東方軌跡録   作:1103

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雷トカゲとジン 後編

積乱雲の中、華仙は龍に乗ってライを探していた。

そして、積乱雲の中を飛び回る光の玉を見つける。

 

「いたわね・・・・・・」

 

「ギィー?」

 

ライは華仙の姿を見ると、首を傾げる。なぜ、彼女がここにいるのか、不思議そうにして。

 

「悪いけど、オイタはそこまでよ。貴方を狩らせて貰うわ」

 

「ギィ、ギィギィ」

 

お前に出来る物か。そう言っているライに、華仙は思わず笑ってしまう。

 

「ふふ、まったくおめでたい奴ね。今までジンのおかげで、生かされていたというのに」

 

「ギィ、ギィギィ、ギィー」

 

“あんな弱い奴が、一体どうしたという”ライのその言葉に、華仙はムッとした。

 

「そこまで増長していたとは・・・最早生かしておく理由は無いわね。お前は不合格だよ」

 

「ギィー!」

 

華仙の言葉に怒ったのか、ライは華仙目掛けて雷を放つ。しかし、華仙の右腕に弾かれてしまう。

 

「ギィ!?」

 

「残念だけど、私はジンとは違うのよ」

 

そう言って、ゆっくりとライに近づく華仙。その時、彼女を呼ぶ声が聞こえた。

 

「華仙! 待ってくれ!」

 

「ジン!? どうしてここに!?」

 

突然現れたジンに、華仙は驚きを隠せなかった。しかしその隙に、ライは逃げて行ってしまった。

 

「あ、待ちなさ―――」

 

「華仙! 待って欲しい!」

 

ジンは、ライを追おうとする華仙の腕を掴んだ。

 

「ジン! 手を離しなさい!」

 

「俺の話を聞いてくれたら、手を離す」

 

「話しってなに? 言っておくけど、処分する事を変えるつもりは無いわ」

 

「処分するなとは言わない。ただお願いがある」

 

「お願い?」

 

「もう一度だけ、ライと戦わせてくれ」

 

ジンの願いの内容を聞いた華仙は、しばし呆気にとられ、やがて大きなため息をつく。

 

「いい? 貴方はこれまでライと戦って、一度も勝てていないでしょ? 勝てないとわかってて、戦うつもりなの貴方は?」

 

「確かに、一度勝てていない。だけど、勝てないとは違う!」

 

「何か秘策でもあるの? 」

 

「・・・・・・一つだけ、試してみたい事があるんだ」

 

そう言ったジンの瞳には、確かな強い意思を見せていた。

 

(上手くいく保証なんて無い。ジンをこのまま行かせたら、余計に傷つくだけ。絶対に任せる事は出来ない、出来ないはずなのに)

 

華仙は悩んだあげく、ジンにこう伝えた。

 

「・・・・・・一回」

 

「え?」

 

「一回だけよ。それで負けたら、私は躊躇なくライを処分する。良いわね?」

 

「ありがとう華仙! 恩にきる!」

 

ジンは嬉しそうに礼を言い、ライの後を追って行った。そんな彼の後ろ姿を見送って、華仙は小さく溢した。

 

「はあ、私って、甘すぎるのかしら・・・ねぇ、お前はどう思う?」

 

華仙は、一緒にいる龍にそう聞いた。すると龍は、楽しそうに笑うのであった。

 

―――――――――――

 

霧の湖の上空。ライはそこに逃げていた。

華仙との力の差は歴然。もっと力を蓄えなければ、太刀打ち出来ないと判断したからである。

そこに、ジンが追って来た。

 

「おい! 待てよライ!」

 

「ギィ? ギィー! ギィー!」

 

「落ち着けって、ここに華仙はいない」

 

そう言うジンの言葉を聞いたライは、周囲を見回し、華仙がいない事を確認する。

 

「ギィ、ギィギギィ」

 

「“何しに来たか”って? それは勿論――――お前と戦いに来たんだ」

 

そう言うジンに対して、ライはあざけ笑う。“弱いお前が、自分に勝てると思っているのか”そう言っているようであった。

 

「言ってろ、今回の俺には秘策がある。今回は勝つつもりだ」

 

「ギィギィ、ギギィー!」

 

ライが叫んだ瞬間、雷をジンに目掛けて放つ。しかしジンは、既に金獸を召喚していた。

 

「金獸“大陰の白鑞金”!」

 

ジンがそう叫ぶと、金獸は銀白の金網に変身した。

雷は金獸に直撃するも、四方へと散っていっき、金獸はほぼ無傷であった。

 

「ギィ!?」

 

「確かに、俺はそんなに力があるわけでじゃない。だけど、それを補う知恵と知識、工夫がある!」

 

ジンはそう叫ぶと、ライに向かって行くのであった。

 

―――――――――――

 

ジンとライの戦いを、華仙はいつものように、遠くから見守っていた。

 

「なるほど・・・ここ最近、金獸の制御の修行ばかりしていると思ったら、こう訳だったのね」

 

弱い術で、あそこまで工夫をして使うと、華仙は感心していた。よほど五行獸との相性が良かったのだろう。

 

(でも、防ぐだけじゃ、じり貧よ。一体どうするつもりなのかしら?)

 

そう思いながら、見ていると、先にライが動き出した。

ライは、周囲の雷を集め、強大な雷球を作り出した。それを見た華仙は、焦り出す。

 

「これは不味い! 急いで止めないと!」

 

あれだけの大規模な雷球を受ければ、間違いなく金獸は破壊され、ジンも直撃するだろう。そうなれば、いかに鬼人であっても、命は無いだろう。

 

(約束を破ってしまうけど、彼の命には変えられない!)

 

そう思い、ジンの側に駆け寄ろうとする華仙。それを龍の子が制止する。

 

「ちょっと! 何を――――」

 

「―――――」

 

「え? “ジンを信じて欲しい”ですって?」

 

龍の子は頷くと、ジンの方に目をやる。すると華仙も理解した。ジンはの瞳には、確かな強い意思が宿っている事に。

 

(まだ、奥の手があるのかしら・・・・・・?)

 

華仙は、不安を抱きながらも、最後まで見守る事にした。

 

―――――――――――

 

ジンは、目の前の強大な球電に対して、まったく怖じ気ついていなかった。その様子に、ライは不満を抱いていた。

 

「ギィ、ギィー!」

 

「悪いが、その程度のなら対策済みだ」

 

「ギィギィ、ギィー!」

 

「嘘だと思うなら、試してみろよ。見事に打ち破ってやるさ」

 

「ギィー!!」

 

ジンの言葉に、怒りを感じたライは、躊躇なく球電をジンに放った。

その瞬間、ジンは腰に掛けていた小刀を抜き、巨大な球電に目掛けて投擲した。球電と小刀がぶつかった瞬間、球電は爆発四散する。

 

「ギィー!?」

 

これにはライは動揺してしまった。ただの小刀が、自分が生み出した雷球を破壊したのだから。もっとも、ジンが投擲したのはただの小刀ではなく、かつて依姫から受け取った、八百万の小刀であった。

八百万の小刀は、依姫が所持して剣と同じ力を持っている、神々の武器の一つである。それ故に、ライの雷球を容易く破壊出来たのである。

 

「いけ! 金獸!」

 

ライが動揺している隙に、ジンは金獸を動かした。金獸は金網を広げ、ライの周囲を囲み、ライを閉じ込める檻となった。

 

「これで仕上げだ!」

 

ジンはすかさず、投げた小刀を呼び寄せ、それを金獸に刺した。

 

「これでお前を完全に閉じ込めた! お前の負けだライ!」

 

「ギィ、ギィー!」

 

それでも負けを認めないライは、檻に雷撃を放つ。しかし、その雷撃は金獸の体を走り、八百万の小刀によって四散されてしまう。

 

「無駄だ! お前の雷は、完全に封じた! 大人しく、負けを認めろ!」

 

「ギィ、ギィー!」

 

それでも負けを認めないライは、何度も雷撃を放つ。しかし、何度やっても、檻を破壊する事は出来なかった。

 

「もうよせ! ライ!」

 

「ギィ・・・ギィー!」

 

ライは最後の悪あがきと言わんばかりに、最大放出の雷撃を放った。それは、彼が放てる量を遥かに越えていた。

 

「ギィ・・・・・・」

 

全ての力を出しきったライは、そのまま気絶してしまった。

 

―――――――――――

 

ライ―――彼はジンと出会う前は、妖怪山で家族とひっそりと暮らしていた。

そんなある日、彼ら家族は、妖に襲われてしまった。そして彼だけが、生き残った。その時出会ったのが、ジンである。

ジンが華仙の屋敷まで連れて来て、治療を施してくれたのが切っ掛けで、ジンとライは仲良くなった。ジンが修行に訪れた時は、真っ先に彼の元に駆け寄るほどである。

しかし、ライにはある目的があった。家族を殺した妖に、復讐するという目的が―――。

だが、当時のライはただのトカゲ。とてもではないが、敵討ちどころか、返り討ちにあうのが関の山である。一時はジンに頼もうかと考えたが、彼の性格上、手を貸してくれるとは思えなかった。

諦めかけていたその時、華仙からある話を持ち出された。

 

『貴方には、龍になれる素質があるわ。どう? 龍の試験を受けてみない?』

 

その話は、ライにとっては願ってもない話であった。これで家族の敵を取れる。そう思ったライは、迷わず華仙の話を受けた。

試験は非常に困難なものだったが、ライは見事に突破し、最終試験までこぎつけた。だが、その時になって既に、ライの心境は変わってしまっていた。

 

“自分は強い、他の誰よりも――――”

 

強い力を得てしまった彼は増長し、暴れるようになってしまった。ある時は、あちらこちらに雷を落とし、ある時は妖を問答無用に襲ったりと、手がつけられなくなった。

そんな時に、立ちはだかったのはジンであった。彼はこんな事を止めるように、呼び掛けるが、ライは聞く耳を持たなかった。

そして戦いが始まった。

ジンと戦う事になって、ライは疑問を抱くようになる。

 

“どうしてこいつは、そんなに必死になって、自分を止めにくるのだろう”

 

ライは知らなかった。既に華仙が、自分に見切りをつけていた事に、そして自分を処分しようとしている事に。そして、彼が自分の命を助けるために、自分に戦いを挑んでいることに―――気づいていなかった。

 

―――――――――――

 

ライが目を覚ますと、ジンの膝の上にいた。すぐ見上げると、そこにジンの顔が見えた。

 

「気づいたかライ?」

 

「ギィー・・・・・・」

 

「あまり無理をするな。力を使い果たしたんだから」

 

ジンの言葉に、ライは少し納得した。自分の中にあった龍の力が、無くなっていることに。

落ち込んでいるライに、ジンは優しく語りかける。

 

「なあライ。お前は龍になって、何をしたかったんだ?」

 

「ギィー・・・・・・」

 

「復讐か・・・何となく、気持ちはわかる。だけど、お前はその力で、無関係な者を傷つけた。それは、お前から家族を奪った奴と、同じ事をしているんじゃないか?」

 

「ギィ・・・・・・」

 

「力を暴力に使うのは簡単だ。でもな、それだけに使うのは勿体ないと思う。お前の力があれば、いろんな事が出来る。それに――――」

 

「ギィ?」

 

「自分がやられて嫌な事は、他人にしてはいけない。

家族を奪われたお前なら、分かるだろ?」

 

「ギィ・・・・・・」

 

ジンが伝えたい事を理解したのか、ライは小さく頷いた。それを見たジンは、嬉しく笑った。

そんな二人の元に、華仙がやって来た。

 

「どうやら、うまく収まったみたいね」

 

「華仙か・・・見ての通りだ」

 

「そうね・・・私もまだまだ修行が足りなかったみたいね。それはさておきライ」

 

「ギィ?」

 

「今回は貴方は、龍の試験を受けているというのに、増長し、人里にまで被害を出した。はっきり言って、貴方は不合格よ」

 

「ギィ・・・・・・」

 

「本来なら、貴方を処分するのだけれど・・・ジンの要望もあって、処分を見送るわ」

 

「良かったなライ」

 

「ただし、ただでは許すつもりは無いわ。貴方には特別な修行を与えるわ」

 

「特別な・・・修行?」

 

「ギィ?」

 

「ふふっ、それは――――」

 

華仙は悪戯な笑みを浮かべて、ライに修行内容を伝えた。

 

―――――――――――

 

ライとの戦いから数日後。博麗神社の境内では、霊夢と魔理沙が世間話をしていた。

 

「それにしても、この前の雷球は一体なんだったんだろうな?」

 

魔理沙が言っているのは、数日前のジンとライの戦いの事である。あの巨大雷球は、多くの人々に目撃され、新聞にもその記事で埋もれていた。

 

「あんな巨大雷球は、自然じゃ発生しないぜ。きっと誰かが人為的に作ったに違いないぜ」

 

魔理沙は興味津々で話している一方、霊夢は興味なさげにしていた。

 

「正体が知りたいのなら、本人に聞いてみれば?」

 

「本人にって、何処の誰かわからないんだぜ? 聞きようが――――」

 

「作った本人―――うちに居候しているわよ」

 

「へぇー、そうなん―――な、何だってー!」

 

魔理沙は思わず、大きな声を上げた。

 

「な、何で、霊夢のところにいるんだよ!」

 

「うるさいわね・・・いろいろあったのよ。あ、帰って来たみたい」

 

そう言った霊夢の視線の先には、買い物から帰って来たジンの姿があった。

 

「ただいま。お、魔理沙もいたのか?」

 

「もしかして・・・ジンがそうなのか?」

 

「ん? 一体何の話だ?」

 

「この前の、巨大な雷球を作った張本人に会いたがっているのよ」

 

「ああ、なるほど。それなら、俺じゃなくて、こいつだ」

 

「ギィー」

 

鳴き声と共に、ジンの頭の上から顔を出したのは、トカゲのライであった。

 

「トカゲ? こいつがあの雷球を作りだしたってのか?」

 

「こう見えても、龍候補らしいんだ。もっとも、不合格になってしまったけど」

 

「ギィー・・・・・・」

 

「ふーん・・・それが何でこんなところにいるんだ?」

 

「華仙の奴が置いていったのよ。“この子は精神的にまだ未熟だから、しばらく神社で預かって欲しい”なんて言って来て」

 

「何でここなんだ? 守矢もあるだろうに?」

 

「知らないわよ。大方、ジンがここにいるからでしょ。まったく・・・これじゃあ、妖怪神社になってしまうわよ・・・・・・」

 

 

((もう既になっていると思うけど・・・・・・))

 

そんな事を思うジンと魔理沙であったが、口には出さなかった。

 

「まあ、霊夢が困っているなら、私が代わりに預かってやっていいんだぜ」

 

そう言って、魔理沙はライに手を伸ばそうとすると、ライは魔理沙に目掛けて電気を放った。

 

「いっつ! なんだよこいつは!」

 

「その子、ジン以外になつかないのよ。触るのだって、ジンが言い聞かせないと、触らせてくれないし」

 

「それを早く言えって! まったく、とんでも無い奴だな」

 

「ギィー」

 

こうして、博麗神社に新たな住人が加わる事になった。

気難しいライが、神社のみんなと打ち解けるようになるまで、かなりの時間が掛かってしまった事は、言うまでもない。

 




この展開にしたのは、元になった話の華仙の行動が、あまりにも冷淡だったからです。
トカゲに試験を受けさせて、不合格なら問答無用に殺すのは、あまりにも自分勝手だと感じたからです。
何か思惑があったにしても、正直華仙の行動は好きになれませんでした。
やっぱり、自分は殺伐とした話よりも、ほのぼのが好きです。

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