タイトルで分かると思うのですが、ジンが幻想入りした経緯がわかります。
若干矛盾が出ると思いますが、広い目で読んでくれると嬉しいです。
ある日の夜。ルナは月を眺めていた。
しばらくすると月から、一筋の光が落ちた。
「今夜は・・・向こうね」
そう呟いて、ルナは光が落ちた場所へと向かった。するとそこには、石が落ちていた。
「なーんだ、また石か・・・・・・」
ルナは残念そうに、手に持った石をポーチにしまう。
幻想郷では稀に、月の物が落ちて来る時がある。ルナはその落ちた物を収集していたのである。
「この前は旗だったな・・・もっと面白い物が落ちて来ないかしら?」
そう呟きながら、拾った石をポーチに入れる。そしてそのまま帰ろうとしたその時、境内にジンが何かをしている姿があった。
(何をしているんだろう・・・・・・)
興味を持ったルナは、ジンに声を掛けた。
「ねえ、何をしているの?」
「ん? なんだルナか、こんな夜更けにどうした?」
「それはこっちの台詞よ。ジンこそ、こんな夜更けに何をしていたの?」
「天体観測だ」
「天体観測?」
「ああ、後ろにある天体望遠鏡で、星や月を観る事を、天体観測」
そう言って、ジンは後ろにある天体望遠鏡をルナに見せる。
少し古めかしい物であったが、ちゃんと手入れがされてあった。
「どうしたのこれ?」
「香霖堂を覗いたら、これが置いてあったんだ。それで思わず買ってしまった」
「ふーん・・・ねぇ、覗いても良い?」
「別に構わないぞ」
そう言って、望遠鏡の架台の高さを調整し、ルナが見えるようにした。
「ここを覗き込めば、見えるから」
「う、うん・・・・・・」
ルナは恐る恐ると、望遠鏡を覗き込んだ。すると彼女の目に、大きな十六夜の月が見えた。
「わあ・・・凄い・・・・・・」
「凄いのはそれだけじゃないぞ、例えば――――」
ジンはその後、星座や月の満ち欠けの事をルナに教えた。
全てを理解する事は出来なかったルナであったが、彼女にとって楽しい一時であった。
「ねぇ、ジンはどうしてそんなに詳しいの?」
不意に思った事を口にするルナ。するとジンは、何処か懐かしそうに答えた。
「昔、教えてくれた奴がいたんだよ。最初は興味なかったんだけど、そいつに無理矢理付き合わさせられて、自然と覚えた」
「ふーん・・・その人って、友達なの?」
「ああ、親友だった。だけど、二度と会えないだろうし、会うつもりもない。
ただ一つ言える事は、様々な切っ掛けを作った奴だ。・・・・・・ここに来る切っ掛けをもな」
「え?」
「悪いが、話はここまでだ。ルナも早く寝ろよ」
そう言って、望遠鏡を片付け、母屋へと帰って行くジン。ルナは、ただそれを見つめていた。
―――――――――――
翌朝、ルナは昨夜の出来事で、思った事を二人に話していた。
「ねえ、思ったんだけど・・・私達って、ジンについて何も知らないんじゃない?」
その言葉に、サニーとスターは顔を合わせる。
「確かに・・・全然知らないわね」
「そうね、知っている事は殆ど無いわね」
「でしょ? 気にならない?」
「気になるけど・・・別に知らなくても問題ないと思う」
「そうね。知っていても知らなくても、私達とジンとの関係は変わらないわ」
「そうかな・・・・・・」
あまり気にならないサニーとスターに対して、ルナは少しジンの事が気になっていた。
そんなルナに、サニーはこう言った。
「そんなに気になるなら、霊夢さんに聞けば良いじゃない。確か、付き合い長い筈だし」
「霊夢さんか・・・少し聞くのが怖いような・・・・・・」
「だらしが無いわねルナは。しょうがないから付き添ってあげるわ」
「だったら私も行ってあげるわ。よく言うじゃない、“三人居れば怖くないって”」
「二人とも・・・ありがとう」
「よーし! そうと決まれば、早速聞き込みよー!」
「「おおー!」」
何だかんだて、サニーとスターも気になっていたらしい。
こうして三人は、ジンについて霊夢に聞く事にした。
―――――――――――
「ジンについて聞きたい?」
霊夢は洗濯物を干しながら、サニー達に聞き返した。
「はい。私達、ジンについてあまり良く知らないなあって思って・・・」
「霊夢さんなら、何か知っているんじゃないですか?」
「うーん・・・一応、知っている事は知っているけど・・・・・・」
「なら教えてください! お願いします!」
「「お願いします!」」
そう言って三人は、霊夢に頭を下げて頼んだ。その姿を見た霊夢は、小さいため息を吐く。
「やれやれ・・・まあ、口止めされている訳でも無いし、話してやって良いわよ」
「本当ですか!」
「ただし、あまり良い話では無いわ。それでも聞きたい?」
霊夢は真剣な眼差しで、三人に言った。その目に圧倒されながらも、サニー達は頷いた。
「わかったわ。それじゃ、ジンとの出会いから話すわ」
そう言って、霊夢は語り出した。
―――――――――――
ジンとの出会いは今から数年前の話である。
当時の霊夢は、のんびりとお茶を飲んでいた。
『はあ、相変わらず参拝客が来ないわね・・・一体どうしたら来てくれるのかしら?』
そんな事を呟きながら、煎餅をかじる霊夢。その時、賽銭箱にお金が入る音と、鈴を鳴らす音がした。
『あ、誰か来たみたい♪』
久々に来た参拝客に、霊夢は心を踊らせた。しかし、その人物の風貌を見て、絶句した。
『げっ』
その人物の第一印象は、“汚ない人”である。
髪はボサボサ、髭は長く伸びており、服装はボロボロ。近づいたら異臭がしそうであった。
正直近づきたく無いと思う霊夢であったが、せっかく来てくれた参拝客を無下に出来ないと思い、彼に近づいた。
『え、えーと、参拝・・・ですか?』
彼は霊夢の姿を見ると、一言彼女に言った。
『・・・すまん。直ぐに出ていく』
それだけ言うと、彼は神社から去ろうとする。そこで霊夢は気づく、彼の至る所に傷がある事に。
『ちょ、ちょっと! どうしたのその傷!?』
『何でも・・・・・・無い』
『無いわけ無いでしょ! 良いから来なさい! 手当てして上げるから』
『い、いい、それに俺は汚な―――――』
『そんなの見りゃ分かるわよ! だけど、その傷を放っておくとあんた死ぬわよ! 良いから手当てさせなさい!』
そう言って、霊夢は強引に彼を引っ張って行った。
彼の手当てを済ませた霊夢は、改めて事情を聞く事にした。
『それで? どうしてあんな怪我を?』
『襲われた』
『何にって、聞く必要は無いわね・・・・・・』
霊夢はこの人物が、外来人だと何となく予想していた。それなら、襲われる事に辻褄が合う。本来なら、この男を外に返せば良いのだが、それは出来なかった。
《この人・・・外の繋がりが絶たれている》
外来人が外に帰るには、外の世界の繋がりが必要不可欠である。しかし、目の前の人物は、その繋がりが全くなかった。それはつまり、外の世界で彼を知る者がほぼいないという事である。
つまり彼は、生きたまま幻想となり、幻想郷に流れついたのである。
《そうなると、紫に頼むか・・・いえ、仮に帰しても、またここに流されるかも知れない。それならいっそ――――》
霊夢は彼に、幻想郷の事と外の世界の事を説明し、帰れない事も話した。しかし、彼の反応は薄かった。
『そうか・・・・・・』
ただそれだけ呟いた。
《何なのよこいつ・・・正直鬱陶しいわね。さっさと人里に行かせてやりたいけど・・・・・・》
外来人が移住する際、人里に預けるのが決まりなのだが、目の前の彼はそれも出来なかった。何故なら、彼には強力な厄がとりついていたのである。そんな人物が人里に行けば、間違いなく、人里に災いを招いてしまうだろう。
『はあ・・・仕方ないわねぇ、しばらくここで厄介になりなさい』
『え? そんな悪い――――』
『いいから! ここに居なさい! 良いわね』
『・・・・・・わかった』
『よろしい。ところで貴方、名前は?』
『・・・・・・ジンだ』
それがジンと霊夢の出会いであった。
―――――――――――
「―――とまあ、ジンとの出会いはこんな感じね。その後、山にいる厄神と協力して、ジンの厄を払ったのよ。まあ、半年も掛かったけどね」
霊夢は一通り話した後、お茶をすすった。
霊夢の話を聞いていた三人は、戸惑っていた。
「なんか・・・今のジンとかけ離れていますね・・・・・・」
「そうね、私もそう思うわ。それには理由があったのよ」
「理由ですか?」
「以前にね、ジンに昔の事を聞いた事があるの」
霊夢そう言って、彼の過去を語り出した。
ジンは、幼少期はやんちゃであったが、成長するにつれ、思いやりのある青年になった。
しかし、それと同時に熱意も失われていき、何事も無難な道を選ぶようになった。
学業に意義を見出だせなかった彼は、高校を卒業と共に就職。とある工場で働くようになった。
そんなある日、友人に保証人になって欲しいと頼まれた。ずっと一緒にいた彼だったこそ、ジンは二つ返事承諾した。しかしそれが、最悪の事態を招ねくのであった。
それから半年後、彼は行方不明となった。噂では逃げたと囁かれたが、ジンはそれを信じなかった。
友人はいつか戻って来る。ジンはそう信じて、彼の借金を肩代わりした。しかし、悲劇はそれだけでは収まらなかった。
それから更に半年後、両親が事故に合う。父親は死に、母親は脳死状態となった。
ジンは、母親の延命を選んだ。例え二度と目覚めないとしても、たった独りの肉親を見捨てる事が出来なかったのである。
友人の借金と母の医療費を、ジンは死にもの狂いで払い続けた。しかしその一年後、彼の働いていた工場は事故で倒壊、そのまま倒産してしまったのである。
仕事を失ったジンは、母親の医療費を払えなくなり、延命措置が出来なくなった。こうしてジンは、母を失った。そして皮肉な事に、母が死んだ事で、母親の分の生命保険が降り、借金は全て返せた。しかし、ジンはそれ以上の物を失っていた。
その後ジンは、ホームレスとして過ごしていたらしいが、当時の記憶は曖昧で、気がついたら幻想郷に流れついていたのである。
「――――以上が、ジンの過去の話よ」
「「「・・・・・・」」」
霊夢の話を聞き終えたサニー達は、言葉が出なかった。
すると霊夢は、三人にこう言った。
「そんな深刻にならないでちょうだい。今の話は、全部過去の話なのよ。今更変えられないわ」
「でも・・・・・・」
「それに、そんな顔をしていたら、ジンが悲しむわよ。あいつ、あんた達の笑顔が大好きなんだから」
「私達の・・・・・・?」
「そう、あんた達を見ていると、元気が出るって言ってたわ。だから、あんた達は普段通りにしなさい。それが、ジンの為になるんだから」
そう言って、サニー達の頭を優しく撫でる霊夢であった。
―――――――――――
―――――――――――
ミズナラの御神木。霊夢の話を聞いたサニー達は、暗い気持ちになっていた。
「ジンにあんな過去があったなんて・・・・・・」
「普段、そんな素振りなんて見せないし・・・・・・」
「でも、良く考えてみれば変だったよね。外来人なのに、外に帰らないなんて」
「でも、幻想郷に留まる人もいたらしいわよ」
「それはごく僅かでしょ。殆どの外来人は外に帰るか、妖怪か妖に襲われて死ぬか、の垂れ死ぬかだったもの。だから幻想郷に留まる外来人は、もの凄く稀らしいわ」
「そうよね・・・人里の人間は安全は保証されているから良いけど――――」
「外から来た人間は、格好の獲物でしょうね」
「ジンは、そんな大変な目にあったのね・・・・・・」
「「「はぁ・・・・・・」」」
三人は深くため息をつく。三人とってジンは恩人であり、頼りになる兄貴分である。
どんな時も助けてくれ、庇護をしてもらった。度を過ぎたイタズラをした時は怒られたが、最後は必ず笑って許してくれるのである。
「なにか、ジンにしてあげれる事は無いかしら?」
「うーん・・・私達の宝物をあげるとか?」
「良いわねそれ! それぞれ集めた宝物の中で、一番良いものをジンにプレゼントしましょう」
「どうせなら、誰が一番喜んで貰えるか、勝負しない?」
「よーし負けないわよー!」
「え? あ、ちょっと・・・・・・」
サニーとスターはやる気満々で、自分の部屋に向かった。ルナは突然の勝負に戸惑いながらも、プレゼント選びに部屋へと戻った。
―――――――――――
翌朝。ジンはいつもの様に境内の掃除をしていると、サニー達がプレゼント箱を持って、やって来た。
「ジーン!」
「ん? どうしたんだサニー?」
「今日はプレゼントを持って来たの!」
「プレゼント? 今日は俺の誕生日じゃないぞ? 何でまた?」
「え!? え~とそれは~・・・・・・」
「日頃お世話になっているジンに、御礼をしようと思って」
「そう! その通りなの!」
「御礼って、こっちこそ、色んな物をもらっているんだけどな」
「いいから、受け取って!」
そう言って、サニーは強引にジンにプレゼント箱を手渡す。
「中身を開けても?」
「良いわよ」
「それじゃ・・・・・・」
ジンはプレゼント箱を開ける。中には直角三形の硝子細工、石、何故かアメリカの国旗が入っていた。
「硝子細工に国旗・・・あとこの石は?」
「これは昔、空から降って来た石なのよ」
「空からって・・・まさか隕石か!? 良いのか? こんな貴重な物なんだろ?」
「だからプレゼントするのよ」
「そうか・・・ありがとうなスター」
「ふふ、喜んで貰えて良かったわ」
「私のだって凄いんだから! 見て、これに光を当てると虹が出せるのよ!」
サニーが硝子細工に光を当てると、そこから虹が現れた。
「おっ、プリズムか、初めて見たな。ありがとうサニー」
「えへへ♪」
喜んで貰えた事に、サニーは嬉しそうに笑う。
最後の国旗を手にすると、ルナは少し恥ずかしそうに説明した。
「いろいろ考えたんだけど・・・これにしたの」
「国旗か、なんだか懐かしく思えるな」
「他の二人より劣ると思うけど、出来れば大切にしてね」
「出来ればじゃなくて、大切にする。ありがとうルナ」
ジンにそう言って貰えて、ルナは安堵の表情を浮かべる。
因みに、この旗は月から落ちて来た物で、人類が初めて月面着陸をした際に、記念として月に刺した物である。その価値は計り知れない物なのだが、ジンはそんな大層な物だとは全く思わなかった。
「それじゃ、私達はこれで失礼するわ。しゃあね~」
「ああ、ありがとう三人とも。大切にする」
その言葉を聞いたサニー達は、笑顔で去って行った。
―――――――――――
その日の夜。ジンは昨夜と同じ様に、境内で天体観測をしていた。
「またやっているの? 飽きないわね」
「ん? 霊夢か?」
声に反応し振り返ると、そこに霊夢の姿があった。
「星なんか見て、楽しいのかしら?」
「楽しいの奴は楽しいだろうな」
「私はあんたに聞いているのよ。で? どうなのよ?」
「俺か? うーん・・・・・・」
ジンは少し悩んだ後、霊夢にこう言った。
「凄いとは感じるし、浪漫があるとも思う。だけど、楽しいとは感じないな」
「何よそれ、だったら何でやっているのよ?」
「観たいから、じゃ駄目か?」
「それ、答えになっていないわよ」
「ははは、すまん。上手く言えないんだ」
「そう・・・まあ、そんな時もあるわよね」
「ああ。それが人間だと、俺は思う」
そう言って、再び望遠鏡を覗き込むジン。霊夢はその姿を見て、ある事を聞いてみたくなった。
「ねえジン」
「なんだ?」
「もし、過去を変えられたら・・・どうする?」
「変えたい過去は無いさ」
「え?」
霊夢は耳を疑った。誰から聞いても、悲惨なジンの過去。それをジンは、変えようとは思っていなかったからである。
「本当? 過去を変えられれば、あんな悲惨な目に会わずに済むのよ? 借金を背負わず、親を死なせずに済むのかも知れないのよ?」
そう尋ねる霊夢に、ジンは振り返って答えた。
「そんな事をしたら、霊夢に出会えなかっただろ?」
「―――――」
「確かに悲惨な目にあったし、死にかけもした。けど、こうして霊夢や幻想郷の皆に出会えたんだ。だから、過去を変えようとは思わない」
「・・・・・・まったく、バカなんだから」
「自覚している」
ジンは微笑みながらそう答えると、霊夢も釣られて笑うのであった。
次回でとうとう百話です。なので、百話特別編を書こうと思います。
内容は大体決まっているのですが、書くとなると、今までの倍以上の文字数になります。
分割も考えたのですが、せっかくの百話なので、一話にまとめる事にします。
なので次回は特別長編になります。
面白くなるように頑張りますので、応援よろしくお願いします。