東方軌跡録   作:1103

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今回は思い切って、ジンの過去な話にしました。
タイトルで分かると思うのですが、ジンが幻想入りした経緯がわかります。
若干矛盾が出ると思いますが、広い目で読んでくれると嬉しいです。


彼が幻想郷に来た理由

ある日の夜。ルナは月を眺めていた。

しばらくすると月から、一筋の光が落ちた。

 

「今夜は・・・向こうね」

 

そう呟いて、ルナは光が落ちた場所へと向かった。するとそこには、石が落ちていた。

 

「なーんだ、また石か・・・・・・」

 

ルナは残念そうに、手に持った石をポーチにしまう。

幻想郷では稀に、月の物が落ちて来る時がある。ルナはその落ちた物を収集していたのである。

 

「この前は旗だったな・・・もっと面白い物が落ちて来ないかしら?」

 

そう呟きながら、拾った石をポーチに入れる。そしてそのまま帰ろうとしたその時、境内にジンが何かをしている姿があった。

 

(何をしているんだろう・・・・・・)

 

興味を持ったルナは、ジンに声を掛けた。

 

「ねえ、何をしているの?」

 

「ん? なんだルナか、こんな夜更けにどうした?」

 

「それはこっちの台詞よ。ジンこそ、こんな夜更けに何をしていたの?」

 

「天体観測だ」

 

「天体観測?」

 

「ああ、後ろにある天体望遠鏡で、星や月を観る事を、天体観測」

 

そう言って、ジンは後ろにある天体望遠鏡をルナに見せる。

少し古めかしい物であったが、ちゃんと手入れがされてあった。

 

「どうしたのこれ?」

 

「香霖堂を覗いたら、これが置いてあったんだ。それで思わず買ってしまった」

 

「ふーん・・・ねぇ、覗いても良い?」

 

「別に構わないぞ」

 

そう言って、望遠鏡の架台の高さを調整し、ルナが見えるようにした。

 

「ここを覗き込めば、見えるから」

 

「う、うん・・・・・・」

 

ルナは恐る恐ると、望遠鏡を覗き込んだ。すると彼女の目に、大きな十六夜の月が見えた。

 

「わあ・・・凄い・・・・・・」

 

「凄いのはそれだけじゃないぞ、例えば――――」

 

ジンはその後、星座や月の満ち欠けの事をルナに教えた。

全てを理解する事は出来なかったルナであったが、彼女にとって楽しい一時であった。

 

「ねぇ、ジンはどうしてそんなに詳しいの?」

 

不意に思った事を口にするルナ。するとジンは、何処か懐かしそうに答えた。

 

「昔、教えてくれた奴がいたんだよ。最初は興味なかったんだけど、そいつに無理矢理付き合わさせられて、自然と覚えた」

 

「ふーん・・・その人って、友達なの?」

 

「ああ、親友だった。だけど、二度と会えないだろうし、会うつもりもない。

ただ一つ言える事は、様々な切っ掛けを作った奴だ。・・・・・・ここに来る切っ掛けをもな」

 

「え?」

 

「悪いが、話はここまでだ。ルナも早く寝ろよ」

 

そう言って、望遠鏡を片付け、母屋へと帰って行くジン。ルナは、ただそれを見つめていた。

 

―――――――――――

 

翌朝、ルナは昨夜の出来事で、思った事を二人に話していた。

 

「ねえ、思ったんだけど・・・私達って、ジンについて何も知らないんじゃない?」

 

その言葉に、サニーとスターは顔を合わせる。

 

「確かに・・・全然知らないわね」

 

「そうね、知っている事は殆ど無いわね」

 

「でしょ? 気にならない?」

 

「気になるけど・・・別に知らなくても問題ないと思う」

 

「そうね。知っていても知らなくても、私達とジンとの関係は変わらないわ」

 

「そうかな・・・・・・」

 

あまり気にならないサニーとスターに対して、ルナは少しジンの事が気になっていた。

そんなルナに、サニーはこう言った。

 

「そんなに気になるなら、霊夢さんに聞けば良いじゃない。確か、付き合い長い筈だし」

 

「霊夢さんか・・・少し聞くのが怖いような・・・・・・」

 

 

「だらしが無いわねルナは。しょうがないから付き添ってあげるわ」

 

「だったら私も行ってあげるわ。よく言うじゃない、“三人居れば怖くないって”」

 

 

「二人とも・・・ありがとう」

 

「よーし! そうと決まれば、早速聞き込みよー!」

 

「「おおー!」」

 

何だかんだて、サニーとスターも気になっていたらしい。

こうして三人は、ジンについて霊夢に聞く事にした。

 

―――――――――――

 

「ジンについて聞きたい?」

 

霊夢は洗濯物を干しながら、サニー達に聞き返した。

 

「はい。私達、ジンについてあまり良く知らないなあって思って・・・」

 

「霊夢さんなら、何か知っているんじゃないですか?」

 

「うーん・・・一応、知っている事は知っているけど・・・・・・」

 

「なら教えてください! お願いします!」

 

「「お願いします!」」

 

そう言って三人は、霊夢に頭を下げて頼んだ。その姿を見た霊夢は、小さいため息を吐く。

 

「やれやれ・・・まあ、口止めされている訳でも無いし、話してやって良いわよ」

 

「本当ですか!」

 

「ただし、あまり良い話では無いわ。それでも聞きたい?」

 

霊夢は真剣な眼差しで、三人に言った。その目に圧倒されながらも、サニー達は頷いた。

 

「わかったわ。それじゃ、ジンとの出会いから話すわ」

 

そう言って、霊夢は語り出した。

 

―――――――――――

 

ジンとの出会いは今から数年前の話である。

当時の霊夢は、のんびりとお茶を飲んでいた。

 

『はあ、相変わらず参拝客が来ないわね・・・一体どうしたら来てくれるのかしら?』

 

そんな事を呟きながら、煎餅をかじる霊夢。その時、賽銭箱にお金が入る音と、鈴を鳴らす音がした。

 

『あ、誰か来たみたい♪』

 

久々に来た参拝客に、霊夢は心を踊らせた。しかし、その人物の風貌を見て、絶句した。

 

『げっ』

 

その人物の第一印象は、“汚ない人”である。

髪はボサボサ、髭は長く伸びており、服装はボロボロ。近づいたら異臭がしそうであった。

正直近づきたく無いと思う霊夢であったが、せっかく来てくれた参拝客を無下に出来ないと思い、彼に近づいた。

 

『え、えーと、参拝・・・ですか?』

 

彼は霊夢の姿を見ると、一言彼女に言った。

 

『・・・すまん。直ぐに出ていく』

 

それだけ言うと、彼は神社から去ろうとする。そこで霊夢は気づく、彼の至る所に傷がある事に。

 

『ちょ、ちょっと! どうしたのその傷!?』

 

『何でも・・・・・・無い』

 

『無いわけ無いでしょ! 良いから来なさい! 手当てして上げるから』

 

『い、いい、それに俺は汚な―――――』

 

『そんなの見りゃ分かるわよ! だけど、その傷を放っておくとあんた死ぬわよ! 良いから手当てさせなさい!』

 

そう言って、霊夢は強引に彼を引っ張って行った。

 

 

彼の手当てを済ませた霊夢は、改めて事情を聞く事にした。

 

『それで? どうしてあんな怪我を?』

 

『襲われた』

 

『何にって、聞く必要は無いわね・・・・・・』

 

霊夢はこの人物が、外来人だと何となく予想していた。それなら、襲われる事に辻褄が合う。本来なら、この男を外に返せば良いのだが、それは出来なかった。

 

《この人・・・外の繋がりが絶たれている》

 

外来人が外に帰るには、外の世界の繋がりが必要不可欠である。しかし、目の前の人物は、その繋がりが全くなかった。それはつまり、外の世界で彼を知る者がほぼいないという事である。

つまり彼は、生きたまま幻想となり、幻想郷に流れついたのである。

 

《そうなると、紫に頼むか・・・いえ、仮に帰しても、またここに流されるかも知れない。それならいっそ――――》

 

霊夢は彼に、幻想郷の事と外の世界の事を説明し、帰れない事も話した。しかし、彼の反応は薄かった。

 

『そうか・・・・・・』

 

ただそれだけ呟いた。

 

《何なのよこいつ・・・正直鬱陶しいわね。さっさと人里に行かせてやりたいけど・・・・・・》

 

外来人が移住する際、人里に預けるのが決まりなのだが、目の前の彼はそれも出来なかった。何故なら、彼には強力な厄がとりついていたのである。そんな人物が人里に行けば、間違いなく、人里に災いを招いてしまうだろう。

 

『はあ・・・仕方ないわねぇ、しばらくここで厄介になりなさい』

 

『え? そんな悪い――――』

 

『いいから! ここに居なさい! 良いわね』

 

『・・・・・・わかった』

 

『よろしい。ところで貴方、名前は?』

 

『・・・・・・ジンだ』

 

それがジンと霊夢の出会いであった。

 

―――――――――――

 

「―――とまあ、ジンとの出会いはこんな感じね。その後、山にいる厄神と協力して、ジンの厄を払ったのよ。まあ、半年も掛かったけどね」

 

霊夢は一通り話した後、お茶をすすった。

霊夢の話を聞いていた三人は、戸惑っていた。

 

「なんか・・・今のジンとかけ離れていますね・・・・・・」

 

「そうね、私もそう思うわ。それには理由があったのよ」

 

「理由ですか?」

 

「以前にね、ジンに昔の事を聞いた事があるの」

 

霊夢そう言って、彼の過去を語り出した。

 

 

ジンは、幼少期はやんちゃであったが、成長するにつれ、思いやりのある青年になった。

しかし、それと同時に熱意も失われていき、何事も無難な道を選ぶようになった。

学業に意義を見出だせなかった彼は、高校を卒業と共に就職。とある工場で働くようになった。

そんなある日、友人に保証人になって欲しいと頼まれた。ずっと一緒にいた彼だったこそ、ジンは二つ返事承諾した。しかしそれが、最悪の事態を招ねくのであった。

それから半年後、彼は行方不明となった。噂では逃げたと囁かれたが、ジンはそれを信じなかった。

友人はいつか戻って来る。ジンはそう信じて、彼の借金を肩代わりした。しかし、悲劇はそれだけでは収まらなかった。

それから更に半年後、両親が事故に合う。父親は死に、母親は脳死状態となった。

ジンは、母親の延命を選んだ。例え二度と目覚めないとしても、たった独りの肉親を見捨てる事が出来なかったのである。

友人の借金と母の医療費を、ジンは死にもの狂いで払い続けた。しかしその一年後、彼の働いていた工場は事故で倒壊、そのまま倒産してしまったのである。

仕事を失ったジンは、母親の医療費を払えなくなり、延命措置が出来なくなった。こうしてジンは、母を失った。そして皮肉な事に、母が死んだ事で、母親の分の生命保険が降り、借金は全て返せた。しかし、ジンはそれ以上の物を失っていた。

その後ジンは、ホームレスとして過ごしていたらしいが、当時の記憶は曖昧で、気がついたら幻想郷に流れついていたのである。

 

 

 

「――――以上が、ジンの過去の話よ」

 

「「「・・・・・・」」」

 

霊夢の話を聞き終えたサニー達は、言葉が出なかった。

すると霊夢は、三人にこう言った。

 

「そんな深刻にならないでちょうだい。今の話は、全部過去の話なのよ。今更変えられないわ」

 

「でも・・・・・・」

 

「それに、そんな顔をしていたら、ジンが悲しむわよ。あいつ、あんた達の笑顔が大好きなんだから」

 

「私達の・・・・・・?」

 

「そう、あんた達を見ていると、元気が出るって言ってたわ。だから、あんた達は普段通りにしなさい。それが、ジンの為になるんだから」

 

そう言って、サニー達の頭を優しく撫でる霊夢であった。

 

―――――――――――

 

―――――――――――

 

ミズナラの御神木。霊夢の話を聞いたサニー達は、暗い気持ちになっていた。

 

「ジンにあんな過去があったなんて・・・・・・」

 

「普段、そんな素振りなんて見せないし・・・・・・」

 

「でも、良く考えてみれば変だったよね。外来人なのに、外に帰らないなんて」

 

「でも、幻想郷に留まる人もいたらしいわよ」

 

「それはごく僅かでしょ。殆どの外来人は外に帰るか、妖怪か妖に襲われて死ぬか、の垂れ死ぬかだったもの。だから幻想郷に留まる外来人は、もの凄く稀らしいわ」

 

「そうよね・・・人里の人間は安全は保証されているから良いけど――――」

 

「外から来た人間は、格好の獲物でしょうね」

 

「ジンは、そんな大変な目にあったのね・・・・・・」

 

「「「はぁ・・・・・・」」」

 

三人は深くため息をつく。三人とってジンは恩人であり、頼りになる兄貴分である。

どんな時も助けてくれ、庇護をしてもらった。度を過ぎたイタズラをした時は怒られたが、最後は必ず笑って許してくれるのである。

 

「なにか、ジンにしてあげれる事は無いかしら?」

 

「うーん・・・私達の宝物をあげるとか?」

 

「良いわねそれ! それぞれ集めた宝物の中で、一番良いものをジンにプレゼントしましょう」

 

「どうせなら、誰が一番喜んで貰えるか、勝負しない?」

 

「よーし負けないわよー!」

 

「え? あ、ちょっと・・・・・・」

 

サニーとスターはやる気満々で、自分の部屋に向かった。ルナは突然の勝負に戸惑いながらも、プレゼント選びに部屋へと戻った。

 

―――――――――――

 

翌朝。ジンはいつもの様に境内の掃除をしていると、サニー達がプレゼント箱を持って、やって来た。

 

「ジーン!」

 

「ん? どうしたんだサニー?」

 

「今日はプレゼントを持って来たの!」

 

「プレゼント? 今日は俺の誕生日じゃないぞ? 何でまた?」

 

「え!? え~とそれは~・・・・・・」

 

「日頃お世話になっているジンに、御礼をしようと思って」

 

「そう! その通りなの!」

 

「御礼って、こっちこそ、色んな物をもらっているんだけどな」

 

「いいから、受け取って!」

 

そう言って、サニーは強引にジンにプレゼント箱を手渡す。

 

「中身を開けても?」

 

「良いわよ」

 

「それじゃ・・・・・・」

 

ジンはプレゼント箱を開ける。中には直角三形の硝子細工、石、何故かアメリカの国旗が入っていた。

 

「硝子細工に国旗・・・あとこの石は?」

 

「これは昔、空から降って来た石なのよ」

 

「空からって・・・まさか隕石か!? 良いのか? こんな貴重な物なんだろ?」

 

「だからプレゼントするのよ」

 

「そうか・・・ありがとうなスター」

 

「ふふ、喜んで貰えて良かったわ」

 

「私のだって凄いんだから! 見て、これに光を当てると虹が出せるのよ!」

 

サニーが硝子細工に光を当てると、そこから虹が現れた。

 

「おっ、プリズムか、初めて見たな。ありがとうサニー」

 

「えへへ♪」

 

喜んで貰えた事に、サニーは嬉しそうに笑う。

最後の国旗を手にすると、ルナは少し恥ずかしそうに説明した。

 

「いろいろ考えたんだけど・・・これにしたの」

 

「国旗か、なんだか懐かしく思えるな」

 

「他の二人より劣ると思うけど、出来れば大切にしてね」

 

「出来ればじゃなくて、大切にする。ありがとうルナ」

 

ジンにそう言って貰えて、ルナは安堵の表情を浮かべる。

因みに、この旗は月から落ちて来た物で、人類が初めて月面着陸をした際に、記念として月に刺した物である。その価値は計り知れない物なのだが、ジンはそんな大層な物だとは全く思わなかった。

 

「それじゃ、私達はこれで失礼するわ。しゃあね~」

 

「ああ、ありがとう三人とも。大切にする」

 

その言葉を聞いたサニー達は、笑顔で去って行った。

 

―――――――――――

 

その日の夜。ジンは昨夜と同じ様に、境内で天体観測をしていた。

 

「またやっているの? 飽きないわね」

 

「ん? 霊夢か?」

 

声に反応し振り返ると、そこに霊夢の姿があった。

 

「星なんか見て、楽しいのかしら?」

 

「楽しいの奴は楽しいだろうな」

 

「私はあんたに聞いているのよ。で? どうなのよ?」

 

「俺か? うーん・・・・・・」

 

ジンは少し悩んだ後、霊夢にこう言った。

 

「凄いとは感じるし、浪漫があるとも思う。だけど、楽しいとは感じないな」

 

「何よそれ、だったら何でやっているのよ?」

 

「観たいから、じゃ駄目か?」

 

「それ、答えになっていないわよ」

 

「ははは、すまん。上手く言えないんだ」

 

「そう・・・まあ、そんな時もあるわよね」

 

「ああ。それが人間だと、俺は思う」

 

そう言って、再び望遠鏡を覗き込むジン。霊夢はその姿を見て、ある事を聞いてみたくなった。

 

「ねえジン」

 

「なんだ?」

 

「もし、過去を変えられたら・・・どうする?」

 

「変えたい過去は無いさ」

 

「え?」

 

霊夢は耳を疑った。誰から聞いても、悲惨なジンの過去。それをジンは、変えようとは思っていなかったからである。

 

「本当? 過去を変えられれば、あんな悲惨な目に会わずに済むのよ? 借金を背負わず、親を死なせずに済むのかも知れないのよ?」

 

そう尋ねる霊夢に、ジンは振り返って答えた。

 

「そんな事をしたら、霊夢に出会えなかっただろ?」

 

「―――――」

 

「確かに悲惨な目にあったし、死にかけもした。けど、こうして霊夢や幻想郷の皆に出会えたんだ。だから、過去を変えようとは思わない」

 

「・・・・・・まったく、バカなんだから」

 

「自覚している」

 

ジンは微笑みながらそう答えると、霊夢も釣られて笑うのであった。




次回でとうとう百話です。なので、百話特別編を書こうと思います。
内容は大体決まっているのですが、書くとなると、今までの倍以上の文字数になります。
分割も考えたのですが、せっかくの百話なので、一話にまとめる事にします。
なので次回は特別長編になります。
面白くなるように頑張りますので、応援よろしくお願いします。

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