新人提督と電の日々   作:七音

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異聞 新人提督たちのとある一日 艦隊これくしょん - Alter Nova - 中編

 

 

 

「オーライ、オーライ、オーライ……。はぁいストォップ!」

 

 

 薄暗いトンネルを抜けた先は、明かりに満ちる地下の完全格納ドックだった。

 最先端の自動機械と、妖精さんが宿る機械とが、騒がしく入り交じっている。

 

 

「よーし、弾薬の積み込み終了ーっと……ぉ? おーい。艦長ー、大佐ー!」

 

 

 そんな中、声を張り上げて作業指示を出す唯一の人影が、そちらへ歩み寄る自分たちに気づき、防刃グローブで包まれた手を大きく振った。

 青く塗装された重巡洋艦を背景に、明るい色の髪をツインテールにし、ツナギとタンクトップ姿の彼女は、おそらく技術担当の能力者だろう。

 作業が一段落ついたのか、そのまま駆け寄ってくる。

 

 

「どしたの、勢揃いで。なんか用?」

 

「ああ。探し物のついでに、様子を見に来た。向こうでの作業は終わったのか」

 

「探し物ねー。とりあえず終わってるよー。なんか考え事したいって言うから、こっちを済ましとこうと思って。あ、凛ちゃーん。いえーい」

 

「いえーい。ぁはは」

 

 

 群像くんと気安いやりとりをした後、彼女はグローブを外し、兵藤さんとハイタッチ。仲が良いようだ。

 なんというか、健全な色気? みたいなのを感じる人だけど、誰なんだろ。

 とか思っていたら、イオナちゃんがチョイチョイと手招き。顔を寄せると、こっそり耳打ちしてくれた。

 

 

四月一日(わたぬき)いおり。硫黄島基地の整備主任者の一人。大佐の船も彼女が整備してる)

 

(主任さん、か。雰囲気は似てるけど、やっぱり記憶と違うな……)

 

(そう?)

 

 

 予想通り……ではあったが、自分の知る主任さんとは、名前も顔も違った。

 ただ、ざっくばらんな性格は似ているみたいで、親しみは持てそう。

 現に、ニヤリと笑いながらこっちを見る顔付きが、悪戯目的でちょっかい掛ける時の主任さんそっくりだし。

 

 

「なぁに~大佐~、イオナと内緒話なんかしちゃって~。艦長、イオナ寝取られちゃうよ~?」

 

「バカなことを言うな。それより、杏平(きょうへい)や他のみんなはどうしてる? 集めて貰いたいんだが」

 

「みんな? (しずか)蒔絵(まきえ)ちゃんと事務所で書類仕事。杏平はそこで発射管とか砲塔の調整してるし、タカオもここに居るし……。きょーへー! ターカオー! 艦長が呼んでるよぉおおっ!!」

 

 

 しかし、群像くんは軽くいなし、また新しい名前が出てくる。それを受けた四月一日主任が、重巡洋艦へ向けて大声で呼びかけた。

 数秒の間があって、舷側に少女が姿を現す。

 五月雨のそれに似た、サファイアのような青く長いポニーテール。

 ファッションモデルよろしく引き締まった身体は、真っ白なワンピースに包まれていて、お嬢様然した雰囲気を醸し出す。

 が、やはり統制人格なのだろう。手すりに足をかけ、跳躍。はためくスカートを手で押さえながら、少女は音もなく、華麗に着地して見せた。

 

 

「このタカオになんの御用かしら、千早群像。私、こう見えて忙しいの。くだらない用事だったら……分かっているんでしょうね?」

 

 

 乱れた髪をかきあげ、タカオと名乗る少女は不遜な眼差しを向ける。

 タカオ……。高雄型重巡洋艦のネームシップか。自分はまだ励起してないけど、中将の高雄とはまた見た目が違うな。

 それに、性格はお嬢様というより高飛車だろうか。ちょっと苦手なタイプだ……。

 

 

「すまない、くだらない用事なんだ。少し君と話したくてな」

 

「え。………………えぇっ!? そそそそんな事、急に言われても……。しょ、しょうがないわねっ。特別に、と・く・べ・つ・に! 時間をとってあげるわ!」

 

「タカオ。汗が凄い」

 

「うるさいわね四○一! 艦長が対話を求めているのはこの私なのよ。引っ込んでなさい!」

 

 

 ――と思ってたら全然違ったわ。分っかりやすいツンデレだこの子。

 群像くんの言い方もあれだけど、見事なテンプレ対応だ。良いもん見せてもらいました。

 曙や霞もこんなんだったら扱いやすいのになぁ……なんて、本人に知られたら撲殺されそうな事を考えていると、また新たな人物が舷側に。今度は男性である。

 

 

「おいこらタカオ! まだ議論の途中だろ――って、なんでみんな居るんだ?」

 

「だから……。艦長が呼んでるって言ってんでしょー!」

 

「だーっ、拡声器使うなよ聞こえてるっつのー!」

 

 

 顔を出したのは、額にゴーグルをかけ、浅黒い肌に肩のタトゥー、レゲエっぽい髪型……ドレッドヘア? が特徴の若者だ。着ているシャツには「HI-sonic」なるロゴが入っている。年は群像くんと同じくらいだろう。

 どこから取り出したのか、指向性拡声器で怒鳴る四月一日主任に、手で耳を塞ぎつつ反論。タラップを降りてくる。

 その間に、今度は駆逐艦'sが耳打ち。

 

 

(彼は橿原(かしはら)杏平。千早艦隊の砲雷長……みたいな人、かな。整備の資格も取ったんだって)

 

(砲雷長? そんな仕事あったっけ)

 

(もちろん、普通は無いわ。けれど、この島にいる船は全てが感情持ち。

 より優れたセンスを持つ人間のサポートがあれば、戦闘力は向上します。

 千早中佐の艦隊は、複数の人員によって戦闘を行う、昔ながらの手法を見出したようね)

 

(はぁ~。なるほど~。でも、なんで艦長呼び? 兵藤さん知ってます?)

 

(私にはちょっと……。イオナちゃんはどう?)

 

(群像のこだわり。理由はよく分からない)

 

 

 自分も変な戦い方をしている自覚はあったけど、群像くんはまた違ったタイプみたいだ。艦長呼びも、歳を考えれば微笑ましいこだわりか。

 ……うーん。若くて才能があって成績優秀。おまけにイケメンとか、マンガの主人公っぽいな。妬ましくなってきた。

 

 

「お? なんだ、大佐じゃんか。どったのよ、また変態戦術でも考えたとか? それとも、笑えるネタ画像でも拾ったとか」

 

「あ、いや。そういう訳じゃ、ないんだけど……」

 

「……んんん? ……アンタ、大佐だよな。なんか違和感が……」

 

 

 バカな事を考えていると、橿原くんが親しげに話しかけてくれる。

 これまで周囲にはいなかった見た目の同性に、思わずたじろいでしまうのだが、それを見て彼は怪訝に眉をひそめた。

 まさか、たったの一言で異変を察知したのか? 見かけによらず鋭い。

 

 

「流石に気づくか。話したいのは他でもない、大佐のことなんだが……。かくかくしかじか」

 

「まるまるうまうまですって……!?」

 

「マジかよ!? うぉぉ、初めて見た……」

 

「あー。どーりでセクハラが無いわけだ。なんか物足りない気がしてたんだよねー」

 

 

 群像くんの説明で、タカオ、橿原くん、四月一日主任が色めき立つ。

 それは別に良いんだけど……。

 

 

「やっぱり自分はセクハラ魔人なのか……」

 

「まぁ、普通だったら訴えられてるよね。でもさ、そんな落ち込むほどヒドいってレベルでもないよ? 物理接触は無いし、なんだかんだでTPOは弁えてるし」

 

「ときどき羨ましくなっちまうよなー。マジ切れされるきわっきわを攻めるセクハラセンス。たまに失敗して引っぱたかれてるけど」

 

「あっはははは……。なんだか、自分と杏平くんは仲が良いっぽいな」

 

「くん付け……。マジで記憶喪失か……。ま、置いといて。あったぼうよ! アニメ好き同士という硬い絆で結ばれてんだ、マブダチだぜ?」

 

「あたしは困らされてるけどねー、毎回。無茶な改装とか修理ばっかで、大佐のお世話は大変よー」

 

「すみません。いつもありがとうございます、四月一日主任」

 

「えっ。あー、いや、そのー。どういたしまして……。なんか、調子狂っちゃうな。いおりで良いよ、いおりで」

 

 

 自分の知る先輩と立ち位置が入れ替わったみたいで、地味ーに落ち込みそうだったが、決して嫌われてはいないようで、ホッとする。

 よく考えたら、あの人も警戒されたりはするけど、毛嫌いされることは少なかった。“こっちの自分”もそうなのかも知れない。

 ただ、タカオにだけはジト目で睨みつけられている。彼女とは……あんまり仲良くなかったのかな。

 

 

「確かに、普段とは様子が違うみたいね。口調も随分と落ち着いているし」

 

「そう、なのかな。君が記憶している“自分”は、どんな男……どうせセクハラ野郎だよね、忘れてくれ……」

 

「嘘はつきたくないから、否定しないでおくわ。……あっ!」

 

「ん? どうし――うぉおぉぉおおおっ!?」

 

 

 確かめるように言葉を交わし、顔見知り程度の関係か……などと思い始めた瞬間、身体が宙へ浮かび上がる。風に吹かれる鯉のぼり状態だ。

 タカオが統制人格の怪力を持ってして、詰襟の首根っこを強引に引っ掴み、みんなから距離をとったのである。

 およそ二十mほど離れたところで今度は急制動。突発的ジェットコースター体験に、目を白黒させる自分を無理やり直立させ、彼女はずいっと顔を寄せた。

 

 

「ちょっとアンタ。まさかとは思うけど、あの約束まで忘れちゃったんじゃないでしょうね!?」

 

「へ。え。何事? 約束って……」

 

「んもう! 私と艦長の仲を取り持つって、そういう約束だったじゃない!」

 

「えええええ」

 

 

 タカオは「なに言ってるのよおバカさん☆」的な笑顔を浮かべている。

 嘘くさい。インディアンが札束数えながら「Meは嘘つかないアルよー」とかほざいてるくらいに嘘っぽい。

 が、疑いの視線にも負けず、むしろ跳ね返すように声高な演説が行われた。

 

 

「どいつもこいつも艦長と四○一を応援してるみたいだけど、せっかく乙女心がプラグインされてるんだもの。初めて励起した艦なんかに囚われず、自由恋愛すべきよ!

 それともなに。一度交わした約束を破るつもりかしら? アナタにとって、私との約束はその程度だったのね……。うぅ……」

 

「いやいやいやいやいや! ……でも、自分がそんな約束するかなぁ」

 

「ちっ。妙なとこでお堅いのは変わらないんだから……。ヒドい、ヒドいわ、私にはアナタだけが頼りだったのにぃ……。よよよ……」

 

「なぁタカオさんや。舌打ちせんかったかい今」

 

「よよよ、気のせいよお爺さん……。うぅぅ」

 

 

 頼りにしてたってわりにボケる余裕はあるじゃんよ。自分は爺さんちゃうわ。

 そんな風に地面へ崩れ落ちて、ショックを受けたふりしても騙されんぞ。

 

 

「相変わらず、大佐とタカオは仲が良いな。“そういう事”に関してとやかく言うつもりはありませんが、任務へ影響が出るような事態は避けてくださいよ、大佐」

 

 

 ――が、しかし。

 こちらの様子を伺っていたらしい群像くんは、何か致命的な勘違いをしているようだった。

 いおりちゃんから借りたのだろう、指向性拡声器を使った呼びかけに、周囲のみんなが「お前は何を言っているんだ」と言いたげな顔をし、タカオも慌てて飛び上がる。

 

 

「ちょっ、何を言ってるの! 私がこんな男と関係を持ってるとでも言うの!?」

 

「違うのか? 漏れ聞こえた単語から察するに、デートの約束でもしていたのかと思ったんだが」

 

「ち、違うわよっ、こんな男と約束なんて一つたりともしてな――」

 

「やっぱり」

 

「あ。……か、艦長の馬鹿ぁぁあああっ!!」

 

「おい、タカオ!? ……なんなんだ、一体」

 

 

 語るに落ちちゃったタカオさん。

 滝汗を流しつつ、どうにか誤魔化そうと目をバタフライさせ、けっきょく無理だと悟ったのか、捨て台詞を置いて走り去った。

 あ~あ。やっちゃったよ。

 

 

「群像くん。それは無い。それは無いよ」

 

「艦長。その鈍感ぶりには流石にあたしも引くわ」

 

「群像、酷い。追いかけなきゃ……」

 

「ダメダメダメダメだよ! イオナちゃんが行ったらますますコジれちゃうから!」

 

「仕方ねぇ。俺が行きますよ、凛さん。おーい、タカオやーい」

 

 

 いおりちゃんやイオナちゃんまでもが、群像くんへ苦言を申し立て、橿原くんが仕方なしに涙の航跡を追いかける。

 原因であるイケメンは、「俺が悪いのか……?」とか言いつつ、地味に落ち込んでいた。女の子を泣かせた報いだ。甘んじて受けたまえ、少年。

 と、走り去る二人の入れ違いに、こちらへ近づいてくる人影があった。

 黒いコートをまとうズングリしたシルエットの少女と、大きな赤いクマのヌイグルミを抱えた、小さな女の子。

 そして――

 

 

「あれ、書記さん?」

 

「はい? ……あの、なんでしょう。大佐」

 

 

 ――クリップボードを小脇に抱え、長い黒髪を揺らす、メガネの少女。

 久方ぶりの見覚えがあるシルエットに、反射的に声をかけてしまうが、帰ってくる声には違和感が付きまとう。

 ……提督、って、呼んでくれないということは。

 

 

「大佐。静のこと、覚えてる?」

 

「静? ……いや、違う、な。ごめん、勘違いだ。自分の知ってる子とは微妙に違うみたいだ」

 

 

 イオナちゃんの口から出た名前で、また別人であることが確定する。よく見れば、外見の印象もだ。

 自分の知っている書記さんと同じく、黒髪ロングの眼鏡っ娘なのだが、前髪は日本人形みたいに切り揃えられている。服装もラフな感じで、カチューシャ代わりにヘッドホン。

 真面目そうな顔立ちは同じでも、細部が異なっていた。彼女には悪いが、ちょっと期待してしまっただけに落胆してしまう。

 すると、並んで歩くコートの少女が疑問を発した。

 

 

「なんだ。こんなところに集まって、何をしている」

 

「実はね、ハルナ。僕たちの提督が――」

 

「えっ。榛名って、この子が?」

 

「……その様子だと、提督の記憶にあるハルナとは、また違うようね」

 

「なになに~? ハルハルがどうしたの?」

 

 

 無言で佇むコートの少女に、興味深そうな顔の幼子。

 髪型はツインテールで共通している二人だが、レーベからハルナと呼ばれた少女は金髪で、隣の子は赤味を帯びた茶髪。

 顔の下半分を覆うくらい大きなコートと、サスペンダー付きのズボンがそれぞれの特徴か。愛称で呼んでいるあたり、あの子はハルナを慕っているらしい。

 微笑ましさに内心で和んでいると、静と呼ばれた少女がこちらへ。

 

 

「どうしたんですか、兵藤さん。なんだか、大佐の様子がおかしい様な……」

 

「マキちゃん、静ちゃん。落ち着いて聞いて。彼は今、ちょっと記憶が混乱してて、かくかくしかじか」

 

「ふむ。まるまるうまうまタグ検索……。逆向性全健忘、記憶喪失か。原因はなんだ? 外傷は見当たらないが……」

 

「僕たちにも分からない。だからこうして、縁のある人たちと会って回ってるんだ」

 

「あまり効果は見られませんが」

 

「う。ごめん」

 

 

 定番となった事情説明が済み、ため息混じりなマックスに思わず謝る。

 自分のせいじゃないと分かってはいるけど、元に戻る事を期待されているだけあって、応えられないのは心苦しい。

 

 

「大佐くん。わたしのこと、覚えてないの?」

 

「……ごめんね。マキちゃん……で、良いんだよね。本当にごめん。自分でも、どうしてこうなったか……」

 

 

 特に、やっと事情を把握できたらしい、純真無垢なマキちゃん(仮)からの問いかけが辛い。

 身体と同じくらい大きなヌイグルミを抱きしめて、小首を傾げる姿が罪悪感を誘った。

 堪らず、慰めようと頭に手が伸びる。

 

 

「すごい、すげー! 本物の記憶喪失だー! わたし初めて見たよっ。ね、ね、どんな感じなの? ねぇ、ねぇー!」

 

「うぉ、お、おぉ? メッチャ元気なんですけどこの子ぉー!?」

 

「オイこら、やめろ蒔絵っ、離せっ、潰れるぅ!」

 

「ぬぉおぉおおっ今度はヌイグルミが喋ったぁああぁぁあああっ!?」

 

「だぁれがヌイグルミだぁああぁぁあああっ!!」

 

「あべしっ」

 

 

 ――のだが、キラキラ笑顔で飛びつかれ、間に挟まれたヌイグルミが暴れ出し、アッパーカットを見舞われた。あまりの衝撃に尻餅をついてしまう。

 なしてヌイグルミが動いとるとですか? 三回転捻りの十点満点な着地をして、「ドヤァ」って顔してるんですけど?

 

 

「大丈夫ですか、大佐。手を……」

 

「うん、平気。ビックリしただけで、全然痛くは。……それで、その?」

 

「あ。分からないん、ですよね。私は八月一日(ほづみ) 静。千早艦隊の電探・聴音・探信と、調整士を担当しています。そして……」

 

 

 メガネの少女――八月一日さんに手を引かれ、自分はなんとか立ち上がる。

 にっこり微笑み、彼女が自己紹介を促すと、まずはコートの少女が進み出た。

 

 

「戦艦、ハルナだ。大佐の艦隊とは、よく協力させて貰っている。この子は刑部(おさかべ)蒔絵という」

 

「開発担当だよ! ハルハルとは一番のお友達! こっちはヨタロウっていってね~」

 

「いや違うだろうっ。キリシマだ、戦艦のキ・リ・シ・マ!」

 

「霧島ぁ!? このヌイグルミが?」

 

「だから誰がヌイグルミだぁ!!」

 

「まそっぷっ」

 

 

 凄まじい跳躍と共に繰り出される、連続回し蹴り。

 さっきのが昇○拳なら、今度は○巻旋風脚だ。

 ヌイグルミだから、モフモフするだけで痛くないのが救いである。

 

 

「……っぷ、あは、あはははは! だ、ダメ、らめぇ、お腹痛いぃぃぃ」

 

「り、凛さん、笑っちゃだめ、だ、よ……。くふっ、ふふふふふ……」

 

「全く。いつもの事ながら、騒がしいな」

 

「でも、楽しい」

 

 

 アホらしい騒ぎがツボに入ったのか、兵藤さんとレーベはお腹を抱えて大笑いし、群像くんとイオナちゃんも、静かに笑っている。

 静かといえば、マックスと八月一日さんは声を殺し、必死に顔を背けていた。いおりちゃんまで笑っているところを見るに、あの二人も笑っているらしい。

 確かにまぁ、これはこれで悪くない。……楽しい、かも。

 

 

「でも、真面目に聞きたい。どうして統制人格が、ヌイグルミの姿を……?」

 

「……ふん。本当に忘れているらしいな。これは入渠中の仮の姿だ」

 

 

 しかし、一度感じた疑問は消せず、ファイティングポーズをとったままのヌイグルミ――キリシマへ聞いてみる。そうしたら、クマの頭がキュポンと外れ、可愛らしい女の子の姿があらわに。

 茶髪のショートカット。ダメージ加工のジーンズなど、パンクっぽい左右非対称な格好をしているが、三頭身なので可愛らしいという感想しか出てこない。

 短く「もう良いな」と呟き、彼女はまたヌイグルミ……じゃなくて、着ぐるみの中へ隠れてしまう。

 仮の姿、ねぇ。どういう理屈なんだろうか。

 

 

「我々統制人格は、その船体を修復している間、船から離れることが出来ない。眠っているか、ボウっとしているかのどちらかだ。私の場合、集めた言葉のデフラグをするくらいか」

 

「でもでも、それじゃあ退屈でしょ? だからね、ハルハルと一緒にこの着ぐるみを作ったんだ!

 霊子の拘束・拡散防止効果を持つフラクタル・テクスチャーで編み上げてあってね、身体は小ちゃくなっちゃうけど、自由に動き回れるようになるんだよっ。原理はね……」

 

「う、うん、分かった。よく分かんないけど分かったから、難しい話はよそう?」

 

「ぶー。大佐くんいっつもそうやって逃げるー」

 

 

 納得できないでいたら、キリシマと蒔絵ちゃんが詳しい解説をしてくれた。

 ……のだけれど、絶対に理解できないだろう単語が並び始めたので、慌てて講義から逃げ出す。

 プクー、と頬を膨らませ、またキリシマを抱きしめる蒔絵ちゃん。

 行動はどう見ても幼子のそれだ。だが、普通の子供じゃないことは今ので分かった。

 こんな小さな子が開発担当だなんて、正直半信半疑だったけど、いわゆる神童ってやつなんだろうか。

 と、勝手な推理で納得しかけていたところへ、八月一日さんが肘をつんつん。口元に手を立てるジェスチャーから、内緒話が始まる。

 

 

(彼女はデザインチャイルドなんです。

 人工的な処置により、人類を遥かに超えた思考能力を与えられていて、様々な技術の特許を持っています。

 その代わり、体内で消化酵素を作る機能が、極端に低いんですが)

 

(デザインチャイルド? そんな、とっくに違法になってるはずじゃ……)

 

(表向きの話です。地下へ潜って、適切な知識・技術・設備さえ整えれば、どうとでもなってしまいます。何よりここは……隔離施設ですから)

 

 

 蒔絵ちゃんは無邪気にキリシマと戯れ、レーベたちと談笑している。

 半世紀ほど前に確立され、先天性疾患などを根絶できると見込まれたが、わずか半年で国際的に禁忌とされた、命を弄ぶ技術。

 非人道的な扱いを受ける事への懸念だったり、様々な理由をつけられていたと学校で習ったけれど、実際には手遅れだったんだろうと、想像がつく。

 顔には出さないが、苦虫を噛み潰したような気持ちだった。

 それを察してくれたのかも知れない。今度はいおりちゃんが、反対側の肘をつんつん。三人で顔を突っつき合わせる。

 

 

(ねーねー大佐。ハルナのコート、剥がないの?)

 

(ちょっと、いおり)

 

(いいじゃんいいじゃん、記憶を取り戻すためだってば。大佐ってば、ハルナを見かけると毎回やってたじゃない。統制人格と人間の身体能力差を無視してさ)

 

(あのー、それって無視できる問題?)

 

 

 追い剥ぎまでしてたのかよ自分。ますます先輩っぽいな。

 できれば“ああ”なるのは御免こうむりたいけど、しかし、いおりちゃんはニヤニヤ顔で背中を押す。

 なんやかやと、ハルナの前まで来てしまった。

 

 

「あ~……。は、ハルナ?」

 

「ん。どうした、大佐。何か聞きたいことでも?」

 

 

 戸惑うこちらと対照的に、彼女は落ち着き払っている。

 見た目はずんぐりしてるけど、顔立ちから考えればポッチャリ系じゃない。

 あの黒いコートの下には、一体どんなバディが隠されているのか。もしかして、自分が知る榛名みたく着痩せしてるタイプとか。……どうしよう、気になってきた。

 でも、んな事したらまさしく変態。ああ、だけども……。

 

 

「……ごめん! 責めるならいおりちゃんを責めてくれ!」

 

「っひゃあぁ!?」

 

「あ。ちょっとー、他人のせいにしないでよ大佐ー」

 

 

 悩んだ末、勢いに任せてハルナのコートを剥ぐ。

 途端、彼女は可愛い悲鳴をあげて座り込んだ。

 

 

「ふ、うううっ、か、堪忍してつかぁさい……。な、なんでいっつも、コート取るのぉ……」

 

 

 うわやべぇ。この子かわいい。

 まるで変質者に身包み剥がれ、これからの末路を悲嘆する少女のごとく――実際そうだが――必死に縮こまる身体は、黄色を基調とするアンミラっぽい服装に包まれていた。

 細いわりにメリハリの効いたナイスバディが、Sっ気を誘う怯え顔と相性抜群である。

 これは、癖になりそうだ。

 

 

「しっかし、なんでこんな?」

 

「知らん。とにかくハルナは、コートを着ていないと落ち着かないらしくてな。着せれば戻る」

 

「そうなんだ……。じゃあ」

 

 

 キリシマが教えてくれた事実に基づき、「はい」とコートを肩へかける。

 途端、「シャキーン」という擬音つきでハルナが復活。顔つきまでキリリとした。

 ちなみに擬音は、彼女が口で表現している。案外子供っぽいのか? 

 

 

「おい大佐、何をする。忘れていたんじゃ――」

 

「ほい」

 

「――なかったのおぉぉ? えぐ、えぐっ、返してぇ」

 

「はい」

 

「シャキーン。……おい、私で遊――」

 

「ほい」

 

「――ばないでえぇぇ、やめ、てぇ」

 

「はい」

 

「シャキーン。……ここは、戦術的撤退を――」

 

「わたしもやるー!」

 

「――なんで蒔絵までえぇぇ」

 

 

 非難がましい目線のハルナだったが、コートを剥げば迫力もヘニャっと。その高低差が面白くて、着せ替え人形みたいに扱ってしまう。

 途中で蒔絵ちゃんも参加しだし、果てはキリシマまで「たまにはワタシもやるか」と言って遊び始めた。

 周りを見回してみても、みんな困ったように眺めているだけで、止めようとすらしない。

 定番なんだこれ。楽しかったけどさ。うん。

 

 

「いやぁ、自分の船もたいがい個性的だと思ってたけど、群像くんの船も……凄いね」

 

「ははは……。返す言葉がありません。ハルナ、キリシマ。遊びすぎるなよ」

 

 

 少し離れて、彼女たちの主である少年に話しかけると、恥ずかしそうな苦笑いが返ってくる。

 彼は入れ替わりに渦中へ向かい、はしゃぐ少女たちを落ち着かせようと奮闘し始めた。

 が、いつの間にやらいおりちゃんと八月一日さんまで加わり、しばらく収集はつきそうもない。

 

 

「最初は、もっとギスギスしてた。こんな風に笑えるようになったのは、大佐のおかげ」

 

「へ? 自分の?」

 

 

 必然的に、イオナちゃんが残されるわけだが、彼女は慈しむような表情を浮かべ、次いで懐かしむように目を閉じる。

 

 

「私が初めて会った群像は……。とても、焦っているように見えた」

 

 

 じゃれ合う仲間たちを背景に、一人の統制人格が語り出したのは、群像くんに科せられた重荷のこと。

 戦うことを運命づけられた、年若い少年の話だった。

 

 

「さっき、マックスは群像のこと、『桐竹源十郎の再来』と言った。それは父親――千早翔像(しょうぞう)の残した影響力」

 

 

 “こちら側”の歴史において、今から十一年前。

 群像くんの父親である千早翔像大佐は、使役していた艦の半数と共に、謎の失踪を遂げる。

 新たな護国五本指に数えられようとしていた人物が、突然に姿を消した。残された傀儡艦も、丸ごと初期化された上で。

 通常、傀儡艦を初期化するためには、励起された時と逆の手順を必要とする。

 励起時と逆位相の波長を増幅し、基点となる統制人格に小型収束装置を撃ち込んで、統制人格“だけ”を消す。傍目には、少女を銃殺しているような光景だ。

 メリットといえば、間違ったルーチンを覚え込んでしまった際、無かったことにできることくらい。数十の船にそれを施してまで、千早翔像は軍を離れたのである。

 

 軍は上へ下への大騒ぎとなったが、予定していた大規模艦隊演習はすでに近く、なんとか対面を整えてそれに臨んだところ、大侵攻によってさらなる打撃を受けてしまう。

 彼への突き上げは厳しいものとなり、まだ幼かった群像くんの心に、大きな影響を与えたと、想像に難くない。

 追い立てられるように学び、鍛え。父の汚名を返上するために、幼い少年は日々を費やした。

 そして、海洋技術総合学院の卒業を間近に控えて、あとは能力さえ発現すれば……といった状態で、父の遺した船――伊号四○一を、増幅機器の助け無しで励起したのだ。

 あの桐竹源十郎のように。

 

 

「私に千早翔像の記憶はない。けど、たった一つだけ。この胸に刻まれているものがあった」

 

 

 ――私は、千早群像に従わなくてはならない。

 

 誰に言われた記憶もないまま、使命感とも思えるそれを胸に、イオナちゃんは群像くんに応えた。

 父の遺した船が、自らの第一歩を踏み出させた。

 ようやく、という安心感。これからだ、という高揚感。どうして、という疑惑。

 きっと複雑な心境だっただろう。だが、逆境を力として育った少年にとって、むしろ望むところだったかも知れない。

 

 

「でも、順風満帆とは行かなかった」

 

 

 しかしながら、踏み出したばかりの足も、他ならぬ軍から足枷をつけられてしまう。

 祝福を受けるべき彼にまず与えられたのは、長期に渡る拘束と、強制的な検査の日々。それを終えたのちも、他の能力者からは隔離され、一人と一隻の艦隊を組まされた。

 実力が認められ始めても、与えられるのは父の遺産である船のみ。自分の力で手にした船を励起することすら許されなかった。

 わずかに眉をひそめ、胸元で拳を固めながら、イオナちゃんは言う。

 

 

「あの頃、群像は常にどこか苛立って、息苦しそうな顔で、軍への失望を漏らしていた。……私はまだ側にいるだけで、支えられなかった。少し、後悔してる」

 

 

 今でこそ、爽やかな笑顔の似合う少年だが、理想と現実の温度差に苦しんでいた当時、彼がどんな表情を浮かべていたか。イオナちゃんを見れば想像がつく。

 けれど、暗く澱む精神を支えたのは、おそらく彼女だ。

 どんな形であれ、人は感情の受け皿を求める。話し相手だったり、八つ当たりする壁だったり。

 もし群像くんが真に孤独であったなら、とっくに潰れていただろう。

 

 

「そこへ、貴方が現れた。……正直に言う。あの頃の私たちは、大佐のことを目の敵にしてた」

 

 

 頭を振り、苦い感情を払う少女は、言葉の厳しさとは裏腹に、真珠のような瞳でこちらを見上げる。

 彼女が言うには、硫黄島への隔離が決定するまでの短期間、横須賀で共同戦線を張った時期があったらしい。

 自分のみに発現したと思っていた特異能力が、見知らぬ男にも現れていた。出撃して手に入れた多数の船は、その男の能力調査に使用された後、励起もされず解体されていた。

 オマケにそいつは不真面目で、調整士や統制人格へセクハラしつつ、常にヘラヘラしている始末。

 群像くんの苛立ちは最高潮に達し、日常生活での対立は激しかったそうだ。無理もない。

 

 

「でも、理由はそれだけじゃない。演習では、絶対に勝てなかったから。群像はそれを特に気にしていた」

 

「勝てなかったって……。ホントに?」

 

「勝率だけで言うと、むしろ逆かな。ほら」

 

 

 空気を読んでくれたのか、無言で控えていた兵藤さんが、PC画面の情報を示す。

 通算成績、八十戦 七十九勝 一敗。もちろんこれは群像くんの成績であり、自分はその真逆である。

 背中が煤けてくるぞ、この負けっぷり……。

 

 

「大佐は、自分に自信がある?」

 

「どっちかっていうと……無い、かな。形だけは戦えてても、実際のところ、みんなに頼りっぱなしだし」

 

「群像もそう。どんなに成績が良くても、それは数字だけ。根本的な部分で、自分を信じられなかった」

 

 

 堪らず暗雲を背負いそうになった自分へ、イオナちゃんが問いかけて来た。

 率直に答えると、彼女は再びまぶたを閉じ、今度は申し訳なさそうな顔で続ける。

 

 

「……気を悪くしないで欲しい。

 海洋技術総合学院、総合成績二位。父親の船を継いで戦う、新進気鋭の最有力“桐”候補。

 身体能力、座学成績、保有艦数。どれも下から数えた方が早い、ただ特異なだけの凡人。

 こんな評価を受ける二人がぶつかれば、どちらが勝つと思う?」

 

「そりゃあ前者だよ。普通に完全勝利して見せるはず……あ」

 

 

 言われて、ある事に気付いた。

 先ほど表示されていた戦績情報。兵藤さんに頼んで詳細を開いてもらうと、案の定。そこにはズラッとB判定の文字が並んでいた。

 つまり、八十戦近く戦術的勝利しか出来ていない、という事になる。ハッキリ言って異常だ。

 

 

「どんなに綿密な作戦を立てても、どんなに力を尽くしても、戦術的な勝利しか得られない。群像にはそれが理解できなかった。

 なのに貴方は、いつも笑っていた。戦術的にすら勝つことができなかったのに。

 丹陽。レーベ。マックス。ビスマルク。ウェールズ。タイコンデロガ。ジュノー。ゆっくりと仲間を増やし、それでも負け続けて、だけど……笑っていた」

 

「そう言えばそうだったね。あの頃から負けるのが当たり前で、毎回船の汚れを落としてもらうのが大変だったっけ」

 

「悔しくなかった、と言えば嘘になるけれど……。それが原因で仲違いしたこともありませんでした」

 

 

 これまた空気を読んでいたらしいレーベが、帽子をいじくりながら苦笑い。マックスの声にも懐かしさが滲む。

 情けないかも知れないが、“こっち”の事情も簡単に想像がついた。

 どんなに負けがかさもうとも、それはみんなを活かし切れなかった自分が悪い。

 まずは労って、次に反省。そして、明日こそ勝つぞ! と、励まし合う。そんな光景が頭に描けた。

 ……たぶん。心の中では「あのイケメンふざけんじゃねえぞ。次はボッコボコにして泣かしてやっからな!?」なんて思ってそうだけど、つーか絶対思うわ。

 

 

「話だけ聞いてると、今の関係が嘘みたいだな。もっと険悪でも良さそうなのに」

 

「険悪だったよー? 間に挟まれる私と静ちゃんが、どれだけ苦労したことか」

 

「はい。特に千早艦隊は、我の強い性格の方ばかりでしたから。あの頃は何度も避難させて貰って……。本当に助かりました」

 

「ううん、気にしないで。困った時はお互い様、だからね」

 

 

 あ、八月一日さん。いつ戻ってきたんだ? ぜんぜん気づかなかった。背景の五人は放っといていいんだろうか。

 なんかもう、コートを脱ぐたびにハルナの衣装が変わる、マジックショーになってるんですが。

 拍手してる場合じゃないでしょ群像くん。ストレスフリーなんですか今は?

 

 

「それが決定的に変わったのは……やはり、あの一戦ね」

 

「うん。私たちが唯一、大佐に完全敗北した、大艦隊演習」

 

 

 ――と、ツッコミたいのを我慢している自分を置いて、マックスとイオナちゃんは話を続ける。

 大艦隊……。察するに、最低でも七隻以上。二つの中継器を使用した艦隊を組んで行う演習だろう。

 

 

「前日に、戦術論で対立していた群像と大佐は、この演習でどちらが正しいかを証明しようとしていた」

 

「戦術的って、どんな?」

 

「簡単に言うと、自分だけを信じ、不確定要素に頼ろうとしない堅実な戦術と、他人を信じ、己との間に生まれる“揺らぎ”すらも含めた戦術。どちらが優れ、正しいか……ということですね」

 

「あ、群像」

 

「ずいぶん懐かしい話をしているな、イオナ」

 

 

 問いかけには、皆を引き連れた群像くんが答えてくれる。

 彼は小さな貨物が置かれている場所を指差す。座って話そうという事だろう。

 拒否する理由も当然なく、「シャキーン」としたハルナの説明を聞きながら少々歩く。

 

 

「あの演習か。私やキリシマ。コンゴウ、マヤ、ヒュウガ、イオナ、タカオ。

 ヒエイにミョウコウたちまで参加した挙句、負けた……。

 完敗という言葉にタグを添付したのは、あの日だったな」

 

「うん。あの戦いは、私が見ても鳥肌が立っちゃったよ。……あ、ヨタロウちゃん、こっちこっち。マキちゃんも手伝って?」

 

「はーい!」

 

「だから兵藤。私はキリシマだと言っているだろう。……ぬふぉ!?」

 

 

 適当な木箱へ腰を下ろしたタイミングで、兵藤さんと蒔絵ちゃんがキリシマをいじくり回し、PCから伸びたコードと直結。クマの両目から光が迸り、空中に映像を映し出した。

 すげぇ。ノンスクリーン・プロジェクター機能まであんのか、あの着ぐるみ。マジで最先端技術の塊じゃんか。

 才能の無駄遣いに呆れていると、八月一日さんと兵藤さんの調整士コンビが映像の脇へ立ち、解説が始まった。

 

 

「改めてご説明を。千早艦隊の戦闘序列は、第一艦隊旗艦・伊号四○一。随伴艦・重巡タカオ。航空戦艦ヒュウガ、高速戦艦ハルナ、キリシマ、ヒエイ。

 第二艦隊旗艦・高速戦艦コンゴウ。随伴艦・重巡マヤ、ミョウコウ、ナチ、アシガラ、ハグロで戦列を組んでいました」

 

「対するキミの艦隊は、第一艦隊旗艦・駆逐艦ヴェールヌイ。随伴艦・丹陽、レーベレヒト・マース、マックス・シュルツ。戦艦ビスマルク。重巡プリンツ・オイゲン。

 第二艦隊旗艦・ココロちゃん――じゃなくって、潜水艦U-556。随伴艦・駆逐艦ヴァンパイア。戦艦プリンス・オブ・ウェールズ。巡洋戦艦レパルス。空母タイコンデロガ、レキシントン。

 真っ向勝負だったね」

 

「そうそう。この演習の後は船の掃除が大変でさー。まぁ、いつもの事なんだけど」

 

 

 空中には、各艦隊の参加艦船の情報と、その3Dモデルが表示されている。

 ココロって潜水艦だったのか。しかもあの名前、潜水艦の代名詞とも呼べるU-ボートじゃないか。レーベたちと同じくドイツ生まれだ。

 ヴァンパイアっていう子は駆逐艦なんだな。他はだいたい想像通りだけど、大根――じゃない、タイコンデロガも空母だったとは。

 しかも、普通の空母じゃない。赤城のような一直線の全通甲板ではなく、直線の滑走路と、それに対して斜めに配置された短めの滑走路。発着艦を同時に、かつ安全に行える、アングルド・デッキが特徴だった。

 ……そうだよ、思い出した! 確か、米海軍が最初に完成させたアングルド・デッキ装備の空母が、タイコンデロガ級航空母艦の八番艦・アンティータムだったはず。道理で聞き覚えがあるはずだ。

 

 

「この映像はハイライトですが、見ての通り、ほぼ一方的な戦闘経過となりました」

 

「く……。何度見ても、自分がやられる光景は堪えるな……っ」

 

「キリシマ。動かないでくれ、映像がブレる」

 

「ヨタロウ、待てだよ? 待て!」

 

「私は犬か!?」

 

 

 映像の中で、彼女たちは見事な戦いぶりを見せた。

 ユニオンジャックを模した衣装のイギリス戦艦たちと、灰色を基調に、黒と赤を配するスーツをまとうドイツ艦たちが、正確無比な砲戦で戦艦を破る。

 ヴェールヌイは、レーベたちとチャイナっぽい改造セーラーを着る雪風を引き連れ、タカオからの砲弾を紙一重で回避。指揮系統を乱すためにイオナちゃんを仕留めた。

 砲撃の正確さもさることながら、被弾を恐れず吶喊し、なおかつ無傷で突破して見せる敏捷性が凄まじい。

 残されたタカオも、駆逐艦からの雷撃で大破判定を受け、戦線離脱だ。

 

 

「あら。貴方たち、またその映像見てるの? よっぽど暇なのね」

 

「タカオ、帰ってきたか」

 

「いやー大変だったぜ、艦長さんよ。宥めすかしてここまで連れて来んのが容易じゃなぉぐっ!?」

 

「杏平うるさい。……ふん」

 

 

 不貞腐れながらも、タカオが群像くんの隣――イオナちゃんの反対側へと腰掛ける頃には、もう戦いは終盤となっていた。

 別艦隊であるコンゴウたちの奮戦も虚しく、カウガールやらチアガールやら星条旗やら、属性のごった煮みたいな格好をした金髪少女、タイコンデロガとレキシントンのコンビが操る艦載機により、カラフルに染色されてしまう。

 グラマン社のF6F戦闘機・通称ヘルキャットや、主力雷撃機・TBFのアヴェンジャー。ダグラス社のSBD・ドーントレスなど、かつて日本軍が苦戦した相手ばかり。さもありなん、である。

 そして、最後まで孤軍奮闘するコンゴウを仕留めたのは、潜水艦・U-556の雷撃だった。

 浮上した船の上には、控えめにガッツポーズをとる、やっぱり水着姿の少女。……さもありなん、である。

 

 

「結果はご覧の通り、キミの初・完全勝利。しかもS判定の」

 

「苦い敗北でした。ですが、本当に負けたと思ったのはこの後です」

 

 

 誇らしげに、パッド入りと思われる胸を張る兵藤さんと、腕を組んで難しい顔の群像くん。

 どういう事かと首をひねれば、映像が艦隊戦からどこかの室内へ変化した。

 これは……調整室か。二分割された両側に、シートへ身を横たえ、顔の上半分を装具に隠す人物。自分と群像くんだ。

 

 

『お疲れ、千早中佐。悪いな、今回は勝たせてもらったぞ?』

 

『……お疲れ、様でした……っ。これで、貴方の言い分が正しいと、証明されましたね……』

 

『………………』

 

 

 弓なりに口角を上げる自分と、初の敗北に打ち震える少年。

 重苦しい沈黙が広がり、誰も口を開かぬまま、そのまま終わるかと思いきや、次声を発したのはまたも自分だった。

 

 

『群像。君は勘違いしてるぞ』

 

『は……?』

 

『戦術なんて状況によって左右されるんだ。

 それぞれがスタンドアロンで動いた方が良い場合があれば、スコードロンとして統率された方が良い場合もある。

 自分が言いたかったのは土台の話さ』

 

『土台……』

 

 

 馴れ馴れしいようで、どこか硬質な喋り方。

 こんな口調になることもあるのか……と、自分で驚いている間も、諭すような弁論は続く。

 

 

『確かに君は優れているんだろう。天才と言っていい。

 身体能力でも、頭脳でも、戦術眼でも、ついでに容姿でも自分は負けてる。

 だけど今日は勝てた。なぜだか分かるか』

 

『……っ、それが分かれば、こんな――』

 

『君が一人で戦おうとしてるからだ』

 

 

 息を呑む音。

 反射的な抗弁は途切れ、もはや止める者もなく。

 

 

『群像。君の前には偉大だった父が居て、後ろには率いるべき仲間が居る。でも、隣に誰が居る? 君と相対している男の隣には、何が見える。

 ……この戦い、十二人――いいや。十三人同士で戦ったんじゃない。一対十三を何度も繰り返したんだ。こんなの、負けるわけがないだろう。

 君が“彼女たち”をただ率いるだけなら、もう二度と勝てないと思え』

 

 

 一方的にそう言い残し、片側の映像が途切れた。

 残された群像くんの身体からは装具が外され、しばしの間、彼は呆然と中空を見つめる。

 不意に、手すりを殴りつける、鈍い音。

 装着されたままだった籠手が火花を散らし、そこで再生は終了した。

 

 

「あの時、確かに見えたんです。道を歩く大佐の背中と、隣へ我先に並ぶ、ヴェールヌイやレーベたちが。

 ……愕然としました。俺の隣には、誰も居ないように思えて。俺のやってきたことは無駄だったように思えて。

 踏みしめていたはずの足場が、それこそ土台から崩れ落ちたようで。本当に、もう勝てないんじゃないか、と……。

 まぁ、それも間違いだったと、イオナたちが教えてくれたんですが」

 

 

 映像の中にいる群像くんではなく、今、現実にいる群像くんが、照れ臭そうにはにかんだ。

 見れば、膝にはイオナちゃんの手が置かれている。対抗心からか、タカオも軍服の袖をつまむ。

 ちょっと羨ましいなぁ……なんて思ってしまう自分へ、彼は立ち上がり、向き直る。

 

 

「大佐。貴方に出会っていなかったら。あの日、貴方に負けていなかったら。今の俺はここに居ない。

 こうして、イオナやタカオ、キリシマ、ハルナ、マヤ、コンゴウ……には嫌われてますが。笑い合うことも無かったでしょう。

 だから……。その……。か、感謝、しています。心から」

 

 

 まるで、映画の一場面のような凛々しさで、群像くんはそう告げた。

 次の瞬間には、「ははは。な、何を言ってるんだろうな、俺は」と、軍帽を直す振りで顔を隠してしまうのだが。

 外野の反応はと言えば、「おいおい男相手にデレたぞ」「最大のライバルはやっぱ大佐かぁ」「ふふ」、である。順に、杏平くん・いおりちゃん・八月一日さんだ

 ……イケメンって卑怯だ。何やっても格好つくんだもんなぁ。自分が女だったら、今ので落ちてたんじゃなかろうか。

 

 まぁ生憎と男なんで? 普通に照れ臭いだけですけどねっ。そっちの気は無いんで、眼鏡を光らせないでね八月一日さんっ。

 っていうかあの後さ、絶対に“こっちの自分”、恥ずかしさに悶え苦しんでると思うんだ。

 柄にもなくSEKKYOUしちゃったよー、あんなこと言って次さっそく負けたらどうしよー、お願いだから生暖かい目で見ないでー。

 ……なんて言ってるに違いない。間違いなく。

 

 

「でも、僕たちにとっては災難だよね。おかげで全然勝てなくなっちゃった」

 

「全くね。ただでさえ強敵だったのに、さらに強くなる手助けをするなんて。敵に塩を送る、とはこの事よ」

 

「ゔ。いや、そんなこと言われたってさ……。確かにそれ以降全敗してるみたいだけど……。な、なぁ? 一回くらい勝ち譲ってくれない?」

 

 

 現に、両隣で座るレーベとマックスは、とても嬉しそうな顔で責め立てるのだ。

 兵藤さんもなんでだか知らないけど、以降の敗戦模様まで再生しだすし。「大佐くんボロ負けー」と、無邪気な蒔絵ちゃんまでトドメを刺しにくるし。

 くすぐったくて、気恥ずかしくて。勢いのまま、八百長を持ちかけてみるのだが。

 

 

「お断りします。道を示された以上、全力を出すのが礼儀ですから」

 

「うん。もう、負けない」

 

「そうよ? このタカオがいる限り、艦長に二度の敗北は無いわ!」

 

「私は戦えればどうでも良いが……。戦うからには勝つぞ。お前たちとの戦いは……まぁ、そこそこ楽しめるしな」

 

「右に同じく。またコートを汚されるのも嫌だ。全力で相手をしよう」

 

「僕たちだって負けないよっ。ね? 提督!」

 

「次こそ、勝たせてもらいます。絶対に」

 

 

 当然、返されるのは不敵な微笑みばかり。杏平くんたちも、「俺たちだって居るしな?」と自己主張を忘れない。

 ……そっか。“こっちの自分”も、恵まれてるんだ。

 歳の離れたライバルと、信じてくれる仲間の存在が、それを確信させてくれる。

 なんだか、安心した。

 

 

「ところで、一つ聞いていいかな。イオナちゃん」

 

「なに? 大佐」

 

 

 ――んが、さっきからど~~~しても気になることが、一つだけあったりする。

 誰も気づいてないし、この和やかなムードを壊していいものか、突っ込んで良いものか悩んでたけど、もう無理だ。聞いてしまおう。

 

 

「さっき映像に出てたヒュウガっていうのはもしかして、君が椅子代わりにしてる女の人のことかな」

 

「あぁん♪ 背中で感じるイオナ姉さまの体温&重さ、これぞ至高の喜びだわぁん♪ ハァハァハァ……」

 

「……? ………………っ!? い、いつのまに」

 

 

 小首をかしげ、三秒弱。その場から飛びずさり、お尻をかばうイオナちゃん。

 四つん這いになってクネクネする変態淑女からは、その他の面々も距離を取り、空白地帯が生まれてしまった。

 内巻きカールなセミロングの茶髪に片眼鏡。立て編みサマーセーター+タイトスカートx科学者風白衣と、見た目は大人しそうな彼女――ヒュウガは、自身の上からイオナちゃんが居なくなると、不満を隠そうともせず立ち上がる。

 

 

「ちょっと大佐。余計なこと言わないでもらえる? せっかく新しい世界を開拓できるかも知れなかったのに。お馬さんごっこ+放置プレイ。癖になりそうだわ……。にゅふっ」

 

「その扉を開いたらもう戻ってこれないんじゃないかな」

 

「う~ん。ヒュウガを相手にすると大佐でもツッコミに回るのは、やっぱ変わんないね~」

 

「和んでる場合かよ。レベル高すぎてついていけねぇよ……」

 

「ね~ね~、放置プレイって何~?」

 

「あ……そ、れは……。お、お遊びですよ、きっと。あの、検索とかしちゃダメですよ?」

 

 

 純粋な変態。

 こう表現するのが正しいと感じる言動に、みんなドン引きである。

 それと蒔絵ちゃん、言ってるそばから検索しないように。

 ハルナ、止めなくちゃダメだろ。放置プレイに「タグ添付。分類、記録」してどうすんだ。

 

 

「とりあえず、話は僧から聞かせてもらったわ。大佐、ちょっと」

 

「ええ……? へ、変なことしませんよね――ふもっ!?」

 

 

 チョイチョイと手招きされ、ものすごーく嫌な予感を感じつつも歩み寄る。

 すると突然、口の中へVサインが突っ込まれた。

 な、なんばしよっとぉ!?

 

 

「あん、指舐めちゃダメだったら。はい、コレ飲んで」

 

「はえ……っ……っん、げほ、げっほ、何を……」

 

「脳のシナプス小胞をちょっとだけ活性化する薬。副作用は無いから安心なさいな。アナタがそんな調子じゃ、イオナ姉さまが心労で大変だもの」

 

 

 指に挟まれていた錠剤っぽい物を無理やり飲まされ、むせ返ってしまう。

 いきなり何すんだこの人……。声は赤城そっくりなのに、性格は真逆。傍若無人にも程がある。

 それが証拠に、背中をさすってくれるレーベも不安そうな顔だ。

 

 

「ねぇ、本当に安全なの? その薬」

 

「だから大丈夫よ、レーベったら心配性ねー。蒔絵の消化補助薬品を合成してるの、誰だと思ってるのかしら」

 

「それは分かっているけれど、別のことが原因で心配なのよ、ヒュウガ」

 

「うん……。この間も惚れ薬騒動があったばかりだし……」

 

「なかなか言うようになったわね、二人とも。けど、何もしないよりはマシでしょう。ま、それはそれとして……」

 

 

 惚れ薬……? えっ。その魅力的な名称の品物は何?

 という疑問を挟む隙は、残念ながら無いようで。ヒュウガは群像くんたちの方へ振り返る。……いや。正確に言えば、彼の後ろに隠れるイオナちゃんの方へ、だろう。

 そして、彼女は――

 

 

「イオナ姉さまぁあぁぁあああんっ! 今日もお美しくて可愛らしくて最高ですわぁああんっ! 愛していますお慕いしてますレッツメリーミー!」

 

 

 ――自分が知る金剛、もしくは先輩の如く、獲物に向かって襲いかかる。

 群像くんのカバーを華麗にすり抜け、頬をスリスリ、お腹をスリスリ、太ももをスリスリ。

 同性じゃなきゃ憲兵隊に突き出され……同性であっても突き出した方が良い暴走っぷりだ。

 あぁぁ、ただでさえ白いイオナちゃんの顔が、どんどん土気色に。

 

 

「群像、助け、て」

 

「すまない、イオナ……。俺には手出しできそうもない……。というわけで、キリシマ、ハルナ。頼む」

 

「はぁ? なんで私がそんなことぉおおっ!? 投げるな貴様ぁぁあああっ!?」

 

「この場に相応しい言葉は……。『ここは任せて先に行け』、か。……悪くない語感だ」

 

「あふんっ。……って、あぁ!? イオナ姉さまぁああんっ!!」

 

 

 悲愴な顔付で、一度は助けを拒む群像くんだったが、わりかし直ぐに代案を提示。有無を言わさずキリシマを投げつけた。

 後に続くハルナとのコンビネーションは、完璧なタイミングで変質者と被害者を引き剥がす。

 その隙をついて、白馬の王子様 @ 本業は艦長が、お姫様 @ 趣味は急速潜行? を助け出し、一目散に逃避行する。

 

 

「ちょっと艦長、どこへ行くのよっ。さっきの発言、まだ取り消してもらってないわよ!」

 

「なんの事だか分からないが、後にしてくれ。タカオ、ヒュウガの足止めを頼む。君が頼りだ。行きましょう大佐!」

 

「……っ! もう、この貸しは高くつくんだからね!?」

 

 

 相も変わらずツンデレるタカオの声を背に、自分たちは第一ドックを後にする。

 出口近くにあった案内板をチラ見した限りでは、向かう先は第二ドック。おそらく、ビスマルクとオイゲンが居るという、自分のドックだろう。

 さっきの映像では美人なのしか分からなかったし、見た目で判断できないのはヒュウガでたっぷり実感した。

 ……ちょっと不安に思ってしまうのも、仕方ないですよね? うん。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「なんか、急に静かになっちゃったな」

 

 

 場所を移して、第二ドックへ向かう通路。

 群像くん・イオナちゃんコンビとは別行動となったため、水を打ったように静かだ。

 いわく、「ヒュウガの嗅覚は侮れないので、しばらく身を隠します」、とのこと。

 止める間もなく行ってしまったため、どうしてイオナ姉さまって呼ばれてるのか、聞きそびれてしまった。少し残念。

 ともあれ、彼から先導を引き継いだ兵藤さんを追いつつ、自分はそう呟いた。

 

 

「そうだね。いつもはみんな、もっと落ち着いてるんだけど……」

 

「提督が静かな分、余計にそう感じるのかも知れないわ、レーベ」

 

「うん、そうかも知れない」

 

「静かねぇ。うーん、頑張ってセクハラした方が良いのか……?」

 

 

 実を言うと、やろうと思えば出来る。凄く楽しみながらできると思う。

 兵藤さんはブラの肩紐が見えてるし、レーベとマックスはスカートが短すぎる。端をちょいっと持ち上げれば丸見えになりそうだ。

 もしかすると“こっちの自分”、抑制剤を飲んでないのかもしれない。

 ちょっとマズいかもなぁ。頑張って自制しないとやらかすかも。注意しないと。

 

 

「セクハラって頑張ることじゃないと思うな、私。さ、着いたよ」

 

 

 決意を固めるうちに、自分たちはとある船の前へたどり着いていた。

 戦艦。

 扶桑たちの三十六cm砲より一回り大きく、質実剛健に思えるデザインの砲塔。十六条旭日旗と並んで、ドイツの国旗が掲げられたその船は、見る者を圧倒する威現に満ちていた。

 

 

「提督自らのお出迎えだなんて、相変わらず気が利くじゃない」

 

 

 不意に、美しい音色が降ってくる。

 発生源を探して船を見渡せば、高くそびえる艦橋に人影が。

 それはためらいなく宙に身を投げ、常人なら即死してしまうであろう高さからの跳躍を、「トン」と軽妙に成功させた。

 金色の輝きが跳ねる。長い髪だ。

 

 

「戦艦ビスマルク(Bismarck)。第三次改装を終了したわ。どう? このワタシを自分色に染め上げた気分は」

 

 

 先の映像と違い、より黒に近くなったスーツで身を包む彼女は、片手を腰に当てるモデル立ちで、豊満なラインを見せつける。

 同じく黒に染まったドイツ軍の軍帽。首元は錨を模したチョーカーで飾られ、背中からせり出す四基の連装砲と、身体の両脇には魚雷発射管のような艤装も。

 灰色のオーバーニーに加えて、アームウォーマーは赤と黒の二色分け。さらけ出される肩と脇、絶対領域が眩しい。

 この子が、ビスマルク。

 鉄血宰相の名を冠した、ドイツの戦艦。

 

 

「……ちょっと。なんとか言いなさいよっ、無視するつもり!?」

 

「あ、ごめん、そうじゃないんだ。……あんまり綺麗だったもんだから、ビックリしちゃって」

 

「えっ。……そ、そう……。まぁ、それなら仕方ないわねっ。何せ、史実ではティルビッツにしか行われなかった改装を施したんだもの。

 独逸戦艦の正確な砲撃力と、日本製酸素魚雷の雷撃力。双方を備えたこのワタシに、敵う敵なんてもう居ないわっ。いいのよ? もっと褒めても!」

 

Herzlichen Glückwunsch(おめでとう)、ビスマルク。これでヴェールヌイに追いついたね」

 

「万が一、という可能性もありましたから、無事に成功して良かったです」

 

「そうね……。そうなってたらと思うと、ゾッとするわ。とにかく、Danke schön。魚雷載せるのは初めてだし、コツを教えてもらえると助かるわ。お願いね、二人とも」

 

 

 日本の船とは違う美しさ。日本の統制人格とは違った魅力を持つ少女に、思わず見惚れてしまっていた。

 初めて見る外国美女がこれじゃあ、今後のハードルがメッチャ高くなりそうだ。

 一瞬、驚いた顔で硬直する彼女だったが、直ぐに得意満面な顔付でスペック説明。駆逐艦'sと微笑み合っている。

 第三次改装。つまりは改三か。かなり高い練度じゃないと失敗してしまうはずだけど、ずいぶん無茶なことするもんだ。

 ……ひょっとして、命令でやらされた、とか? それとも、“こっち”では失敗率を下げる方法でもあるんだろうか……。あとで調べてみよう。

 

 

「良かったですねー、姉さまっ。提督が迎えに来るまでの間、あーでもないこーでもないと、一緒に考えた甲斐がありました!」

 

 

 まじまじ。ビスマルクの艤装と絶対領域を眺めていると、いつの間に現れたのか、ビスマルクと揃いの軍帽を被った少女が、拍手しながら進み出る。

 配色は似ているが、露出は少なく、より軍服然とした服装で、肩から袖口に伸びる赤いラインの上には、ドイツの勲章でもある鉄十字章が刻まれていた。ハーケンクロイツではないので悪しからず。

 碧い瞳、艶やかな金髪も同じだが、長さはやや短めで、錨型の髪留めでサイドテールにまとめている。

 映像と比べると、灰色単色だったところが迷彩柄になっていて、砲塔の天板が青く染められていた。

 ビスマルクの隣へ並び、彼女はキリッと敬礼を。

 

 

「重巡、プリンツ・オイゲン(Prinz Eugen)。同じく第一次改装を終了しました!

 ほらほら、お腹のとことか袖口とか、迷彩色になったんですよっ。格好良いでしょー。どうですか? 似合ってますか?」

 

「あ、あぁ。格好良いし、可愛いと思うぞ。似合ってる」

 

「えへへ~。Danke,Danke! ありがとうございます、提督!」

 

 

 身体のあちこちを指差し、その場でクルッと一回転。オイゲンと名乗る少女は、無邪気な笑顔でもう一度敬礼して見せた。

 どうやら、この子は改らしい。船体はビスマルクに隠れて見えないけど、諸外国の電探とか対空兵装は、かなりの高性能だったと記憶している。

 例の制限が無ければ、“向こう”でも使えるんだけどなぁ……。でも、その分“こっち”は監視されてるような状態なんだし、善し悪しか。

 にしたって、名前と外見が一致しなさ過ぎだ。厳ついオッさん名なのに、見た目はほんわか美少女。ギャップが凄いよ。

 

 

「……ん~? あれ、でも……」

 

「あら、どうしたの? オイゲン」

 

「あぁいえ。なんだかちょっと、気になって……」

 

 

 顎に手を当て、自分はあれこれ考えてしまうのだが、オイゲンは不思議そうな顔をし、帽子を落とさないよう押さえつつ、こちらを覗き込んだ。

 ビスマルクに何事かと問われ、いったんは否定するものの、眉毛は八の字を描いてしまう。

 なんか、すぐ見破られるな。それだけ普段の自分に落ち着きがないって事なんだろうけど……。よく理解されて嬉しいような気もするし、ちょっと複雑。

 

 

「やっぱり、気づくよね」

 

「言いにくいことだけれど、説明しないわけにも……」

 

「……何よ、レーベにマックスまで。何かあったのなら、ちゃんと言いなさい」

 

 

 歯切れの悪い二人に、ビスマルクは毅然とした言葉で説明を要求。

 言いにくくする彼女たちに代わり、兵藤さんが進み出た。

 

 

「実はね、ビスマルクちゃん。……かくかくしかじか」

 

「ま、まるまる――」

 

「――うまうまですかぁ!?」

 

 

 短縮説明を受けて、ビスマルクは目を丸くし、オイゲンがびっくり仰天。

 反響するほど大きな声を上げ、顔を見合わせて沈黙してしまう。

 が、オイゲンは「まったまたぁー」と手をヒラヒラさせ、レーベが最初に見せたのと、同じ種類の笑みを浮かべる。

 

 

「み、みんなで騙そうったって、そうは行きませんよー? 提督がわたしたちを忘れるだなんて、ねぇ?」

 

「……オイゲン。気持ちは僕もよく分かるけど、本当なんだ」

 

「いやいやいやいや、そんなー。………………え?」

 

 

 レーベ、マックス、兵藤さん、自分。

 順繰りに顔を見回して、ドッキリなんかじゃないと沈黙が答えると、彼女は一気に声のトーンを落とす。

 捨てられた子犬のような瞳。罪悪感で、胸がえぐられる。

 

 

「――よ、それ……」

 

 

 今にも泣き出しそうなオイゲンと対照的に、ビスマルクは下を向いて顔を隠し、拳を固く震わせていた。

 そして、消え入る声で何かを呟いた、次の瞬間――

 

 

「なによそれ、ふざけないでよっ!」

 

「うぉ、び、ビスマルク?」

 

「落ち着いて下さいっ、乱暴は……っ」

 

 

 ――自分は掴みかかられていた。

 マックスが割り込もうとするも、両手で襟を引き寄せられ、ビスマルクの整った顔が間近に。

 長い睫毛の端には、大きな雫が溜まっている。

 こんな時に、こんな事を思うなんてどうかしてるけれど。

 ……凄く、綺麗だった。これも浮気になるんだろうか……。

 

 

「忘れたってどういうことよ……。記憶喪失って何よ!? じ、じゃあ、あのことも……。あの夜のことも、忘れちゃったっていうの!?」

 

「へっ!?」

 

 

 駄菓子菓子。

 続く言葉に余裕はなくなってしまう。

 まるで、台風にさらされた砂の城が如く、冷静さが崩れ去る。

 あの夜? あの夜ってどの夜!? というかその言い方って……いやいやいやいやいや。

 

 

「な、なぁ? どういう事だビスマルク。ででで出来れば、せせっせせせ説明を……」

 

「ヒドい、わ……。わ、ワタシは、アナタがどうしてもって言うから……。イヤなのも我慢して、頑張った、のに……」

 

「え。え。え。え。え。え。えぇええっ!? そん、まさっ!?」

 

 

 事情の説明を求めるも、彼女は力なく座り込み、顔を覆って打ち震える。

 嘘だ。嘘だろ? 嘘だって言ってくれ。

 そんな、まさか。でもこの反応、勘違いのしようもない。

 あぁ、なんて事だ。“こっちの自分”は、もう童貞じゃ……。

 

 

「頑張って……頑張って、タ級相手に夜戦までしたっていうのにっ」

 

「どうせそんなこったろうと思ったよチクショー!!」

 

 

 淡い期待が粉々に砕かれ、帽子を地面に叩きつける。

 チクショウなんだよ気を持たせやがってぇ!

 メチャクチャ安心したけど、けっきょく自分は童貞かよっ。

 

 

「提督? 日本が異常に夜戦してたっていうだけで、ビスマルクの反応が普通なんだよ?」

 

「ええ。夜戦自体、避けるべき事案です。まぁ、それを言うなら、ドイツの駆逐艦で艦隊決戦することが、そもそもおかしいのだけれど」

 

「通商破壊した記憶しか無かったもんね、僕たち」

 

 

 オチが読めていたらしい駆逐艦's、半目でため息をつかないで下さい。

 少しくらい期待したっていいじゃない。美少女とのアッハンウッフンな関係を妄想したっていいじゃない。だって男の子なんだものぉおおっ!!!!!!

 ……という絶叫を脳内に留め、自分は帽子をかぶり直し、ビスマルクの手を取る。紳士ぶらないと恥ずかしくて死にそう。

 

 

「あ~、とにかく。泣かないでくれビスマルク。泣き顔も可愛いと思うけど、笑ってる君の方が自分は好きだったと思うんだ。だから、な?」

 

「か、かわっ!? ……泣いてなんかっ、ないわよっ! スンッ、これはっ……こ、心の汗よっ!」

 

「うんうん、そうだよね。はい、ハンカチ」

 

 

 また古い表現を知ってるな君も。

 ともあれ、兵藤さんから渡されたハンカチで顔を拭い、ビスマルクは落ち着きを取り戻したようだ。

 オイゲンの助けでなんとか立ち上がり、「ふんっ」と赤い顔を背けている。

 態度はアレだけど、彼女も“こっちの自分”を慕ってくれているみたいだ。

 ここまで取り乱されたら、申し訳ない気持ちになってしまう。

 

 

「でも、どうして急に記憶が? 提督、思い当たることってないんですか?」

 

「……それが。自分の記憶は、朝起きた時から切り替わっているっていうか、それ以前が丸ごと飛んでるっていうか……。うまく説明できないな」

 

 

 今度はオイゲンが小さく挙手。質問されて記憶を振り返ってみるが、やはり思い出せることはない。

 今更だけど、本当にこの状況はなんなんだろう?

 双胴棲姫の精神攻撃にしてはダメージが全く無いし、単なる夢にしては現実感が半端ない。逆に現実だとしたら、今までの経験が夢ってことに。

 ……みんなには悪いけど、それだけは嫌だ。

 

 

(だってここには……。“あの子”が、居ない)

 

 

 一緒に学び、一緒に鍛え、一緒に食べて。苦楽を共にしてきた、大切な……その、まぁ、とにかくそういう事である。うん。

 それに、こうして向けられている好意は、“こっちの自分”が行動し、築き上げた結果。

 今の自分が横取りしていいものじゃない。早くなんとかしなきゃ。

 

 

「なんだ、お前たち。まだやっているのか」

 

「あれ? コンゴウちゃん。ドックに来るなんて、珍しいね」

 

「マヤも居っるよー! 凛ちゃんぎゅ~」

 

「あ、マヤちゃーん。ぎゅー」

 

 

 帰還の意思を固める耳に、背後からの声が聞こえた。

 そこには、意地でも宿舎を離れないと言っていた二人組が。

 兵藤さんとマヤなんかハグし合っている。普通に女の子してるよ。

 

 

「どうしたんだ、ここを動かんぞって……」

 

「ふん。それも状況による。もう昼だしな」

 

「もうそんな時間なのか。でも、それが理由?」

 

「何をトボけている。お前たちが出払っていたら、誰が私の昼食を作ると言うのだ」

 

「うんうん。マヤちゃんお腹空いたよ~う。大佐くん、ご飯作って~」

 

「えぇ……。何それ……」

 

 

 首をひねる自分へ向けて、彼女は偉そうに言い放つ。

 尊大な態度でとんでもなくダメなこと言い出したよこの人。

 さっきの映像の中では格好良かったのに……。

 あぁ、あれか。仕事は完璧でも、生活能力まるで無しなタイプか。なるほどなるほど。

 

 

「本当に忘れてるのね……。まぁ、仕方ないわよ。コンゴウはいわゆる、“食い専のメシマズ”だもの。キッチンに立たれたらバイオハザードが起きるわ」

 

「っく、貴様が言えた義理か、ビスマルク! ザワークラウトと漬物の違いも分からない女が!」

 

「し、失礼ねっ!? もう間違えたりしてないわよ!」

 

「あはは~。相変わらず二人は仲良しだね~」

 

「本当だよねー。日本では、喧嘩するほど仲がいいって言うみたいだし。いいなー」

 

「マヤ、オイゲン。ほのぼのしていないで止めないと」

 

「そうだよ、また設備を壊されちゃったら大変だ」

 

 

 一人で納得していると、コンゴウ対ビスマルクの睨み合いが始まっていた。

 艤装は召喚していないが、ふとしたきっかけでバトルを開始しそうでもあり、駆逐艦'sが間に入ろうと慌てている。

 しかし何を思ったか。コンゴウが「ふ……」と女王様のような目つきをし、腕組み姿でビスマルクを見下す。

 

 

「そういえば、貴様は改装中で知らないんだったな? レーベ、マックス。言ってやるがいい。昨日の夕食、いったい誰が作ったのか。そして、その味はどうだったのか!」

 

「ちょっと、どういうことよそれ。……まさか……!?」

 

 

 ボス戦前の演説みたいな雰囲気を醸し出すコンゴウに対し、サァーっと血の気が引いていくビスマルク。

 そんな事有り得ない、とでも言いたげな目は、とっっっっっても不本意な顔をするレーベたちに否定されてしまう。

 

 

「信じられないと思うけど、昨日の僕たちの夕食は、コンゴウが作ったんだ」

 

「驚くことに、とても美味しかったんです。見た目は凄まじいのに、味は完璧でした」

 

「ふっはっはっはっは! 私は大戦艦コンゴウ。不可能などない!」

 

「そ、そんな……。このビスマルクが、先を越されるなんて……!」

 

「おーい。そんな愕然とするほどのことかー?」

 

 

 コンゴウが高笑いし、ビスマルクは絶望に膝を曲げ。絶対的な勝利者と、惨めな敗北者……的な対比が出来上がっている。

 というか先を越されたって事はさ。ビスマルクって……。うん、誰にも欠点はある。気づかないふりをしてあげよう。

 頑張って矯正してくれ、“こっちの自分”。そのうち胃袋が鋼鉄製になるさ☆

 

 

「……ねぇ? それが事実なら、お昼ご飯も自分で作れば良いんじゃないの?」

 

「あ~。凛ちゃん、それは無理だよ~。だって、ヒュウガ特製の調味料、もう使い切っちゃったもん」

 

「うぉいマヤ!? それ以上口を開くなぁああ!!」

 

 

 変なテンションになりかけていた空気を切り裂く、兵藤さんのツッコミ。

 五秒前の余裕もどこへやら。コンゴウはキャラ崩壊も辞さずに叫ぶ。

 もうそれだけで実情が把握できそうなものだが、オイゲンがまた小さく挙手。あえて気持ちを代弁してくれる。

 

 

「えっと、えっと、どういうこと?」

 

「んっとね~。確か~……。味覚中枢に作用して、どんなにマズい物でも美味しく食べられるようにするお薬……とか言ってたよ~な。統制人格にも効くんだって~」

 

「……さて。仕方がないから私は買い置きの菓子パンでも食べよう。では――」

 

「逃げるんじゃないわよ」

 

 

 素直すぎるマヤが質問に答え、そそくさ逃げ出そうとするコンゴウ。

 もちろんビスマルクが逃がすわけもなく、ガッチリ肩が掴まれた。

 さり気にマックスたちも退路を絶っている。凄い連携力だ。

 

 

「道理で、食べている最中も、食べた後も違和感があったわけね」

 

「僕、何か変だと思ったんだよ。突然あのコンゴウが、自信満々に料理しだすなんて」

 

「――うっぷ!? うぐ、な、なんだこれ……!? 思い出そうとすると、訳の分からない吐き気が……!?」

 

「だ、大丈夫かい、キミっ。……もしかして、彼の記憶が飛んじゃったのって?」

 

「可能性は高いわね。というか、あのイロモノ戦艦が作った薬物よ? 間違いないじゃないっ。三十八cm砲でブチ抜いとけば良かったわ!」

 

 

 記憶を辿ろうとしてみれば、未だかつて経験したことのない吐き気を催した。

 泡を食って背中をさすってくれる兵藤さんに、佐世保でのことを思い出しつつ、ここで吐く訳にもいかないので必死に我慢。

 まさか、ホントにこんな理由なの?

 本来の人格を吹っ飛ばして、異次元だかなんだかの存在を呼び込む不味さって、どんだけ?

 

 

「ヒュウガ……。この落とし前はつけさせないと……。しかし、それ以前に」

 

「コンゴウさんが見栄を張ろうとしなければ、こんな事にはならなかったはずですよね? ね?」

 

「あ……い、いや……それは、だな……」

 

 

 姿の見えない下手人をマックスが睨み、オイゲンはニッコリ笑顔で艤装を召喚する。

 劣勢は傍目にも明らかであり、コンゴウの口元が引きつった。

 

 

「コンゴウ、もう諦めなよ~。認めちゃった方が楽になるよ~?」

 

「ねぇマヤちゃん。なんでこっち側に居るのか知らないけど、知ってて止めなかったなら同罪だよ」

 

「……あれ? り、凛ちゃん、怒って、る?」

 

 

 我関せずだったマヤも、迫力の笑みを浮かべた兵藤さんに怯えている。

 じわじわと包囲網は狭まって、大戦艦様と無邪気重巡が、冷や汗をかきながら背中合わせに。

 

 

「どうやら、教育が必要らしいな……」

 

「うん。きっと中佐も許してくれるよ。提督、命令を」

 

「……待て。待ってくれ大佐。話せば、話せば分かる。話し合おう、文化的に」

 

「そ、そーだよ、ぼーりょくハンターイ! 統制人格に愛の手を~!」

 

 

 ゆらぁり。

 吐き気の収まった自分は立ち上がり、瞳のハイライトを消すレーベを伴い、身体へ気迫を充填させる。

 四方から艤装を構える音が響き、諦めの兵藤さんが耳を塞いだ、その刹那――

 

 

「レーベさん、マックスさん、ビス子さん。やっておしまい」

 

ヤー(Ja)!!』

 

「あ、あれ? わたしは? わたしには命令してくれないんですか?」

 

「っていうか、返事しちゃったけどその呼び方ヤメテって言ってるでしょ!?」

 

 

 ――嬉々として従う統制人格たちが、寄って集って、下手人に殺到するのだった。

 

 

 


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