の男は確実に恋に落ち、女であっても胸を高鳴らせるような、本当に幸せそうな笑顔だ。

 

 二日間を横須賀で過ごし、舞鶴に帰って来たばかりの鹿島だが、運転などの疲れを鑑み、休養を申し付ける桐林の反対を押し切り、こうして執務机の側に控えている。

 香取も自分用の机に居るので、いつも通りの光景なのだが、こうも嬉しそうにされる理由に心当たりがなく、桐林は落ち着かない。

 

 

「随分と上機嫌、だな。鹿島」

 

「はい! それは勿論! 鹿島はいつでも絶好調なので!」

 

「そ、そうか……」

 

 

 丁度、仕事が一段落したタイミングで、問い掛けてみる彼。

 すると、鹿島は元気発剌、今にも「ファイトー! 百発ー!」と言い出しそうな意気込みを見せた。

 気圧されつつ、桐林は考える。

 そんなに舞鶴が恋しかったのだろうか。

 もしや、横須賀で嫌な思いでもしたのだろうか。

 いやいや、あの子たちが鹿島を邪険にするはずがない。ならば……?

 

 表情を殺し、アロマ・シガレットで一服するが、答えは出そうになかった。

 妙な所で鈍い桐林はさて置いて、今度は香取が妹へと苦言を呈する。

 

 

「舞鶴に戻ってからというもの、ずっとね……。気持ちは分かるけれど、浮かれ過ぎては仕事に支障をきたすわよ?」

 

「心配しないで、香取姉! 私、もうとにかく頑張っちゃいますから!」

 

(貴方が頑張ると言っていること自体が心配なのよ……。少し肩の力を抜くぐらいが、この子は丁度良いのに)

 

 

 鹿島の眼に燃える炎を感じ、静かに溜め息を零す香取。

 気持ちはよく分かる。

 たった二日とはいえ、懸想する相手の側から離れていたのだ。

 その隣に居られる幸せを再確認し、恋しかった気持ちが盛り上がってしまうのも、まぁ分かる。

 しかし鹿島が張り切ると、空回った分が遠心力で加速され、とんでもない方向へ飛んで行き、着弾点が酷い有り様になる可能性が高い。

 妹を落ち着かせる方法がないものかと、香取は頭を悩ませる。

 

 と、そんな時、執務室のドアがノックされた。

 控えめな音に香取が思い出す。

 そういえば、“彼女”を執務室へと呼び立てていたのだった。

 ひとまず鹿島の事は置いて、執務を優先させなければ。

 

 

「はい。どうぞ」

 

「し、失礼、致します……」

 

 

 香取がドアに声を掛けると、これまた控えめな声が返り、恐る恐るといった様子でわずかに開く。

 身を滑らせるように入室したのは、舞鶴艦隊唯一の水上機母艦、瑞穂だった。

 

 

「瑞穂。お呼びにより、参上致しました……。あの、い、如何様な、御用でしょう、か……」

 

「……み、瑞穂さん? どうして、そんなに怯えてるんですか? いつもはもっと、こう……?」

 

「あ……その……うう……」

 

 

 ──が、その立ち振る舞いに、鹿島は違和感を覚えた。

 俯きがちな顔。泳ぐ目線。モゾモゾと蠢く、身体の前で組まれた指。

 あらゆる所作から、落ち着きが失われている。

 普段はもっと優雅で華やか、かつ控えめで儚げな、薄幸の美女と評されるべき女性なのに。

 

 

「瑞穂」

 

「は、はい……っ」

 

 

 何を思ったのか、おもむろにアロマ・シガレットを灰皿へ置き、桐林が席を立った。

 名を呼ばれ、ピクン、と震える瑞穂の真正面で足を止め、数秒。

 どんどん顔色を悪くする彼女へと、桐林は溜めを作って言う。

 

 

「また、海図が使えなくなった。高速航路の、再開拓を頼む」

 

「……あぁぁ」

 

「あっ、瑞穂さん!?」

 

 

 フラッと崩れ落ちる瑞穂の身体を、すかさず抱き留める桐林。

 突然の事に鹿島は驚いているが、彼にとっては想定内の事のようだ。動きに慣れが見える。

 

 

「何故……。何故なのですか……?

 折角、二週間も寝る間を惜しみ、甲標的を使役し続けて作り上げた海図だというのに……。

 大きな戦いがある度、高速航路の分岐が変わってしまうだなんて……。

 深海棲艦の皆様は、瑞穂に何か、恨みでもお有りなのですかぁ……?」

 

「まぁ、敵同士ですし、ねぇ……」

 

「というか瑞穂さん? 提督さんとくっつき過ぎじゃ……」

 

 

 桐林の腕の中で、瑞穂は嘆き悲しむ。

 そこだけ切り取って見れば、悲劇のヒロインに相応しい、涙を誘う姿だった。

 けれど、香取の突っ込み、鹿島の横槍が入った瞬間、コミカルになってしまうのは何故だろうか。

 

 ここで、舞鶴艦隊における瑞穂の役割を解説させて頂く。

 初期こそ艦隊随伴任務をこなしてきた彼女は、ディーゼルエンジンとタービンエンジンを併用していた千歳型と違い、大和型のテストベッドとしてディーゼルエンジンのみを積まれたのだが、このエンジン、故障が多かった。

 詳細は省くが、出力にも制限を掛けねばならず、結果、大和型への採用は見送られる程であり、とにかく脚が遅かったのだ。

 長い時を経て、改良点を見つけ出しているはずの現代でも、瑞穂が最大船速を出そうとすると、何故か完璧に整備したはずの機関が故障してしまう。

 ちなみに、後継艦である水上機母艦 日進(にっしん)の機関部は、同じディーゼルエンジンでありながら最大二十八ノットの快速を誇っている。もしかして呪われてるんじゃ? というのは明石の談である。

 

 そんな訳で、雲龍型が艦隊に加わった頃から、彼女の任務は高速航路の開拓が主となった。

 横須賀で千歳たちが行っていた事とほぼ同じ内容なのだが、ただ一点、あちらとは違う部分がある。

 姫級の深海棲艦が起こす地殻変動により、たびたび海流の分岐が変化してしまうのだ。

 おそらく、日本海という特殊な環境がそうさせるのであろうが、海流が変化してしまえば、安心して高速航路を使う事も出来ない。

 故に、地殻変動の度に瑞穂は、寝食を惜しんで甲標的によるマッピング作業をしなければならないのである。

 

 何度となく手書きで海図を完成させても、敵の気紛れによって無為に帰す。この悲しみ、お分り頂けるだろうか。

 瑞穂と共に海図を描いた事のある桐林には、その苦労が理解できた。

 大学時代、サークル活動の一環としてアナクロゲームに没頭し、手動のマッピング作業をした事もある桐林には、痛いほど理解できた。

 しかし、瑞穂の作る海図が無いと、作戦遂行に支障が出てしまう。

 致し方なく、桐林は心を鬼にした。

 

 

「瑞穂。辛いのは分かる。

 苦しいのも悲しいのも、分かる。だが必要な事なんだ。

 この艦隊に、甲標的を扱えるのは君しかいない。……頼む」

 

 

 咽び泣く瑞穂の肩を支え、真っ直ぐに瞳を見つめる桐林。瑞穂もそれを見つめ返し、静かな時間が過ぎる。

 香取が素知らぬ顔で書類を整理し、鹿島が「いいなぁ……」と指を咥えて、しばらく。

 細い指で涙を拭った彼女は、桐林へと微笑んで見せた。

 

 

「分かりました……。他ならぬ提督からの御指示ですもの。全身全霊で、航路開拓に勤めますわ」

 

「ああ。宜しく頼む」

 

 

 承諾を取り付け、桐林は心の中でホッと溜め息をついた。

 現状、瑞穂には貧乏クジを引かせてしまっている。

 桐林が「やれ」と言えば、彼女はなんでもやってくれるだろうが、過剰に負担を強いるのは良くない。

 どうにか上層部を説得し、打開策を打ち出さなければと、決意を新たにする桐林であった。

 

 が、それは別として。

 可及的速やかに解決しなければならない問題が、現在進行形で起こっていたりする。

 

 

「……ところで、瑞穂」

 

「はい。なんでしょう?」

 

「そろそろ、自分で立って欲しいんだが」

 

 

 まるで甘えるように、しな垂れかかる体温。

 瑞穂はそれとなく、しかし確実に桐林へと、体重を預けているのだ。

 か弱い女性を抱き止めるというのは、実に男冥利に尽きる事ではあるのだが、そろそろ背後からの視線が痛くなってきた。

 鹿島の視線であろう。見える訳でもないのに、そう確信できた。慣れとは恐ろしい。

 けれど、その元凶たる瑞穂は、またニッコリと微笑んで。

 

 

「あら、申し訳ありません。誠心誠意を込めて作らせて頂いた海図が無駄になってしまったというのは、やはり衝撃的で……。お嫌、ですか?」

 

「……困る」

 

「お嫌ですかと聞いて『困る』と仰るからには、お嫌ではないのですよね?」

 

「………………」

 

 

 儚げなはずの笑顔に、どうしてだか迫力というか、有無を言わせぬ気配を感じ取り、桐林の目元が引きつる。

 出会った当初こそ、桐林に怯え通しだった彼女だが、共に航路を開拓した辺りから、如実に反応が変化した。

 自らの能力の成長度合いを確かめるため、桐林は瑞穂に直接乗り込み、数日間、増幅機器を使わずに甲標的を使役したのだが、それからのような気がする。というか絶対そうだ。

 記憶にある限りでは、初めて殿方を乗せただとか、土足で踏み荒らされただとか、内側を観察されただとか、こうなっては責任をだとか、そんな事を言っていたような。

 冗談にしては性質が悪い。本気だとしても良くない事態である。

 

 桐林が半歩ほど後退るも、瑞穂との間に距離は生まれない。

 むしろ、彼女は胸板に額を押し付けるようにして、より密着してくる。

 無性に口淋しくなり、桐林は今すぐアロマ・シガレットを吸いたいと感じ始めた。

 時を同じくし、我慢の限界を迎え、堪忍袋の緒を歯で噛み切った鹿島が、二人の間へと強引に割り込む。

 

 

「はいっ! そこまでです! それ以上の物理的接触は、執務中の秘書官として見過ごせません! 離れて下さいっ」

 

「やん。鹿島さん、何をなさるんですか? そんな風に割って入ろうだなんて、危ないです」

 

「むぅ……っ」

 

「うふふ」

 

 

 臨戦態勢の鹿島と、余裕を見せつける瑞穂。見えない火花が散っていた。

 桐林は窮地を脱したかのように思われるであろうが、実は今までと何も変わっていない。

 何故ならば、割り込んだドサクサに紛れ、今度は鹿島が腕の中に潜り込んだからである。

 先程までとは趣きの違う柔らかさを感じ、桐林は考えるのをやめていた。意識すると身体の一部がマズい事になってしまう。

 

 桐林に抱き着きながら、恋敵を睨む鹿島。

 儚い微笑を浮かべ、ヤキモチを焼く幼子でも見守るような風体の瑞穂。

 どうしてだろうか。いつもなら雷を落としそうな香取は、何も言わない。もはや、止めるものは誰も居ないと思われた。

 

 が、次の瞬間、執務室に再びノックの音が響く。

 返事も待たずにドアを開けたのは──

 

 

「や、司令。この間は変な風になっちまって、悪い事したよな? お詫びに、萩とカレーとか作ったん……だけど……」

 

 

 ──制服を着崩した赤毛の少女、嵐であった。

 突然の来訪者に時間を止める室内。

 朗らかに入室した彼女は、片手を上げて挨拶しつつ、桐林の姿を見つけ、少々遅れて硬直する。

 真昼間から男女が仕事場で抱き合っていれば、それも当然だろう。

 形の良い眼をパチクリ。

 見間違いかと擦ってみても、変わらず抱き合う桐林と鹿島。

 間違いなく現実だと認識した嵐は、腕を組んで思案。とある結論に至り、鹿島へと歩み寄って肩を叩いた。

 

 

「鹿島さん……。こんな事、俺に言われるのはアレだと思うけどさ……。仕事中に迫るのは不味いんじゃないか? 周りに示しがつかねぇっていうか、さ」

 

「えっ。ち、ちちち違います、違うんですっ、これは瑞穂さんが、あれ、でも、あれぇ?」

 

 

 生暖かい視線を浴びせられ、鹿島は慌てて桐林から離れるのだが、否定する要素を見つけられずに困惑してしまう。

 瑞穂が桐林に抱き着いていたから、鹿島はその間に割って入り、羨ましかったのでついでに自分も抱き着いて、そこを嵐に咎められる。

 どこからどう見ても、鹿島の自業自得であった。

 とはいえ、このまま見捨ててしまうのも憐れかと思い、無言を貫いていた香取が助け舟を出す。

 

 

「嵐さん。先ほど、カレーと仰っていましたが……?」

 

「お、おお。そうなんだよ。司令って、歯応えのある食いもんが好きなんだろ?

 萩がさ、健康にいい根菜カレーを考えてたんで、丁度いいからってな。俺も……サラ、ダ? っぽいの作ったんだ。

 そうだ。昼まだなら、香取さんや瑞穂さんもどうだい? 俺たちの部屋で。飯は賑やかに食った方が美味いに決まってんだし、ついでに鹿島さんも」

 

「まぁ! 実はお腹が空いていたんです。この瑞穂、是非とも御招待に預かりますわ」

 

「私はついでなんですね……」

 

「まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん。ほら行こうぜ? 萩のカレーが待ってるぞー!」

 

「ちょ、ひ、引っ張らないで下さい嵐さん!? 私、まだ提督さんとのお仕事が……」

 

「あ。でしたら私が香取さんと一緒に後片付けをしておきますので、鹿島さんはお先にどうぞ?」

 

「んなっ!? そ、そんなの駄目っ、きっとまた、どさくさ紛れに提督さんと……。そんなの、私は認めません、認めませんからねぇええっ!」

 

「御機嫌よう~」

 

「あの子は、全く……」

 

 

 なんとも身勝手な叫び声を上げつつ、嵐に引き摺られて行く鹿島。

 瑞穂が手を振って彼女を見送り、香取は妹の醜態に頭を抱えた。

 桐林はまだOKを出していなかった訳だが、参加は決定事項らしい。

 今さら断る事も出来ないか……と諦める桐林だったけれど、しかし、別の事が気にかかる。

 

 

「……どうしたんだ、瑞穂」

 

「あら。何がでしょう」

 

 

 それは、らしくない瑞穂の言動であった。

 常日頃から謙虚で礼儀正しく、桐林に関わらない自己主張は控えめな彼女が、積極的に空腹を示すという慎みない行動を取るなど、少々おかしい。

 問われた瑞穂は、楚々と小首を傾げるばかり。

 それでも桐林が見つめ続けると、彼女はまた笑みを浮かべ、静かに一歩、距離を縮める。

 か細く、簡単に折れてしまいそうな指が、黒い詰襟の胸元に置かれ、そして、止める間もなく隙間から服の中へ滑り込んだ。

 

 

「お、おい」

 

「これは、瑞穂がお預かりします。よろしいですよね?」

 

 

 眼を丸くする桐林の眼前に、半透明なピルケースが突きつけられる。

 詰襟の内ポケットに仕舞われていた物であり、桐林も、まさか擦り盗られるとは思っていなかった。

 反射的に取り戻そうとするけれど、胸に抱え込まれては叶わない。

 当惑する桐林へと、瑞穂は微笑む。

 少しだけ、悲しみを滲ませて。

 

 

「私も、事情は承知しております。

 間宮さんほど味覚は鋭敏ではありませんが、提督との同調時間だけで言えば艦隊随一。代わりなら務められます。

 ……ですから。味覚を殺す為だけに服毒なんて、なさらないで下さいませ」

 

 

 言いながら、瑞穂は深々とこうべを垂れた。

 ピルケースの中身は、彼女が言った通り、特別に調合された神経毒である。

 常人であれば死に至る濃度の劇薬だが、毒物への耐性を得た桐林が服用すると、一時的に味覚を麻痺させる程度の効果を発揮する。

 変調をきたした味覚を誤魔化し、今後起こり得る、要人たちとの会食などを滞りなく行うために、事情を知った梁島が用意した物だ。

 時津風たちを見送る食事会で飲んでいたのも、これだった。

 

 味覚異常を隠すため、基本、予定外の食事の誘いは断る桐林だが、どうしても断りきれなかったり、出席する必要があると判断した上で、間宮を同席させるのが不自然である場合に、これを服用していた。

 味のない食事というものは、全く面白みのない、苦行に近い行為であったが、ただ味がしないだけならば、簡単に我慢できたのだ。

 

 

「一体、いつから……?」

 

「確信を抱いたのは最近です。

 私の知る限り、提督がこの薬を飲むのは、決まって間宮さん以外の方とのお食事でした。

 けれど、間宮さんも同席される場合には、お飲みになっていませんでしたので。

 あとは推測ですが、提督なら、“こういう事”もやりかねませんから」

 

 

 小さな子供を叱るように、瑞穂が桐林の鼻の頭をつつく。

 柔らかさを感じる微笑みは、まるで「駄目ですよ?」と言っているようで。

 どうやら、完璧に性格を把握されているらしい。

 これ以上は無駄な抵抗だと悟り、桐林は香取を見やる。

 すると、残る仕事を纏め終えた彼女も、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

「私も共に参ります。一人よりは二人の方が、違和感なく食事を同期できるはずですから」

 

「まぁ。香取さん、頼もしいですわ。さ、提督? 嵐さんと萩風さんと、鹿島さんがお待ちになっています」

 

「早くしないと、待ちくたびれて迎えに来るかも知れませんね。特に鹿島は」

 

 

 右腕に瑞穂の左腕が絡まり、左には香取が控えている。後は、桐林が歩き出すだけ。

 ふと、吸いかけのアロマ・シガレットを思い出し、後ろを振り返った。

 執務室の上にあったはずの灰皿は、しっかり片付けられていた。きっと香取の仕業だ。

 

 

「……そうだな。鹿島が暴走してないか、気になるしな」

 

「本当に、私の妹は騒がしくて……。お恥ずかしい限りです……」

 

「いいや。……楽しいよ」

 

「そうですね。うふふ」

 

 

 後顧の憂いも無くなり、桐林はいよいよ、嵐たちの待つ部屋へ歩き始める。

 歩幅を合わせる三人の足取りは、軽い。

 ゆっくりとした歩みだけれど。

 とても、軽やかだった。

 

 

 

 

 

「司令、あの……。根菜カレー、味はどうでしたか……? 一応、味見はしてあるんですが……」

 

「……萩風」

 

「は、はい」

 

「お代わり」

 

「あ……! はいっ。すぐにお持ちしますね!」

 

「まぁ。流石は提督、健啖なのですね。あ、瑞穂ももう一皿、頂いてよろしいですか? とても美味しかったもので……」

 

「はい、もちろんです! すぐによそいますから、座っていて下さいっ」

 

「っへへ……。頑張ったもんな。良かったな、萩」

 

(うむむ、確かに美味しい。そして、提督さんへのそこはかとないラブ臭まで感じる……。萩風ちゃんも要注意だわ!)

 

(鹿島ったら、また変な事を考えている顔ね……。にしても、この福神漬けの美味しいこと。自家製かしら)

 

 

 

 

 




 瑞穂さん、誘いMから下手攻めに属性転換するの巻。
 てな訳で、新年一発目のこぼれ話でございました。
 毒も薄めれば薬になる場合がありますけれど、主人公の毒に対する許容量は人の範疇に収まらず、こんな事態になっています。自罰的にも見えますね。
 ん? そんな事より、瑞穂さんの変貌ぶりが気になる?
 一緒にマッピング作業している間に、“何か”あったんじゃないですかねぇ。お風呂とかトイレとか、その他諸々が。
 鹿島さんはいつも通りなので割愛(えっ)。

 ここからしばらく、シリアスはありません。舞鶴編で溜め込んでいたバカ話の消化に移ります。
 名前だけ登場していた艦やイタリア艦の本登場、眞理杏瓊ちゃんの続報、横須賀勢の話などを更新していきますので、宜しければ今年もお付き合い下さい。
 それでは、失礼致します。


「ええっと、これがあれで、あれがそこで……」
「明日の準備かい。随分と念入りだね」
「当たり前よ! 艦隊を代表するレディーとして、“あの子”には負けられないんだから!」
「……ワタシたちは司令官に会いに行くんだし、“あの子”と張り合っても仕方ないと思うんだけれど」


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