「おむにばす!」   作:七音

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西住みほ編
第一話「絶対に変な顔しちゃいます!」


 

 

 

 

「えええっ!? わ、私がポスターモデル、ですかっ?」

 

 

 あまりの驚きに、私、西住みほは大声を上げてしまった。

 それは、広々とした大洗女子学園、生徒会長室に響き渡り、その反響が消えないうちに、大きな革張りの椅子でふんぞり返る小さな会長──角谷 杏さんは、会長の机の少し前で立つ私へ、鷹揚にうなずき返して。

 

 

「そ。これからの大洗女子で、戦車道を盛り上げる為にねー」

 

「当然だが拒否権はない。ありがたく拝命するように」

 

「ごめんね西住さん……。色々と考えた結果、貴方が適任だという事になったの……」

 

 

 会長の言葉に、向かって左隣の広報、河嶋 桃さんが片眼鏡を光らせつつ。

 向かって右隣の副会長、小山 柚子は申し訳なさそうに追随して。

 なんだか、もうすでに断れない雰囲気が漂っているような……。

 

 

「そ、そんなこと言われても、いきなり過ぎて何がなんだか」

 

「難しい話じゃないよ。戦車道大会で優勝したからって、戦車道をやめる訳にはいかないしね。

 大洗女子の今後を考えると、絶対に戦車道は継続して履修してもらわなきゃならないんだ。

 幸い、アタシら優勝できちゃったし、その立役者は二年生だし。来年は増えるんじゃないかなー?」

 

 

 おずおず私が問いかけると、会長は手元のビニール袋から干し芋をパクリ。モッシャモッシャと噛み締めながら説明する。

 確かにこの学園艦──大洗女子学園は、廃校の危機を免れるために戦車道を復活させ、戦車道全国高校生大会へと出場。見事に優勝を勝ち取った。

 だけど、廃校を免れたという事は、学校を存続させなければならない、という事でもあるから。

 学園艦の統廃合が検討される昨今、優勝したからといって戦車道を止めるのは、大問題に繋がってしまう。

 

 

「ついては、優勝の記念ともなるポスターを作成し、学園中に、そして陸の方にも張りだそう……という、会長の妙案だ」

 

「……理由は分かりましたけど、私なんかがモデルじゃ……。他にもっと、綺麗で可愛い子が居ますしっ」

 

「そうは言っても、西住さんほどの知名度は無いから、やっぱり西住さんに頼むのが一番良いの。それに、西住さん可愛いじゃない! きっと大丈夫っ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 ポスターを作る理由には納得できましたが、私がモデルじゃ人なんて集まらない。

 そう思って他のみんなを推薦しようとしたのに、小山さんは的確な理由を添えて励ましてくれる。

 どうしよう、嬉しいんだけど嬉しくないです……。

 

 

「義援金やら補助金やらがドカンと入ったし、バイト料も弾むからさ。ぶっちゃけ来年度までに作ればいいから、時間的な拘束だって緩いし。頼まれてよー、西住ちゃん」

 

「はぁ……。練習の妨げにならない程度、でしたら……」

 

 

 ここまで来たら、流石に断り切れない。会長のお気楽な頼みを、私は仕方なく受け入れる。

 本当は嫌だけど、バイト料にも、ちょっとだけ惹かれるし。

 ボコのお蔵入り映像収録したDVD、買えるかもしれない……。

 プレミアがついちゃって、凄く高くなっちゃってるんだよね……。頑張ろ。

 あ、そう言えば。

 私がモデルという事は、私を描く人が居るという事で。ちょっと気になる、かな?

 

 

「ところで、そのポスターは誰が描くんですか? プロの人を雇ったりとか……」

 

「まさか。そんな事したら凄いお金が掛かっちゃうわ。なので……。桃ちゃん?」

 

「桃ちゃんと呼ぶな! ……オッホン。よし、入って来い!」

 

 

 試しに尋ねてみると、小山さんが首を振り、河嶋さんへバトンタッチ。

 いつものように吠えた後、生徒会室の入り口に声を掛けた。

 ややあって、《コンコンコン》とドアがノックされ、「失礼します」という挨拶と一緒に、見知らぬ人物が……え? 今の声、男の人じゃ……?

 

 

「んじゃ、紹介すんねー。農業科二年の……名前なんだっけ?」

 

「エリヤです! 何回目ですか!? ……初めまして、西住さん。エリヤと呼んで下さい」

 

「あ、はい。初めまして」

 

 

 机のすぐ側まで進み出たその人……。ライカ君やダンチョー君と同じ、男子分校の生徒であるらしい彼は、会長へとツッコミを入れてから礼儀正しく挨拶してくれる。

 エリヤ。恵里谷、それとも襟野?

 色白で背が高くて、でもガッチリとした印象を与える、茶色味掛かった短髪の男子だった。

 反射的に私も挨拶を返すけれど、なんだか緊張するなぁ……。

 ライカ君は沙織さん一筋だから安心だったし、ダンチョー君とはお仕事として話せるから平気なのに。

 

 

「こう見えて結構スゴいんだよー? 何回も絵のコンクールに入選してるし、農業科での成績もトップだし。ほら、これ見なよ。アタシの自画像」

 

「え? こ、これ、エリヤ君が描いたんですか?」

 

「はい。会長室に飾る新しい絵が欲しい、って頼まれたので……」

 

 

 机の後ろに隠してあったらしい、額縁に入った大きな絵を、会長は重そうに掲げる。

 描かれていたのは、不敵な笑みでこちらを見つめる会長の肖像画。

 写真かと疑いたくなる細密画で、けれど色使いが全体的な柔らかさを感じさせる、凄く綺麗な絵だった。

 ……とっても凄い、んだけど。

 

 

(とある部分が増量してあるのは、言わない方が良いんだよね……?)

 

 

 それこそ、本人と瓜二つな額縁の中の会長は、何故だか、その。……ボリューミーになっていた。

 本物の会長は鼻高々といった感じで、対するエリヤ君は頬を引きつらせて苦笑い。

 強要されたか、河嶋さん辺りにプレッシャー掛けられたのかも。大変だったんだね……。

 

 

「あれ? ……という事は私、男の人に絵を描いてもらうんですか!?」

 

「当たり前だろう。何を言っているんだ、西住?」

 

「む、むむむ無理です! 私、絶対に変な顔しちゃいます!」

 

 

 ふと、絵の描き手が男子であることを思い出し、私は顔の前で両手を振る。

 絵のモデルっていうだけで緊張しちゃうのに、お、男の人にガッツリ見つめられるだなんて、絶対に無理!

 歌舞伎役者さんが睨みを効かせるみたいな感じになっちゃうだろうし、そんな姿を描かれるのは女の子として嫌です!

 と、全力でお断りしたい私でしたが、エリヤ君はまた苦笑いを浮かべ、混乱する私を宥めようと話しかけてくれて。

 

 

「そんなに気負わないで下さい。ごく自然に、椅子にでも腰掛けている所を、パパッと描かせて貰うだけですから」

 

「で、でも……。それって、二人だけで、なんですよね。私、よく知らない男の人と、二人っきりっていうのは……」

 

「いえいえ。別に二人だけじゃなくても、僕は問題ないですよ。

 見知らぬ男を警戒するのは当然ですし、お友達の方に同席して貰ったりとか。

 時間も、西住さんの都合が良い時で構いませんし」

 

「あ。そう、なんですか」

 

 

 てっきり、密室に二人きりで絵を描くのかと思っていたら、私が勘違いしていただけみたい。

 ちょっと拍子抜けだけど、でも、沙織さんとか華さんが居てくれるなら、安心してモデルになれる……かなぁ……?

 

 

「まぁとにかく、いっぺん描いて貰いなよ。今度の休みにでも。これ、会長命令だから。よろしくー」

 

「美術部の人達に協力をお願いしてるし、部室を使ってもらっても大丈夫だから。お願いね、西住さん」

 

「えええ……」

 

 

 会長に押し切られ、小山さんにも後押しされて、断れないまま話が進んでいく。

 相変わらずの横暴にゲンナリしつつ、なんとなくエリヤ君を見ると、にっこり、朗らかな笑みが返されて。

 ……良い人そう、なのは不幸中の幸い、かな。

 上手くモデルになれると良いなぁ……。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 そんなこんながあって、次の日曜日。

 戦車道推進ポスターのモデルを依頼された私は、あんこうチームのみんなに同席をお願いし、学校の美術室で絵を描いてもらっている訳なのですが。

 

 

「……に、西住さん? お腹でも痛いんですか?」

 

「えっ。ちちち、違います! わわ、私、どこも痛くないですよっ!?」

 

 

 イーゼルに乗せたスケッチブックを前に、エリヤ君はそんな事を尋ねてくる。

 椅子に座っている私としては健康そのもの。お腹も痛くないので否定するんだけれど、彼の周囲に立つ四人──沙織さん、華さん、麻子さん、優花里さんにも、笑顔には見えていないらしく。

 

 

「でもみぽりん、そう言われてもしょうがない顔してるよ?」

 

「まるで、身内を鉄砲玉として送り出す直前の、極道の妻のようですわ」

 

「華の表現が的確かどうかはともかく、力み過ぎなのは間違いないな」

 

「いえいえ! あれはきっと、試合中に苦境を乗り越えるための、強い意志を見てもらうための表情なんですよ! ね、西住殿?」

 

「ごめん、優花里さん。それはちょっと違うかも……」

 

「あ、そうなんですか……」

 

 

 フォローしてくれる優花里さんには申し訳ないけど、一応、笑顔を浮かべているつもりだった私は、彼女と同じように肩を落とす。

 日曜日の午前中という貴重な時間を割いて貰ってるのに、私、なにしてるんだろう。

 ちなみにですが、私もみんなも、エリヤ君も制服姿。

 学校に来る時は休日でも制服……みたいな校則は、黒森峰と違ってないみたいだけど、パンツァージャケットを着れば、戦車道での格好と同じにもなるので。

 

 

「ほらほら、せっかくのモデルさんなんだから、スマイルスマイル! エリヤ君を虜にしちゃう感じで!」

 

「だから、無理だよぉ……。私、作り笑いとか凄い苦手なのに」

 

「うーん、困ったな。笑顔じゃなくて、凛々しい表情とかでも良いと思うんですが、今の西住さんだと、ちょっと……」

 

「あう。ごめんなさい」

 

 

 鉛筆が動いていないのを見計らって、沙織さんがこちらへ。肩に両手を置いて、いつもの調子で笑いかけてくれる。

 でも、私は笑顔を浮かべるどころか、情けない顔でしょげるだけ。

 エリヤ君も困った様子で、鉛筆のお尻で頭を掻いている。

 そうだよね……。こんな所をポスターにされても、誰も着いて来てくれないもんね……。

 

 

「みほさん、試合中はとても凛々しいですし、わたくし達と一緒に居る時は、ごく普通に笑顔を浮かべてらっしゃいますよね?」

 

「それは……。試合中はやるべき事が分かってるし、やっぱりみんなは、お友達だし……」

 

「まぁ、つい先日知り合ったばかりの男子の前で、ポスターモデルとして完璧に笑えと言われても、出来るのは沙織くらいだ。仕方ない」

 

「ちょっと麻子っ、誤解を招きそうな言い方はやめてよ!? もう誰にでも笑顔を振りまいてる訳じゃないんだからぁ!」

 

「最高の笑顔はライカ殿専用、なんですよね。もう何度も聞いて覚えてしまったであります」

 

 

 華さんが褒めてくれたり、麻子さんが慰めてくれたり、沙織さんが大慌てしたり、優花里さんが苦笑いしたり。

 普段と変わらないやり取りにホッとするけれど、そんな私を見つめる一対の瞳に気付いて、また表情が強張るのを自覚する。

 ううう、どうしても緊張しちゃう……。いっそ、戦車に乗っていればマシなのに……。

 

 

「ごめんなさい。私がこんなじゃ、エリヤ君も迷惑ですよね……?」

 

「………………」

 

「エリヤ君?」

 

「……あ、ああ、すみません! 少し集中してたもので」

 

 

 二度の呼び掛けに、彼はハッとした顔で謝った。

 忙しなく右手が動いていたのを考えると、何か描いていたのかな。

 もしかしなくても、私を……だよね。ちょっと気になる。

 みんなも同じ気持ちなのか、ワラワラと彼のそばへ集まりだす。

 

 

「ほほう、どれどれ~。……えっ!? 何コレ、凄く上手い!?」

 

「まぁ」

 

「写実系か」

 

「西住殿も御覧になって下さい! 西住殿表情集ですよ!」

 

「え? でも……」

 

「どうぞ。簡単にスケッチしただけですけど」

 

「……じゃあ、失礼します……」

 

 

 みんなから勧められて、私も椅子から腰を上げる。

 そして、おずおず彼の横から覗き込んでみると。

 

 

「うわぁ……! これ、私だ……!」

 

 

 スケッチブックの中には、顔の前で手を振る慌てた私や、落ち込んだり、困ったり、ホッとしたりしている私が、見事に描き出されていた。

 本当に凄い! まるで写真みたいにソックリ!

 会長の絵もそうだったけど、自分自身をこうして見ると、凄く感慨深いなぁ。

 ……隅っこの方に、固く唇を結んで、お腹痛いのを我慢してるような私も居るんだけど、気付かなかった事にしよう。うん。

 

 

「凄いよねぇー。私もイラストとかなら得意だけど、こんな風には描けないよー」

 

「素晴らしい技術ですわ。御見逸れ致しました」

 

「会長に頼まれる訳だな」

 

「あはは。どうも。絵は趣味の一環で始めただけなんですが、思いの外、のめり込んじゃって」

 

「エリヤ殿の趣味ですか。それは一体?」

 

「野菜作りです。僕は農業科なので、実益も兼ねてますね。

 成長の度合いとかを記録するのに、文字だけじゃ分からない事も多いですから、簡単なイラストを添え始めて、そこから。

 商店街のスーパーとか、学食にも卸してますし、僕が作った野菜、皆さんも口にした事があるかも知れませんよ」

 

 

 ちょっと得意げな表情で、エリヤ君は語る。

 学園艦は船だから、港に寄った時に食料とかを補給し、必要なら貨物船を手配する事もできるけど、とってもお金が掛かってしまうので、可能な限り自給自足するのが鉄則。

 中でも大きなウエイトを占めるのが、水産科の魚の養殖と、農業科の野菜作り。

 どちらも艦内で行われていて、特に農業科は、太陽の当たらない地下で栽培しなくちゃならないから、かなり大変だって聞いた。

 そんな中で絵を描いたり、成績トップを維持したり。エリヤ君って凄いんだぁ。

 

 

「そう言えば、会長が言ってましたね。

 野菜とか、作物を上手に育てられるって、凄いと思います。

 美味しい野菜を作ってくれて、ありがとうございます。エリヤ君」

 

「西住さん……。そう言ってもらえると、嬉しいです。凄く」

 

 

 思った事を素直に伝えてみると、エリヤ君は得意げな表情から一転。照れ臭そうに俯いて、鼻の頭を掻く。

 うん。やっぱり、エリヤ君って良い人みたい。

 彼にだったら、ちょっとは安心して描いて貰えるかな……と思う私でしたが、こちらを見る沙織さんは、なぜだか難しい顔をしていて。

 ……どうしたんだろう?

 

 

「エリヤ君。みぽりん。二人とも硬い」

 

「……は?」

 

「え。な、何、沙織さん?」

 

「喋り方が硬いの! 異性だけど同い年なんだから、普通に敬語なしで喋ろう? そんなんじゃ、いつまで経っても自然な笑顔なんで出てこないよ!」

 

 

 ズビシッ!

 指を突きつけ、沙織さんが断言した。

 な、なんというか、凄い意気込みを感じる……。

 思わずエリヤ君を見れば、彼も私の方を見ていたようで、視線が重なってしまう。

 私と同じように、戸惑っているような様子が見て取れた。

 

 

「そう言われましても、僕、これが素ですし」

 

「私も……。同性のお友達なら大丈夫だけど、慣れてない男の人相手だと、どうしても……」

 

 

 エリヤ君に便乗して、私も無理そうだと沙織さんへ訴える。

 まぁ、ライカ君とかダンチョー君とかなら、もうすっかり慣れちゃったから平気なんだけど。

 麻子さんが言った通り、まだ出会ったばかりのエリヤ君じゃ、そうは行かない。せめて、もう少し互いを知る時間が欲しいです。

 ……なんだろ。告白を断る時みたいな感じになってるような?

 ともあれ、私たち二人が揃って同じ意見を言うと、沙織さんは「むむう」と唸って腕を組む。

 

 

「これは、荒療治が必要みたいね……」

 

「おい沙織。何を考えてる」

 

「きっと沙織さんらしい事ですわ」

 

「五十鈴殿、褒めているように聞こえないのは何故でありますか?」

 

 

 その背後では、ジト目の麻子さん、大らかに微笑む華さん、不思議そうな優花里さんが、思い思いに発言している。

 しかし、沙織さんは全く意に介さず、エリヤ君に思わせぶりな笑顔を向け……。

 

 

「ねぇエリヤ君。来週の日曜って予定ある?」

 

「来週の? ……いえ。午後からは暇ですが」

 

「ふむふむ。みぽりんは?」

 

「わ、私は、家でボコのお蔵入りDVDを見る予定が……」

 

「うん、無いも同然だね!」

 

「沙織さん酷い!?」

 

 

 嫌な予感がしたので、まだ買ってもいないDVDを予定に組み込んでみたのに、あっさり無視された。

 嘘ついちゃった私も悪いけど、ボコを全否定されてるみたいで悲しいよ! それはそれでボコらしく感じちゃうのがさらに!

 

 

「いい? 二人とも。貴方達、来週の日曜日にデートしなさい」

 

「……え。ぇええぇぇえええっ!?」

 

「僕と、西住さんが……?」

 

 

 涙目になっていた私に、まだ沙織さんは追撃を加える。

 思わず叫んじゃった……。

 でも、いきなりデートとか、驚いて当然だと思います。エリヤ君も目を丸くしてるし。

 沙織さんらしいといえばそうだけど、男の子の友達なんて小学校以来、出来た試しが……。

 あ、ライカ君は沙織さんの恋人だから知り合い枠、ダンチョー君は部活仲間枠でお願いします。

 といった風に心の中で言い訳しつつ、現実の体の方でも、ちょっと無理めな事をアピールしようとするんだけれど。

 

 

「で、デート、デートだなんて、私、そんなこと……!」

 

「無理とか出来ないとか言ったら、エリヤ君が傷ついちゃうよ?」

 

「あ」

 

 

 ボソッと沙織さんが呟いた言葉に、ハッとさせられた。

 それもそう、だよね。

 私だって、目の前で「君とデートは無理!」とか言われたら、物凄く落ち込むと思う。

 危うく失礼な事をする所だった……。

 

 

「重く考え過ぎだよ、みぽりん。デートなんて、ただ単に男子と遊びに行くってだけなんだからさ?

 これを切っ掛けに仲良くなれば、喋り方の硬さも取れて、みぽりんも自然に笑えるようになるはず!」

 

「確かにそうかもしれませんわね……」

 

「一理あるな」

 

「私の時と似たような感じですね! 私も、西住殿に話しかけて貰えたから、こうしてお話できる間柄になった訳ですし!」

 

 

 沙織さんに続いて、華さん、麻子さん、優花里さんが賛同する。

 なんていうか、沙織さん凄いなぁ……。

 二~三ヶ月前は説得力皆無だったのに、ライカ君と付き合いだしてからというもの、自信に満ち溢れてる。思わず私まで頷きそうになっちゃう。

 ……いやいやいや! 頷いちゃダメだよ私! 雰囲気に流されちゃダメ!

 エリヤ君には申し訳ないけど、ここはキッパリ断らなきゃ……。

 

 

「やっぱり、みぽりんは笑顔が一番素敵だもんっ。

 エリヤ君にみぽりんの笑顔を描いてもらうため!

 ひいては、大洗女子の未来のために! 頑張ってね、みぽりん!」

 

「え、え、え!? も、もう決まっちゃったの!? 決定事項なの!?」

 

「みほさん。陰ながら応援いたしますわ」

 

「西住殿ならば、きっとやり遂げられます! 信じているでありますよ!」

 

「骨は拾おう」

 

「失敗前提!?」

 

 

 ──と、考えているうちに話は進んでしまい、既にみんなの中では、私とエリヤ君のデートは確定してしまったみたい。

 あああ、けっきょく流されちゃった……。

 同い年の男子との、生まれて初めてのデート。一体、何をどうしたら良いのか。

 私の胸は、不安で高鳴ってしまうのでした。

 

 うう、本当にどうしよう……!?

 

 

 

 

 

「あの……。僕の意見は、聞いてもらえないのかな……? いや、拒否する気なんて微塵もないけど、でも一応は聞いてみたり……。しないのか……そうですか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《突発的掌編 エリヤ少年の謎》

 

 

 

 

 

「そう言えば、会長。エリヤ君に頼んだ絵、どうして増量してあるんですか?」

 

「お、おい柚子! そんなこと聞いたら会長が激怒して──」

 

「ああ、あれ? やっぱりデッカい方が見栄え良いじゃん。アタシとしては自分のサイズも気に入ってるんだけど、ま、ちょっとしたお遊びってやつ」

 

「……そ、そうだったのですか。では、エリヤには悪い事をしましたね。かなりキツく言い含めてしまいましたし」

 

「桃ちゃん、気をつけた方が良いと思うよ? だってほら、エリヤ君って……」

 

「その呼び方はやめろと言っている! ……なんだ、奴がどうかしたのか?」

 

「あれ。河嶋は知らないんだっけ。じゃあ知らないままで良いっしょ。その方が面白そうだ」

 

「会長、それは少し可哀想じゃ……」

 

「おい柚子、なんの話なんだ! 会長、説明して下さいっ! ……会長? 聞いてますか、かいちょー!?」

 

 

 

 

 

 





 たいへん長らくお待たせ致しました。本作品のおおとり、西住みほ編の開始でございます!
 ええ、本当にお待たせして申し訳ないです。ちょっとリアルでギックリ腰やったりとか忙しくて……。
 それはさて置き、西住殿。戦車道では正しく軍神の如き判断力と胆力を発揮しますが、戦車を降りれば普通の女子。異性の存在にちょっとドギマギだってするでしょう。
 生まれて初めて絵のモデルになり、生まれて初めてデートするはめになり。これからそのドギマギが成長していきます。
 そして、なんだか謎めいているエリヤ君の正体とは?
 もうピンと来てる人。貴方はバーロー並みの天才です。お願いだからネタバレは勘弁して下さい。
 それでは、失礼致します。


※ またアホを晒してしまった……。
筆者は間抜けですがエリヤ君はまともな少年ですので、ノックの回数は修正させて頂きました。
ご感想などへのちゃんとしたお返事は後日とさせて下さい。


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