東方軌跡録   作:1103

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今回の話しは、三月精が元ネタです。
光の三妖精が大好きなので、彼女たちが出る妖精大戦争をやろうとは思うのですが、まだ紅魔郷をクリアしていません。
ステージ5の咲夜さんが鬼畜です。果たして、彼女を倒せる日が来るのでしょうか・・・・・。



蜃気楼の楼閣

ある日の朝。正邪は珍しく早く起きてしまった。

 

(まだこんな時間か・・・もう一回寝よ)

 

そう思い、二度寝をしようとする。その時、羽の音が聞こえた。

 

(なんだ?)

 

気になった正邪は、窓から外を覗き込む。するとそこには、飛び去る文の姿があった。

 

(いつも新聞を持って来る天狗か・・・・・・そうだ!)

 

ふと正邪は、ある事を思いつき、部屋を出た。

 

 

部屋をでた正邪は、外に立てられた郵便ポストを開ける。そこには、いつものように新聞が置かれていた。

 

(くひひ、新聞を抜き取ってやれば、ジンの奴はさぞ落胆するだろうな)

 

正邪はクスクスと笑いながら、ポストから新聞を抜き取った。その時、気になる記事が目に入った。

 

(ん? これは・・・・・・)

 

正邪は新聞を開き、その記事を読み始める。そして読み終わると、再び笑い出す。

 

「くっくっく・・・これは、お宝の匂いだ!」

 

そう言った彼女の顔は、明らかに何かをたくらんでいる顔であった。

 

―――――――――――

 

朝起きたジンは、いつものように掃除を終わらせ、郵便ポストを開けるが、その中には何も入っていなかった。

 

「あれ? おかしいな・・・・・・」

 

辺りを見回すが、新聞の影も形もなかった。新聞を見つけられなかったジンは、他の人に聞きに、居間へと向かう。

 

「なあ、誰かポストから新聞を取ったか?」

 

居間に居る針妙丸、料理をしている霊夢と妖狐にそれぞれ聞くが、全員が首を横に振った。

 

「知らないよ」

 

「私も知りません」

 

「あんなのを読むのは、あんただけでしょ」

 

「うーん・・・今日は休刊か?」

 

そんな事を思いながら、席につくジン。そしてそのまま朝食を食べようとするのだが、一人欠けている事に気がついた。

 

「あれ正邪は?」

 

「今日は見てないわね」

 

「寝坊ですかね?」

 

「私、起こして来るよ」

 

そう言って、針妙丸は席を立ち、正邪の部屋に向かって行った。

それから数分後、針妙丸は慌てた様子で戻って来た。

 

「大変! 正邪がいないよ!」

 

「「「そうか」」」

 

正邪がいない事に、特に気にも止めない三人は、そのまま朝食を始めた。

その様子に、針妙丸は御立腹であった。

 

「ちょっと酷くない!? 正邪がいないんだよ!」

 

「なら聞くが、正邪の荷物は全てなかったのか?」

 

「え? えーと・・・全部じゃなかったけど・・・・・・」

 

「なら、その内帰って来るだろう。そんなに心配するな」

 

「でも・・・・・・」

 

「あの天邪鬼は、しぶとさは超一級よ。放っておいても心配ないわ」

 

「そうですよ。お昼頃に、ころっと帰って来ますよ」

 

「そうかな・・・・・・?」

 

「そんな事よりも、正邪の分どうする?」

 

「残すのはもったいないから、俺が食べる」

 

「あ、私も食べたいから。妖狐は?」

 

「私は遠慮しておきます」

 

「それじゃ、二人で分けましょう」

 

霊夢とジンは、正邪の分のおかずを分けあって食べ始めた。そんな様子を見ていた針妙丸は、呆れながらも、自分の分の朝食を食べ始めた。

 

―――――――――――

 

朝食を終えたジン達は、今日の準備を始めていた。

そんな時、サニー達が慌てた様子で、境内にやって来た。

 

「ジーン! たいへんよたいへーん!」

 

「サニー? 一体どうしたんだ?」

 

「今日の新聞見た!?」

 

「え? 新聞来ていたのか?」

 

「その様子だと、知らないみたいね。これを見て」

 

そう言ってスターは、サニーが持っていた新聞を広げてジンに見せた。その新聞には、こう書かれていた。

 

“虹色の空中都市現わる”

 

「空中都市? それって・・・・・・」

 

「そう! もしかしたら、異変かも!」

 

サニーはそう叫んだ。しかしジンは、記事に対してある違和感を感じていた。

 

(確かに、普通に考えれば、異変なのだが・・・それにしては、なんか大人しい内容だな・・・・・・)

 

確かに新聞には、空中都市の事は書かれているが、文にしては大人し過ぎる内容であった。いつもなら“謎の空中都市現る!”や“新たな異変の前兆か!?”なんて事を書きそうなのだが、そんな事は無く、何故か地滑りや海の話、果てには貝の話になってしまっていた。

新聞とにらめっこしていると、霊夢がやって来た。

 

「ちょっとジン。サボっていないで、ちゃんと準備しなさいよ。参拝客が来ちゃうわよ」

 

「いや、少し気にな――――」

 

「大変よ霊夢さん! 異変が起きのよ!」

 

「なんですって!?」

 

「ほら! この新聞に書かれているんです!」

 

「ちょっと貸しなさい!」

 

ジンが持っている新聞をぶんどった霊夢は、空中都市の記事を見て、真剣な表情になった。

 

「これは・・・間違いなく異変ね」

 

「じゃあ、もしかして・・・・・・」

 

「ええ、また何か起きるかも知れないわね。そうなる前に、とっちめてやるわ」

 

「おお! いつに無くやる気ですね!」

 

「あのね、私はいつだってやる気満々なのよ?」

 

((((それはそれで、怖いような・・・・・・))))

 

「こうしちゃいられないわ。早速、異変解決の準備をしなくちゃ」

 

そう言って霊夢は、母屋に向かって行った。

その時の彼女は、生き生きしていたという。

 

 

準備を終えた霊夢は、早速空中都市を目撃した場所である。妖怪山に向かおうとしていたのだが――――。

 

「ねえ・・・本当について来るの?」

 

 

「「「はい!」」」

 

霊夢は頭を抱えた。何故なら、サニー達が同行を申し出たからである。

 

「あのね、これは遊びじゃないのよ?」

 

「それくらい知ってますよ」

 

「なら、何でついてくるのよ?」

 

「それはおもしろ―――じゃなくて、霊夢さんの役に立ちたいからです♪」

 

「足手まといよ。あんた達は大人しく留守番していなさい」

 

「「「えー!」」」

 

「文句言わない! わかった?」

 

「「「はーい・・・・・・」」」

 

霊夢の厳しい言葉に、サニー達は項垂れ落ち込む。

そんな時、ジンが助け船を出した。

 

「別に連れて行ってもいいじゃないか?」

 

「ちょ、ちょっと! あんた何を言って――――」

 

「妖怪山で調査するだろう? サニー達の能力なら、白狼天狗の哨戒を掻い潜れる筈だ」

 

「それは・・・まあ、そうだけど・・・・・・」

 

「たまには、力業に頼らず異変を解決してみないか?」

 

「うーん・・・・・・」

 

霊夢は少し唸りながら、サニー達の方を見た。三人は、何かを訴えるような眼差しで、霊夢を見つめていた。

 

「「「じー・・・・・・」」」

 

「はあ・・・わかったわ。邪魔をしないのなら、連れて行ってあげる」

 

「「「やったー♪」」」

 

霊夢はとうとう折れてしまい、サニー達を連れて行く事にした。

 

―――――――――――

 

妖怪山に到着した霊夢は、空中都市を見た場所に向かって、山を登っていた。

 

「「~♪」」

 

「はあ、はあ、はあ・・・・・・」

 

サニーとスターは、まるでピクニックに来たかのように、歌を歌いながら陽気に登っていた。一方ルナは、少しへばっていた。

 

「ちょっと大丈夫?」

 

「なんとか・・・・・・」

 

「それにしても、あの二人は呑気なものね。まるでピクニック気分ね」

 

「え? 何か言いました霊夢さん?」

 

「呑気なものって言ったのよ。ここは既に天狗達のテリトリーなのよ? もう少し、気を張ったらどうなのよ?」

 

「大丈夫ですって。私の力で姿を隠して、ルナの力で音を消して、スターの力で周囲を警戒しているんですから」

 

「そうそう♪ それに天狗に見つかっても、霊夢さんがいるから大丈夫ですよ」

 

「結局それ? 連れて来たのは間違いだったかしら・・・・・・」

 

やれやれと、小さくため息を吐く霊夢。そんな時、スターは何かに気づく。

 

「待ってみんな。ここから先に、誰かいるわ」

 

「もしかして天狗?」

 

「私の能力じゃ、そこまでわからないわ。ただ、この先に誰かいるのは確実よ」

 

「なら、慎重に行きましょう」

 

四人は慎重に、反応がある場所へと向かう。

するとそこに、正邪が立っていた。

 

「正邪? 何でこんなところに?」

 

「――――――」

 

「何か喋っているみたいだけど、聞こえないわね」

 

「ルナが音を消しているからでしょ。能力を解除して」

 

「わかった」

 

ルナは言われるがまま、能力を解除した。すると、正邪の声がはっきりと聞こえて来た。

 

「おかしいな・・・新聞によると、この辺りの筈なんだけどな・・・・・・」

 

正邪は何かを広げて見ていた。それは、ジンが今朝探していた文々。新聞であった。

 

「あいつが持っていたのね・・・でも何で?」

 

「直接聞いてみたらどうですか?」

 

「それもそうね。おーい正邪ー」

 

「うひゃあ!? ご、ごめんなさーい! ただ、道に迷っただけなんです!」

 

霊夢が声を掛けた瞬間、正邪は霊夢の方に土下座をかました。どうやら、天狗と勘違いしているようである。

 

「ちょっと正邪、私よ。霊夢よ」

 

「へ?」

 

霊夢の声を聞いた正邪は、顔を上げて辺りを見回す。どうやら、霊夢達の姿を認識出来ていないようであった。

 

「あ、そうか。サニー」

 

「わかったわ」

 

サニーが能力を解除すると、突然現れた霊夢達の姿に、正邪は驚き声を上げる。

 

「うわ!? ビックリしたなぁ・・・・・・」

 

「さて、改めて聞くけど、ここで何をしているの?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「それは?」

 

「か、観光だよ! こんな記事を見たら、誰だって見に行きたいでしょ?」

 

そう言って、空中都市の記事を見せる正邪。しかし、霊夢の目には誤魔化せなかった。

 

「嘘ね。あんた目が泳いでいるじゃない」

 

「お、泳いでなんかない! 見てよこの純真な目を!」

 

「ダウト、あんたに純真って物は無いでしょうが」

 

「ちっ、騙されないか」

 

誤魔化せないとふんだ正邪は、直ぐ様霊夢と対峙する。

 

「バレちゃ仕方ない! 私がここに来たのは、空中都市にあるお宝を手に入れる為さ!」

 

「お宝ですって!?」

 

「そうさ。あれだけの物を出現させる力があるのなら、今度こそ下剋上をなし得るかも知れないじゃないか」

 

「あんた、まだ諦めていなかったの?」

 

「この命が続く限り、私は絶対に諦めない! いつか、弱者の為の世界を作るんだ!」

 

「悪いけど、幻想郷の秩序を脅かすのなら、博麗の巫女として、見逃す訳にはいかない。この場で退治してやるわ」

 

「やってみろ! 天邪鬼の意地、見せてやる!」

 

こうして、博麗の巫女と天下の天邪鬼の弾幕勝負の火蓋が切って落とされた。

 

―――――――――――

 

一方、博麗神社では、ジン達がいつものように参拝客の相手をしていた。

そんな時、魔理沙が箒に乗ってやって来た。

 

「おーい! 霊夢いるかー!」

 

「魔理沙か、あいにく霊夢は妖怪山に出掛けている」

 

「おっ、もしかして例の空中都市を調べにか?」

 

「なんだ、魔理沙も知っていたのか?」

 

「ああ、天狗の新聞を見て知った」

 

そう言って、手に持っていた新聞をジンに見せた。

 

「魔理沙のところにも来ていたのか・・・・・・」

 

「ジンのところには来てないのか?」

 

「そうなんだよ。サニーのところには来ていたのにな」

 

「おかしいですね? ちゃんとポストに入れといた筈なんですけど」

 

声と共に、文が空から降りてきた。

 

「どーもこんにちは、御二人とも」

 

「こんにちは文。それと、さっきの話は本当か?」

 

「ええ、妖精達のところに行った後、ここに寄ったから間違いないですよ」

 

「それなら、誰かが持ち出したって事か?」

 

「そうなりますね。でも、ジンさんの能力なら、犯人が誰かなんて直ぐにわかりますよ」

 

「そうだな、取り合えず気になるから、軌跡を見てみるか」

 

「その必要はないわ」

 

すると、霊夢とサニー達が帰って来た。それと何故か、ボロボロで縛られている正邪も一緒であった。

 

「お帰り、それと何で正邪がボロボロになっているんだ?」

 

「それはね――――」

 

霊夢は、これまでの経緯を話をした。

 

「なるほどな、それで新聞を持ち出したのか」

 

「こいつ、まだ懲りていないんだな」

 

「まあそんな訳で、空中都市を見つけられなかったから、こいつをとっちめて戻って来たわけ」

 

「それにしても、馬鹿ですねぇ。あの空中都市に、そんなお宝があるわけ無いのに」

 

「文? 空中都市について、何か知っているのか?」

 

「知っていなかったら、記事にしませんよ。新聞にちゃんと、正体について書いてあるじゃないですか」

 

「悪いが、今回の内容が分かりづらくて。何で貝の話や、太古の海の話になっているんだ?」

 

「おや? 知らなかったのですか? その大昔、この辺りは海だったっていう事を」

 

「知らない。霊夢と魔理沙は知っていたか?」

 

「知らないし、興味もなかったし」

 

「何か聞いた事があった気もしたが、覚えていないぜ」

 

二人のその言葉に、文はため息を吐く。

 

「やれやれ・・・最近の若人達は、歴史を軽んじているわね」

 

「悪かったわね」

 

「別に知らなくても、生きていくのに困らないぜ」

 

「はあ、まったく嘆かわしいわ。人間から歴史を取ったら、何も残らないというのに・・・・・・」

 

「まあまあ。それよりも、詳しく教えてくれないか文」

 

「ええ、いいですよ。それでは、射命丸文による、幻想郷の昔について、お話しましょう」

 

そう言って、文は話し始めた。

彼女の話によると、遥か昔、ここ辺りは海に沈んでいたらしく、地殻変動により浮上したと言われている。それを示すかのように、大地の下から、ある物が見つかっていた。

 

「それが、大昔の貝や魚の死骸なのですよ」

 

「大昔の死骸・・・・・・化石って事か」

 

「ええ。しかも最近では地滑りで、生きたままの貝が見つかったと言われているのですよ。貝の妖、蜃が」

 

「蜃?」

 

「蜃とは、蜃気楼を生み出す妖です。そもそも蜃気楼というのは、“蜃の気が見せる楼閣”という事から、“蜃気楼”と呼ばれているんですよ」

 

「なるほど、つまりこういう事だな。

この新聞の空中都市は、その蜃が見せた幻って訳か」

 

「そういう事です」

 

「なんだ、異変じゃなかったのね。まったく人騒がせな」

 

「ふむ、どうやら今回は分かりづらかった内容のようでしたね。これは反省しないといけませんね」

 

「ところで、その蜃っていうのは、危険な妖なのか?」

 

「いえ、ただ幻を見せるだけで無害です。むしろ、その幻を見て楽しむものです」

 

「よーし、それなら――――」

 

ジンは、ある事を思いつき、行動に移す事にした。

 

―――――――――――

 

その日の夜。博麗神社は宴会で盛り上っていた。しかし、いつもと様子が違い、皆酒を飲みながら、夜空を見上げていた。

 

「これはなかなか風情があって良いわね」

 

「だろ? 頑張って、見つけた甲斐があったな。貝だけに」

 

「それ、寒いわよ」

 

寒いギャグを言ったジンを小突く霊夢。二人の近くには、大きな貝の妖、蜃が置いており。夜空には、蜃が生みだした楼閣の幻が浮かんでいた。

 

 

「花見も良いけど、こういうのも新鮮ね」

 

「ああ。もっとも、正邪には不評らしいがな」

 

ジンの視線の先には、ヤケ酒を飲んでいる正邪の姿があった。彼女は真相を聞くと、酷く落胆し、ああして気分を紛れさせているのである。

 

「自業自得でしょ。これで、少しは大人しくなるといいんだけどね」

 

「そうだな。まあ、この程度で大人しくなる奴では無いと思うが」

 

「それは同感ね。それにしても、せっかく捕まえた蜃を、宴会に使うなんてね」

 

「ん? それ以外に使い道あるのか?」

 

「それはそうだけど・・・もっと自慢とか、見せびらかしたりしないのかなって思って」

 

「俺がそんな無駄な事をする奴と思っていたのか? こういうのは、皆で楽しむ物だろ?」

 

「・・・本当、欲が無い人なんだから。でも、そこが――――」

 

「ん? 何か言ったか霊夢?」

 

「何でもない。それよりも、お酒、なくなちゃったから注いでよ」

 

「仰せのままに」

 

ジンは、空になった霊夢の杯にお酒を注いだ。

そして宴会は、夜明けまで続くのであった。


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