新人提督と電の日々   作:七音

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こぼれ話 超解! エリクサー入門 ~誰でも作れる伝説の妙薬~・前編

 

 

 

 深夜。

 横須賀鎮守府、某所地下にある一室で、二つの影がうごめいていた。

 

 

「……どぉ? 漣ちゃ――」

 

「スタァアアップ! 今はその名前で呼んでは駄目でござる! Dr.スモールウェーブと呼んで下さいまし、如月ちゃんもといMs.フェブラリー!」

 

「もう名前が出ちゃってる気がするんだけどぉ……」

 

「細けぇことは良いんですよ。よぉし、来い来い来い来い……!」

 

 

 怪しげな実験器具の前に立つ影の正体は、二人の少女だった。

 桃色の髪をツインテールに縛り、瓶底メガネと白衣をまとう、綾波型駆逐艦九番艦・漣――ではなく、Dr.スモールウェーブ。

 三枚の花弁を象る髪飾りで、長い黒髪を引き立たせる、睦月型駆逐艦二番艦・如月――もとい、Ms.フェブラリーである。純白のナース服とキャップを身につけていた。

 ちなみに、メガネと白衣、ナース服はオプション装備である。兵藤提督の置き土産だ。

 

 

「お。お、お、お。おぉぉおおおっ!? キタキタキタキター!」

 

「あらぁ。ひょっとして成功かしらぁ」

 

 

 どこから見ても、後ろめたい実験をしています的な少女たち。

 予想に違わず、幾つものフラスコが組み合わさった器具から、怪しげな光が発せられる。

 待ち望んでいた化学反応だったようで、Dr.スモールウェーブが色めき立ち、Ms.フェブラリーが頬に手を当てた。

 恭しく持ち上げられたのは、大きなビーカーへと抽出された、蛍光するピンクい液体。

 身体に悪そうな物体だが、しかしドクターは歓喜に打ち震える。

 

 

「ふふっふっふっふ、ふふふのふ。出来た……。ついに出来たよMs.フェブラリー!」

 

「やったわねぇ、Dr.スモールウェーブ。楽しい事になりそうだわぁ」

 

「当たり前田のクラッカーですってー。ご主人様が誰にどう使うのか、今からwktkですよー」

 

「本当ねぇ。でも、そのネタ誰も分からないと思うわぁ」

 

 

 薄暗い部屋で狂喜乱舞するドクターに、助手を務めるナースが突っ込む。

 誰も止める者が居ない中、今まさに、騒ぎの火種が生まれたのである。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「という訳で、何も聞かずにこれを飲んで下さいませ、ご主人様!」

 

「お断りします。怪しくピンク色に蛍光する液体なんて飲めるか」

 

「でwすwよwねwww」

 

 

 自室のコタツに置かれた、木製の枠に並べられる六本の試験管。

 飲めという無茶振りをブった切ると、持ち込んだ主であるセーラー服少女――漣は、いかにもなネットスラングで大笑いした。

 

 

「……で、一体なんなんだそれ。新しい賦活剤か何かか?」

 

「いえいえ。そんな面白味のない物じゃございません。私、綾波型駆逐艦九番艦・漣と」

 

「私、睦月型駆逐艦二番艦・如月が、夜も寝ないで昼寝して作り上げた、幻の秘薬……」

 

「名付けて! 漣と如月のお手製、一口飲めばラブが芽生える惚れ薬的なジュース、なのです!」

 

「略すとぉ、漣と如月のラブジュー」

 

「言わせねぇよ!?」

 

 

 ガタンと音を立て、自分はNGワードを妨害する。

 あっぶねぇ……。休日の真昼間からなんてこと言いやがんだ、このロリビッチ。

 焦る自分と違い、発言者は――緑のスカートと、黒いニーハイによる絶対領域が眩しい新入り駆逐艦は、「うふふ」と楽しそうだ。

 そしてそこのネタ艦娘。「その発想はなかったわー」じぁねぇ。憲兵隊が現れたらどうしてくれる。

 

 

「まずは聞かせてもらおう。なんでそんなもん作った」

 

「暇だったので」

 

「……臨床試験は」

 

「これからですよ?」

 

「…………原材料は」

 

「禁則事項です♪」

 

「よぉし分かった。自分で飲めやこの有害指定艦娘」

 

「にゃんてことを言うんですかご主人様っ、この漣めに死ねと仰る! あんまりだ、そいつぁあんまりでごぜぇますよ!?」

 

「自分で飲めないなら他人に飲ませようとすなぁああっ!」

 

 

 ツッコミついでにミカンの皮を投げつけると、漣は「にゃうんっ」なんて言いながらコタツへ潜り込む。

 如月も「失礼するわぁ」と脚を入れるのだが、この二人、外見的に大きな違いがあった。

 なんでだか漣の奴は、猫耳尻尾を着けてるのだ。

 

 

「っていうか、なんで君は猫耳尻尾を着けてるんだよ。もうオペレーション“エヌ・ワイ・エー”は終わってるだろう」

 

「だからこそですよ。遠征中だった私を除け者にして、あんな楽しそうなことをやっちゃうだなんて……。漣は傷つきましたっ。

 うっかり神様にマジ忘れされちゃったっぽい私がアピールするには、これしかないのです!

 ご主人様に御奉仕するにゃん♪ 一時間三千円ポッキリでっ」

 

「あ、そろそろ終電なのでー、結構でーす」

 

「おうふっ。キャバクラ扱いとはこれ如何にっ」

 

 

 ショックを受けてそうな言動だが、その実、ミカンを剥いて食べている漣。まぁ……。こういう子だった。

 これ見よがしに庁舎で「ご主人様」呼ばわりされて、もはや女性職員全てが敵ですよ。

 唯一話しかけてくれる警備員だか監視員だかの女性も、二人っきりにならないよう警戒だけは怠らないし。

 気の置けない……じゃなく、遠慮しちゃいけない相手だ。キッチリ突っ込まなければ。

 

 

「ねぇ、司令官。漣ちゃんばかりじゃなくて、私も見て? 放ったらかしにされるとぉ、寂しくて、切なくなっちゃう……」

 

「え。……あ、あぁ、うん。ごめん」

 

「あん、目をそらしちゃダァメ。ちゃんと見つめ合って、お話ししましょう?」

 

「日常会話を見つめ合ってする必要は無いんじゃ……」

 

「……いや?」

 

「……いやではないです」

 

「うふふ。良かったぁ」

 

 

 そして、わざわざ距離を詰め、両手でこちらの顔を挟み込む如月も、決して油断できない。

 先程からの言動で分かるように、この子はなんというか……エロいのだ。

 あり得ないだろうってくらい色気が漂っている。

 確かにね。陸奥を励起して責められる快感に目覚めはしたよ。

 だからって駆逐艦をこんな風に顕現させちゃうとか、自分、去勢した方が良いんだろうか。

 

 

「おっほん。話を戻すけど、この惚れ薬、具体的な効能とか使用法はどうなってるんだ?」

 

「お、興味湧きました? ならばご説明致しましょう!」

 

「こちらのフリップを見てもらえるかしらぁ」

 

 

 咳払いを一つ。

 嫌な流れから本筋へと戻ると、漣&如月は、どこからともなく指示棒とフリップを取り出した。

 用意が良いな君たち。

 

 

「効能としては単純明快。飲んでから一番最初に見た異性への好感度が爆上げされちゃいます。使用法もただ飲むだけ。どろり濃厚ピーチ味!」

 

「でもぉ、薄めたりすると効果も薄れちゃうみたいだから、飲み物に混ぜたりはできないの。残念だわぁ」

 

「なんで残念がるんですか如月さん」

 

「うふふ」

 

 

 頬に手を当て、にっこり微笑むえらくエロい駆逐艦。

 ……怖いから追求するのはよそう。しっかし、惚れ薬ねぇ。

 コルクで栓された試験管を手に取り、シゲシゲと眺めてみるが、見れば見るほど目に痛い。

 

 

「よく考えたら、統制人格には通常の薬って効かないし、自分は飲みたくないし、使い道ないんじゃないか? これ」

 

「ふっふっふ。ご安心くださいませ。高速修復材由来の成分を配合しておりまして、艦娘にも効きますぜ? たぶん」

 

「多分かよ。だったらまず自分で確かめてみろ。ほら」

 

「いやいやいやダメです。漣は開発者として、結果を記録しなければいけないんです。飲みたいのは山々なんですけど」

 

「言い訳乙。じゃあ如月は?」

 

「私なら大丈夫よぉ」

 

 

 ワザとらしくメモ帳を構える漣から矛先を変え、如月に試験管を渡してみると、彼女はごく普通に受け取る。

 そのままキュポンと栓を開け、飲もうと口へ寄せるのだが、しかし、直前で動きはストップした。

 

 

「でもね。飲む前に一つだけ、聞いておきたいの」

 

「なんだ?」

 

「……ホントに、良いの? 私が飲んでも」

 

「へ」

 

「もし、私がこれを飲んで、抑えが利かなくなったとしたら……。責任、取ってくれるかしらぁ」

 

「せ、責任? ぇあ、ちょっと」

 

「そう。責任を持ってぇ……鎮めて、くれる?」

 

 

 言いながらコタツから抜け出し、押しのけるようにして隣に潜り込む如月。

 窮屈さを物ともせず、彼女は微笑み続けている。

 桃の匂いがした。惚れ薬からなのか、それとも彼女自身から香っているのか、判別できない。

 

 

「トンデモない事になりそうなんで、やっぱ止めて下さい」

 

「あら、残念。……いじわる」

 

 

 結局、そっぽを向いて試験管を取り上げるのが精一杯だった。

 太ももを軽く抓られる痛みが、手元を物凄い勢いで震えさせる。

 なんなんだ、この駆逐艦。もしかして攻略でもされてんのか自分!? なんで!?

 

 

「んで、どうしますか? ご主人様。とりあえず六人分ありますけど」

 

「は? あぁ、う~ん……。そうだなぁ……」

 

 

 ――と、訳の分からない恐怖に打ち震えていたら、「やれやれだぜぇ」と肩をすくめる漣から助け舟が。

 大急ぎでそれに乗っかり、自分は考え込む。

 惚れ薬。飲んだ相手からの好感度を爆上げする妙薬。ただし保険は効きません。

 正しく使うには、実験が必要だろう。

 

 

「うん、決めた。行くぞ二人とも。着いて来い!」

 

「おぉぉ。ヤる気満々ですねぇご主人様。このケダモノ!」

 

「男らしくて素敵よ、司令官。そのままベッドに連れて行かれちゃいそう」

 

「はっはっは。褒めてないだろ君たち」

 

 

 思い立ったが吉日。自分は早速コタツを抜け出す。

 そして、微妙なエールを送る二人のお供を引き連れ、隣り合う宿舎へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 惚れ薬を使う相手の定番といえば、第一に挙げられるのが「好きになって欲しい人」である。

 どんな手段を使っても、意中の相手を射止めたいと願うのは、色恋に狂った人間の性だ。

 しかし、好きになって欲しいと言っても、その理由が一つとは限らない。

 例えばそれは――

 

 

「お、居た。おぉ~い、大井~。北上~」

 

 

 ――なんでか知らないけど嫌われてる相手との関係を、改善したい場合だ。

 そんな訳で、自分は第一ターゲットこと、北上大好き大井さんへと近づく。

 ちなみに、場所は宿舎一階の廊下である。ちょうど昼食を食べ終わり、部屋に戻ってマッタリしてる頃合いだから、人通りはない。

 

 

「提督じゃん。おっはー。何してるの?」

 

「うん、おはよう。実は大井を探しててな」

 

「わたしですかぁ……? というか、廊下で大声出さないで貰えます? 二回も呼ばなくたって聞こえますし」

 

「そんな嫌そうな顔するなよ……。あと、一回しか呼んでないから」

 

 

 いつも通り、二人で仲睦まじく歩いている重雷装艦コンビ。

 声をかけると、北上は朗らかに挨拶してくれるのだが、大井は「チッ。声かけてんじゃねぇよ」という眼で睨みつけてくる。

 そうやって誰彼構わず敵意を向けるのはやめなさい。

 こないだも、別の子を「おぉーい」って呼んでた衣笠にメンチ切ってただろ。めっちゃビビってたぞ。

 

 

「ご用件はなんでしょう。早々に済ませて頂けると有り難いんですけど。

 そして何処へなりとも行って下さい邪魔です。

 統制人格に猫耳つけさせて喜んでる人と、並んでいたくないので」

 

「この正直者めぇ……。まぁいい。ちょっとこっちに」

 

「えー。あたしには何もないのー」

 

「ごめんな。北上にも関係はあるんだけど、少しだけ大井を貸してくれ」

 

 

 しかし、面と向かって文句をつける度胸もなく、本来の目的を達成するため、大井だけを連れ出す。漣、如月は北上の足止めだ。

 十分な距離を取ったところで、自分は懐から試験管を取り出した。

 

 

「まずはこれを見てくれ。どう思う」

 

「凄く、怪しいです……。なんですか、この蛍光塗料?」

 

「実はこれ……。漣たちが作った惚れ“られ”薬らしいんだ」

 

「なん、ですって!?」

 

 

 あらかじめ用意しておいた嘘をついてみると、見事に食いついてくる。

 しめしめ……。この調子でそれらしい事を並べ立ててやるぜぇ!

 

 

「こいつを一本まるごと飲むとだな、その人物が一番好ましいと思っている対象への霊的な繋がりが強くなって、無意識に好意を伝えられるそうなんだ。

 もちろん相手は気付かないけど、なんとなく好意の影響を受け、いい雰囲気になれる……らしい」

 

「な、なんて素晴らしい……! って喜びたいのに、端々に出てくる“そう”とか“らしい”のせいで、不安一杯なんですが」

 

「そこら辺はしょうがないだろう。なにせ実験段階の試作品なんだから。

 本当なら自分で使いたいんだけど、まだ少量しか作ってないみたいだし、ぶっちゃけ怪しいじゃん? だから誰かにプレゼントしようかと思ってさ」

 

「ていの良い厄介払いじゃないですか、それ。わたしは産業廃棄物を処理したりしません。全く、くだらない……」

 

 

 いい感じに行けるかとも思ったけれど、流石は抜け目のない大井。簡単には釣り上げられないようだ。

 しょうがない。押してダメなら引いてみろってな。

 

 

「そっか。要らないか。じゃあ、やっぱ自分で飲むしかないか」

 

「そうして下さい。どうせ失敗でしょうし、電ちゃんには嫌われるでしょうけど」

 

「ん〜。でもなぁ、能力者が飲むと効果が強くなり過ぎて、見境なしに効果が出ちゃうかも知れないって言うんだよなぁ。……北上とかにも」

 

「わたしが飲みます! 飲ませて下さいお願いします!」

 

 

 眼前で試験管プラプラ。もっともらしいウソ八百に、大井は手のひらを返した。

 今も惚れ薬を奪おうと、こちらの胸板に手を置いて背伸びしてるが、自分と彼女じゃ身長差がある。いくら手を伸ばしても届かないだろう。

 いつもこんななら可愛いんだけどなぁ、ホントに。

 

 

「じゃあ、ほい。一気に飲むんだぞ」

 

「……どうも。……うぅ、やっぱり止めといた方が良かったかも……。あ、いい匂い」

 

 

 いつまでも遊んでいたって仕方ないので、気が変わらないうちに試験管を渡す。

 しかめっ面でコルクを抜く大井だったけれども、匂いが好みだったか、素直に惚れ薬をあおった。

 

 

「っはぁ。ご馳走様でした。やけに喉に引っかかって、飲み辛いですね」

 

「なるほどなるほど。喉越しは改良の余地がありそうだな」

 

 

 一気飲みし終えた試験管を回収し、それとなく漣たちへアイコンタクト。彼女たちも頷く。

 事は成った。あとは効果が出てくれるのを待つのみ……!

 

 

「……提督。これで効いてるんですよね?」

 

「あ、あぁ。そのはずだけど」

 

「なら戻りましょう。北上さん、どんな反応してくれるかしら……。ふふふふふ」

 

 

 ――の、はずなのだが……?

 大井はこちらへ目もくれず、そそくさ北上の方に戻ってしまった。

 あ、あれ? ちゃんと飲んだよな。そのあと顔も見たよな。変化がないんですけども。

 

 

「あ。二人とも、用事は終わった?」

 

「はい、済みました。相変わらずくっだらない要件でしたけど」

 

「おいこら。その言い方はないだろう」

 

「大井っちも変わらないねー。ごめんねー、提督。きっと素直になれないだけだから、気にしないでね」

 

「北上さん!? その言い方だと、わたしが提督に好意を抱いてるみたいじゃありませんか! 違いますから!」

 

 

 一応、自分も後を追うのだが、やっぱり大井の様子に変化は見られない。

 忍び足で寄ってくる製作者二人も、怪訝な顔だ。

 

 

「ご主人様、全力で否定されてますよ。本当に飲ませたんですか?」

 

「うん……。目の前で一気飲みしたはずなんだけど……」

 

「いつもと変わらないみたい。失敗だったのかしらぁ」

 

 

 三人で車座になり、顔を突っつき合わせて内緒話。

 好感度爆上げっていうくらいだから、北上そっちのけで抱きつかれたりとか想像してたのに、全くもってそんな気配がない。

 もともと期待半分だったけど、まるで効果なしとは……。いや、即効性とも限らないんだし、もうちょっと様子を見るべきか?

 

 

「と、ところで、北上さん。わたし、どこか変わったように見えません?」

 

「……そお? っていうか、さっきなに飲んでたの? なんだか怪しい光が漏れてたけど」

 

「え゛」

 

 

 わずかに離れた場所で、雷巡コンビも立ち話中。

 先程のじゃれ合いを見られていたようで、問われた大井が堪らず仰け反った。

 やばいっ、そのまんま惚れられ薬なんて説明できないぞ、どう誤魔化すんだ!?

 

 

「え、えぇっと……。て、提督から、統制人格用の試作栄養剤みたいなのを貰って、飲んでみたんです! ほら、お、お肌とかにツヤが」

 

「そんなにすぐ変わる物なの?」

 

 

 なんとか口からデマカセを吐く大井だが、北上は怪しんでいるみたいだった。

 向けられた経験の少ないだろう視線に狼狽え、ガチレズさんは怒りのテレパシーを飛ばしてくる。

 

 

(ちょっと! ぜんぜん効いてないじゃないですか!?)

 

(どうせ失敗でしょうって、さっき自分で言ったじゃないかっ。睨まないでくれっ)

 

 

 一緒に放たれるメンチビームも、まるでヤクザ屋さんが「おうおう話と違うじゃねぇかあぁん?」って言ってるが如く。

 思わずホールドアップし、「撃たないで、殺さないで!」と意思表示していると、なぜだか北上がこっちへ近づいてきた。

 

 

「ねぇ。あたしにはないの? その栄養剤」

 

「へ!? あぁいや、特定の統制人格用に調整した奴だからな……。北上用のはまだ……」

 

「そうなんだ。……ありがとね、提督」

 

「北上さん?」

 

 

 一瞬だけ悩み、とりあえず大井のデマカセに乗っかるのだが、意外なことに、お礼の言葉を向けられてしまった。

 はて? お礼を言われるような事したっけか? 騙くらかしてるんだから、むしろ罵倒されるべきなんだけど。大井と二人で首をかしげてしまう。

 すると、北上は自身の頬を恥ずかし気にかき、革靴のつま先をトントン鳴らす。

 

 

「だって、わざわざ大井っちのために用意してくれたんでしょ? あたしにとって、大井っちは大事な存在だしさ。だから、気に掛けてくれて嬉しいな……とか、思ったわけで」

 

「き、北上さん……っ。そんなにわたしの事を……!」

 

 

 愛する人からのメッセージで、感動に打ち震える大井。

 どうしよう。こんなに純粋な子を騙しちゃったとか、こっちは胸が痛いぞー。

 

 

「……なんか、似合わないこと言っちゃったよね。大井っち、あたし、先に行ってるからっ」

 

「あ、はい。……ふ。うふふ。うふふふふ」

 

「あ、あのー、大井さん? 漣、なんだか笑い声が不穏に感じるんですけど」

 

「オーラが立ち昇って見えるわぁ」

 

 

 やはり気恥ずかしいのか、北上が急ぎ足でその場を立ち去る。

 呆然と見送る大井だったけれど、不意に肩が揺れ始め、なにか、金色の闘気のようなものが背中に宿った。

 サザナミーズもドン引きする中、彼女は突然こちらを振り返り、顔を伏せたまま競歩。

 そして――

 

 

「効いてる! 効いてるじゃないですか提督! 北上さんが、北上さんがわたしのことを……きゃー!」

 

「痛、痛い、痛いって! わ、分かったから興奮するな、叩かないで地味に痛い!」

 

 

 キラッキラの笑みを浮かべて、バシンバシンと背中を叩いてきた。

 て、テンション上がるのは分かるんだけどさ、ホントにやめて痛いっす!?

 

 

「ありがとう漣ちゃん、如月ちゃん。今ならわたし、フラ・タ相手に夜戦で一発かませそうだわ!」

 

「よ、良かったですねー」

 

「お役に立てたなら、嬉しいわぁ」

 

 

 猛打から解放されると、今度は漣、如月の手を取り、上下にブンブン振り回す。

 ……なんなの? この対応の差は。

 遠慮されてないって意味で喜ぶべきなのか? ダメージ負うから勘弁して欲しいんですが。

 

 

「さて。そろそろ北上さんを追いかけなきゃ……あ。提督、襟が乱れてますよ。だらしない」

 

「え? あぁ、すいません……」

 

「ほら、動かないで下さい」

 

 

 思いっきり叩かれたからだろう。誰のせいだ。

 と思いつつ、機嫌を損なうのが怖くて、為すがままを受け入れる。

 やっぱり効果ないみたいだなー、惚れ薬。

 上手くいけば、この状況も新婚家庭気分で味わえたかもしれないのに、残念だ。

 

 

「これで良し。じゃあ今度こそ行きますから」

 

「ん。行ってらっしゃ――い?」

 

 

 こちらの胸板をポンと叩き、満足そうな顔の大井。

 じゃっかん気落ちしながら、見送りの言葉をかける自分だったが、その刹那、甘い桃の香りが鼻をくすぐり、頬には柔らかい感触を感じた。ついでに「ちゅ」と水っぽい音も。

 離れていく少女は、顔に笑みを残したまま走り去る。

 

 

「見た?」

 

「見ました」

 

「見ちゃったわぁ」

 

 

 頬をおさえ、信じ難いものを見た気分で問いかけてみると、サザナミーズも同じような声音で答えた。

 錯覚じゃなければ、今、大井からキスされたよな。ほっぺたにだけど。

 

 

(え、何これ。効いたの惚れ薬? え? 嬉しいけど爆上げしてこれ?)

 

 

 混乱するまま、自分たちはただ立ち尽くし。

 スキップしながら消えていった背中を、脳裏に浮かべるのだった。

 

 結果。

 大井のデレは分かりづらい?

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「えー、という訳で、やって来ました。第二ターゲットの部屋の前でございます」

 

「どんな痴態が見られるのか、ドキドキしちゃうわぁ」

 

「なぁ。なんなんだこの、寝起きドッキリ的なノリ」

 

「ふいんきですよご主人様。なぜか変換できない、ふ・い・ん・き」

 

「昔ならまだしも、今は普通に予測変換できるけどなー」

 

 

 気を取り直し、場所は変わらず一階廊下。

 とある駆逐艦群の部屋の前で、なんとなーく声をひそめてしまう。

 惚れ薬に効果があったのか、それとも大井がハイテンションになっただけなのか。

 判別がつかないまでも、害はないと判断した自分は、実験を続行する事に決めたのだ。

 まぁ、だからってコソコソしていたんじゃ、万が一誰かが通りかかった時に怪しまれる。

 さっさと用事を済ませよう。

 

 

「自分だ。ちょっといいか」

 

「……司令官? ……ちょっと、待って……」

 

 

 軽くノックすると、ドアの向こうから控えめな声が返った。

 返事は一つなのだが、近寄ってくる足音は二つ。

 開かれたそこに居たのは、やはり二人の少女。朝潮型駆逐艦、ネームシップの朝潮と、姉妹艦である(あられ)だ。

 

 

「お疲れ様です、司令官!」

 

「何か……用……?」

 

 

 長姉はビシッと敬礼を。末妹は物静かに頭を下げ、長短二種の黒髪が揺れる。

 綾波や敷波、吹雪たちと同じく、対双胴棲姫戦で解放された霰は、朝潮型駆逐艦の最終艦であると同時に、最初の戦没艦でもあった。

 態度には出さないけれど、おそらく霞にとって一番の心残りであろう、キスカ島沖の事件で、だ。

 口調から分かる通り、初雪や望月とは違う意味での引っ込み思案な性格であり、就役日の関係で、十隻目の最終艦ながら、九番艦として扱われる珍しい艦でもある。

 ちなみに、頭には煙突を模した大きな帽子を被っていた。

 

 

「うん、お疲れ朝潮、霰。霞に用があってな。呼んでもらえるか」

 

「……ごめんなさい。今、居なくて……」

 

「ちょうど、満潮とお茶を淹れに行っているんです。よろしければ、中でお待ち下さいっ」

 

「いいのか? じゃあ、失礼するよ」

 

「あっしもお邪魔するでごわす。霰ちゃん、朝潮ちゃん、おはよー」

 

「お邪魔するわねぇ」

 

「うん……。おはよ――猫耳……?」

 

 

 勧められるまま、訝しげな霰に苦笑いしつつ、自分たちは部屋の中へ。

 左右に二段ベッドが置かれ、中央にはちゃぶ台とクッションが幾つか。

 基本的に宿舎はフローリングで、朝潮型の部屋もそのままカーペットを敷いているようだ。赤城とかは本人の要望で和室仕様にしてある。

 両脇に漣と如月を従え、ドアへ背を向けるクッションに腰を下ろし……待ってる間、四方山話でもしようかな。

 

 

「どうだ、霰。宿舎での暮らしは。窮屈だったりとか」

 

「全然、平気……。姉妹艦のみんなが、とても気にかけて、くれるから……」

 

「そっか。朝潮は良いお姉ちゃんだな」

 

「い、いえっ。朝潮型の長女として、当然のことをしているまでです!」

 

 

 小さく首を振る霰に、ちょっと照れながら、正座で背筋を伸ばす朝潮。

 姉妹仲は良好なのが伺えて、こちらとしても嬉しい。

 ……けど、朝潮はいつまで経っても堅苦しいなぁ。仕事中じゃないんだし、気楽にすればいいのに。

 

 

「朝潮って、自分以外の子と話す時もこんな感じなのか?」

 

「そーでもないですよ? キッチリキッカリしてるのは、ご主人様とか赤城さんたちと喋る時だけですねー」

 

「霞ちゃんたちとお喋りする時はぁ、もうちょっと砕けた感じよねぇ?」

 

「それはっ、あの……。公私の区別はつけないといけないし……と思って……」

 

「責めてるわけじゃないんだから、恐縮しなくても。自分的には、もっと気安く喋ってみたいとも思うけどさ」

 

「ど、努力いたしますっ」

 

「……難しい、みたい……」

 

 

 どうやら、朝潮から真面目さは取り除けないようだ。

 ちょっぴり残念だけど、その方がらしい気もする。

 砕けだ感じの朝潮……。う~ん……? ……ダメだ、想像できないや。

 

 

「にしても、何を言われてるか怖いな。霞のことだから、『あのカス司令は』とか、『本当にグズなんだから』とか言われてそうだ」

 

『え?』

 

「え?」

 

 

 仕方ないので、口の悪い姉妹艦へと話を移すのだが、朝潮と霰は揃って首を傾げた。

 

 

「あの、司令官。霞が陰口を言っているところ、私は見たことがありません」

 

「言い方は、少しキツいけど……。むしろ、褒めてると、思う……」

 

「……えぇ? か、霞が?」

 

 

 信じられなくて身を乗り出すも、顔を見合わせて頷き合う二人。嘘を言っているようには見えない。

 霞が……褒めてくれてる?

 あの、「用があるなら目を見て言いなさいな!」とか言うくせに、言ったら言ったで「だから何よ?」と切り捨て、気を抜こうものなら「だらしないったら!」なんてケツを叩いてくる、ドS艦娘が?

 どうしよう。こう言っちゃアレだけど、朝潮が胡座かいて日本酒ラッパ飲みするくらい、あり得ない気が……。

 

 

「嘘じゃ……ないです……。この艦隊に呼ばれて、霞から一番最初に聞いたのは……。霞が、大破した時のこと、だから……」

 

「あぁー、漣も曙ちゃんから聞いてます」

 

「凄い激戦だったのよねぇ」

 

「……まぁ、な」

 

 

 難しい顔で唸っていると、霰が足りない情報を補ってくれた。

 硫黄島への航路を模索している中で、自分も窮地に立たされた戦い。

 確かに、あの敗北をきっかけとし、この艦隊はより結束を深めたように思える。

 しかしまさか、彼女自身が大破した話を、自ら聞かせているなんて。

 

 

「秘密にする、約束だから。あんまり教えられないけど……。最後はこう言ってた……。私は、あいつの船だから……って。凄く、嬉しそうに」

 

「霞が……」

 

 

 朝日で照らされた笑顔が、脳裏に浮かぶ。

 あの一件以降も、態度の悪さは変わらずに、むしろ遠慮がなくなったように感じていた。

 霞なりの信頼の証……だったんだろうか。

 もうちょっと柔らかく表現してくれれば、もっと心から喜べるんだけどなぁ……。

 などと勿体無いことを思っていたら、神妙な顔をした朝潮がすっくと立ち上がり――

 

 

「司令官、改めて言わせて下さいっ。霞を……。大切な姉妹艦を守ってくれて、ありがとうございました!」

 

「霰、からも……。本当に、ありがとう……」

 

 

 ――明るい笑顔のまま、最敬礼で感謝を形にする。霰もそれに習い、座った状態ではあるが、深く頭を下げた。

 実はこの言葉、すでに何回も、何十回も朝潮から聞かされ、それなのに、込められた気持ちの量は変わらなく思えて、ちょっと恥ずかしかったり。

 

 

「う、うん、ちゃんと受け取った。もう何度も言ってもらったし、十分だから。ホント」

 

「ぉお? 照れてますねーご主人様。けど、そうやって大事にしようとしてくれるのは、なかなか素敵だと思いますですよ?」

 

「赤くなった顔も可愛いわぁ。もっと見たくなっちゃう」

 

「寄り添うのはやめてください如月さん……」

 

 

 なので、顔を背けつつ、ぶっきらぼうに終わらせようとするのだが、漣からは肘でツンツンされ、如月には顔を覗き込まれて、逃げ場がない。

 くそぅ……。戦術的撤退は不可能か……。ならば話をすり替えるしかっ。

 

 

「あー、霞のことは良いとしてだ。なら満潮は? あの子も結構、厳しい物の見方をするように思うんだけど」

 

「満潮ですか……。逆に聞きたいんですが、司令官はあの子の事を、どうお思いでしょうか」

 

「……へ? じ、自分が?」

 

「霰も……。気になる……」

 

「ほっほう。これは青葉さんが食いつきそうなネタですねー。で、そこんとこどうなんですか、ご主人様」

 

「この機会に、ぜひ聞きたいわぁ」

 

 

 あ、ヤバい。すり替えるつもりで似たような話題を振っちゃった。

 でもまぁ、お礼攻撃よりはマシか。グチついでに語ってみるかな。

 

 

「満潮、か……。実を言うと、少し苦手な部分もあるかなぁ……。

 秘書官を任せた日なんかには、誤字脱字をこれでもかって指摘されるし、時々すんごい目つきで睨まれるし……」

 

「え、あ、そうなのですか。……さ、差し出がましいようですが、満潮にも思うところがあって……」

 

「大丈夫。心配しなくても、ちゃんと分かってるよ」

 

 

 率直な意見を述べると、朝潮は目に見えて慌て始める。

 視線が彷徨っているあたり、満潮のことを気遣っているんだろう。

 しかし、自分も貶すために名前を出したわけじゃない。

 演習へも真剣に臨み、戦術の勉強だって、自主的に行っているのを庁舎資料室で見かけた。

 口下手だけど姉妹艦想いな、優しい少女なのだ。

 

 

「厳しい言葉は相手を思ってのことで、その分、自分自身に厳しくしてるのも知ってる。

 霞と一緒に、もうちょっと柔らかい話し方をしてくれれば嬉しいけど……。

 あのままで良いとも思うんだ。悪い所を厳しく指摘してくれる、大切な存在だよ」

 

 

 そんな気持ちを込めて、自分は大きく笑ってみせる。

 すると、朝潮も安心したように微笑み、霰にまで伝染。和やかな雰囲気が漂った。

 サザナミーズが妙にニヤついてるのは気になるけど、本当のことだし、我慢しよう。

 

 

「……だって。良かったね、満潮……?」

 

「は!?」

 

 

 ――んが。唐突に霰は視線をズラし、自分の背後へと声をかけるのだ。まるで誰かが立っているみたいに。

 グワッと勢いをつけて振り返れば、確かに二人の少女が居た。

 茶器の入った漆塗りの箱――旅館とかによくある奴だ――を持ち、見下げ果てた目付きの霞と、魔法瓶とお茶菓子を抱え、能面のように顔面を硬直させる満潮である。

 マズい。あの小っ恥ずかしい褒め言葉を、本人に聞かれた……?

 

 

「い、いつからそこに?」

 

「実を言うと……ってあたりからね。ドアくらいちゃんと閉めなさいよ、まったく」

 

「あらぁ、ごめんなさぁい。うっかりしちゃったわぁ」

 

「と言いつつ、内心で計画通りとほくそ笑む如月ちゃんなのであった。まる」

 

「漣ちゃあん。ほくそ笑むって酷いと思うのよぉ?」

 

 

 ズカズカと足音荒く入室する霞が、叱りつけるように吐き捨てる。

 褒められてるっていうのが嘘に思えてくる態度の悪さだ。ガチツンデレめ。

 如月はマジで狙ってやったのか? すっげぇ策士……。

 というか、朝潮も協力しやがったな? あの泳いだ視線はこれが理由かよ。

 

 

「あー、あの、満潮?」

 

「………………」

 

 

 入り口で棒立ちする満潮に、改めて呼びかけてみるが、相変わらず顔は能面のまま。

 しかし、不意に駆け足。ちゃぶ台へ荷物を乱暴に置くと、見事な東郷ターンを決めてまた入り口に。

 いったん振り返った彼女は、ギロリとこちらを睨み、そして――

 

 

「いーっ、だ!」

 

 

 ――子供みたいに真っ白な歯を見せつけ、廊下へと駆け出していった。

 なんだ今の。……照れ隠し?

 う~ん。そりゃあ、姉妹で団欒しようと帰ってきたらあんな話してるとか、恥ずかしいに決まってるよなぁ。

 

 

「あっちゃー、逃げちゃいましたねー。でもフラグは立ったっぽい? ぽい?」

 

「夕立ちゃんの真似ねぇ。満潮ちゃん、きっと恥ずかしいのよぉ」

 

「申し訳ありません、司令官。満潮が失礼を……」

 

「いや、気持ちは分かるし、気にしないで。満潮にも言っておいてくれるか?」

 

「うん……。ちゃんと、司令官の本心だって、言っておくね……」

 

「いやそうじゃなく……まぁ、いっか……。ところで霞、これを飲んで欲しいんだけど」

 

「絶対に、嫌。何よその、目に痛い色の劇物は」

 

「ですよねー」

 

 

 とりあえず、なんともむず痒い空気を味わった所で、本来の目的を達しようとするも、霞にはあっさり断られてしまう。

 その後、お茶菓子と番茶を一杯だけ楽しみ、満潮が帰ってこれるよう、自分たちは朝潮型の部屋を後にするのだった。

 

 結果。

 そもそも飲んでくれなかったので失敗。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「霞ちゃん、飲んでくれなかったわねぇ」

 

「まぁ、見た目がコレだしなぁ……。どうにかならなかったのか?」

 

「そんなこと言われましても、見た目にこだわれるほど熟練の職人な訳じゃありませんし、無茶振りですよー」

 

「ならどうやって味を決めたんだ。製造工程が物凄く気になるんですが」

 

「禁則事項です♪」

 

「そう言えばなんでも誤魔化せると思うなよ」

 

「司令官ったら、怖ぁい」

 

 

 廊下をぶらつきながら、いかにもな惚れ薬を三人で眺める。

 飲んでくれる確率は低いと思ってたけど、この見た目じゃあ、普通の子だって嫌がるかもしれない。

 実験を続ける上では大きな問題だ。

 

 

「大井さんは普通に飲んでましたから、味と匂いには問題無いと思います。あとは見た目を誤魔化せれば……」

 

「けど、他の物と混ぜたりは出来ないなら、どうすればいいのかしらぁ」

 

 

 うーむ困った困った。

 などと全然困ってない顔で言う漣と、色っぽいため息の如月。

 味に自信はあっても、見た目がアレで手を付けてもらえないなんて、どっかの可哀想な料理みたいだ。

 どうにかして見た目を変えられないものか。

 混ぜ物が無理なんだから……見た目……あっ、閃いた!

 

 

「そうだよ見た目だよ! こんな風に見えちゃうから警戒されるんだ。だったら……!」

 

「……あぁ! なぁるほどぉ、容器を移し替えちゃえば良いのねぇ? 流石は司令官だわぁ」

 

「ぉおお、確かにっ。なんか栄養ドリンクっぽい茶色の小瓶でもあれば、行けますよご主人様! もうー、悪知恵にかけては天下一ですねっ」

 

「はっはっはっはっは。だから褒めてないだろ?」

 

 

 天啓得たりとハイタッチを繰り返し、今度は食堂に取って返す。

 コタツスペースでくつろぐ皆を遠目に、そのまま厨房へ足を踏み入れると、そこには場違いな統制人格が。

 

 

「あれ、青葉?」

 

「あ、司令官。ども、きょーしゅくです!」

 

 

 旧式のフィルム型カメラを構えるポニテ娘は、今をときめく艦娘リポーター、青葉である。

 いつもは他の子の写真を撮りまくるため、外を駆けずり回ってるのに。

 

 

「珍しいな、厨房に入ってるなんて。何してるんだ?」

 

「ふっふっふ。見ての通り、撮影ですよ! 隔月刊・艦娘のコラム用です。例のアレですよ、アレ!」

 

 

 パシャリ。フラッシュを焚かずにシャッターを切る青葉は、ニタァとふてぶてしい笑みを浮かべる。

 見ればキッチン周りには、彼女以外にも数人の新入り統制人格の姿があった。

 なるほど。“アレ”をやるのは今日だったか。すっかり忘れてたな。

 女の子がしちゃいけない笑い方してるけど、“アレ”の効果を考えたら無理もない。

 さっそく歩み寄ってみれば、近くにいた重巡洋艦二人がこちらに気付く。

 

 

「あらー、提督じゃないですかー。宿舎の見回りですかー?」

 

「そんな所だ。精が出るな、愛宕、高雄」

 

「ありがとうございます。これも仕事の一環ですから、精一杯務めさせていただきます!」

 

 

 紺瑠璃色の生地に白い縁取りがされた、タイトなスーツ。揃いの帽子をかぶる彼女たちは、高雄型重巡洋艦の二隻だ。

 間延びした喋り方と長い金髪を特徴とするのが、二番艦の愛宕。

 腰から下が、大きく前の開いたロングスカートのようになっていて、重ねて黒いプリーツスカートとストッキングを履いている。

 逆にキリリとした喋り方をし、切り揃えられたセミロングの黒髪を持つのが、一番艦の高雄。

 際どいスリットの入ったタイトスカートを履き、留め金が飛行機型のガーターベルト&ストッキングで、絶対領域を構築していた。

 加えて、共通する特徴がもう一つ。……デカい。スイカップとか目じゃないくらいデカい。死語だけど。

 それが証拠に、着けているエプロンの胸元は、はち切れそうなほどキツキツだ。

 

 

「うしーおちゃーん、ボノボノー。捗ってるー?」

 

「漣ちゃん。えと、少し難しい、かも」

 

「ちょっと、人のこと変な名前で呼ばないでよ!? 水色のラッコみたいじゃないっ」

 

「漣ちゃんにも言ってるけどぉ、そのネタ、分かる人の方が少ないと思うわぁ」

 

 

 残る一人の新人には、漣と如月が話しかけていた。

 同じくエプロンを着けた曙の隣で、オドオドとしているのがそうだ。

 綾波型駆逐艦十番艦・潮。毛先がクルンとカールした黒髪セミロングが特徴である。

 だが、彼女を真に特徴付けるのは……やはり胸だった。

 我が艦隊の駆逐艦といえば、小・中学生のような成長過程の少女として顕現することがほとんどだが、潮は胸部装甲において、戦艦並みの性能を誇る。

 曙と並んだあの姿を見るがいい。

 背丈は変わらないのに、局所的にはマリアナ海溝とキリマンジャロ山並みの高低差。哀れな曙に涙を禁じ得ない。

 

 

「どんな塩梅だ、青葉」

 

「競争率はおよそ二千倍です。

 確実に艦娘お手製プリンを食べられるというだけあって、脅迫状めいたお手紙まで届いている始末でして。

 次号も売れますよー、隔月刊・艦娘。ふひひっ」

 

「だな。くっくっく」

 

 

 悪代官と越後屋の如くに、自分と青葉はブラックスマイル。

 さて。でっぱい艦娘たちに何をさせているかと言えば、もちろんプリン作りである。

 前々から数量限定で酒保での販売などを行い、得た収入はみんなの小遣いになっていたけれど、今回は違う。

 隔月刊・艦娘の紙面上で応募を募り、当選者へと、艦娘手作りプリン+証拠の生写真付きを直送する企画が持ち上がったのだ。

 読者の反応は凄まじく、今月号も即日完売。緊急増版を二度繰り返すほど売れに売れまくった。提示されたマージンで目が$文字になりそうだった。

 この調子で似たような企画を打っていけば、宿舎運営の足しになること間違い無し。ボロい商売だぜぇ……。ふっひぇっひぇっひぇっひぇ。

 と、悪徳業者染みた特典商法にほくそ笑んでいると、そんな事とは露にも思わない高雄が、難しい顔でため息をつく。

 

 

「それにしても、難しいものなんですね、お菓子作りって。ちゃんと計量もしているはずなのに……」

 

「うん? ちゃんと出来てるように見えるけど……」

 

「そうなんですけどー。『こんなの、提督レシピの味じゃないわ!』とか言って、何度も作り直してるんですよー、高雄ったら」

 

「あ、愛宕っ! 違うんです、あの、人様のお口に入るのですし、粗末な物を用意するわけには……っ」

 

 

 高雄たちの前には、すでに完成しているプリンが幾つか。

 基本のカラメルカスタード。濃厚ミルク味。爽やかイチゴ味の三種類だ。みんなにも人気な三つをセットで送る予定になっている。

 見た目も色も、匂いも問題ないように思えるが……。こだわりたい所なんだろう、きっと。

 

 

「気に入ってくれてるみたいで、嬉しいよ。まぁ、ほどほどに頑張ってくれ」

 

「はいっ。この高雄、提督の名を汚さぬよう、全力でプリン作りに勤しむ所存ですわ!」

 

 

 期待を込めて肩を叩くと、高雄は泡立て器片手にビシッと敬礼。再び卵液を解きほぐしにかかる。

 その気合の入りようが微笑ましくて、愛宕と一緒に笑ってしまった。

 

 

「うふふ、張り切っちゃってー。ごめんなさいねー、提督。でも、とっても真面目で良い子だから、気にかけてあげて下さいねー?」

 

「ああ。何事にも熱心なのは、高雄の長所だな。愛宕も気配り上手で助かるよ」

 

「あらー、提督ったらお口が上手ー。ねぇーえー高雄ー、わたし誉められちゃったー♪」

 

 

 スカートの端をチョンとつまみ、優雅に一礼した愛宕は、ぽややんとした調子で高雄の元へ。

 楽しそうにじゃれ合う様子を、青葉が写真に収めている。

 この分なら、余計な口出しをする必要もなさそうだ。

 余ったのはみんなのオヤツとして消費されるだろうし、無駄にもならない。自分も後で一個もらおう。

 さてと、今度は駆逐艦たちの方に行くか。

 

 

「どうだい、潮。うまく作れてるか?」

 

「あっ、提と――」

 

「何? 何か用!?」

 

「ひゃっ。……あ、曙、ちゃん?」

 

 

 ――と思い、まずは新入りの潮へ声をかけるのだが、そこに割り込んでくる哀れ乳サイドテール娘。

 ビックリしてプリンの容器を落としそうになる潮と違い、警戒心むき出しだ。

 

 

「……曙。自分は潮に話しかけてるんだが」

 

「そうね。けど要件があるなら、わたしが聞くから」

 

「あ、あの、わたし……」

 

「いや、目の前にいるんだから直接話をしたって良いだろう。なんで邪魔するっ」

 

「あんたの目付きがイヤらしいからに決まってるでしょ? いっつも潮の胸ばっか見てっ」

 

「ゔ」

 

「えっ。む、胸……?」

 

 

 売り言葉に買い言葉で、語気はどんどん荒く。

 しかし、痛いところを突かれて言葉に詰まってしまった。

 潮は猫背気味になり、ただでさえ主張の激しい双丘がエプロンを押し上げる。

 ……だって目に入るんだもん! どうしようもないじゃん本能なの!

 という言い訳が聞こえたはずもないのに、漣を始めとして、愛宕や如月までもが溜め息を。

 

 

「まぁ、潮ちゃん大っきいですもんねー」

 

「仕方ないんじゃなーい? 提督だって男の子ですしねー」

 

「駆逐艦の中では一番かしらぁ。羨ましいわぁ」

 

「青葉の情報網によりますと……。艦隊内でも一~二を争うみたいですね。バルジも着けてないのに、凄まじいです!」

 

「うぅ……。好きで、大きい訳じゃないのに……」

 

「そうよね……。動く時にちょっと邪魔よね……」

 

 

 よほど恥ずかしいのか、潮は今にも泣き出しそうに。高雄が肩を抱いて慰めている。

 ぐぬぬ……。なんだよこの空気。自分が悪いみたいじゃんか。

 こんな時、警備任務中の朧――綾波型の七番艦が居てくれれば、上手いこと妹を窘めてくれそうなのに……。

 仕方あるまい。ハッタリで言い逃れよう!

 

 

「ふっ……。何を言い出すかと思えば、勘違いも甚だしい。自分がそんな事するわけないだろう。失礼な」

 

「へー。言ったわね? じゃあ、しばらく目つむってなさいよ。開けたら承知しないんだから」

 

「いいとも。お安い御用さぁ」

 

「……高雄さん、愛宕さん! 念のためこいつの目ぇ塞いどいて!」

 

 

 内心ビクつきながらも余裕の態度を示せば、曙はニヤリ。イタズラっ子のように笑った。

 とりあえず言われた通りに目をつむると、その上から高雄たちの手が重ねられる。薄手の手袋が心地いい。

 

 

「潮。前へならえ」

 

「え?」

 

「いいからっ。んで、肘を曲げて顔の横でグー作って」

 

「は、はいっ。……こう?」

 

「そんな感じ。じゃあ、スクワットして。ほら」

 

「スクワッ、ト? あ、あの、なんで……」

 

「さっさとやる! しゃがんで、立って!」

 

「はいぃ」

 

 

 なん……だと……?

 暗闇の中、曙の声がハッキリと耳に届き、直後、衣擦れの音が。

 弾む息遣いと重なり合い、脳が勝手に映像化していく。

 両腕を前に突き出した少女は、まるで胸を強調するかのように肘を曲げ、そして……。

 

 

「うぉぉぉ……! な、なんという光景……! 揺れてる、地震かってくらい揺れてますよご主人様っ。ありがたやぁ~」

 

「凄いわぁ……。まるでゴム毬みたい……」

 

「ええと、確かこのボタンで……よし。連射モードで青葉Flash!」

 

 

 更にはサザナミーズwith青葉の実況まで始まり、バインバインと効果音までつき始めた。

 っていうか柏手打ってんじゃねぇよ漣。どっちの味方だ。拝んだって御利益ないぞ。

 潮神社という名前の、おっぱいを祀った神社はあるけどさ。母乳の出が良くなるんだそうです。

 間桐提督からの迷惑メールで知りました。今度お参りにも行くそうな。

 

 

「どうよ、クソ提督。これでも我慢できるの? 素直に負けを認めたら?」

 

「曙ちゃん。さすがにこれは……」

 

「発想がオヤジ臭いわー」

 

「こいつの本性を暴くためなの! オヤジじゃないわよっ」

 

 

 勝ち誇る曙に、高雄たちも呆れている。

 まさか、妹をダシに使ってここまでするとは。君の方がよっぽどセクハラしてるぞ、今現在。

 だが甘い。

 プリンに生クリームとハチミツと黒糖と粉砂糖と餡子を乗っけたくらいに、甘過ぎる!

 

 

(青葉。ちょっと視界を貸してくれ)

 

(司令官? それは反則なんじゃ……?)

 

(ふっはっは。五感共有を忘れてる曙が悪いのだ。後で欲しい物なんでも買ってやるから)

 

(全くもう。今回だけですよ?)

 

(感謝する。あ、それと焼き増しもヨロシク)

 

(毎度あり)

 

 

 ツーと言えばカー。快く視界情報の提供を受け入れてくれた青葉と、限定的なチャンネルをつなぐ。

 普段よりも大きく感じる世界。その中では、想像通りの光景が広がっていた。

 

 キッチンで。

 JCおっぱい。

 揺れまくり。

 

 思わず一句読んでしまうくらいの、神々しい情景だった。

 鼻の下が伸びそうになるのを我慢するのが大変である。

 

 

「それで、いつまで待ってれば良いんだ。自分もそんなに暇じゃないんだが」

 

「……あ、あれ? おかしいな……。ほら、揺れてるわよっ。音が聞こえてきそうなくらい、ポヨポヨって!」

 

「はっ、はっ、ふっ……。曙、ちゃん。まだ、続けるの? もう、やめて、いい? む、胸がぁ……」

 

 

 あくまでも平常心を装い、曙へと呼びかける。

 やっぱり、他人の耳を通じて聞く自分の声は変な感じだが、それがどうでも良くなるくらい、曙は焦りまくっていた。

 妙ちきりんなポーズで必死にスクワットを続ける潮を、自ら指し示す有様だ。

 うぅん、凄い。なんだか今日はセクハラ思考に偏っちゃってる気がするけど、こんなもん見せられたらしょうがないよ。うん。

 

 

「上下運動すると、痛いのよね……」

 

「そうそうー。走る時とか、誰かに持ち上げて欲しいくらいよねー」

 

「何故でしょう。感じたことのない痛みが羨ましい。やはり時代はロリ巨乳なのか……っ」

 

「バストアップ体操とか、やってみようかしらぁ」

 

 

 同じ巨乳組みとして、潮の立たされている苦境に共感できるのか、高雄も愛宕も悩ましい顔である。

 対するサザナミーズは悔しそうであり、己が胸部装甲を見つめては嘆いている。

 いや、そんなにちっちゃくはないと思いますけどね。

 というか、個人的には声を大にして言いたい。貧富はあれど貴賎なし、と! おっぱいとはただ、そこにあるだけで素晴らしいのだっ!!

 ………………あれ。どうして自分は間桐提督みたいな事を? いつの間にか侵食されてる?

 双胴棲姫よりもヤバいじゃないか……。早いとこ用事を片付けないと……。

 

 

「おっほん。曙、素直に負けを認めたらどうだ? 潮が可哀想だろうに」

 

「うぐぐ……。わ、分かったわよっ! わたしが自意識過剰なだけでしたぁ!」

 

 

 実情はどうあれ、見た目は全然動じていない自分に、歯噛みしつつ敗北宣言する曙。

 同時に青葉とのリンクを解除。塞がれていた視界も解放される。

 無益な上下運動から解放され、潮は膝に手をついて「あぅ、ふぅ」と息を整えていた。

 ……いかんいかんっ。生で見るおっぱいアピールに負けるな! 惚れ薬の実験に来たんだろう、しっかりしろ!

 

 

「さぁて。謂れなき中傷で上司をバカにしたんだ。罰を受ける覚悟は、当然あるよな?」

 

「……ふんっ。好きにしなさいよ。気に入らないなら、艦隊から外すなりなんなり、勝手にすればいいじゃない」

 

「アホなこと言うんじゃない。それよりも……これを飲め」

 

 

 すっかり不貞腐れたボノボノに軽くデコピン一発。懐から人肌に温まった惚れ薬を取り出す。

 その隙にまたサザナミーズへと目配せし、移し替えるための容器を確保してもらう。

 今ならみんなこっちに集中してる。なんとかなるだろう。

 

 

「うぇー何よこれぇー。すんごい毒々しい……っていうかヌルいーっ」

 

「統制人格用の栄養剤だよ。今、被験者を探して歩き回っててな。丁度いいだろ?」

 

「実験台にするつもり? 最っ低……。んっく。あ、美味しいかも」

 

「栄養剤……。高速修復材の亜種みたいな物でしょうか? 興味深いです!」

 

「羨ましいわー、曙ちゃん」

 

「どんな味なのか、興味が湧きますね」

 

 

 一度はしかめっ面をしてしまう曙だったが、青葉たちに見守られて一息に飲み干す。

 ちなみに背景では、如月が茶色い小瓶を確保。漣が「ゲットだぜ!」的にサムズアップ。さりげなく戻ってきた。

 あっちはなんとかなったな。こっちは……?

 

 

「ぷぁ、ごちそーさま」

 

「……で、どう? 曙ちゃん。製作者として意見を聞きたいわぁ」

 

「あんたたちが作ったの!? うそ、うそ、わたし死んじゃう!?」

 

「信用無ぇ……。大丈夫だって、普通に食べられ“は”する物から作ってるし」

 

「食べられ“は”って所がトンデモなく不安なのよぉ!!」

 

「あ、曙ちゃん、落ち着いてっ。大丈夫、きっと、たぶん……。だから、あの……っ」

 

「……なんであんたの方が不安そうな顔するのよ、潮……」

 

 

 作り手がサザナミーズだと知った途端、顔を真っ青にする曙。

 しかし、飲んだ当人よりも慌てふためく潮のおかげか、すぐに落ち着きを取り戻した。

 それは良いけど、普段と変わらなさそうだな……。

 

 

「で、実際どうだ。効果のほどは感じられるか?」

 

「う~……? 特には。普通に美味しかったけど、それだけ。ドロドロしてて、匂いがキッツいわ」

 

「という事は、失敗ですか」

 

「残念ねー。効果があるなら、連続出撃とか出来そうなのにー」

 

 

 腕組みをしたまま首をかしげる彼女を見るに、どうやら本当に作用していなさそう。

 高雄たちも残念そうである。

 おっかしいなぁ……。なら大井のキスはハイテンションになった結果? でも、それだけで大井がキスなんてするか……?

 わけ分からん。

 

 

「能力者用の賦活剤はあるんですし、あっても良さそうですよね、統制人格用のお薬とか。研究はしてるみたいですけど」

 

「らしいな。君たちは半分霊体みたいなものだから、術的な物なら効果がありそうだけど、そうなると霊的な位階? とかが高過ぎて影響を及ぼせない……なんて説もあるらしい。難しいよ」

 

「……ん? 能力者………………あぁぁ!? こんのクソ提督、騙したわねっ、あたしたちの視界ジャックしたわね!?」

 

 

 やべ、バレた。

 青葉がふと口にした能力者という単語に、能力者との五感共有を思い出したのだろう。曙は掴みかからん勢いで怒り出す。

 こうなっては他に成す術なし。三十六計逃げるに如かずだっ!

 

 

「ふははははは! バレては仕方ない。さらばだっ。行くぞ漣、如月!」

 

「ガッテン承知の助!」

 

「やっぱりネタが古いと思うわぁ」

 

「ふざけんなー! クソ提督、セクハラ提督、変態提督ー!!!!!!」

 

「提督ーっ、後で高雄を試食してあげて下さいねー!」

 

「ちょっと愛宕、何か、何か大切な言葉が抜けてるから!」

 

「写真はお届けに参りますので、お楽しみにー」

 

「ぅぅ……。わたし、なんの為にスクワットしたの……?」

 

 

 突進を華麗に回避。そのままサザナミーズと合流し、厨房を後にする。

 背後から届く皆の声を聞きながら、次なる犠牲者――じゃなくって。被験者を求め、自分たちは廊下を駆けるのだった。

 

 結果。

 効果なし? 目の保養は出来ました。

 

 

 


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